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2017年8月

2017年8月31日 (木)

最愛の子ども

2627「最愛の子ども」 松浦理英子   文藝春秋   ★★★★

「舞原日夏 パパ    今里真汐 ママ   薬井空穂 王子様」・・・私立玉藻学園高等部二年四組の「わたしたちのファミリー」は、この三人によって構成されている。わたしたちは、三人を愛で、妄想し、時間を共有していた。

今まで敬遠していた作家さんなのですが、ツイッターで書評家さんたちの評価が高いので、おそるおそる読んでみました。

共学だけど、男子と女子にクラスが分かれている学校の高等部。日夏・真汐・空穂の三人を、「ファミリー」として愛でる少女たちの物語。日夏たちのことが語られるのだけど、それは「わたしたち」の妄想も混じっていて、どこまでが事実なのかわからない。ときにエロティックで、ときにせつなくて・・・。

「わたしたちのファミリー」の三人は、本当の家族とは何かしら断絶があって、それは本当にやりきれないのだけど、だから三人が結びついているわけではなく。純粋に、好きだし、かわいいと思って一緒にいる。それを、「わたしたち」は幸せな気持ちで眺めている。

「少女」と呼ばれるぎりぎりの年代の彼女たちがつくった、最後の楽園。そんな感じでした。自分たちの弱さや限界を知っているからこそ、自分たちでシェルターを作り上げているような。

それでも、シェルターは永遠ではなく。やがて彼女たちはそこを出て行くのですが。「わたしたちのファミリー」の記憶は、彼女たちを温めてくれるものになるんだろうな、と。最後の一文を読んだ時に、そう思いました。

2017年8月30日 (水)

深泥丘奇談・続々

2626「深泥丘奇談・続々」 綾辻行人   KADOKAWA   ★★★

作家の「私」は、夜道で奇妙な生き物に出会う。近頃出没する猿かと思いきや、それは・・・。

深泥丘奇談シリーズ第3作は、9つの短編を収録。

前作はかなり「濃い」感じでしたが、今回はわりとあっさりした感じのものが多かったです。私としては、こちらの方が好み。

現実からちょっとだけずれた世界で展開するこの「奇談」、残念ながらこれで最後だそうです。一応。またどこかでひょっこり出てきてくれたらうれしいのですが。

ところで、主人公の「妻」も作家らしい・・・という描写が最後に出てきて。綾辻さんの奥様ってどなただっけ?と調べたら・・・ああ、小野不由美主上ではないですか(すっかり忘れてました)。それなら、まあ、「妻」のあの言動もありだなあ、と。いまさらですが。

2017年8月29日 (火)

じごくゆきっ

2625「じごくゆきっ」 桜庭一樹   集英社   ★★★★

「センセと、どこか、逃げましょか?」・・・わたしが由美子ちゃんセンセとかけおちすることにしたのは、あんまりかわいそうだったからだ。それは、高校一年の一月の終わり。東京でも雪が降った日だった。

久しぶりの桜庭一樹は、くらくらするほど残酷で、魅力的でした。

「暴君」「ビザール」「A」「ロボトミー」「じごくゆきっ」「ゴッドレス」「脂肪遊戯」の7編。

どの話もとっても強烈で、主人公たちの絶望の深さにこちらまで暗い気持ちになってしまうのだけど、読み終えると「いいなあ」と思う。その繰り返しでした。

その中でも好みなのは、「暴君」と「脂肪遊戯」。「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」の後日談というか、同じ世界の物語だそうです(残念ながら、「砂糖菓子~」は既読ながら、断片的にしか思い出せず)。

私は、桜庭さんの描く「少女」がすごく好きなのだと思います。きれいで、残酷で、自意識過剰で、でも何かに絶望している「少女」。ものすごく弱いのに、必死に世間に刃をむこうとしているような女の子たち。ある意味いびつな彼女たちは、桜庭ワールドの重要な構成要素です。彼女たちの背景に立ち上がってくるのは、救いのない世界なのだけれど。

それでも、桜庭さんの描く世界には、日本独特の湿り気をあまり感じないような気がします。からっと乾いている感じ。日本の、山陰地方を舞台にしていても、この世ならぬどこかを描いているように感じます。

2017年8月27日 (日)

猫が見ていた

2624「猫が見ていた」 湊かなえ・他   文春文庫   ★★★★

湊かなえ「マロンの話」、有栖川有栖「エア・キャット」、柚月裕子「泣く猫」、北村薫「『100万回生きたねこ』は絶望の書か」、井上荒野「凶暴な気分」、東山彰良「黒い白猫」、加納朋子「三べんまわってニャンと鳴く」の7つの短編に、澤田瞳子「オールタイム猫小説傑作選」を加えた、猫がテーマのアンソロジー。文庫オリジナル。

猫好きとしては食いつかずにはいられない企画です。しかも、執筆陣も私好み。

それぞれ「らしい」なと思う話でしたが、加納さんの「ソシャゲ」を題材にしたのはちょっと意外でした。北村さんのは「中野のお父さん」シリーズですね。

インパクトがあったのは、湊かなえさんの「マロンの話」。実話?という感じでしたが・・・。マロンが飼い猫になっていく過程が「あるある」で。

最近、猫飼いたい熱が高まっていて、ツイッターで人様の猫画像や猫動画に見入る日々です。いいなあ、猫。

2017年8月24日 (木)

夏の祈りは

2623「夏の祈りは」 須賀しのぶ   新潮文庫   ★★★★

高校野球の激戦区・埼玉県。県立北園高校野球部にとって、甲子園は「悲願」だ。今まで一度も手が届かなかった甲子園に向けて、白球を追い続けた野球部の姿を描くクロニクル。

帯のコピーに「感動の」とあったのでやめようかと思ったのですが、やっぱり気になったので買いました。

「敗れた君に届いたもの」「二人のエース」「マネージャー」「ハズレ」「悲願」の5話。昭和の終りから2017年にかけて、およそ10年ごとの北園高校野球部のクロニクル(年代記)。

もともと高校野球大好きで、高校を選ぶ基準も「甲子園に行けそうな学校」だった私には、ど真ん中ストライクな物語。なんというか、どの話も大好きなんですが、ちょっと変り種で印象的だったのが、第三話「マネージャー」。裏方に徹する女子マネの話・・・ではあるのですが、意外な展開が。そうか、そういう人もいるかもって考えたことなかったなあ、と。いい歳になった今だから、「そういうのもありだよね。いろんな立場から支えてるよね」と思えるけれど、若いときにそういう価値観を持てたかというと・・・? キャプテンの話、エースの話もいいけれど、こういうのもいいなあとしみじみ思えた話でした。

第四話「ハズレ」と第五話「悲願」は連続していて、北園野球部の歴史の大きな節目になります。これがもう・・・。私は高校3年の夏、甲子園に行かせてもらったのですが、そのときの野球部がやっぱり「ハズレ」の年と言われてました。下馬評にものぼらなかったチームがあれよあれよと県大会を勝ち抜いたときの感激を思い出しつつ、読み終えたときには思わず涙が・・・。

そして、この本が出た今年、夏の甲子園では、花咲徳栄高校が埼玉県勢初の優勝! こんなことってあるんですね。、

2017年8月20日 (日)

BUTTER

2622「BUTTER」 柚木麻子   新潮社   ★★★★

週刊誌の記者・里佳は、連続殺人犯・梶井真奈子(カジマナ)の取材に取り組む。若くも美しくもない彼女は、どうやって男たちを篭絡したのか。なぜ彼女は自信に満ちているのか。面会を重ねるうちに、里佳はカジマナに操られるように心身ともに変貌していく。

本を読んで胃もたれしたのは初めて(笑) とにかく食べ物の描写が多くて、おいしそうなんだけど、最後の方はもう勘弁して・・・という感じでした。

仕事の上では女を捨てて勝負している里佳が、女を武器にしたように中高年の男たちに貢がせていたカジマナと面会し、どんどん変わっていく。カジマナに指示された場所に行き、指示されたものを食べ。スレンダーだった里佳はどんどん太っていき、考え方も変化していく。まるでカジマナにマインドコントロールされているかのような里佳。そこに、里佳の親友で専業主婦の伶子が絡んできて、三人の関係性が歪んでいく。

この物語で描かれる三人の女性、里佳・伶子・カジマナがそれぞれに抱えている生きづらさは、私にも覚えのあるもので・・・たぶん、世の女性の多くが、どこかしら共感できるものではないか、、と。作者はそこからいっさい眼を背けずに、最後まで書ききったという印象を受けました。

もしかしたら、里佳や伶子が呪縛から解き放たれるための通過儀礼なのかもしれないし、これだけの代償を支払っても、本当に「生きやすく」なんてなれないのかもしれない。それでも、自分で自分をがんじがらめにするような生き方は、やはり苦しいのだと、つくづく感じました。

2017年8月18日 (金)

天上の葦

2621「天上の葦」 太田愛   KADOKAWA   ★★★★

渋谷のスクランブル交差点。一人の老人が、空を指差して死んだ。いったい、彼は何を見ていたのか。依頼を受けて、それを調べ始めた鑓水と修司は、老人の人生の空白に気づく。一方、消息を絶った公安の山波の行方を追うよう命令された刑事の相馬は、山波の行動に違和感をおぼえる。それぞれが真相を追い求めるうちに、三人の道はクロスして、瀬戸内の島へと導かれ・・・。

地元・さわや書店がプッシュしてたので読んでみました。「相棒」などの脚本を書いている太田愛さんの社会派ミステリ。

上下巻びっしり・・・で、読むのに時間がかかりましたが、読み応えは十分。いろいろな要素が詰まっていて、状況が二転三転して、退屈してるひまなんかありませんでした。

一人の老人が、死の間際に奇妙な死に方をしたことから始まる物語。彼の過去から、現在の世の中における危機的状況まで、大きく展開していきます。

怖いのは、これがフィクションとは限らないよな・・・と思ってしまうことです。火は小さいうちにしか消せないという言葉は、ものすごく重いものがありました。

「誰もこんなことになるとは思っていなかった」という言葉がありました。今の世の中は、あの頃と似てはいないでしょうか。火が大きく燃え広がってからでは、どうにもできなくなってしまう。そのことが、心に残りました。

2017年8月14日 (月)

パーマネント神喜劇

2620「パーマネント神喜劇」 万城目学   新潮社   ★★★★

「神様」は、どうやって願いを叶えるのか? ある「神様」が人間の願いを成就させるまでをたどってみると・・・。

「はじめの一歩」「当たり屋」「トシ&シュン」「パーマネント神喜劇」の4編の連作短編。

神様が一人称で語る小説って、あれ?どっかで・・・?と思ったら、「トシ&シュン」がアンソロジー「時の罠」に収録されていました。

前作「バベル九朔」は苦戦しましたが、これは読みやすく、サクサク読んじゃいました。そして、おもしろかった。

神界の事情は存じませんが、神様たちがなんとも愛らしくて、人間くさくて、笑ってしまいました。

表題作は大きな地震があった・・・というところから始まるので、いろいろ思うところありましたが、最後はほっこりしました。

2017年8月12日 (土)

文藝怪談実話

2619「文藝怪談実話」 東雅夫・編   ちくま文庫   ★★★★

「文豪怪談傑作選・特別篇」は、古今の文豪を中心に、各界の怪談「実話」を集めたアンソロジー。

ツイッターで見かけて、早速買いに走ったのですが・・・いや、おもしろかったです。

遠藤周作と三浦朱門が遭遇した怪異を、それぞれが記述した「幽霊見参記」からはじまって、明治・大正・昭和の作家や文化人たちの体験談がどっさり。いずれも、読み物としておもしろい、選りすぐりの作品集になっています。

印象的だったのは、田中河内介にまつわる話。私はこの話、初めて知ったのですが。元の話そのものはそれほど怖くないのに、さまざまな偶然が絡み合って、なにやら因縁を感じずにはいられないところが・・・。

怪談好きな方にはおすすめの一冊。

2017年8月 8日 (火)

毒殺協奏曲

2618「毒殺協奏曲」 アミの会(仮)   原書房   ★★★★

「毒殺」がテーマのアンソロジー。

永嶋恵美「伴奏者」、柴田よしき「猫は毒殺に関与しない」、新津きよみ「罪を認めてください」、有栖川有栖「劇的な幕切れ」、松村比呂美「ナザル」、小林泰三「吹雪の朝」、篠田真由美「完璧な蒐集」、光原百合「三人の女の物語」

殺害方法が指定された状態で、どういうミステリを書くか、それぞれの作家さんのお手並み拝見・・・という感じですが、さすがにみなさんお見事です。いずれも読み応えのある作品ばかり。

こういうテーマを決めたアンソロジーだと、それぞれの特徴が顕著になって、それはまたおもしろいものです。

アミの会(仮)では、こういう試みを続けていくとのこと。これからも読みたいものです。

2017年8月 6日 (日)

怖い絵のひみつ

2617「怖い絵のひみつ」 中野京子   KADOKAWA   ★★★

「怖い絵展」スペシャルファンブック。

とうとう「怖い絵」が展覧会になると聞いて、うわー、すごい!と舞い上がっていたら、こんな本まで。

「怖い絵」は全部読んでるし・・・と思っていたら、今まで取り上げられていない絵もいっぱいで、思わず買ってしまいました。

とにかく、「知る喜び」を感じられるのが、「怖い絵」シリーズ。そして、人間の心のありようの複雑さと普遍性を実感できる。

展覧会行きたいけど、ちょっと無理そう。この本で我慢します。

2017年8月 5日 (土)

深泥丘奇談・続

2616「深泥丘奇談・続」 綾辻行人   メディアファクトリー   ★★★

名も知らぬ神社で鈴の音を聞いたときから、この異変は始まった・・・。作家の「私」が体験する奇妙な世界とは。

続編は、さらに物語世界が広がって、不可思議な展開を見せます。

怪談とはちがって、まさに「奇談」なのですが、なかなか怖い。生理的なところに訴えてくる怖さなのです。ざわざわします。

10編が収録されているのですが、それぞれ微妙にベクトルが違っていて、ホラーの方向性というのも考えさせられました。

2017年8月 3日 (木)

茄子の輝き

2615「茄子の輝き」 滝口悠生   新潮社   ★★★★

離婚して、ひとり暮らしをしている市瀬は、職場の千絵ちゃんの愛らしさを愛でる日々を過ごしている。やがて、会社が倒産し、その職場もなくなり、千絵ちゃんも遠くへ行ってしまい・・・。

最近、ツイッターでやたらと見かけるので、読んでみました。芥川賞作家さんなんですね。

「お茶の時間」「わすれない顔」「高田馬場の馬鹿」「茄子の輝き」「街々、女たち」「今日の記憶」の連作6編と、短編「文化」を収録。

文章が、心地よいというのとはちょっと違う。微妙に間を外されるような感じがするのです。でも、読んでいるうちに、いつのまにかそのリズムにはまってしまっている・・・そんな感じでした。

東京の片隅で、ひっそりと生きている市瀬という人物の視点での日常。彼の生活に大きな事件はほとんど起こりません。たぶん、一番大きかったのは、離婚(結婚よりも)。時間がたっても、去っていった妻のことを思い出したり(そのくせ、妻の顔を思い出せなくなっていたり)、職場の千絵ちゃんをかわいいと思えることに救われたり。そんな気持ちのゆらめきを、淡々と記したような物語。

時間の経過とともに、人は変化していくし、記憶も風化していくものもあって、それは当たり前のことなのですが、その変化をじっと見つめているような、そんな物語たちです。

静かな物語なのだけど、不思議な磁力みたいなものがあって、読み終えてもしばらく、その力に囚われたままでした。

2017年8月 1日 (火)

アリス殺し

2614「アリス殺し」 小林泰三   東京創元社   ★★★

大学院生・栗栖川亜理は、不思議の国のアリスの夢ばかり見ている。不思議の国で誰かが死ぬと、現実世界でも呼応するように誰かが死んで・・・。そして、不思議の国ではアリスが殺人の容疑者に。もしアリスが死刑になったら、現実では? 亜理は、同じ夢を見ているという井森とともに、事件を調べ始める。

現実と「不思議の国」とを行ったりきたりしながら、それぞれの殺人事件の謎を解いていく・・・という、なんとも奇妙な設定のミステリ。でも、本格ものです。

ほとんどが会話で進行するので(しかも噛み合わない会話で)、けっこう疲れました。が、見事にしてやられましたよ。うわ!そういうことか!と。

ただ、グロいのとか、痛いのとか、そういう描写は苦手なんです・・・。最後はもうほんとに、「早く終ってくれ」と思いながら読んでました(涙)

「クララ殺し」も気になっているんですが、そっちは大丈夫でしょうか・・・?

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