2024年4月14日 (日)

文庫旅館で待つ本は

3483「文庫旅館で待つ本は」 名取佐和子   筑摩書房   ★★★★

戦前から続く老舗旅館・凧屋は、様々な古書を集めた「文庫」が名物。若女将の円は本が読めない体質だが、客にとって必要な本を見出すことができる。凧屋に逗留する客は、一冊の本と巡りあうことで何かを見つけていく。

 

図書館でなんとなく手に取った一冊。もっとほんわかした物語かと思いましたが、想像していた以上に苦く、でも力強い物語でした。

取り上げられるのは5冊の本。それらがどんなふうにお客たちの心に響き、彼らの人生を揺り動かすのか。

斬新なのは、若女将・円が本を読めない体質だということ。それがまた奇妙な「体質」なのですが、そこにも何かがありそうだ・・・というのは、「序」で提示されます。そんな円がお客に選ぶ本。もちろん、円は読めないので、その本を読んだお客に、どんな話だったのか聞くのですが。それを語る中で、お客は自分の何がその本を呼ぶのかに気づいていきます。

一番身につまされたのは、「二冊目」の夫婦の物語。あるよね、そういうとこ・・・と思ってしまいました(苦笑)

最終話では、凧屋に文庫がある理由も明らかになり、物語は幕を閉じます。ただ、やはり人の心の闇や、ままならなさは、読後もじんわり残ります。そんなふうにして人は生きていくのだと、しみじみ感じました。

2024年4月11日 (木)

成瀬は天下を取りにいく

3482「成瀬は天下を取りにいく」 宮島未奈   新潮社   ★★★★

「わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」・・・突拍子もないことを言い出した成瀬あかりは、一風変わった中学2年生。幼なじみの島崎みゆきは、成瀬あかり史を見届けることに使命を感じるが・・・。

 

本屋大賞受賞作です。ちょうど、発表の日に読んでいました。そして、本屋大賞、納得しました。

「ありがとう西武大津店」「膳所から来ました」「階段は走らない」「線がつながる」「レッツゴーミシガン」「ときめき江州音頭」の6話。複数の人々の視点で紡がれる物語で、それぞれに成瀬あかりが関わってきます。成瀬あかり中2の夏から高3の夏まで。

成瀬がなかなかただ者ではない人物で、それだけでも面白いのですが、恋あり友情あり、けっこう王道の青春ものなのです。が、成瀬の独特の思考と言動が、実にいい味を出していて。そして、成瀬の視点で物語が語られる最終話が最高でした。

正直言って、私みたいなオバサンにはついていけないかも・・・と思っていたのですが、メチャクチャおもしろかったです。話題になったの、わかります。

2024年4月 6日 (土)

夜明けのはざま

3481「夜明けのはざま」 町田そのこ   ポプラ社   ★★★★

家族葬専門の葬儀社「芥子実庵」で葬祭ディレクターとして働く佐久間真奈は、仕事にやりがいを見出すと同時に、恋人との結婚のことで悩んでいる。そんな時、親友が自死し、その葬儀を真奈が執り行うよう遺言があったと知る。果たして、親友の葬儀ができるのか。逡巡する真奈だったが・・・。

 

小さな葬儀社を舞台にした物語。親友の葬儀を任された葬祭ディレクター真奈の「見送る背中」。元夫の恋人の葬儀を手伝うことになった花屋の「私が愛したかった男」。一番会いたくなかった同級生と再会した葬儀社の新人社員の「芥子の実」。夫に内緒で元恋人の葬儀に向かう主婦の「あなたのための椅子」。そして、真奈が仕事か結婚かの結論を出す「一握の砂」。以上、5話。

いつもながら町田さんが描き出す人生は、ヒリヒリするようなものが多くて。夫を責める妻の言葉、妻を追いつめる夫の言動、親子のすれちがい、学校でのいじめ等々・・・読んでいてかなりしんどかったです。それでも、夢中になって読んだのは、他人事とは思えないから。自分が同じような目に遭っていなくても、これは自分と地続きの物語だと感じられる力があるからです。

そうであれば尚更、ハッピーエンドになってほしいと思うのですが・・・町田さんの着地はそっちなんですねえ。残念ではありますが、それはそれで仕方ないよねえとも思えるので、まあいいか。

個人的に、新入社員の須田くんが、その後どうしたのか気になります。

2024年4月 5日 (金)

あやかし草紙

「あやかし草紙」 宮部みゆき   角川書店   ★★★★

これまた再読。というか、再読2回目。

「三島屋変調百物語」5作目。第一期完結編です。

自分をめぐる恋愛沙汰で殺人事件が起こり、そこから逃げるように江戸の叔父のもとにやってきたおちか。ひょんなことから「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」の百物語の聞き手をつとめるようになり、おちか自身も不思議な体験をし・・・。それらの積み重ねが、おちかの凍った心を溶かし、とうとう新しい一歩を踏み出す。

この巻でおちかは百物語の聞き手という立場を去り、三島屋の次男・従兄弟の富次郎が聞き手となります。そういう大きな節目の巻ですが、語られる話はけっこう重く・・・。でも、だからこそ読み応えがあります。

表題作「あやかし草紙」と最終話「金目の猫」を、今回はしみじみと読み返しました。特に、「金目の猫」は、もうすっかり富次郎の物語に移行していますね。今になって読み返してみると、その後の富次郎のあれこれと相まって、なんとも感慨深いものがありました。

2024年4月 3日 (水)

子宝船

「子宝船 きたきた捕物帖 二」 宮部みゆき   PHP研究所   ★★★★

再読です。

心身共に弱っている時は、好きな時代物を読むに限る・・・というのが私のライフハックで。かつては平岩弓枝「御宿かわせみ」シリーズ、池波正太郎「剣客商売」シリーズに何度も救われましたが、最近はもっぱら宮部作品のお世話になっています。

ということで、今回はまずこれ。

北一と喜多次。天涯孤独の身の上ながら懸命に生きている二人の少年を主人公にした捕物帖。北一が遭遇した三つの事件が描かれます。

やはり宮部さんの時代物はよい。さらに、宮部さんの少年を主人公にした物語はやっぱりよい。事件は重苦しいものが多くて、解決しても大団円・・・という感じにはならないのですが。その苦さを抱えて成長していく北一の姿を、ずっと見守りたいと思わされます。

 

2024年4月 2日 (火)

藤原道長の日常生活

3480「藤原道長の日常生活」 倉本一宏   講談社現代新書   ★★★★

藤原道長はどんな人物だったのか。道長の日記「御堂関白記」を中心に、同時期の「小右記」「権記」の記述で補足しながら、道長の人となりに迫る。

 

「道長の感情表現」「道長の宮廷生活」「道長と家族」「道長の空間」「京都という町」「道長の精神世界」の6章で構成されています。

道長という人は、日本史上まれに見る権力を長期間維持した為政者ですが、その「人となり」についてはあまり知られていないのが実情。私もよくわかっていませんでした。倉本先生は、「御堂関白記」の記述をもとに、人間・藤原道長を浮かび上がらせてくれました。

けっこうわがままだったり、怒ったかと思うと涙もろかったり。単なる「いい人」「悪い人」ではなく、多面的な、現代の我々と変わらない人間くさい「道長」の姿が見えてきます。

大河ドラマに関連して、倉本先生の著作をいくつか読みました。徐々に道長が人間として現れてきた感じがします。歴史というのは、人の営みである以上、どんな歴史上の有名人であっても「人間」なのですが、私達はどうもそれを忘れがち。大変勉強になりました。

2024年3月31日 (日)

ビブリア古書堂の事件手帖Ⅳ ~扉子と継がれる道~

3479「ビブリア古書堂の事件手帖Ⅳ ~扉子たちと継がれる道~」 メディアワークス文庫   ★★★★

戦中、鎌倉の文士たちが立ち上げた貸本屋「鎌倉文庫」。千冊あった貸本の中には貴重な品も多かったが、戦後、行方不明に。実は、その本の行方にビブリア古書堂は関わっていた。昭和、平成、令和・・・三つの時代を経て継がれるものとは。

 

とうとう、コロナに罹ってしまいました(涙) 基本的には風邪の症状なんですが、風邪よりかなりキツかったです。まる一週間、本を読む気にもなれませんでした(6日目あたりから、漫画を読んでましたが)。

そんな治りかけの時に、とりあえず読めるかな・・・と手に取ったのが、これ。頭が働かなくて、二日ほどかかって読了(いつもなら一日)。

今回の題材は「鎌倉文庫」。そんなのがあったのですねえ。今は大変が行方不明になってしまった貸本を題材に、扉子の令和編『鶉籠』、智恵子の昭和編『道草』、栞子の平成編『吾輩ハ猫デアル』の三話が展開されます。三世代のビブリア古書堂の女性たちの「十七歳」の時に関わった鎌倉文庫。時を超えて継がれる本と人の思いの物語。

一番おもしろかったのは、昭和編でした。栞子の母・智恵子が十七歳の時。のちに夫となる登との出会いや、若き日の登の姿など、今まではっきり描かれなかった栞子の両親の物語です。これを読んで、今まで欠けていたピースがはまったような気持ちになりました。今までは智恵子はただ栞子たちに不穏をもたらす疫病神のような存在でしたが、やっと一人の人間として立ち現れたような。

ますますこの次の物語が楽しみになってきました。

 

2024年3月23日 (土)

はなとゆめ

「はなとゆめ」 冲方丁   角川書店   ★★★★

清少納言が「枕草子」を書くに至るまでの物語。再読です。もちろん、大河ドラマ「光る君へ」関連で。

なんというか・・・すさまじいな、と。定子の生き様も、清少納言がその人生をかけて、定子の華を書き残そうとしたのかも。初読の時より、その凄みを感じて、鳥肌が立つ思いでした。

ものを書くというのは、何なのでしょうね。なぜ、「書く」ことにこだわる人たちがいて、さらに多くの人たちがそれを読まずにはいられない。文字が生まれてからずっと、古今東西、人の営みには「書く人」「読む人」が必ずいたわけですが・・・。女流文学の百花繚乱とも言うべきこの時代には、どんな必然があってこうなったのでしょうね。

さて、初読の時より生々しく感じたのは、登場人物がどうしてもドラマのキャストで脳内再生されるからですねえ。ファーストサマーウイカさん演じる清少納言、現時点で最高に好きなんですけど。これから中関白家と定子を待つ悲劇をどう演じてくれるのか、楽しみでなりません。

2024年3月18日 (月)

タスキ彼方

3478「タスキ彼方」 額賀澪   小学館   ★★★★

令和6年1月、第100回を迎える箱根駅伝。名門・日東大は近年低迷し、予選会からのスタート。4年生で長距離界の期待の星・神原八雲はオリンピックのマラソンに照準を当てており、駅伝には出場しないと明言していた。成竹一進監督は、八雲の姿勢に理解は示しつつも、駅伝出場にも期待している。そんな八雲がボストンマラソンで、アメリカ人ランナーから一冊の手帳を託される。軍人だった曾祖父がマニラで拾った日本兵の日記で、駅伝のことが書いてあるという。日記を書いたのは、世良貞勝という人物。その日記が、八雲と一進を大きく動かしていく。

 

箱根駅伝が、金栗四三という日本長距離界の開拓者によって創設された・・・というのは、大河ドラマ「いだてん」でも描かれました。そこから、今年で100回。

100回目を迎える令和の箱根駅伝と、戦時中に駅伝大会を継続するために、そして戦後の駅伝復活のために悪戦苦闘した人々を描いた物語。決して光だけでなく、その影の部分も抱えながら、それでも走りたいと思った若者たちの、時を超えた群像劇です。

昭和15年1月の第21回大会を最後に大会の中止が決まり、関東学連の世良や宮野喜一郎、及川肇はどうにかして開催できないか、奔走します。大学生が気楽にスポーツなどやっていていいのかという空気が高まる中、どんな手を使ってでも選手たちを走らせようと。いずれ近いうちに学生たちも招集され、戦地に送られる。「箱根を走ってから死にたい」・・・そんな切実な願いを、なんとかかなえようと。

箱根駅伝は複雑な経緯を経て戦後に復活、そして平成、令和と続いてきました。しかし、その「複雑な経緯」の中に、どれだけの人々の思いがあったのか。若い人たちが「箱根を走ってから死にたい」と、そこまで思い詰めるなんて、そんな世の中は間違っています。それでも、そんな時代がたしかにあったのです。そのことは、忘れてはいけないはずです。

それにしても、駅伝というのは、なんとも奇妙な形態の競技です。それなのに、なぜここまで人々を熱狂させるのか。宮野のこの言葉に、答えがあるのかもしれません。

「タスキは、私達自身です。自分一人では行けない場所に、仲間と一緒に行くんです。タスキは私達自身で、私達の祈りで、願いで、未来です。」

100回を重ねた箱根駅伝ですが、大会が大きくなるにつれて、いろいろな問題も生じています。どうか、大会に関わる方々には、この大会の根幹にあるものが何なのか、忘れないでほしいと思います。「走りたい」という、シンプルな思い。どうか、いろいろなものがそれを歪めることがないように。

2024年3月17日 (日)

飲めば都

「飲めば都」 北村薫   新潮社   ★★★★

再読です。

先日読んだ「遠い唇」(角川文庫版)に収録された作品に、「飲めば都」の登場人物たちが。これは読み返さねばと思っていたのですが、ようやく。出版社に勤める女性たちの「酒とゲラの日々」(笑) あらためてビックリしましたが、都さんはじめ皆さん、ちょっと酒の武勇伝がすごすきやしませんか。私もいろいろやらかしていますが、都さんや早苗さんにはかないません(たぶん)。

今回は、文ネエこと瀬戸口まりえさんのエピソードを確認したくて読み返しました。ああ、そうか・・・「指輪物語」の人か。この物語の中で、唯一重い話でしたね。そして、こんなに蘊蓄を語る人だったのですね。だから、今もああなんだ(笑)

三十代のまりえさんが負った傷が消えたわけではないだろうけれど。長い時間が経って、やはり若い日に傷を負った寺脇先生と出会って、あんなふうに穏やかで明るい時間を過ごせるのは、本当に救われた思いでした。

それにしても、早苗さん・・・長い時間が経っても、相変わらずですね(笑)

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