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2017年12月

2017年12月30日 (土)

古代飛鳥を歩く

2687「古代飛鳥を歩く」 千田稔   中公新書   ★★★

動乱の時代だった飛鳥時代。その舞台となった地を歩きながら、現代の私たちに通じる何かを見出そうとする。

奈良旅のまとめとして読みました。

奈良には四度旅をして、それなりにあちこち歩き回りましたが、まだまだ足りません。とにかく、古代と地続きになっている感じ・・・まさにこの場所に、古代の人々が立っていたのだと感じられる、あの独特の空気にすっかり魅せられています。

旅をする前に下調べのつもりで何かしら読んで、現地でそれを確かめ、帰ってきてから復習するようにまた何かを読んで、「ああ! これ、気づかなかった!」「ちゃんと見とけばよかった」「次こそは・・・」の繰り返し。我ながらよく飽きないものだと思うのですが、簡単に飽きない懐の深さがあるのです。奈良には。

この本は、取り上げあられている場所が全てカラー写真で載っているので、非常に見ごたえがあります。奈良のなかでも「飛鳥」に限定していますが、それだけでもこんなにたくさん・・・。

「飛鳥とは」「素顔の蘇我氏」「聖徳太子と推古天皇」「舒明天皇と息長氏」「大化の政変」「斉明天皇と水の祭祀」「壬申の乱」「持統天皇と藤原京」「古寺をめぐる」「墳墓と遺跡」の10章で構成されています。

斉明天皇は、今もっとも興味のある女帝なので、非常におもしろく読みました。また明日香村に行きたいなあ。・・・と、次の奈良旅に思いを馳せるのでした。

2017年12月28日 (木)

樹海警察

2686「樹海警察」 大倉崇裕   ハルキ文庫   ★★★★

キャリア警部補・柿崎努が配属されたのは、富士の樹海で見つかった遺体を専門に扱う部署「地域課特別室」。部下の栗柄、桃園、明日野は皆ひと癖もふた癖もありそうな者ばかり。どうやらワケありばかりが流れ着く部署らしく、本署からもまともに相手にされていない。そんなところに配置されたことに憮然とする柿崎だったが、否応なしに死体が発見され、樹海に赴く。前任者は耐えられず辞めてしまったという任務に、柿崎は耐えられるのか?

いいですねえ、こういうミステリ。肩の力を抜いて楽しめるけど、ミステリとしてはきっちりしている。シリアスな物語も好きですけど、たまにはこういうのも読みたくなります。

設定がとにかくおもしろいのです。大倉さんの発想、アイディアの豊かさには、いつも驚かされます。樹海で発見される死体専門の警察。そこで「事件性のある死体」が見つかったら・・・。ものすごく頭の固い若きキャリアの柿崎は、死体と個性豊かすぎる部下たちに振り回されながら、捜査にあたります。上司を上司とも思わないような部下たちに憤慨しつつ、いつのまにか柿崎と彼らが起こす「化学反応」が、事件を解決に導いていくのです。

「栗柄慶太の暴走」「桃園春奈の焦燥」「明日野裕一郎の執念」の3話。柿崎の変化と共に、部下たちそれぞれの事情も少しずつ語られ、最後は・・・という展開も見事です。

これ、続編出ませんかね?無理ですかね? 一応、これでまとまった感じはしますけど。もっと読みたいなあ。

2017年12月27日 (水)

2017年マイベスト

今年は、順位をつけるのにものすごく悩みました。おもしろい本にはたくさん出会ったのですが、それに序列をつけるとなると・・・。というわけで、こんな感じにまとめてみました。

【第1位】  「ホワイトラビット」「AX」 伊坂幸太郎

 どちらも甲乙つけがたかったし、2冊あわせ技で1位に(笑) 伊坂さんらしさがあふれる物語で「えええっ?」「ああ・・・」と、思わず声をあげてしまうほど。作者のたくらみが、こんなふうに読者に届くって、実は難しいことだと思うのです。伊坂ファンであることをあらためて自覚させられた今年でした。

【第2位】  「コードネーム・ヴェリティ」 エリザベス・ウェイン

 ツイッターをやってなかったら読まなかったであろう1冊。第二次大戦下のイギリスでパイロットになった女性を主人公にしたミステリにして青春小説。重い話ではあるのですが、すっごく好みでした。物語のうねりに巻き込まれて、夢中になって一気読みしました。

【第3位】  「スウィングしなけりゃ意味がない」 佐藤亜紀

 これもツイッターで知った1冊。ナチス政権下のドイツを舞台にした不良少年のお坊ちゃまたちの青春群像。これ翻訳だっけ?と思うような文体で書かれた、ちょっと日本離れした小説。ステレオタイプでない、戦時下の人間たちの姿がここにあります。

【第4位】  「アウシュビッツの図書係」 アントニオ・G・イトゥルベ

 これまたツイッターで存在を知ったもの。題名通り、収容所の中で秘密の図書係になった女の子の物語。実話を元にした物語で、巻末のルポにさらに圧倒されます。極限の状況下でも、本を読むことがどれだけ人の心を救うか、考えさせられます。

 奇しくも、2~4位に並んだのは、第二次大戦下のヨーロッパを舞台にした小説。そし て、自分がいかに「知らないか」を突きつけられた小説でした。「知ったつもり」になっていることは、恐ろしいこと。まだまだ学ばねばならないことはたくさんあります。

【第5位】  「かがみの孤城」 辻村深月

 不登校になった子どもたちが集められるお城・・・というファンタジー設定ですが、決して甘くはありません。でも、同じように苦しんでいる人たちに読んで欲しい・・・と、心の底から思える物語でした。デビュー作から読んでいますが、辻村さんの世界が広く深く進化しているのがわかります。

【第6位】  「神さまたちの遊ぶ庭」 宮下奈都

 エッセイの文庫化。北海道の山村に一家で移住した一年間のあれこれ。何度も何度も泣かされました。物事をすとんを受け止める柔軟で強靭な、宮下さんの心のあり方が好きです。ほかにも、「羊と鋼の森」「たった、それだけ」「静かな雨」「つぼみ」と、今年はたくさん読めました。やっぱり、宮下さん、好きだー!

【第7位】  「この世の春」 宮部みゆき

 作家生活30周年記念作品は、サイコミステリな時代小説でした。読んでいて「手練」という言葉が浮かぶほど、入り組んだ物語を見事にさばいています。安定の上手さです。そして、久しぶりにハッピーエンドでホッとしました。ほかには「三鬼」も読みました。こちらはまだまだ続いてほしいシリーズです。

【第8位】  「ジェリーフィッシュは凍らない」 市川憂人

 今年は個人的にミステリの当たり年でもあったのですが、その中で一番がこれ! 「21世紀の『そして誰もいなくなった』」というコピーを裏切らないおもしろさでした。まだまだミステリの可能性は広がるなあ。

【第9位】  「夏の祈りは」 須賀しのぶ 

 ある高校の野球部を舞台にしたクロニクル(年代記)。設定がおもしろそうだと思って読んだら、これがとても良かった。単なる青春もの・スポ根ものではなくて、定点観測しながらいろいろなアプローチをしていて。何度も泣きました・・・。須賀さんは「また、桜の国で」も読みました。これもよかった。

【第10位】 「終りなき夜に生れつく」 恩田陸

 定番の恩田陸(笑) 「夜の底は柔らかな幻」のスピンアウト。直木賞作家となっても、不穏な恩田さんは健在でうれしい限り(笑) ほかにも「錆びた太陽」「失われた地図」「七月に流れる花」「八月は冷たい城」と、今年もたくさん読めました。恩田さん、来年も楽しみにしてますー!

ということで、悩みに悩んで選んだベスト10。泣く泣く切ったほかの作品は・・・

「眠れない夜は体を脱いで」「骨を彩る」彩瀬まる  「眩」朝井まかて
「死と砂時計」鳥飼否宇   「よっつ屋根の下」大崎梢
「分かれ道ノストラダムス」「オーブランの少女」深緑野分  「BUTTER」柚木麻子
「罪の声」塩田武士   「天上の葦」太田愛  「明るい夜に出かけて」佐藤多佳子
「弥栄の烏」阿部智里   「腐れ梅」「与楽の飯」澤田瞳子   「じごくゆきっ」桜庭一樹
「あとは野となれ大和撫子」宮内悠介   「雪と毒杯」エリス・ピーターズ
「ある奴隷少女に起こった出来事」ハリエット・アン・ジェイコブズ
「学生を戦地に送るには」佐藤優  「バッタを倒しにアフリカへ」前野ウルド浩太郎

きりがありません(苦笑)

去年「真田丸」にはまったのをきっかけに、ツイッターに出没するようになりました。その結果、自分では絶対に手を出さないような本を読み、「なにこれおもしろい!」と。特に洋書の類や、新書など、今まで読まなかったジャンルに手を広げることができました。なんというか、守りに入ってちゃいかんなあと思った次第。特に、洋物はもっと読まなきゃと思ってます。カタカナ苦手だけど。

それに、「学生を戦地に送るには」を読んで、頭がついていかず悪戦苦闘したのもいい刺激でした。頭は使わないといかん! 口当たりのいい、読みやすいものばかりではなく、たまにはギリギリと脳みそを酷使するようなものも読まねば! と、反省した次第。

1日1冊ペースでガツガツ本を読んでいたころの体力・気力はありませんが、まだまだ攻めの姿勢で本に挑んでいきたいと思います。

とりあえず、今年もたくさんのおもしろい本に出会えたこと、こうしてマイベストを書き込むことができたことを感謝し、来年も充実した読書ライフを送りたいものです。

拙ブログにお越しくださった皆様。今年もたいへんお世話になりました。コメントのお返事が遅れがちでごめんなさい。来年はもうちょっとこまめに更新していきたいと思ってはいます(笑) どうぞよいお年を。

 

2017年12月25日 (月)

銀河鉄道の父

2685「銀河鉄道の父」 門井慶喜   講談社   ★★★★

岩手県花巻で質屋を営み、議員もつとめる、地方の名士である父・政次郎。小学校では神童とも呼ばれるが、大人になっても家を継ごうとしない、長男・賢治。二人は時に激しく反発しあうが、政次郎は「父」として賢治をいとおしみ続け・・・。

直木賞候補作。

こういう視点もあるのだなあ、と。非凡な才能をもって生れた人物の父親。おもしろかったです。

政次郎は真面目な「明治の男」。自分が育てられたように、賢治たちを育てます。父としての威厳や、家族の秩序を乱さぬよう。一方、子どもたち、特に賢治への愛情は深く、賢治が入院すると、医者がとめるのも聞かず付き添い、自分が病気になるほど。また、成績優秀ながら進学できなかった自分とは違い、賢治たちには上級学校への進学を許します。とにかく愛情があふれんばかりなのに、それを表面には出さないように必死でこらえている、そんな父。

一方の賢治は、質屋という仕事に引け目を感じているのか、家を継ごうとはせず。夢のようなことを口走っては、父をあきれさせるばかり。しかも、無下にできない父の心を知ってか、いつまでも金の無心は続けるしまつ。信仰の面でも賢治は父に逆らい、二人で激論を交わすことも。自分でも生きがいを見出せず、ふらふらしている賢治は、完全に「不肖の息子」。

やがて賢治が「書く」ことに目覚め、妹トシの死を経て、賢治の文章が結晶していくさまを、政次郎は父としてずっと見つめています。「永訣の朝」に描かれたトシの死はどのようなものであったか。「雨ニモ負ケズ」を賢治はどんな気持ちで書いたのか。政次郎の目を通して語られるそれらは、聖人のように描かれる「宮沢賢治」ではなく、人間として血肉をもった「宮沢賢治」の生き様です。

これ、宮沢賢治にあまり興味のない人にこそ読んでみてほしいです。

2017年12月23日 (土)

スウィングしなけりゃ意味がない

2684「スウィングしなけりゃ意味がない」 佐藤亜紀   角川書店   ★★★★★

ナチス政権下のドイツ・ハンブルク。エディはジャズに熱狂する「不良少年」だった。富裕層の町で、少年たちはジャズを求め、踊り狂う。しかし、戦争は徐々に彼らの生活を脅かしていく。

読みながら何度か「原作誰だっけ?」と表紙を見返し、そのたびに「何やってんの」と自分につっこんでました。それくらい、「日本人が書いたもの」という感じがしなかったのです。

日本人が外国を舞台にした物語を書くと、どうしても「場」についての説明が多くなります。読者にわかってもらうためには、それは当然のこと。しかし、この小説は、おかまいなしにどんどん話が進みます。説明的な文章はほとんどなし。ところが、立ち止まる隙もないほどに、こちらも物語を追いかけずにはいられません。なんたって、エディたちが魅力的なのです!

戦時下にあって、ジャズにうつつをぬかし、遊びほうけている「不良少年」たち。彼らの大半は富裕層の子どもで、親の金と権威で好き放題しているわけ。主人公エディの父は軍需工場の社長で、一応、ナチスの党員。それをバックに遊んでいるエディは鼻持ちならないやつなはずなんだけど、どうにもかっこいいのです。

もちろん、戦況は悪化し、ドイツも空襲を受ける事態になり、エディや仲間たちも悲惨な現実に直面するのですが・・・それでも、彼らはギリギリの状態で、彼らなりの「生きる戦い」を続けます。それを変に感傷的にならず、乾いた筆致で描いていくこの文章がとても効いているのです。

エディのどこか醒めた目は、ナチス・ドイツの矛盾を的確に見極めます。そして、生きていくために世の矛盾と妥協しつつ、「戦争に行かない」ための、「生きる」戦いを続けます。表面上は大人になったようでいて、「不良少年」のままの彼らは、がんじがらめになった国で、しぶとく生き抜こうとあがく・・・。

私たちは、ナチス・ドイツについて、ステレオタイプの知識しかなかったのだと思い知らされました。ましてや、その政権下で本当に何が行われていたのか(私たちが知っていることは、たぶんほんの一部です)、そして当時の国民はどんなふうに生きていたのか、ほとんど「知らない」ということに気づかされました。

今年読んだ「コードネーム・ヴェリティ」「アウシュビッツの図書係」、共に第二次世界大戦の物語でした。知らないこと、知っているつもりになっていることがたくさんあることを教えられました。

2017年12月20日 (水)

百物語怪談会

2683「百物語怪談会」 東雅夫・編   ちくま文庫   ★★★★

明治末期、文明開化への反発から起こった「怪談復興」の波。名だたる文人墨客を集めて行われた怪談会が何度も開催された。そのなかの二つの怪談会の記録の復刻本。

明治42年刊「怪談会」の復刻と、明治44年『新小説』に掲載された「怪談百物語」を収録。どちらも泉鏡花が主宰のようです。また、附録として明治41年『趣味』掲載の怪談会リポート「不思議譚」を収録。こちらは与謝野寛の名前があります。

作家や役者、画家、学者、芸妓などなど・・・。さまざまなジャンルで当時第一線で活躍していた人たちが集って語る「怪異」。実体験あり、伝聞あり。完全オリジナルと思われるものもあれば、どこかで聞いたような話もあり。それでも、数を重ねれば、それなりの凄みが出てくるのが怪談のおもしろさです。

しかも、語り口調そのままで記録されているので、人によって文体に違いがあるのが、臨場感があって実におもしろかったです。

こういう怪談会が盛んだったのが、明治も末の時期というのにちょっと驚きました。時代背景を考えるとねえ・・・。でも、わかる気はします。

東雅夫編集の「文豪怪談傑作選・特別篇」の一冊。この「特別篇」は、怪談実話を集めているので、注目してます。

2017年12月19日 (火)

霊能動物館

2682「霊能動物館」 加門七海   集英社文庫   ★★★

狼、狐、狸・・・人間の生活と共にあって、「神」として祀られるもの、あるいは「怪」として恐れられるもの。さまざまな動物はなぜ「霊能動物」となったのか。

小学生のころ、「岩手のむかしばなし」「岩手の伝説」という本を繰り返し読んでいました。その中には動物がたくさん出てきます。馬、狐、狸、犬、猫、ねずみなどなど。鳥も登場したし、蛇やカエル、虫もいた。あるものは人に幸福をもたらし、あるものは災いをもたらす。なんにせよ、人の営みにはほかの生き物も欠かせないものだというのは、しっかり刷り込まれました。

そういう私にとっては、これはすんなり入り込める一冊。加門さんの体験や今までの知識を生かして、動物がどのような「霊能」をもっているのかを考察しています。

おもしろかったのは、「狼の部屋」「憑きものの部屋」「猫の部屋」。

本筋からは外れますが、宇多天皇って、「猫好きツンデレ天皇」だったんですか! 知りませんでしたー。暇だからと、飼い猫をやたらめったら褒め称える文章なんか書いちゃって。宇多天皇にとっても興味がわいてきました。

2017年12月18日 (月)

御松茸騒動

2681「御松茸騒動」 朝井まかて   徳間書店   ★★★★

尾張藩の定府藩士・榊原小四郎は、家督を継いで以来、己の利発さと学問を頼りに、出世を目指し、職務に励んできた。しかし、亡父の幼なじみで遠縁の「三べえ」たちに振り回され、国もとの「御松茸同心」に左遷されてしまう。松茸を上納するお役目とはいえ、山のことなど何一つ知らぬ小四郎は右往左往するばかり。果たして、小四郎の出世の夢はかなうのか。

「天声人語」で取り上げられていたので、今年ちょっと話題になった一冊。

それなりに頭がきれ、学問や算術も人よりまあまあ出来。それゆえ正論を吐き、人を見下してしまう、そんな青二才なんです、主人公の小四郎という人(笑)。まあありがちな、こういう青年の成長譚なのですが、彼を成長させるものが、「松茸」。

人間の力の及ばない「自然」の産物である松茸は、自分の力で何でも変えられると思い込んでいる若い小四郎の思い上がりを、たたきのめしてくれます。もっともその過程が厳しいながらもユーモラスで、肩の力を抜いて読める物語になっています。

欲を言えば、もう少し小四郎が苦労してもよかった気がするのですが・・・枚数の都合でしょうかね。小四郎のものの見方が変わるにつれ、かつては軽蔑していた父の姿に、違う意味を見出せるようになったのは、ほっとしました。

物語の背景に、幕府に蟄居を命じられた前藩主・徳川宗春が描かれています。なぜ、宗春は藩主の座を追われ、今なお自由の身になれないのか。その推量が、なかなかおもしろかったです。

2017年12月17日 (日)

からくりがたり

2680「からくりがたり」 西澤保彦   幻冬舎文庫   ★★★

自殺した兄は、大量の日記を残していた。妹の倫美は、兄の死後、誰の目にも触れないように、それを焼き捨てた。なぜなら、そこには複数の女性との愛欲の日々が綴られていたから。しかも、それは明らかに妄想なのだ。しかし、実在する女性たちは、次々に惨劇に巻き込まれていく。その現場につねに現れる男「計測機」とは?

油断しました・・・。私の中で、「西澤保彦と米澤穂信は要注意」というのがありまして。どちらも口当たりはいいのに、軽い気持ちで読んでいると、人の心の陰惨な部分を見せつけられて茫然となるという・・・。なのに、今回は油断してました。帯の「これが『西澤保彦版ツイン・ピークスだ!」というコピーにだまされました。

倫美の兄が自殺したことが発端となり、それから倫美の周辺で続く事件。市内で毎年大晦日の夜に起こる殺人事件ともつながっているような・・・。倫美をはじめ、その友人たちや、彼女たちと関わりのあった人たち、いろんな人が「事件」に巻き込まれ、命を落としていく。そして、現れる「計測機」という男。

なんとも不思議なミステリなのですが、それぞれ8つの短編として描かれ、時間の経過とともに、それぞれが環を成していく。構成としては、すごく好きなタイプなのですが、人の描き方に容赦がなくて、すっかり毒気にあてられてしまいました。

ところで、実は、「ツイン・ピークス」見たことないのですが、あれってこんな話でしたか?

2017年12月15日 (金)

猫ヲ捜ス夢

2679「猫ヲ捜ス夢」   小路幸也   徳間書店   ★★★★

災厄を祓うことを役割とする「蘆野原」の郷の者たち。しかし、戦争を機に、郷は入口を閉じてしまう。蘆野原の長筋の正也は、幼なじみの知水とその母と暮らしながら、行方不明になった姉・多美を捜していた。移り変わる時代の中で、蘆野原の者たちは何を為さねばならないのか・・・。

「猫と妻と暮らす」の続編です! この「蘆野原偲郷」ものは、すごく好きなのです。

「猫と妻と暮らす」の主人公たちの子供たちが今回の主人公。間に大きな戦争を挟み、時代が大きく変わろうとしている、まさにその時。蘆野原の郷が新しい時代のなかで、どんなふうに世の中と関わっていくのか・・・という物語。

蘆野原の長筋の正也と、水に関わる家の知水。蘆野原の郷への道は閉ざされ、二人はその道を捜しつつ、日々を暮らしている。彼らのもとには、さまざまな「事」が起こり、災厄とならないよう「事を為し」ているのだが、その「事」に導かれるように、正也たちはある「猫」と出会い・・・。

なんとも不思議な話。でも、この物語のもつ雰囲気、世界観、好きなんですよねえ。誰も気づかないかもしれない。けれど、たしかに存在している「何か」。私たちが忘れてしまった、「何か」。そんなことを考えさせてくれます。

しかし、前作の内容をかなり忘れてしまっていて、自分の書いた過去記事を読んで、「ああ! そうだった!」と(笑) もう一度、読み直さなきゃ。

ところで、帯に「少女は猫になり、世界を救う!」とあるんですが・・・。うん、間違ってはいないけどさ・・・。なんかこう、この物語世界にそぐわないというか、誤解を与えるコピーだと思うんですけど・・・。

2017年12月14日 (木)

殺生関白の蜘蛛

2678「殺生関白の蜘蛛」 日野真人   ハヤカワ文庫JA   ★★★

松永久秀が所蔵していた大名物・平蜘蛛の釜。かつて久秀家臣で、今は豊臣家に仕える舞兵庫は、太閤秀吉とその甥・関白秀次それぞれから、平蜘蛛探索を命じられる。久秀を裏切り、秀吉のもとに走った際、献上した平蜘蛛は偽物と知り、困惑する兵庫。真の平蜘蛛とはどのようなもので、どこにあるのか。調べを進めるにつれ、兵庫は容易ならぬ運命の手に絡めとられていく。

第7回アガサ・クリスティー賞優秀賞作品。

帯に、「蜘蛛か、太閤か、治部少か、秀次事件の真犯人は誰だ?」とあり、おもしろそう!と手に取りました。

秀吉の後継者であった関白秀次が切腹させられた件は、いったいどのようにして起こったのか。松永久秀配下だった舞兵庫という男を主人公に、平蜘蛛をキーに展開する歴史ミステリです。石田三成や納屋助左衛門も登場します。

とっても興味のある題材なのですが、読むのはちょっと苦戦しました。なんだろうなあ。小説としては完成度は低くないと思うのですが、なんとなく焦点がぼやけているような。秀次のことがメインなのか、平蜘蛛の謎がメインなのか、なんだかよくわからなくなってしまって。

いまひとつ、どの人物にも感情移入できずに終わってしまったのも残念でした。

ただ、何ゆえ「平蜘蛛」に皆が(かつては信長も)執着したのか、その理由づけはおもしろかったです。

2017年12月13日 (水)

宮辻薬東宮

2677「宮辻薬東宮」 宮部みゆき 辻村深月 薬丸岳 東山彰良 宮内悠介   講談社   ★★★★

この奇妙なタイトルは、五人の初めの一文字を並べたもの。リレー形式のホラー・アンソロジー。

宮部みゆき「人・で・なし」→辻村深月「ママ・はは」→薬丸岳「わたし・わたし」→東山彰良「スマホが・ほ・し・い」→宮内悠介「夢・を・殺す」

大御所・宮部さんからはじまって、モチーフを徐々につないでいってできあがる物語群。それぞれの個性もあって、なかなかおもしろかったです。この中では薬丸さんが初読みでした。

年齢的には、宮部さんの次の世代が薬丸さんと東山さん、その次が辻村さんと宮内さんになるんですね。作風というか、扱う題材にもちょっとその世代のにおいを感じました。

好みで言えば、やはり宮部さん。この中ではいちばん、ホラーというジャンルを書きなれているのかな、と。因果がはっきりしない「怪」はやっかいだと思うのですが、これもそう思っていたら、話が思わぬ方へ・・・。とってもダークな結末でしたが、でも後味の良いホラーも変かな?とも思うので。

辻村さんの「ママ・はは」は、読んでて苦しくなりました。母娘の関係って難しい・・・。ちょっと自分にも思い当たるところがあったので、しんどかったです。

2017年12月12日 (火)

トットひとり

2676「トットひとり」 黒柳徹子   新潮社   ★★★★

テレビの創世記から最前線で活躍してきた黒柳徹子。彼女が見送ってきた懐かしい人々との思い出をつづったエッセイ。

実は、「窓ぎわのトットちゃん」も未読なんです・・・。黒柳徹子さんって、正直ちょっと苦手で、今まであまり興味をもたなかったんです。が、昼ドラ「トットちゃん!」にはまってまして。トットちゃんが大人になってから登場してくるのが、ビッグネームばかりで、そしたらそれがほぼ実話だというじゃないですか。ビックリして、手に取ったのが、この本。

特に知りたかったのは、向田邦子さんとのこと。お二人がそんなに親しかったとは、全然知らず・・・。向田さんが亡くなったあとの徹子さんの思いが、せつなかったです。(ドラマで、向田さんの死んだ回は泣きました)

ほかにも、渥美清、森繁久彌、沢村貞子、井上ひさし、つかこうへい・・・名だたるスターたちが登場します。どなたも、ほかの人には見せないような顔を、徹子さんにだけ見せているのが印象的でした。裏表のない徹子さんは、きっとみんなにとって貴重な存在だったのでしょう。

印象的だったのは、「ザ・ベストテン」の話。リアルタイムで観ていた私は、「あ、この回覚えてる!」「このエピソードは伝説だよね」などとうなずきながら読んでいました。たしかに、あの番組のもってるエネルギーはただごとじゃなかった。ある意味、すさまじかった。そのエネルギーの真ん中にいたのが、徹子さんだったのですねえ。

もう一つは、「ある喜劇女優の死」。私は存じ上げないのですが、賀原夏子さんという女優さんのお話。母親との相克や、がんを告知されてから亡くなるまでの舞台にかける執念とか、とにかくすごかった。みごとな生き様だったことが伝わってきました。

読みながら何度も笑い、何度も涙しました。徹子さんのお人柄が伝わってくるようなエッセイです。

2017年12月11日 (月)

つぼみ

2675「つぼみ」 宮下奈都   光文社   ★★★★

三姉妹の末っ子・紗英は、通っている活け花の教室で、中学の同級生だった朝倉くんに出会う。朝倉くんの活けた花に釘付けになった紗英は・・・。(「まだまだ、」)

「手を挙げて」「あのひとの娘」「まだまだ、」「晴れた日に生れたこども」「なつかしいひと」「ヒロミの旦那のやさおとこ」の6編を収録した短編集。前半三作品は、「スコーレ№4」のアナザーストーリーです。

「手を挙げて」は、「スコーレ~」の主人公・麻子の叔母で華道師範の和歌子の物語。「あのひとの娘」と「まだまだ、」には、麻子の末の妹・紗英が登場します。こちらも、華道がらみの話。

華道ってまったくの門外漢なので、ちょっと身構えてしまいましたが、素人ゆえに「へえ、そんなものなのねえ」と素直に読めました。「型」の大事さはわかります、いろんな意味で。

「スコーレ~」では年の離れた姉たちに「お豆さん」と言われていた紗英。麻子や七葉とはまったく違うタイプの紗英にも、彼女なりの物語があって・・・。実は、「スコーレ~」はけっこう忘れていて、慌てて読み直しました。ああ、このときのことが、紗英にはこんなふうに見えていたのか、と。できることなら、次女の七葉の物語も読んでみたいです。

後半三編は、それぞれ独立した物語。「なつかしいひと」は、「本屋さんのアンソロジー」ですでに読んでいました。

いずれもまだ何者かになれない、「つぼみ」のような人たちが登場する物語。でも、つぼみの時期があるからこそ、花が咲くのです。

宮下さんの書くものって、地味で静かな物語が多いのですが、けっこうユーモアもありますよね。そういうところも、すごく好きです。

2017年12月 8日 (金)

ペンギン・ハイウェイ

2674「ペンギン・ハイウェイ」 森美登美彦   角川書店   ★★★★

小学校四年生の「ぼく」は、大人に負けないほといろいろなことを知っているし、いろいろなことを研究している。そんな「ぼく」が今気になるのは、歯科医院の「お姉さん」のこと。そして、「ぼく」の住む町に、ある日突然ペンギンたちが現れて・・・。

森美さんって、奈良県出身だったのですね。京都だと思ってました。

これは、奈良県と思われる「海のない」町を舞台にした、ある少年の物語。賢くて、いろんな知識を吸収し、よく考え、でも人の心の機微にはちょっと疎い少年が遭遇した不思議な出来事と、「お姉さん」の物語。

いつもの森美作品とはちょっと雰囲気が違うかな・・・と思って読み始めましたが、いきなりペンギンが登場して、やっぱり森美ワールドか、と(笑) 

まだ乳歯も抜け替わらない「ぼく」の頭でっかちさと、彼の初恋のせつなさがなんとも言えない味わいで、誰もがいつかどこかで感じた思いと再会するような、そんな物語でした。

2017年12月 3日 (日)

リチャード三世

2673「リチャード三世」 シェイクスピア   岩波文庫   ★★★

前回読んだのは新潮文庫版。こちらは、岩波文庫で木下順二訳。先日観た舞台「リチャード三世」のテキストが木下順二版だったので、読んでみました。

もちろん、ストーリーは同じ。だけど、訳が違うと、見えてくる景色が違う・・・。

木下訳はより口語的で、理解はしやすいかと。もちろん、シェイクスピアならではの台詞回し・独特の雰囲気は保っています。劇中、印象的だった最終盤での「この世に思いを断ってゆけ!」のリフレインは、こちらの訳でした。

舞台では、台本もかなりカットされていて(役者さんたちも驚いたらしい)、完全に「新しいリチャード三世」でしたが、あの土台になっているのがこれだ!というのは、よくわかりました。

実は、木下順二がシェイクスピアを訳しているということ自体知らなかったので・・・。もっと勉強しなきゃ・・・。

2017年12月 1日 (金)

陸王

2672「陸王」 池井戸潤   集英社   ★★★★

業績は右肩下がりの足袋製造メーカー「こはぜ屋」。百年続いたのれんを守ることに汲々としてきた宮沢は、ふとしたことからランニングシューズ作りを思い立つ。資金、素材、人材・・・問題は山積。それでも、会社の未来のために、宮沢は「陸王」を作り続ける。

ドラマ、見てます。池井戸作品は、基本的に「映像」→「原作」のパターンなのですが、今回は途中で原作読んじゃいました。脳内では、ドラマのキャストに変換されています。

中小企業が生き残りをかけて、新規事業に挑戦するという話。次から次へと壁が現れ、それに翻弄されつつも乗り越えていく・・・というのは、「下町ロケット」にも通じるものがあります。

「下町・・・」では、その工場の工員たちのもつ技術の高さが、中小企業を大企業と互角に戦える武器になっていました。今回は、もちろん足袋作りの縫製技術の確かさもありますが、むしろ焦点は社長・宮沢の「経営者」としてのあり方と、従業員たちの会社に対する姿勢にありました。

予定調和の物語ではあるのですが、人と人とがつながっていくことで発展するビジネスのおもしろさみたいなものも感じられました。

ただ、いろんな登場人物が絡むことで、ちょっと散漫になった印象も。もうちょっと「こはぜ屋」内部のストーリーを読みたかった気もします。

ドラマもいよいよ終盤。「彼」が登場することで、どんな化学変化が起こるか楽しみです。

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