2017年5月25日 (木)

バベル九朔

2583「バベル九朔」 万城目学   角川書店   ★★★

雑居ビルの管理人をしながら作家を目指している俺は、ある日突然、とんでもない出来事に巻き込まれてしまう。これは、夢か、現実か。俺ができることとは・・・。

万城目さんの10周年記念作品(?)。

いつも万城目ワールドには翻弄されます。どうしたらこんな話を思いつくんだ?と思いながら、その世界を堪能していたのですが・・・。今回は、ちょっとついていけないというか、振り回されっぱなしで終ってしまった感じでした。

う~ん、設定はじゅうぶんおもしろそうだったのですが。世界観をつかみきれなかったというか。体調いまいちのときに読んだのもよくなかったかも。

もっとも、万城目さんは一作ごとに物語の世界が広がっていく感じなので、おいていかれないように追いかけたいと思います。

2017年5月21日 (日)

今だけのあの子

2582「今だけのあの子」 芦沢央   創元推理文庫   ★★★★

一番の親友だと思っていた。それなのに、どうして私にだけ結婚式によばれない・・・。彼女への不信感が頂点に達したとき、明かされた真実とは。

女の友情をテーマにしたミステリ短編集。

「届かない招待状」「帰らない理由」「答えない子ども」「願わない少女」「正しくない言葉」の5編。

ツイッターで高評価が続いていたので、読んでみました。当たり、でした。

女の友情という言葉から単純に連想されるドロドロ感はありません。というか、どの物語も、最後にきれいにひっくり返されます。

冒頭の「届かない招待状」が一番印象的。もう最悪のパターンを予想させる展開なのですが・・・。一応、ミステリなのでネタバレ厳禁ということで、ここまで。

とにかく、いわゆるイヤミスではありません。ほろ苦さも残しつつ、そのときどきの「女の友情」がみごとに描かれています。

5編がリンクしていて、「あ!あの人がここに・・・!」という楽しみもあります。

2017年5月17日 (水)

何様

2581「何様」 朝井リョウ   新潮社   ★★★★

直木賞受賞作「何者」のアナザーストーリー。

「水曜日の南階段はきれい」「それでは二人組を作ってください」「逆算」「きみだけの絶対」「むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった」「何様」の6篇。

残念ながら「何者」のストーリーをあらかた忘れてしまったので、アナザーストーリーというよりは、青春もの短編集といった感じで読みました。

朝井リョウって、こういう断片を切り取るのがうまいんだなあ、というのが感想。今まで長編しか読んでなかったので、ちょっと意外な感じでした。

「水曜日の~」が一番好きだったかな。こういう純粋さ、嫌いじゃないです。

2017年5月16日 (火)

たてもの怪談

2580「たてもの怪談」 加門七海   エクスナレッジ   ★★★

家が欲しい・・・以前からそう思っていた筆者が、家を買い、そして何者かたちもすみつくまでの顛末を描いた「引越物語」をはじめとした、たてものにまつわる実話怪談集。

今年の四月に、新築一戸建てに引っ越した身としては、こういうのを読むのは微妙だなあと思いつつ、加門さんの実話怪談は好きなので、ついつい手を出してしまいました。

そうかあ・・・。住む人によって、寄ってきちゃうんですね。怖いなあ。

でも、一番怖かったのは、「道の話」。以前、ほかの本に収録された話の「その後」。ひええ、続きがあるんだ・・・。っていうか、今度こそこれで終わりになってほしいのですが。

いつもながら、加門さんの非常事態の妙な落ち着きっぷりというか、冷静な対応は、さすがでございます。

2017年5月14日 (日)

やがて海へと届く

2579「やがて海へと届く」 彩瀬まる   講談社   ★★★★

すみれは、旅に出たまま帰ってこなかった。たぶん、あの大きな地震のせいで。彼女を失ったことをうまく受け入れられないまま、もう3年が過ぎた。それは、すみれのことを忘れないための時間だった。

あの震災のとき、東北に一人旅に出ていて被災した彩瀬まるさん。その体験なくしては書かれなかっただろう物語です。すみれは、もしかしたらそうなったかもしれない、もう一人の彩瀬さんなのかもしれません。

すみれの友人・真奈は、すみれを忘れないために生きているような、そんな息苦しささえ感じさせます。遺品を整理しようとするすみれの恋人・遠野に苛立ち、すみれを死んだものとして扱うすみれの母に嫌悪感を覚え。遠くの町で、一人ぼっちで死なせてしまった友人のことを、覚えていなくてはいけない、忘れてはいけない、と。

物語は、真奈の視点と、すみれと思われる死者の視点とが交互に展開します。どちらも痛々しいのだけれど、真奈は、徐々に変化していきます。いろんな人たちとの関わりの中で。その中で、真奈を無意識に支えているのが、すみれの言葉だったりするのが、とてもいい。一方、すみれは・・・歩いて、歩いて、ある場所にたどりつきます。

うまく表現できないのですが、ラストで、涙があふれました。そうであればいい、と。すみれも、震災で亡くなったあの人たちも、そうだったならいい、と。

帯に「喪失と再生の物語」とあります。言葉にしてしまうとそうなるのですが、静かで、それでいて生々しいこの物語は、そんなふうにくくられるのを拒んでいるような気がしてなりません。

2017年5月13日 (土)

うめ婆行状記

2578「うめ婆行状記」 朝日新聞出版   ★★★★

北町奉行所同心の夫を亡くしたうめは、念願の一人暮らしを決行した。気ままな生活ができると思いきや、甥の隠し子騒動が起こり・・・。

宇江佐真理さん、未完の遺作です。

読むのがもったいないような気がして、なんとなく手にとれずにいましたが、とうとう読んでしまいました。

大店の娘で、何不自由なく育ったうめ。同心の三太夫に嫁にと望まれ、断りきれずに武家に嫁いだものの、幸せを実感することもあまりなく、夫の死後そうそうに家を出てしまう。町屋で気楽な一人住まい・・・と思ったら、そういうわけにもいかなくて。

一人で、自由気ままな生活に憧れるという気持ちは想像できます。うめの場合、裕福な生まれだったから、それを実行に移すことができたわけですが。しかし、一人になったらなったで、家財道具をそろえるにもひと苦労。もともとがお嬢さん育ちなので、知らないことも。あげく、いつまでも独り身なのを案じていた甥っ子には、隠し子がいることが判明して、大騒ぎ。

うめは、決して「いい人」ではありません。どこにでもいる、普通のおばさん。でも、自分の気持ちに正直で、なんとも愛らしいところのある人です。彼女のまわりに起こるあれこれは、私たちの日常となんら変わりなく。・・・ああ、宇江佐ワールドだなあと、しみじみ。

未完とはいえ、物語は終わり近くまで書かれていました。不思議と、「置いていかれた」という気はしなくて、この後のうめの人生は、私たち読者に委ねられたように思います。

2017年5月12日 (金)

貴族探偵

2577「貴族探偵」 麻耶雄嵩   集英社文庫   ★★★★

事件の調査や推理は執事やメイドら使用人まかせ。いわく「雑事は使用人に」。事件あるところに現れる彼は「貴族探偵」。

ドラマは見てないのですが、原作を読んでいる方々に支持されているという珍しい現象に興味をもって、読んでみました。

何も知らずに読んだら、「何じゃこれ」と思ったかもしれません。が、「何もしない」探偵という設定を知っていたので、おもしろく読めました。

「ウィーンの森の物語」「トリッチ・トラッチ・ポルカ」「こうもり」「加速度円舞曲」「春の声」の5編。

いずれも、いかにも「推理小説」といった趣向で、ミステリ読みの楽しさを堪能させていただきました。何もしない探偵ってどうよと思っていたのですが、彼の存在感が物語世界を構築してますねえ。

もう一冊の「貴族探偵対女探偵」も買っておけばよかった~。

2017年5月 9日 (火)

『レ・ミゼラブル』の世界

2576「『レ・ミゼラブル』の世界」 西永良成   岩波新書   ★★★

ユゴーの名作を、その成立過程や歴史的背景を説明しつつ、作品にこめられた思想を読み解く、作品解説。

読んだことがあるのは、子供向けの「ああ無情」だけ。あとは、帝劇ミュージカルを1回。それから、先日BSで放送された映画を。私の「レ・ミゼラブル」体験はそれくらいです。とは言え、あのミュージカルの音楽のすばらしさに圧倒され、いつかは原作を読みたい!と思っていました。

去年、相方が古本市で購入した岩波文庫版は全5冊。さすがに手を出せずにいましたが、安易に読まずに正解でした。どうやら、原作はとっても長大で、しかも複雑で、難解な代物であるらしい。これは、そういう「レ・ミゼラブル」のガイドブックともいうべき本です。

物語の概要やユゴーの政治的理念、主人公・ジャン・ヴァルジャンとはどういう人物か、そしてユゴーの思想。少しでもあの大作を理解できるよう、かなりわかりやすく解説してくれています・・・が、それでも難しかったです(苦笑)

ミュージカルと、それを下敷きにした映画は、ストーリーとしてはかなり大雑把に、大事なピースだけをつないだものだということがわかりました。

読んで驚いたのは、ガブローシュがテナルディエ夫婦の息子だということ(知らなかったのは、私だけ?)。それから、マリウスが作者ユゴーの投影だということ。

ほかにも、ナポレオンがどれだけ影響を与えたかなど、「へえ、そうだったのか」なことがたくさんでした。

しかし、これで原作を読む気になったかは・・・微妙です。

2017年5月 6日 (土)

よっつ屋根の下

2575「よっつ屋根の下」 大崎梢   光文社   ★★★★

勤務先の病院の不祥事を告発しようとして地方に左遷された父。しかし、母は東京から離れることを頑として拒んだ。二人の子どものうち、兄は父についていき、妹は母とともに東京に残った。四人それぞれの思いは・・・。

東京で何不自由なく暮らしていた一家を突然襲った激震。父の左遷をきっかけに、家族はバラバラになってしまう。

父について銚子に引っ越した兄・史彰の視点の「海に吠える」。父・滋が、妻との出会いを回想する「君は青い花」。母・華奈が自分の生い立ちを振り返る「川と小石」。妹・麻莉花の心の揺らぎを描いた「寄り道タペストリー」。そして、「ひとつ空の下」。

四人がそれぞれに思い悩みながら過ごした数年間が、それぞれの視点で描かれます。初めは、史彰に感情移入してしまって、母の華奈が理解できませんでしたが、華奈視点の「川と小石」を読んで、それがガラリと変わりました。なんと強い呪いをかけられていたのだろう、しかも二重三重に。自分でもわからないほどに縛られていた華奈が、もしかしたら一番苦しんでいたのかもしれない。そんなふうに思えました。

四人は、彼らなりの「家族」の形を見出します。それは、他人には理解できないかもしれないけれど。でも、それが、一人ひとりが、自分らしく生きていく最良の方法なのだと、すごく納得できました。

大崎さんの書くものは好きですが、今まで読んだ中で、これが一番好きかもしれません。

2017年5月 5日 (金)

慈雨

2574「慈雨」 柚月裕子   集英社   ★★★★

警察を定年退職した神場は、妻の香代子とともに、四国八十八箇所のお遍路の旅に出る。そのころ、16年前の幼女殺害事件と酷似した事件が発生。神場は16年前の苦い記憶を噛み締めつつ、巡礼を続ける。それは、彼の人生をたどる旅でもあった。

初読みです。岩手県出身の作家さんということもあり、何かと目にする機会は多いのですが、今まで手を出せずにいました。が、これはツイッター等でもかなり高評価だったので、じゃあ読んでみようかな、と。

ずっしりと重いテーマですが、刑事として生きた一人の男が、その人生を全うせんとするドラマです。決して平坦ではなかった人生をたどるようなお遍路の道。同時進行で展開する幼女殺害事件の捜査。そして、16年前の過ち。それらが見事に絡んで、人間の生き様を描き出します。

読み終えて、「慈雨」というタイトルが、胸にしみました。

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