2020年7月 7日 (火)

輪舞曲

3060「輪舞曲」  朝井まかて      新潮社      ★★★

大正の名女優・伊澤蘭奢。彼女が急死したあと、集められた4人の男たち。彼らにとって、伊澤蘭奢とは何者だったのか。そして、彼女は何を求めて生きたのか。


「Nからの招待状」「丸髷の細君」「イジャラン」「茉莉花」「焦土の貴婦人」「逆光線」「手紙」「桜の面影」の八編から成る連作。

こういう人がいたんですね。主要人物の中では徳川夢声しか知らなくて、巻末の参考文献見て、ひえっとなりました。内藤民治も、福田清人も、伊藤佐喜雄も…錚々たる面子じゃないですか。

女優になるときめて、夫と子どもと別れた繁(しげ)。その生き方に共感はできなくても、そんなふうに生きた彼女に、どうしようもなく惹かれるのは何故でしょうか。愚かでも、失敗しても、自分の人生を選びとり、生ききったゆえでしょうか。


2020年7月 5日 (日)

新版 犬が星見た ロシア旅行

3059「新版  犬が星見た    ロシア旅行」  武田百合子      中公文庫      ★★★★

昭和44年6月、武田泰淳・百合子夫妻と友人・竹内好は、ロシアに旅立った。中央アジアからロシアへ。さらに、北欧へ。百合子の目を通した旅の記録。


武田百合子の「富士日記」は必読…と聞いてはいたものの、三冊もあるので腰が引けて。なら、こっちはどうだ!と。

いやはや。噂に違わずというか…なんとも稀有な書き手でした、武田百合子。気負わない。飾らない。ものすごくフラットな視線。でも、人物の描写を読んでいると、百合子さんがその人を好きか嫌いかわかってしまう。百合子さんは、そういう思いを隠さない。でも、嫌な感じはしない。ただ自分がどう思うかだけで、ジャッジしようとしていないから。

観光地であれ、その地で生活している人たちであれ、同じツアーの人たちであれ、百合子さんはフラットな視線でとらえ、淡々と「記録」していく。自分自身さえも。その文章のなんと心地よいことか。

おもしろいなあと思いつつ、2週間以上かかってやっと読み終えました。一気には読めない。小一時間読むと、もう頭がいっぱいになってしまって。饒舌な文章でもないのに、何故でしょう(ちょっと体調崩してるのもあったかもしれませんが)。

さて、次は「富士日記」。いつ読めるかなあ(苦笑)



2020年7月 2日 (木)

駆け入りの寺

3058「駆け入りの寺」  澤田瞳子      文藝春秋      ★★★★

比叡山の麓にある林丘寺は、比丘尼御所。つまり、出家した皇女が住持をつとめる尼門跡の一つ。現在の住持は二十一歳の元秀(霊元上皇皇女)。先の住持・元瑶は後水尾上皇の皇女で、すでに高齢。赤子の頃に両親を失い、林丘寺に引き取られた静馬は、今は青侍として寺で働いている。元瑶を慕い、育ててもらった恩を返すべく勤めに励む静馬だが、寺には訳ありの人々が逃げ込んできて…。


「駆け入りの寺」「不釣狐」「春告げの筆」「朔日氷」「ひとつ足」「三栗」「五葉の開く」の七話から成る連作。

いきなり御所言葉が飛び出してビビり、さらに「後水尾天皇? 霊元?  いつだっけ…??」となり、あわててその辺を調べたり。いやはや。澤田さん、守備範囲広すぎ(苦笑)

尼門跡って、漠然とした知識しかなかったので、読みながら「そういうものだったのか~」の連続でした。

それはともかく。主人公は、静馬という青年。生い立ちが複雑で、影を背負っているところがあるのですが、寺に関わる人々の人生に触れることで、静馬自身の世界も少しずつ変容していく。そんな物語。

幼い頃に「逃げた」ことを後悔している静馬は、寺に逃げてくる人々に厳しい目を向けます。それでも、生きていくために「逃げる」という手段が時には必要だと、静馬も納得していくのです。

元瑶尼の包容力に救われる思いがしますが、彼女もまた懊悩を抱えて生きてきたとわかる最終話では、思わず涙が…。そして、安易な大団円ではなく、それでも希望を感じさせる幕切れも、とても好きでした。




2020年6月30日 (火)

みちくさ道中

3057「みちくさ道中」  木内昇      平凡社      ★★★★

2011年「漂砂のうたう」で直木賞を受賞した翌年に刊行されたエッセイ集。


ちょっとショックを受けています…。木内さんって、私より年上だと思い込んでたのですが…同い年でした…。

なぜ年上と思っていたのかというと、「同世代によく感じる浮わついた感じがしない」から。このエッセイを読んでいてもやはりそう感じて。ただ、なんとなく子供の頃の話等から「あれ?意外と近い年齢?」と。プロフィールを確認したら…。

木内さんは流されないし、立ち位置がぶれないし、自分の思いを丁寧に言語化している。私みたいになんとなくノリでやっつけたりしない。しないようにしてきたのだろうなあ…と感じられて、それに比べて私は…と、凹みました(苦笑)

いろいろとハッとさせられることが多々あったので、何年かしたらまた読み返してみたいです。

2020年6月28日 (日)

戦乱と民衆

3056「戦乱と民衆」  磯田道史/倉本一宏/F・クレインス/呉座勇一      講談社現代新書      ★★★★★

国際日本文化研究センターの日本史研究者による一般公開シンポジウム「日本史の戦乱と民衆」をもとにした、民衆を主語とした日本史。


めちゃくちゃ面白かったです。英雄ありきの歴史ではなく、名も無き庶民は戦乱の世をどう生きていたのか?という。今の私にとっては、「そこだよ!そこ!!」というくらい、ツボでした。

倉本先生の「白村江の戦い」、呉座先生の「応仁の乱」、磯田先生の「禁門の変」はもちろんテッパンですが、初めて読んだクレインス先生の「大坂の陣」の話が新鮮でした。オランダ商人や、イエズス会の宣教師の書簡から、当時の大坂や京都の民衆の様子を発掘していくという…。(落城寸前の大坂城に宣教師がいたなんて、知りませんでした)

民衆にスポットを当てた史料なんてないわけですが、さまざまな史料の細部を読み解いていくと見えてくるものがある。また、権力をもつ側が民衆をどう見ていたかというのも。そういうのが現代にどうつながってきているのかも、考えさせられました。

新書ブームで玉石混淆、いろんなものが刊行されている昨今ですが、これは当たりでした。バリバリの研究者たちの論考をこうして読めるのは、とってもありがたいです。



2020年6月25日 (木)

大名倒産

3055「大名倒産(上・下)」 浅田次郎      文藝春秋      ★★★

丹生山松平家の当主となった小四郎。しかし、隠居した父は藩が抱えた膨大な借財をもて余し、藩の倒産を目論んでいた。父の企みを阻止しようと小四郎は奔走するが…。


浅田さんの「語り」は、わかっていてもついつい引き込まれてしまう。今までは講談か落語のように思っていましたが、むしろ寅さんの啖呵売みたいな口上に思えてきました(苦笑)  無茶苦茶なんだけど、おもしろいのです。

さて、松平家の当主になった小四郎ですが、足軽の子として育てられ、ある日突然城主の子として認知されたという生い立ち。しかも、兄が三人もいたのに、急死したり、病弱だったりして、急遽小四郎にお鉢が回ってきたという。父は藩を倒産させることしか頭になく、小四郎にはその際に責任をとらせようと。つまり、小四郎は切腹要因。

あんまりな話ですが、ここから小四郎の奮闘が始まるわけです。それ自体はおもしろいのですが、あまりに登場人物が多すぎて、一つ一つのエピソードが散漫になってしまったような。特に下巻は小四郎の存在感が希薄でした。浅田さん、ちょっと風呂敷広げすぎました?

ただ、浅田次郎がずっと描いてきた「人の幸せ」に対する思いは、やはり心を打つのでした。

2020年6月20日 (土)

四神の旗

3054「四神の旗」  馳星周      中央公論新社      ★★★

藤原不比等の後継者たる四人の息子たち。武智麻呂、房前、宇合、麻呂。不比等の死後、彼らの前に立ちはだかるのは、皇親・長屋王。四兄弟は妹・光明子の立后、基皇子の立太子に奔走するが、兄弟間の不協和音が…。


初・馳星周です。馳星周ってこういうの書くの?と驚いたんですが。

藤原四兄弟は、悪役のイメージが強くて(長屋王の変のせいで)、そのわりに疫病で呆気なく退場しちゃった人たち…という認識だったのですが(苦笑)  ただ、倉本一宏「藤原氏」を読んで、のちの藤原氏の繁栄には四兄弟の存在は欠かせなかったとわかり、ちょっと興味をもったのです。で、彼らが主人公なら読んでみようか、と。

大雑把に言えば、藤原氏vs皇族なのですが、そこに橘三千代と息子の葛城王(橘諸兄)が絡んだり、聖武帝や光明子、さらには元明・元正上皇の思惑があったり、なかなか複雑…。ただ、四兄弟の区別はつくようになりました(苦笑)

場面が細切れで、視点人物がくるくる入れ替わるため、一瞬、誰の視点かわからないときがあったのが残念でした。

長屋王の描写はなかなか私のイメージに近かったですが、三千代や光明子がもう一つとらえきれなかったかな。彼女たちが時代のキーパーソンだと思うのですが。


2020年6月18日 (木)

菓子屋横丁月光荘 文鳥の宿

3053「菓子屋横丁月光荘  文鳥の宿」  ほしおさなえ      ハルキ文庫      ★★★★

月光荘で暮らすようになり、川越の町と人々に馴染んできた守人。家の声が聞こえる守人は、町のあちこちで、残された人の思いに触れていく。それが彼を思わぬ世界に導いて…。


積ん読してた一作目・二作目を読んで、「続き出ないかなー」と呟いたら、まさにそのタイミングで出ました!

血縁とは早くに別れてしまい、孤独だった守人。川越に引っ越したことがきっかけで、彼の閉じていた世界がゆるゆると広がっていく。そんな物語。

今回は、「雛の家」「オカイコサマ」「文鳥の宿」の三話。どの話もよかったのですが、「雛の家」は、胸がギュウッとなるような切なさと、温かさにあふれていて、泣いてしまいました。

大学院の修了時期も近づいてきて、進路について思い悩む守人。しかし、いろんな出会いが、また守人の道を開きます。

今回印象的だったのは、シリーズを通して無駄な登場人物がいない見事さ。そして、不幸が重なり、心を閉ざしていた守人は、本当は人とつながりたいと切望していたのだと納得できたことです。

守人がこれからどうするのか、楽しみです。




2020年6月16日 (火)

3052「占(うら)」  木内昇      新潮社      ★★★★

人が迷うとき、悩むとき、救いを、道しるべを、何に求めるのか…。「占い」にまつわる七つの話。


あー、これは…到底他人事とは思えないというか(苦笑)  世の中には占いなんて全く興味がない人もいますが、朝からテレビで「今日の運勢は?」なんてやってると、つい見ちゃうという人は多いのでは(私は、あのランキング形式の占いが嫌いです)。

かくいう私も子どもの頃から、星座とか、血液型とか、手相とか、いろんな占いに興味があって、雑誌を買ったりしてました。でも、当時は他愛もないことを占っていたのですが、だんだん自分の手に負えないような迷いに直面すると、真剣にすがりたくなることもあるもので。

これは、「占い」に関わってしまった女たちの物語。「時追町の卜い家」「山伏町の千里眼」「頓田町の聞奇館」「深山町の双六堂」「宵町祠の喰い師」「鷺行町の朝生屋」「北聖町の読心術」の七話。微妙なリンクもあって、連作短編としての構成も秀逸です。

とにかく、占いを通して、女たちの浅はかさや醜さや、弱さみたいなものがどんどん明らかになっていく過程が、もう他人事でなくて。ああ、そういうとこあるよねえ、そうなっちゃうよねえ…と、身につまされました(苦笑)

ただ、作者はそんな女たちを嘲笑ったり、断罪したりはしません。思い迷いながら生きる女たちの姿は、愚かかもしれないけれど、私たち自身でもあるのです。最終話まで読んで、そう感じました。

2020年6月13日 (土)

銀の猫

3051「銀の猫」  朝井まかて       文藝春秋      ★★★★

年寄りの介護を請け負う「介抱人」として働くお咲は、母のおかげで借金を抱えている。口入屋の五郎蔵・お徳夫婦に見守られ、介抱人としては引っ張りだこのお咲だが、奔放な母の言動には頭を悩ませていた。


例えば平均寿命六十才ときくと、昔は大半の人がそれくらいで亡くなったようなイメージをもってしまいますが、そうではなくて。乳幼児の死亡率の高さや、都市と地方の格差等で、数値的には低くなるだけで、長生きする人はそれなりにいたのです。

というわけで、長寿社会の江戸の町の介護事情を題材にしたのがこの物語です。

「銀の猫」「隠居道楽」「福来雀」「春蘭」「半化粧」「菊と秋刀魚」「狸寝入り」「今朝の春」の八話。

お咲もいろいろ訳ありですが、彼女が経験から得た介護スキルや、それをもってしても手強い老人たちの描写が実によいのです。そして、介護に悩む家族の姿も。ほんとに他人事じゃないので。

驚いたのは、当時、介護は一家の当主の役割だったということ。嫁とか娘とか、女性の仕事じゃなかったのですね。武家には今でいう介護休暇もあったというのは本当でしょうか。ただ、それは「孝」という価値観のためであって、当事者への配慮ゆえではないのですよね…。

読んでいてなかなかつらいところもありました。でも、優秀な介抱人のお咲にもままならないことがあったり、しんどい介護に風穴を開けようという試みが描かれたり、温かい気持ちになりました。


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