2021年4月11日 (日)

魂手形

3143「魂手形」 宮部みゆき   角川書店   ★★★★★

「語って語り捨て、 聞いて聞き捨て」の三島屋百物語。二代目の聞き手・富次郎は話を聞いたあとに絵を描くという形で、聞き手としての役割を果たしていた。初代の聞き手である従姉妹のおちかほどつらい事情はないけれど、富次郎なりに己の行く末について考えるところもあり・・・。

 

「三島屋変調百物語 七之続」でございます。「火焔太鼓」「一途の念」「魂手形」の三話。

三島屋の次男坊で、生来温和な気質の富次郎ですが、聞き役も徐々に板についてきました。おちかのときのヒリヒリしたような緊張感はないけれど、富次郎なりに思うところもあり、それがこの先どうなっていくのか楽しみでもあります。

さて、「火焔太鼓」は泣かされました。勤番侍の語る物語は恐ろしいようでいて、切なく哀しく、なんとも愛おしい・・・。登場人物の誰もが悪意はなく、人を愛し敬い、それゆえにこの哀しさなのですねえ。

「一途の念」は、富次郎の恋物語。これもまた、切ない。そんなふうに決着することを受け入れるしかない富次郎の思いが、なんとも切なかったです。

「魂手形」は物語そのものもインパクトがありましたが、そのラストが・・・。おちかのこれからが幸せなものであることを読者も祈っているのですが。

今回、はっとさせられたのは、おちかは全てを忘れたのではなく、「重たくて厄介な暗闇」を「一生背負い続け」ていくのだということです。おちかは「暗闇に呑まれずに、自分の人生を生き直そうと決意したのだ」・・・そのおちかの覚悟と勇気に、今更ながら気づかされました。そうなんですね。起こったことは、なかったことにならない。おちかは忘れるのでなく、背負って生きていくことを選んだのです。彼女の苦闘を見てきた三島屋の面々は、だからおちかの幸せを我がことのように喜ぶのですね。

おちかが幸せでありますように。富次郎も己の生きる道を見いだせますように。

 

 

2021年4月 4日 (日)

楽園の烏

3142「楽園の烏」 阿部智里   文藝春秋   ★★★★

安原はじめは行方不明になった養父・作助から、山を相続した。莫大な維持費もおまけにつけて。その直後から山の買い手が次々現れ、あげくにはじめは絶世の美女によって、この世とは異なる理によって成り立つ世界に送り込まれる。そこは、山内。かの大戦から20年の月日が流れていた。

 

八咫烏シリーズ、新章。

何度もくり返しますが、第1作目を読んだときは、こんな世界に連れてこられるとは思わなかったのです。ストーリーのおもしろさに魅せられてひたすら読み進めるうちに、とんでもないところに来てしまった・・・というのが正直な気持ちです。

これ、八咫烏の話?というところから始まる話は、雪哉の登場で「やっぱり八咫烏だよね」と。しかし、雪哉もすっかり大人になり、さらに平和な山内をはじめと共に見て回るうちに、それまでずっと感じていた違和感の正体を突きつけられます。「それまで」というのは、シリーズ1作目からずっとです。そうして、雪哉が築いた「平和な山内」の欺瞞も明らかに。何が怖いって、他人事とは思えないのです。山内は、私たちのいる世界の映し鏡です。

物語は二転三転。さらに、シリーズ全体も根幹からひっくり返されそうな嫌な予感。はじめ、雪哉、はじめと共に山内を出た頼斗の思惑は・・・。

ということで、これは続きも読むしかないよねえ・・・。

2021年4月 2日 (金)

応仁悪童伝

3141「応仁悪童伝」 木下昌輝   角川春樹事務所   ★★★★

訳あって京の寺に住まう二人の少年、能役者の一若と稚児の熒。それぞれに異なる立場ながら、彼らは過酷な運命に抗うように、応仁の大乱の渦中を駆け抜ける。

 

一若と熒。全くタイプの異なる二人の少年を軸に描く応仁の乱。というか、戦国前夜の時代絵巻の様相をもつ長編です。なかなかの厚さに読むのをためらいましたが、読み始めたらやめられない熱量がありました。

先日読んだ「足利の血脈」なども思い出しながら、なんとかついていけましたが・・・足利義教ってほんとにとんでもない将軍だったのですね。嘉吉の乱は知ってましたが、足利義教がこういう人物だったとは知りませんでした。物語のあちこちにちりばめられたピースが、最後には一本の筋につながっていく過程が読み応えありました。

どろりとした闇のような世界で、それを象徴するのが熒なのですが、一方の一若は、それを切り裂いていくような爽快感があって、その辺のバランスがおもしろかったです。

2021年3月29日 (月)

後宮の烏5

3140「後宮の烏5」 白川紺子   集英社オレンジ文庫   ★★★★

寿雪を烏妃の立場から救い出す方法はわかった。高峻は寿雪のために、もっともつらい道を選ぼうとする。その頃、高峻の二人の妃が懐妊し、宮中は奉祝ムードに包まれる。一方、寿雪のいる夜明宮はひっそりと静まりかえっていた。侍女の九九はじめ気心の知れた仲間たちと、静かながら満ち足りた生活を送る寿雪だったが、いよいよ彼女を烏妃から解き放つ時が・・・。

 

とうとうここまできました。寿雪を烏妃から解き放つ準備が整い、いよいよ。

「笑う女」「黒い塩」「烏妃の首飾り」「破界」の4話。今までの話が全てつながってきて、寿雪が解放される時がやってきます。同時に、寿雪と高峻の関係にも変化が。ただ、どうにも不穏な気配が漂っていて、これは・・・と思っていたら!

ネタバレになるのでこれ以上書けないのですが、あまりの凄まじさと、寿雪の「これから」に思いを馳せて、呆然としてしまいました。

ここまで紡いできた物語が、大きなうねりを見せた今回。さて、この後どう展開するのか、俄然楽しみになってきました。

2021年3月27日 (土)

教室に並んだ背表紙

3139「教室に並んだ背表紙」 相沢沙呼   集英社   ★★★★

教室に居場所がない。そう感じる生徒たちが訪れる図書室。司書のしおり先生が選んだ本に出会うことで、彼女たちは少しずつ変わっていく。

 

「その背に指を伸ばして」「しおりを滲ませて、めくる先」「やさしいわたしの綴りかた」「花布の咲くころ」「煌めきのしずくをかぶせる」「教室に並んだ背表紙」の6編から成る連作短編集。

やられました。

たしかに、「ん?」と思うところはあったのですが。連作短編だしな・・・と、読み過ごしたのです。そしたら、まあ・・・。そういうことでしたか。ありがちな「いい話」としてだけでなく、ミステリとしての仕掛けに見事にやられました。いや、参りました。

イマドキの少女たちのあれこれには正直辟易したのですが、でもそれも「いつかきた道」なのですよねえ。だからこそ、読んでいてしんどかったのですけれど。

読み終えてふと気づいたのは、タイトルは「教室に並んだ背表紙」。「図書室に」ではないのです。ということは、「背表紙」とは何をたとえているのか。そう考えて各話のタイトルを振り返ってみると、感慨深いものがありました。

2021年3月23日 (火)

一橋桐子(76)の犯罪日記

3138「一橋桐子(76)の犯罪日記」 原田ひ香   徳間書店   ★★★★

一橋桐子、76歳独身。一緒に暮らしていた親友のトモが病気で亡くなり、天涯孤独の身の上になる。年金と清掃のパートで生活しているものの、余分な蓄えはない。孤独死して人に迷惑をかけるよりは、犯罪者になって刑務所に入った方がよいのでは。そう考えた桐子は、できるだけ長く刑務所に入っていられる罪を犯そうと考えて・・・。

 

原田ひ香さんは、以前何かのアンソロジーで読んで興味をもった作家さん。でも、ちゃんと読む機会には恵まれず、今回が初読みでした。

桐子さんはほぼ私の親世代なのですが、自分の先行きに対する不安は他人事とは思えず。頼れる人もなく、このまま孤独死・・・?という気持ちは、よくわかります。しっかりしているようで、どこか世間ずれしていない桐子さんの人物像がなんともいえずいい味を出しているのですが、実は読みながらイライラすることもしばしば。あまりにピュアなんですもの。

桐子さんの目指す犯罪は、「万引」から始まって、「偽札」「闇金」「詐欺」「誘拐」「殺人」とグレードアップしていきます。無理をして罪を犯そうとする桐子さんの姿は、滑稽であり、哀しくもあり。

そうして、数々の犯罪に関わった後、桐子さんには大団円が訪れます。彼女が関わってきたいろんな人たちの力を借りて、生きていく場をどうにか確保できそうに。もっとも、先のことはわからないし、桐子さん自身が何もせずにひきこもっていたら、このラストにはたどり着けなかったわけで。その辺のことが、ラストの「兄貴」との場面で提示されていました。単なる「めでたしめでたし」ではない苦さ。桐子さんの場合は、若干の運の良さがあったのだと思わされます。もっとも、その運も、桐子さんが引き寄せたものではあるのですけどね。

2021年3月18日 (木)

転職の魔王様

3137「転職の魔王様」 額賀澪   PHP研究所   ★★★★

大手広告代理店に就職したものの、パワハラで体調を崩し、退職した未谷千晴。叔母が経営する人材紹介会社で転職しようとするが、担当になったキャリアアドバイザー・来栖嵐にいきなりひどいことを言われ、呆然としてしまう。来栖は「転職の魔王様」という異名をもつ凄腕らしいが、千晴はどうしても彼を信頼出来ず・・・。

 

イマドキの話だなあと思いつつ、いろんな言葉が何度も刺さりました(苦笑)

私もキャリアを途中でリタイヤした人間なので、それに対する忸怩たる思いは引きずっています。新たに仕事に就くためにハローワークにも行ったし、履歴書も書いたし、面接も経験しました。それで凹んだり、嫌な思いをしたりもしています。そのうえでこれを読むと、いろんなものがグサグサ刺さってきました。やれやれ。

自分の価値を他人に決めてもうおうとか。仕事以外の気配りや仕事に関係ない頑張りで認めてもらおうとか。そういうところ、私もあったなあと思ったり。相手に気に入られるキャラを作って、それを演じ続けて自爆したりとか・・・。いろいろ思い出して、「うわああああ」ってなりながら読みましたよ。

千晴だけでなく、彼女がその後関わった「転職希望者たち」、それから「魔王」来栖がCAになった経緯など、若い人たちの人生の転機が描かれている物語。もう若くない私にも、しっかり刺さりました(いい意味でね)。

余談ですが、今年の岩手県公立高校入試、国語の問題は額賀さんの「競歩王」から出題されていました。

2021年3月14日 (日)

ヴェルサイユ宮の聖殺人

3136「ヴェルサイユ宮の聖殺人」 宮園ありあ   早川書房   ★★★★

アリー=アントワネットの元総女官長マリー=アメリーは、ヴェルサイユ宮殿の自室で他殺死体を発見する。被害者はパリ・オペラ座の演出家ブリュネル。その側で意識を失って倒れていたのは、戦場帰りの陸軍大尉ボーフランシュだった。犯人捜しに奔走することになったマリー=アメリーと、そのお守り役に指名されたボーフランシュ。フランス革命前夜のヴェルサイユで、彼らがたどりついた真犯人とは・・・。

 

第10回アガサ・クリステイー賞優秀賞受賞昨。

なんとなく面白そうだなあと手に取りました。登場人物が多くて、最初は混乱しましたが、頭の中の交通整理ができたら、一気におもしろくなりました。それぞれの人物も魅力的ですしね。

ダイイングメッセージをはじめ、いろんな謎がちりばめられていて、事件は二転三転。なかなかの力作です。けっこう入り組んだ事件だし、登場人物も多いのですが、謎解き自体はわかりやすく、すっきりまとめられているのはお見事でした。ただ、その分、ちょっと平板になったのかなあと思わなくもないです。

巻末の参考文献リストを見て驚きました。すごい。そして、作者が同世代の方と知って、さらに驚きました。

そして、史実を調べてみて、マリー=アメリーのモデルとなったと思しき人物の「その後」を知って、打ちのめされています・・・。

 

2021年3月11日 (木)

足利の血脈

3135「足利の血脈」 秋山香乃・他   PHP研究所   ★★★★

足利氏と、彼らに仕えた忍びの一族を描いた歴史アンソロジー。

 

早見俊「嘉吉の狐(古河公方誕生)」、川越宗一「清き流れの源へ(堀越公方滅亡)」、鈴木英治「天の定め(国府台合戦)」、荒山徹「宿縁(川越夜合戦)」、木下昌輝「螺旋の龍(足利義輝弑逆)」、秋山香乃「大禍時(織田信長謀殺)」、谷津矢車「凪の世(喜連川藩誕生)」

以上7人の作家による連作。足利とはいえ、室町将軍家ではなく、鎌倉公方に連なる系譜がメインです。「嘉吉の乱」から始まり、ほぼ時系列に沿って歴史が語られます。同時に、「さくらの一族」という忍びの者たちが登場し、足利氏の出自や裏面史も描かれます。

呉座勇一「応仁の乱」を四苦八苦して読み、その後、ゆうきまさみ「新九郎、奔る」や、石原比伊呂「北朝の天皇」、「太平記」再放送、を経て、少しずつ室町時代に関わろうとしていますが、とにかく難しい・・・。まず、足利将軍家の系譜がめんどくさい。さらに、〇〇公方がいっぱいいて、関係がよくわからない。そのわからないまま応仁の乱、やがて戦国の世に突入するので、ほんとにわけがわからない・・・というのが、私の室町時代観で、だからずっと避けてきたのです。

これを読んで、「あ、そういうことだったの?」というのがけっこうあって、ずっと混乱していたのがちょっと整理されました(でも、やっぱりまだよくわからない・・・)。

今回は、それぞれの作家さんたちが分担を決め、さらに「さくら」という忍びの者たちを必ず登場させるという縛りのもとに書かれたようです。ぶつ切りになるのではなく、きちんと話がリレーされていて、非常に読みやすかったです。それぞれの味わいを楽しみつつも、長い長い物語を読んだ気分でした。

2021年3月 6日 (土)

死との約束

3134「死との約束」 アガサ・クリスティー   ハヤカワ文庫   ★★★★

「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃいけないんだよ」・・・エルサレムを訪れていたポアロの耳に飛び込んできた不穏な声。思えば、これが事件の始まりだった。アメリカからやってきたボイントン一家は、家長たるボイントン夫人が頂点に君臨し、息子・娘たちはすべてその支配下にあった。しかし、夫人がその支配を解いたかに見えた時、事件は起こった。ポアロは真実にたどりつけるのか。

 

三谷幸喜脚本のクリスティ作品のドラマ化、三作目は「死との約束」ということで、慌てて読みました。「オリエント急行」「アクロイド」と2作品見て、なかなか満足のいく出来だったので、今回も期待してます。原作を読んだ上で、三谷さんがどうアレンジしてくるかを楽しみたかったので、放送に間に合うように急いで読破。

とはいえ、クリスティのリーダビリティはやはり素晴らしくて、サクサク読めてしまうんですよね。それでいて、読み応えもある。読み終えての充実感も含め、やはり古典となっていく作品には、それなりの理由があるのですね(ミステリに限らず)。

さて、「死との約束」はあまりメジャーな作品ではないけれど、質が高い・・・という旨のことを三谷さんがエッセイで書いていました。なので、安心して読みました。中東を舞台にした作品。その異国情緒と、奇妙な家族の不穏すぎる緊張感が相まって、独特の空気を醸し出しています。家族の支配者となっている母。その支配下で自由を失い、籠の鳥のように生きる息子たち。起こる殺人事件は、たった一回。しかし、誰もが怪しく見えて・・・。

クリスティのストーリーテラーぶりを存分に味わえる一冊です。

さあ、三谷さんはこれをどんなふうに料理してくれるのでしょう。舞台は熊野!? そして、さっきキャストを確認して「おお!」となっています。放送は、今夜。楽しみ楽しみ。

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