2017年4月22日 (土)

ツバキ文具店

2566「ツバキ文具店」 小川糸   幻冬舎   ★★★★

鎌倉にある小さな文具店の店主・雨宮鳩子。先代である祖母から受け継いだのは、文具店と代書屋の仕事。今日も、鳩子のもとには思いを抱えた依頼人がやってくる。

ああ、私のまわりにもこういう代書屋さんがいないかな~・・・などと思いながら読んでいました。書くことは嫌いではないのですが、字が汚いもので・・・。

それはさておき、本屋大賞候補作も納得の、すてきな物語でした。

鎌倉の季節の移り変わりを背景に、一風変わった代書の依頼を通して、人と人との関わりが描かれていきます。主人公の鳩子も先代(祖母)との確執があり、どうしようもない後悔を抱えているのですが、徐々にわだかまりは消えていきます。それは、先代が道をつけてくれた代書屋という生き方が、鳩子を導いてくれたかのようで。

鳩子に書を仕込んだ先代の教育は、とてもとても厳しく、鳩子はそれに反発するのですが、先代は自分にできる精一杯のことをしてくれたんだろうな。口先できれいごとを唱えるのではなく、自分がもっている全てを、孫に受け渡すような。鳩子が生きていけるように。それが本当に鳩子に伝わったとき、鳩子は本当の「自分の字」を書けたんでしょうねえ。

派手さはないけれど、しみじみ、いい話でした。

2017年4月21日 (金)

罪の声

2565「罪の声」 塩田武士   講談社   ★★★★

父の遺品らしき古いカセットテープから流れてきたのは、幼い日の自分の声だった。それは、昭和史に残る「ギン萬事件」の犯人が使用したもの・・・。自分と家族は、あの事件の加害者だったのか? 京都でテーラーを営む曽根俊也は、ありえない現実に驚愕する。

昨年の夏、「文庫X」を仕掛けた盛岡さわや書店さんが、次に読むならこれ!とお勧めしていたので、気になっていました。フィクションですが、あの「グリコ・森永事件」を題材にした社会派ミステリ。極力、実際にあった事件の状況に沿って構成されていて、フィクションとわかっていても、これが真実なのではないかというすさまじい臨場感と迫力で読ませます。

物語は、自分の声が犯罪に利用されたことを知った曽根俊也のサイドと、文化部記者ながら「ギン萬事件」の再検証記事の取材に駆り出された阿久津英士のサイドから語られていきます。

全く別の動機から始まった二人の「過去」の追及は、やがて交差し、影響を与え合い、「現実」から「未来」へと視点を変えていく。この流れが実に見事で、実際の「グリコ・森永事件」も、確実に子どもを巻き込み、その人生に影を落としたのだろうと納得できます。

犯罪をおかして幸せになる人はいないし、犯罪者が裁かれないことはさらなる不幸を生むのだということをあらためて考えさせられました。

本屋大賞の候補にもなったようなので、これを契機にさらに多くの人に読まれることを期待する一冊です。

2017年4月19日 (水)

オーブランの少女

2564「オーブランの少女」 深緑野分   東京創元社   ★★★★

美しい庭園オーブラン。そこには、秘められた過去があった。集められた病や障害をもつ少女たち。謎めいた規則。外の世界から完全に隔絶された彼女たちを待っていた運命は・・・。

遅ればせながら、深緑野分デビュー作です。

「オーブランの少女」「仮面」「大雨とトマト」「片想い」「氷の皇国」のミステリ5編。

秀逸なのは、やはり表題作。物語の始まりからいろんな謎がちりばめられていて、それが思いもしない形で解き明かされていきます。その謎解きの方向性の意外さと、描写のすさまじさで、読み終えてしばらくぼうっとしてしまいました。

どの作品も「少女」に焦点があたっているのですが、彼女たちのしたたかさやはかなさ、その年代ゆえの強烈な個性が印象的な作品ばかり。

「戦場のコックたち」を読んで、これはすごい!と唸らされたのですが、デビュー作からじゅうぶんすごかったです。

2017年4月17日 (月)

アンと青春

2563「アンと青春」 坂木司   光文社   ★★★★

デパートの和菓子店でバイトをしている杏子。周りにも恵まれて、順調に仕事をしているようでいて、バイトという身分に不安を感じることも。そして、今日もまた杏子のもとに、小さな謎が・・・。

「和菓子のアン」の続編。久しぶりの坂木さんです。

「空の春告鳥」「女子の節句」「男子のセック」「甘いお荷物」「秋の道行き」の5編からなる連作短編。

杏子はじりじりとだけど、成長してますねえ。しっかりしてきたなあと思うことがたびたび。いまいち自分に自信はもてないけど、根が素直な彼女には、好感がもてます。そして、彼女に好感を抱いているのは読者だけじゃないようで・・・?

ただ、「甘いお荷物」は、ちょっと読んでて微妙でした。ネタバレになるので、ここでは書きませんが・・・そういう考え方もあるんだろうけどなあ。もっとも、自分に子どもがいないからそう思うだけかもしれませんが。

さらなる続編、楽しみです。(まさか、ここで終りませんよね)。

2017年4月15日 (土)

また、桜の国で

2562「また、桜の国で」 須賀しのぶ   祥伝社   ★★★★

第二次世界大戦直前のポーランドに赴任した外務書記生の棚倉慎は、戦争を回避するため、何より日本とポーランドの友好のために働いていた。しかし、ナチスドイツはポーランド侵攻をはじめ、国土は蹂躙される。友との約束を果たすべく、慎がとった行動は・・・。

直木賞候補作でしたね。読み応えありました。

ポーランドの歴史については、恥ずかしながらほとんど知りませんでした。これだけ周りの国々に裏切られ続け、何度も国土を失った歴史があったなんて。

主人公・棚倉慎は、白系ロシア人を父にもつ日本人。その生い立ちと、幼い頃偶然出会ったポーランド人の少年・カミルとの出会いが、慎の人生を決定付けます。外交の最前線で、後半は戦闘の最前線で、慎は果たして自分の信念を貫くことができるのか・・・。

慎の生き方は見事です。しかし、その結末はやはり悲しい。全編を通して流れる「革命のエチュード」が、印象的でした。

2017年4月13日 (木)

家康、江戸を建てる

2561「家康、江戸を建てる」 門井慶喜   祥伝社   ★★★★

天正十八年。家康は父祖の地を捨て、関八州への国替えを余儀なくされた。しかし、それは家康にとって新たな挑戦の始まりであった。

おもしろい。この物語の構成が、実におもしろいのです。

「流れを変える」「金貨(かね)を延べる」「飲み水を引く」「石垣を積む」「天守を起こす」の5話を通して、治水工事上水道工事、貨幣経済への転換など、江戸が天下の町に変貌していく過程が描かれます。家康も随所に顔を出しますが、主人公になるのは実際に工事等に携わった名もない(あるいは歴史上あまり有名でない)人物。

何もない土地どころか、低湿地が広がる不毛の地だった江戸が、少しずつ都市としての機能を有していき、時代が移り変わっていく様子が、実によくわかるのです。

もちろん、そこに関わった人々の生き様も、生き生きと描かれています。

こういう角度から「江戸」を見るというのは、新鮮な感覚でした。

2017年4月11日 (火)

教場2

2560「教場2」 長岡弘樹   小学館   ★★★★

わずか6ヶ月の訓練で現場に出て行く警察官たち。鬼の教官・風間の教場に編入させられた彼らは、過酷な訓練の中で、警察官としての己の適性に向き合うことになる。果たして、彼らは無事に卒業できるのか。

「教場」の続編。これも文句なしにおもしろかったです。

「創傷」「心眼」「罰則」「敬慕」「机上」「奉職」の6編。

警察官とはいえ、生身の人間であり、試験に受かっても適性があるとは限らない。風間教官に退校届を渡されて1週間がリミット・・・という極限状態におかれたときの心理描写が読ませどころです。

今回は、元医者という変り種の桐沢や、逮捕術で相手に手を上げることがどうしてもできない美浦など、個性的な生徒たちが登場します。そして、それを上回る存在感の風間教官。なんでも見透かしてしまうような教官と、ひよっこたちとの真剣勝負は、スリリングで読み応えあります。

できることなら、さらなる続編をお願いしたいものです。

2017年4月10日 (月)

みんなの怪盗ルパン

2559「みんなの怪盗ルパン」 小林泰三・他   ポプラ社   ★★★

小林泰三「最初の角逐」、近藤史恵「青い猫目石」、藤野恵美「ありし日の少年ルパン」、真山仁「ルパンの正義」、湊かなえ「仏蘭西紳士」の5編を収録した、「怪盗ルパン」オマーシュ・アンソロジー。

小学生の頃、ルパンものを読み漁ったものでした。なつかしい・・・。その記憶がよみがえってくるような5つの作品。

私にとってのルパンのイメージはやはり「怪盗紳士」で、そういった意味では、湊さんの「仏蘭西紳士」が一番好みでした(もっとも、この物語では、ルパンは探偵役ですが)。それから、近藤さんの「青い猫目石」も、ルパンもののテイストが横溢していて、好きでした。

ルパンとホームズどっちが好きかというのは、昔から論争があるようですが、私はかつて断然ルパン派でした。その後、ホームズもののおもしろさにはまりましたが、最近はどちらも読んでいませんねえ。

2017年4月 9日 (日)

玉依姫

2558「玉依姫」 阿部智里   文藝春秋   ★★★★

かつて、祖母は母を連れて、その村を飛び出したという・・・。山内村を訪れた志帆は、村松祭りの晩、生贄として山神に捧げられるはめに。逃げようとする志帆をとめたのは、奈月彦と名乗る青年だった。奈月彦は、志帆に山神の母となるように諭すのだった。

シリーズ5作目は、エピソード0とも言うべきもの。今まで舞台になってきた異世界ではなく、現代日本がスタート地点です。

主人公は、普通の高校生の志帆。ちょっと度が過ぎるお人よしなところのある彼女は、生贄の儀式に巻き込まれ、そのまま、山神の母として山の禁域で生活することに。そこから物語は二転三転していくわけですが・・・。

金烏としての過去の記憶を失った奈月彦も登場して、過去の金烏と山神や猿との間に何があったのかも徐々に明らかになります。シリーズのスピンアウトのようでいて、中核に触れる大事な物語です。

それにしても、志帆(もしくは玉依姫)のたくましさには参りました。シリーズ第1作の女子たちのたくましさをちょっと思い出しましたよ。

そして、夏には続編が!しかも、「第1部完結編」って! まだまだ続くのですね、このシリーズ。物語を読む楽しみを存分に味わわせてくれるこのシリーズが大好きなので、続くのはうれしいかぎりです。

2017年4月 8日 (土)

錆びた太陽

2557「錆びた太陽」 恩田陸   朝日新聞出版   ★★★★

原発事故で汚染された区域で働くヒューマノイドたち。「ウルトラ・エイト」と呼ばれる彼らのもとを、一人の女が訪れた。彼女の目的はいったい何なのか。

直木賞受賞後、これで三冊目ですよ、恩田さん。うれしい悲鳴とともに、お財布も悲鳴をあげてます(苦笑)

今回は、一応SFもの。原発の老朽化が進み、あちこちで事故が多発。各地に立入制限区域ができてしまっている近未来の日本が舞台。北関東の制限区域にいる「ウルトラ・エイト」と呼ばれる人型ロボットたちのもとに、国税庁の財護徳子という女が現れる。「人間を守らなければならない」という原則に従い行動するロボットの「ボス」たちだったが、事態は思わぬ展開を見せ・・・というお話。

設定はヘヴィですが、恩田さんのサブカルチャー趣味が随所にちりばめられて、クスッとさせられます。それに、汚染区域でのあり得ないような動植物の進化(?)のイメージには圧倒されました。作家の想像力ってすごい・・・。

ただ、これが単に笑える話でないということは、我々にはよくわかります。実際に、日本で起こったことであり、これから起こり得ることであり、もしかしたら起こっていることかもしれない。冗談のような話だけれど、もはや我々はこれを単なる作り話とは言い切れない世界に生きているのだということを、実感させられました。

この本、装丁もおもしろいです。図書館ではどうするんでしょう。帯も絶対捨てられません。が、帯をとらないと見えない部分もあるし。うーん。そして、初版には恩田さんのメッセージカード付き。買うしかないですよね。

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