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2016年7月

2016年7月31日 (日)

豊臣家の人々

2458「豊臣家の人々」 司馬遼太郎   中公文庫   ★★★★

豊臣ファミリーとは、どのような人物だったのか。その妻や子、猶子たちの姿を描く連作。

「殺生関白」「金吾中納言」「宇喜田秀家」「北ノ政所」「大和大納言」「駿河御前」「結城秀康」「八条宮」「淀殿・その子」の9話。

「真田丸」にどっぷりはまっている今日この頃。日本史マニアですが、このあたりの話は、微妙に守備範囲外で、特に豊臣ファミリーに関しては、茶々以外にあまり興味がなかったのです。ところが、「真田丸」でがぜん興味をもちまして。ドラマの解釈とは違うことは承知の上で、読みました。

おもしろかったです。宇喜田秀家がどうして「殿下のために生き、殿下のために死ぬ」と、あんなに熱い殿下愛を語るのかもわかったし(笑) いまいちよくわかっていなかった、豊臣家の人たちの人間関係もようやく理解できました。そして、秀吉は主役ではないのだけれど、自然と秀吉という巨大な存在が浮かび上がってくるのですね。

つくづく、秀吉が望外の出世をしたことによって、その一族も運命が大きく転変したのですね。それが決して幸せなことだとは思えないけれど。そうして、秀吉によってつくられた「豊臣家」は、彼の死によって崩壊せざるを得なかったのでしょう。そう思えば、歴史上特異なファミリーだったと言えますね。

どうしても大河ドラマ目線で読んでしまいましたが、解釈が違うようでいて、意外と三谷脚本の底流に同じものが流れているような気もしました。

2016年7月28日 (木)

綾瀬はるか「戦争」を聞くⅡ

2457「綾瀬はるか『戦争』を聞くⅡ」 TBSテレビ『NEWS23』取材班 編   岩波ジュニア新書   ★★★★★

祖母の姉が広島で被爆したという綾瀬はるかが、被爆者の体験を聞くシリーズ第2弾。

読んでいて、涙が出てきました。

自らの被爆体験を語る人たちが、みな同じように「生き残ったことが申し訳なくて」という趣旨のことをおっしゃるのです。

生きる道が残された人たちが、そんな思いで生きていかなくてはいけないというのは、やはり根本的に間違っているのだ、と改めて感じました。

生々しい体験は、正直、聞く方もつらいと思います。それでも、静かに耳を傾ける綾瀬さんの姿勢に、みなさん心を開かれるのでしょう。

有名な詩「生ましめんかな」のモデルになった方(そのとき生まれた赤ちゃん)、原爆症に苦しむ父親との生活、奄美大島の原爆乙女、建物疎開で被爆した少年少女、そして爆心地近くで生き延びた人々。

建物疎開の作業に生徒を出すことに、学校側は強く反対して軍と対立したことも、初めて知りました。

「語り継ぐことは、きっと何かの役に立つ」という綾瀬さんの言葉、その通りだと思います。私たちには、聞く責務があると思うのです。

2016年7月24日 (日)

殿様の通信簿

2456「殿様の通信簿」 磯田道史   新潮文庫   ★★★★

元禄時代の古文書に記載された大名たちの記録。そこに描かれた、「殿様」の姿とは。

「真田丸」にはまって半年あまり。なんとなく、こういう類の本に反応してしまう今日この頃。

磯田さんの本を読むのは、3冊目かな? 史料をもとにして、わかりやすく解説してくれるので、安心して読めます。

前半は、徳川光圀や浅野内匠頭、前田利家など、有名どころの大名たちの実態が中心。

後半は、加賀百万石の大大名となった前田利常や、伏見城攻防戦で戦死した内藤家長など、戦国と江戸時代の狭間を生きた大名たちの話。

記号化されてきた大名たちの「人間」としての姿が、生き生きと描かれていて、非常に興味深かったです。まだまだ知らないことがいっぱいあるなあ。

2016年7月23日 (土)

ぐうたら旅日記 恐山・知床をゆく

2455「ぐうたら旅日記 恐山・知床をゆく」 北大路公子   PHP文芸文庫   ★★★★

旅は嫌い、という公子さんによる旅日記。

もうその設定だけでダメでしょう(笑)という感じですが、全編これビールを飲みながら、恐山とか知床とか網走とかを旅した記録です。ウニ好きな私には、とっても魅力的な知床ツアーでしたが。

読んでいるうちに、だんだん脳みそが公子化していくというか、公子調の語り口になっていく自分が怖くなってきたり(苦笑)

おまけのように、不思議な三題噺による掌編小説5編も収録。どうすればこんなシュールな話を思いつけるんですか、公子さん。

この本を読まれる方は、「文庫版あとがき」のさらに後のページもお読みください。

2016年7月18日 (月)

希望荘

2454「希望荘」 宮部みゆき   小学館   ★★★★

妻子と別れ、一人になった杉村三郎。私立探偵として事務所をかまえた彼のもとにやってくる依頼とは・・・。

やっとシリーズ名が「杉村三郎シリーズ」で定着したみたいですね。「誰か」「名もなき毒」「ペテロの葬列」と続いてきたシリーズ、最新作は短編集です。「聖域」「希望荘」「砂男」「二重身」の4編。

前作が衝撃のラストだったので、その後の杉村を心配していましたが(まあ、「ソロモンの偽証」のおまけ中編で、元気そうなのはわかってましたが)、とりあえず、なんとかかんとかやっているようで、ほっとしました。

どの短編も、淡々と描かれているようでいて、読み終えたあとに何かもやもやしたものが胸に残ります(このシリーズは、みんなそうでした)。正直言って、後味のいいものではありません。でも、読まずにはいられない。それは、世の中そうそうきれいに割り切れるものではないと、私たち自身がわかっているからでしょうか。

表題作になっている「希望荘」は、タイトルこそ明るいですが、なんとも言えない複雑な気分にさせられます。ひとたび「事件」が起こった以上、何事もなかったときには戻れないのだといわれている気分でした。そう考えると、「希望荘」という名は、とても悲しいものがあります。

それでも、そういったものと向き合いながら生きていく杉村三郎の姿に、心ひかれるものがあるのもまた事実。このシリーズ、続く限り読み続けます。

2016年7月16日 (土)

帰郷

2453「帰郷」 浅田次郎   集英社   ★★★★★

「帰郷(←ほんとは旧字体)」「鉄の沈黙」「夜の遊園地」「不寝番」「金鵄のもとに」「無言歌」の6編。戦争を題材にした小説集ですが・・・。

新聞の広告だったかに、「戦争小説ではありません。反戦小説です」という作者の言葉があって、絶対読まねば!と思った一冊です。

正直言って、目新しい話はありません。今までいろんな人が描いてきた「戦争」の物語です。

でも、こういうものを書き続けていかないといけないのだという、作者の強い意志を感じました。

「戦争は知らない。だが、ゆえなく死んで行った何百万人もの兵隊と自分たちとの間には、たしかな血脈があった。ジャングルの中や船艙の底や、凍土の下に埋もれていった日本人を、外国人のように考えていた自分が、情けなくてならなかった。」(「不寝番」より)

帯にも引用されたこの文章が、この作品集の肝だと思うのです。戦争は、過去にあったことではなく、現在と地続きなのだ、と。そして、そのことを私たちが忘れ去ったとき、これらの悲劇は、過去でなく「今」のものになるのだ、と。

戦争をして幸せになる人なんていない。最終話「無言歌」のラストシーンで、思わず涙がこぼれました。

戦争を知らない人ほど、読むべき一冊だと思います。

2016年7月15日 (金)

本の雑誌 2016 8月号

2452「本の雑誌 2016 8月号」   本の雑誌社   ★★★★★

本来、雑誌はここにupしないのですが、これだけは特別・・・。「さようなら、吉野朔実」特集号です。田舎の書店では手に入らないので、予約しました。

吉野さんの友人・知人のみなさんからの追悼メッセージ(清原なつのさんは追悼漫画!)、歴代担当の寄稿や、アシスタント嬢たちの匿名座談会。作品解説。イラスト集。などなど、とっても豪華な内容。なんと巻頭から50ページをさいています。

なんといっても心をわしづかみにされたのは、桜庭一樹さんの追悼文。ああ、「少年は荒野をめざす」で人生変わったのは、私だけじゃなかったのね、と。

とにかく稀有な漫画家であった吉野朔実という人物に、いろんな角度からスポットを当てた、読み応えのある企画です。

みなさん、吉野さんの死にショックを受けて、寂しがったり悔しがったりしてるんだけど、変な悲しみ方はしていないのが印象的でした。そういうお人柄だったのでしょうね。

私は、冒頭の清原なつのさんの漫画で、泣けてしまいましたけど。

2016年7月13日 (水)

天使は本棚に住んでいる

2451「天使は本棚に住んでいる」 吉野朔実   本の雑誌社   ★★★★

「本の雑誌」連載の吉野朔実劇場、最後の一冊。

予約して買いました。これだけは買いのガスわけにはいかない!と。

死を予期させるような気配はどこにもなく、淡々といつもの本の話が展開されます。そういうのが吉野さんらしいな、と思ったり。

今回のポイント。吉野朔実はドストエフスキーが好き。「残穢」「笹の舟で海をわたる」も読んでいた(数少ない、私も読んでる本)。「アライバル」を持っていた。などなど。

こうやって、吉野さんとの数少ない共通点を探したり、影響を受けたりも、これで最後か・・・。つくづく、残念。

でも、本になっていると、何度でも繰り返し吉野さんに会えるもんね。

目下の悩みは、シリーズ8冊をまとめた「吉野朔実は本が大好き」を買うかということ。全部持ってるけど、ボーナストラックがけっこうあるというし・・・。うーむ。

2016年7月10日 (日)

石の記憶

2450「石の記憶」 高橋克彦   文春文庫   ★★★

火明継比古(ほあかりつぐひこ)という変わった力をもった人物と出会い、私はその土地がもつ記憶を見ることができるようになった。そうして見えた太古の記憶とは。

文春文庫だし、「~の記憶」だし、あの「記憶」シリーズの続きかななんて思ったら、全然違いました。

表題作以外は、ホラー短編系のものが8編。やはり後味がよい「花火」がよかったです。

「石の記憶」は、本来シリーズもの「日本繚乱」の第1話として書かれたものだそうです。47都道府県を舞台にして、それぞれの土地の記憶を物語にしようというアイディアで書き始めたもの。しかし、掲載誌の休刊で、第2話の途中でストップ。ゆえに、物語として成立したのは、秋田県を舞台にした第1話のみ。

よくぞこれを世に出してくださいました、という感じです。大湯のストーンサークルの「記憶」をたどる物語は、いかにも高橋さんらしい展開をたどりますが、大地震や津波、火山の噴火などを経験した今の私たちには、この切迫感は非常にリアルに伝わってきます。

できれば、47都道府県、全部めぐってほしかったですねえ。高橋さんのライフワークともなったでしょうに。残念です。

キアズマ

2449「キアズマ」 近藤史恵   新潮文庫   ★★★★

大学生になったばかりの正樹は、ひょんなことから部員不足の自転車部に1年限定で入部することになってしまう。まったくの初心者だったが、不思議と自転車レースに心惹かれ、やがてエースの櫻井と競うようになっていく。しかし、正樹にはずっと抱えている心の傷があり・・・。

「サクリファイス」シリーズというか、番外編というか。「サクリファイス」のあの人もチラッと登場しますけど。

「サクリファイス」のような、読み終えて全身鳥肌立つような緊迫感はないけれど、正樹という初心者視点で語られるので、自転車レースがより身近に感じられます。素人でもついていける感じ(笑)

もちろん、レース部分の迫力は、今までのシリーズ作品に負けてないです。読み応えあります。

今回は、主人公の正樹と、その先輩でライバルでもある櫻井、それぞれが抱えている傷が物語の重要な部分を担います。特に正樹は・・・。彼は悪くないけれど、その状況で罪悪感を感じないような人間でもなくて、読んでてしんどかったです。

それでも、自分が情熱をささげられるものと出会えた正樹は幸せだと思うのでした。

「スティグマータ」も早く読みたい!

2016年7月 3日 (日)

はじめからその話をすればよかった

2448「はじめからその話をすればよかった」 宮下奈都   実業之日本社文庫   ★★★★

宮下奈都の初エッセイ集。

2016年本屋大賞ですか~(「羊と鋼の森」、未読です)。おめでとうございますなんだけど、ちょっと複雑な心境でもあります。自分がひっそりと大事にしてきたものが、一気にメジャーになってしまった寂しさ、かな。

宮下さんとはたどってきた時代が同じなので、ものすごく親近感を感じるというか、読んでいて安心できる作家さんなのです。最初から主人公に感情移入できることはまれなんですが(笑)、いつのまにかどこかでギュウッとつかまれてしまう。ああ、読んでよかったと思える。そんな作家さん。

エッセイも同じでした。最初は物足りないような気がしていたけれど、いつのまにか夢中になって読んでいました。気負わずさらりと書かれているので、こちらも肩の力が抜けて、とても気持ちよくなってきます。そして、地に足が着いているので、こちらも気持ちが安定します。

三人のお子さんの話とか(今はどんな少年・少女になっているんでしょうね)、旦那さまにひとめぼれした話とか、自作解説などなど、興味深い話がいっぱいでした。

2016年7月 2日 (土)

岬のマヨイガ

2447「岬のマヨイガ」 柏葉幸子   講談社   ★★★★

萌花は、会ったこともない伯父にひきとられようとしていた。ゆりえは、暴力をふるう夫から逃れようとしていた。二人が偶然降り立った海辺の町の駅。そこで彼女たちの運命を変えたのは、あの大震災と大津波だった。避難先で、山名キワという老女と出会い、三人は家族として暮らし始めるのだが・・・。

「霧のむこうのふしぎな町」「つづきの図書館」・・・どちらも、私にとってはとても大事な物語です。その柏葉幸子さんのデビュー40周年記念作品。勇んで買ったのですが、読むにはやっぱり勇気が要りました。

震災のことを描くのは、きっとそれなりの覚悟が必要だったのでしょう。児童書というくくりであればなおのこと。子どもにどう届けるかは、悩ましいところです。しかし、柏葉さんは、いくつかのフィルターをうまく使いこなして、この物語を優しく届けてくれました。

ひとつのフィルターは、主人公がみな舞台となる狐崎の出身ではないということです。地元民ではないから、地元で被災した人たちの気持ちは慮るほかはないという設定になります。もっとも、三人とも被災はしたわけで、地元民ではないけれど当事者という、読者が寄り添いやすい設定になっています。

もうひとつのフィルターは、萌花が「ひより」、ゆりえが「結」と名を変えて生活することです。彼女たちはそうすることで自分らしい生き方を取り戻していくのですが、やはりそれはバーチャルな現実です。このバーチャルというのが、ほんの少し読者の気を楽にさせてくれるような気がします。

そして、一番大きなフィルターは、妖怪や座敷わらしや、お地蔵さんや・・・キワばあちゃんの「ともだち」である不思議なものたちです。これは、柏葉さんの得意とするところですが、この不思議なものたちは、あの当時「なんとかしたい」と思っていたたくさんの人たちの分身でもあります。私たちは、彼らの姿を借りて、狐崎の人たちを助けに行けるのです。

理屈っぽくなってしまいました。

震災はもちろんですが、それ以外にも私たちが直面する不条理はたくさんあります。それでも、生きていきたいのだと、この物語は語りかけてくれているようでした。

2016年7月 1日 (金)

偉くない「私」が一番自由

2446「偉くない『私』が一番自由」 米原万里 佐藤優・編   文春文庫   ★★★★

米原さんのエッセイを、盟友・佐藤優氏が選んだベスト版。ロシア料理のフルコースになぞらえて、選ばれた数々の名品は・・・。

佐藤さん編集だから、難解なのが多いかなと思っていたら、とんでもない。すごくおもしろかったです。角川文庫の「ベスト・エッセイ」は、すべてのエッセイ集からバランスよく選んだ感じでしたが、こちらは、佐藤さんが「ぜひこれは読んでほしい」と思ったものを選ばれたのではないでしょうか。米原万里という通訳、エッセイスト、そして作家・・・彼女の本質に触れる話題が多かったような気がします。

さらに、米原さんと佐藤さんとの関わり、特に佐藤さんが逮捕される前夜のやりとりは、実に米原さんらしいな、と。彼女の人柄が浮かび上がってくるようなエピソードでした。

なんと、大学の卒業論文まで掲載されていて(ロシアの詩人・ネクラーソフについて)、米原ファンには必携の一冊でしょう。

詮無いこととは思いながら、今こそ米原さんの辛口の批評が読みたいと思う、今日この頃の世界情勢です。

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