2017年7月27日 (木)

私のことはほっといてください

2611「私のことはほっといてください」 北大路公子   PHP文芸文庫   ★★★★

いつもながらの日常を送る公子さんの、爆笑&脱力エッセイ。

なんかもう、どこからつっこんでいいのかわからないんですけど、今回も公子さんは公子さんでした(笑)

お父様との数々のバトルに笑い転げ、「ドラえもんのラーメン」に眩暈をおぼえ、河童の話に「だーかーらー!公子さん、小説書いてよ!」と怒り・・・。そんなこんなで、私もいつもの通りに読み終えました。

どうして私は取り憑かれたように北大路公子を読むのだろう・・・と、ときどき思うのですが。同じようなネタなのに、全然退屈しないのですよね。公子さんの目の付け所と発想の飛躍、それを読者に伝える文章力というのは、並々ならぬものがあるなあ・・・と、宮下奈都さんの解説を読んで思いました(笑)

とりあえず、今年だけで3冊(だっけ?)も文庫が出てるんですが、こんなハイペースで大丈夫ですか?と、ちょっと心配になっている私です。

2017年7月25日 (火)

彼女たちはみな、若くして死んだ

2610「彼女たちはみな、若くして死んだ」 チャールズ・ボズウェル   創元推理文庫   ★★★★

若い女性が犠牲となった10の犯罪。なぜ彼女たちは殺されなければならなかったのか。犯人は、誰か。事件を解き明かす刑事たちの捜査からその結末までを描いた犯罪ノンフィクション。

1949年に発表された本が、今回初めて日本語訳されて出版。ミステリー界に変革をもたらした一冊。・・・と聞けば、読んでみたくなります。

犯罪ノンフィクションといえばそれまでですが、筆者は感情を煽るような言葉を一切使わず、わかった事実を淡々と記しています。それが、下手なミステリを読むより、ずっとおもしろいのです。

被害者、加害者、遺族、捜査員・・・事件に関わったあらゆる人々のドラマが、浮かび上がってくる感じ。この本にインスパイアされて生れたミステリがあるというのも、頷けます。

「ボルジアの花嫁」「ランベスの毒殺魔」「死の部屋」「殺人の契機」「青髭との駆け落ち」「サラ・ブリマー事件」「死のタンゴ」「6か9か」「彼女が生きているかぎり」「絞殺された女」の10編。

2017年7月23日 (日)

深泥丘奇談

2609「深泥丘奇談」 綾辻行人   メディアファクトリー   ★★★★

作家の「私」は、ひどい眩暈におそわれて、近くにある深泥丘病院を受診した。検査のために入院したその夜、奇妙な音が聞こえてきて・・・。

作者の住む京都の町をモデルにした、連作奇談。ずっと気になっていたものの、図書館に行くとすっかり忘れていて・・・を繰り返し、ようやく借りてきました。

綾辻行人といえば、「十角館の殺人」に始まる新本格推理小説。当時、私も新本格ブームに熱狂したものでしたが、最近は綾辻さんもすっかりご無沙汰していました。久しぶりに読んで、文章が練れてきたなあという印象。余分なものがそぎ落とされて、簡潔で読みやすい。でも、不気味さはMAXです(笑)

怖いというより、現実とはチャンネルがずれた世界(作品世界が、非現実ではあるのですが)にいる居心地の悪さ、不気味さがずっと続く感じ。「顔」「丘の向こう」「長びく雨」「悪霊憑き」「サムザムシ」「開けるな」「六山の夜」「深泥丘魔術団」「声」の9編の連作です。

そして、思い出しました。私が綾辻さんから遠ざかった理由。グロい描写が生々しくて(「眼球譚」だったかな)、まいってしまったからでした。「深泥丘奇談」もけっこう・・・。私が一番苦手なのは、「サムザムシ」でした。

でも、こういう奇妙な話って好きなのです。続編も出ているので、読みたいと思ってます(懲りてない)。

2017年7月21日 (金)

かわうそ堀怪談見習い

2608「かわうそ堀怪談見習い」 柴崎友香   KADOKAWA   ★★★★

恋愛小説家という肩書きに違和感を感じ、怪談を書くことにした。それからというもの、ちょっと奇妙な出来事が身辺で続き・・・。わたしが忘れてしまったこととは、いったいなんだろう・・・?

柴崎友香さんは、ずいぶん以前に一冊読んだきり。今回は、図書館の「怖い話」コーナーにあったので、手に取りました。

この世ならぬ世界にふっとアクセスしてしまう瞬間。そんな奇妙な出来事が積み重ねられていって、「わたし」が取り戻した記憶とは・・・。なぜそうなるのか、何が起こっているのか、よくわからないまま、「わたし」はこの世と怪異との狭間を除き続ける、そんな話。

ものすごく怖いというのではないけれど、読んでいるうちに、自分のすぐそばにも異世界がぽっかりと口をあけているのではないか・・・という気になります。

2017年7月20日 (木)

メグル

2607「メグル」 乾ルカ   東京創元社   ★★★★

「あなたは行くべきよ。断らないでね」・・・大学の学生部であっせんしているバイトを、学生たちに強要する奨学係の女性。否応なしにバイトに送り込まれた学生たちが体験するものは・・・。

「ミツハの一族」がけっこうおもしろかったので、前から気になっていたこちらも読んでみました。

「ヒカレル」「モドル」「アタエル」「タベル」「メグル」の5話。H大学の学生部のちょっと不思議な職員に紹介されて(というか、無理やり押しつけられて)、仕方なくバイトに行く学生たちの物語。

ちょっと不思議設定のところはありますが、なぜ「行くべき」なのか、その理由を知りたくて、あっというまに読んでしまいました。

主人公たちの抱えている悩みや鬱屈には共感できるものが多かったし、それが解消されていく過程は心地よかったです。

ただ唯一、「すすめられないバイト」に行く話があるのですが・・・それはちょっと苦手でした。

2017年7月16日 (日)

そして誰もいなくなった

2606「そして誰もいなくなった」 アガサ・クリスティー   ハヤカワ文庫   ★★★★

兵隊島に集められた十人の男女。初日の夕食後、それぞれの犯した罪を告発する声が。そして、一人、また一人と、童謡の歌詞の通りに、人が殺されていき・・・。

久しぶりに再読しました。今年、テレビドラマにもなりましたし、犯人もわかっているのですが、まったく退屈しませんでした。

裁かれぬ罪を犯した十人が殺されていく過程の緊迫感。徐々に人が減っていき、お互いへの疑惑が最高潮に達して・・・。初めて読んだときは、「そして誰もいなくなった」最後の場面が、ものすごい衝撃的だったのですが、今回はそこに至るまでの「犯人」の巧妙な仕掛けを堪能しました。

ストーリーテラーとしてのクリスティの才能を、あらためて実感しました。

読んでいるあいだ、ずっとひどい雨が降っていて、「嵐の島」の気分をちょっとだけ味わいました。

2017年7月13日 (木)

落陽

2605「落陽」 朝井まかて   祥伝社   ★★★★

明治天皇崩御。その直後、東京に神宮をという動きが急速に起こった。完成まで百五十年。人々は、何を思って神宮創建に挑んだのか・・・。

明治天皇の人生に、ずっと興味がありました。明治維新を境に、あまりにも激変したその境遇を、どのように受け止めたのだろうか、と。神格化された「天皇」は、どんな人間だったのだろうか、と。

この物語は、明治神宮創建の物語でもあり、同時に明治天皇という一人の人間の姿を追う物語でもあります。

明治神宮がこういう経緯で創られたものだということを初めて知りました。しかも、「神宮の杜」が人工のものだったなんて(もともとあった森を切り開いたものとばかり思っていました。たしかに、東京のあんな場所にあんな杜があるわけないですね)。国民からの献木十万本。勤労奉仕のべ十一万人。人々を突き動かし、百五十年の壮大な計画を実現させたものは何だったのか。

それを突き詰めていくと、見えてきたのは明治天皇という人物でした。明治という時代を支え続けた、一人の人間。その生き様が、当時の人々には感銘を与えずにはいられなかったのでしょう。

いつか、朝井まかてさんの筆で、かの人の一生を描き出してほしいと思います。

2017年7月12日 (水)

モップの精は旅に出る

2604「モップの精は旅に出る」 近藤史恵   実業之日本社   ★★★★

語学学校の事務員・翔子のもとに、いきなり届いた婚姻届。事件はそこから始まった。おしゃれなプロの清掃人・キリコちゃんが謎を解くシリーズ最終作。

キリコちゃんとのおつきあいも長くなりましたが・・・とうとう最終作ですか。寂しいなあ。

おしゃれなかっこうで、ビルの清掃なんかをささっとやってしまうキリコちゃん。さらに、いろんな職場で遭遇した謎を解いてしまう。かっこいいなあと憧れてしまうのですが、今回はそんなキリコちゃんの内面もうかがえる話も。

「深夜の歌姫」「先生のお気に入り」「重なり合う輪」「ラストケース」の4話。

キリコちゃんもすごいけど、夫の大介もすごいなあと思うのです。あんなふうに、キリコちゃんを自由に(上っ面の意味ではなく)させるのって、なかなかできないことだと思うわけで。

キリコちゃんにもう会えないのは残念ですが、たぶんどこかで今日も歌いながらお掃除してるんだろうなと思うことにします。

2017年7月11日 (火)

ずうのめ人形

2603「ずうのめ人形」 澤村伊智   角川書店   ★★★★

オカルト雑誌のアルバイト・藤間は、変死したライターが持っていたある原稿を読む羽目に。その小説らしき原稿に現れる人形の姿が、藤間の視界に入るようになり・・・。

「ぼぎわんが、来る」の澤村さんの第2作。現実と小説を行ったり来たりの構成なのですが、抜群のリーダビリティで読ませます。

前半は、ある少女を主人公にした小説の方が迫力があって、先が読みたくてたまらなくなるのですが、終盤、現実世界が一気に立ち上がってきて、圧倒されました。

これ、ネタバレ厳禁なやつなので、これ以上書けませんが・・・怪異を生み出すのは人の心、そして人はそれを制御できなくなるというのは、やはり恐ろしいです。そして、ラストの「その後」はいったいどうなってしまうんでしょう。というか、これを読んでしまったことが、ちょっと恐ろしくなりました。

2017年7月10日 (月)

あとは野となれ大和撫子

2602「あとは野となれ大和撫子」 宮内悠介   角川書店   ★★★★

中央アジアの小国・アラルスタン。歴史も浅いこの国の大統領が暗殺された。国会議員たちは我先に逃亡。国を守るために立ち上がったのは、「後宮」の少女たち。果たして、彼女たちに国を守ることができるのか?

最近、注目されている宮内悠介。初めて読みました。いやあ、おもしろかった! 芥川賞にも直木賞にもノミネートされるなんて、どんな作風なんだろうと思いましたが、これは徹底的にエンターテイメントでした。

主人公は、両親を紛争で失い、「後宮」に拾われた日本人の少女・ナツキ。後宮といっても、愛妾をはべらす場ではなく、見込みのある若い人材を教育するところ。ナツキの先輩でリーダー格のアイシャと、同じく先輩のジャミラ。この3人が「政府」の核となって、国家の舵取りをしていくのです。

なりゆきで軍事担当にされてしまったナツキは、国軍のおじさんたちや反政府組織と、丁々発止のやりとりをする羽目に。さらに、近隣国が混乱に乗じてアラルスタンを手に入れようと画策し・・・。

国を守るというか、ナツキたちは「自分たちの居場所を守る」という感じ。後宮の少女たちの大半は、他国からさまざまな運命に翻弄されて、ここにたどりついた者。それぞれに自分のやれることをやろう!と、奮闘します。そして、やれるだけのことをやったら、ナツキいわく「あとは野となれ」。

非常にデリケートなロシア・中央アジア情勢を下敷きにしながら、こんなに楽しめる物語が書けるのか!と、正直驚きました。ナツキやアイシャ、ジャミラ・・・彼女たちは必死なんだけれど、素人ゆえにどこか抜けているところもあったりするのです(特に、ナツキ)。それでも、彼女たちの「生きること」への意志が、本当に美しい。そして、かっこいい。

これはもう、「読んで!」といろんな人にすすめたい気分。私が説明するより、読んでみればこのおもしろさがわかるから!と。

読み終えたとき感じた、静かな興奮と感動を、ぜひ多くの人に味わっていただきたいと思うのです。

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