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2016年11月

2016年11月26日 (土)

真田太平記 6 肥前名護屋

2499「真田太平記 6 肥前名護屋」 池波正太郎   朝日新聞社   ★★★

いよいよ朝鮮攻めが始まる。多くの大名が肥前名護屋に出陣した。真田昌幸・信幸親子も出陣。その途中、大坂で、幸村の婚礼がとりおこなわれた。信幸は、久しぶりに見た秀吉に、強い老いを感じる。一方、甲賀の里で瀕死の重傷を負った草の者・お江は、危ういところを助けられたが・・・。

稲姫(小松殿)を妻にしたことで徳川に接近する信幸と、昌幸のあいだにはなんとなく隙間風が・・・。という、不穏な空気が漂う真田家。「真田丸」の昌幸もかなりはっちゃけた人物でしたが、こちらの昌幸もなかなか(苦笑) ドラマでどんなふうに演じられたのか、見てみたいものです。

そして、信幸に独特の存在感がありますね。先日読んだ「獅子」につながっていくキャラなので、ある程度覚悟はしてましたが、「真田丸」みたいなお笑い要素は全くなし(あたりまえ)。あまりに「出来た」息子なので、いずれ来るだろう犬伏の別れ、想像するだけで悲しいものがあります。

この巻は幸村の出番はあまりなく、半分は草の者の話。そうそう、佐助は佐平次の息子という設定になるんですね。草の者としての才能はありそうですから、この子がいずれ幸村のために働くようになるんでしょうね。ちょっと楽しみ。

2016年11月24日 (木)

神様のケーキを頬ばるまで

2498「神様のケーキを頬ばるまで」 彩瀬まる   光文社文庫   ★★★★

ふるぼけた雑居ビルに関わる人たち。シングルマザーのマッサージ師。カフェの店長。平凡なOL.。・・・彼らは、傷つきながらも、前を向いて生きようとしている。

「泥雪」「七番目の神様」「龍を見送る」「光る背中」「塔は崩れ、食事は止まず」の5編。雑居ビルと、「深海魚」という映画が5つの話をゆるくつないでいます。

もう、一話目から泣いてました(苦笑)

どうして、こんなにせつない生き方をせずにはいられないのだろう。いや、そういう人は案外たくさんいるのだと思う。でも、自分のせつなさから目をそらしてしまえず、傷つき、苦しむ人たちは少ないのではないだろうか。

彩瀬まるの物語は、そういう人たちを容赦なく描き出す。それでいて、優しい。もがく姿を徹底的に描きながらも、どこかでふんわりと抱きとめるような優しさ。その厳しさと優しさに、すっかりやられてしまいました。

シングルマザーのマッサージ師が主人公の「泥雪」が好きなのですが、その主人公が他の話では「白髪交じりの中年女性」という表現をされていて、ちょっと愕然としました。「泥雪」のイメージでは、もっとかっこいい女性のような気がしていたけれど、他者の視点ではただのオバサン・・・。自分の思い込みの甘さと、彩瀬さんの目の厳しさを痛感した瞬間でした。

やっぱり、彩瀬さんいいなあ。

2016年11月23日 (水)

戦地の図書館 海を越えた一億四千万冊

2497「戦地の図書館 海を越えた一億四千万冊」 モリー・グプテル・マニング   東京創元社   ★★★★

第2次世界大戦の中、戦地の兵士に本を送ろうとした人たちがいた。それは、国家プロジェクトとして、図書館員・軍・出版業界が挑んだ史上最大の図書作戦だった。いったいどのようにして、本は戦地へ届けられたのか。

話題のノンフィクションです。えらく時間がかかってしまいましたが、ようやく読了。

ナチスは焚書を行った。それに対して、アメリカは、本を兵士に与えようとした。すべてはそこから始まります。兵士の士気を高めるためというのが目的だったのですが、本は予想以上に兵士たちに「必要」とされます。彼らは、戦場でむさぼるように本を読んでいたのです。それは、退屈しのぎでもあり、現実逃避でもあり・・・ともかく、「本を読む」ことが、彼らの最高の娯楽だったのです。

やがて、「兵隊文庫」という戦地用ペーパーバックが作られ、戦地に配給されるようになります。これができるまで、あるいはその後も、数々の困難が立ちはだかるのですが、一貫して「兵士のために本を送る」ことをやりぬく関係者の姿勢には圧倒されます。

何より、胸を打つのは、戦地から送られてきた兵士たちの手紙です。彼らがどれだけ本を必要としていたかがひしひしと伝わってきます。人間にとって本がどれほど大切なものか・・・。

以前読んだ「親愛なるブリードさま」を思い出しました。強制収容所に送られた若者たちに本を送り続けた女性の話。私たちはつらいときほど、心の支えになる何かを必要とするものです。そして、「本」はその支えになり得るものなのですね。

訳者・松尾恭子さんのあとがきに、日本にも「兵隊文庫」があったことが書かれていました。江戸川乱歩とかだったそうな。どんな本があったのか、それを兵士たちはどんな思いで読んでいたのか知りたいものです。

2016年11月22日 (火)

真田太平記 5 甲賀問答

2496「真田太平記 5 甲賀問答」 池波正太郎   朝日新聞社   ★★★★

秀吉による小田原征伐。北条の降伏により、真田は沼田城を取り戻す。平穏な日々が戻るかに見えたが、昌幸、信幸、幸村の親子・兄弟の心に、微妙な影が差してくる。

「真田丸」での真田家の仲良しファミリーぶりが気に入っている身としては、なんとなく悲しい気分にもなる巻でした。家臣たちも、なんとなく信幸と幸村とを比較しつつ、どちらに好意を寄せるかみたいな雰囲気があって。

特に、物語の初めから真田家をひっかきまわしていた角兵衛(幸村たちの従兄弟。実は、異腹の弟)が、一時は幸村の命を狙っていたのに、すっかり幸村派になっちゃって。とは言え、この物語は幸村だけを立てるのではなく、兄・信幸を父や弟とは全くタイプの違う傑物として描いているので、そこはすごく読み応えあります。

小田原攻めのあと、秀吉は唐入りの準備に入り、その政権にも翳りが見えてきます。そして、草の者たちにも大きな動きが・・・。物語はまだまだこれからです。

2016年11月20日 (日)

真田太平記 4 上田攻め

2495「真田太平記 4 上田攻め」 池波正太郎   朝日新聞社   ★★★★

ついに徳川は真田攻めを決めた。上田城に寄せる徳川軍を、真田はどう迎え撃つのか。

第一次上田合戦です。信幸、大活躍。合戦後には稲姫との婚礼が・・・。

昌幸、信幸、幸村の親子三人の関係がおもしろいのですが、この巻は、信幸がずいっと前へ出てきた感じですね。一方、幸村は上田合戦後、上杉の人質に。さらに、秀吉のもとに赴くことになります。

「真田丸」とついつい比較しながら読んでしまうのですが、これはこれですごくおもしろい。ドラマ化された「真田太平記」も見てみたいと思わされます。それぞれキャラの立った登場人物が活躍していて、「真田丸」とは違うけれど、これはこれで良しと思えるのです。

物語は上田合戦の後、名胡桃城を北条に攻め落とされるあたりまで進んでいます。これにも謀略が絡んでいて・・・。そして、いよいよ秀吉の小田原攻めですね。

今、3冊ほどの本を同時進行で読んでいるのですが、「真田太平記」だけ進みが速く、ほかが停滞しています。それだけ読みやすく、おもしろいのですよ。

2016年11月19日 (土)

謹訳 平家物語 四

2494「謹訳 平家物語 四」 林望   祥伝社   ★★★★

西へ落ちのびる平家。それを追う源氏。彼らはとうとう決戦の地・壇ノ浦へ。平家一門の行く末は・・・。

読みました。読みきりました。全四巻。

この巻は、巻十から巻十二、さらに灌頂巻で、完結です。

有名な場面が目白押しですが、やはり那須与一の場面に期待してました。あの場面をどんなふうに訳してくれるかな、と。お見事でした。原文に即して訳しているのですが、口語訳ながら文章のリズムを崩すことなく、現代に琵琶法師がいたならかくやと思わせるものになっていました。

もちろん、全文においてそうなのですが、「語り」の文体を口語で表現するのはなかなか難しいと思います。特に、平家物語のように、文語のリズムを極限まで生かした語りの文体を口語にするのは至難の業。でも、この「謹訳」シリーズはそれに果敢に挑み、成功した例だと思います。

それから、この本、「コデックス装」という背表紙のない糸とじ本で、慣れるとすごく読んでいて心地よいのです。いろんな人に手にとってみてほしい本です。

2016年11月17日 (木)

X’mas Stories

2493「X’mas Stories」 朝井リョウほか   新潮文庫   ★★★★

副題「一年でいちばん奇跡が起きる日」

朝井リョウ「逆算」  あさのあつこ「きみに伝えたくて」  伊坂幸太郎「一人では無理がある」  恩田陸「柊と太陽」  白河三兎「子の心、サンタ知らず」  三浦しをん「荒野の果てに」

なんですか、この豪華なラインナップは! 買うに決まってるでしょ!

アンソロジーでこれだけ自分の好みの作家さんがそろっていることは珍しいです。そして、それぞれの良さがこれだけ存分に味わえるのも珍しいです。クリスマスを題材にしてても、それぞれ、とっても「らしい」作品になっています。

伊坂さんのは既読でしたが、この話、妙に印象に残るんですよねえ。鉄板ネタ(読んだ人だけわかってください)。

恩田さんのはそうきたか~、と。ある意味「え?」という感じなんですが、いかにも恩田さんらしい。うん、恩田さんならこういうの書くよねえ、と納得。

一番感動したのは、しをんさんのでした。お侍が現代にタイムスリップするというSFなんですが・・・。このネタで、ここまで感動させるあたり、さすがしをんさんだなあ。

いやいや、幸福な読書タイムでございました。

2016年11月14日 (月)

真田太平記 3 秘密

2492「真田太平記 3 秘密」 池波正太郎   朝日新聞社   ★★★★

源二郎の従兄弟・角兵衛が出奔し、源二郎は草の者たちに探索を命じる。一方、昌幸は上田の築城を急がせていた。秀吉と家康の緊張状態はいよいよ高まり、それが真田にも飛び火する可能性が出てきたからだった。戦は家康の勝利となったが・・・。

前からほのめかされていた源二郎の出生の秘密が明らかに。なるほど、だから「源二郎」「源三郎」なわけですね。でも、大河同様、こちらも兄弟仲良しで何よりです(笑) 一方、自らの出生の秘密を知らぬまま出奔し、源二郎の命を狙う角兵衛は不憫です。

どうしてもドラマと比べながら読んでしまうのですが、小山田茂誠と姉上の登場には「おお~」となってしまいました。それから、上杉景勝! 誠意あふれる言動に、あの昌幸までが感動してるのが、おかしかったです。

家康と決裂したので、次は上田合戦ですかね。楽しみ、楽しみ。

2016年11月12日 (土)

天子蒙塵 第一巻

2491「天子蒙塵 第一巻」 浅田次郎   講談社   ★★★★

宣統帝溥儀。清朝最後の皇帝にして、満州国の皇帝になった彼の側妃が起こした離婚裁判。日本では全く報じられなかった離婚劇とはいったい何だったのか。「蒼穹の昴」シリーズ第5弾。

あの衝撃のラストの「マンチュリアン・リポート」で、このシリーズは完結したものだと、勝手に思っていました。続いてましたか~。しかも、いきなり春児登場! いやいや、シリーズを通して読んできた者としては、うれしい限りです。

さて、今回は、ラストエンペラー溥儀と、張作霖の息子・張学良がメインになるようです、どうやら。でも、一巻は、溥儀の第二夫人であった文繍が主人公。なぜ、彼女は溥儀と離婚したのか。皇帝に対して離婚を求めるという前代未聞の出来事について、彼女自身が物語ります。

それにしても、文繍たちが口にする「自由」という言葉の、なんと重いことか。(そして、それが当時の中国に限定されることなのか。) もっとも「自由」に程遠いのが溥儀であり、不幸なことに彼自身がそのことに無自覚なのが、やりきれないものがあります。

とりあえず、壮大な物語に身をゆだね、人が生きることの意味を考えていきたいと思います。

2016年11月11日 (金)

真田太平記 2 天魔の夏

2490「真田太平記 2 天魔の夏」 池波正太郎   朝日新聞社   ★★★★

織田信長が本能寺の変で斃れた。真田昌幸は一個の大名として、城を造り、領地を守る決心をする。一方、草の者のお江に命を救われた佐平次は、昌幸の次男・源二郎に仕えていた。

信長の横死をきっかけに、昌幸が一国一城の主となる決心を固めたことで、真田家の進む方向が決まってきました。

また、源二郎の生い立ちには、何かしら秘密があるらしく・・・。それが、源三郎と源二郎兄弟に対する両親の態度の違いの所以らしい。けれど、兄弟の仲がいいことは救いですが。

草の者の活躍を描いているのもおもしろいところ。間諜としての働き、その凄まじさと、真田家がどれほど彼らを重用していたかなど・・・。これらが今後、物語にどう厚みを加えていくのか、実に興味深いところです。

2016年11月 9日 (水)

真田太平記 1 岩櫃の城

2489「真田太平記 1 岩櫃の城」 池波正太郎   朝日新聞社   ★★★★

戦国の雄・武田家が滅亡した。武田家に仕えていた真田昌幸は、今後の身の振り方について苦悩する。勢力を増す織田に従うことを選択しようとするが・・・。

旦那が図書館で借りてきてくれました。全18巻だそうです(新潮文庫版なら12巻だった)。「真田丸」が終わるまで待てず、読み始めてしまいました。

武田家の滅亡から始まるあたり、「真田丸」と同じですね。というか、「真田丸」がこの「真田太平記」へのオマージュでもあるのでしょう。脳内ではすっかり「真田丸」のキャストで読み進めています。

ドラマのような仲良し親子という感じではなく、不穏な空気も感じさせる真田家ですが、それはそれで楽しんで読んでいます。

今はまだ昌幸メイン。それに、向井佐平次という足軽の青年と草の者・お江の話が交互に描かれていく感じです。これから真田の物語がどんなふうに展開していくのか、非常に楽しみです。

2016年11月 7日 (月)

苦手図鑑

2488「苦手図鑑」 北大路公子   角川文庫   ★★★

公子さんの「苦手」なものを集めたエッセイ集。

文庫の裏表紙の説明に

「読むとどうでもいい気分になって酒でも飲んで眠りたくなることうけあいの脱力系エッセイ集」

とありまして、至言だなあ、と。

いやもう、読んでると、マジすかこれ、そんなことがほんとに起こるんですか、絶対ネタでしょ、と言いたくなる様なこと連発なんですけど。でも、それが公子さんの日常なんですよね。

公子さんのまわりにおもしろいことがたくさんあるというより、観察眼に優れているんでしょうね。普通ならなんとなく見過ごしてることに引っかかってるんだろうなという気がします。

というわけで、今回も楽しませていただきました。解説が小路幸也さんというのも、お得感アップでした。

2016年11月 6日 (日)

獅子

2487「獅子」 池波正太郎   新潮文庫   ★★★★

真田信之。ようやく隠居の身となった彼に、真田家の危機が降りかかる。時の老中・酒井忠清との諜報合戦に勝利するのは、果たして。

病膏肓に入ると申しましょうか、ついつい買ってしまいました(苦笑)「真田太平記」も読んでないのに、その後日譚を読んじゃうのもなあと思いましたが、興味があるものは仕方ない。

「剣客商売」シリーズ読破以来、久々の池波正太郎。「信濃の獅子」真田信之の最晩年のお家騒動から信之の死までの物語。

93歳まで長生きしたのは知ってましたが、なんとまあ・・・。ある意味、後世に名を残した父や弟よりも凄まじい人生を送った人かもしれません。この人あってこその松代藩というのが、すごくよくわかりました。その辺を、ひょうひょうとした感じで描くところが、いかにも池波正太郎。いやあ、楽しませていただきました。

しかし、「真田丸」見てなかったら、絶対読まなかったというか、この信之にこんなに興味をもつこともなかっただろうなあ。

2016年11月 5日 (土)

暗い越流

2486「暗い越流」 若竹七海   光文社文庫   ★★★★

死刑囚に届いた。その差出人を調べることになった「私」は、意外な展開に・・・。

推理作家協会賞を受賞した「暗い越流」、葉村晶シリーズの「蠅男」「道楽者の金庫」、ノンシリーズの「幸せの家」「狂酔」の5編を収録した短編集。

やはり、表題作が出色の出来。仕掛け方がいかにも若竹さんらしくて、うまいなあ、と。さっくり描いているようなところが伏線になっていて、やられた!となるのです。「幸せの家」も、「くらし」に対する価値観がこれでもかと描かれていくところが、こちらの予想とは違うところに着地して、驚かされました。

葉村晶シリーズは安定の読み応えです。特に、「道楽者の~」は、晶が古本屋のバイトをすることになった経緯が描かれています。

解説は近藤史恵さん。これまたおもしろかったです。

2016年11月 3日 (木)

燈火

2485「燈火」 三浦哲郎   幻戯書房   ★★★★

小説家の馬渕は、生まれ故郷で大量の吐血をして入院した。胃潰瘍だった。驚いた妻と三人の娘も駆けつけてきたが、幸い治療はうまくいった。老いていく親たちと、新しい場に飛び立とうとする娘たち。家族の姿を描く連作短編。

もう、三浦さんの新作は読めないと思っていたのですが、東京に行ったおり、この本を発見。もう飛びついて買ってきました。

連載が中断されたままになっていたのを、未完のまま出版した由。詳しい経緯については、三浦さんのご長女・晶子さんが綴ってらっしゃいます。よくぞ、これを世に出してくださいました。単行本にならなければ、知らずにいたと思います。

ご自身の家庭をモデルにした小説。描かれるのは、馬渕とその妻、馬渕の姉など「親世代」の老いと、長女の結婚、次女の独立など、「子ども世代」の巣立ち。この家族の初期のころを知っていればなおさら、感無量なものがあります。

とはいえ、どのエピソードも仰々しく描かれるのではなく、あくまで家族の静かな日常の一場面なのです。でも、どれもが味わい深く、余韻が残る物語になっていて、さすが三浦哲郎とうならされます。

やはり残念なのは、「第九章 旅」が途中で終わってしまっていることです。どうやら、馬渕の亡父のことに触れる話になりそうだったので・・・読みたかったです。

2016年11月 2日 (水)

夢も定かに

2484「夢も定かに」 澤田瞳子   中公文庫   ★★★★

聖武天皇の御世。後宮で働くことになり、阿波の国から出てきた若子。寮で同室になった笠女は仕事のできるバリバリで、もう一人の春世は男を手玉に取る魔性の女。これといったとりえのない若子はとまどいつつ、日々の仕事に向かうが・・・。

平城京を舞台にした青春小説という、珍しいもの。奈良に心を奪われて数年、こんなの見たら読みたくなっちゃうに決まってるじゃないですか。表紙はかわいいのですが、中身はけっこうシビアでした・・・。

本来なら妹が出仕するはずだったのに、事情があって急に後宮入りした若子。必要な教養は身についてないわ、地方出身の采女と畿内出身の氏女の対立はあるわ、大変な日々。同僚の笠女は、仕事で身を立てる決意をしている有能な采女。春世は殿方にもてるだけでなく、藤原四兄弟の麻呂とのあいだには子まで生しているという・・・。

三者三様の彼女たちですが、それぞれに挫折を味わったりしつつ、自分なりに生きる場所を得ようと必死にあがきます。そのあがき方が、現代でも「あるある」な感じで、共感できるのです。

後宮では、安宿媛と広刀自が対立。ということは、政治の世界では、藤原四兄弟と長屋王が対立しているわけで、この政争の世界に、若子たちも巻き込まれていきます。それぞれ思いがけない展開を見せるのですが・・・。采女という、いわば「その他大勢」な立場の若子たちが、自分たちなりに必死に生きる姿に、思わず応援したくなります。

解説を読んで驚いたのは、この三人には、モデルになった采女がいたということ。歴史の流れにうずもれていた女子たちを見つけ、こんなドラマを描いてみせる作者の手腕に脱帽です。

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