2020年1月18日 (土)

落花狼藉

2994「落花狼藉」  朝井まかて      双葉社      ★★★

家康亡き後、果たして江戸の町がこれからどうなるのか、誰にもわからない頃。吉原という売色御免の町を造り上げた庄司甚右衛門。「親仁(とと)さん」と皆に慕われる甚右衛門の女房・花仍(かよ)は、甚右衛門に拾われ、西田屋で育った。何かと規格外の花仍だが、町を守るために闘い続ける。


いきなり冒頭の場面で驚かされました。女郎たちと歌舞伎踊りの連中との諍い。そこに割って入った西田屋の女将・花仍が、剣術をつかうのですから。規格外にもほどがある(笑)

吉原が移転したこと、大火に見舞われたことは知っていましたが、こうしてみると大変なことであったのだなあと改めて感じます。江戸物は好きで読んでいますが、中期以降が舞台のものが多くて、この辺りは新鮮でした。

主人公の花仍が一筋縄でいかないというか、なかなか成長しないヒロインで、何度も失敗して、後悔を繰り返すのです。前半はちょっとイライラしましたが、人間ってこんなもんかもしれないなあ…と、徐々に思うようになりました。

幕切れの一行が見事です。

2020年1月14日 (火)

独ソ戦

2993「独ソ戦    絶滅戦争の惨禍」  大木毅      岩波新書      ★★★★

ドイツとソ連の戦争は、なぜあれほど凄惨で、野蛮で、想像を絶する惨禍となったのか。日本ではあまり知られていない 「人類最悪の戦争」の本質とは。


ここ二、三年、第二次世界大戦下の日本以外の戦線に関する本をいくつか読む機会がありました。そして、自分の知識が非常に乏しいことに愕然としました。そんなタイミングで出たこの本。どうしようか迷いましたが、呉座勇一先生の推薦文に背中を押されました。

読んで驚いたのは、戦争に至る過程での、指導者のひどさです。ドイツも、ソ連も。とにかく第一章だけで唖然としました。こんな人たちの号令一下、どれだけの人命が失われたのか…。

彼らがあの戦争を「何のために」遂行したのか。さらに、それぞれの国民が、なぜ戦争をやめる方向に動けなかったのか。…これはもう、他人事とは思えません。日本もかつては…という話でなく。今も、どの国であっても、かつてのドイツやソ連と同じ轍を踏まない保証はない。私たちはそれを自覚すべきです。

また、怖いのは、この戦争の真実は、戦後ソ連では情報公開されず、ドイツでは歴史修正主義者たちによりねじ曲げられて伝わってきたということです。

過去のあやまちを正確に知ることは、同じあやまちを繰り返さないために、絶対必要なことです。


2020年1月12日 (日)

残酷な王と悲しみの王妃2

2992「残酷な王と悲しみの王妃2」  中野京子      集英社文庫      ★★★

ルートヴィヒ2世(ドイツ)、アレクサンドル3世妃マリア(ロシア)、カルロス4世(スペイン)、カロリーネ・マティルデ(デンマーク)の4人をめぐる歴史物語。


ああ、そういうことだったのか…というのがいっぱいあるのです、中野さんの著書は。西洋史に詳しい方には常識かもしれませんが、私なんかはよくわからない…というポイントを、実に的確に、丁寧に説明してくれるので。

そもそもかつての「国」や「王」に関する感覚が、現代とは(あるいは日本人とは)違う…というのも、中野さんの著書で認識したので。(イングランドの王はドイツ系と聞くと、なんで?って思うじゃないですか)

今回は、ルートヴィヒ2世の話が面白かったです。かのエリザベートとの相似とか。ミュージカルのおかげで世界中でヒロインになったシシィを「変人」と断じているのに吹き出してしまった…。

それから、ロマノフ王朝最後の皇帝の母・マリアの話。こういう生い立ちだったのですね。

2020年1月10日 (金)

活版印刷三日月堂 空色の冊子

2991「活版印刷三日月堂  空色の冊子」  ほしおさなえ      ポプラ文庫      ★★★★

「三日月堂」に弓子が帰ってくるまで、あの小さな印刷所でどんな時間が流れていたのか。本編では描かれなかった過去を紡ぐ番外編。


4巻で完結じゃなかったのっ?

…書店でこの本を見つけたとき、思わず叫びそうになりました(苦笑)  もちろん、嬉しくて。というわけで、シリーズ5冊目は、スピンオフ短編集。

「ヒーローたちの記念写真」「星と暗闇」「届かない手紙」「ひこうき雲」「最後のカレンダー」「空色の冊子」「引っ越しの日」の7編。弓子の父、祖父母、三日月堂に関わる人はたちそれぞるを主人公に、本編に至るまでの道のりを語ってくれます。

弓子の父が主人公の「星と暗闇」、祖母が語る「届かない手紙」は、号泣しました。自分にとって大事な人が亡くなることの重さが、わかりすぎて。本編は、肉親を失い、ひとりぼっちになった弓子の再生の物語。彼女が抱えた孤独の深さに、私は今更ながら気づいたのでした。

弓子は芯の強い女性です。その強さのもとには、祖父の姿があるのかもしれないと、「空色の冊子」から感じました。やけにならず、あきらめず、毎日を暮らしていく。その大切さ。

ところで、これで終わりかと思ったら、さらにもう一冊! 今度は三日月堂の「未来」だそうです。



2020年1月 8日 (水)

タスキメシ 箱根

2990「タスキメシ  箱根」  額賀澪      小学館     ★★★★

紫峰大学駅伝部の主将・千早はとまどっていた。「栄養管理兼コーチアシスタント」としていきなり現れた眞家早馬なる人物が、どうにも苦手だったからだ。かつては日農大駅伝部員で、弟はオリンピックを目指すマラソンランナーだという早馬は、妙に見透かすようなこと言動で千早を苛立たせる。箱根を目指す最後の年なのに…。


「いだてん」にはまった後の箱根駅伝は、感慨深いものがありました。筑波大がテレビに映るたびに「東京高師!」と叫び、金栗四三さんの娘さんたちの言葉に涙し…。という経過ののちの「タスキメシ  箱根」。

前作「タスキメシ」の早馬が、ちょっと大人になって登場します。箱根を給水係として走った早馬は、箱根出場を目指す紫峰大のコーチに。まあ、メインは栄養管理というか、食事作りですが。そんな早馬と、何かと早馬につっかかる主将の千早、双方の視点で物語は進みます。

「努力は人を裏切る

この物語のテーマ(?)は、これです。どれだけ気をつけても、人間は病気や怪我をする。どれだけ練習しても、勝てないこともある。「できないのは努力が足りないからだ」なんて言葉が通用しないことなんて、珍しくない。不条理なことなんて、歳を経るごとにいくらでも経験します。

では、裏切られたら、人はどうするのか?

…努力に裏切られた経験をもつ早馬が、さらに若くてまだ「努力に裏切られた」ことのない千早たちにどう向き合うのか…その過程を通して、作者なりの答えが示されます。

私は長距離走なんてやったことがありませんが、早馬や千早たちが駅伝を通して感じていることは、わかる気がします。だから、せめて千早たちには傷ついてほしくないと思い、彼らが涙したときには一緒に涙してしまいました。

努力に裏切られた自分を愛せるか。

「愛」という言葉は抽象的だけれど、突き詰めればそういう表現に帰結するのかもしれません。

2020年1月 7日 (火)

べらぼうくん

2989「べらぼうくん」  万城目学      文藝春秋      ★★★★

 一浪のすえ、京都大学法学部に合格。在学中に小説を書きたいと思いはじめ、就職氷河期に採用された会社を三年で退社。無職となって執筆に専念するも、新人賞では落選続き…。「鴨川ホルモー」でデビューするまでの日々を綴ったエッセイ。


私の中で、万城目学と森見登美彦は同じ箱に入ってまして。関西が舞台になっている作品が多いのと、ファンタジーなんだかよくわからない奇妙な作風であることと、ご本人もなんだか得体の知れない方だというイメージがあることが共通項(笑)

森見さんはエッセイを読んで、「そういうことを考えてるのか~」と妙に納得したのですが、では万城目さんは? 「バベル九朔」の、テナントビルの管理人という設定が、ご本人の実体験と知ってから、俄然興味が湧いていたのです。

なんというか、面白かったです。私自身、現在無職なので(専業主婦という言い訳はできますが)、無職に至る過程や無職になってからの部分は身につまされました。でも、やっぱりやり続ける力というか…万城目さんだからこそ出来たんだよなあ、と。

万城目さんはご自分をすごく客観視して分析しています。それも、作家の資質なんでしょうね。

「鴨川ホルモー」、久々に読みたくなってきました。

2020年1月 5日 (日)

信長、天を堕とす

2988「信長、天を堕とす」  木下昌輝      幻冬舎      ★★★

己は強いのか。信長は強さを証明するために、今川との戦を決断する。しかし、今川義元を倒した信長は、複雑な思いにかられていた。


今年の大河ドラマ「麒麟がくる」は明智光秀が主人公だし、久しぶりに信長もいいかなあ、と手にとりました。

かつて、私にとってのヒーローは織田信長だったので(その前は源義経、信長の後は土方歳三)、信長には煩いんです(笑)

さて、桶狭間や姉川の戦い、大坂本願寺との戦いや長篠の戦いなど、生涯における大きな節目の戦をポイントにして、信長の人物像に迫る物語なんですが。う~ん、迫った…かな? 私にはいまいちピンときませんでした。

森乱(いわゆる蘭丸ですね)や、お市の方、茶々、勿論光秀も重要人物として登場するのですが、みんな何かしっくり来ないというか。茶々のくだりは、無理があるよなあ…と思ってしまったので。そして、最後に行き着く先がそこかぁ、と。

ちょっと期待し過ぎたかもしれません。エピソードも細切れに感じてしまって、私にはもの足りなかったです。


2020年1月 3日 (金)

なめくじ艦隊

2987「なめくじ艦隊   志ん生半生記」  古今亭志ん生      ちくま文庫      ★★★

大名人古今亭志ん生が、自らの生い立ちや芸について語った半生記。


個人的に2019年は「いだてん」にはまりまくった年でした。1月6日、初回放送のトークショー(中村勘九郎さん・橋本愛ちゃん・訓覇プロデューサー)&パブリックビューイングに参加してから、ずっと「いだてん」漬け。日曜日は18時からBSで見て、20時は地上波、さらに翌日以降は録画視聴、土曜日の再放送も可能な限り見てました。

そんな「いだてん」の中で私の一番の弱点が、落語でした。志ん生も名前は知ってたけど、噺を聞いたことないし。落語にそこそこ詳しい夫のレクチャー受けながら見てました(のちに落語パートにあれほど泣かされることになるとは…)

その流れで、これも夫から借りました。志ん生という人は、自分のことを語るにもけっこうテキトーで話が食い違ったりする…とは聞いてましたが、意外と真っ当なことを語ってて(笑)  若い頃なんかひどい生活してるんですが、いろいろ経てきて、自分なりに筋が通ってるんですね。で、若い頃の駄目な自分を変に美化しない。その辺がかっこいいなあと。

「いだてん」のおかげで落語に興味が出てきたので、いずれ寄席に行ってみたいですねえ。

というわけで、2020年読み初めです。今年もよろしくお願いいたします。

2019年12月31日 (火)

八つ墓村

2986「八つ墓村  横溝正史自選全集3」  横溝正史       出版芸術社      ★★★

分限者・田治見家の相続人として見出だされた辰弥は、同時にその村で起こったという凄惨な大量殺戮事件のことを知らされる。かつて落武者たちを惨殺した八つ墓村に帰った辰弥は、不可思議な連続殺人事件に巻き込まれてしまう。


BSプレミアムでドラマ化されたのが、なかなかよかったのですが(金田一耕助は吉岡秀隆)、典子って誰?ということで、原作を読んでみました。

典子!すごい存在感!というか、この物語で唯一の救いというか。…映画では、これがカットされて、その代わり美也子の出番が増えたのですね。たしかに、原作では終盤は美也子がほとんど姿を見せなくなっていました。

「典子がいると話が複雑になる」という意見をどこかで読みましたが…そうなんでしょうか。私としては典子の存在に救われましたけど。

そして、映像化作品ではイマイチ理解できなかった人間関係も、活字で読んだら納得しました。

というわけで、これが2019年の読み納め。

2019年12月28日 (土)

2019年マイベスト

①  「白銀の墟  玄の月」  小野不由美  (新潮文庫)

②  「戦争は女の顔をしていない」  スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ  (岩波現代文庫)

③  「夢見る帝国図書館」  中島京子  (文藝春秋)

④  「鹿の王  水底の橋」  上橋菜穂子  (角川書店)

⑤ 「宝島」  真藤順丈  (講談社)

⑥  「三ノ池植物園標本室」  ほしおさなえ  (ちくま文庫)

⑦ 「いつかの岸辺に跳ねていく」  加納朋子  (幻冬舎)

⑧ 「熱帯」  森見登美彦  (文藝春秋)

⑨  「化物蝋燭」  木内昇  (朝日新聞出版)

⑩  「黒武御神火御殿」  宮部みゆき  (毎日新聞出版)


いつものことながら、悩みに悩んで、こういうラインナップになりました。

第1位は当然これでしょ!という感じ。待った時間の長さと、その長さの分の期待を全く裏切らない密度の濃い物語でした。

今年は外国文学をあまり読めなかったのが痛恨事。しかし、第2位はものすごい破壊力がありました。ノーベル賞を受賞した「チェルノブイリの祈り」もすごいです(「すごい」という感想は忌避してきましたが、ほかに言葉が見つからない)。また、ランクインしなかったけど、「82年生まれ、キム・ジヨン」もすごかったです。日本だけじゃないんだ!と。女性には一度読んでほしい一冊。それから、コニー・ウィリス「クロストーク」は面白かった!

ほかに印象に残ったのは、以下の通り。

ケイト・モートン「秘密」     吉田修一「犯罪小説集」「続 横道世之介」    米澤穂信「本と鍵の季節」    伊坂幸太郎「フーガはユーガ」「シーソーモンスター」「クジラアタマの王様」    佐川光晴「駒音高く」    奥泉光「雪の階」    大島真寿美 「渦  妹背山婦女庭訓   魂結び」    今村昌弘「魔眼の匣の殺人」    森谷明子「南風吹く」    上橋菜穂子「風と行く者」    村上しいこ「うたうとは小さないのちひろいあげ」    原田マハ「美しき愚か者たちのタブロー」    木内昇「よこまち余話」    恩田陸「祝祭と予感」    宮部みゆき「さよならの儀式」    額賀澪「競歩王」    伊吹亜門「刀と傘」    若竹七海「不穏な眠り」      

それから、鴻巣友季子「謎とき『風と共に去りぬ』」(新潮選書)は、なかなかスリリングな一冊でした。これに触発されて「風共」を読みはじめたものの、途中で止まっています。来年の課題図書だなあ。

2018年に比べると、今年はだいぶ本を読めたのですが、歳のせいか集中力が続かない…。でも、コツコツ読んでいきます!

2019年は、出版業界でもいろいろな出来事があり、一読者にすぎない私も、「は?何それ?」と思うことが一度ならずありました。一生懸命書いている作家さんや、いい本を作ろうと頑張っている編集さんがいる限り、出版社への期待と信頼を捨てたくはないのですが。これからも動向は注視していこうと思います。

さて、今読みかけの本を年内に読みきれるかどうか…という年の瀬ですが、以上を持ちまして、2019年の読書のまとめといたします。今年もいい本といっぱい出会えて幸せでした。拙い感想を読んでくださった皆さま、コメントくださった皆さま、ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。

2020年も、お互い素敵な本との出逢いがありますように。




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