2017年11月 9日 (木)

ふたり女房

2662「ふたり女房」 澤田瞳子   徳間書店   ★★★★

幼くして母を亡くし、医師であった父も行方知れずとなった元岡真葛は、父の親友・藤林信太夫に引き取られ、実の娘同然に育てられた。藤林家は京都鷹ヶ峰にある御薬園を管理する医師であり、今は真葛の義兄・匡が信太夫の跡を継いでいる。真葛はこのまま一生、薬師として生きていくのだと思っていたが・・・。

「人待ちの冬」「春愁悲仏」「為朝さま御宿」「ふたり女房」「初雪の坂」「粥杖打ち」の六話から成る連作短編。副題「京都鷹ヶ峰御薬園日録」。

澤田瞳子さんにどっぷりはまっています。今度は、女薬師を主人公にしたこのシリーズ第1作。なるほど、こういう視点はまた新鮮な感じがします。薬(江戸時代だから漢方薬)を栽培・採集する幕府の薬園がある京都が舞台。

なんともやりきれないような話が多い中でも、冒頭の「人待ちの冬」が強烈でした。

真葛は優秀な薬師で、医師でもあるのですが、それでも人を救えないことも多々ある。そんな現実に直面した彼女が、これからどんなふうに生きていくのか、シリーズの先が楽しみです。

2017年11月 7日 (火)

リチャード三世

2661「リチャード三世」 シェイクスピア   新潮文庫   ★★★

野心家グロスター公リチャードは、玉座を手に入れるためにありとあらゆる策略をめぐらす。人を陥れ、あるいは籠絡し、命を奪い・・・そうして手に入れた王の座で、リチャードが見たものは。

あまりにも有名な戯曲。有名すぎて、舞台を観たことがなくても、いくつかの台詞は知っているほど。でも今回、初めて観劇するので、事前学習として読みました。

むーずーかーしーいー!(笑)

世界史苦手なのですが、その要因の一つに「人の名前が覚えられない」というか、「区別がつかない」というのがあるのです。どうして、親子で同じ名前をつけたりするの? 血縁関係とか入り組んでいて、わからない・・・。せめて巻頭に系図をつけてください・・・。巻末の「解題」の中にあったよ・・・。と、頭の中がこんがらがって読み終えました(苦笑)

ただ、やはり印象的な台詞まわしやら、絵になる場面というのは読んでいてもわかって、たしかにこれを舞台にしたら、さぞかし見栄えがすることでしょうと思わされました。

ちなみに、舞台は佐々木蔵之介主演の「リチャード三世」盛岡公演。とっても斬新な演出でしたが、とーってもすばらしい舞台でした。うっとり。

新潮文庫は福田恆存訳でしたが、舞台の定本は木下順二訳。そちらも読みたいです。

2017年11月 5日 (日)

マジカル・ヒストリー・ツアー

2660「マジカル・ヒストリー・ツアー」 門井慶喜   幻戯書房   ★★★★

「歴史ミステリ」とは何か? そもそも「ミステリ」なるものが成立した背景には何があるのか? 名作ミステリを通して、その時代背景を読み解く評論。副題「ミステリと美術で読む近代」。

軽い気持ちで読み始めましたが、ミステリに関する評論でした。ちょっと珍しいものを読んでしまった気分。

「時の娘」から始まって、「アッシャー家の崩壊」やシャーロック・ホームズ、「薔薇の名前」、「わたしの名は赤」などを経て、最後はまた「時の娘」で閉じられます。私は「アッシャー家」とホームズ物しか読んでいないのですが、ついていけました。(もちろん、ほかにもいろいろな小説の話が出てきます)

とにかく、おもしろかったです。こんなふうにして見えてくるものがあるんだ・・・という、新鮮な驚き。近代という時代の特性。ミステリを宗教や美術といった視点で見たときに浮かび上がる構図。

なるほど、こうなるべくしてなった「ミステリ」なのだなあ、と。それゆえの「歴史」と「ミステリ」の親和性などなど。実に興味深い話満載でした。

とりあえず、未読の「時の娘」「薔薇の名前」「わたしの名は赤」は、きっと読むぞリストに書き加えました。

2017年11月 3日 (金)

怪盗の伴奏者

2659「怪盗の伴奏者」 三木笙子   創元推理文庫   ★★★

帝都を騒がせる大怪盗ロータスと、一連の事件の主任検事となった安西は、少年時代、無二の親友だった。敵対する二人が再び相まみえたとき、事件の結末は・・・。帝都探偵絵図シリーズ第4弾。

「君なら僕と同じ速さで走ることができる」・・・憧れてやまない相手からこう言われたら。どれほど誇らしく思うことだろう。そして、どこまでも共に走ろうと決意することだろう。

「伴走者」「反魂蝶」「怪盗の伴走者」の三話から成るこの物語は、そんな立場におかれた安西省吾検事が主人公。鬱屈した少年時代、省吾に唯一の光を与えてくれた蓮は、才気にあふれ、少年ながら末恐ろしい人物。二人は互いをパートナーと認め合うが、大人になった省吾は検事に、蓮は帝都を騒がす怪盗ロータスに。敵対する関係になった二人は・・・。

「伴走者」では二人の出会いを、「反魂蝶」は二人が協力して事件を解決した出来事を。そして「怪盗の伴走者」は、大人になった二人が描かれ、ここでようやく本来の探偵役・記者の高広と絵師の礼が登場します。敵対しなければならない省吾と蓮は、いったいどうするのか? 

結末は、そうなるのか・・・という感じでしたが、二人の来し方を考えると、それもまた必然だったのかもしれません。それほどまでに、省吾をとらえた光は強かったのでしょう。

「伴走者」「

2017年11月 1日 (水)

太宰治の辞書

2658「太宰治の辞書」 北村薫   創元推理文庫   ★★★★★

「花火」「女生徒」「太宰治の辞書」に、短編「白い朝」、エッセイ「一年後の『太宰治の辞書』」「二つの『現代日本小説大系』」を加えた文庫版。

もともと文庫でそろえていたシリーズですが、単行本が出たときに「また読めるなんて!」という喜びのあまり、そして東京創元社は文庫化が遅いので、単行本を買ってしまったのですが・・・こんなに早く文庫化されるとは(苦笑) しかも、短編とエッセイが増えてる・・・買うしかないじゃないですか。

初読のときは、17年の歳月を経て物語に再会できたことがうれしくて、若干エモーショナルな気持ちで読んでいたようで(苦笑) 今回は、わりと冷静に読めました。

事件らしい事件は起こらず、まさに「日常の謎」。これは、気づけば日常はいろいろな謎に満ちている・・・という、作者の姿勢を表しているものです。ほとんどの人はただ通り過ぎてしまうことに目を留め、立ち止まり、どういうことだろうと考える。調べて、確かめて、明らかにする。そこにミステリは成立するのだという。私たちの日常は「謎」にあふれているのです。

主人公の「私」は、以前から「謎」に気づく資質のある人でした。では、その「謎」にどう向き合うか。どう紐解くか。それを教えてくれたのが、円紫さん。時が流れて、「私」は自分で謎を見つけ、解き明かすすべを身につけ、円紫さんはさらに新たな謎を提示する存在へと変化しています。その変化に17年の重みを感じるのです。

文庫解説は米澤穂信さん。これがまたいい。シリーズを愛し、北村薫作品を愛している方の、実に至言ともいうべき解説です。これだけでも、読む価値はあります。

外連味たっぷりのミステリも好きですが、その対極にあるような「日常の謎」もやっぱり好きです。また何年か経って、「私」と円紫さんに会えたらうれしいです。

2017年10月27日 (金)

追想五断章

2657「追想五断章」 米澤穂信   集英社   ★★★★

大学を休学して、古書店を営む叔父のもとに身を寄せた菅生芳光は、亡父の書いた5編の小説を探してほしいという女性・北里可南子と出会う。報酬目当てに、叔父に内緒で依頼を受けた芳光は、細い糸を手繰り寄せるようにして、小説を探し出すが・・・。

「米澤穂信と古典部」を読んで、気になった本です。

米澤作品は、いつのまにか恐ろしい世界に引きずり込まれる印象があって、警戒していたのですが(笑)、やっぱり気になって。

これ、あの「ロス疑惑」を下敷きにしているのですね。当時のマスコミの狂奔ともいえる凄まじさは記憶に生々しいです。それをリアルに記憶している世代としては、この物語の骨格がすごく説得力がありました。

それから、バブルがはじけた直後の不況。そのあおりをまともに食らった芳光の境遇、彼につきまとう重苦しい雰囲気も、リアルでした・・・。

可南子の父が書いたという掌編が物語の中で明らかにされていき、それが一つの事実を指し示すわけですが・・・胸がふさがるようなこの感じ、また米澤さんにやられちゃったなあ、と苦笑い。

いろんなピースがピチッとはまっていくようなミステリでした。

2017年10月26日 (木)

脳天気にもホドがある

2656「脳天気にもホドがある」 大矢博子   東洋経済新報社   ★★★★

「夫が脳出血で倒れ、右半身の自由と言葉を失いました」・・・40代で脳出血を発症した夫との二人三脚リハビリ日記。ただし、「愛と涙と感動」の体験記ではありません。

副題「燃えドラ夫婦のリハビリ日記」

信頼している書評家さんの一人である大矢博子さんが、こんな本を出されているのを知りませんでした。

図書館で偶然みつけて、初めの数ページを読んで、あまりのおもしろさにそのまま借りてきました。

夫が(あるいは自分が)いきなり病に倒れたら、どうするんだ?というのは、考えないでもないわけですが、この本には、そんなときに大矢さんのとった行動が、客観的に記録されています。症状について調べ、後遺症やリハビリについて知識を得て、役所や保険の手続きをして。そういうときに、どのような支援が受けられるのかとか、こちらが知りたいことがしっかり書いてある! ものすごいお役立ち本です。

とはいえ、何より、おもしろいのです。何度笑ったことか・・・。人様の病気で笑うなんて不謹慎なと思われるかもしれませんが、おもしろいのです。大矢さんが「お涙ちょうだい」的なことを書く気がさらさらないので、こうなるのでしょうけれど。とにかく、二人とも前向き。そして、それは「がんばるぞー!」的なものではなくて。

「夫にも私にも『好きなこと』があります。そして、病気になったからといって、ふたりともそれを我慢しなかった。」

この言葉に象徴されるお二人のリハビリ生活。ドラゴンズ愛と、だんなさまの「テツ」っぷりが、しんどい状況を前向きに生きていく「力」になったことが、よくわかります。これ、すごく大事だな~。

自分の生き方というか、意識の持ち方を、ちょっと考えさせられました。

2017年10月25日 (水)

涙香迷宮

2655「涙香迷宮」 竹本健治   講談社   ★★★★

若き天才囲碁棋士・牧場智久は、知人に誘われ、黒岩涙香の「隠れ家」とおぼしき屋敷跡を訪れる。そこには、涙香の「暗号」が残されていた。暗号に挑む智久だったが、台風に見舞われ、集まった一同は足止めを食らってしまう。そして、事件が・・・。

第17回本格ミステリ大賞受賞作。

黒岩涙香という人物に少々興味があったのと、「綾辻行人・恩田陸・京極夏彦 絶賛!!」とあったのとで、これは絶対読まねばと決めていました。

博覧強記といった人物を扱うには、作者にもそれと同等かそれ以上の知識と能力が必要なのだな~と、しみじみ感じたミステリでした。

とにかく、暗号。これ、すごいです。もちろん、竹本さんが作ったのですよね。すごすきます・・・(語彙力死んでます)。もう、ついていくのに必死でした。というか、ついていけてませんでした(涙) もう、最後の方は、「智久、早く解いてくれ」って感じで。暗号と言っても、そのスケールの大きさと仕掛けの複雑さがすさまじいです。完全にお手上げでした。

それに、連珠(かんたんに言うと、五目ならべ)の知識。囲碁も将棋も全くわからない私には、棋譜を見ても何のこっちゃ・・・なのですが、これも作者が作ってるんですよね。いったいどういう頭脳をもってるんだ・・・。

さらに、「嵐の山荘」の趣向も取り入れて。冒頭、智久がたまたま遭遇した事件も絡んできて、なんて贅沢なミステリ!

というわけで、「本格ミステリ大賞」、さもありなん、という作品でした。圧倒されました。

巻末には他の竹本作品の「著作ガイド」があって、これがとてもよかったです。「涙香迷宮」の探偵役・牧場智久と彼女の類子って、ほかにも出てくるのかな?と思って読んでましたが、当たりでした。三部作になってるんだ~、そうか~。

2017年10月23日 (月)

この世の春

2654「この世の春(上・下)」 宮部みゆき   新潮社   ★★★★★

各務多紀は、嫁ぎ先を不縁となった後、北見藩作事方だった父の隠居所で、父の世話をしながら静かに暮らしていた。ある夜更け、子供を抱いた女が駆け込んできたときから、多紀は大きな運命の中に投げ出された。藩主・重興が隠居させられるという大事件ののち、多紀は病の重興の側に仕えることに。重興がいるはずの座敷牢から聞こえる奇妙な声。多紀たちが直面したのは、信じられないような事実だった。

宮部みゆき作家生活30周年記念作品。

しかし、「サイコ&ミステリー」で時代物って、ちょっと盛りすぎじゃあ・・・と思っていたのですが、さすがは宮部さん。見事に料理されてました。

故あって若くして隠居の身とさせられた北見藩藩主・重興。なぜ彼が藩主の座を下ろされたのか、彼がそうなってしまった原因は何なのか。その謎を解いていく物語です。

その中心にあるのは、いろいろな要因が絡み合って、重興に仕えることになった多紀。元・江戸家老の石野織部、多紀の従弟・田島半十郎、医師の白田登らと共に、重興の心の闇に分け入っていくと、見えてきたのは十六年前のすさまじい悪意だった・・・。

多紀が重興と出会うまででもけっこうな経緯があるのですが、それを物語としてわかりやすく、かつ興味深く編んでいく手腕は、もうさすがとしか言いようがありません。そして、いざ重興が登場してからは、物語は二転三転・・・。いやもう、ひたすら夢中になって読み続けました。

人の悪意や憎悪は、それが向けられた相手を壊すことが可能で。実際に重興は壊されてしまったわけで。それでも、重興を守ろう、助けようとする多紀たちのまっすぐな心が(彼らもまた、傷を負っているのだけど)、確かに重興に戦う力を取り戻させたのです。そして、そんな多紀たちをさりげなく支えているのが、陰日向なく働くおごうやお鈴の素朴な心根や、日常の営みだというところが、実に宮部さんらしくて好きでした。

起こってしまったことはなかったことにはできないけれど、後悔も悲しみも抱えて歩き出すことはできるのだ。最後の一文を読んだときに感じたことです。

デビュー以来、ずっと読み続けてきた宮部作品。「我らが隣人の犯罪」から始まって、「パーフェクト・ブルー」「ステップファザーステップ」「火車」「模倣犯」「小暮写真館」「ソロモンの偽証」など、その時々で心に残った物語がたくさんあります(好きな作品を挙げたら、10本の指では足りません)。それらの作品が積み重なってきて、到達したのが「この世の春」であるような気がします。なんというか・・・感無量です。

余談ですが、今年は綾辻行人「十角館の殺人」から30年。ということは、30年前は、新本格ミステリがのろしを上げ、一方では宮部みゆきというその後ずっとトップを走り続ける作家が世に出たわけで。その当時、学生だった私は、毎日いろんな書店に入り浸り、幸せな時間を過ごしていたのでした。私の現在の読書の「核」は、間違いなくあの頃に形成されたものです。

2017年10月21日 (土)

米澤穂信と古典部

2653「米澤穂信と古典部」 KADOKAWA   ★★★★

「古典部」シリーズファンのためのムック。

著者インタビュー、対談集、「古典部」ディクショナリーなどなど。書き下ろし短編「虎と蟹、あるいは折木奉太郎の殺人」も。

書店で見たら、買わずにはいられませんでした。だって、対談のお相手が、北村薫、恩田陸、綾辻行人、大崎梢って・・・なんでこちらの好みど真ん中の人選・・・。書き下ろしはもちろん読みたいし、著者によりシリーズ全解説ってのも気になるし。

古典部ファンにとっては文句なしにおもしろいし、米澤穂信ファンにとってもおすすめです。「古典部」以外にも触れている部分がけっこうあります。

米澤さんにとっての「古典部」の位置づけとか、なるほど~という感じでした。講演録もあって、米澤さんの考える「物語」というのが、よくわかります。

私としては、古典部四人の「本棚」が、けっこうツボでした。ああ、たしかにこれ、奉太郎が読んでそうだよね、とか。

しかし、これ読むと、古典部シリーズ再読したくなって困ります。(もうすでに2~3回は読み返してる)

できれば、対談はいつのものなのか明記してほしかったなあ。

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