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2017年10月

2017年10月27日 (金)

追想五断章

2657「追想五断章」 米澤穂信   集英社   ★★★★

大学を休学して、古書店を営む叔父のもとに身を寄せた菅生芳光は、亡父の書いた5編の小説を探してほしいという女性・北里可南子と出会う。報酬目当てに、叔父に内緒で依頼を受けた芳光は、細い糸を手繰り寄せるようにして、小説を探し出すが・・・。

「米澤穂信と古典部」を読んで、気になった本です。

米澤作品は、いつのまにか恐ろしい世界に引きずり込まれる印象があって、警戒していたのですが(笑)、やっぱり気になって。

これ、あの「ロス疑惑」を下敷きにしているのですね。当時のマスコミの狂奔ともいえる凄まじさは記憶に生々しいです。それをリアルに記憶している世代としては、この物語の骨格がすごく説得力がありました。

それから、バブルがはじけた直後の不況。そのあおりをまともに食らった芳光の境遇、彼につきまとう重苦しい雰囲気も、リアルでした・・・。

可南子の父が書いたという掌編が物語の中で明らかにされていき、それが一つの事実を指し示すわけですが・・・胸がふさがるようなこの感じ、また米澤さんにやられちゃったなあ、と苦笑い。

いろんなピースがピチッとはまっていくようなミステリでした。

2017年10月26日 (木)

脳天気にもホドがある

2656「脳天気にもホドがある」 大矢博子   東洋経済新報社   ★★★★

「夫が脳出血で倒れ、右半身の自由と言葉を失いました」・・・40代で脳出血を発症した夫との二人三脚リハビリ日記。ただし、「愛と涙と感動」の体験記ではありません。

副題「燃えドラ夫婦のリハビリ日記」

信頼している書評家さんの一人である大矢博子さんが、こんな本を出されているのを知りませんでした。

図書館で偶然みつけて、初めの数ページを読んで、あまりのおもしろさにそのまま借りてきました。

夫が(あるいは自分が)いきなり病に倒れたら、どうするんだ?というのは、考えないでもないわけですが、この本には、そんなときに大矢さんのとった行動が、客観的に記録されています。症状について調べ、後遺症やリハビリについて知識を得て、役所や保険の手続きをして。そういうときに、どのような支援が受けられるのかとか、こちらが知りたいことがしっかり書いてある! ものすごいお役立ち本です。

とはいえ、何より、おもしろいのです。何度笑ったことか・・・。人様の病気で笑うなんて不謹慎なと思われるかもしれませんが、おもしろいのです。大矢さんが「お涙ちょうだい」的なことを書く気がさらさらないので、こうなるのでしょうけれど。とにかく、二人とも前向き。そして、それは「がんばるぞー!」的なものではなくて。

「夫にも私にも『好きなこと』があります。そして、病気になったからといって、ふたりともそれを我慢しなかった。」

この言葉に象徴されるお二人のリハビリ生活。ドラゴンズ愛と、だんなさまの「テツ」っぷりが、しんどい状況を前向きに生きていく「力」になったことが、よくわかります。これ、すごく大事だな~。

自分の生き方というか、意識の持ち方を、ちょっと考えさせられました。

2017年10月25日 (水)

涙香迷宮

2655「涙香迷宮」 竹本健治   講談社   ★★★★

若き天才囲碁棋士・牧場智久は、知人に誘われ、黒岩涙香の「隠れ家」とおぼしき屋敷跡を訪れる。そこには、涙香の「暗号」が残されていた。暗号に挑む智久だったが、台風に見舞われ、集まった一同は足止めを食らってしまう。そして、事件が・・・。

第17回本格ミステリ大賞受賞作。

黒岩涙香という人物に少々興味があったのと、「綾辻行人・恩田陸・京極夏彦 絶賛!!」とあったのとで、これは絶対読まねばと決めていました。

博覧強記といった人物を扱うには、作者にもそれと同等かそれ以上の知識と能力が必要なのだな~と、しみじみ感じたミステリでした。

とにかく、暗号。これ、すごいです。もちろん、竹本さんが作ったのですよね。すごすきます・・・(語彙力死んでます)。もう、ついていくのに必死でした。というか、ついていけてませんでした(涙) もう、最後の方は、「智久、早く解いてくれ」って感じで。暗号と言っても、そのスケールの大きさと仕掛けの複雑さがすさまじいです。完全にお手上げでした。

それに、連珠(かんたんに言うと、五目ならべ)の知識。囲碁も将棋も全くわからない私には、棋譜を見ても何のこっちゃ・・・なのですが、これも作者が作ってるんですよね。いったいどういう頭脳をもってるんだ・・・。

さらに、「嵐の山荘」の趣向も取り入れて。冒頭、智久がたまたま遭遇した事件も絡んできて、なんて贅沢なミステリ!

というわけで、「本格ミステリ大賞」、さもありなん、という作品でした。圧倒されました。

巻末には他の竹本作品の「著作ガイド」があって、これがとてもよかったです。「涙香迷宮」の探偵役・牧場智久と彼女の類子って、ほかにも出てくるのかな?と思って読んでましたが、当たりでした。三部作になってるんだ~、そうか~。

2017年10月23日 (月)

この世の春

2654「この世の春(上・下)」 宮部みゆき   新潮社   ★★★★★

各務多紀は、嫁ぎ先を不縁となった後、北見藩作事方だった父の隠居所で、父の世話をしながら静かに暮らしていた。ある夜更け、子供を抱いた女が駆け込んできたときから、多紀は大きな運命の中に投げ出された。藩主・重興が隠居させられるという大事件ののち、多紀は病の重興の側に仕えることに。重興がいるはずの座敷牢から聞こえる奇妙な声。多紀たちが直面したのは、信じられないような事実だった。

宮部みゆき作家生活30周年記念作品。

しかし、「サイコ&ミステリー」で時代物って、ちょっと盛りすぎじゃあ・・・と思っていたのですが、さすがは宮部さん。見事に料理されてました。

故あって若くして隠居の身とさせられた北見藩藩主・重興。なぜ彼が藩主の座を下ろされたのか、彼がそうなってしまった原因は何なのか。その謎を解いていく物語です。

その中心にあるのは、いろいろな要因が絡み合って、重興に仕えることになった多紀。元・江戸家老の石野織部、多紀の従弟・田島半十郎、医師の白田登らと共に、重興の心の闇に分け入っていくと、見えてきたのは十六年前のすさまじい悪意だった・・・。

多紀が重興と出会うまででもけっこうな経緯があるのですが、それを物語としてわかりやすく、かつ興味深く編んでいく手腕は、もうさすがとしか言いようがありません。そして、いざ重興が登場してからは、物語は二転三転・・・。いやもう、ひたすら夢中になって読み続けました。

人の悪意や憎悪は、それが向けられた相手を壊すことが可能で。実際に重興は壊されてしまったわけで。それでも、重興を守ろう、助けようとする多紀たちのまっすぐな心が(彼らもまた、傷を負っているのだけど)、確かに重興に戦う力を取り戻させたのです。そして、そんな多紀たちをさりげなく支えているのが、陰日向なく働くおごうやお鈴の素朴な心根や、日常の営みだというところが、実に宮部さんらしくて好きでした。

起こってしまったことはなかったことにはできないけれど、後悔も悲しみも抱えて歩き出すことはできるのだ。最後の一文を読んだときに感じたことです。

デビュー以来、ずっと読み続けてきた宮部作品。「我らが隣人の犯罪」から始まって、「パーフェクト・ブルー」「ステップファザーステップ」「火車」「模倣犯」「小暮写真館」「ソロモンの偽証」など、その時々で心に残った物語がたくさんあります(好きな作品を挙げたら、10本の指では足りません)。それらの作品が積み重なってきて、到達したのが「この世の春」であるような気がします。なんというか・・・感無量です。

余談ですが、今年は綾辻行人「十角館の殺人」から30年。ということは、30年前は、新本格ミステリがのろしを上げ、一方では宮部みゆきというその後ずっとトップを走り続ける作家が世に出たわけで。その当時、学生だった私は、毎日いろんな書店に入り浸り、幸せな時間を過ごしていたのでした。私の現在の読書の「核」は、間違いなくあの頃に形成されたものです。

2017年10月21日 (土)

米澤穂信と古典部

2653「米澤穂信と古典部」 KADOKAWA   ★★★★

「古典部」シリーズファンのためのムック。

著者インタビュー、対談集、「古典部」ディクショナリーなどなど。書き下ろし短編「虎と蟹、あるいは折木奉太郎の殺人」も。

書店で見たら、買わずにはいられませんでした。だって、対談のお相手が、北村薫、恩田陸、綾辻行人、大崎梢って・・・なんでこちらの好みど真ん中の人選・・・。書き下ろしはもちろん読みたいし、著者によりシリーズ全解説ってのも気になるし。

古典部ファンにとっては文句なしにおもしろいし、米澤穂信ファンにとってもおすすめです。「古典部」以外にも触れている部分がけっこうあります。

米澤さんにとっての「古典部」の位置づけとか、なるほど~という感じでした。講演録もあって、米澤さんの考える「物語」というのが、よくわかります。

私としては、古典部四人の「本棚」が、けっこうツボでした。ああ、たしかにこれ、奉太郎が読んでそうだよね、とか。

しかし、これ読むと、古典部シリーズ再読したくなって困ります。(もうすでに2~3回は読み返してる)

できれば、対談はいつのものなのか明記してほしかったなあ。

2017年10月20日 (金)

与楽の飯

2652「与楽の飯」 澤田瞳子   光文社   ★★★★

仕丁(役夫)として徴発された真楯は、東大寺の造仏所に配属され、大仏建立の作業に携わることになる。重労働に耐える真楯たちを支えたのは、信仰ではなく、炊屋を営む宮麻呂の作る飯だった。

副題「東大寺造仏所炊屋私記」。

「山を削りて」「与楽の飯」「みちの奥」「媼の柿」「巨仏の涙」「一字一仏」「鬼哭の花」の7編の連作短編集。

主人公は近江国から東大寺に連れてこられた真楯。三年の任期の仕丁だが、造仏は想像以上の重労働で、生きて帰れる保証すらない。ともすれば荒みそうになる真楯たちを支えるのは、宮麻呂の作る飯。宮麻呂は口は悪いが、肉体労働をする仕丁たちのために、精一杯のうまいものをこしらえてくれる。そんな宮麻呂の過去に触れてしまった真楯は・・・。

東大寺に参詣するたびに思うのは、聖武天皇の思いもさることながら、この大仏建立に関わった「普通の人たち」は、いったい何を思っていたのだろうということです。どんな人たちが、どんな思いで、この大事業に関わったのだろう、と。純粋に信仰のみで働いた人はごく一部で、そうではない人が多かったでしょう。では、その人たちは、どんな思いで、と。

この物語は、そんな「心ならずも」造仏に関わった名もない人々の物語でした。決して望んでやっているわけではない。それでも、そこに残る「思い」。そして、人の生きる意味。読んでいて、胸が熱くなりました。

歴史は、名もない人たちの営みが無限に連なってできていくもの。今、生きている私たちもまた歴史の一部であり、そうであれば私たちはどんな「歴史」をつくっていくのでしょう。

2017年10月15日 (日)

ひとめぼれ

2651「ひとめぼれ」 畠中恵   文藝春秋   ★★★★

町名主の一人息子・麻之助はお気楽者ながら、近頃はいろんな相談事・揉め事を持ち込まれることも増えた。ところが、友人の吉五郎の様子がおかしい。同心の養子である吉五郎は、いずれ一人娘の一葉と夫婦になって、跡を継ぐはずなのだが・・・。

「まんまこと」シリーズも、早や6作目。

「わかれみち」「昔の約束あり」「言祝ぎ」「黒煙」「心の底」「ひとめぼれ」の6編。今回は、麻之助の友人・吉五郎編という感じです。

本当に、世の中思いのままにならぬことばかりで。自分の心でさえままならぬのに、人の思いなどどうにかできるはずもなく・・・。そんな物語です。

麻之助がことあるごとに、亡き妻・お寿ずに心の中で語りかけるのがせつなくて。そのたびにしんみりしてしまいました。

それでも、物語の中で時間はゆっくりと流れていて。麻之助がお気楽者になった原因のお由有は嫁ぎ、妻をめとった清十郎はまもなく父に。子どもだとばかり思っていた一葉も少し大人になり。麻之助だって、町名主の手伝いみたいなことを、以前よりもするようになり。この時間の流れていく先を、見届けたいと思っています。

ところで、帯のコピーに「慟哭の」とありましたが・・・私は「慟哭」って感じはしませんでした。ちょっと誇大広告では?

2017年10月13日 (金)

ホワイトラビット

2650「ホワイトラビット」 伊坂幸太郎   新潮社   ★★★★

静かな住宅街で起こった人質立てこもり事件。SIT(特殊捜査班)も出動するが、事態は膠着。犯人の要求は、折尾という男を連れてくること。果たして、犯人を捕らえることはできるのか?

伊坂さんの新作ー! 図書館で配架当日にゲットできましたー! ものすごくラッキー!

と、浮かれて家に帰って、すぐ読み始めました。

いつもながらの伊坂ワールドが展開します。よんどころない事情で、立てこもりをすることになってしまった兎田と、その人質になってしまった家族。SITの優秀な課長・夏之目が交渉を開始するも、事態は膠着状態。犯人の要求する折尾という男の身柄をうまく確保できたものの、この男、オリオン座のことばかり話す変な奴で・・・。

場面と視点がどんどん切り替わり、慣れるのにちょっと時間を要しましたが、そこはそれ、伊坂作品あるある・・・という感じで。で、慣れたころに、「ぅええぇぇっ!?」と(笑)

いや、ビックリして、本を落としそうになりました。マジで。油断してました。でも、それでこそ、伊坂さん。お見事です。

なんというか、伊坂さんの書く「外れクジばかり引いてきた」ような人たち、憎めないのですよね。いつも、そこに持ってかれるんです。

というわけで、伊坂ファンには文句なしおすすめの一冊。あ、泥棒の黒澤さんも登場します。

2017年10月12日 (木)

かがみの孤城

2649「かがみの孤城」 辻村深月   ポプラ社   ★★★★★

中学生になって、同級生からのいじめにあい、学校に行けなくなってしまった安西こころ。ある日、自分の部屋の鏡が光り出し・・・。その鏡はお城の部屋に続いていた。鏡を通り抜け、城に集まったのは、こころたち7人の中学生。案内人の「オオカミさま」は、「鍵」を見つけた者の願いを一つだけ叶える、と言う。期限は三月三十日まで。城が開くのは、日本時間の朝九時から夕方五時まで。信じられないような出来事にとまどうこころたちだったが、徐々に親しくなっていくうちに、意外な事実を知り・・・。

読み始めて、「ああ、苦手なタイプの話だ・・・」と思ったのです。いじめとか、不登校とか、こっちが苦しくなってくるので。それに、SFというか、ファンタジーというか、基本的に得意ではないのです。

でも、いつのまにか夢中で読んでいました。

こころが抱えてしまった苦しさは、私にも覚えがあります。というか、すごく共感してしまいました。そして、彼女が「ワケあり」らしいほかの子たちと親しくなっていくのには、本当にホッとしました。それだけに、「期間限定」の城であることが、とてもせつなかったのですが・・・。

物語は五月からスタートして、三月まで。「様子見の一学期」「気づきの二学期」「おわかれの三学期」と分けられています。この「気づき」の部分が、とてもよかったです。こころ以外の六人、アキ、フウカ、スバル、マサムネ、ウレシノ、リオンとの距離が縮まっていって、みんなが自分たちの「共通点」に気づく。それが、次のステップにつながっていって・・・。

こころたちにとって「助け合える」という言葉が、どれほど重いものか。つらくても、「仲間のために」と闘ったこころたち。でも、それはなぜかうまくいかなくて・・・。そして、「おわかれ」の時間がやってきます。

ここからは怒濤の展開で、ひたすら頁を繰っていました。もう、ボロボロ泣きながら。今までの伏線が回収されていって、ああ、そうだったのか・・・と、深く納得して、本を閉じました。

こういう設定でなければ、描ききれなかったものが確かにありました。現実はあまりに過酷で、「がんばれ」「大丈夫」なんて言葉では救えないときがあります。それでも、と手をのばす作者の意思を、確かに感じました。あなたに手をのばしている人が、どこかにいるよ、と。その手を取って、と。

この本、たくさんの人に読んでほしいと、心の底から思います。今苦しんでいる人も、若い人も、大人も、たぶん何かしら感じることはあると思うから。

2017年10月11日 (水)

悪女の品格

2648「悪女の品格」 辻堂ゆめ   東京創元社   ★★★★

光岡めぐみは、三人の恋人に貢がせ、贅沢な生活を送っている。そんな彼女に降りかかる災難。監禁、薬物混入、そして・・・。めぐみのもとには過去の罪を告発する手紙が届く。いったい誰が? めぐみは婚活パーティーで知り合った大学准教授と共に、犯人探しにのりだすが・・・。

ずっと気になっていた作家さん。初読みです。

携帯電話会社社長を父に、有名女優を母にもつめぐみは、保険の外交員。自慢の美貌にものを言わせて、ノルマをこなすとあとは遊んで暮らす。金持ちの男たち三人とつきあっていて、彼らからもらった高価なプレゼントは、飽きると質屋で換金。子どもの頃から裏表が激しくて、常に「女王様」でいないと気がすまなかった。

そんな主人公が、いきなり監禁されるところから始まります。このあと、めぐみはさんざんな目に遭うのですが・・・まったくこりない彼女に同情する気には、これっぽっちもなれませんでした。どうやら小学生の頃にいじめられていた同級生の復讐では?ということになるのですが。

犯人は見当がつきましたし、犯行計画がけっこうずさんで、それでいいのかと思ったりもしました。が、犯人が明かされてからも意外な展開があり、そのへんはおもしろかったです。

めぐみは嫌な女なんですが、底が浅く、なぜか憎めないところもあり。まあ、彼女が歪んだ理由もわからないではないかなあ、と。ただ、いじめの被害者がそんなにわりきれるものかしら?という気はしました。

2017年10月10日 (火)

斎宮

2647「斎宮」 榎村寛之   中公新書   ★★★★

伊勢神宮に仕えた皇女たち(斎王)と、その宮殿(斎宮)。飛鳥時代から鎌倉時代まで660年にわたって続いた斎宮とは何だったのか。斎王たちの人生をたどることで見えてきた古代史とは。

副題「伊勢斎王たちの生きた古代史」

私にとって斎宮といえば、大伯皇女(この本では「大来」)で、それ以外の知識はほとんどないのですが・・・これはおもしろかったです!

私は歴史でも「人」に興味があるので、斎王となった女性たちを具体的に取り上げ、その生涯を紹介している「第2章 七人のプリンセス」「第3章 斎宮年代記(クロニクル)」が、特におもしろかったです。

なぜ斎宮というシステムが存在したのか、斎王が天皇の血筋から選ばれた理由、それらがどのように変遷していったのかなど、初心者にもわかりやすく説明されています。最新の発掘や研究の成果に基づいていて、こんな専門知識をこんなにわかりやすく読めるなんて・・・!と、感動。

歴史というのは、一握りの「英雄」がつくるものではなく、数多の人々の連綿と続く営みによって編まれるものだということが、よくわかります。いまは廃れてしまった「斎宮」で生きた女性たちの人生は、それぞれの時代と深く結びついたものでした。

あとがきでは、この本を書くきっかけが氷室冴子さんにあったことが記されていて、なんとも言えない気持ちになりました。氷室さんには斎宮を扱った小説の構想があったとのこと。読みたかったなあ、氷室さん・・・。

2017年10月 4日 (水)

腐れ梅

2646「腐れ梅」 澤田瞳子   集英社   ★★★★

平安時代、京の片隅で色を売って暮らす似非巫女の綾児(あやこ)は、その美貌を見込まれ、巫女仲間の阿鳥の企みに誘われる。菅原道真の怨霊を神様として祀ろう、と。道真の名すら忘れられていた時代だったが、綾児は気が進まないながらもその話に乗ろうとするのだが・・・。

「若冲」の澤田瞳子さんの新作は、澤田流「北野天神縁起」といったところでしょうか。文句なしにおもしろかったです。

巫女とは名ばかり、色を売るのが商売の綾児と阿鳥、それに道真の孫の菅原文時らが絡んできて、北野に天神様が祀られるまでを描く物語。

なんといっても、綾児が圧巻です。美貌を恃んで生きている女で、徹底的に愚かなんだけど、実にたくましい。思慮は浅いし、感情にまかせて動くので、ことごとく失敗するのだけれど、徐々にそんな綾児を応援してしまっている自分がいました。とにかく、生きることに貪欲で、愚かさを自覚しつつも、卑屈にならないところがいいのです(だから、反省しないんだけど)。

綾児と、正反対の阿鳥と、二人の巫女を中心に、菅原文時をはじめとする実在の人物が、それぞれの思惑で策謀を繰り広げ、物語はうねるように二転三転。そして、クライマックスで・・・。この構成も実に見事で、「これしかない!」というような展開をみせます。一気に読んでしまいました。

「若冲」もすごくよかったのですが、これもまた・・・。澤田瞳子さん、要チェックです。

2017年10月 1日 (日)

ねじの回転

2645「ねじの回転」 ヘンリー・ジェイムズ   新潮文庫   ★★★★

イギリスの古いお屋敷に住む二人の美しい兄妹。両親と死別したその子どもたちのために、家庭教師として雇われた若い女性は、恐ろしい幽霊を目撃する。子どもたちを悪の世界へ引きずり込もうとする幽霊は、他の誰にも見えることはなく・・・。

私にとって「ねじの回転」といえば、恩田陸なのですが(笑)、こちらが本家だときいて、いつか読もうと思ってはいたのです。が、なんだか難解だというし・・・と二の足を踏んでいるうちに、小川高義による新訳が出ました。今読まずしていつ読む?と、購入。

短い話なのですが苦戦しました。なかなか世界に入り込めなくて。でも、徐々に物語がまわりはじめると、家庭教師の「私」の視点に巻き込まれるように、一気に読んでしまいました。

両親を亡くして、叔父にひきとられたマイルズとフローラ。しかし、叔父は決して二人と一緒に住もうとはせず(それどころか会おうともせず)、家庭教師を雇う。その家庭教師が、この物語の語り手で、彼女が遭遇した「怪異」が語られるホラー小説。

美しく賢い兄妹だけれど、マイルズは学校を放校処分になり(理由はわからない)、一抹の不安を抱えたまま、「私」の家庭教師生活は始まります。子どもたちは聞き分けよく、お屋敷を取り仕切るクローズ夫人とも気が合い、順調に見えた生活は、「幽霊」の登場で不穏なものに一転する・・・。

ホラーといっても、「怖い」というより、薄気味悪いというか・・・幽霊よりも、子どもたちや家庭教師の方が怖く思えたりするのが怖い、という・・・(苦笑) そして、突然の幕切れで呆然としてしまいました。

読み終えてみると、なんだったんだろう・・・という感じなのですが、読んでいるうちは何かにとりつかれたように、物語にはまっておりました。 

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