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2011年9月16日 (金)

聖夜

1756「聖夜」 佐藤多佳子   文藝春秋   ★★★

父は牧師。母は元ピアニストのオルガン弾き。離婚して家を出た母と同じようにオルガンを弾き、ミッション系の高校に通う一哉は、父のことも、母のことも、理解できずにいた。オルガン部にコーチがつき、コンサートを行うことになったとき、一哉が選んだ曲は、記憶の中で母が弾いていたものだった。

人間の五感は、記憶と分かちがたく結びついている・・・それはもう、悲しいほどに。懐かしい音楽が流れてきた瞬間、それを聞いていた当時の出来事がよみがえってきて、胸がいっぱいになってしまうことがあります。そんなせつない思いをひたひたと感じながら読みました。

久しぶりの佐藤多佳子さん。佐藤さんが音楽が好きで、その思いをベースに物語を紡いでいるのがよく伝わってくる物語でした。

時代背景は1980年。ということは、一哉たちは私より少しだけ年上なんだ・・・ということに、読み終えてから気づきました。一哉は、すごく屈折しているようでいて、とっても純粋。いわゆる絶対音感をもち、オルガン演奏でも非凡な才能を見せている。けれど、ひっかかっているのは、母のこと。自分と父を捨てて、ほかの男の元へ走った母を、どうしても許せずにいる。自分は愛されていなかったのかという恐れとともに。

オルガン部の後輩・天野になんとなく心惹かれ、同じく後輩の青木には思いを寄せられ、それでも恋に発展しない一哉の根っこには、「親に愛されない子供」「両親のかすがいになれなかった子供」というコンプレックスがあるのでしょうか。それでも、音に惹かれ、音楽に惹かれていく一哉が、なんともいとおしかったです。

ただ、これ、感想文コンクールの課題図書なんですよね。私が中学生だったら、これで感想文書けるだろうか、と考えちゃいました。だって、一哉の中で何かの結論が出たわけじゃないし、「物語の途中」な感じの終わり方なんだもの。うちの学校では、これで感想文書いた子はいなかったので・・・ちょっと興味あります。

あとがきを読んでわかりましたが、これはシリーズものの短編になるはずの物語だったのですね。同シリーズの「第二音楽室」もキープしてるので、読むのが楽しみです。

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コメント

>これ、感想文コンクールの課題図書なんですよね

この本で書かなきゃいけないのか・・・と思う本が多いです。

小学校では絵にするコンクールもあるので
こっちも、これのドコ描くのか?とか。

私は文章も絵も苦手なので、子どもたちは大変だなって思います。

three-bellsさん、ほんとに、いつも「この本でどうやって書くんだろう」と思う本があるんですよね。
この物語も、これはこれで佐藤多佳子ワールドなんだけど、「これで感想文って・・・」と思ってしまいました。
何を基準に選定してるんでしょうねえ。

>人間の五感は、記憶と分かちがたく結びついている
ほんとですね。ことに音楽ってそうですね。
1980年・・・この本に出てきたELPは、わたしが好きだったわけではないのですが、ロック好きな友人がいて、『展覧会の絵』も『エピタフ』、何度も聴かせてもらいました。
曲名が出てきた瞬間に、あの頃がよみがえってしまって懐かしくて懐かしくて・・・あの頃好きだったことや友人たちの顔を思い出して、ちょっとしんみりしてしまいました。

このシリーズ、まだ二つアイディアが残っている、とあとがきに書かれていましたね^^
楽しみに待ちたいです。

ぱせりさん、お返事遅くなりました。

ほんとに、音楽って聞いた瞬間にパアーッと記憶がよみがえりますよね。
自分が好きな曲でなくても、学校の掃除時間に流れていた曲とかでも(笑)

佐藤さんは「サマータイム」や「アーモンドチョコレートのワルツ」でも音楽を題材にしているのですが・・・今回のオルガンにはちょっと驚きました。
でも、とっても素敵。
オルガン、聴きたくなっちゃいました。

あ、ちなみにうちの学校では、この本で感想文書いた子はいませんでした。

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