2024年7月12日 (金)

六月のぶりぶりぎっちょう

3512「六月のぶりぶりぎっちょう」 万城目学   文藝春秋   ★★★★

大阪で高校の社会科教師をしている滝川は、研究発表会のために京都へやってきた。そこで、奇妙な易者に出会ったのをきっかけに、密室殺人事件に巻き込まれてしまう。六月二日未明。歴史上のあの大事件が起こったその日、その時刻に。

 

京都を舞台にした直木賞受賞作「八月の御所グラウンド」と同じ趣向の物語。「三月の局騒動」と「六月のぶりぶりぎっちょう」の2編。

「三月の局騒動」は、なんとまあタイムリーな!(笑) 京都の女子寮を舞台に、謎の寮生にまつわる話。この寮は、寮生たちを「にょご(女御、の意らしい)」と呼び、建物は「壺」、部屋は「局(つぼね)」と呼ぶのです。平安時代か! 後宮か! でも、それにはちゃんと意味があるのでした。なぜ、「彼女」がそこにいたのかを考えると・・・ちょっと胸が熱くなる物語でした。

「六月のぶりぶりぎっちょう」は、タイトルを見た時には全く想像できない展開。そもそも「ぶりぶりぎっちょう」って何?(笑) この話、天正十年六月二日と聞いて「本能寺の変」とすぐ出てくるタイプの私には、完全にツボでした。そう、信長が登場します。では、なぜ信長が出てくるのか? その理由がなんとも切なかったです。

破天荒な物語なのに、哀しいようなせつないような、そして温かい気持ちになる不思議な物語。万城目学の真骨頂ですねえ。「八月の~」とあわせて、これで四作。どうせなら同じ趣向で、十二ヶ月ぶん全部書いてくれませんかねえ。すごく読みたいのですけれど。

2024年7月11日 (木)

烏に単は似合わない

「烏に単は似合わない」 阿部智里   文藝春秋   ★★★★

再読。とうとう本編にも手を出してしまいました。

思ったよりもいろんなことを忘れていました(笑) というか、これを読んだ当時は、まさかシリーズ化されて、さらにああいう展開になるとは思いもしなかったので・・・。今の視点で読み返してみると、「初めからそういうことだったのね」という点が見えてきて。単なる「后選び」の物語ではなかったのですねえ。

金烏の后候補の四人の姫。彼女たちはそれぞれに「自分の生き方」を選ぶことになります。生家の代表として后になるという定められたルートにただ乗るのではなく、自分の意志で。それぞれの選択は、このシリーズ全体を貫くテーマにつながるのでしょう。

アニメは基本的に原作に忠実ですが、原作が入り組んでいるところはけっこう大胆にカットしていたり、変更していたり。また、アニメでわかりにくいと思った部分は、原作にある部分が削られていたとわかり、納得。ただ、あせびの君の長琴と手紙に関わるエピソードの一部がカットされていたのは残念。まあ、そこはシリーズのだいぶ後につながる部分なので、しょうがないけれど。

しかし、四人の姫のうち、唯一あせびだけがはっきりと自分の生き方を決めないまま終わるのですが。あせびを登殿させたのは、のちのちそうなることが狙いだったの・・・? 東家は初めからそのつもりで? そう考えると怖すぎるのですけれど。

2024年7月10日 (水)

きらん風月

3511「きらん風月」 永井紗耶子   講談社   ★★★★

隠居の身となった松平定信は、お忍び旅の途中、「栗杖亭鬼卵(りつじょうていきらん)」という名を聞く。「東海道人物誌」という街道筋の名人を記した書の作者で、読本なども書いているという。大井川の渡しが再開されるまでの時間つぶしに、定信は鬼卵に会いに行くことに。寛政の改革で辣腕を振るった元老中と、東西の文化人をつないだ自由人・鬼卵との邂逅は、何をもたらすのか。

 

栗杖亭鬼卵という人物は、初めて知りました。上方に生まれ、文人墨客として生き、東西の文化人をつないだ人。歴史の教科書に載るような有名な作品を残したわけではないけれど、ちょっと独特な、自由な生き方をした鬼卵。そういう人物が、かの松平定信と対面する。

物語は、鬼卵が定信に己の来し方を語るという形で展開します。

鬼卵は、ちょっとつかみどころがないようなふわふわした感じの人。それなりに希望も野心もあるのだけれど、何がなんでもとか、人を押しのけてでもというようなエネルギーはなく。周りの人がついつい声をかけてやりたくなるような・・・。親しかった上田秋成とは対照的。でも、そういう人だからこそ、いろいろな地に住み着いて、そこで人とつながることができたのでしょう。

永井さんの作品をいくつか読んできましたが、私には永井さんの文章がしっくりくるようです。冒頭からすんなりと物語の中に入ることができて、気持ちよく読み進められました。

 

2024年7月 9日 (火)

古本食堂 新装開店

3510「古本食堂 新装開店」 原田ひ香   角川春樹事務所   ★★★★

亡き大叔父・滋郎が営んでいた鷹島古書店で働き始めた美希喜。店主は大叔母の珊瑚だが、二人とも商売は初心者。それでも、二人でなんとか店を切り盛りしている。世代も違うし、今までほとんどつきあいのなかった美希喜と珊瑚だが、徐々に互いの存在が大きくなっていく。美希喜は書店にカフェスペースを取り入れたり、イベントの企画に参加したり。一方、珊瑚は、北海道に恋人や友人たちを残していて・・・。

 

「古本食堂」の続編です。また美希喜や珊瑚さんに会えるとは!

前作でいろいろあったけれど古書店を続けることになった二人。世代も性格も全然違うのに、それなりにうまくいっているようで。「古本食堂」というタイトルですが、とりあげられる古書は小説とは限らず。それから、「食堂」でもないのです。でも、美味しそうな食べ物はいっぱい出てきます。

原田ひ香さんの書くものは、なんだかすんなり私の中に入ってくるのです。設定だけ聞いたら「ベタだなあ」と思うのに、読んでみるとちょっと予想しなかった方向に連れて行かれて。決して甘くはない物語だけど、優しい。

今回は、珊瑚さんに思わぬ出来事が起こり、それによって美希喜も大きな決断を迫られます。人生、自分の思うとおりになんかいかないものだけれど、そこからどうするか、ですよねえ。・・・と、しみじみしてしまいました。

それにしても、神保町が恋しいです。

 

2024年7月 7日 (日)

桓武天皇

3509「桓武天皇 決断する君主」 瀧浪貞子   岩波新書   ★★★

皇位継承からほど遠い位置にいたはずなのに、父・白壁王が皇位につき(光仁天皇)、やがて皇太子となった山部王。彼はのちに桓武天皇となり、歴史に名を残す。二度の遷都、弟・早良親王との確執、蝦夷との戦い。平安時代の幕開けとなった激動の生涯をたどる。

 

桓武天皇に興味をもったのは、おかざき真理「阿・吽」を読んでから。偉大な天皇であり、息子たちを愛するものの、実弟の早良親王の怨霊に悩まされ、皇太子・安殿親王(平城天皇)と不和になり、苦しみの中で亡くなる人物として描かれています。では、実像はどうだったのか。

素人には難しいことも多く、一週間くらいかけて、少しずつ読みました。

桓武は「天智系」という意識をもった天皇と言われてきましたが(天智天皇の曾孫)、滝浪先生は、そのルーツから「天武系」の天皇であり、特に聖武天皇を強く意識していた節があると主張しています。もっとも、桓武の中で意識は微妙に変化していくので、ちょっとわかりにくいところもありますが。

また、政治パフォーマンスを好み、「造作と軍事」を両輪として国を統べた、「強い」天皇像が浮かび上がってきます。サブタイトルの「決断する君主」という言葉は、まさに。桓武天皇という人は、新しい時代を切り拓いたといってもいいのかもしれません。

 

 

2024年7月 4日 (木)

烏百花 白百合の章

「烏百花 白百合の章」 阿部智里   文藝春秋   ★★★★

再読。

「白百合の章」は、「かれのおとない」「ふゆのことら」「ちはやのだんまり」「あきのあやぎぬ」「おにびさく」「なつのゆうばえ」「はるのとこやみ」「きんかんをにる」の8話。

「外伝」2冊を一気に読み返して思ったのは、私は雪哉のことをよくわかっていないなあ、ということ。すごく賢くて、すごくめんどくさい産みの母によく似ている雪哉の心中は、簡単には推し量れないのでは。先日「望月の烏」で雪哉(雪斎)と澄生とのヒリヒリするやりとりを読んでから、「かれのおとない」「きんかんをにる」を読むと・・・。

そして、大紫の御前(南家の高子)の「なつのゆうばえ」と、現・大紫の御前(東家のあせび)の母の話「はるのとこやみ」は、どちらも絶句・・・。そして、西家の顕彦が登場する「あきのあやぎぬ」ですが・・・顕彦って真赭の薄の兄なんですよねえ。あの真赭の兄がこれって(苦笑)

アニメはこの後「黄金の烏」編になるらしい。やはり本編も読み返すべきかなあ。

2024年7月 3日 (水)

烏百花 蛍の章

「烏百花 蛍の章」 阿部智里   文藝春秋   ★★★★

アニメ「烏は主を選ばない」を見ているのですが、けっこういろいろな設定を忘れていて。「烏に単は似合わない」「烏は主を選ばない」が原作になっているのはわかるのですが、いろいろ細かいところがうろ覚えになってしまっていて。とりあえず、「八咫烏外伝」を再読。

「蛍の章」は、「しのぶひと」「すみのさくら」「まつばちりて」「ふゆきにおもう」「ゆきやのせみ」「わらうひと」の6話。

真赭の薄と澄尾の恋、浜木綿の生い立ちと若宮との出会い、雪哉の生母の話等々・・・外伝とはいえ、すごく大事な設定がいっぱい出てくるじゃないですか。特に、「すみのさくら」は!!(アニメで若宮が浜木綿を「すみ」と呼んだ時、ん?と思ったのですが・・・完全に忘れていました。浜木綿の本名)

再読してよかったです。こんがらがっていた人間関係も、やっとスッキリしました。

2024年7月 2日 (火)

シャーロック・ホームズの凱旋

3508「シャーロック・ホームズの凱旋」 森見登美彦   中央公論新社   ★★★★

ヴィクトリア朝京都。名探偵ホームズはかつてないほどの大スランプに陥っていた。ワトソンが励まそうと、活を入れようと、寺町通221Bの下宿から全く動こうとしない。下宿に転がり込んできたモリアーティ教授と傷をなめ合い、向かいに探偵事務所を構えたアイリーン・アドラーに依頼人を奪われる始末。とうとう「引退宣言」まで出すにいたるが・・・。

 

まず、「ヴィクトリア朝京都」って何ですか(笑) 京都の街を辻馬車が走り、京都警視庁に「スコットランドヤード」のルビがふられる世界。森見さんじゃなきゃ許されませんよ、という感じですが。読んでいるうちになんだかしっくりくるから不思議です。

そして、モリアーティやアイリーン・アドラーなど、ホームズ譚に欠くことのできない人物も登場。学生時代、ホームズものにはまり、プチ・シャーロッキアン状態だった私には、とっても嬉しい物語でした。

そして、「ヴィクトリア朝京都」は単なる奇想ではなく。徐々に自分が作者の掌の上で転がされていることを自覚し、めまいに似た感覚に囚われ・・・。なぜ、こういう設定が必要だったのか。誰が、何のために、この物語を生み出したのか。

「物語」が生まれるところには、必ず人の思いがあるのですねえ。

とってもとっても、森見さんらしいホームズ譚でした。

2024年6月29日 (土)

古代日本の官僚

3507「古代日本の官僚 天皇に仕えた怠惰な面々」 虎尾達哉   中公新書   ★★★★

古代日本は天皇を頂点とする専制君主国家とされる。そのような国家には君主に対する強い忠誠心をもった勤勉な官僚たちが必要なのだが、当時の下級官僚たちはそうではなかった。朝廷の重要な儀式を無断欠席、日常の職務も放棄、罰金滞納、任官拒否・・・。しかし、政府は寛大な処置しかとらなかった。飛鳥・奈良・平安の官僚たちから見えてくる古代国家の姿。

 

これは予想以上におもしろかったです。現代の感覚で歴史を見るな、という好例でした。

副題に「怠惰」とありますが、たしかに記録に残された下級官人たちは怠惰と言われても仕方ない。儀式に官人がそろわず天皇を待たせる。天皇の執務時間に間に合わず、プライベートエリアに押しかける。天皇への上奏文を質の悪い紙で提出し、天皇から「臭い」と苦情が・・・。現代でも「おいおい」と思うくらいですが、たぶん、当時の官人たちは自分を「怠惰」だとは思っていなかったのです。それはなぜか。

律令国家の官人がどのように出現したのか。彼らはどのような規範や秩序の下に生きていたのか。そこを始点として官人たちの姿をたどっていくと、古代国家の形が見えてきます。

ポイントの一つは、天皇に忠誠を尽くす、天皇を崇めるという感覚は当時はそれほどなかった、ということ(この感覚は明治以降に植え付けられたもの)。もう一つは、勤勉を良いこととする儒教的な価値観はまだ日本にはなかったということ。

そういう時代に律令国家として国を造り、維持していくためには、権力者側も妥協しつつ現実路線を取らざるを得ないことが多々あったのです。

自分の価値観や感覚が「正しい」と思うほど、過去のことも「こうあるべき」と思い込みがち。そういうものを取り払って歴史を見ると、逆に現代の歪さが見えてくるのかもしれません。

 

2024年6月26日 (水)

777

3506「777」 伊坂幸太郎   角川書店   ★★★★

通称「天道虫」の殺し屋・七尾。今日の仕事は、ウィントンパレスホテルの一室にプレゼントを届けるだけの「簡単かつ安全な仕事」、のはずだった。そのホテルには、驚異的な記憶力をもつ紙野結花が潜伏していた。雇い主・乾から逃げようとしている紙野を追う「業者」たちがホテルにやってきて・・・。

 

やることなすことツキに見放される殺し屋・七尾が登場。伊坂幸太郎の殺し屋シリーズは、相変わらず人がどんどん死にます。もしかして、人数的に、今までで一番死んでませんか?

超高級ホテルを舞台にした殺し屋バトルロイヤル。あんまり簡単に人が死んでいくのでちょっと引いてしまったのですが、終盤、「ええッ!!」と。あー、あの違和感はそういうことだったのか、とか。いつものことながら、作者の掌の上で転がされた感がすごいです。

これだけ人が死ぬ話なのに、何なんでしょうね、この哀しくて切なくて、ちょっとハッピーな感じの読後感は。さすが、伊坂幸太郎です。

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