2022年9月11日 (日)

レジェンドアニメ!

3288「レジェンドアニメ!」 辻村深月   マガジンハウス   ★★★★

たかがアニメ、されどアニメ。アニメ作りに携わる有科香屋子、斎藤瞳、並澤和奈を中心にした「ハケンアニメ!」スピンオフ短編集。

 

「九年前のクリスマス」「声と音の冒険」「夜の底の太陽」「執事とかぐや姫」「ハケンじゃないアニメ」「次の現場へ」の6話。

実は、「ハケンアニメ!」、すっかり内容を忘れていました。自分の感想を読み直しても、「あ~、なんか思い出した・・・か?」という感じ。それでこれを読むのは早まったか?と不安になりましたが、恐る恐る読んだら、これが面白い。いや、本編を読み直していれば、もっと面白かったと思うのですけれど(苦笑)

ものすごく好きだったのは「声と音の冒険」。アニメ監督王子千晴の若き日を、音響監督五條の目を通して描いた話。こういう才能あるゆえに生意気な若造が失敗して、そこから学んでいく話が大好きなもので(笑)

それから、「ハケンじゃないアニメ」もよかったです。ずっと続いている子ども向けアニメに携わる人たちの話。長く続くことの意味。そして、繋げていく意味。「声と音~」もそうだけれど、若手ではない方の立場のあれこれが身に染みるお年頃になりました(笑)

どの話も読み終えると不思議とこちらにもエネルギーが満ちてくる感じがして、実に心地よかったです。一気読みしてしまいました。

 

2022年9月 6日 (火)

女人入眼

3287「女人入眼」 永井紗耶子   中央公論新社   ★★★★

源頼朝は鎌倉と朝廷の結びつきを強めるために、長女・大姫の入内を強く願い、その妻・政子は、許嫁の義高の死後鬱々としている娘の気が晴れようと、やはり入内を望んでいた。入内に備え、指南役として丹後局から遣わされた「衛門」こと周子(ちかこ)。彼女は、幕府政所の長官・大江広元の娘であった。鎌倉に下向した周子だったが、大姫とは全く心が通わない。困惑する周子は、政子や比企尼ら、大姫周囲の人々と接しながら姫の本意を探ろうとするが・・・。

 

大姫入内を軸にした歴史もの。直木賞候補作になりました。「鎌倉殿」視聴者としては外せないでしょう。大河では大姫のくだりはすでに終わってしまいましたが、義高との交流と彼の悲劇的な死、その後の大姫の姿は鮮明に記憶に残っています。

物語は、京から来た周子の目を通して紡がれていきます。父・大江広元は鎌倉に下ってしまい、京に残った周子は丹後局のもとで、女主人のような生き方に憧れています。しかし、不意に下った鎌倉行きの命。それは、大姫入内の下準備をするため。京とは全く異なる「鎌倉」で、周子の孤軍奮闘が始まります。

大姫入内を画策したのは史実ですが、誰が何を思っていたのかはわかりません。それを、周子という一人の女性の視点で描いていく過程で、それぞれの「女性」たちの生き様が力強く描かれます。例えば、丹後局や比企尼。比企尼の娘の川越尼。彼女の口を通して語られる義経の正妻と静御前。そして、大姫とその母・政子。

政子はかなり強烈な女性として描かれていて、今で言う「毒親(この言葉は好きではないのですが)」でしょうか。最終的に周子にとっての大きな敵となる政子こそ、『女人入眼』を成し遂げる人なのですが・・・。彼女はその強さゆえに子どもたちを失うわけで。是非の問題ではなく、それもまた一つの生き方と感じさせる物語の余韻が忘れられません。

「鎌倉殿」の政子とは全く違うタイプの政子ですが、そんな彼女と北条義時の関係性や、義高の従者として木曾から来て、主人の死後鎌倉に仕えた海野幸氏の役回りもドラマティック。それから、冷静沈着な大江広元が周子に見せる「父としての顔」もツボでした。

2022年9月 3日 (土)

入れ子細工の夜

3286「入れ子細工の夜」 阿津川辰海   光文社   ★★★

ベテラン小説家のもとを訪れた新人編集者。作品を提供する代わりに、小説家はある提案を。小説家の考えるプロットを二人で演じてみよう、と。編集者はとまどいながらもその提案を受け入れる。しかし、二人芝居は思わぬ展開を見せ・・・。

 

「危険な賭け~私立探偵・若槻晴海」「二〇二二年度入試という題の推理小説」「入れ子細工の夜」「六人の激昂するマスクマン」の4編を収録したノン・シリーズ短編集。

ずっと気になっていた作家・阿津川辰海、ようやく読みました。なるほど。こういう感じなのですね。帯のキャッチコピーがすごい。『謎と論理に捧げられた、瑞々しくも偏執的な、四種の供物」。まさに。

あとがきで、それぞれの作品の着想や意図するところが説明されていて、それを読みながら「なるほど~」と納得して、作者のミステリへの愛と造詣の深さに圧倒されました。一番好きなのは、「危険な賭け」かなあ。取り違えられた古書をめぐるハードボイルド。これ、若竹七海の「葉村晶シリーズ」へのオマージュだそうで。なお、好きなハードボイルドの探偵として、日本ものでは葉村晶と、宮部みゆきの杉村三郎を挙げている阿津川さん。私も同じく、です。

ギッチリ作り込まれたミステリも、それはそれで面白い。ほかの作品も読んでみたいです。

2022年8月31日 (水)

431秒後の殺人

3285「431秒後の殺人 京都辻占探偵六角」 床品美帆   東京創元社   ★★★

カメラを教えてくれた松原が不慮の事故で死んだ。京都に駆けつけた駆け出しカメラマンの安見直行は、松原の死は妻による殺人ではないかと疑う。しかし、ビルの屋上からコンクリート片が松原めがけて落ちてきたその時、妻にはアリバイがあった。祖母の助言で辻占をするという六角法衣店を訪れた直行。その店主は、直行と同年配の無愛想な青年・六角聡明で・・・。

 

京都を舞台にした連作ミステリ。「431秒後の殺人」「睨み目の穴蔵の殺人」「眠れる映画館の殺人」「照明されない白刃の殺人」「立ち消える死者の殺人」の5話。

古都を舞台に、現代のガジェットを用いたトリック・・・というのが売りのようです。ただ、トリックとしては成立するのですが、ちょっと無理があるような気がしてしまうところが残念でした。

探偵役の六角が読者ウケするキャラだと思うのですが、もうちょっと活躍してほしかった気も。これがデビュー作らしいし、物語の雰囲気は悪くないので、今後に期待したいと思います。

2022年8月30日 (火)

NHK 100分de名著 太平記

3284「NHK 100分de名著 太平記」 安田登   NHK出版   ★★★★

2022年7月の「100分de名著」のテキスト。能楽師・安田登による「太平記」。

 

安田さんの「平家物語」講義がめちゃくちゃ面白かったので、「太平記」も期待大でテレビを見てました。

「太平記」は読んだこともないし、そもそもあの時代がよくわかっていません。安田さんいわく、「平家」のようにわかりやすくないのが「太平記」だ、と。なるほど。私の「太平記」の知識は、去年再放送された大河ドラマ「太平記」がほぼ全て。ただ、あのドラマが予想外に面白かったので、俄然興味が湧いてきたのです。

実際、このテキストも、ドラマを見て下知識があったからついていけたような。「100分~」の放送と、テキストと、両方でようやく分かったような・・・という感じでした。

でも、私みたいな素人が「わかりにくい」と感じるポイントを、丁寧に解説してくださっています。

今回のテーマは『「あわい」を生きよ」。時代の過渡期に生じる「あわい」の時期。「太平記」の動乱の時代と、コロナ禍の現代と。それを重ね合わせて読み解いていくと、見えてくるもの。歴史は繰り返すし、私たちが歴史を学ぶ意味を考えさせられました。

テキストも読み応えがあるのですが、放送の安田さんと玉川奈々福さんの朗読が、本当に素晴らしかったので・・・朗読版、出してくれないかなあ。

 

2022年8月27日 (土)

広重ぶるう

3283「広重ぶるう」 梶よう子  新潮社   ★★★★

美人画もダメ、役者絵もダメ。北斎にも国貞にも及ばない町絵師・歌川広重。火消同心の家に生まれ、務めを果たしながら江戸の町を写し取ってきた広重は、舶来の「ベロ藍」と出会ったことで、名所絵に自分の道を見出す。

 

永谷園のお茶漬け等に必ず入っている浮世絵カード。私が浮世絵を知ったのは、たぶんあれが最初。それから、高橋克彦「写楽殺人事件」に始まる浮世絵ミステリシリーズや、杉浦日向子「百日紅」等で写楽や北斎に興味をもち、あれこれかじって現在に至ります。

その中で、広重についてはあまり知っていることがなく。だいたい、広重の絵のおもしろさを感じるようになったのはわりと最近なのです。写楽や北斎の迫力に魅せられていたので、それに比べると広重は印象が薄くて。でも、よく見てみると、独特の構図や色彩など、けっこう見飽きないのが広重だなあ、と。

さて、その広重はどんな人だったのか? これを読んで、ほんと、芸術家ってヤツは・・・と、何度もため息をつきました(苦笑) 武家なので金銭に関することに拘泥するのは恥であるという感覚はわかりますが、それにしても。最初の妻・加代が必死で金策していることに気づかない辺り、物語の中に入っていって、頭を叩きたくなりました。広重こと安藤重右衛門を案じてくれる版元・岩戸屋喜三郎に対する憎まれ口なんかもう、読んでいて腹が立ちました(苦笑)

なかなかうまく回らない人生に苛立ちながらあがく重右衛門にかなりイライラさせられましたが、家族や弟子や仕事仲間たちに見守られながら少しずつ自分の道を歩んでいく姿に、いつのまにか愛おしさを感じていました。

これを読むと、あらためて広重の絵をじっくり見てみたくなりますねえ。

 

2022年8月25日 (木)

言葉の国のお菓子番 見えない花

3282「言葉の国のお菓子番 見えない花」 ほしおさなえ   だいわ文庫   ★★★★

勤務先の書店が閉店して、職を失ってしまった一葉。実家に戻った一葉は、亡き祖母の手紙に導かれて、祖母が所属していた連句会を訪れる。なんとなくその会に参加するようになった一葉は、新しい世界に一歩踏み出す。

 

気になっていたのですが、「連句?」と二の足踏んでまして(苦笑) でも、思い切って読んでみました。

すみません、連句、全然分かってませんでした・・・。こんなにめんどくさくて(一葉が連句のきまりを説明してもらっている場面で、私は一度頭がバーストしました)、でも、こんなにおもしろいものなんですねえ。すごいなあ。もっと単純なものかと思っていました。

いろんなきまりごとはあるけれど(まだよく理解できてない)、それは「縛る」ためにあるのでなくて、むしろ世界を「広げる」ためにあるということ。そして、一人でなく、複数で巻くからこそ、無限大の世界が展開できること。いやあ、ほんとにおもしろい。こんな言葉の世界があったなんて。

主人公の一葉は、職を失って、ちょっと迷子みたいになっている状態。そんな彼女が大好きだった祖母に導かれるように連句と出会い、自分の世界を開いていくのです。人とのつながりが人を生かし、その道を作っていく。それはほしおさんがずっと描いているテーマの一つ。今回は、人をつなぐアイテムとして「言葉」をダイレクトにもってきましたね。

しかし、こういう物語を書くとき、当然作中の「句」も全部作るわけで・・・。それを想像するだけで、もう圧倒されてしまいます。すごいなあ。この巻で一番好きな句は「奥へ奥へ花が光になってゆく」でした。

「自分に向き合うんじゃなくて、わからない人といっしょにいることについて考えるのが生きることだと思うから。」・・・連句会「ひとつばたご」の航人さんのこの言葉、心に刻んでおきたいです。

2022年8月22日 (月)

筆のみが知る

3281「筆のみが知る 幽霊絵師火狂」 近藤史恵   角川書店   ★★★

料理屋「しの田」の一人娘・真阿は、胸を病んで、部屋にこもり、ひっそりと暮らしている。そんな「しの田」に絵師・火狂が居候することに。火狂は幽霊絵など「怖い絵」を描くことで有名な絵師。興味をもった真阿は、火狂に接近するが、どうやら火狂には人には見えないものが見えるらしく・・・。

 

最初、時代設定がよくわからず、ん?となりましたが、明治維新からまもない大阪が舞台でしょうか。大きな料理屋の一人娘・真阿と、そこに転がり込んだ絵師・火狂を主人公にした時代物ミステリ。「座敷小町」「犬の絵」「荒波の帰路」「彫師の地獄」「悲しまない男」「若衆刃傷」「夜鷹御前」「筆のみが知る」の8話を「序幕」と「終幕」が包んでいます。

近藤さんの時代物は久しぶり。とは言え、今回の舞台は維新後なので、「猿若町捕物帳」とはまたちょっと趣が違いますが。

火狂の絵を媒介にして、様々な事件に遭遇する真阿。その過程で彼女の生い立ちが明らかになり、やがて火狂の来し方も・・・。それぞれに大切な人を失う経験をした二人の、なんとも言えない魂の共鳴が美しくも切ないです。

印象的だった話は「彫師の地獄」と「悲しまない男」。それでも、後者は救いのある終わり方で、ほっとしました。

続編が作れそうな終わり方だったので、次を期待したいです。真阿がどんな人生を見出すのか、興味があります。   

2022年8月20日 (土)

泣き童子

「泣き童子」 宮部みゆき   文藝春秋   ★★★★

再読です。「三島屋変調百物語 参之続」。

「魂取の池」「くりから御殿」「泣き童子」「小雪舞う日の怪談語り」「まぐる笛」「節気顔」の6話。とは言え、「小雪舞う~」はおちかが外の百物語会に参加する話で、その中で4つの怪談が語られ、さらにおちか自身が遭遇した怪異も描かれるので、一話の中に5つの怪談が入っている趣向ではあります。

宮部さんが、「まぐる笛」が書けたから「荒神」が書けたというのを読んで、はて、どんな話だっけ?と。怖かったことは覚えていますが。読み返してみて、なるほど・・・と。たしかに、「荒神」の原型とも言える話ですね。怖さと、哀しさと、人の強さと。宮部さんらしい「怪談」でした。

「くりから御殿」は、ラストで思わず泣いてしまいました。

2022年8月19日 (金)

恋ふらむ鳥は

3280「恋ふらむ鳥は」 澤田瞳子   毎日新聞出版   ★★★★

「古(いに)しへに恋ふらむ鳥は杜鵑(ほととぎす)けだし鳴きしや我が念(おも)へるごと」・・・万葉の代表的歌人・額田王。大海人王子との間に十市女王をもうけながら離別し、宮人として宝女王(斉明天皇)に仕えている彼女の眼は、色を判じることができない。春の花の色も、秋の紅葉も、額田にはしかと分からないのだった。それを隠して仕事に邁進する額田は、新しい国造りを推進する葛城王子(中大兄王子)の理想に強く共感し、王子の股肱の臣・中臣鎌足のもと、「歌詠み」として力を尽くそうとするが・・・。

 

澤田さんが額田王を描く!というので、ものすごく期待していました。そして、読んでビックリ。中大兄・大海人兄弟(のちの天智天皇・天武天皇)それぞれの妻として愛された万葉歌人というより、バリバリのキャリアウーマン・額田王がそこにいました。いや、実におもしろかった。

色覚にハンデがある額田王が、それゆえに大海人王子と別れ、宮人としての務めに邁進する物語。ネタバレしてしまうと、葛城王子とは恋愛関係にはなりません(笑) 百済への援軍を送るために宝女王について西に下る途次から物語は始まります。「熟田津に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな」の有名な歌が詠まれるまでの経緯が第一章。しかし、ここまでですでにいろいろな出来事が起こり、政の行く手の前途多難さが暗示されます。

その後、宝女王が崩御。葛城王子の本格的な治世が始まるものの、百済に派遣した援軍は白村江の戦いで大敗。半島情勢により、難しい舵取りを迫られる一方、葛城の後継者に関する問題も浮上。大津京への遷都、さらに鎌足の死去を経て、葛城も崩御。それによって、壬申の乱が勃発。・・・日本史好きなら誰でも知っている経緯ですが、それらの史実において、額田の有名な歌がどのようにして詠まれたのがが描かれていきます。

この物語の額田王は賢い人ではありますが、決してスーパーヒーローではありません。けっこう自分勝手だし、それゆえに失敗もする。自分の行動を後悔することも度々。今までの万葉のヴェールに包まれていた「女流歌人」を、生身の人間として描き出したのがこの物語です。それは、額田だけではなく、葛城や大海人など、歴史上の「英雄」と呼ばれる人々も同じ。完璧ではあり得ない生身の人間ゆえに起こるドラマが、折り重なって、それがのちに「歴史」と呼ばれるのだとわかります。

澤田さんは「夢も定かに」で朝廷に仕える采女たちを描き、他にも後世に名も残らぬ官僚たちを主人公にした物語を書いてきた作家さん。それを思い出すと共に、「宮人」という立場に生きがいを見出した額田王の誇り高い人生が眼に浮かぶようでした。

それにしても、今作での鵜野讃良女王(のちの持統天皇)はなかなか強烈な性格でした。 「日輪の賦」の持統女王は、ある意味最終形態なのですが、これがああなるの・・・?と(苦笑) 澤田さん、いつか持統を主人公にしたものを書いてほしいです。

 

«愚かな薔薇

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