2017年2月19日 (日)

うさぎ幻化行

2538「うさぎ幻化行」 北森鴻   創元推理文庫   ★★★

義兄の圭一が、飛行機事故で死んだ。リツ子を「うさぎ」と呼んでいた優しい義兄が遺したのは、「うさぎ」あての手紙と、「音のメッセージ」。その音は、日本の音風景百選の一部だったが、奇妙な仕掛けがほどこされていて、リツ子はその謎を解こうとするが・・・。

「音」を題材にしたミステリ。裏表紙のあらすじを読んだときには、もう少し甘めの物語を想像していたのですが、予想よりハードでした。

話が思ったより入り組んでいて、最後まで読んだ後は、「ん?じゃあ、あれってどういうこと?」となったりしました。ミステリとしてもすっきり謎解きという感じではなく、読者が察してくださいという雰囲気だったし。

なんともやりきれない物語でもありました。読み終えて表紙のイラストを見ると、なんとも言えない気分になりました。

北森さんが亡くなってもう9年が過ぎたのですね。未読の作品もあるので、大切に読んでいきたいと思います。

2017年2月18日 (土)

骨を彩る

2537「骨を彩る」 彩瀬まる   幻冬舎文庫   ★★★★

十年前に妻を病気で亡くした津村。心惹かれる女性と出会ったが、妻に対する罪悪感が消えない。「だれもわかってくれない」・・・妻が手帳にのこした言葉が、津村を縛っていた。

「指のたより」「古生代のバームロール」「ばらばら」「ハライソ」「やわらかい骨」の5編から成る連作。

いつもながら、彩瀬さんの書く物語は、ひりひりと痛い。あえてそこに触れなくても・・・というところに触れてくる。日常にまぎれて気づかないふりをしていることや、こちらの感覚が鈍磨していてスルーしてしまっていることに、ぴたりと焦点をあててくる。

登場人物と自分はまったく違うのに、どこかしら似たところを見つけてしまって、ひどく居心地の悪い思いをしてしまう。でも、気になるから読まずにいられない。

私にとって、彩瀬まるというのは、そういう作家です。「骨を彩る」も、やはりそうでした。津村の交際相手だった光恵が、千代紙細工をせずにいられない思いに、ドキリとさせられたり(「古生代のバームロール」)。「しっかり者」と言われる玲子が自分を追い詰める姿に共感したり(「ばらばら」)。

そうして、それぞれの登場人物たちに心揺さぶられながらたどりついたラストで、ぶわっと涙腺決壊しました。生きていくことって、いろんな欠落に気づかされることだし、思うに任せないこともたくさんあるけれど、何かが通じることもたまにだけどあるんだよな、と。

ひりひり痛いのだけれど、読んだあと、ほんの少し温かい気持ちになれる、そんな物語を書いてくれる彩瀬さん。やはり、これからも読み続けたい作家さんです。

2017年2月16日 (木)

あきない世傳金と銀 三 奔流篇

2536「あきない世傳金と銀 三 奔流篇」 髙田郁   ハルキ文庫   ★★★

五代目五鈴屋徳兵衛となった惣次と夫婦になった幸。商いに命をかける惣次を支えつつ、自らも商いの工夫をし、五鈴屋は順調に盛り返していったかに見えたが・・・。

四代目のときとは違って、惣次は幸にほれているようだし、商いも順調で、とんとん拍子かと思えば・・・というお話。そりゃそうですよね。いいことだけだったら、物語になりません。

幸も二十歳になり、すっかり「ご寮さん」が板についてきたようで。しかし、最初のうちは幸の商いの工夫を喜んで聞いていた惣次が、徐々に「後ろに隠れていればいい」と言う様になるあたりは、なんだかざわざわしました。そんなもんですかねえ。惣次は商人としてのプライドも高いから、幸の方が柔軟な発想ができるのが怖かったのかも。この後、この夫婦はどうなってしまうんでしょうね。

しかし、幸は強いなあ。いろんなことが起こるけど、基本的に動じてない感じがするんですよね。「図太く生きろ」って言われたからって、そんなに強くなれるものなの?と、ヘタレな私は思ってしまいました。そこがイマイチこの物語にのめりこめない原因かも。

とは言え、幸の今後は気になるので、次巻を楽しみに待ちたいと思います。

2017年2月12日 (日)

文庫解説ワンダーランド

2535「文庫解説ワンダーランド」 斎藤美奈子   岩波新書   ★★★★

文庫についている「解説」とは、いったい何? 並み居る名作やベストセラーは、どう「解説」されてきたのか。読者を発見と混乱に導く文庫解説とは。

文庫解説の解説? そりゃおもしろそうだ。しかも、斎藤美奈子さんだし。

と手に取ったら、見事に当たりでした。いや、おもしろかった。

たとえば、夏目漱石「坊っちゃん」、川端康成「伊豆の踊子」、太宰治「走れメロス」など。これら名作と称される作品たちは、どんなふうに「解説」されてきたのか。いろんな文庫で出ているので、これらを比較することで見えてくるものとは・・・。

また、チャンドラー「ロング・グッドバイ」とフィッツジェラルド「グレート・ギャツビー」の共通点とは? 「武士道」をどう読むか? 松本清張作品への超辛口解説とは? 小林秀雄作品への解説はこれまた難解? などなど。(これらは、ほんの一部です)

文庫を読むと、解説も一応読むんですが、けっこう「なんだこりゃ」なことがありまして。はっきり言えば、「一冊で二度おいしい」という経験の方が少ない気がしてたんですが、どこがおかしかったのか、これを読んでよくわかりました。そうか、そもそも「解説」になってなかったんだ。

ただ、たまに解説がすごくよく書かれていて、その後感想を書こうとしても、すべて解説の引き写しになりそうで参ってしまうこともあります(杉江松恋さんの恩田陸「夏の名残りの薔薇」解説がそうでした)。でも、それでこそ、「解説」なんですよねえ。

これからは、文庫の解説を読む視点もちょっと変わりそうです。

2017年2月11日 (土)

惑星カロン

2534「惑星カロン」 初野晴   角川文庫   ★★★★

文化祭が終わり、清水南高校吹奏楽部の3年生も引退した。いよいよ部を引っ張る代になったチカやハルタたち。まずは目の前にせまったアンサンブルコンテストに向けて練習を重ねるが、伸び悩む(?)チカの前に、「呪いのフルート」が・・・。

「チェリーニの祝宴」「ヴァルプルギスの夜」「理由(わけ)ありの旧校舎」「惑星カロン」を収録。ハルチカシリーズ第5弾。

今回は、「呪いのフルート」に始まって、怪しい音楽暗号、密室ならぬ鍵全開事件、そして、人間消失事件という謎。いつもながら、吹奏楽に一生懸命なチカたちの「寄り道」が語られます。

吉田大助さんの解説が的を射ていて、それ以上のことは書ける気がしないのですが・・・。感じたのは、このシリーズがじりじりと時を進めていっているということです。もともと、語り手(たぶん、チカ)が過去を回想する形で展開する物語なのですが(「イントロダクション」に明記されています)、徐々にこの物語のゴールに近づいていっていることを、痛感させられた今回でした。

がむしゃらに突っ走ってきたチカも、先輩の引退と、やがて入ってくる後輩の存在を目の当たりにして、自分たちの「ラスト」を意識し始めます。また、最大の謎であった「世界的な指揮者になるはずだった草壁信二郎は、なぜ南高の先生をしているのか」ということも、少しずつ明らかになりそうな気配が。

そんなこんなで、いつもとはまた少々違った意味で胸苦しさを感じる巻でしたが、「惑星カロン」のラストでは、思わず涙が・・・。いや、自分でもビックリしたんです。いきなり泣けてしまったので。自分の中にも、そういう純粋さがまだあったのか、と(苦笑) 

ところで、映画化されるんですよね。すごく気になっているのは、まさか、ありがちな吹奏楽ものの青春映画になるんじゃないですよね?ということ。これは、ミステリだというところが肝なんであって、ただの青春ものにしたら許さんで~と。

ただ、映画化にあわせてなんでしょうけれど、続刊が今月文庫書下ろしで刊行というのは、ちょっとうれしいかもです。

2017年2月 4日 (土)

さよならの手口

2533「さよならの手口」 若竹七海   文春文庫   ★★★★

四十過ぎの女探偵・葉村晶(ただし、現在休業中)は、ミステリ専門店でバイト中。古本の引き取り先で、白骨死体を発見して負傷、入院。その病院で、同室の元女優・芦原吹雪から二十年前に家出した娘の捜索を依頼される。余命いくばくもない吹雪のために依頼を引き受けた晶だが、意外な事実が次々と浮かび上がり・・・。

葉村晶シリーズの「静かな炎天」は、静かなブームらしいですね。私も去年のマイベストにランクインさせましたが。その「静かな炎天」の前の物語が、これ。長谷川探偵事務所をやめた晶が、どうして「白熊探偵社」の探偵になったのかという物語。

晶は、探偵としてはとっても有能。けれど、とっても不運。今回だって、想像するだけで恐ろしいような目に何度も遭ってます。それでも探偵をやめない晶って、とってもタフ。

しかも、今回は、事件が二重にも三重にも絡まって、こっちの事件の合間に、別の事件が展開して、さらにこの事件つながりと思っていたら、実は・・・なんていう、複雑な構造。でも、不思議なくらい、読者は頭が混乱しないのです。それはきっと、晶の視点がぶれないから。「今は、これ!」という、状況の取捨選択がはっきりしている。だから、読んでいて心地よいのです。

事件はやりきれないものだし、晶は話が進むにつれて満身創痍という状態になるし、決して笑える状況ではないのですが。どことなくユーモラスな雰囲気が漂うのも、好きなところです。晶が悲壮感漂わせないのがいいですね。実にたくましい。もちろん、彼女だって心折れそうになったりもするのだけど。

ちなみに、これから葉村晶シリーズを読んでみたいなあと思われる方には、「静かな炎天」から読まれることをおすすめします。短編集だし、読みやすい。それからこの「さよならの手口」や、もっと若い頃の晶が登場する作品にさかのぼる方がとっつきやすいと思います。

2017年2月 1日 (水)

鏡は横にひび割れて

2532「鏡は横にひび割れて」 アガサ・クリスティー   ハヤカワ文庫   ★★★★

セント・メアリ・ミード村にも、新しい時代の波は押し寄せてくる。新興住宅地に、新しい住人たち。そして、アメリカの女優がゴシントン・ホールに引っ越してきた。そこで行われたパーティで、招待客が不審な死に方をし・・・。本当に狙われたのは、誰だったのか? ミス・マープルが事件に挑む。

このタイトルになっているテニスンの詩。この一節を描いた絵が好きで。(その絵自体は、この話とは何の関係もありません。)なので、ずっと気になっていた作品だったのでした。

いやあ、おもしろかった。ミステリで、ここまで振り回されると、かえって気持ち良いですね。犯人は?手段は?動機は?と、次々と作者が繰り出してくるあの手この手に、すっかり翻弄されてしまいました。で、こういう事件には、ミス・マープルがよく似合います。

今回は、セント・メアリ・ミード村にも都会化の波が押し寄せてきて、我らがマープルもだいぶ年老いてしまって、ちょっともの悲しい気もしますが、事件が起こってからというもの、マープルが生き生きと活動するのが、なんともほほえましく。

それに、主人公にちゃんと歳を重ねさせて、「老い」もしっかり描くというの、私は嫌いじゃないです。

事件そのものはやりきれないのですが、ミス・マープルのキャラクターに救われる思いでした。

2017年1月30日 (月)

真田信之 父の知略に勝った決断力

2531「真田信之 父の知略に勝った決断力」 平山優   PHP新書   ★★★

「真田丸」時代考証ズのお一人・平山先生による、真田信之の生涯。

「真田丸」ロス中の皆様、お元気ですか。私は、いまだに真田丸の沼にはまっております(笑)で、こんな本を読んだりしています。

最新の研究結果をもとに書かれた、現時点での決定版・・・と言っていいんでしょうか。正直、難しいところもあり、読むのにかなり時間がかかりましたが、信之という人物のおもしろさが伝わってきました。

父・昌幸や弟・信繁みたいな派手さはないものの、武将としても優れ、領国経営にも手腕を発揮し、戦国から江戸にかけての激動期を生き抜いた無双の大名としての生涯は、おもしろくないわけがありません。

もっとも、領国経営は、浅間山の噴火をはじめとする自然災害等々、大変だったみたいですけどね・・・。九度山への仕送りとか・・・(信繁、「また蕎麦か」とか言っちゃダメ!)。領内で起こった事件簿なんかも、大変なんだけど、奔走する兄上の姿を想像しちゃいました(もちろん、映像は大泉洋で)。

いや、ふざけたこと書いてますが、これはすごくまじめに、丁寧に書かれた本ですので、興味がおありの方は、お手にとってみてください。信之の見事な生き様が浮かび上がってきます。

2017年1月27日 (金)

あきない世傳 金と銀 早瀬篇

2530「あきない世傳 金と銀 早瀬篇」 髙田郁   ハルキ文庫   ★★★

大坂天満の呉服屋「五十鈴屋」に女衆として奉公した幸も、早や14歳。そんな彼女を店主徳兵衛の後添いにという話が持ち上がる。幸はとまどうが、番頭・治兵衛に諭され、五十鈴屋の「御寮さん」になる決意を固める。しかし、徳兵衛は商売に身を入れる気配もなく・・・。

シリーズ第2作では、とうとう幸が大出世!

というか、そうなることはだいたい見当がついていたので、それほど驚きはしませんでした。徳兵衛が文句を言うことや、呉服商仲間の厳しい試験など、まあそれくらいは当然でしょう。

むしろ、女衆仲間のお竹やお梅が、わりあいあっさりと「御寮さん」になることを認めたあたりがちょっと拍子抜けでした。多少のごたごたはありましたが、え?そんなもん?と。もっとドロドロしたものがあってもいいんじゃないのかな、という気も。

考えてみれば、幸の周りはいい人がいっぱい。まあ、そうでなければとんでもなく陰惨な話になりそうですけど。もう少し、「御寮さん」になった幸の日常でのとまどいなんかも書いてほしかったなあ。それまでの暮らしと違いすぎて、大変だったこともたくさんあったと思うので。

しかし、急転直下の展開にはちょっとビックリ。そして、そう来ましたか・・・。物語の終わりでは17歳になった幸。もはや大人への入り口ですね。傾きかけた五十鈴屋を、彼女がどう立て直していくのか?楽しみです。

2017年1月26日 (木)

花闇

2529「花闇」 皆川博子   河出文庫   ★★★★

幕末の江戸で人気を博した三代目・澤村田之助。稀代の美貌の女形でありながら、病で四肢を切断。それでもなお舞台に立った田之助の生き様とは・・・。

田之助の存在を知ったのは、北森鴻「狂乱廿四考」を読んでからです。田之助ものなら、皆川博子の「花闇」が一番!と聞いていて、いつかは読みたいと思っていたのですが、今回、復刊されたということで、購入。

読んでいて、ずっと居心地が悪いというか、物語の世界にすっと入り込めないような違和感があって、これは何だろうと思っていたのですが。途中で気づきました。視点人物は、田之助の側近く仕える大部屋女形の三すじなのですが、彼が、田之助と距離をとっているのです。田之助の芸に心酔しているはずなのに、どこか冷めている。その距離感が、田之助という人物に没入させないのです。

子役時代からその才能を発揮し、やがて当たり役を得て立女形となった田之助。自らの才をたのむ彼は、高慢であり、純粋であり。時に権十郎(のちの九代目團十郎)といさかいをおこしたりもしながら、花形として江戸の舞台を牽引します。

そんな矢先に襲った病魔。そこからの田之助の生き様は凄まじいものがあります。同時に、幕末から明治へと時代が移り変わり、歌舞伎そのものが変質していくさまも描かれます。

そして、いつのまにか、自分が田之助に魅了されていたことに気づくラスト。田之助をさめて目で見ていたと思った三すじは、誰よりも田之助を愛していたことにも気づかされます。

田之助の人生を描きつつ、当時の芝居の有り様や、時代の流れも描いたこの作品。傑作と言われるのがわかります。読んでよかった。

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