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2018年8月

2018年8月30日 (木)

アメリカ最後の実験

2789「アメリカ最後の実験」 宮内悠介 新潮文庫 ★★★★

行方不明の父を探すため、アメリカの音楽学校を受験した脩。型破りな試験を通して知り合ったザカリーやマッシモと親しくなるが、試験会場で殺人事件が起こる。さらに、かつて父と暮らしていたという先住民の女・リューイと会い、ある楽器を託される。


帯のコピー「音楽バトル×ミステリー エンタメ×純文学 SF×青春」って、どれだけ盛ってるんだよ(笑)と思ったのですが。いや、失礼しました。その通りでした。

映画のワンシーンを見ているような導入から物語世界に引き込まれ、あとは一気に…。設定は明らかにフィクションなのだけれど、奇妙なリアリティがあって。「あとな野となれ大和撫子」もそんな感じでした。

何より、音楽。恩田陸「蜜蜂と遠雷」で、音楽を文字で表現するなんて!と驚愕したものですが、これまたすごい。どんな音なのか想像できないけれど、たしかに音楽がそこにあるのです。

音楽なしでは生きられない脩たちの姿を通して、人間にとって音楽とは何なのかを描く物語。何というか…宮内悠介が純文学界からも、エンタメ界からも、評価されてるのがわかる気がします。


2018年8月28日 (火)

水曜日の凱歌

2788「水曜日の凱歌」 乃南アサ 新潮社 ★★★★

戦争が終わった。「防波堤」として米兵相手の慰安所で働く決意をした女たち。鈴子の母は得意な英語を生かして慰安所の世話役となるが、鈴子は複雑な思いを抱えていて…。

こういうの、ちょっとなかったなあ…というのが、一番強く感じたことです。

裕福な家庭で何不自由なく育った二宮鈴子。戦争中に父が事故死したのをはじめ、きょうだいたちも次々失い、家も焼かれ、生活力のない母と二人きりになってしまった。亡父の友人・宮下の庇護のもと、どうにか終戦を迎えたその日、鈴子は14歳になった。

我慢を強いられ、いろんなものを失い、ようやく解き放たれたと思ったのもつかの間、鈴子の心はがらんどうのまま。一方、宮下の妾のようになっていた母は、働きはじめてから、驚くほどの変貌を見せる。鈴子はとまどいながら、茫然と母の生きざまを眺めているだけ。彼女に未来は見えていない…。

戦後、価値観がひっくり返り、混乱をきたしたのはよく聞きます。が、その混乱の中で雄々しく立ち上がるのではなく、立ち止まってしまっているヒロインというのが、なかなかないな、と。

鈴子がなぜ立ち止まっているのか。それは、戦中の体験を受け止めきれていないから。そして、激変する世の中の理不尽さに納得できないから。心の中では怒りを感じても、生きるためにはそれを飲み込まなくてはならないという理性は働く鈴子だから、よけいにつらいのでしょう。

鈴子と対照的に、母は敗戦を機に本来の自分を取り戻したかのよう。娘が全く知らなかった母の一面に戸惑うのは珍しくないことですが、そこに「母は慰安所の女たちを犠牲にしてのしあがってきた」という鈴子の罪悪感が絡み…。

鈴子は幼なじみの勝子との再会を経て、ようやく少しだけ先のことに目を向けるようになります。世の中の変化に比べ、鈴子の変化はほんの少し。けれど、きっとこんな子もいたんだろうなと思うのです。そして、鈴子が感じた理不尽への怒りには、すごく共感しました。

2018年8月24日 (金)

新選組颯爽録

2787「新選組颯爽録」 門井慶喜 光文社 ★★★

浪士隊として京で産声をあげた新選組。その中で隊士たちは何を思い、どう生きたのか。

「馬術師範」「芹沢鴨の暗殺」「密偵の天才」「よわむし歳三」「新選組の事務官」「ざんこく総司」の六編から成る連作。

新選組にはまったのもずいぶん昔で、今はかつてのような熱はなくなりましたが、やはり興味ある題材であることには変わりなく。特殊な状況下で、特殊な生き方をした彼らの心の動きはどうだったのか。

近藤勇、土方歳三、沖田総司といった定番以外の人物にも焦点をあてているのが面白かったです。特に冒頭「馬術師範」の安富才助の話は、こういう視点で見たことがなかったので新鮮でした。

あとはやはり土方押しなので(笑)、「よわむし歳三」。原田左之助が登場しますが、土方とは相性よくなかった気がするんですけど…まあ、いいか。

「ざんこく総司」で描かれる山南敬助は、誰よりも熱い男で、これまた今までのイメージとは違って面白かったです。

2018年8月23日 (木)

だから見るなといったのに

2786「だから見るなといったのに」 恩田陸・他 新潮文庫 ★★★★

副題「九つの奇妙な物語」

恩田陸「あまりりす」、芦沢央「妄言」、海猫沢めろん「破落戸の話」、織守きょうや「とわの家の女」、さやき「うしろの、正面」、小林泰三「自分霊」、澤村伊智「高速怪談」、前川知大「ヤブ蚊と母の血」、北村薫「誕生日 アニヴェルセール」

ラインナップを見た瞬間、「買う本リスト」に入れました。が、なかなか地元書店で見つけられず。盛岡まで足を伸ばして、一冊残っていたのをようやくゲットしました。

怪談・奇譚織りまぜたアンソロジー。読み応えありました。

恩田さんはさすがの手練れ感ですが(それにしても、あまりりすって何…?)、芦沢央「妄言」、澤村伊智「高速怪談」も面白かったです。

織守きょうや「とわの家の女」は、最後の最後で「えっ?」と…。そういうことか…。

北村さんのは既読でしたが、一癖も二癖もあるこの執筆陣の締めくくりには、やはりこの方!という感じでした。

作品の並び順もよかったと思います。

2018年8月21日 (火)

ゴースト

2785「ゴースト」 中島京子   朝日新聞出版   ★★★★

「おそらく僕は幽霊に会ってるんですよ」・・・ある男性が語り始めたのは、奇妙な物語だった。彼が青年時代、原宿で偶然出会った女とは・・・。

「原宿の家」「ミシンの履歴」「きららの紙飛行機」「亡霊たち」「キャンプ」「廃墟」「ゴーストライター」の7話。いずれも「ゴースト」が登場します。

どの話もどこかとぼけたおかしみがあるのに、せつなくて。特に第二話「ミシンの履歴」でつかまれました。この話に出てくるのは、ミシンの幽霊。意外な設定ですが、その「履歴」は波乱万丈で、その時代の空気をリアルに伝えてくれます。

第一話から第六話まで、ゴーストたちのベースになっているのは「戦争」です。その時代に生き、それぞれの形で戦争に関わった彼らの人生が、やりきれない思いが、描き出されます。

第七話では、ゴーストたちが何を求めているのかが、彼らの口で語られます。彼らの声は、誰にも届かない「声なき声」なのです。でも、それを「声なき声」にしてしまうのか、どうにかしてすくいあげようとするのか・・・それは、生きている私たちに委ねられているのでしょう。

私はこれ、かなり好きです。中島作品のベスト3に入るかも。

2018年8月18日 (土)

骨と墓の考古学

2784「骨と墓の考古学」 谷畑美帆   角川ソフィア文庫   ★★★

考古学者によって掘り出された「古人骨」には、かつてその場所で暮らしていた人々の生活を、私たちに教えてくれる。都市古病理学という視点から見えてくるものとは。副題「大都市江戸の生活と病」。

人骨写真が表紙を飾っている文庫を抱えていたら、夫にギョッとされました(笑) 

江戸時代の「古人骨」からわかる当時の生活(病気や食生活、衛生環境などなど)。大都市・江戸と地方との比較。さらに、同時代のロンドンとの比較。なかなか興味深かったです。

江戸時代といっても、実に大雑把な知識しか持ち合わせていないので、当時から入れ歯があったとか、江戸は人骨だらけだとか、意外な話もけっこうありました。実際に「骨」という物証があるわけで、説得力があります。

でも、実は一番ビックリしたのは、著者が女性だということでした。なんとなく、男性が多い分野というイメージがあって、途中で気づいて「えっ?」と。たしかに、女性のお名前ですね。思い込みの怖さと、自分の頭の固さにちょっと赤面。

2018年8月16日 (木)

錆びた滑車

2783「錆びた滑車」 若竹七海   文春文庫   ★★★★

女探偵・葉村晶は、尾行していた石和梅子と青沼ミツエの喧嘩に巻き込まれ、怪我をする。それがきっかけで、ミツエの所有するアパートに住むことに。ミツエの孫のヒロトは、交通事故で大怪我を負い、記憶の一部を失ったという。ヒロトに、なぜ自分が事故現場にいたのか調べてほしいと頼まれた晶だったが・・・。

「不運すぎるタフな女探偵」葉村晶シリーズの新作です。

ハードボイルド苦手な私ですが、この葉村晶は大好きです。今回も、これでもかと「不運」な目に遭う晶ですが、そんな自分を哀れまない彼女はかっこいい。もちろん、痛い思いはするし、傷つくのですが・・・。

たまたま受けた下請けの調査(老女の尾行)が、思わぬ展開を見せ、複雑な事件の渦中に巻き込まれていく晶。けっこう話は入り組んでいて、枝葉の部分かなと思っていたのが、あとで本筋に絡んできたり、いい意味で予想を裏切られることの連続でした。

記憶を失った青年・ヒロトの依頼は、思わぬ真相に晶と読者を導きます。それは、けっこう苦い真実で・・・。すべてを読み終わってから、冒頭の晶のモノローグを読むと、泣きたいような気分にさせられます。

とにかく、話が際限なく広がっていくようでいて、終盤、すべてがピシッとはまって真実が明らかになっていく快感は、ミステリの醍醐味というやつでしょう。

初版限定でシリーズガイドがついています。おすすめですよ。

2018年8月12日 (日)

風は西から

2782「風は西から」 村山由佳 幻冬舎 ★★★

大手居酒屋チェーン「山背」に就職した健介は、店長として配属されてまもなく、自ら命を絶った。恋人の千秋は、健介の辛さを理解できなかった後悔に苛まれつつ、健介の両親と共に大企業「山背」と闘う決意を…。

ブラック企業という言葉が定着して久しいですが、どこがどうブラックなのか、これを読むとよくわかります。特に、健介が亡くなるまでの経過は、胸が苦しくなりました。どんなふうに追いつめられ、どんなふうに心を折られ…。人に対する敬意のなさが、いかに非人道的な行いにつながるのか。

健介視点と千秋視点と、それぞれ描かれることで、追いつめられていく本人と、それに気づけない周囲という、その落差がリアルに感じられました。

前半が濃密だったわりには、後半の三年間がちょっと駆け足だった気がします。「山背」社長をはじめとする幹部たちのひどさはわかりましたが、千秋たちの闘争が意外と順調に進んだような印象でした。

もう少し、千秋自身の葛藤が読みたかった気がします。

2018年8月 8日 (水)

異妖新篇 岡本綺堂読物集・六

2781「異妖新篇 岡本綺堂読物集・六」 岡本綺堂   中公文庫   ★★★★

「娘が年頃になつたならば、おまへを婿にして遣るから。」・・・父親が戯れにした「約束」が一家を悲劇に陥れた。ふと異界に足を踏み入れてしまった人々を描く「近代異妖篇」の続編。

岡本綺堂にはまってもう何年になるのか・・・。読んでも読んでもおもしろいのだから、しょうがないです。前巻「今古探偵十話」は苦戦しましたが、今回はスルスルと読んでしまいました。

冒頭の「西瓜」にすっかりやられました。怖いし、気持ち悪い。でも、強烈な印象。口絵の印象もあるのでしょうが。

あとは、「くろん坊」「鰻に呪はれた男」といったあたりがおもしろかったです。

ネタそのものはそれほどオリジナリティを感じなくても、読ませるのはその語り口。怪談と言うのは、どう語るか(書くか)が大事・・・と、先日読んだ本で宮部みゆきさん・北村薫さんが語ってらっしゃいましたが、まさに。そういう意味で、綺堂は一級品です。

2018年8月 4日 (土)

鬼の跫音

2780「鬼の跫音」 道尾秀介   角川書店   ★★★

祖母の椅子の壊れた脚には、奇妙な言葉が刻まれていた。刑務所で作られたというその椅子に、こっそりとメッセージを残したのは人物とは、何者なのか。何かに突き動かされるように調べ始めると、思いもかけない真実が・・・。

先日、BSの深読み読書会「悪魔の手毬唄」に出演されていた道尾さん。すごくクレバーな方だなあという印象でした。その後、宮部みゆき「怪談江戸散歩」で、道尾さんのこの本に収録されている「犭(ケモノ)」を、宮部さんが推していて。これは読まねばなるまい、と。

「鈴虫」「犭(ケモノ)」「よいぎつね」「箱詰めの文字」「冬の鬼」「悪意の顔」の6話。

いずれも後味の良くない、読んでいてざわっとするような物語。ジャンルとしてはホラーなのでしょうか。

心の闇なんて言葉がテンプレのように使われる昨今ですが、その言葉が薄っぺらく思えるような深い深い「闇」が描かれています。

やはり圧巻は「犭(ケモノ)」でしょうか。とっても不快な話ですが、最後まで徹底的に救いがない感じに打ちのめされました・・・。

2018年8月 2日 (木)

現世怪談 開かずの壺

2779「現世怪談 開かずの壺」 木原浩勝   講談社   ★★★

新しく借りた事務所兼住宅は、坂の途中に建つ、三角形の敷地に建つ家。快適な新生活を送っていたが、大家の言動にひっかかりを覚え・・・。

筆者が蒐集した実話怪談が16話収められています。

やはり夏は怪談よねえ・・・と、図書館で目に付いたものを借りてきました。木原さんの本を読むのは、「新耳袋」シリーズ以来です。

ものすごく怖いというよりは、誰もがどこかでふっと異世界に足を踏み入れてしまう、そんなリアルな怖さ。なぜそんな目に遭うのかわからないけれど、降ってくる理不尽。他人事ではないよと、誰かが耳元で語りかけてくるような。そんな話でした。

構成もなかなかおもしろかったです。鏡の表と裏を見せられたような気分になりました。

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