2018年10月14日 (日)

魔女の胎動

2804「魔女の胎動」 東野圭吾 角川書店 ★★★★

鍼灸師の工藤ナユタは、スキージャンパーの施術に向かった先で、羽原円華という少女と出会う。彼女は気象を読む不思議な力を見せ、ナユタを驚愕させるが…。


「ラプラスの魔女」前日譚。鍼灸師のナユタを主人公にした「あの風に向かって翔べ」「この手で魔球を」「その流れの行方は」「どの道で迷っていようとも」と、「ラプラス~」にダイレクトにつながる「魔女の胎動」を収録。

本編の記憶が定かでなかったのですが、読んでるうちに徐々に思い出しました。

東野さんは、シリーズ化して書き込んでいるうちに、キャラが立ってくるタイプですね。円華もだいぶ輪郭がハッキリしてきた気がします。

読みやすさは相変わらずですが、 ナユタの物語がけっこう意外なところに着地して驚きました…。

2018年10月11日 (木)

夏空白花

2803「夏空白花」 須賀しのぶ ポプラ社 ★★★★

終戦と同時に混乱に陥った日本社会。そこから這い上がるために、新聞記者・神住匡が選んだ道は、「甲子園の復活」だった。しかし、道は想像以上に険しく、思いもかけない困難が神住の前に立ちはだかり…。

今年は夏の高校野球100回大会だったわけですが、それに合わせた礼讃本かよ…と思ってました。ごめんなさい。そんなんじゃありませんでした。

朝日新聞の記者、神住匡は、何のポリシーもなく、時勢にあった記事を適当に書きなぐっているような男。かつては甲子園のマウンドに立ったことがあるが、肩を壊し、大きな挫折を経験してもいる。

そんな神住の人生が、敗戦によって転換する。高校野球の復活を目指し、動き始めた神住。当初の動機は不純だったが、様々な立場の人間と関わることで、神住は自分の傷に向き合うことに。

真っ直ぐに正しいだけの主人公ではないところが何よりよかったです。それに、高校野球とプロとの関係、選手に背負わせてしまうものの重さ、都市と地方の格差、アメリカの野球との違いなど、現在の野球界にも無縁ではないことも、しっかり取り上げているのもとてもよかった。良かれと思ってやることにも、必ずマイナス要素は発生します。そこにも視点を当てているのが、高校野球を描いてきた須賀しのぶさんの覚悟だと感じました。

そして、これは再生の物語です。何かを失い、挫折した人が、もう一度歩き出す物語。それは、人が生きていく上での大事なテーマです。

高校野球が苦手…という人にこそ、一度読んでみてほしい一冊です。

2018年10月 9日 (火)

翼竜館の宝石商人

2802「翼竜館の宝石商人」 高野史緒 講談社 ★★★

1662年、アムステルダム。宝石商ホーヘフェーンがペストで死亡した。しかし、翌日、瓜二つの男が発見される。画家・レンブラントの息子ティトゥスと、記憶を失ったナンドはこの奇妙な事件に巻き込まれ…。


「カラマーゾフの妹」以来の高野作品。17世紀のオランダを舞台にしたミステリは、時代の空気を肌で感じさせるような、独特の雰囲気のものでした。

ペストで死んだのは、ホーヘフェーンなのか? 彼の死に立ち会った怪しいペスト医師は? ホーヘフェーンと瓜二つの男の正体は? ティトゥスがホーヘフェーンの元から持ち出した手紙の不思議な文言の意味は? 探偵役・ナンドはなぜ記憶を失った? そもそもナンドは何者なのか? …とまあ、謎だらけ、そして怪しい人物だらけの物語です。

細切れにしか読めなかったせいか、視点人物の切り替わりにうまくついていけないところがありました。ナンドかと思っていたら、ティトゥス目線のパートだったり。

最後の謎解きは…そうか…でも、それって気づかないもの? う~ん…となってしまいました。

話としては面白かったんですけどね。

2018年10月 7日 (日)

絵金、闇を塗る

2801「絵金、闇を塗る」 木下昌輝 集英社 ★★★★

幕末の土佐で花開いた天才絵師・絵金。おどろおどろしい血塗れの絵は、人びとを、絵金自身を、何処へ誘ったのか。絵金に魅入られた人びとの目を通して描く、絵金の時代。

高知では、今も絵金の絵を飾る風習があることを、昔、浮世絵にかぶれた頃に知り、興味をもっていたのです。それがこんなふうに小説になるなんて。

幕末の土佐といえば、動乱の只中。この物語にも、武市半平太や坂本龍馬、岡田以蔵らが登場します。絵金の物語は、土佐という土地柄を背景に、時代を描く物語として、大きなうねりを見せます。

破天荒な絵師に魅入られるようにして、道を踏み外し、たがが外れたようになっていく人びと。彼らが時代をつくったのか、そんな時代が狂気を欲したのか…。

いつの間にか、自分自身も絵金の絵に魂を奪われたような気分になりました。


2018年10月 5日 (金)

ほの暗い永久から出でて

2800「ほの暗い永久から出でて」 上橋菜穂子 津田篤太郎 文藝春秋 ★★★★

母の肺がんがきっかけで知り合った作家と医師が、往復書簡で語り合う生と死のこと。


父の病状が悪化して、何かのヒントになればと手に取りましたが、いざとなると読む覚悟がなくて。結局、父を送ってから読むことになりました。

上橋さんのお母さまが肺がんと診断され、その治療の過程で知り合い、治療に参加された津田先生。お母さまの死の前後に交わされた書簡は、生と死を通して、人の心と身体の在り方について、深く考察していくものになりました。

互いに敬意をもって言葉を交わしているので、読んでいてとても心地よかったです。上橋さんはやはり作家であり、文化人類学者であり、文系の方。感覚的に物事の本質をつかみ、言語に変換していく。津田先生は、やはり理系なのですね。実証的であり、理詰めできちんと解析しようとなさる印象でした。

このお二人がおこす化学反応が、とっても面白かったです。一方が投げた球を受けて、思いもかけない方向へ投げ返したり。途中でお母さまが亡くなり、その辺りは読むのがつらかったですが(父のことがよみがえってきて)。でも、その過程を他者の言葉で語ってもらうというのも、得がたい機会だったのかなという気がします。

語っても語り尽くせるはずのない「生と死」というテーマ。それに真摯に向き合い続けるお二人の姿勢に感銘を受けました。

2018年10月 2日 (火)

不在

2799「不在」 彩瀬まる 角川書店 ★★★★

父の死によって遺された家。両親が離婚して以来、帰ったことのなかったその家の整理をしているうちに、明日香の心は微妙に均衡を失っていく。


彩瀬まるの新刊だー!と勇んで手にしたものの、いざ読もうとして困惑。父が亡くなったばかりでこれを読むのは、ちょっとタイムリーすぎじゃね?(苦笑) でも、意を決して読みました。

漫画家としてそこそこ売れていて、劇団員の恋人・冬馬との暮らしもうまくいっている明日香。彼女の日常がひび割れていくのは、父の死と、それによってもたらされた「家」。整理を始めてから、明日香の心のバランスは崩れていき、仕事も、冬馬との関係も破綻していく。

いつもながら痛いところをついてくるなあ(苦笑)と。家族とか、愛とか、一種の呪いだと思うのですが。彩瀬さんは、「呪い」という言葉に逃げず、それは何なのか、なぜ私たちは苦しいのか、どうしたら生きていけるのか、最後まで丁寧に描いていくのです。

相手を縛る、服従させたい気持ちは私にもあるし、自分が認められたい、褒められたいという気持ちもすごくよくわかる。実際、父の死に関わるあれこれで、私も実家の家族といろいろあって、腹が立つと同時に自己嫌悪に陥ったりもしましたし。自分の中にあるそういう気持ちから目を逸らさずに生きる強さ。それが、彩瀬作品の根っこにあり、目を逸らしてばかりの私には「痛い」と感じるのかもしれません。

明日香は自分の駄目さを抱えつつ、なんとか生きていく術を見いだそうとします。親の理想の子供にはなれなかったけど。自分のこともままならないけど。人を支配したりされたりするのではなく、緩やかに周囲とつながりながら、前へ一歩ずつ。そんな生き方を。

これを読んで、何かが解決するわけでなく、私は私で生きる術を見つけるしかないのですが。私だけが背負っているものではないんだな、と。ほんの少し荷が軽くなった気がします。

2018年9月30日 (日)

死に山

2798「死に山」 ドニー・アイカー 河出書房新社 ★★★★

1959年、ソ連。大学生を中心としたトレッキングチーム9人が全滅した。彼らの異様な死に様は当局によって「未知の不可抗力によって死亡」と結論された。未だに明らかにされない真相をめぐり、さまざまな憶測が飛び交う「ディアトロフ峠事件」の真実を求め、ロシアに飛んだ筆者。そうしてたどり着いた真相とは。


Twitterでフォローしている作家さんたちがざわついていたので、気になって購入(翻訳書は高い!)。副題は「世界一不気味な遭難事故 《ディアトロフ峠事件》の真相」。

筆者はアメリカ人で、映画・テレビの監督・製作が仕事。この事件を偶然知って、とりつかれたように調べはじめ、ロシアに渡り、事件の研究者や遺族、チーム唯一の生き残り(旅程の途中で持病の悪化のため離脱)など、さまざまな人と会い、遭難現場に赴き、今まで誰もたどり着かなかったある結論を導き出すまで。

筆者がチームの足跡をたどる過程もおもしろいのですが、インタビューと日誌を元に、チームの出発からの日々を再現した「1959年」のパートが胸に迫りました。革命と戦争を経て訪れた「雪どけ」の時代のソ連。青春を謳歌する青年たちの生き生きとした様子。ほんの数日で無惨な死を迎えることを知らない彼らの笑顔。それが明るければ明るいほど、読むのがつらくなりました。

そんな彼らの未来が突然絶たれたのはなぜか。当時の捜査ではわからなかった「真相」は、信じられないような、けれど説得力のあるものでした。そんなことがあるのか、という。

筆者が机上の空論や単なる憶測でなく、現地で取材を重ねた結果たどり着いた結論は尊重したいと思います。でも、本当にそれで全て解決するのか?という思いもあるのです。

2018年9月28日 (金)

青空と逃げる

2797「青空と逃げる」 辻村深月 中央公論新社 ★★★★

その日から、早苗と力の逃避行が始まった。追っ手から逃れて、見知らぬ土地で暮らす母と息子は、周りの人たちに助けられて、なんとか日々を生き延びていた。しかし、早苗には、力にも言えないことが心に蟠っていて…。


母子が逃げる話と聞いて、DV夫から逃げるのか?と、勝手に想像してました。が、違いました。状況はかなり複雑で、早苗と力は、もっといろいろなものから逃げなければ生きていけないくらい、追いつめられたのでした。

四万十、瀬戸内海の家島、別府…と舞台を変えながら、早苗と力の生活が描かれます。生きるために必死な早苗。少しずつ成長していく力。小学五年生の力は、母との距離を微妙に取りたがる時期。二人きりだからこそ苛立ったりする関係性も、いろんなエピソードを交えて描き出しています。

周りの人たちが本当にいい人ばかりなのですが、だからこそ早苗たちも生きる希望を失わずにいられたし、最後の最後で人を信じることができたのかもしれません。

物語は終盤、仙台へ。それもまた、家族の再生には必要な過程だったのでしょう。北海道で迎えたラストには、思わず涙が…。

デビュー当時は、すごく「閉じた」関係性の中で物語を作っていた感のある辻村さん。こんなふうに人をあたたかく抱き止めるような物語を書くようになったんだなあ。

2018年9月27日 (木)

平城京

2796「平城京」 安部龍太郎 角川書店 ★★★

遣唐使船の船長だった阿倍船人は、ある事件で処罰されてしまう。しかし、兄・宿奈麻呂から、新都造営に協力を求められる。一族の再興をかけて無謀とも言える計画に挑戦する船人だったが、遷都反対派の妨害が絶えず…。果たして、反対派の黒幕とは…。


飛鳥・奈良時代にはまっているので、こういう題材の作品が出てくるだけで、嬉しくなってしまいます。

平城京遷都。やたらと遷都が繰り返された時代ですが、平城京はまた格別。その規模の大きさゆえ、立ち退き、土地買収、開発、建設…と、とんでもない労力を要したはず。その過程を、阿倍船人という青年を通して描きます。

船人は阿倍比羅夫の子。阿倍氏は白村江の敗戦以来、勢力を失った一族。その再興をかけて長兄・宿奈麻呂が引き受けた遷都事業に、根っからの船乗りである船人も巻き込まれていきます。

誠意をもって人に接する船人ゆえ、波乱がありながらも物事は順調に進む…と思いきや。後半は冒険活劇風にもなって、意外な黒幕へとたどり着くのです。

虐げられた民や、権力者たち、行基衆や百済からの移民たちなど、この時代を形づくっていたいろいろなピースが物語の中でうまく配置され、「反対派」を生み出す影を描き出しています。また、壬申の乱とは何だったのか? なぜ、平城京遷都は必要だったのか? に対する、作者の答えは、なかなか興味深かったです。

2018年9月24日 (月)

花だより

2795「花だより」 髙田郁   ハルキ文庫   ★★★★

「みおつくし料理帖」シリーズ特別巻。澪が大坂に戻って四年。澪を案じる「つる屋」の店主・種市だったが、易者にとんでもない卦をもらい、床に臥せってしまう。一方、その頃澪は窮地に陥っていて・・・。

種市を中心に、澪が去ったあとのつる屋の面々を描く「花だより」、小野寺数馬と妻・乙緒の暮らしを描いた「涼風あり」、生家の再建を果たした野江の人生の岐路「秋燕」、澪と源斉夫婦が陥った苦境とそこからの再生を描く「月の船を漕ぐ」の四編。

シリーズ完結してから四年経ったのですね。「もう四年も会えてねぇ」という、冒頭の種市の嘆きは、まさにシリーズ愛読者の心境そのものです。久しぶりに会った澪たちは相変わらずで、懐かしさと愛おしさで、始終涙腺は緩みっぱなしでした。

つる屋のみんなはどうしているかな。澪と源斉は大坂でどんな新婚生活を送っているのかしら。野江はどんな暮らしをしているのかしら。・・・そんな読者の「気になる」を、まさにかゆいところに手が届くように書いてくださいました。

私は、小松原さまこと小野寺さまがどうしているのか、すごく気になっていたので、今回すごくうれしかったです。あの方だって、澪と添えなかったのはものすごく苦しかったはずなので。幸せそうで、本当によかった。

それから、野江と亡くなった又次のつながりが、あんなに深いものだったというのに、頬を打たれたような気分になりました。惚れたとかそういうことだけではなかったのですね。生きていくための、かけがえのない相棒だったのですね。

澪と源斉の話は、ちょっとつらかったですが・・・。私も自分自身のことを省みて、はっとさせられました。

これでもう、シリーズは本当に打ち止めになるようです。ちょっと寂しいですが。それでも、本を開けば、何度でも澪たちに会えますものね。

 

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