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2019年1月

2019年1月31日 (木)

お伊勢まいり  新・御宿かわせみ6

2855「お伊勢まいり 新・御宿かわせみ6」 平岩弓枝   文春文庫   ★★★★

亡き畝源三郎の妻・千絵に強引に誘われて、お伊勢まいりに旅立ったるい。お吉と長助をお供に、日本橋界隈の旦那衆と伊勢を目指したものの、不穏な事件が立て続けに起き・・・。

「かわせみ」初の長編。明治編の主人公・神林麻太郎は洋行中で、今回は久しぶりにおるいさんと、友人のお千絵さんが主役。

正直、あまり期待していなかったのですが(すみません)、意外な展開に一気に引き込まれました。まさか、あの事件が今になって・・・。

でも、そうだよなあ、そうだろうなあ・・・と、このシリーズをずっと読んできた身としては、すんなりとそう思えたのですよね、かつて、源太郎たちもあんなに苦しんだのだもの。

そして、前にも書いた気がしますが、やっぱり「かわせみ」は、るいと東吾の話なのですよねえ。だから、るいの存在感が大きいときは、話がぐっと引き締まり、陰影が増すのです。明治編では東吾がいなくなり、それが読者の心にもポッカリ穴をあけてしまっているのですが、そこを埋めるようにして麻太郎が登場すると、るいたちと一緒に涙してしまうのです。

そして、麻太郎たちの成長と活躍はうれしいのだけど、やっぱりおるいさんの話が読みたいなあと思っていた私にとっては、この「お伊勢まいり」は、とってもうれしいものでした。

2019年1月30日 (水)

禁忌

2854「禁忌」 フェルディナンド・フォン・シーラッハ   東京創元社   ★★★

すべてのものに人が知覚する以上の色彩を認識し、文字にも色を感じる共感覚の持ち主ゼバスティアン・フォン・エッシュブルク。写真家として成功した彼は、若い女性を誘拐した容疑で逮捕される。女性の殺害を自供するが、それは捜査官に脅されたためだったと判明。エッシュブルクの弁護を依頼されたビーグラーは、意思の疎通がうまくできない相手に苛立つが・・・。

シーラッハ作品は「犯罪」「コリーニ事件」と読みましたが、今回が一番難しかったかも・・・。なんというか、今もまだ頭の中は半分「?」が飛び交っています。

前半は、ゼバスティアンの視点でその半生がつづられ、後半は一気に彼が殺人容疑をかけられ、その法廷で罪が問われる内容へと転換します。後半は、もう一人の主人公・敏腕弁護士ビーグラーが登場し、果たしてゼバスティアンは人を殺したのか、「死体なき殺人」が展開します。

私にはとうていゼバスティアンがわからないし、それはもう読みながら「ひゃあ、何なの~?」と言いたくなるほどなのですが。そういう何かから目を背けず、じっと注視していくシーラッハの視点は、実におもしろいのです。

この事件は意外な着地点を見出すのですが・・・。それ以上に驚かされたのは、訳者・酒寄進一さんのあとがきです。翻訳出版の条件として、この表紙の写真を使うことというのがあったそうで(ドイツ語の原書も同じ写真が使われているよし)。ふうん・・・と思ってみてみると・・・あっっっ!!! 読んだ人には、これが何かわかる、のです。でも、読む前はそんなこと思いも寄らなかった・・・。鳥肌たちました。遠く感じていたゼバスティアンの物語は、自分のすぐそばにあったようです。

2019年1月29日 (火)

三ノ池植物園標本室 下 睡蓮の椅子

2853「三ノ池植物園標本室 下 睡蓮の椅子」 ほしおさなえ   ちくま文庫   ★★★★★

有名な書家であった父を亡くした葉は、母の再婚でできた義兄の友人・古澤響と出会う。若くして天才の名をほしいままにする建築家の響と葉は恋仲になるが、その頃、葉に異変が・・・。彼らの思いは複雑に絡み合い、それが風里にも試練をもたらすことになる。風里は彼らの想いをほどくことができるのか・・・。

植物園のバイトで知り合ったイラストレーター兼陶芸家の日下奏とつきあい始めた風里。しかし、思わぬ展開が風里を待ち受けます。

上巻で登場した少女・葉の人生が、いろんな形で風里をとらえ、同時にそれを解きほぐす鍵をもっているのは風里だけということも明らかに。このあたりの、過去と現在とが複雑なジグソーパズルのようにつながり、形を成していく展開は、ものすごい緊張感でした。ミステリとしても、読み応えがあります。

ただ、それだけでなく。生きるということ。命をつなぐということ。それは人間だけでなく、さまざまな生き物も同様であるということ。それでもなお、人間がこの世に生を受けるということの意味とは何なのかということ。・・・物語全体に散りばめられた作者からのメッセージが、物語終盤になって、本当に腑に落ちるのです。

私自身もいろんな経験をして、こんな年齢になってもまだ迷ったり、悩んだりすることも多く。いまだに後悔していることも、思い出しただけで涙があふれるようなことも抱えて生きているのですが。それでも。

生きていることは、それだけで奇跡のように美しいもの。私の命は、私一人で完結するものではないのだ。

そんなことをしみじみと感じ、ちっぽけな私でも生きていていいんだと思えたのでした。

2019年1月26日 (土)

三ノ池植物園標本室 上 眠る草原

2852「三ノ池植物園標本室 上 眠る草原」 ほしおさなえ   ちくま文庫   ★★★★

勤めていた会社をやめた風里は、偶然見つけた古い一軒家に引っ越す。同時に、近くにある三ノ池植物園の標本室でバイトを始め、苫教授や院生の小菊ちゃん、イラストレーターの日下さんたちと出会い、また、かつてやっていた刺繍を再会することで、徐々に自分の居場所を見つけていく。

ほしおさんの作品で、いつか読もうと思ってそのままになっていた「恩寵」。それが大幅に改稿されて文庫化。ふうん・・・と思い、書店で手にとって頁をめくり、そのままレジに直行しました。これは、私が読むべき物語だ、と直感したので。

心身をすり減らすような生活から、自分がきちんと呼吸できる場所へ。それは、簡単なことではないけれど、風里は何かに導かれるように、新しい生活に溶け込みます。植物の標本づくりのバイト先は個性的な人たちが多いけれど、風里の性に合ったところ。収入は減ったけれど、心と時間に余裕のできた風里は、すっかりご無沙汰していた刺繍を再開します。

そして、引っ越した一軒家は、かつて華道の先生をしていた人が離れとして建てたもの。そこを手直ししてすみ始めた風里ですが、それが彼女を思わぬ世界へと連れて行くきっかけに・・・。

植物とか、刺繍とか、私の好きな要素がいっぱいつまっています。ああ、この話、好きだなあ、風里が刺繍で身を立てるようになる話なのかなあ・・・と、ぼんやり想像していたのですが、4章「星」で、いきなり全く違う世界の話が始まります。主人公は、葉という少女。有名な書家の父をもつ彼女が、その父を失うまでの物語。あまりに悲痛な世界が突然展開するので、これはいったい・・・?と、とまどいました。そして、次の章では、あっさり風里の物語に戻ります。どころが、これこそが大事な大事な、物語の骨格だったのです(下巻の感想に続く)。

2019年1月25日 (金)

新徴組

2851「新徴組」 佐藤賢一   新潮社   ★★★★

新選組には沖田総司が、新徴組にはその義兄・林太郎がいた。清河八郎の浪士組に端を発し、袂を分かち江戸に戻った一派が新徴組。庄内藩預かりとなり、江戸市中見廻りを役目としたが、薩摩藩邸焼討をきっかけに庄内藩と運命を共にした新徴組。林太郎とその息子・芳次郎は、その中心となって活動するが・・・。

先日読んだ「遺訓」の前段階の話なわけで、こちらは芳次郎の父・沖田林太郎が主人公。

っていうか、こっちを先に読むんだった・・・。

もちろん、独立した物語としても読めますが、「遺訓」ですっかり落ち着いて冷静沈着な人物になっていた鬼玄蕃こと酒井吉之丞がまだ若く、戦場にて鬼であろうと必死になっていて、ああ、この人にはこういう紆余曲折が・・・と思うと、もうそれだけで胸がいっぱいになってしまったのでした。

沖田総司を描いたものはいくつもあって、姉のミツは弟思いの優しい姉としてよく登場しますが、その婿の林太郎はあまりお目にかかったことはありません。その林太郎がなかなかおもしろい人物として立ち現れてきて、彼の目を通して描かれる総司、近藤勇、土方歳三というのも、実におもしろかったです。特に、江戸に戻ってきた総司との再会の場面は、泣かされました。

後半は庄内藩の戦が描かれますが、一度も負けなかった庄内藩が降伏するに至った過程と、降伏に反対する吉之丞を説得したものが何だったのかというくだりは、とても印象的でした。

「新徴組」は戊辰戦争を、「遺訓」は西南戦争を描いていると同時に、前者は沖田林太郎の、後者は息子・芳次郎の青春物語でもあります。

それにしても、去年は明治維新150年とやらでしたが、明治維新とは何だったのでしょうね。その効用と同時に影の部分も冷静に総括すべきだと思うのですけれど。

2019年1月22日 (火)

杏の気分ほろほろ

2850「杏の気分ほろほろ」 杏   朝日文庫   ★★★★

2013年からの3年半。朝ドラ「ごちそうさん」の主役、「花咲舞が黙ってない」「デート」などの連ドラの主役などなど。怒濤のように仕事をし、結婚、出産も経験した杏さんのエッセイ集。

こんなに仕事してたの~?と、改めて驚きました。たしかに、杏ちゃんはよくテレビで見ました。「平清盛」での北条政子はとってもよかったし(いつの日か、杏ちゃんで政子が主人公の大河ドラマをやってほしい!)、「デート」もとってもおもしろかった。「ごちそうさん」は残念ながら見なかったのですが(今なら見る)、「オリエント急行殺人事件」はとっても美しかったなあ・・・。

それぞれの現場での裏話などがとってもおもしろいのですが、その合間にふっと東出くんとの話がでてきたりして。それも、すごく自然体で。鰻釣りデートとか。

とにかく、お仕事にはものすごく真剣で、一生懸命取り組んでいるんだけど、決して忙殺されないように自分を保つのが上手なんでしょうね。地に足が着いているというか。

そんな杏ちゃんの文章は、読んでいて心地よい。それに尽きるのです。

2019年1月21日 (月)

球道恋々

2849「球道恋々」 木内昇   新潮社   ★★★★

明治39年。業界紙編集長の宮本銀平に、母校・一高野球部からコーチの依頼が。万年補欠だった銀平はとまどいながらもコーチ業に精を出す。さらに、ひょんなことから作家・押川春浪の野球チームにも所属することになり、ますます野球に熱中する。そんな折、大新聞が「野球害毒論」を展開し、銀平たちは憤慨するが・・・。

大河ドラマ「いだてん」にはまっています。その中に「天狗倶楽部」という面々が登場していまして。押川春浪らを中心としたスポーツ集団というか、早稲田や慶應などのエリートで、それなりの家柄のお坊ちゃまたちが、野球をやったり、応援団をつくったり、とにかくエネルギーを持て余してわちゃわちゃしてる感じなのですが。その「天狗倶楽部が登場しますよ~」という新潮社Twitterにそそのかされ、手に取りました。木内昇を読むのも久しぶり。

主人公は何をやってもイマイチ冴えない銀平。彼が一高野球部のコーチに就くところから物語は始まります。万年補欠の銀平にお鉢が回ってきたのは、ほかのOBは仕事が忙しそうだから。その理由に内心忸怩たるものがありながらも、野球に真摯に向き合う銀平。彼を支えてくれるはずのほかのOBたちは、やたらと精神論に走ったり、現役部員たちを威嚇したり。しかも、かつては圧倒的な強さを誇った一高の強さにも翳りが見え、部員確保も困難に。

そんな状況下で奮闘する銀平なのですが・・・なんというか、この人物造詣がすごく良い、のです。ものすごく中途半端な生き方をしているような印象なのですが、部員たちを威圧することなく(まあ、自信もないからですが)、自分の理念を押し付けるでもなく(ご大層な理念など持っていないとも言うが)。どうしたら勝たせてやれるか、野球を楽しめるか、ものすごく悩みながらも、決して人を追い詰めたり、見下したりしない。

もっとも、そういう銀平も、父親との葛藤や、仕事に対する不安と不満など、抱えているものはいろいろあるのですが・・・でも、なんかいいなあ、と思えるのです。

物語の中では、いくつかの「死」が描かれます。それは、銀平たちを容赦なく傷つけるのですが、その対極の「生」の象徴として描かれる最終章野球のシーンでは、思わず目頭が熱くなりました。

これは、銀平たち野球に恋した男たちの、青春物語。もう妻子もちのおっさんにだって、青春はあるのだ!

なお、「天狗倶楽部」は、ドラマのそれよりだいぶくたびれた雰囲気でした(笑)

2019年1月17日 (木)

比類なきジーヴス

2848「比類なきジーヴス」 P.G.ウッドハウス   国書刊行会   ★★★

英国貴族のバーティーと、執事のジーヴス。独身生活を謳歌する二人に、次々飛び込んでくる厄介ごとを、ジーヴスが華麗に解決する人気シリーズ。

先日、ダイジェスト版の文庫を一冊読みましたが、その後、地元図書館に国書刊行会の「ウッドハウスコレクション全14冊(森村たまき・訳)」が入りました。ちなみに、刊行は2005年。去年の10月で9刷です。美智子皇后の影響力、恐るべし(笑)

前半の何話かは文庫で読んだのですが、バーティーの双子のいとこたちがさらに大暴れする話と、すぐに恋に落ちる友人・ビンゴのさらなる恋物語と、彼の結婚(!)が描かれる後半は実におもしろかったです。特に、冒頭の話で、ビンゴがついたつまらない嘘がめぐりめぐって・・・という構成には笑ってしまいました。

いかにもイギリスらしい辛らつなユーモアは、日本の物語にはないもので、なかなか楽しく・・・。肩に力をいれずに読めます。

あと13冊あるので、気が向いたときに借りてきて読もうと思います。

2019年1月16日 (水)

犯罪小説集

2847「犯罪小説集」 吉田修一   角川書店   ★★★★

人はなぜ、罪を犯すのか? いつか何かのニュースで見たような犯罪。その陥穽に転がり落ちた人間たちには、何があったのか。「青田Y字路」「曼珠姫午睡」「百家楽餓鬼」「万屋善次郎」「白球白蛇伝」の五話。

「悪人」も「怒り」もしんどかったし、「さよなら渓谷」も・・・。だから、これはもう読まずにおこうと思ったのですが、やっぱり読んでしまいました。

実際に罪を犯してしまうのと、そうでないのとでは、大きな差がある。それでも、その一線は、ほんの紙切れ一枚程度のものでしかないのかもしれない。彼は、彼女は、あなたであり、私であったかもしれない。吉田修一が「犯罪」を真正面から扱ったとき、我々につきつけられるのは、その「怖さ」だと思うのです。だから、読んでいてしんどい。不快にもなる。でも、けっして他人事とは思えない。

題材は、どこかで聞いたような事件ばかり。犯人、被害者、彼らの家族や友人、知人・・・いわゆる事件の「関係者」が何を思い、何が起こったのかを、妙に生々しい筆致で描く物語は、何の救いもなく幕を閉じます。泣きながらマウンドで投げ続ける「殺人者の息子」は、その後どうなったのか。何も語られることはなく、やりきれなさだけが残ります。

現実の事件も、やはりそうなのでしょう。犯人がつかまっても、動機が解明されても、なかったことにはならないわけで。

吉田さんは、今後もこういう小説を書き続けるのでしょう。そして、私もそれを読み続けるのでしょう。ざわざわする気持ちを抱えたまま。

2019年1月15日 (火)

浮遊霊ブラジル

2846「浮遊霊ブラジル」 津村記久子   文藝春秋   ★★★★

初めての海外旅行に行く前に死んでしまった男は、霊になってあれほど行きたかったアラン諸島に行こうとするのだが・・・。

津村記久子はいい。というのは、ずっと聞いていて、すごく気になっていたのですが、なかなか手が出せずにいました。が、先日読んだ「宮部みゆき全仕事」で、宮部さん・津村さんの対談を読み、宮部さんがこんなにお気に入りなら読むしかない!と。

「給水塔と亀」「うどん屋のジェンダー、またはコルネさん」「アイトール・ベラスコの新しい妻」「地獄」「運命」「個性」「浮遊霊ブラジル」の7編。

うわあ、これ好き!・・・という感じではない、のです。ものすごいドラマティックな展開があるわけでもなく、むしろ淡々とした、テンションの低い物語。でも、「え?そうなるの?」「あ、そういうこと?」という妙な意外性があって、目が離せなくなる感じ。で、なんとなくおもしろい。読むと、ちょっと肩の力が抜ける感じ。けっこう鋭いところをついてくるのだけど、嫌な感じはしない、という。

「地獄」の設定には笑ってしまいました。物語消費しすぎ地獄。私もそこに落ちそう(笑)

とりあえず、これ、もっと読まないとあかん作家さんや!と認定しましたので、今年は積極的に読もうと思います、津村記久子。

2019年1月13日 (日)

怪獣 岡本綺堂読物集・七

2845「怪獣 岡本綺堂読物集・七」 岡本綺堂   中公文庫   ★★★★

鄙びた田舎の旅館の娘たちはなぜ変貌したのか。若い歌舞伎役者のもとを夜な夜な訪れる娘の正体は。動物や道具を媒介に、異界と交わるものを描いた怪異譚。

中公文庫の「岡本綺堂読物集」全七巻。これにて完結です。やっと読破しました。

今回は、十二の短編に、附録一編の計十三編を収録。いつもは読むのに苦労するのですが、珍しくすいすい読みました。

「半七捕物帖」にはまったのがきっかけで、このシリーズにも手を出してしまったのですが(こんなに長く続くとはしらなかった・・・)、岡本綺堂の紡ぐ怪異譚の世界の豊かさと素朴さにすっかり魅せられてしまいました。旧仮名遣いで書かれているのですが、この世界にはその表記がよく合います。

表紙や口絵の山本タカトさんの絵が、妖しくて美しくて、実にこの世界にフィットしているのですよねえ。いや、いいもの読みました。

2019年1月10日 (木)

食う寝る坐る 永平寺修行記

2844「食う練る坐る 永平寺修行記」 野々村馨   新潮文庫   ★★★

思い立って30歳で出家した筆者が赴いたのは、曹洞宗総本山永平寺。覚悟はしていたものの、想像を絶する異世界で、心身ともにぼろぼろになりながら過ごした修行の一年間を記録したノンフィクション。

これ、文庫化された当時からずっと気になっていました。岡野玲子「ファンシイダンス」が大好きだったので(笑) ただ、こちらはもちろん真面目な体験記なのだろうなあと、なんとなく読むのを躊躇してたのですが、北大路公子さんが書評で取り上げていたので、やっぱり読書リストに入れました。

それにしても、すさまじい。「ファンシイダンス」で予備知識はありましたが、あの漫画はかなり簡略化し、マイルドに描かれていたんだなあ、と。寺の跡取りでもなく、僧侶のあれこれの基礎知識もなく、いきなり総本山に飛び込むのは、こちらが想像する以上に大変だったのではないでしょうか。

ただ、感じたのは、だからこそ非常にフラットかつ新鮮な視線で雲水たちの行動を、永平寺という空間のあれこれを見られていたのかなということ。たぶん、お寺で生まれ育ち、日常の中に仏教が組み込まれている人たちとは、そこが根本的に違ったのでしょう。

自分にこんなことができるか?と問われたら、「無理です」と即答します(脱走者が毎年複数出るというの、よくわかる・・・)。

極限まで追い詰められた雲水たちがさながら地獄の餓鬼のごとくになり、自分たちの醜さをつきつけられる様が、なんだか忘れられません。そういうところを直視するのも、修行のうちなんだろうなあ。

2019年1月 8日 (火)

遺訓

2843「遺訓」 佐藤賢一   新潮社   ★★★★

沖田総司の甥・芳次郎は、幕末に新徴組に属し、その縁で明治の世を旧庄内藩で迎えていた。その家老たちから庄内藩との縁の深い西郷隆盛の護衛を命じられた芳次郎は、鹿児島に赴く。下野した西郷をめぐり、さまざまな思惑が交錯する中で、芳次郎が見たものとは。

去年の「西郷どん」はあっという間に脱落したのですが、ツイッターでみなさんの感想は追っていました。その中で、「庄内藩のことは取り上げないのか!」という怒りの声が。なんのことやらわからなかったのですが、「西郷と庄内藩のことが知りたいなら、これがおススメ」という書評家大矢博子さんのツイートで、手に取ったのがこれ。

いやあ、全然、知りませんでした。幕末のことは、新選組を中心に幕軍側に興味があり、いわゆる官軍側のことは通りいっぺんの知識しかない私。つくづく、興味関心のあることには没頭するけれど、それ以外は見事にスルーする自分の体質を思い知らされました。

沖田芳次郎という青年を通して、彼の挫折と成長を描くのが骨格になってはいますが、やはり強い印象を受けたのは、西南戦争の場面です。

ある意味、日本人にとって非常に苦い記憶であり、いまだにタブーになっているところがあるのかな、と。戊辰戦争・明治維新という成功体験ゆえに道を誤ったとも言える旧薩摩藩士たち。明らかに卑劣な手段で西郷たちを排除しようとした政府側。日本人同士(あるいは薩摩藩士同士)で憎みあい、殺しあった凄惨な戦場。いずれも悲惨な歴史であり、少なくとも私にとってはあまり直視したいものではありませんでした。

でも、ここを直視しないことが、その後の日本の道を誤らせたのではないかと思えてならないのです。去年は「明治維新150年」と喧伝されていましたが、維新の「失敗」から目をそらし続けて150年・・・私にはそんな思いがつのる一年でもありました。

それにしても、同じ幕軍側でも、新徴組のことも全然わかってません・・・。これは、佐藤賢一さんの「新徴組」も読まねばならない・・・かな?

2019年1月 3日 (木)

秘密

2842「秘密(上・下)」 ケイト・モートン   東京創元社   ★★★★

女優として名を成したローレルは、死期が迫った母ドロシーの秘密を探り始める。50年前の夏の日、訪ねてきた男を母が刺殺した瞬間を見てしまったローレルは、母がなぜあんなことをしてしまったのかを知ろうとする。母は正当防衛が認められたが、あの男はたしかに母に呼びかけたのだ。「ドロシー、久しぶりだね」と。手がかりは、ヴィヴィアンという友人の存在。ローレルは、若き日の母の人生をたどるが・・・。

2019年は、この本からスタート。「忘れられた花園」がすばらしかったケイト・モートンですが、これまた読み応えありました。

現在(2011年)と、過去(主に1941年)を行ったり来たりしながら、徐々に真実が明らかになっていく構成は、「忘れられた花園」と似ています。あちらはどこか浮世離れした雰囲気がありますが、こちらはドロシーやヴィヴィアンといった登場人物の娘時代の言動に、なんとなく親近感がわいてきました。

それにしても、ドロシーはなかなか大変な娘で(苦笑) 読みながら何度も「おい!」と思ったし、ものすごくイライラしました。ただ、それがめぐりめぐって不思議な運命の意図に絡め取られていく過程が、複雑ながら物語としてじゅうぶんおもしろく描かれていく手腕はさすが、です。

そして、このミステリの真骨頂は、ドロシーが何をやってしまったのか、どうやって第二のチャンスを手に入れたのか、すべての謎が氷解する一瞬です。私は完全に油断していて、その瞬間、鳥肌が立ちました。ネタバレ絶対できないので、これ以上は書けませんが、この瞬間を味わうためだけでも、長い物語を読んできてよかったと思えました。

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