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2017年5月14日 (日)

やがて海へと届く

2579「やがて海へと届く」 彩瀬まる   講談社   ★★★★

すみれは、旅に出たまま帰ってこなかった。たぶん、あの大きな地震のせいで。彼女を失ったことをうまく受け入れられないまま、もう3年が過ぎた。それは、すみれのことを忘れないための時間だった。

あの震災のとき、東北に一人旅に出ていて被災した彩瀬まるさん。その体験なくしては書かれなかっただろう物語です。すみれは、もしかしたらそうなったかもしれない、もう一人の彩瀬さんなのかもしれません。

すみれの友人・真奈は、すみれを忘れないために生きているような、そんな息苦しささえ感じさせます。遺品を整理しようとするすみれの恋人・遠野に苛立ち、すみれを死んだものとして扱うすみれの母に嫌悪感を覚え。遠くの町で、一人ぼっちで死なせてしまった友人のことを、覚えていなくてはいけない、忘れてはいけない、と。

物語は、真奈の視点と、すみれと思われる死者の視点とが交互に展開します。どちらも痛々しいのだけれど、真奈は、徐々に変化していきます。いろんな人たちとの関わりの中で。その中で、真奈を無意識に支えているのが、すみれの言葉だったりするのが、とてもいい。一方、すみれは・・・歩いて、歩いて、ある場所にたどりつきます。

うまく表現できないのですが、ラストで、涙があふれました。そうであればいい、と。すみれも、震災で亡くなったあの人たちも、そうだったならいい、と。

帯に「喪失と再生の物語」とあります。言葉にしてしまうとそうなるのですが、静かで、それでいて生々しいこの物語は、そんなふうにくくられるのを拒んでいるような気がしてなりません。

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