2017年4月28日 (金)

シモネッタのどこまでいっても男と女

2569「シモネッタのどこまでいっても男と女」 田丸公美子   講談社文庫   ★★★★

イタリア語通訳の田丸公美子さんが、自分の夫や両親について初めて書いたエッセイ。

故・米原万里さんに、「あなたの使命は両親の話を書くこと」と言われていたそうで、たしかに、読み応えありました。家庭をかえりみない父と、万事におっとりしていながら夫の浮気だけはすごい嗅覚で見破る母。そんな破綻していたような夫婦が行き着いた先は・・・。泣きました。

ほかにも、今まであまり語ってこなかった公美子さんの旦那さまの話とか、本気で求愛してきたイタリア男たちの話とか。

公美子さんの半生を振り返るような、いつもとはちょっと違うテイストの話が多く、いつになくしみじみしてしまいました。

2017年4月26日 (水)

晴れても雪でも

2568「晴れても雪でも」 北大路公子   集英社文庫   ★★★

「石の裏にも三年」の続編エッセイ。

ええっと、ぶれませんね、公子さん。あまりに変わらない日常の安定っぷりに、感動すら覚えました。(どれだけ変わってないか確かめるために、「石の裏にも三年」まで読み返してしまいました)

「さかの途中の家」を読んで、ちょっとうつ状態になったので、低いテンションでも読める本ということでチョイスしましたが、正解でした(笑) ダンゴ虫状態でも生きていけると自信が持てましたよ。

2017年4月24日 (月)

坂の途中の家

2567「坂の途中の家」 角田光代   朝日新聞出版   ★★★★

娘を殺した母親は、私かもしれない・・・。幼児虐待死事件の補充裁判員になってしまった里沙子は、裁判が進むにつれ、子どもを殺した母親と自分を重ねるようになっていく。

読んでいて、息がつまりそうでした。

平凡な主婦の里沙子。夫の陽一郎と一人娘の文香の三人家族。それなりに満ち足りた生活を送っていたが、裁判員裁判の補充裁判員に選ばれたことから、平穏な生活にさざなみが立ち始め・・・。幼い子どもを溺死させた母親・水穂の裁判に関わるうち、彼女と自分を重ね合わせ、そうすることで今まで見えなかった家族の一面が見えてきて・・・。

読んでいると、里沙子の話なのか、水穂の話なのか、わからなくなってきたり、ふと「自分はどうだろう」と考えていたりして、精神的にあまりいいものではなかったです(苦笑)

でも、気づかないだけで、気づこうとしないだけで、こういうことってよくあるのかも・・・と、読むのをやめられませんでした。他人事と片付けられない何かがありました。

裁判も終わり、日常に戻った里沙子は、この後、いったいどうするのでしょう。

2017年4月22日 (土)

ツバキ文具店

2566「ツバキ文具店」 小川糸   幻冬舎   ★★★★

鎌倉にある小さな文具店の店主・雨宮鳩子。先代である祖母から受け継いだのは、文具店と代書屋の仕事。今日も、鳩子のもとには思いを抱えた依頼人がやってくる。

ああ、私のまわりにもこういう代書屋さんがいないかな~・・・などと思いながら読んでいました。書くことは嫌いではないのですが、字が汚いもので・・・。

それはさておき、本屋大賞候補作も納得の、すてきな物語でした。

鎌倉の季節の移り変わりを背景に、一風変わった代書の依頼を通して、人と人との関わりが描かれていきます。主人公の鳩子も先代(祖母)との確執があり、どうしようもない後悔を抱えているのですが、徐々にわだかまりは消えていきます。それは、先代が道をつけてくれた代書屋という生き方が、鳩子を導いてくれたかのようで。

鳩子に書を仕込んだ先代の教育は、とてもとても厳しく、鳩子はそれに反発するのですが、先代は自分にできる精一杯のことをしてくれたんだろうな。口先できれいごとを唱えるのではなく、自分がもっている全てを、孫に受け渡すような。鳩子が生きていけるように。それが本当に鳩子に伝わったとき、鳩子は本当の「自分の字」を書けたんでしょうねえ。

派手さはないけれど、しみじみ、いい話でした。

2017年4月21日 (金)

罪の声

2565「罪の声」 塩田武士   講談社   ★★★★

父の遺品らしき古いカセットテープから流れてきたのは、幼い日の自分の声だった。それは、昭和史に残る「ギン萬事件」の犯人が使用したもの・・・。自分と家族は、あの事件の加害者だったのか? 京都でテーラーを営む曽根俊也は、ありえない現実に驚愕する。

昨年の夏、「文庫X」を仕掛けた盛岡さわや書店さんが、次に読むならこれ!とお勧めしていたので、気になっていました。フィクションですが、あの「グリコ・森永事件」を題材にした社会派ミステリ。極力、実際にあった事件の状況に沿って構成されていて、フィクションとわかっていても、これが真実なのではないかというすさまじい臨場感と迫力で読ませます。

物語は、自分の声が犯罪に利用されたことを知った曽根俊也のサイドと、文化部記者ながら「ギン萬事件」の再検証記事の取材に駆り出された阿久津英士のサイドから語られていきます。

全く別の動機から始まった二人の「過去」の追及は、やがて交差し、影響を与え合い、「現実」から「未来」へと視点を変えていく。この流れが実に見事で、実際の「グリコ・森永事件」も、確実に子どもを巻き込み、その人生に影を落としたのだろうと納得できます。

犯罪をおかして幸せになる人はいないし、犯罪者が裁かれないことはさらなる不幸を生むのだということをあらためて考えさせられました。

本屋大賞の候補にもなったようなので、これを契機にさらに多くの人に読まれることを期待する一冊です。

2017年4月19日 (水)

オーブランの少女

2564「オーブランの少女」 深緑野分   東京創元社   ★★★★

美しい庭園オーブラン。そこには、秘められた過去があった。集められた病や障害をもつ少女たち。謎めいた規則。外の世界から完全に隔絶された彼女たちを待っていた運命は・・・。

遅ればせながら、深緑野分デビュー作です。

「オーブランの少女」「仮面」「大雨とトマト」「片想い」「氷の皇国」のミステリ5編。

秀逸なのは、やはり表題作。物語の始まりからいろんな謎がちりばめられていて、それが思いもしない形で解き明かされていきます。その謎解きの方向性の意外さと、描写のすさまじさで、読み終えてしばらくぼうっとしてしまいました。

どの作品も「少女」に焦点があたっているのですが、彼女たちのしたたかさやはかなさ、その年代ゆえの強烈な個性が印象的な作品ばかり。

「戦場のコックたち」を読んで、これはすごい!と唸らされたのですが、デビュー作からじゅうぶんすごかったです。

2017年4月17日 (月)

アンと青春

2563「アンと青春」 坂木司   光文社   ★★★★

デパートの和菓子店でバイトをしている杏子。周りにも恵まれて、順調に仕事をしているようでいて、バイトという身分に不安を感じることも。そして、今日もまた杏子のもとに、小さな謎が・・・。

「和菓子のアン」の続編。久しぶりの坂木さんです。

「空の春告鳥」「女子の節句」「男子のセック」「甘いお荷物」「秋の道行き」の5編からなる連作短編。

杏子はじりじりとだけど、成長してますねえ。しっかりしてきたなあと思うことがたびたび。いまいち自分に自信はもてないけど、根が素直な彼女には、好感がもてます。そして、彼女に好感を抱いているのは読者だけじゃないようで・・・?

ただ、「甘いお荷物」は、ちょっと読んでて微妙でした。ネタバレになるので、ここでは書きませんが・・・そういう考え方もあるんだろうけどなあ。もっとも、自分に子どもがいないからそう思うだけかもしれませんが。

さらなる続編、楽しみです。(まさか、ここで終りませんよね)。

2017年4月15日 (土)

また、桜の国で

2562「また、桜の国で」 須賀しのぶ   祥伝社   ★★★★

第二次世界大戦直前のポーランドに赴任した外務書記生の棚倉慎は、戦争を回避するため、何より日本とポーランドの友好のために働いていた。しかし、ナチスドイツはポーランド侵攻をはじめ、国土は蹂躙される。友との約束を果たすべく、慎がとった行動は・・・。

直木賞候補作でしたね。読み応えありました。

ポーランドの歴史については、恥ずかしながらほとんど知りませんでした。これだけ周りの国々に裏切られ続け、何度も国土を失った歴史があったなんて。

主人公・棚倉慎は、白系ロシア人を父にもつ日本人。その生い立ちと、幼い頃偶然出会ったポーランド人の少年・カミルとの出会いが、慎の人生を決定付けます。外交の最前線で、後半は戦闘の最前線で、慎は果たして自分の信念を貫くことができるのか・・・。

慎の生き方は見事です。しかし、その結末はやはり悲しい。全編を通して流れる「革命のエチュード」が、印象的でした。

2017年4月13日 (木)

家康、江戸を建てる

2561「家康、江戸を建てる」 門井慶喜   祥伝社   ★★★★

天正十八年。家康は父祖の地を捨て、関八州への国替えを余儀なくされた。しかし、それは家康にとって新たな挑戦の始まりであった。

おもしろい。この物語の構成が、実におもしろいのです。

「流れを変える」「金貨(かね)を延べる」「飲み水を引く」「石垣を積む」「天守を起こす」の5話を通して、治水工事上水道工事、貨幣経済への転換など、江戸が天下の町に変貌していく過程が描かれます。家康も随所に顔を出しますが、主人公になるのは実際に工事等に携わった名もない(あるいは歴史上あまり有名でない)人物。

何もない土地どころか、低湿地が広がる不毛の地だった江戸が、少しずつ都市としての機能を有していき、時代が移り変わっていく様子が、実によくわかるのです。

もちろん、そこに関わった人々の生き様も、生き生きと描かれています。

こういう角度から「江戸」を見るというのは、新鮮な感覚でした。

2017年4月11日 (火)

教場2

2560「教場2」 長岡弘樹   小学館   ★★★★

わずか6ヶ月の訓練で現場に出て行く警察官たち。鬼の教官・風間の教場に編入させられた彼らは、過酷な訓練の中で、警察官としての己の適性に向き合うことになる。果たして、彼らは無事に卒業できるのか。

「教場」の続編。これも文句なしにおもしろかったです。

「創傷」「心眼」「罰則」「敬慕」「机上」「奉職」の6編。

警察官とはいえ、生身の人間であり、試験に受かっても適性があるとは限らない。風間教官に退校届を渡されて1週間がリミット・・・という極限状態におかれたときの心理描写が読ませどころです。

今回は、元医者という変り種の桐沢や、逮捕術で相手に手を上げることがどうしてもできない美浦など、個性的な生徒たちが登場します。そして、それを上回る存在感の風間教官。なんでも見透かしてしまうような教官と、ひよっこたちとの真剣勝負は、スリリングで読み応えあります。

できることなら、さらなる続編をお願いしたいものです。

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