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2016年12月

2016年12月29日 (木)

真田太平記 十二 雲の峰

2518「真田太平記 十二 雲の峰」 池波正太郎   新潮文庫   ★★★★

大坂の陣が終わり、徳川の世を磐石にして、家康は逝った。二代将軍秀忠の世となり、真田家への風向きも変わる。そこに仕掛けられた罠。信之は、唯一生き残った草の者・お江とともに、幕府の陰謀に立ち向かう。

「真田太平記」も大坂の陣で終わるんだろうと勝手に思い込んでいたので、「その後」があるのに驚きました。そして、とってもおもしろかった!

「生き残った」信之が主人公のこの巻は、もしかしたら、今までで一番おもしろかったかもしれません。信之を助けて働くのが、こちらも「生き残ってしまった」お江。そのあたりの運命のおもしろさが、なんともいえず。真田の家臣団が一丸となって、幕府に対抗するところなんか、気持ちよかったです。

一方、佐助の最期の様子と形見の品がもたらされたときは、思わず涙してしまいました。信之にとっては、佐助だけでなく、佐平次や、幸村のことも思い出されてならなかったでしょうね。

さて、年内になんとか最後まで読み通せました。「真田丸」を見なければ読まなかっただろうし、これを読むことで、「真田丸」をいっそう楽しめた気がします。

真田昌幸、幸村、そして信之を軸にした、壮大な物語を、堪能させていただきました。

2016年12月28日 (水)

吾輩も猫である

2517「吾輩も猫である」 赤川次郎・他   新潮文庫   ★★★

8人の猫好き作家が、漱石に挑む!?アンソロジー。

赤川次郎「いつか、猫になった日」、新井素子「妾は、猫で御座います」、石田衣良「ココアとスミレ」、荻原浩「吾輩は猫であるけれど」、恩田陸「惻隠」、原田マハ「飛梅」、村山由佳「猫の神さま」、山内マリコ「彼女との、最初の一年」

いずれも猫の視点から人間たちを見た物語。荻原さんの漫画には驚きましたが。

お気に入りは、恩田陸と原田マハかな。

さくさく読めるので、すき間時間にちょこっと読むのに適してそうです。

2016年12月27日 (火)

真田太平記 十一 大坂夏の陣

2516「真田太平記 十一 大坂夏の陣」 池波正太郎   新潮文庫   ★★★★

真田幸村は、ついに大坂夏の陣を迎える。裸城となった大坂城を出て家康の本陣を狙う幸村隊は、家康を追い詰める。しかし、わずかに及ばず、力尽きた幸村は、最期のときを迎えるのだった。

とうとう幸村は逝ってしまいました。ただ、必要以上に感傷的になるでもなく、やれるだけのことはやりとげて逝ったという感じでしょうか。

夏の陣が始まる前に信之と再会する場面があり、ここでは仲良く酒を酌み交わしていました・・・。「真田丸」では信之があえてそれを避けたので(ここは悲しかった)、こっちの世界では兄弟最後の語らいができてよかったなあと思えたり。

信之と言えば、弟が大変なときに、お通さんにポーっとしたりして(笑) 「太平記」の信之が唯一見せた隙でしょうか。

後藤又兵衛も登場しているのですが、それ以上に毛利勝永の活躍に頁を割いているのが印象的でした。ほんと、めちゃくちゃ強かったですよね、勝永さま・・・。

ところで、幸村死んじゃったのですが、まだもう一巻ある! 草の者とか、信之兄上の話になるんでしょうか。それはそれで楽しみ。

2016年12月25日 (日)

ゴースト≠ノイズ(リダクション)

2515「ゴースト≠ノイズ(リダクション)」 十市社   創元推理文庫   ★★★★

ある出来事をきっかけに、クラスですっかり「幽霊」扱いされているぼくの日常が変わったのは、席替えで前の席に玖波高町が座るようになってからだった。彼女は、「幽霊」のぼくに声をかけてきた。「まだお礼を言ってもらってない気がする」・・・ぼくには何のことか全くわからなかったのだけれど。

これがデビュー作なのですね。

最初はなかなか波に乗れずに読んでいたのですが、中盤あたりから一気読みでした。読み終えてからもしばらく、「ええっと、あれがこうで、あれはこういうことで・・・」と、反芻して、ボーっとしてしまいました。

ネタバレになるとまずいので、詳しくは書けませんが、多少盛り込みすぎのところはあるにせよ、ミステリとして、じゅうぶんおもしろかったです。青春ものとしても、よく書けていると思います。最後はちょっとうるうるきました。

大森望さんの解説も秀逸でした。

2016年12月24日 (土)

真田太平記 十 大坂入城

2514「真田太平記 十 大坂入城」 池波正太郎   新潮文庫   ★★★★

徳川と豊臣は手切れとなった。真田佐衛門佐幸村は、九度山を抜け出し、大坂に入城する。それを聞いた向井佐平次は、信之のもとを出奔し、幸村の下へ駆けつける。幸村は、大阪城の南に出城「真田丸」を築き、鮮やかな戦ぶりを見せるが・・・。

真田丸、キター!!(笑)

とうとう冬の陣です。「真田丸」の文字を見たとき、思わず叫びそうになってしまいました。

大坂方のダメダメっぷりは、ついこのあいだテレビで見たような気がしますが、あれ以上にダメダメでした。だからこそ、真田丸での幸村の戦いぶりがいっそう鮮やかに見えるのかもしれません。

が、それも一瞬のこと。徳川の和解工作に、大坂方はあっさり陥落。濠は埋められ、真田丸は破却という悪夢のような展開に(これも、ついこの間見たなあ・・・)。

冬の陣がけっこうあっさり終わってしまって、ちょっとビックリしたのですが、案外、そんなもんだったかもしれませんねえ。

2016年12月23日 (金)

2016年マイベスト

今年ももうそろそろ終わりですね。

2016年は、「真田丸、真田丸」言ってた気がしますが、本も読んではいましたよ(笑)

というわけで、恒例の「マイベスト」です。

【第1位】  「蜜蜂と遠雷」 恩田陸

 誰がなんと言おうと、今年のベストはこれです!
 ピアノコンクールを舞台にした、ものすごく密度の濃い物語。
 ずっと恩田陸を読んできてよかったと思える、すばらしい作品です。
 直木賞候補にもなってますが、今度こそ受賞してほしい!!(というか、これで受賞しなくてどうする!?)

【第2位】  「この世界の片隅に」 こうの史代

 泣かせるような描写はしていないのに、泣きました。もうボロボロ。
 映画も評価が高いようですが、この原作コミックもぜひ読んでほしい。
 漫画だから表現できるものが、ここにはあります。

【第3位】  「戦場のコックたち」 深緑野分

 初読みの作家さんでしたが、心臓撃ち抜かれました。
 戦地を舞台にした青春群像でありながら、見事なミステリ。
 これからずっと気になる作家さんになりそうです。

【第4位】  「狂うひとー『死の棘』の妻・島尾ミホ」 梯久美子

 話題になっていたので、けっこう軽い気持ちで手に取り、深みにはまりました。
 「死の棘」に描写された島尾敏雄・ミホ夫婦に迫った評伝。
 「書くこと」に執着する姿がすさまじかったです。

【第5位】  「真実の10メートル手前」 米澤穂信

 「王とサーカス」の太刀洗万智が活躍する短編ミステリ集。
 万智というキャラクタが魅力的で、もっと続きが読みたい!と思わせられます。 

【第6位】  「帰郷」 浅田次郎

 誰かが書かねばならない物語なのだと思います。
 「戦争小説ではなく、反戦小説」・・・作者の言葉が重く響きます。

【第7位】  「希望荘」 宮部みゆき

 杉村三郎、私立探偵として本格始動。
 このシリーズは、最後に残るほろにがさがなんとも言えません。

【第8位】  「神様のケーキを頬ばるまで」 彩瀬まる

 去年、彩瀬さんデビューしましたが、やっぱりこの人の書くものは好きです。
 「暗い夜、星を数えて」も読みましたが、まだ消化されていない感じがしたので、こちらを。

【第9位】  「暗幕のゲルニカ」 原田マハ

 これは、原田さんにしか書けない物語。
 作者の情熱を感じました。

【第10位】① 「星読み島に星は流れた」 久住四季

 初読みの作家さん。絶海の孤島を舞台にしたミステリ。
 純粋にミステリが好きで、夢中になって読んでいた頃のことを思い出しました。

【第10位】② 「静かな炎天」 若竹七海

 同率10位は、女探偵・葉村晶シリーズ新刊。
 ハードボイルドなんだけど、妙に好きなんです。

以上、ベスト10でした。

ランクインはしませんでしたが、今年はおもしろい時代小説にもたくさん出会えました。

  「信長の肖像」 志野靖史
  「ヨイ豊」 梶よう子
  「天下人の茶」 伊東潤

などなど。それから、「真田太平記」も読み進めています(年内に読み終わるかなあ)。

また、大好きな漫画家・吉野朔実さんの訃報は、とてもショックでした。
「本の雑誌」で追悼特集をしてくれたり、ネームを100pも収録した新刊が出たり、というのも忘れられない出来事です。

年内、まだ2、3冊は読むかと思いますが、とりあえずここで一区切り。

このブログを読んでくださった皆様、今年も一年ありがとうございました。

おかげさまで先日、2500冊目の節目を迎えることができました

体力・気力が続く限り、このブログもぼちぼち続けていくつもりです。

あなたも私も、来年もまた素敵な本と出会えますように。

2016年12月22日 (木)

スリーピング・マーダー

2513「スリーピング・マーダー」 アガサ・クリスティー   ハヤカワ文庫   ★★★★

新婚のグエンダは、イングランドに新しい家を買って住み始めた。それから、奇妙なことが続き、ふいにある「記憶」がよみがえった。この家では、かつて人が殺された?・・・グエンダは、真相を究明しようとするが・・・。

学生時代、クリスティ読みの友人から借りて読んだはずなのですが・・・見事に覚えてませんでした(苦笑) おかげさまで、新鮮な気分で読むことができました。

ミス・マープルものの、「眠れる殺人」。グエンダが記憶をよみがえらせていく過程は、なかなかサスペンスフルで、ストーリーテラーとしてのクリスティの面目躍如。

そして、グエンダが夫・ジャイルズと謎解きを始めると、登場するのが我らがミス・マープル。若い人たちのことを心配しながら、世知に長けたその頭脳を活かして、グエンダたちをリードしていきます。

次々現れる「容疑者」たち。そして、現実の殺人まで・・・。まあ、読み応えのある展開で、最後まで少しも飽きることなく、引っ張っていかれました。

久しぶりにクリスティーを読みましたが、やはりいいですね。解説が恩田陸というのも、ナイスでした。まだ、いくつか気になっているものや、再読したいものがあるので、これからもちょこちょこ読んでいこうと思います。

2016年12月18日 (日)

真田太平記 九 二条城

2512「真田太平記 九 二条城」 池波正太郎   新潮文庫   ★★★★

家康の上洛にともない、秀頼が挨拶に出向くよう要求する関東方に対して、大坂方は神経をとがらせる。加藤清正と浅野幸長は、自らの身を楯にして、秀頼を守ろうとする。そのかいあって、二条城での会見は無事に終わったかに見えたが・・・。その頃、九度山では昌幸がその生涯を終えようとしていた。

いまだに緊張が消えない徳川と豊臣。ずっとのばしのばしにしていた家康との会見を、とうとう受け入れる豊臣方。秀頼は堂々たる態度で、民衆の熱狂を誘いますが、それが家康にどう受け取られたか・・・。ということで、「豊臣家をこのままにはしておけぬ」という流れになっていくわけです。

片桐且元や加藤清正についても詳しく描写されていて、感無量でした(脳内では、「真田丸」のキャストで展開されております)。清正は毒殺説をとったのですね。

しかし、会見を受け入れれば世の中の平和は保たれる・・・という願いは、全く正反対の結果に。そして、とうとう方広寺の鐘銘事件が。

その頃、昌幸は九度山でその生涯を終えます。秀頼のうわさを聞き、また戦が起こるだろうと、それに望みを託していたときの死でした。

昌幸と毎晩戦略を語り合った幸村は、いよいよ次巻で大坂入りします。こちらも、クライマックスが近づいてきました。

2016年12月17日 (土)

真田太平記 八 紀州九度山

2511「真田太平記 八 紀州九度山」 池波正太郎   新潮文庫   ★★★★

幸村たちが九度山に流されてから時は流れ、表面上は徳川の世になった。しかし、大坂にはいまだに豊臣家があり、緊張状態は続いていた。真田の草の者たちは関ヶ原での敗戦から一時なりを潜めていたが、生き延びたお江と弥五兵衛を中心に、探索をすすめていた。向井佐平次の息子・佐助はいまや草の者の大事な戦力になっていたが・・・。

巻の総タイトルは「紀州九度山」ですが、九度山の描写はあまり出てきません。この辺は、「真田丸」と同じですね。やはり、九度山ではドラマティックな描写はしづらいでしょう。それだけ、昌幸と幸村にとっては退屈な時間の空費と思えたのかもしれません。

いきなり、長曾我部盛親(!)を佐助が尾行する場面から始まるこの巻。関ヶ原から時間が流れて、また新しい局面になったことがわかります。そして、小野お通登場~! なんというか、「真田丸」でなじんだ登場人物が出てくると、それだけで喜んでしまいます。

三谷幸喜さんは、「真田太平記」も大好きで、ドラマも見ていて、「真田太平記」で描かれなかったところを「真田丸」で描こうとした、とのこと。なるほど、だから読んでいても「あ、これは似てる」「ドラマのあのシーンは、『真田太平記』へのオマージュでは?」と思う場面がけっこうあるわけですね。

「真田丸」は明日で終わりですが(涙)、「真田太平記」はあと4冊残っています。年内に読破できるか?微妙な分量です(苦笑)

2016年12月15日 (木)

いつか緑の花束に

2510「いつか緑の花束に」 吉野朔実   小学館   ★★★★

最後のよみきり作品をはじめ、ツートーンコミックや、未公開ネーム100Pを収録した、吉野朔実作品集。

よくぞこれを出版してくださいました。吉野さんにとっては不本意なことかもしれませんが、ネーム段階であれ、吉野さんが描こうとしていた物語に触れられるのは、ファンとしてはうれしいことです。(かつて三原順の「ビリーの森・ジョディの樹」が、やはりネームのまま刊行されたことがありました)

私にとって、吉野朔実の死というのは、今年のトピックの一つで、いまだにその衝撃から立ち直ったとは言えないのですが。こうして残してくれた作品に触れることで、少し癒される気がします。

こんなことを考えてらしたんだなあ、こういう物語を書きたかったんだなあ・・・そんなことを思いながらネームを見るのも楽しかったです。

大事にします。

2016年12月14日 (水)

江戸を愛して愛されて

2509「江戸を愛して愛されて」 杉浦日向子   河出書房新社   ★★★

単行本未収録の江戸に関するエッセイと、漫画集。

・・・というコピーを見たら、買っちゃいますよねえ。

杉浦さんの書く江戸物エッセイは、ほんとに「お江戸から来たんですか?」と言いたくなる妙なリアリティがあって、大好きなんです。それから、江戸のイラストも大好き。今回は、「新春・江戸之七景」というイラストエッセイも収録されていて、堪能いたしました。

江戸の「粋(いき)」と、大坂の「粋(すい)」の違いとか、おもしろかったです。

日向子さんはお江戸に旅立ったんだと信じている私ですが、たまにはこちらにひょっこり帰ってきてくださらないかしら。

2016年12月12日 (月)

真田太平記 七 関ヶ原

2508「真田太平記 七 関ヶ原」 池波正太郎   新潮文庫   ★★★★

いよいよ関ヶ原の決戦が迫る。真田昌幸・幸村父子は、上田城で秀忠の軍勢を迎え撃ち、関ヶ原に遅参させることに成功する。そのとき、関ヶ原では、真田の草の者たちが、家康の首を狙って動き出していた。

第2次上田合戦と、関ヶ原。どちらも読み応えありました。関ヶ原には、幸村たちは参加していないわけですが、まさか、草の者たちがここで活躍するとは! お江をはじめ、物語の最初から登場していた壺谷又五郎らが、それぞれの手段で家康に迫ります。その臨場感たるや、もう!

というわけで、「真田丸」では一分足らずで終わってしまった関ヶ原ですが(笑)、なかなか楽しませていただきました。

もちろん、ここで家康が討ち取られてしまっては歴史が変わってしまうので、草の者たちの攻撃は失敗するのですが、これがまた惜しいところで・・・。幸村たちと両輪となって物語を引っ張ってきたお江や又五郎たちだからこそ、彼らを応援したくなってしまうのですよね。

西軍は破れ、信之と舅・本多忠勝の助命嘆願により、九度山に流罪と決まった昌幸と幸村。信之たちの嘆願シーンは、「真田丸」を思い出しました。

2016年12月11日 (日)

この世界の片隅に

2507「この世界の片隅に」 こうの史代   双葉社   ★★★★★

映画化されたのを機に購入しました。

一読して、涙が止まらなくなってしまいました。悲しいとか感動したとか、そんな言葉で言い表せない。なんだかわからないけれど、泣けてくる。・・・そんな漫画でした。

主人公のすずは、18歳で広島・呉に嫁ぎます。ちょっとボーっとしたところのある、絵を描くのが好きな娘。戦争末期のなかで、ごくごく平凡な日常が描かれていきます。もちろん、ちょっとした事件はあって、夫の秘密を知ってしまったり、海軍に入った幼馴染が訪ねてきたり・・・。そして、すずも否応なく戦争の悲惨に直面させられます。

でも、だから泣けてくるわけではなくて。日々の暮らしを丁寧に生きている人々の姿。それが脅かされる理不尽に対する怒りというか。その中でも、肩肘張らずに生活していく姿への静かな共感というか。ああ、すずは私でもあるんだという、そんな思いがごっちゃごちゃになって、涙になってあふれ出たのでした。

ところどころに、すずの描いた漫画「鬼イチヤン」が挿入されているのですが、これにはすっかりやられました。泣いた原因の一つは、これです。まさかこんなふうにつながっていくとは思いもしませんでした。

2016年12月10日 (土)

今古探偵十話 岡本綺堂読物集・五

2506「今古探偵十話 岡本綺堂読物集・五」 岡本綺堂   中公文庫   ★★★★

「ぬけ毛」「女侠伝」「蜘蛛の夢」「慈悲心鳥」「馬妖記」「山椒魚」「麻畑の一夜」「放し鰻」「雪女」「平造とお鶴」の十話。

シリーズ5巻目は、読み始めたものの、しばらく中断していました。ひところの岡本綺堂熱が冷めてきたといいますか(苦笑) でも、越年しちゃうのは嫌だったので、読み始めたら、すらすら読めてしまいました。やっぱりいいなあ、岡本綺堂。

「探偵」とありますが、いわば推理小説。とは言え、犯人がはっきりわからなかったり、動機がわからなかったりと、微妙な終わり方のものもありますが、それはそれで絶妙な味になっています。

江戸時代末期から明治・大正にかけての時代の色が見えてくるのが、なんともたまりません。旧仮名遣いも、物語の雰囲気を高めてくれます。

附録として「その女」「三国の大八」が収録されています。後者には、福島正則が登場して、思わず「おお!」となってしまった「真田丸」ファンでした(笑)

2016年12月 9日 (金)

殺人犯はそこにいる

2505「殺人犯はそこにいる」 清水潔   新潮文庫   ★★★★

副題「隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件」。

新潮ドキュメント賞、日本推理作家協会賞受賞作。

そして、「文庫X」の正体。

読んだのは夏だったのですが、「文庫X」の性質上、感想をUPするのは控えていました。(ちなみに、「文庫X」とは、盛岡のさわや書店さんが始めた試みで、書名・著者名をあえて隠して、書店員さんの推薦文のみで売るという企画。12月9日に「文庫X開き」が行われました)

さて、ジャーナリストの著者が、副題となっている「事件」を追ったノンフィクションなのですが、これが事実なのか?という展開を見せます。まず、この「事件」そのものが認識されていないという事実。冤罪。放置された真犯人。そして、司法の闇。調べれば調べるほど混沌としていく状況に、唖然としてしまいました。

それでも、真実の追求を投げ出さない著者の姿勢に、こちらも引っ張られるようにして読み続けました。そして、最後まで読んで、呆然。結局、この事件は何も解決していないのです。

「ごめんなさいが言えなくてどうするの」・・・検察に向けられた被害者遺族のこの言葉が、今も忘れられません。

この本を、より多くの人に読んでほしい、ここに書かれた「事実」を知ってほしいという、さわや書店の長江さんの切迫した思いは、わかる気がします。タイトルを隠して売るという暴挙に出たのも、決して売り上げを伸ばすための姑息な手段などではなく、とにかくこの本を読んでほしいという切なる願いが発端だったのでしょう。

でも、長江さんたちがおっしゃるとおり、スタートはここから、です。この本を読んで、我々はどうするべきか。何ができるのか。この社会をどういう目で見て、どのように変えていけるのか。試されるのは、私たち読者ではないでしょうか。

2016年12月 8日 (木)

真田太平記 六 家康東下

2504「真田太平記 六 家康東下」 池波正太郎   新潮文庫   ★★★★

秀吉死後、勢力を集める家康に対し、上杉は反旗を翻した。家康は上杉討伐のために東下。諸大名は右往左往する。そんな中、石田三成が挙兵。そして、真田家に決断のときが・・・。

事情がありまして、この回から新潮文庫版になりました。朝日新聞社版とは区切りが異なるので、文庫では6巻からの再スタートです。

さてさて、真田家としてはメインイベントとも言える「犬伏の陣」が! ドラマではすばらしい出来でしたが、こちらはどうだ!と意気込んで読みましたが・・・あれ?案外あっさりというか・・・。

信幸と昌幸・幸村との間に溝ができてしまっていたので、もっと後味の悪いものになるのかと覚悟していたのですが。「真田丸」ほどドラマティックでもなく、静かなのですが、やはり父子・兄弟として、通い合うものがあるのだなあという雰囲気でした。

関ヶ原の前哨戦というところですが、司馬遼太郎「関ヶ原」に比べると、やや物足りないかも。でも、やっぱり石田三成の人柄が、決定的に西軍の何かを壊してしまったというところは、同じ解釈でした。ああ、治部さま・・・(涙)

そして、今回は、いよいよ佐助が草の者(忍び)として大活躍! 父・佐平次の生い立ちも明らかになり、今後がますます楽しみです。

2016年12月 4日 (日)

昨日のまこと、今日のうそ 髪結い伊三次捕物余話

2503「昨日のまこと、今日のうそ 髪結い伊三次捕物余話」 宇江佐真理   文春文庫   ★★★★

不破龍之進・きい夫妻に子どもが生まれる。その一方で、伊三次の息子・伊与太は絵師の道に迷いを抱え、伊三次の弟子・九兵衛の恋は一つの決着をみる。彼らを見守る伊三次たちの思いは・・・。

伊三次たちもすっかりいい年になって落ち着いた感があります。が、子ども世代がいろんな困難にぶち当たって、それを見守っている親世代の伊三次たちが、すごくいいのです。彼らも若いころはいろんなことにゴンゴンぶつかって、うまく乗り越えたり、失敗したりしてきたので。だからこそ、子どもたちに言えることもあるよなあ、と。

もっとも、伊三次たちも達観しているわけではなくて、彼ら世代なりの浮世の苦労もあるわけで。

いいことばっかりじゃなくて、ああもうやってらんねえと言いたくなるようなこともあり、それでもたまにはちょっと嬉しくなるようなこともあって。そういうのが暮らしってものなんだなあと、つくづく思うのです。社会の仕組みが変わっても、そういう「暮らし」って、連綿と続いているんだと、宇江佐さんの物語を読むと、つくづく思います。

今回は、大矢博子さんの解説を読んで、思わず落涙。

もう新作は読めないけれど、残されたものを大切に繰り返して読んでいきたいものです。

2016年12月 3日 (土)

真田太平記 8 風雲

2502「真田太平記 8 風雲」 池波正太郎   朝日新聞社   ★★★★

ついに、秀吉が死んだ。まもなく、五大老の一人、前田利家も死に、家康がその牙をむき始める。加藤清正、副島正則らは石田三成を襲おうとし、一気に世の中はきなくさくなっていく。

いよいよ関ヶ原前夜という感じになってきました。石田三成、大谷吉継といった人物が登場し、真田の草の者たちが吉継の密書を佐和山をはじめ、あちこちに運んだりして、大活躍。ついついワクワクしてしまいます。

そして、佐平次の息子・佐助の草の者としての活躍が始まります。佐助と幸村の異母弟・角兵衛の間に確執が生まれたり。今後、佐助からは目が離せなくなりそうです。

とにかく、たくさんの登場人物が生き生きと動き回っていて、ともすれば昌幸父子をしのぐ勢いだったりするのですが(苦笑)、それぞれにストーリーが感じられるところは、今の「真田丸」と似ているのかもしれません。

2016年12月 2日 (金)

真田太平記 7 秀頼誕生

2501「真田太平記 7 秀頼誕生」 池波正太郎   朝日新聞社   ★★★

豊臣家に運命の子・秀頼が誕生する。それによって、天下の趨勢はますます複雑なことに。真田の草の者たちにも緊張が走る。そんな中、甲賀忍びによって傷を負ったお江は、奇跡的な脱出に成功するが・・・。

秀頼の誕生の一方、病み衰えていく秀吉。朝鮮の役も思うように物事が進まず、ますます秀吉の神経をさいなんでいく。

豊臣家の滅亡が始まっている時期で、正直言って気がめいる話が多く・・・。そして、今回は真田家の話よりも、草の者に関する話の方がメイン。それはそれでおもしろいのですが、やはり個人的には真田家の物語を読みたいのですよねえ。

昌幸・幸村の「本家」と、信幸の「分家」が、なんとなく分かれてきていて、ちょっと寂しいのですが。

2016年12月 1日 (木)

狂うひとー「死の棘」の妻・島尾ミホ

2500「狂うひとー『死の棘』の妻・島尾ミホ」 梯久美子   新潮社   ★★★★★

「そのとき私はけものになりました」・・・島尾俊雄『死の棘』に描かれた壮絶な夫婦の姿。そのモデルであった妻・ミホは、どのような人生を歩んだのか。膨大な未公開資料とインタビューによって、ミホの生涯をたどる評伝。

2500冊という節目に選んだのは、最近話題のこの本。梯久美子さんのノンフィクションは好きなのですが、島尾敏雄は一冊も読んでいないのでどうしようかと思ってました。すると、巻末には「死の棘」のあらすじもついているし、「死の棘」未読でもこの本はいけます!と教えていただいたので、思い切ってチャレンジしました。

600ページという分量もさることながら、文章も頁びっしり書かれていて、手に取った瞬間は「うわあ(汗)」という感じ(苦笑) 

でも、序章と第一章を読んだ時点で、こちらの思い込みは粉々にされ、これは心して読まねば!と気合を入れられました。

二人の出会いは戦時中。特攻隊長として島に赴任してきた敏雄と、その島のいわばお嬢様だったミホ。これだけで、何かしら切羽詰った中でのロマンティシズムを感じてしまうわけですが、そんなものは木っ端微塵にされます。

とにかく、煽るような文句は一つもなく、二人の日記や手紙、草稿などの膨大な資料と、著者がインタビューした記録をもとに、「事実」を淡々と記述していきます。そうして浮かび上がってくるのは、ミホという一人の女性の人生。そして、その夫であった敏雄の人生。二人の間にあった「書く」という行為の意味。

結婚してからの壮絶な日々は、創作ではなく、ほぼ事実であったこと。愛人として登場する「あいつ」とは誰なのか。ミホと敏雄はなぜ「書く」ことに執着したのか。

ミホと敏雄の人生は、きれいごとの愛の記録なんかではなく、幾度も失敗しながら自分を責め、苦しみながら生きる、人間の姿の記録だと言えるのかもしれません。

この本は、ミホという一人の女性の生き様を描き出したものであり、「死の棘」の読み方に、今までなかった軸を与えるものなのかもしれません。少なくとも、ロマンティックな「愛の神話」とはもう読めないでしょう。

著者は、安易な憶測をするのを良しとせず、わからないものはわからないまま、読者に提示されます。その最たるものはラストで・・・いったい、ミホさんは何を考えてそれを持っていたんだろうと思うと、それまで何かしら彼女という人間をつかんだ気がしていたのが、雲散霧消した気分になりました。

夫婦の記録であり、戦後文学史の物語でもあり、女性の精神史でもあり、上質のミステリでもあり・・・そんな一冊です。

私の中には、「言葉を書く」ことに囚われた一組の男女の姿が、印象深く残りました。

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