2019年4月13日 (土)

猫がいなけりゃ息もできない

2885「猫がいなけりゃ息もできない」 村山由佳   集英社   ★★★★

軽井沢で五匹の猫と暮らす村山さん。その中でも最年長17歳の「もみじ」は、彼女が生まれたときからずっと一緒。ところが、もみじに悪性の腫瘍が見つかり・・・。もみじが天に召されるまでのエッセイ。Web連載したものを書籍化。

 

泣くとわかっている本を読むのは好きではないのです。これは、連載も読んでいたし、ツイッターでももみじちゃんの発病から亡くなるまでの一連の動向は追っていて、その当時もかなり泣いたので。読んだらまた泣くだけやん・・・と思いつつ、読んでしまいました。

実家の初代猫、二代目猫はもう天国へ逝ってしまいましたが、その猫たちが亡くなる間際のあれこれとか、思い出さずにいられず・・・。状況が違っても、大切なものを失う経験をした人には、刺さります。でも、村山さんは、もみじちゃんへのあふれるほどの愛情を描きつつ、そのときどきの情景や想いを、丁寧に書き綴っています。さすが物書きだなあと感心したり。

今回、一番泣いたのは、あとがきでした。実は、この本を読む直前に、村山さん家にまた新入り猫さんが来たことを、ツイッターで知りました。まるでもみじちゃんの生まれ変わりのようにくつろいでいる姿を見て、「もみちゃん?」とつぶやいてしまったほど(見た目は全く違います)。そのうえで、このあとがきを読んだら、もう・・・。

やっぱりいいなあ、猫。

 

2019年4月12日 (金)

雪の階

2884「雪の階」 奥泉光   中央公論新社   ★★★★★

二・二六事件前夜の東京。堂上華族の娘・笹宮惟佐子は、親友の宇田川寿子が青年将校と心中したことに違和感を抱き、その真相を追う。かつて惟佐子の「おあいてさん」を務め、今はカメラマンになっている牧村千代子に協力を仰ぐが・・・。

 

まず、冒頭の一文で「うわぁ」となりました(苦笑) 一文が長い。私が苦手なタイプ。でも、奥泉さんっていつもこうじゃないよなあと思ったので、きっと何か意図があるに違いないと覚悟し、力づくで読み進めました。

五章から成るのですが、一章ごとに物語の雰囲気ががらりと変わり、さらに主人公の華族令嬢の惟佐子の雰囲気が変わるのです。それは、視点の変化にもよるのですが、冒頭から繰り返し描写される惟佐子のとらえどころのなさが、その変容を是とするような・・・。それでいて、読み終えてみると惟佐子だけが何も変わらなかったのではないかと思わせる。不思議な物語でした。

ミステリなので、寿子の心中をはじめ、いくつか起こる事件の真相を解き明かすことが物語の推進力になっています。それが、この複雑な物語を読み進めるには必要なエネルギー。しかし、ミステリだけでなく、若い女性の恋愛小説でもあるし、当時の社会情勢や華族社会、あるいは世界を席巻しようとしていたヒトラーの思想など、はらんでいる物語は巨大で、いったいどこに運ばれていくのか、先が全く見えませんでした。

そして、この文体が、この物語世界を形作り、支え、読者を幻惑しつつ、終着点へと誘う。作者が、文章の技術を意図的に行使しているのは明らかで、あの技量にただただ圧倒されました。参りました。

すらすら読むのは不可能で、5日間かけてようやくラストにたどり着きました。しかし、なんと豊かな時間だったことか。

ただ一つだけ気になっているのは、惟佐子の弟・惟浩さんのこと。別人のように変貌してしまった彼は、その後どうなったのでしょうか。

2019年4月 7日 (日)

謎とき『風と共に去りぬ』 

2883「謎とき『風と共に去りぬ』 矛盾と葛藤に満ちた世界文学」 鴻巣友季子   新潮選書   ★★★★

名作と名高い「風と共に去りぬ」。しかし、それは映画版であって、マーガレット・ミッチェルによる原作は、映画版とは決定的に異なるものでもあった。新訳版を手がけた筆者が、文学としてあまり研究されてこなかった「風と共に去りぬ」をテクスト批評、作者一族の生い立ち等を含め、ミッチェルが何を描こうとしたのか、そのテーマと意義に迫る。

 

「100分de名著」の「風と共に去りぬ」の回が、めちゃくちゃおもしろかったと聞いて、見ればよかった・・・と後悔。せめて、これでも読もうと買ってきましたが、これまたとってもおもしろかったです。

基本的に海外文学の素養がないので、当時のアメリカ文学の様相とかよくわかってないのですが(苦笑) 鴻巣さんがわかりやすく説明しているので、マーガレット・ミッチェルの「新しさ」と「古さ」がよくわかりました。

ミッチェルの時代だけでなく、世の価値観というのは新旧をはじめ、対になるものが混在しているのが常で、それとどう折り合いをつけていくかが生きていくうえでの大きなテーマの一つだと思うのですが。「風と共に去りぬ」のおもしろさは、対立するもののせめぎあいを作者が意識して、実に意図的に物語の中に落とし込み、さらに文体でもそれを表現しえたということなのでしょうね。

私にとって「風と共に去りぬ」は、生まれて初めて「ハマった」映画で、学生時代は寮の部屋にポスターを貼っていました。宝塚にハマっていた当時は、上演された「風と共に去りぬ」のいくつかのバージョンも見ました(スカーレット編とか、バトラー編とかあるのです)。だから、あのドラマティックでロマンティックな世界が「風共」だと思っていましたが・・・それは、映画のために作られた世界観だと知り、愕然としています。そう、原作は未読なのです。

というわけで、「風とともに去りぬ」は、今年の課題図書です。もちろん、鴻巣さんの新訳版で。

 

 

 

 

 

 

 

 

2019年4月 5日 (金)

駒音高く

2882「駒音高く」 佐川光晴   実業之日本社   ★★★★

 

将棋が好きで、棋士を目指す少年。夢破れて、違う道を歩む者。将棋の世界に関わるさまざまな生き方を描く物語。

 

将棋好きな子どもたちの話かなあと思っていたら、いきなり第一話「大阪のわたし」が、将棋会館の清掃をしている60代の女性の話で、ものすごく驚きました。彼女は棋士でもなんでもなく、たまたま会社の指示で将棋会館の清掃をしていて。それでも、平凡すぎる人生において、将棋とのわずかな関わりがあって、それが彼女の人生をほんの少し明るく照らしてくれる。そんな話。

短い話なのだけれど、その中に奥山チカという女性の人生がギュウッと凝縮されていて、不思議とあたたかい気持ちになれる、とってもいい物語でした。この第一話ですっかりつかまれてしまって、その後の話もむさぼるように読み進めました。

将棋に魅せられた少年の話もあり、挫折してしまった少年の話もあり。プロ棋士を目指す娘を応援しつつ、とまどう母の話。生涯の伴侶を得る話。棋士をあきらめ、記者になった男。引退間際の棋士。

「将棋」というしばりの中で、これだけ豊かな物語が展開する。登場人物と一緒に泣いたりしながら、なんだかとても幸せな気分になりました。

第一話から第七話まで、必ず登場する少年がいます。時には名前が出てくるだけだったりしますが。時間の経過とともに、彼は成長し、将棋の実力も確実につけていきます。凛とした彼のたたずまいが、この物語の背骨になっているのでしょう。

ちなみに、将棋は全くわからず。この物語でも、駒の動かし方など、簡単に説明しているところもありますが、何がなんだか(苦笑) でも、棋士という人種には、すごく興味があるのですよね、以前から。

2019年4月 4日 (木)

秋萩の散る

2881「秋萩の散る」 澤田瞳子   徳間書店   ★★★★

 

孝謙女帝の没後、下野国に追いやられた道鏡。そこで出会った一人の老僧は、道鏡にある提案を。動揺する道鏡だったが、自らが置かれた境遇を思い、その提案に乗ろうとするが・・・。

 

道鏡を主人公にした表題作のほか、「凱風の島」「南海の桃李」「夏芒の庭」「梅一枝」の五編。道鏡のほかにも、吉備真備や、鑑真、阿倍仲麻呂など、教科書に登場するようなビッグネームも登場します。また、聖武太上天皇や孝謙天皇、藤原仲麻呂(恵美押勝)といった人物の名がたびたび登場します。

一番心に残ったのは、「夏芒の庭」です。大学寮で学ぶ若者たちの姿を描いたこの物語は、主人公の上信や雄依の純粋な心根に思わず涙してしまいました。いずれ官吏になるのが大学寮の学生たちの目標。とはいえ、学問の素養もあまりなく、家に居づらいために大学寮に飛び込んだ上信は講義についていけず。一方、日向から上京してきた雄依はとんでもなく成績優秀だけれど、全くまわりとなじもうとしない変わり者。まだ学生の身の彼らの周囲にも、濁世の余波が・・・。

まだ社会をしらないひよっこたちだけれど、それゆえにまっすぐで、それゆえに傷ついていたりして。それでも、理不尽な世の中をどうすればいいかを真剣に考える若者の集まりなのです。

「それは当然だろう。国が綺麗事だけで動かぬぐらい、俺だって承知だ。だが他ならぬ俺たちがそれを諦め、我欲に走っては、国は国として成り立たなくなる。官吏は天下の百姓(ひゃくせい)に成り代わり、国を動かす代弁者なのだ。」

上信のこの言葉に、泣けてきました。

混沌とした世の中を必死に生きていた人々を描いた物語でした。

2019年4月 2日 (火)

仏像ロケ隊がゆく 見仏記7

2880「仏像ロケ隊がゆく 見仏記7」 いとうせいこう みうらじゅん   角川文庫   ★★★

おなじみ見仏の旅もはや20年以上。相変わらずのいとうさんとみうらさんだが、時の流れは確実に押し寄せ・・・。今回は、「新テレビ見仏記」とのメディアミックス。4Kカメラも登場して・・・。

 

いやはや、お二人の自由さは相変わらずですが、以前に比べるとご自身の年齢を意識されることが増えたようで(笑) しかし、見物の旅を始めたころは、胡散臭いものを見るような目を向けられていたお二人が、今では行く先々で歓待され、さまざまなイベントで「仏像大使」も務められ。なんだかこちらまでしみじみしてしまいました。

私もこのシリーズを読み始めた当時は行ったことがなかった寺院に行く機会に恵まれ、「見仏記」に登場する仏像のあれこれを実際に目にすることができました。特に愛してやまない奈良の寺院が舞台になっているところは、「あ~、わかる」「そうだったのか・・・」などとつぶやきながら読む妖しい人になっています(苦笑)

全く宗教的ではなく、ただ好きな仏像を愛でるだけの旅。ただ、いとうさんとみうらさんの思考は、たまにものすごい飛躍をして、人は仏教に何を求めてきたのかを考えさせられるような瞬間がきます。それがまたおもしろいのです。

これ読んでたら、また東大寺に行きたくなりました・・・。

2019年4月 1日 (月)

くれなゐの紐

2879「くれなゐの紐」 須賀しのぶ   光文社   ★★★★

死んだと思っていた長姉のハルは生きている? 手がかりを追って田舎を出奔した仙太郎は、浅草の紅紐団という少女ギャング団の長・操に拾われる。ただし、女装するという条件で。男装の操をはじめ、副団長の倫子、女給をしている絹、花売りのあやたち、紅紐団の女性たちと関わる中で、仙太郎はそれまで見たことのない角度から世界をのぞくことになり・・・。

 

大正末期の浅草を舞台にした物語。かつては賑わいの中心であったろう浅草十二階こと凌雲閣はすっかり飽きられ、もはや展望台に登る人もまれ。そんな時代です。

仙太郎の上の姉・ハルは、優秀ながら女ゆえに上の学校に進めず、奉公に。やがて縁談が持ち上がったものの、嫁入りの矢先に崖から飛び降りてしまう。そんなハルが生きているらしいと知った仙太郎は、一路東京へ。そこでふとした縁で拾われたのが、今をときめく紅紐団。強い絆と操のカリスマ性に結び付けられた少女たちは、さまざまな手段で収入を得て、浅草で生き延びていた・・・というのが、基本設定。

とにかく、登場する女性たちがそれぞれに魅力的なのですが、皆、とても痛々しい。そして、女性特有の閉塞感が、読んでいてしんどい。前半は彼女たちの生き方と、それを見つめる仙太郎がどうにも歯がゆくて、爽快感がないのがつらかったのですが。

後半、仙太郎が内なる怒りに気づくと同時に、物語が大きく動き出して、第五章「白白明」はまさに息もつかせぬ展開! いや、だからといって彼女たちの人生に一気に光さすわけでなく、仙太郎がどう頑張っても、一朝一夕に何かが変わるわけでもないのだけれど。

それでも、そんな生きる術しか持たない女性たちがいることを仙太郎が知ったこと、そしてあやが新しい人生をスタートしたことは、救いでした。

2019年3月31日 (日)

日本怪談集 取り憑く霊

2878「日本怪談集 取り憑く霊」 種村季弘・編   河出文庫   ★★★★

時に人に、時に物に。霊はなにゆえ取り憑き、私たちの前に姿を見せるのか。江戸川乱歩や小松左京、芥川龍之介ら、錚々たる作家による怪談アンソロジー。

1989年刊行の「日本怪談集(下)」を復刊。

 

これ、持ってました。かなり気に入ってたのですが、度重なる引越しで行方不明に。特に、小松左京「くだんのはは」は、ある意味トラウマになりそうなくらいインパクトがあって、忘れられない作品だったので、いつか読み返したいと思っていたのです。それが、丸善ジュンク堂書店の企画で復刊!

収録作品は、以下の通り。

森銑三「猫がものいふ話」、小松左京「くだんのはは」、内田百閒「件」、結城昌治「孤独なカラス」、藤沢周平「ふたたび 猫」、岡本綺堂「蟹」、三浦哲郎「お菊」、岡本綺堂「鎧櫃の血」、橘外男「蒲団」、森銑三「碁盤」、柴田錬三郎「赤い鼻緒の下駄」、藤本義一「足」、舟崎克彦「手」、江戸川乱歩「人間椅子」、田中貢太郎「竈の中の顔」、三島由紀夫「仲間」、芥川龍之介「妙な話」、久生十蘭「予言」、吉田建一「幽霊」、正宗白鳥「幽霊」、折口信夫「生き口を問ふ女」

この豪華なラインナップ! そして、種村季弘の解説!

学生時代、種村季弘にはまって、そこからこれを手に取り、ホラーというか、幻想文学というか、そういうジャンルにしばらく没頭していたの、懐かしく思い出しました。

やはり、「くだんのはは」は圧巻だと思うのですが、ここ数年愛読している岡本綺堂にもこの本で出会っていたのですねえ。乱歩を読んだのも、このアンソロジーが初めてだったと思います。なんというか、自分の根っこを再確認した気分でした。

しかし、因果が明らかにならない話って、後に残るモヤモヤ感が半端なくて、怖いです。

2019年3月27日 (水)

熱帯

2877「熱帯」 森見登美彦   文藝春秋   ★★★★

 

「この本を最後まで読んだ人間はいないんです」・・・友人に誘われて行った沈黙読書会で、「私」はかつて最後まで読みきれないまま行方不明になった本『熱帯』を持っている女性と出会う。彼女が『熱帯』について語り始めると、そこに広がった世界は・・・。

 

ブラボー! ブラボー、登美彦氏!!  読み終えた瞬間、私は心の中で喝采を送っていました。

物語とは何なのか。物語を読む楽しみとは。なぜ人は物語を欲するのか。・・・本読みが心に抱えているそんな想いを、物語を書くことで結晶させたのが、この「熱帯」かもしれません。

『千一夜物語』をベースにして、不思議な入れ子構造でめくるめく物語世界がどんどん増殖していくこの感じ。もう理屈でなく、ただただ物語の世界に浸り、それを楽しんだ、芳醇な読書の時間でした。好きだなあ、こういうの。

これ、どのエピソードがどこでどうつながっているのかとか、あれこれ読み解いていくのも楽しそう。もちろん、ただ波間を漂うごとくに流されていてもよいのですけれど。

こんなにワクワクしながら本を読んだのも久しぶりな気がします。

2019年3月24日 (日)

フーガはユーガ

2876「フーガはユーガ」 伊坂幸太郎   実業之日本社   ★★★★

 

双子の優我と風我は、誕生日にだけ起こる不思議な現象を有効活用してきた。あまり恵まれない生い立ちの二人だけれど、彼らは誰かを助けることができるのか?

 

伊坂氏の待望の新刊をようやく読めました・・・。そして、読み終えて、しばらく茫然としていました。

いつもながら散りばめられた謎と伏線の数々。これは何かあるでしょ? この人は絶対クライマックスで絡んでくるはず。・・・などと、あれこれ考えながら読んでいたのは、優我たちの育った環境がしんどかったからです。なんでしょう、このタイムリーさ。世の中で親による虐待が話題になっているこの時期にこれかよ・・・と。

それでも、へこたれない優我と風我は、妙にたくましく生き延びてきました。そんな彼らが直面するさまざまな理不尽をなぎたおしていく物語かと思いきや。

いや、決してバッドエンドではないのだけれど。

胸糞悪い事件の中で、再び奇跡が起こらないかなと思ってしまったので。実は・・・なんてどんでん返しが起こらないかな、と。

せつなくて、泣けてしかたなかったです。

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