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2018年12月

2018年12月31日 (月)

ダンデライオン

2841「ダンデライオン」 中田永一 小学館 ★★★

その日、11歳の下野(かばた)蓮司は20年後の世界にいた。蓮司の前に現れた西園小春によると、2019年の蓮司の意識は20年前に戻っているらしい。20年の時空を超えて意識が入れ替わるのは、事件に巻き込まれた幼い小春を救うため。とんでもない話に唖然とする蓮司だったが…。


2018年ラストは、中田永一。なんかもう、うわー、いかにも乙一じゃん!という感じでした(笑) この言い方は作者には不快かもしれませんが、でも、乙一時代に私が愛してやまなかった要素がたっぷり入ってるんです。

設定はSFだけど、人物の心情の揺れ動きから生じるせつなさが真骨頂。ちょっと頭が混乱しましたけど。未来を知ってしまった蓮司の兄・真一郎が闇落ちしないかヒヤヒヤしましたが、そんなこともなく。とにかく、未来を知った人間がどう生きられるか、蓮司が実に誠実な人間として描かれていました。

ちょっと薄味な感はありましたが、読後感の良さで、今年の読書のしめくくりは上々でありました。

2018年12月30日 (日)

ホワイトコテージの殺人

2840「ホワイトコテージの殺人」 マージェリー・アリンガム 創元推理文庫 ★★★★

1920年代初頭。ケント州の小さな村をドライブしていたジェリーは、美しい娘と出会う。彼女が住む白亜荘(ホワイトコテージ)まで送った後、そこで殺人が! ジェリーは、スコットランドヤードの敏腕警部である父のW・Tを呼び寄せるが、次々に明らかになる意外な事実に翻弄され…。


北海道旅行のお供・その2。アリンガム、知りませんでした。すごく、面白かったです。

殺されたのは、隣家に住む男で、これが殺されても仕方ないような悪党。彼に苦しめられていた人間はたくさんいるものの、手を下したのが誰なのか、さっぱりわからない。果たして真相は…というミステリ。

ものすごくオーソドックスなミステリのようでいて、読者を気持ちよく裏切る展開があり、最後の最後でその理由が明かされるに至り、思わず唸ってしまいました。

なんと言っても、W・Tの人物描写がいいのです。いつのまにか彼に共感していて、ノーラにのぼせあがっているジェリーにイライラしたり、「何か」を隠しているホワイトコテージの住人たちの態度をあれこれ深読みしたりしていました。だからこそ、いきなり梯子を外された気がして、驚いたのですが。

人が何を守ろうとするのか、なぜその道を選択したのか、そこに何があったのか…余韻の残るラスト、素晴らしかったです。

2018年12月28日 (金)

日曜の午後はミステリ作家とお茶を

2839「日曜の午後はミステリ作家とお茶を」 ロバート・ロプレスティ 創元推理文庫 ★★★

「事件を解決するのは警察だ。ぼくは話をつくるだけ」と言いつつ、事件に遭遇し、謎を解く羽目になるミステリ作家のシャンクスが主人公の連作短編集。


北海道旅行のお供・その1がこれ。気軽に読めて、しかも短編なので、細切れに読むのにちょうどよかったです。

いかにもアメリカらしい、懐かしい感じすらするミステリ。中年のミステリ作家・シャンクスは、それほど売れっこでなく、ロマンス作家としてデビューした妻のコーラと二人暮らし。シャンクスの謎解きもさることながら、いわゆる「作家あるある」エピソードが楽しかったです。

「シャンクス、強盗にあう」「シャンクス、殺される」「シャンクスの記憶」などが好きでした。

訳者・高山真由美さんは、「重厚な長編のあいまに楽しめるような、あるいは疲れた日の寝るまえに読めるような、軽やかな読み物」を求めていて、シャンクスを探し当てたそう。まさに、そんな感じの作品です。

2018年12月26日 (水)

2018年マイベスト

① 「ベルリンは晴れているか」 深緑野分(筑摩書房)

② 「ののはな通信」 三浦しをん(角川書店)

③ 「蝶のいた庭」 ドット・ハチソン(創元推理文庫)

④ 「ローズ・アンダーファイア」 エリザベス・ウェイン(創元推理文庫)

⑤ 「あやかし草紙」 宮部みゆき(角川書店)

⑥ 「インフルエンス」 近藤史恵(文藝春秋)

⑦ 「錆びた滑車」 若竹七海(文春文庫)

⑧ 「忘れられた花園」 ケイト・モートン(東京創元社)

⑨ 「そして、バトンは渡された」 瀬尾まいこ(文藝春秋)

⑩ 「みかづき」 森絵都(集英社)

今年も悩みに悩みました。今年の特徴は、海外ミステリがいっぱいランクインしていること。1位の「ベルリンは~」も、終戦後のベルリンが舞台のミステリです。これは本当に傑作なので、いろんな人におすすめしたいし、深緑さんはまだまだこれからどんどんいい作品が出てくる作家さんだと思います。

それから、ずっと読み続けてきた作家さんたちの秀作もたくさん。特に、「ののはな通信」は、すさまじい破壊力(?)のある作品でした。しをんさんの「愛なき世界」もよかったです。それから、近藤史恵さんの「インフルエンス」は、同世代の女子ゆえ、やたらと共感できてしまったのが怖かったです(苦笑)

ランク外にしたけれど忘れがたいのは、額賀澪「風に恋う」「ウズタマ」「完パケ!」。いずれも、泣きました・・・。特に、高校の吹奏楽部を舞台にした「風に恋う」は、中高生にぜひ読んでほしい。それから、とんでもないミステリの「屍人荘の殺人」(今村昌弘)。今度映画化されるそうですが・・・どうやって?(笑) それから、今年初めて読んだ松家仁之「光の犬」も、派手さはないけれど深く染み入る物語でした。加納朋子「カーテンコール!」も好きでした。

故・宇江佐真理さんの髪結い伊三次捕物余話シリーズの文庫最終巻「竃河岸」がとうとう刊行されたのも今年。これで、宇江佐さんの作品は読破したと思います。たぶん。なんというか・・・感無量です。

それから、山本淳子「枕草子のたくらみ」「源氏物語の時代」、吉田裕「日本軍兵士ーアジア・太平洋戦争の現実」、呉座勇一「陰謀の日本中世史」なども、すごくおもしろかったです。

今年は九月に父を送り、それに伴っていろんなことがあった一年でした(まだその余波の中にいます)。なかなかしんどいことも多かったのですが、本当に読書に助けられました。まあ、現実逃避とも言いますが(笑) なかなか長時間本と向き合う気力も時間もない現状ですが、それでも本と向き合うひとときに、救われました。思えば、子どものころから、私はずっとこうやって生きてきたのですねえ。(もちろん、本がすべて、とは言いませんが)

ただ、諸々の事情で心のゆとりがなく、みなさんからいただいたコメントへのお返事がさらに遅くなったり、みなさんのブログにお邪魔する機会が減ったりしました。本当にごめんなさい。

というわけで、年末年始のごあいさつは失礼いたしますが、来年もまた細々とブログは続けていきますので、よろしくお付き合いのほどをお願い申し上げます。

では、みなさま、どうぞよいお年を。

2018年12月24日 (月)

宮部みゆき全一冊

2838「宮部みゆき全一冊」 宮部みゆき   新潮社   ★★★★

2017年で作家生活30年を迎えた宮部みゆきの集大成。未収録短編やエッセイ、超ロングインタビューなどなど。宮部みゆきによる「負の方程式」朗読CD付き。

ずっと読み続けてきた作家さんで、愛してやまない作家さん。

とは言え、自分自身の変化や、宮部さんの作風の変化などで、いまいち寄り添えなかった時期もあったし、苦手な作品もあります。それでもこれを読んで、やっぱり宮部みゆき、好きだなあと、しみじみ思いました。

読者としては、作者が何を思って書いたのか、それを作者自身が語ってくれるのはとてつもないごほうびなのですが。そういう意味で、とても読み応えがありました。

また、対談がたくさん収録されていて、これまた興味深いものでした。特に、佐藤優さん、津村記久子さんとの対談は、非常におもしろかった!

実は、一時期宮部さんを読むのがつらくなったのですが、それが宮部さん自身もすごく現実を描くことに悩んだ時期だったということもわかり、その葛藤から目を背けずに書き続けてきた方なのだなあ、と。

30年、第一線で書き続けてこられたその重みと凄みを感じつつ、これからも宮部みゆきを読み続けます。

2018年12月22日 (土)

ヨーゼフ・メンゲレの逃亡

2837「ヨーゼフ・メンゲレの逃亡」 オリヴィエ・ゲーズ   東京創元社   ★★★

アウシュヴィッツで収容者の選別とおぞましい人体実験に関わったナチスの医師。<死の天使>メンゲレ。南米に逃れた彼がブラジルの海岸で死亡するまで、どのような人生を送ったのか?

今年、私にとって多大なインパクトをもたらした小説のひとつ「ベルリンは晴れているか」(深緑野分/東京創元社)の余波で、こちらにも手を出しました。今までなら絶対手に取らなかった内容です。

メンゲレの名前は聞いたことがあるし、ナチス・ドイツ崩壊後、ナチスの要人たちが多く逃亡したことも知っていましたが・・・あらためて茫然としました。なんだ、これは。

これはあくまでも小説。もちろん、綿密な取材のもとに書かれていますが、表現手法は、小説。だから、作者の想像による部分がもちろんあるのでしょうけれど・・・。メンゲレという人間の救いがたい愚かさと、それが許容される世界の存在とに、非常にイライラしながら読みました。

結論として、メンゲレは改心しません。そして、ある意味惨めな死を迎えます。それを自業自得と笑えない何かが、読み手の心の底に澱になって残される、そんな気がしました。

人とは何か。悪はどこから生まれ、どうやって世にはびこるのか。

メンゲレの逃亡生活をたどると、そんな根源的な問いを突きつけられているように感じてきます。

2018年12月19日 (水)

龍華記

2836「龍華記」 澤田瞳子   KADOKAWA   ★★★★

悪左府・藤原頼長の末子・範長。興福寺の院主となるはずだった彼は、父の失脚とともにその座を追われ、今は興福寺の悪僧として薙刀を振るっていた。時は平氏が隆盛を極め、その専横を快く思わぬ南都の衆と一触即発の状態が続いていt。そんなおり、範長はある行き違いから、南都焼き討ちのきっかけをつくってしまう。

ここ何年か続いているマイブームのため、奈良を舞台にしたものに飛びついてしまうのですが、ましてやそれが澤田さんの書いたものなら! 今年のうちに読みたかった一冊、やっと読めました~。

南都焼き討ちというと、東大寺の大仏殿が焼け落ちたというイメージだったのですが、これは興福寺の話。どこまで史実なのか、不勉強にして知らないのですが・・・。頼長の息子が興福寺にいたのですね。本当に悪僧(僧兵)だったのかしら? 調べてみなきゃ・・・。

範長が主人公ですが、その従兄で興福寺の院主である信円、仏師の運慶などが登場します。信円はエリートで、範長とは全く相容れない価値観をもつ人間として描かれます。これがなかなかイライラさせてくれるのですが・・・。出家の身でありながら、のたうちまわる人間の姿として、彼がたどり着くラストもまた深く考えさせられるものがありました。

運慶は痛快なキャラですが、以前読んだ「満つる月の如し 仏師・定朝」の系譜につらなる人物で、キャラ的にもちょっと定朝と似ています。澤田さんの愛情を感じます。

南都焼き討ちという大事件を、あまり真剣に考えたことがなかったので、そこに直面した人々のことに初めて思い至った次第。ちょっと勉強したいと思います。興福寺の歴史も。

そういえば、興福寺の中金堂が再建された今年、こういう物語が世に出るのも感慨深いものがあります。

2018年12月17日 (月)

昨日がなければ明日もない

2835「昨日がなければ明日もない」 宮部みゆき   文藝春秋   ★★★★

私立探偵事務所を開設した杉村三郎。決してはやっているとは言えない事務所の10人目の依頼人は、50代半ばの婦人。結婚した娘が、自殺未遂したのちに入院。原因は母との関係にあると言われ、病院でも門前払いをされているという。母親の依頼で調査を始めた杉村だが、娘の夫の態度に不審なものを感じて・・・。

杉村三郎シリーズ第5作。「絶対零度」「華燭」「昨日がなければ明日もない」の三編。

いつもながらこのシリーズは読むと消耗度合いが甚だしいのですが、今回も冒頭の「絶対零度」でがっつりメンタル削られました・・・(泣) とにかく、こうならないでくれと思う方向に話が転がっていくので。「華燭」はそれでもちょっと楽でしたが、最後の表題作でまた・・・。

宮部さんのインタビューによると、杉村三郎は大きな悪と関わるタイプの探偵でなく、「悪意」と関わるのだ、と。・・・考えてみれば、シリーズ1作目からそれはずっと貫かれているのですが、その「悪意」がなかなかしんどいんですけど(苦笑) そして、杉村三郎が探偵になることは規定路線だったのですね!びっくりしました。

それでも、探偵稼業が板についてきた杉村三郎を見てると、やはりお婿さん時代は無理をしていた部分はあったんだなあと、しみじみ。もちろん、本人が納得していた「無理」ではあるんですけどね。

最後の最後で、やっぱりまた傷ついてしまったふうの杉村がなんとも気の毒というか、心配というか。次作が待ち遠しいです。

2018年12月15日 (土)

ローズ・アンダーファイア

2834「ローズ・アンダーファイア」 エリザベス・ウェイン   創元推理文庫   ★★★★★

1944年9月。英国補助航空部隊に所属するアメリカ人飛行士のローズは、飛行機の輸送中にドイツ軍に捕まり、ラーフェンスブリュック強制収容所に送られてしまう。想像を絶するすさまじい劣悪な環境の中で、「家族」と呼び合う仲間たちと生き延びたローズは、収容所からの脱出をはかるが・・・。

前作「コードネーム・ヴェリティ」に圧倒されたので、これも読むと決めていました。「ヴェリティ」の姉妹編ということだったので。たしかに、共通する登場人物もいたりしましたが、どちらから読んでも支障はなさそうです(ただ、時系列上は、「ヴェリティ」の方が先です)。

「ヴェリティ」と同じく、こちらも飛行気乗りの女の子が登場します。アメリカ人のローズは飛行機に乗りたくて、英空軍の補助航空部隊に志願。戦闘には参加せず、飛行機の輸送や、要人の輸送を行うのが役目。とはいえ、やはり戦場にいる以上、命の危険がないわけではなく、同僚の葬式から話が始まります。

やがてローズは信じられないような運命に放り込まれてしまうわけですが・・・。

「ヴェリティ」も読むのがしんどかったのですが、こちらの収容所での描写もかなりしんどかったです。これはもちろんフィクションなのですが、収容所の場面は実際にあったことを下敷きに書かれているのはわかりますし、その一方、「これが現実なのだ」と自分に言い聞かせるのが大変でした。こんなこと、人間が耐えられるわけない。何度もそう思ってしまうので。でも、実際に、ローズたちのようにそこで生きていた人たちが大勢いたのです。

収容所でのローズをローズたらしめたのは、詩でした。好きな詩を暗誦すること、自分で詩を作ること。それがなかったら、ローズは生きていられなかったかもしれない。少なくとも、人としての尊厳を失っていたかもしれない。そしてまた、脱出したローズが、体験を日記の形で「書く」というのも、「ヴェリティ」との共通項なのでしょう。

私にとって印象的だったのは、収容所から脱出し、一連の記録を書いたローズの「その後」を描いた第三部でした。

「世界に伝えて」・・・仲間たちから託されたメッセージ。その重みをよくわかっているからこそのローズの葛藤。そして、ローズと共に収容所から脱出したローザの、アイデンティティすら保てない寄る辺なさ。彼女たちが生きる一歩を踏み出すまでの時間が描かれていたことが、本当に価値があると思うのです。

それにしても、ローズのそばにマディがいてくれてよかった。「ヴェリティ」で魂が切り裂かれるような経験をしたマディだからこそ、ローズに寄り添えたのでしょう。マディにとっては、とてもつらいことではあったと思うけれど。

「世界に伝えて」

理不尽に命を絶たれた彼女たちの叫びは、今も形を変えて、世界のどこかで聞こえているのかもしれません。

2018年12月10日 (月)

ジーヴズの事件簿 才智縦横の巻

2833「ジーヴズの事件簿 才智縦横の巻」 P・G・ウッドハウス 文春文庫 ★★★

お金持ちで気はいいけれど、ちょっとおバカな青年バーティは、今日も厄介ごとに巻き込まれ…。そんな彼を窮地から救ってくれるのは、超有能な執事・ジーヴズだった。


帯には「皇后陛下もご愛蔵」の文字が。はい、すいません。私もあの会見で、この本の存在を知ったクチです。

とりあえず一冊…と読んでみましたが、これおもしろい! 有能な執事っていうのが、元々ツボなのですが、さらにジーヴズのくえない感じというか、腹黒さというか(笑)

今の心地よい生活を維持するためなら、主人のバーティでさえ陥れるって、どんな執事だよ…。

でも、この見た目の主従関係とは逆だということを、バーティも自覚しているから、笑えるのでしょうね。

2018年12月 8日 (土)

猫と漱石と悪妻

2832「猫と漱石と悪妻」 植松三十里 中公文庫 ★★★

見合い相手の写真が一目で気に入った鏡子は、希望通りその男と結婚する。その相手こそ、夏目漱石。慣れぬ熊本での新婚生活で苦労する鏡子だったが、それは序章に過ぎなかった。


漱石の弟子たちによって、「悪妻」に定着している鏡子さんですが、私はどうも嫌いになれないんですよね。破れ鍋に綴じ蓋というか…漱石とはなかなかいいコンビだと思うので。

漱石の仕事には全く理解も興味もなかったようですが、だからこそ一緒に生活できたのかな、と。あまりに繊細な女性だと、漱石はあんなに書けなかったのではないかと、これを読んで改めて思いました。

鏡子のたくましさ、生きる力の強さがいきいきと描かれていて(漱石のかわいさも・笑)、やっぱり鏡子さん、いいよなあと、しみじみ思いました。

2018年12月 7日 (金)

第六天の魔王なり

2831「第六天の魔王なり」 吉川永青 中央公論新社 ★★★

新しい時代の扉をこじ開けた織田信長。「第六天魔王」と呼ばれた彼は、稀代の傑物か、それとも…。


信長に惚れ込んで、あれこれ調べて悦に入ってたのは、もうずいぶん昔のこと。最近はすっかりご無沙汰してます。

というのも、小説で描かれる信長のスーパーマンぶりにうんざりしてきたからで。日本人って、信長に対して変なフィルターかかってるよなあ…と、さめた目で見ていました。

これも前半、浅井長政に裏切られるあたりまでは、あまりピンと来なかったのですが、徐々に作者の描きたいものが見えてきて、俄然おもしろくなりました。

人間としての織田信長。なるほど、という感じでした。そうなんですよ、信長って家臣とかに裏切られることも多かったし、織田軍も弱い。よくこれで…と思うことの連続なのですよ。その辺を書いてくれているのが、気に入りました。

光秀との関わりは出来すぎな気もしますが、こういうドラマも、小説としてはアリでしょう。

2018年12月 4日 (火)

蝶のいた庭

2830「蝶のいた庭」 ドット・ハチソン   創元推理文庫   ★★★★★

拉致された若い女性たちが暮らしていた<ガーデン>から保護された「マヤ」。FBI特別捜査官のヴィクターは、相棒のエデイソンと共に、彼女の事情聴取にあたるが、そこには想像を絶するような美しい地獄があった。

買ったはいいものの、なかなか読む気になれなくて、しばらく積読してました。胸糞悪い話なのは承知していたので。

物語は、ヴィクターたちが「マヤ」と呼ばれていた女性から事情聴取する取調室で展開します。「マヤ」は、賢く、タフで、質問されたことをうまくはぐらかして、違うところに着地させたり。こちらはマヤの語りのとりこになってしまいます。彼女の語る<ガーデン>での日々の非現実性と、そのおぞましさには顔をしかめずにはいられないのですが。

耐え難いような話なのですが、これを成立させているのは、ひとえにヴィクターという捜査官を配置したことです。三人の娘をもつヴィクターは、マヤたちと娘たちとを重ねながら、忍耐強く、マヤの話を聞きます。その過程で、マヤの尊厳を傷つけるような言動はいっさいしません。彼女に語らせることで、彼女をこれ以上傷つけまいと心を砕き、聞いた話で自ら傷つきながら、マヤにじっくり向き合います。彼の存在なくしては、これはとても読めたものではなかったと思います。それくらい、おぞましい世界でした。

最後に思いもかけない事実が明らかになり、「あっ」と。そして、涙が止まりませんでした。無駄なピースは一つもない、見事な構成でした。

訳者・辻早苗さんのあとがきも、とてもよかった。創元推理文庫は、訳者さんたちが原作にほれこんでいるのが伝わってきて、そういうところ、すごく好きです。

2018年12月 1日 (土)

ただし、無音に限り

2829「ただし、無音に限り」 織守きょうや   東京創元社   ★★★

霊の記憶を読み取ることのできる特殊能力をもつ探偵・天野春近は、資産家の老人の死について調べるよう依頼される。遺産の多くを受け継いだ孫には、不審な点はなかったか。祖父自慢の優秀な孫だった羽澄楓は、年齢に似合わぬ落ち着きで、春近を翻弄するが・・・。

「執行人の手」「失踪人の貌」の中編2編。

遺体もすでになく、調査が非常に困難な事件を、霊の記憶を読むことで推理するという、なかなかイレギュラーな感じのミステリ。とは言え、霊と自由にコンタクトをとれるわけでもなく、自分が知りたい情報を得られるわけでもなく。断片的に見られる映像をつなぎあわせていくしかないもどかしさ。そして、探偵の春近は霊の記憶を「見る」ことができるだけで、それを読み解くのはあまり得意ではない、という・・・。

彼にヒントを与えるのが、第一話の「容疑者」である羽澄楓という中学生。第二話では、これがなかなかいいコンビになって、うまく機能してきたあたりで、物語が終わってしまうのですが。

キャラが立ってるので、シリーズ化したらおもしろくなりそうです。

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