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2019年7月12日 (金)

献灯使

2925「献灯使」 多和田葉子   講談社文庫   ★★★★

大災厄の後、鎖国状態になった日本。百歳を過ぎても健康で死なない老人と、恐ろしく体の弱い子供たち。義郎はそんな老人の一人で、ひ孫の無名と暮らしている。やがて、無名は「献灯使」という役割を引き受け、日本から旅立つことになるが・・・。

 

ディストピアものというのが以前から苦手で。それでも今回読んだのは、全米図書賞(第一回翻訳文学部門)を受賞したというのを聞いたからです。ちなみに、多和田さんを読むのも初めて。

「献灯使」「韋駄天どこまでも」「不死の鳥」「彼岸」「動物たちのバベル」の五編。いずれも「大災厄」のあと、何もかもが変わってしまった世界の物語。

もちろん、フィクションなのだけれど、純粋なフィクションとしては読めない経験を私たちはしているわけで。読んでいると、いまだに自分の中で決着せずにいるいろんな思いや、いまだに整理できない考えなど、ふだんは忘れたようにしているものを直視させられる気分になります。それでも、描かれる世界は不思議と静謐で、ときには歪な美しさを醸し出したりします。この奇妙なディストピアの世界をさまようのが心地よくなったころ、物語は唐突に断ち切られます。まるで、あの震災でふつりと断ち切られた日常のように。

これを読んでいて感じたのは、文学の力です。声高に何かを語るのではなく、言葉を選びぬいて紡がれた物語が心に響く強さ。久しぶりに、その力を実感しました。

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コメント

ここで紹介されたのを見て読みました。

随分と力のある作品だとは感じましたが、
どうしても私は回答の様なものを期待してしまいます。
やっぱりこういう純文学的なものは苦手なようです。

芥川龍之介賞を受賞した『犬婿入り』以来、久しぶりに書評で高評価だった「献灯使」。
不思議な世界を描かれますよね。何となくは分かるのですが理解に苦しむ作家さんです。彼女が新聞などで書かれているエッセイやインタビュー記事を読んでいる方が、私には良さが伝わってきます。

名前を書き忘れました!すぐ前のコメントはしずくです。

Todo23さん、お返事遅くなりました。ごめんなさい。

そうですね。私も、「答え」はほしいです。
だから、わかりやすく答えが提示されるミステリが好きなんだと思います。
ただ、答えが出ない、あるいは読者に委ねられる物語も、必要なのかなと思うことがあります。
これは、そういう物語かなという気がします。

しずくさん、大丈夫ですよ。

私は多和田さん初めてで、読み始めてクラクラしました。
でも、ふだん、わりと「わかりやすい」小説しか読まないので、たまには脳みそにいい刺激だと思って(笑)
わかったか?と問われたから、何も説明できないくらいわからないのですが。

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