2017年8月 3日 (木)

茄子の輝き

2615「茄子の輝き」 滝口悠生   新潮社   ★★★★

離婚して、ひとり暮らしをしている市瀬は、職場の千絵ちゃんの愛らしさを愛でる日々を過ごしている。やがて、会社が倒産し、その職場もなくなり、千絵ちゃんも遠くへ行ってしまい・・・。

最近、ツイッターでやたらと見かけるので、読んでみました。芥川賞作家さんなんですね。

「お茶の時間」「わすれない顔」「高田馬場の馬鹿」「茄子の輝き」「街々、女たち」「今日の記憶」の連作6編と、短編「文化」を収録。

文章が、心地よいというのとはちょっと違う。微妙に間を外されるような感じがするのです。でも、読んでいるうちに、いつのまにかそのリズムにはまってしまっている・・・そんな感じでした。

東京の片隅で、ひっそりと生きている市瀬という人物の視点での日常。彼の生活に大きな事件はほとんど起こりません。たぶん、一番大きかったのは、離婚(結婚よりも)。時間がたっても、去っていった妻のことを思い出したり(そのくせ、妻の顔を思い出せなくなっていたり)、職場の千絵ちゃんをかわいいと思えることに救われたり。そんな気持ちのゆらめきを、淡々と記したような物語。

時間の経過とともに、人は変化していくし、記憶も風化していくものもあって、それは当たり前のことなのですが、その変化をじっと見つめているような、そんな物語たちです。

静かな物語なのだけど、不思議な磁力みたいなものがあって、読み終えてもしばらく、その力に囚われたままでした。

2017年8月 1日 (火)

アリス殺し

2614「アリス殺し」 小林泰三   東京創元社   ★★★

大学院生・栗栖川亜理は、不思議の国のアリスの夢ばかり見ている。不思議の国で誰かが死ぬと、現実世界でも呼応するように誰かが死んで・・・。そして、不思議の国ではアリスが殺人の容疑者に。もしアリスが死刑になったら、現実では? 亜理は、同じ夢を見ているという井森とともに、事件を調べ始める。

現実と「不思議の国」とを行ったりきたりしながら、それぞれの殺人事件の謎を解いていく・・・という、なんとも奇妙な設定のミステリ。でも、本格ものです。

ほとんどが会話で進行するので(しかも噛み合わない会話で)、けっこう疲れました。が、見事にしてやられましたよ。うわ!そういうことか!と。

ただ、グロいのとか、痛いのとか、そういう描写は苦手なんです・・・。最後はもうほんとに、「早く終ってくれ」と思いながら読んでました(涙)

「クララ殺し」も気になっているんですが、そっちは大丈夫でしょうか・・・?

2017年7月31日 (月)

スーツケースの半分は

2613「スーツケースの半分は」 近藤史恵   祥伝社   ★★★★

真美がフリーマーケットでたまたま手に入れた青いスーツケース。そのスーツケースを持って、旅に出ると、なにかいいことが起こる・・・?

一個のスーツケースをめぐる9つの物語。

初めに買った真美から始まって、その友人たちや、いろんな形でスーツケースに関わった人たちのドラマが展開します。こういう構成、好きだなあ。

仕事だったり恋愛だったり、いろんなことがきっかけで、自分の生き方について考えざるを得ない時ってあるもので。そういう瞬間を切り取るような短編集ですが、登場人物たちに何かしら共感させられました。

近藤さんは初期からずっと読んでる作家さんです。初期作品は、ヒリヒリと痛いような感じのものが多かった気がするのですが、最近はだいぶまろやかになりました。でも、ズシリと重い何かが残るのです。

2017年7月28日 (金)

神さまたちの遊ぶ庭

2612「神さまたちの遊ぶ庭」 宮下奈都   光文社文庫   ★★★★

突然、北海道への移住を決意した宮下家。北海道のど真ん中、十勝・大雪山国立公園にあるトムラウシで一家五人で過ごした一年間を綴ったエッセイ。

あれ?宮下さんって福井の人だったよね? 今、北海道にいるんだ?なんでまた?・・・と、数年前に思ったことがあって。今回、これを読んで、その疑問は解けました。

北海道で暮らしたいという夫の熱意と、「おもしろそう」という子供たちの好奇心に負けて、北海道の山村に移住した宮下さん。自然の中での生活、子供たちの学校の話など、とにかくそこでなければ経験できなかっただろうあれこれが、ぎゅっと詰まっています。

宮下さんはとても柔らかい心の持ち主です。びっくりするような出来事に遭遇しても、それをふんわり受け止める。おもしろいなあ、いいなあ、と思ってしまう。それって、誰にでもできることではないと思うのです。宮下さんが経験したような生活を、受け入れられない人も世の中にはいるはずで。でも、宮下さんが、今、目の前にあるものをストンと受け入れるのを見ていると、ああ、そういうのって素敵だなと思えてくるのです。

私は、トムラウシの小中学校に似たような学校に赴任したことがあって、その時のいろんなことを思い出して、胸がいっぱいになりました。宮下さんがトムラウシを離れる場面は、涙があふれてしまって・・・。

文庫には、二年後の「それから」と、「あとがき」がついています。単行本で読んだ方は、ぜひ文庫も!!

2017年7月27日 (木)

私のことはほっといてください

2611「私のことはほっといてください」 北大路公子   PHP文芸文庫   ★★★★

いつもながらの日常を送る公子さんの、爆笑&脱力エッセイ。

なんかもう、どこからつっこんでいいのかわからないんですけど、今回も公子さんは公子さんでした(笑)

お父様との数々のバトルに笑い転げ、「ドラえもんのラーメン」に眩暈をおぼえ、河童の話に「だーかーらー!公子さん、小説書いてよ!」と怒り・・・。そんなこんなで、私もいつもの通りに読み終えました。

どうして私は取り憑かれたように北大路公子を読むのだろう・・・と、ときどき思うのですが。同じようなネタなのに、全然退屈しないのですよね。公子さんの目の付け所と発想の飛躍、それを読者に伝える文章力というのは、並々ならぬものがあるなあ・・・と、宮下奈都さんの解説を読んで思いました(笑)

とりあえず、今年だけで3冊(だっけ?)も文庫が出てるんですが、こんなハイペースで大丈夫ですか?と、ちょっと心配になっている私です。

2017年7月25日 (火)

彼女たちはみな、若くして死んだ

2610「彼女たちはみな、若くして死んだ」 チャールズ・ボズウェル   創元推理文庫   ★★★★

若い女性が犠牲となった10の犯罪。なぜ彼女たちは殺されなければならなかったのか。犯人は、誰か。事件を解き明かす刑事たちの捜査からその結末までを描いた犯罪ノンフィクション。

1949年に発表された本が、今回初めて日本語訳されて出版。ミステリー界に変革をもたらした一冊。・・・と聞けば、読んでみたくなります。

犯罪ノンフィクションといえばそれまでですが、筆者は感情を煽るような言葉を一切使わず、わかった事実を淡々と記しています。それが、下手なミステリを読むより、ずっとおもしろいのです。

被害者、加害者、遺族、捜査員・・・事件に関わったあらゆる人々のドラマが、浮かび上がってくる感じ。この本にインスパイアされて生れたミステリがあるというのも、頷けます。

「ボルジアの花嫁」「ランベスの毒殺魔」「死の部屋」「殺人の契機」「青髭との駆け落ち」「サラ・ブリマー事件」「死のタンゴ」「6か9か」「彼女が生きているかぎり」「絞殺された女」の10編。

2017年7月23日 (日)

深泥丘奇談

2609「深泥丘奇談」 綾辻行人   メディアファクトリー   ★★★★

作家の「私」は、ひどい眩暈におそわれて、近くにある深泥丘病院を受診した。検査のために入院したその夜、奇妙な音が聞こえてきて・・・。

作者の住む京都の町をモデルにした、連作奇談。ずっと気になっていたものの、図書館に行くとすっかり忘れていて・・・を繰り返し、ようやく借りてきました。

綾辻行人といえば、「十角館の殺人」に始まる新本格推理小説。当時、私も新本格ブームに熱狂したものでしたが、最近は綾辻さんもすっかりご無沙汰していました。久しぶりに読んで、文章が練れてきたなあという印象。余分なものがそぎ落とされて、簡潔で読みやすい。でも、不気味さはMAXです(笑)

怖いというより、現実とはチャンネルがずれた世界(作品世界が、非現実ではあるのですが)にいる居心地の悪さ、不気味さがずっと続く感じ。「顔」「丘の向こう」「長びく雨」「悪霊憑き」「サムザムシ」「開けるな」「六山の夜」「深泥丘魔術団」「声」の9編の連作です。

そして、思い出しました。私が綾辻さんから遠ざかった理由。グロい描写が生々しくて(「眼球譚」だったかな)、まいってしまったからでした。「深泥丘奇談」もけっこう・・・。私が一番苦手なのは、「サムザムシ」でした。

でも、こういう奇妙な話って好きなのです。続編も出ているので、読みたいと思ってます(懲りてない)。

2017年7月21日 (金)

かわうそ堀怪談見習い

2608「かわうそ堀怪談見習い」 柴崎友香   KADOKAWA   ★★★★

恋愛小説家という肩書きに違和感を感じ、怪談を書くことにした。それからというもの、ちょっと奇妙な出来事が身辺で続き・・・。わたしが忘れてしまったこととは、いったいなんだろう・・・?

柴崎友香さんは、ずいぶん以前に一冊読んだきり。今回は、図書館の「怖い話」コーナーにあったので、手に取りました。

この世ならぬ世界にふっとアクセスしてしまう瞬間。そんな奇妙な出来事が積み重ねられていって、「わたし」が取り戻した記憶とは・・・。なぜそうなるのか、何が起こっているのか、よくわからないまま、「わたし」はこの世と怪異との狭間を除き続ける、そんな話。

ものすごく怖いというのではないけれど、読んでいるうちに、自分のすぐそばにも異世界がぽっかりと口をあけているのではないか・・・という気になります。

2017年7月20日 (木)

メグル

2607「メグル」 乾ルカ   東京創元社   ★★★★

「あなたは行くべきよ。断らないでね」・・・大学の学生部であっせんしているバイトを、学生たちに強要する奨学係の女性。否応なしにバイトに送り込まれた学生たちが体験するものは・・・。

「ミツハの一族」がけっこうおもしろかったので、前から気になっていたこちらも読んでみました。

「ヒカレル」「モドル」「アタエル」「タベル」「メグル」の5話。H大学の学生部のちょっと不思議な職員に紹介されて(というか、無理やり押しつけられて)、仕方なくバイトに行く学生たちの物語。

ちょっと不思議設定のところはありますが、なぜ「行くべき」なのか、その理由を知りたくて、あっというまに読んでしまいました。

主人公たちの抱えている悩みや鬱屈には共感できるものが多かったし、それが解消されていく過程は心地よかったです。

ただ唯一、「すすめられないバイト」に行く話があるのですが・・・それはちょっと苦手でした。

2017年7月16日 (日)

そして誰もいなくなった

2606「そして誰もいなくなった」 アガサ・クリスティー   ハヤカワ文庫   ★★★★

兵隊島に集められた十人の男女。初日の夕食後、それぞれの犯した罪を告発する声が。そして、一人、また一人と、童謡の歌詞の通りに、人が殺されていき・・・。

久しぶりに再読しました。今年、テレビドラマにもなりましたし、犯人もわかっているのですが、まったく退屈しませんでした。

裁かれぬ罪を犯した十人が殺されていく過程の緊迫感。徐々に人が減っていき、お互いへの疑惑が最高潮に達して・・・。初めて読んだときは、「そして誰もいなくなった」最後の場面が、ものすごい衝撃的だったのですが、今回はそこに至るまでの「犯人」の巧妙な仕掛けを堪能しました。

ストーリーテラーとしてのクリスティの才能を、あらためて実感しました。

読んでいるあいだ、ずっとひどい雨が降っていて、「嵐の島」の気分をちょっとだけ味わいました。

«落陽

2017年8月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    

カテゴリー