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2017年2月

2017年2月26日 (日)

遺体 震災、津波の果てに

2543「遺体 震災、津波の果てに」 石井光太   新潮文庫   ★★★★

3月11日。釜石は、町の半分が海に沈んだ。安置所に次々運び込まれる多くの遺体を前に、奮闘した人たちがいた・・・。

いつか読まねばならないと思いつつ、積読していました。どうしても読む勇気が出てこなくて。でも、震災からもうじき6年。そろそろいけるかな、と。

ある遺体安置所に関わった人々の姿を描いた、まさに「渾身のルポルタージュ」。必要以上に筆者が前に出てこず、取材した人たちの有り様を、丁寧に記録したものです。

タイトル通り、遺体にまつわる話なので、やはりある程度時艱が経過した今読むのは正解だったかな、と。この本が出た当時では、冷静に読めなかったと思います。

未曾有の災害に直面したとき、自分も傷つきながら、純粋に人のために動く人たちの姿は尊いと思います。でも、単なる「いい話」ではなく、彼らの葛藤まで記録したことは、有意義なことだと思うのです。

人間は、つらいことを忘れなければ生きていけません。でも、忘れない努力をするべきことも、あるはずです。これが記録された意味を、考えていこうと思います。

2017年2月25日 (土)

星がひとつほしいとの祈り

2542「星がひとつほしいとの祈り」 原田マハ   実業之日本社文庫   ★★★★

道後温泉で盲目のマッサージ師と出会ったコピーライターの文香。その人は、かつて令嬢と呼ばれるような生活を送っていたのだという。彼女の若き日の恋と、献身的に仕えてくれた女中との絆を聞いた文香は・・・。(「星がひとつほしいとの祈り」)

原田マハは好きな作家ですが、主に読むのは美術系の作品。それも、図書館で借りて・・・と、なんとなく決めています。ところが、これは書店でたまたま見つけて、買ってしまいました。帯のコピーに引かれたからです。

「人生の節目に何度も読み返したい一冊です!」

それなら、手元においてみようか、と。

収録されているのは、7つの短編。20代から50代まで、さまざまな年齢の女性が主人公。

2話目の「夜明けまで Before the Daybreak Comes」でやられました。シングルマザーとしてひかるを生み育ててきた母・あかりが死去。女優だった母は、奇妙な遺言をひかるにのこしていた。遺言どおり、ある町を訪ねると、そこには・・・という物語。それぞれに自分の思いを引き裂かれながら、懸命に生きてきた人たちの姿に、思わず涙してしまいました。

どの話の主人公も、何か思い通りにいかないぎくしゃくしたものを抱えていて、あるいは大きな喪失を抱えていて・・・ある人はそれをなんとか笑い飛ばそうとしていたり、ある人はそこで立ち止まってしまっていたり。それでも、過ぎていく日々の営みの中で見せる彼女たちの表情は、決して他人事とは思えないのでした。

そして、彼女たちにもたらされる、ほんの少しの救い。それが、こちらの心までふっと緩ませてくれる、そんな物語なのです。この感じ、どこかで知ってる・・・と思ったら、藤田香織さんの解説を読んで、「あっ!」と。「旅屋おかえり」でした。納得。

この短編集も、日本各地を舞台にしています。私が土地鑑があるのは、「寄り道」の男鹿半島・白神山地くらいでしたが。

たしかに、これは「何度も読み返したい」本かもしれません。

2017年2月24日 (金)

終りなき夜に生れつく

2541「終りなき夜に生れつく」 恩田陸   文藝春秋   ★★★★

「山」で育てられ、そこで生きのびた三人の少年。強力な「在色者」である彼らは、山を降り、それぞれの人生を歩んだ。一人は傭兵となって。一人は途鎖国の入国管理官となって。そしてもう一人は、犯罪者となって。

恩田さんの本が次々出るので、うれしくてしょうがないのです。この本の帯にも「祝・直木賞」の文字が。

「夜の底は柔らかな幻」のスピンアウト短編集。青柳淳一が傭兵をしていた頃の「砂の夜」。葛城晃の学生時代の「夜のふたつの貌」。同じく葛城が入国管理官になるきっかけを描いた「夜間飛行」。そして、神山倖秀が稀代の犯罪者になる直前の物語「終りなき夜に生れつく」。

本編がやたら怖かった記憶しかなかったので、慌てて読み返しました(斜め読みだけど)。で、途鎖国とか、在色者とか、イロとか、いろんな設定と登場人物の復習をして、読み始めました。

いずれも「夜の底は~」の前の話。本編では、それぞれ名を成している(悪い意味で)三人が、そこにいたるまでの断片が描かれています。本編にも登場した軍(いくさ)勇司が登場して、なかなかいい味出しています。

葛城たちの行き着く先が先なので、決して愉快な話にはならないのですが、まだ若い彼らの姿を見られるのがおもしろかったです。やはり、一番書き込まれているのは葛城ですね。神山はやはり得体が知れないというか。稀代の犯罪者という設定ながら、とらえどころがない人物です。

イロという特殊能力をもって生れたために、殺人者となっていった三人。もう少し彼らの物語が読みたい気がします。

2017年2月22日 (水)

ようこそ授賞式の夕べに

2540「ようこそ授賞式の夕べに」 大崎梢   創元推理文庫   ★★★★

書店大賞授賞式当日。成風堂書店の杏子と多絵のもとに、福岡の書店員・花乃が尋ねてきた。本屋の名探偵・多絵に、書店大賞事務局に届いた不審なメッセージの謎を解いてほしいのだという。一方、明林書房の営業である智紀のもとにも同様の情報が。調べるほどに事態は混乱していく。果たして、授賞式までに謎を解くことができるのか。

副題「成風堂書店事件メモ(邂逅編)」というわけで、成風堂の杏子と多絵のコンビと、明林書房シリーズ(というか、営業マンシリーズだね)のひつじくんこと井辻智紀が、とうとうご対面です!

今回の舞台は、書店大賞の授賞式。とは言え、その授賞式にたどり着くまでが大変。杏子たちも、ひつじくんたち(おなじみの営業マンメンバーも当然総出演)も、あちこちを飛び回って、謎解きをします。

が、調べれば調べるほど謎は深まり、さらに書店大賞を妨害するかのようなメッセージが・・・。

杏子&多絵サイドと、ひつじくんサイドと、それぞれで物語が進行していくので混乱しそうなのですが、そこが絶妙なバランスでまとめられています。で、「邂逅」によって、事件は無事解決!

事件そのものも本に関わるものなのですが、書店大賞というシステムについて語られる部分が興味深かったです。モデルになってるのは言うまでもないのですが、あの賞には私もちょっと否定的な意見をもっていまして。近年は売れる本がますます売れるみたいな傾向にあるのがちょっと不満で。でも、その考えが浅はかだったのだなと、恥じ入った次第です。本を大切に思い、少しでも多くの人に本をてにとってもらいたいというのは、とても純粋な気持ちですね。試行錯誤しながら、売れないと嘆くだけでなく、できることをしようという取り組みだからこそ、ここまでメジャーな賞になったのだな、と改めて感じました。

さて、これが「邂逅編」ってことは、当然、この後もありますよね? 大崎さん、続きをお待ちしています!

2017年2月20日 (月)

失われた地図

2539「失われた地図」 恩田陸   角川書店   ★★★★

旧軍都で現れる「裂け目」と、そこから出てくる「グンカ」たち。それを封じ込める役割を担う一族の遼平、浩平、そして鮎観(あゆみ)。彼らは命じられるままに、「裂け目」を閉じに各地を飛び回るのだが、やがて奇妙な現象が・・・。

「錦糸町コマンド」「川崎コンフィデンシャル」「上野ブラッディ」「大坂アンタッチャブル」「呉スクランブル」「六本木クライシス」の6話。

直木賞受賞後すぐの出版で驚きましたが、前に連載されていたものだったのですね。しかも、連載誌は「怪」。どうりで、SFというか、ホラーというか、不気味な物語になっています。「蜜蜂と遠雷」から読んだ人が、次にこれ読んだらビックリしますよ(笑)

「グンカ」はもちろん「軍靴」なのですが、本当にこんなものが現れてもおかしくない世の中になってしまいましたね。恩田さんの描く不穏な空気が、とってもリアルに感じられることが怖かったです。

怖かったといえば、一番ホラーっぽかった「上野ブラッディ」が一番怖かったのですが、その後の2話「大坂」と「呉」は、鮎観が登場せず、かわりにカオルという個性の強いキャラが登場。彼にひっぱられるように、ちょっとコメディっぽくなったりもして、あれ?路線変更?と思うと、最後の「六本木」でしてやられます。

かつて夫婦だった遼平と鮎観。二人がどうして一緒にいられなくなったのか・・・。力を増していく「グンカ」たち。そして、希望となるのは・・・。

どうか、本当にナショナリズムの祭典ではなく、スポーツと平和の祭典になりますように。「ダイジョウブ」という彼の言葉を信じたいものです。

2017年2月19日 (日)

うさぎ幻化行

2538「うさぎ幻化行」 北森鴻   創元推理文庫   ★★★

義兄の圭一が、飛行機事故で死んだ。リツ子を「うさぎ」と呼んでいた優しい義兄が遺したのは、「うさぎ」あての手紙と、「音のメッセージ」。その音は、日本の音風景百選の一部だったが、奇妙な仕掛けがほどこされていて、リツ子はその謎を解こうとするが・・・。

「音」を題材にしたミステリ。裏表紙のあらすじを読んだときには、もう少し甘めの物語を想像していたのですが、予想よりハードでした。

話が思ったより入り組んでいて、最後まで読んだ後は、「ん?じゃあ、あれってどういうこと?」となったりしました。ミステリとしてもすっきり謎解きという感じではなく、読者が察してくださいという雰囲気だったし。

なんともやりきれない物語でもありました。読み終えて表紙のイラストを見ると、なんとも言えない気分になりました。

北森さんが亡くなってもう9年が過ぎたのですね。未読の作品もあるので、大切に読んでいきたいと思います。

2017年2月18日 (土)

骨を彩る

2537「骨を彩る」 彩瀬まる   幻冬舎文庫   ★★★★

十年前に妻を病気で亡くした津村。心惹かれる女性と出会ったが、妻に対する罪悪感が消えない。「だれもわかってくれない」・・・妻が手帳にのこした言葉が、津村を縛っていた。

「指のたより」「古生代のバームロール」「ばらばら」「ハライソ」「やわらかい骨」の5編から成る連作。

いつもながら、彩瀬さんの書く物語は、ひりひりと痛い。あえてそこに触れなくても・・・というところに触れてくる。日常にまぎれて気づかないふりをしていることや、こちらの感覚が鈍磨していてスルーしてしまっていることに、ぴたりと焦点をあててくる。

登場人物と自分はまったく違うのに、どこかしら似たところを見つけてしまって、ひどく居心地の悪い思いをしてしまう。でも、気になるから読まずにいられない。

私にとって、彩瀬まるというのは、そういう作家です。「骨を彩る」も、やはりそうでした。津村の交際相手だった光恵が、千代紙細工をせずにいられない思いに、ドキリとさせられたり(「古生代のバームロール」)。「しっかり者」と言われる玲子が自分を追い詰める姿に共感したり(「ばらばら」)。

そうして、それぞれの登場人物たちに心揺さぶられながらたどりついたラストで、ぶわっと涙腺決壊しました。生きていくことって、いろんな欠落に気づかされることだし、思うに任せないこともたくさんあるけれど、何かが通じることもたまにだけどあるんだよな、と。

ひりひり痛いのだけれど、読んだあと、ほんの少し温かい気持ちになれる、そんな物語を書いてくれる彩瀬さん。やはり、これからも読み続けたい作家さんです。

2017年2月16日 (木)

あきない世傳金と銀 三 奔流篇

2536「あきない世傳金と銀 三 奔流篇」 髙田郁   ハルキ文庫   ★★★

五代目五鈴屋徳兵衛となった惣次と夫婦になった幸。商いに命をかける惣次を支えつつ、自らも商いの工夫をし、五鈴屋は順調に盛り返していったかに見えたが・・・。

四代目のときとは違って、惣次は幸にほれているようだし、商いも順調で、とんとん拍子かと思えば・・・というお話。そりゃそうですよね。いいことだけだったら、物語になりません。

幸も二十歳になり、すっかり「ご寮さん」が板についてきたようで。しかし、最初のうちは幸の商いの工夫を喜んで聞いていた惣次が、徐々に「後ろに隠れていればいい」と言う様になるあたりは、なんだかざわざわしました。そんなもんですかねえ。惣次は商人としてのプライドも高いから、幸の方が柔軟な発想ができるのが怖かったのかも。この後、この夫婦はどうなってしまうんでしょうね。

しかし、幸は強いなあ。いろんなことが起こるけど、基本的に動じてない感じがするんですよね。「図太く生きろ」って言われたからって、そんなに強くなれるものなの?と、ヘタレな私は思ってしまいました。そこがイマイチこの物語にのめりこめない原因かも。

とは言え、幸の今後は気になるので、次巻を楽しみに待ちたいと思います。

2017年2月12日 (日)

文庫解説ワンダーランド

2535「文庫解説ワンダーランド」 斎藤美奈子   岩波新書   ★★★★

文庫についている「解説」とは、いったい何? 並み居る名作やベストセラーは、どう「解説」されてきたのか。読者を発見と混乱に導く文庫解説とは。

文庫解説の解説? そりゃおもしろそうだ。しかも、斎藤美奈子さんだし。

と手に取ったら、見事に当たりでした。いや、おもしろかった。

たとえば、夏目漱石「坊っちゃん」、川端康成「伊豆の踊子」、太宰治「走れメロス」など。これら名作と称される作品たちは、どんなふうに「解説」されてきたのか。いろんな文庫で出ているので、これらを比較することで見えてくるものとは・・・。

また、チャンドラー「ロング・グッドバイ」とフィッツジェラルド「グレート・ギャツビー」の共通点とは? 「武士道」をどう読むか? 松本清張作品への超辛口解説とは? 小林秀雄作品への解説はこれまた難解? などなど。(これらは、ほんの一部です)

文庫を読むと、解説も一応読むんですが、けっこう「なんだこりゃ」なことがありまして。はっきり言えば、「一冊で二度おいしい」という経験の方が少ない気がしてたんですが、どこがおかしかったのか、これを読んでよくわかりました。そうか、そもそも「解説」になってなかったんだ。

ただ、たまに解説がすごくよく書かれていて、その後感想を書こうとしても、すべて解説の引き写しになりそうで参ってしまうこともあります(杉江松恋さんの恩田陸「夏の名残りの薔薇」解説がそうでした)。でも、それでこそ、「解説」なんですよねえ。

これからは、文庫の解説を読む視点もちょっと変わりそうです。

2017年2月11日 (土)

惑星カロン

2534「惑星カロン」 初野晴   角川文庫   ★★★★

文化祭が終わり、清水南高校吹奏楽部の3年生も引退した。いよいよ部を引っ張る代になったチカやハルタたち。まずは目の前にせまったアンサンブルコンテストに向けて練習を重ねるが、伸び悩む(?)チカの前に、「呪いのフルート」が・・・。

「チェリーニの祝宴」「ヴァルプルギスの夜」「理由(わけ)ありの旧校舎」「惑星カロン」を収録。ハルチカシリーズ第5弾。

今回は、「呪いのフルート」に始まって、怪しい音楽暗号、密室ならぬ鍵全開事件、そして、人間消失事件という謎。いつもながら、吹奏楽に一生懸命なチカたちの「寄り道」が語られます。

吉田大助さんの解説が的を射ていて、それ以上のことは書ける気がしないのですが・・・。感じたのは、このシリーズがじりじりと時を進めていっているということです。もともと、語り手(たぶん、チカ)が過去を回想する形で展開する物語なのですが(「イントロダクション」に明記されています)、徐々にこの物語のゴールに近づいていっていることを、痛感させられた今回でした。

がむしゃらに突っ走ってきたチカも、先輩の引退と、やがて入ってくる後輩の存在を目の当たりにして、自分たちの「ラスト」を意識し始めます。また、最大の謎であった「世界的な指揮者になるはずだった草壁信二郎は、なぜ南高の先生をしているのか」ということも、少しずつ明らかになりそうな気配が。

そんなこんなで、いつもとはまた少々違った意味で胸苦しさを感じる巻でしたが、「惑星カロン」のラストでは、思わず涙が・・・。いや、自分でもビックリしたんです。いきなり泣けてしまったので。自分の中にも、そういう純粋さがまだあったのか、と(苦笑) 

ところで、映画化されるんですよね。すごく気になっているのは、まさか、ありがちな吹奏楽ものの青春映画になるんじゃないですよね?ということ。これは、ミステリだというところが肝なんであって、ただの青春ものにしたら許さんで~と。

ただ、映画化にあわせてなんでしょうけれど、続刊が今月文庫書下ろしで刊行というのは、ちょっとうれしいかもです。

2017年2月 4日 (土)

さよならの手口

2533「さよならの手口」 若竹七海   文春文庫   ★★★★

四十過ぎの女探偵・葉村晶(ただし、現在休業中)は、ミステリ専門店でバイト中。古本の引き取り先で、白骨死体を発見して負傷、入院。その病院で、同室の元女優・芦原吹雪から二十年前に家出した娘の捜索を依頼される。余命いくばくもない吹雪のために依頼を引き受けた晶だが、意外な事実が次々と浮かび上がり・・・。

葉村晶シリーズの「静かな炎天」は、静かなブームらしいですね。私も去年のマイベストにランクインさせましたが。その「静かな炎天」の前の物語が、これ。長谷川探偵事務所をやめた晶が、どうして「白熊探偵社」の探偵になったのかという物語。

晶は、探偵としてはとっても有能。けれど、とっても不運。今回だって、想像するだけで恐ろしいような目に何度も遭ってます。それでも探偵をやめない晶って、とってもタフ。

しかも、今回は、事件が二重にも三重にも絡まって、こっちの事件の合間に、別の事件が展開して、さらにこの事件つながりと思っていたら、実は・・・なんていう、複雑な構造。でも、不思議なくらい、読者は頭が混乱しないのです。それはきっと、晶の視点がぶれないから。「今は、これ!」という、状況の取捨選択がはっきりしている。だから、読んでいて心地よいのです。

事件はやりきれないものだし、晶は話が進むにつれて満身創痍という状態になるし、決して笑える状況ではないのですが。どことなくユーモラスな雰囲気が漂うのも、好きなところです。晶が悲壮感漂わせないのがいいですね。実にたくましい。もちろん、彼女だって心折れそうになったりもするのだけど。

ちなみに、これから葉村晶シリーズを読んでみたいなあと思われる方には、「静かな炎天」から読まれることをおすすめします。短編集だし、読みやすい。それからこの「さよならの手口」や、もっと若い頃の晶が登場する作品にさかのぼる方がとっつきやすいと思います。

2017年2月 1日 (水)

鏡は横にひび割れて

2532「鏡は横にひび割れて」 アガサ・クリスティー   ハヤカワ文庫   ★★★★

セント・メアリ・ミード村にも、新しい時代の波は押し寄せてくる。新興住宅地に、新しい住人たち。そして、アメリカの女優がゴシントン・ホールに引っ越してきた。そこで行われたパーティで、招待客が不審な死に方をし・・・。本当に狙われたのは、誰だったのか? ミス・マープルが事件に挑む。

このタイトルになっているテニスンの詩。この一節を描いた絵が好きで。(その絵自体は、この話とは何の関係もありません。)なので、ずっと気になっていた作品だったのでした。

いやあ、おもしろかった。ミステリで、ここまで振り回されると、かえって気持ち良いですね。犯人は?手段は?動機は?と、次々と作者が繰り出してくるあの手この手に、すっかり翻弄されてしまいました。で、こういう事件には、ミス・マープルがよく似合います。

今回は、セント・メアリ・ミード村にも都会化の波が押し寄せてきて、我らがマープルもだいぶ年老いてしまって、ちょっともの悲しい気もしますが、事件が起こってからというもの、マープルが生き生きと活動するのが、なんともほほえましく。

それに、主人公にちゃんと歳を重ねさせて、「老い」もしっかり描くというの、私は嫌いじゃないです。

事件そのものはやりきれないのですが、ミス・マープルのキャラクターに救われる思いでした。

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