2021年9月 6日 (月)

めぐりんと私。

3180「めぐりんと私。」 大崎梢   東京創元社   ★★★★

移動図書館「めぐりん」を巡る5つの物語。司書のウメちゃんと運転手のテルさんが、行く先々で出会う小さな謎。

 

「本バスめぐりん。」の続編。

「本は峠を越えて」「昼下がりの見つけもの」「リボン、レース、ときどきミステリ」「団地ラプンツェル」「未来に向かって」の5話。

前作とはちょっと視点が異なり、移動図書館の利用者さんたちそれぞれの物語が描かれます。たかが図書館、されど図書館。世代も性別も育った場所も違っても、それぞれの「思い」に、しみじみと共感させられます。

移動図書館が新しい家族との出会いのきっかけになった「本は峠を越えて」、行方不明だった本が思わぬところから出てきた「昼下がりの見つけもの」等々どの話も好きですが、やはり最終話の「未来に向かって」は、ジンときました。

地方都市の移動図書館が廃止になる。司書の典子は、子どもの頃、移動図書館の司書さんに憧れ、司書を目指した。その憧れの人が、廃止を進めたらしいと知り、複雑な思いに駆られて…という話。図書館の「未来」とは何なのか。考えさせられます。

書店もいいけれど、図書館にも大事な役目があります。大きな書店のない田舎町で育った私には、身に沁みてわかります。だからこそ、「未来」の大切さがわかる気がします。

2021年9月 4日 (土)

ボーンヤードは語らない

3179「ボーンヤードは語らない」 市川憂人   東京創元社   ★★★★

ジェリーフィッシュ事件で我々の前に颯爽と登場したマリアと漣。「彼らはなぜ警察官になったのか」を明かす、若き日のそれぞれの物語。そして、マリアと漣が初めてバディを組んだ事件。

 

シリーズ第4弾は、なんと短編集でした。しかも、登場人物たちの「過去」の物語。

ジェリーフィッシュ事件後の空軍基地での変死事件「ボーンヤードは語らない」、高校生の漣が遭遇した雪の密室殺人「赤鉛筆は要らない」、マリアのハイスクール時代の事件「レッドデビルは知らない」、そしてマリアと漣の初バディ「スケープシープは笑わない」の4話。

マリアも漣も、若い時に苦い経験をして傷を負っていて、それゆえに警察官になっていたことが明かされます。こういう設定はめちゃくちゃ好みなんですけど。今度こそ誰かを救えるようにと警察官になった二人。けれど、事件の中で、彼らは何度も過去の傷と向き合うことになってきたのです。そうと知らずに同じような傷を抱えた者同士、最高のバディになっていく二人が、とても愛おしくなってきました。

やはり私はミステリでも、「人の物語」が読みたいので。トリックとかもおもしろいのですけれど、それ以上に「人」。だから、こういうのが大好物なのだと、改めて自分の好みの方向性を確認した一冊でした。

2021年8月31日 (火)

いわいごと

3178「いわいごと」 畠中恵   文藝春秋   ★★★★

町名主の跡取り息子・麻之助は、最初の妻を亡くしてからずっと新しい縁に恵まれずにいたが、ついに・・・!? しかし、そこは麻之助のこと、すんなりと事が運ぶはずもなく・・・。

 

「まんまこと」シリーズも8冊目。とうとう、麻之助に嫁が! というお話。

「こたえなし」「吉五郎の縁談」「八丁堀の引っ越し」「名指し」「えんむすび」「いわいごと」の6話。

毎回こちらの予想を見事に裏切り、世の中のままならなさを実感させてくれるこのシリーズですが、今回もまた・・・。麻之助はめでたく嫁取りとなるのですが、そこまではけっこう意外な展開でした。やれやれ。

どの話もおもしろく、あっという間に読んでしまいました。麻之助の友である相馬吉五郎もいろいろと環境の変化があり。もう一人の友人・清十郎は家庭をもってからちょっと見せ場が減りましたかね。残念。

それでも、お寿ずと赤子を亡くして沈んでいた麻之助を思い出すと、このご縁がまとまって、なんだかほっとしました。ここまでの紆余曲折が、「ままならない世の中」そのもので、決して他人事ではないので・・・。

きっとこの後も麻之助は右往左往するのでしょうけれど。新しく妻を迎えた麻之助がどうなっていくのか、楽しみです。

2021年8月27日 (金)

星影さやかに

3177「星影さやかに」 古内一絵   文藝春秋   ★★★★

田舎の父が亡くなり、東京に暮らす良彦の手元には父の日記が届けられた。「非国民」として教師の職を追われ、「神経症」を患って部屋に閉じこもることの多かった父に対して、少年の頃の良彦は複雑な思いを抱えていた。父はいったい何を考えていたのか。日記を通して良彦が知った父の人生とは・・・。

 

「錦秋のトンネル(昭和19年)」、「泥鰌とり(昭和22年)」、「良人の薯蕷(昭和25年)」、「御真影(昭和26年)」の四つの話を、「昭和39年 東京」と「昭和39年大晦日 古川」でサンドした構成。東北の地方のある旧家の物語であり、戦前・戦中・戦後の物語。

視点が変われば、同じものでも見えるものが違う・・・というのはよくあることですが、「子どもの視点」「妻・母の視点」「夫・父の視点」という変化が実にうまく効いていて、さらにそれを「大人になった子どもの視点」が包み込むという・・・。

正直、今回のオリンピックに対して複雑な思いがあったので、昭和39年のオリンピックの話が出てきたときには読むのをやめようかと思ったのですが(苦笑)、結果として読んでよかったです。良彦は東京で暮らしながらも、あまりオリンピックに興味がなかったという設定。しかし、亡父はあの閉会式だけは喜んで見ていた、と。「神経症」だった父の心にあったものは何だったのか。そうして物語が始まります。

東京の学校で英語の教師をしていた父は、生徒たちに「戦争に行くな」と言ったことが元で、職を追われてしまったという。田舎に帰ってきた父は、仕事もせず、部屋に閉じこもってばかり。良彦の記憶にある父の姿、それを支える母、そして母につらく当たる祖母。けれど、子どもだった良彦には見えていなかったものもあって・・・。

良彦にとっては憎らしい祖母でしかなかった多嘉子の波瀾万丈(?)な人生が滅法おもしろく、さらに母・寿子の生き方もまた見事で。父・良一の話がメインかと思ったら、彼女たちの生き様の方が印象に残っています。そして、良一が病んでしまった原因も。戦争だけでなく、もっともっと以前に、信じられないものを見て、自分のことも信じられなくなってしまったのですね・・・。

そうして、昭和の東京オリンピックは、当時の日本人にとって「希望」を感じさせるものであったことは事実なのでしょう(いいことばかりではなかったことは承知していますが)。それを考えるに、では今年の東京オリンピックは何だったのだろう、と。苦い気持ちになりましたが。

父の人生を知り、母や祖母の生き方に思いを馳せ、そうして「未来」に希望を見出す良彦は、本当に大人として歩み出すのでしょう。私もそういう大人でありたいものですが・・・。

2021年8月22日 (日)

白鳥とコウモリ

3176「白鳥とコウモリ」 東野圭吾   幻冬舎   ★★★★

「恨んでいた人なんかいるはずがない」・・・そう言われる弁護士・白石健介が殺害された。捜査を担当した刑事・五代は、白石と接触があった倉木という人物の不審な行動に着目する。やがて倉木は犯行を認めるが、彼を知る人たちは「彼に限ってそんなことは」と口をそろえる。時効となった殺人事件を隠蔽するために白石弁護士を殺したという倉木の供述に違和感を覚えた白石の娘・美令と、倉木の息子・和真は、それぞれ真実を知りたいと行動するが・・・。

 

ネタバレ回避のためにあらすじはざっくりまとめましたが、もっと入り組んだ構成です。それでいて、わかりやすい。何なんでしょうね、このリーダビリティ。500ページ超なんですが、この分量が全然苦じゃないのです。さすが、東野圭吾。

清廉潔白な弁護士と、真面目に生きていた初老の男。後者は実はかつて殺人を犯していて、それを知った弁護士に罪を償うよう言われ、殺害したという。本当にそうなのか?・・・被害者の娘と、加害者の息子。そして、事件を担当した刑事。この三者がそれぞれの立場で真実に迫っていく。二転三転するストーリーは、最後まで緩むことなく、私たちを「意外な真実」に誘います。

これを読みながら、なぜか東野さんの「卒業 雪月花殺人ゲーム」を思い出していました。私が東野ファンになるきっかけになった、ごく初期の作品ですが、まだ「若い」「堅い」という印象の青春ミステリ。人を毒殺するのにあるトリックを用いていて、その謎解きがミステリとしては肝なのですが、それよりも主人公たちの心模様のせつなさに惹かれたのです。「白鳥とコウモリ」は大人の物語ですが、美令と和真の関係性になんとなく若さを感じたのかもしれません。また、キャラにそれほど思い入れを持たないと言いつつ、意外と「情」が絡んだ物語が好きな東野さんの特性を強く感じたからかもしれません。

登場人物がたくさんいて、ちょっと消化しきれなかったか?と思われる人も。美令の被害者参加制度の弁護士・佐久間梓は面白そうなキャラなのに、出番が意外と少なくて残念でした。彼女を主人公にして何か書いてくれませんかね?

「白鳥とコウモリ」という題名から、なんとなく内容は類推できる気もしますが、読んでみるともっと深い「何か」がありますよ、とだけ言っておきます。

2021年8月17日 (火)

インタヴュー・ウィズ・ザ・プリズナー

3175「インタヴュー・ウィズ・ザ・プリズナー」 皆川博子   早川書房   ★★★★

18世紀、独立戦争中のアメリカに渡ったエドとクラレンス。英国軍の兵士となった二人は、現地の先住民モホークの青年・アシュリーと出会い、親しくなる。コロニストとモホークの混血であるアシュリーは、父の命でモホークの戦士たちと共に英国軍に合流してきた。しかし、次々と不審な事件が起こり、やがてエドは囚人となってしまう。アシュリー殺しの犯人として。

 

「開かせていただき光栄です」から始まるシリーズの最終作。「囚人探偵エド、最後の事件」だそうです。ロンドンで幕を開けたエドたちの物語は、とうとう新大陸での独立戦争にたどり着きます。

とは言え、独立戦争について通り一遍の知識(中学校の歴史の教科書に載っている程度)しかないもので。もっとあっさり決着したような気がしていましたが、そうではないのですね。その混沌とした中に飛び込む羽目になったエドとクラレンス。シリーズ1作目で、バートンズとして解剖に明け暮れていた楽しそうな彼らの姿を思い出すに、彼らの置かれている現状がなんともつらく。

幸せに生きることをあきらめているようなエドと、そんな彼を案ずるクラレンス。さらに複雑な生い立ちゆえに複雑な立場に立たされる青年・アシュリーの生き方も絡み、なんとも不穏な物語が展開します。ミステリとしてはさすがに手練れの皆川さんで、こちらは翻弄されっぱなし。でも、やはりこのシリーズはエドを柱にした青春ものなのですよね。

終末のクラレンスの手紙は、せつなくてせつなくて・・・。幸せになろうとしない人間は、幸せになれないんだよ、エド・・・と、語りかけたくなりました。

三部作、堪能いたしました。

2021年8月12日 (木)

羊は安らかに草を食み

3174「羊は安らかに草を食み」 宇佐美まこと   祥伝社   ★★★★

持田アイ、80歳。須田富士子、77歳。二人は俳句を通して知り合った友人だ。もう一人の友人、86歳の都築益恵は認知症になり、意思の疎通が難しくなっている。アイと富士子は益恵の夫・三千男から、益恵と旅に出てほしいと頼まれる。益恵の人生を遡るような旅を、三人でしてきてほしい、と。再婚同士で益恵の前半生を詳しくは知らない三千男からの頼みに、アイたちはとまどいつつも「最後の旅行」を計画する。益恵がかつて暮らした場所をたどるうちに、彼女が決して語らなかった人生が見えてきて・・・。

 

暑い暑い・・・と音を上げていたら、一転して「寒い」毎日になりました。最高気温が20℃に届かない日々。こんな寒い8月はいつ以来だろう・・・。これはこれでテンション下がります・・・。うっかり体を冷やしてしまい、体調もイマイチ。そんな中で読むにはなかなかヘヴィでした(苦笑)

益恵は満州からの引揚げ者です。家族は皆、満州で死んでしまった、と初めの方で明かされるのですが、彼女が満州でどれだけ凄惨な体験をしたかが、少しずつ語られていきます。そして戦後の益恵がどのように生きてきたか、も。戦争なんて理不尽なもので、一般人なんかただの使い捨ての駒、ただの「数」でしかないのだというのを痛感します。そして、それは決して消えることのない「傷」になるのだ、と。認知症になった益恵に、夫の三千男は「つかえ」を感じています。穏やかな世界に生きることを許さない不安や恐怖。それが、益恵を苦しめているのではないか、と。そんなふうに、一生つきまとうものなのでしょう。

今、NHKの「大地の子」の再放送をしています。中国残留孤児を主人公にした名作ドラマですが、開拓団の逃避行から始まって、主人公が中国人の養父母に引き取られるまでのくだりは、これを読みながら何度も想起させられました。生々しい描写も多いのですが(そしてこれは飽くまでも小説ですが)、こういうことが実際にあったのだと知ることは大事です。私も中国残留孤児のことは、肉親捜しが公に行われるようになって初めて知ったのでした。「伝えること」「知ること」は、大事です。

益恵の人生の秘密が明らかになると同時に、アイと富士子も自分の人生のしまい方に向き合うことに。これもまた、なんだか身につまされました。アイたちは私の母の世代ですが、その気持ちが想像できる程度には、私も年をとったということでしょうね。

2021年8月 9日 (月)

ヒトコブラクダ層ぜっと

3173「ヒトコブラクダ層ぜっと(上・下)」 万城目学   幻冬舎   ★★★★

幼い頃両親を不慮の事故で亡くし、以来三人で生きてきた榎土梵天・梵地・梵人の三つ子。彼らの助けになっているのは、「三秒」の不思議な力。それぞれの能力を生かして大金を手に入れ、三人三様の夢を叶える・・・はずだったのに、なぜか彼らが連れて行かれたのはメソポタミア!?

 

今年の夏はとんでもなく暑くて、本を読む気力も湧かない日々でした。いや、近年はいつも暑いのですが、さすがに連日35℃前後というのは、北の民にはつらい・・・。バテバテになりながら、かろうじて読んでいたのがこれ。ただし、上下巻なので、えらく時間を費やしました。

両親を亡くした梵天、梵地、梵人の三つ子は、保護してくれた親戚の家を出た後、三人で生きてきた。長男の梵天が生活費を稼ぎ、学力優秀な次男・梵地は大学へ進学、末っ子の梵人はスポーツ進学してオリンピックを目指し・・・。しかし、彼らの人生設計は思うようにいかない。梵人は大けがをしてオリンピックの夢は途絶え、梵地は大学院へ進むもメソポタミア文明の研究はままならず、梵天は働くことは苦にならないけれど憧れの恐竜発掘は夢のまた夢。そんな彼らには、不思議な力をもつという秘密があり、それゆえ怪しい事件に巻き込まれてしまう。

万城目さんは「鴨川ホルモー」以来、奇想というか奇妙な話を多々書いてきたわけですが、今回はとうとうメソポタミアにまで飛んでしまいました。今回のタイトルもけったいですが、これもまたきちんと意味があって・・・。そういえば、メソポタミア文明って、中学校の歴史で教わったけれど、「チグリス・ユーフラテス川」「くさび形文字」「太陰暦」くらいしか知らないです。そもそも、現在のイラクにあたるってことも分かってませんでした・・・(地理苦手)。

三兄弟はあれよあれよというまに自衛隊のPKO部隊としてイラクの地に。そこで上官の銀亀三尉やアメリカ海兵隊のキンメリッジたちと、さらにとんでもない世界に連れて行かれてしまうのですが・・・。下巻は梵天たちの闘いとサバイバルがメインになりますが、これだけの分量で緊張感を保った冒険譚になっているのはお見事でした。

読み進むにつれて、三兄弟が愛しくなっていくのですが、さらに銀亀さんの凜々しいこと。万城目さんはこういうヒロインを描くのがうまいですねえ。全ての事実が明かされるクライマックスでの彼女の役割が実によかったです。

万城目さん、どんどんスケールが大きくなっていきますが・・・次はどこに私たちを連れて行ってくれますかね?

 

2021年8月 3日 (火)

女帝の古代王権史

3172「女帝の古代王権史」 義江明子   ちくま新書   ★★★★

推古、皇極(斉明)、持統、元明、元正、孝謙(称徳)・・・古代の女帝たちの即位と統治の有り様を明らかにして、「女帝は中つぎ」という過去のイメージを払拭する一冊。

 

これを読んでいるときに、夫がふと表紙に目をとめて「持統とか中つぎじゃないよなあ。でも、推古は聖徳太子までの中つぎでしょ?」というので、読んだばかりの知識を総動員して反論させていただきました(笑) もっとも、私もこれを読むまではそう思っていたのですが(苦笑)

目からウロコ、とはまさにこのこと。ほんと、「女帝は中つぎ」とか言ったの誰だよ?という感じです。確かに、現代の天皇制をベースにするとそんなふうに見えてしまうのですが、卑弥呼のあたりまで遡って当時の体制を分析していくと、全く異なるものが見えてくるのです。「幼帝」なんてあり得ないし、男女も関係ないし、直系の男子が跡継ぎなんてのもない。ある意味「実力主義」で、皆に信頼される人が集団のリーダーになり、統治権をもつシステム。(今の日本の方が退化してません?)

ただ、それもさまざまな事情で変化していき、のちに我々が知っている天皇家のあり方に落ち着くのですが・・・。

それにしても、こんな内容のものを、私みたいな素人が新書で読めてしまうというのは、ほんとにありがたい時代になったものだ・・・と、しみじみ。

現在、この古代の女帝たちにものすごく興味があるので、もっと詳しく知りたいなあと思う次第。「女帝=お飾り」みたいに思っている人がいまだに多いですが、彼女たちけっこうしっかり政治しているのですよ。

そして、これを読んで奈良に行きたい熱が再燃してます。ああ・・・いつになったら旅行できるようになるのやら。

2021年8月 1日 (日)

ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー

3171「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」 ブレイディみかこ   新潮文庫   ★★★★

英国ブライトンに暮らす筆者の息子は、進学先に地元の「元底辺中学校」を選択する。それまで通っていたカトリックの学校とはまるで違い、いろんな国籍、いろんなルーツをもつ、いろんな環境の子ども達が集う学校で、母と息子はいろんな出来事に直面する。本屋大賞2019「ノンフィクション本大賞」受賞作。

 

文庫化されたので、ようやく手に取りました。いやあ、おもしろかった。読んで良かった・・・というのが、率直な感想です。

筆者の息子さんの中学校生活の最初の1年半の出来事。思わず「うひゃあ」と声が出てしまうようなことがたくさん。ただ、以前であれば「外国は大変だねえ」くらいで終わっていたのでしょうが、あまり他人事とは思えなかったです。もちろん、日本とイングランドとの教育事情の違いはありますが。国籍やルーツの違いが生み出す摩擦なんかは、もはや日本も対岸の火事ではないのですから。

息子くんがなかなかいいキャラで、彼の言動にはこちらもハッとさせられることが多々あり。それは、筆者のものの見方・考え方が反映されているのだというのもよくわかります。人種差別的なことを言う同級生のことを「レイシストだ!」と怒る息子くんに、筆者が言うのは「無知なんだよ」。子どもがそういうことを言うのは、周りの大人の真似をしているだけ。本当にはわかっていないのだ、と。

もちろん、筆者だって息子くんだって絶対正義の人ではないので、いろいろやらかしたりもします。「地雷だらけの多様性ワールド」の章は、胸が痛くなりました。

そんな彼らが日本で遭遇した出来事は、実に後味が悪く・・・。哀しいかな、あるだろうな、こういうこと・・・と思えてしまうのですが。英国で彼らが経験する「差別」とはまた異なる性質の悪さ。とっても苦い気持ちになりました。

しかし、文庫の帯には「60万人が泣いて笑って感動した」のコピー。裏表紙のあらすじには「最後はホロリと涙のこぼれる感動のリアルストーリー」。いや、間違ってはいないけれど。でも「感動」なんて言葉でくくらないでくれよ、と思ってしまったのです。だって、息子くんたちの日常は続いているわけで。「イエローでホワイト」の彼は、イングランドでちょっとブルーになったり、グリーンになったりしながら生きているわけで。ただの「いい話」でなくて、現在進行形であり、私たちにも地続きなのですよ。

コロナ禍において分断が加速する世界だからこそ、一読することをおすすめしたい本です。

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