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2019年8月

2019年8月27日 (火)

死にがいを求めて生きているの

2940「死にがいを求めて生きているの」 朝井リョウ   中央公論新社   ★★★★

植物状態で病院で眠り続ける南水智也。毎日のように病院に通い、智也を見守り続ける親友の堀北雄介。そんな彼らに関わっていた人々の物語をたどって見えてきた二人の関係とは・・・。

 

気になってはいたものの、「なんか厚いな~」と敬遠してました(苦笑)が、「螺旋プロジェクト」作品と知って手に取りました。朝井さんが担当するのは、平成。

冒頭の看護師さんの章を読んだときは、「いい話系?」と思ったのですが・・・。智也と雄介の小学校時代の同級生・前田一洋の章で「どうやらそんな生易しいものではないらしい」と。さらに、中学校時代の同級生・坂本亜矢奈で「う~ん・・・」となり。大学時代の安藤与志樹で、完全に「これはアカン」となりました。そして、その後の弓削晃久の章でいろんなものが崩壊してしまうわけですが。

朝井さんが書く平成の若者は、本当に生きづらそうだなあと、つくづく思います。もちろん、我々の時代だってそういうのを強く感じている人もいたし、私も決してのびのびと呼吸していたわけではないのだけれど。閉塞感みたいなものが、昔とは全然違う。雄介や与志樹みたいな生き方は、なんだか常に悲鳴をあげているみたいに見えるのです。「若いうちはそういうときもあるさ」では済まされない追い込まれ方(自分が自分を追い込んでいるのだけれど)。そんなことをしていたら、いつか自分を滅ぼすよ?という切迫感。でも、止められない。そんな彼らの悲鳴が聞こえてくるようで。

「螺旋プロジェクト」なので、この話も海族と山族の対立構造に落とし込まれていくわけですが・・・その辺はちょっとストレートすぎるというか、物語の中に溶け込みきれない部分もあった気がします。

ただ、「どうしてもあいつとはうまくいかない」という相手っているもので。そういう相手とどういう距離感で、どう対応していくか。人類の永遠の課題だろうなと思うわけです。最終章では、智也の視点で語られ、冷静に見えた智也の側にも爆発するような感情があったことがわかってきます。争いたくない。でも、争うのもまた人間の本能の一つで。では、どうやっていくのか。・・・それを考えるのをやめたときに、分断は始まるのかもしれません。

ところで、本筋から外れますが、朝井さん描くところの「学校生活」の空気感の圧倒的なリアル感に、今回してやられました。特に、亜矢奈の章。読んでいると、中学・高校の頃の校舎のちょっと薄暗い廊下の感じとか、プールの匂いとか、生々しく思い出してしまいました。若くしてデビューして話題をさらった朝井リョウさんも三十歳。もちろん、まだまだお若いですが・・・これからさらに年を重ねて、どんな作品を書かれるのか、楽しみになってきました。

2019年8月25日 (日)

NHK 100分 de 名著 平家物語

2939「NHK 100分 de 名著 平家物語」 安田登   NHK出版   ★★★★

「100分で名著」のテキスト。初めて購入しました。

古典文学の中で一番好きなのが「平家物語」なので、なんとなく見た「100分で名著」でしたが・・・。講師の安田登さんのお話がおもしろくて。さらに、能楽師である安田さんが朗読すると、物語世界が目の前に立ち上がってくるようで。録画して、何度も見て・聴いていました。

で、テキストも買ってみたら、放送では割愛されたのであろう説明部分がかなり詳しく載っている。買ってよかった。

まず、安田さんの基本の視点は、「平家は鎮魂の物語である」ということ。これは、平家の人々だけのことではなく。その辺は、「はじめに  鎮められるのは誰の魂か」で述べられています。能楽師ならではの視点で、私には新鮮でした。また、「平家はフィクション」という点を押さえた上で、史実との違いにこだわるのでなく、登場人物がなぜそういうキャラクター化されたのかを、随時考えていく手法です。そして、「光と闇」や「驕り」など、読み解く上で安田さんがあげるキーワードが、また魅力的なのです。

私にとってちょっと驚きだったのは、「平家」を戦国武将たちも聞いていたという点でした。それはあまり想像したことがなかった。そういう場では、「平家」はどういう役割をもって、どう受け止められていたのか。それを考えると、文学を介して歴史がつながっていくおもしろさも実感できるのでした。

放送では安田さんは何度も「声に出して読むのが面白い」とおっしゃっていましたが、同感です。というか、どこかで安田さんの朗読による「平家物語」全文を出してくれないでしょうか。抜粋でもいいから・・・。

2019年8月24日 (土)

かわたれどき

2938「かわたれどき」 畠中恵   文藝春秋   ★★★★

神田町名主の跡取り息子・麻之助は評判のお気楽者。とはいえ、近頃はいろいろな困りごとが持ち込まれ、のんびりと猫と日向ぼっこもできない始末。今日も今日とて、いきなりやってきた娘さんが「結納の前にお顔を拝見したくて・・・」と。身に覚えのない麻之助は困惑するが、これが厄介な事件のとば口で・・・。

 

「まんまこと」シリーズも第7作。ずいぶん長いこと続いてますね。麻之助の身辺もいつも以上に慌しく、さらに大きな変化も訪れそうで・・・。最近は、麻之助の親友の清十郎や吉五郎に焦点があたっていましたが、ようやく真打登場といったところ。それにしても、世の中はままならない・・・。

「きみならずして」「まちがい探し」「麻之助が捕まった」「はたらきもの」「娘四人」「かわたれどき」の6話。冒頭で、麻之助の亡き妻・お寿々によく似たおこ乃が縁付いて江戸を去ってしまいます。なんとも言えない気持ちにさせられましたが、それが皮切りだったかのように、麻之助に次から次へと縁談が。やもめの麻之助を案じる皆の気持ちは、本人もじゅうじゅうわかっていて。さらに、名主の仕事上、やはり妻が居てくれた方がいいわけで。それでも、お寿々を失った傷が簡単に癒えるわけもなく。大切な人を突然失う怖さを忘れられない麻之助に、こちらも思わず涙が・・・。

それでも、ときぐすりが効いて、少しずつ、自然に、麻之助の心も動きだすのですね。なんだか、素直に「よかったなあ」と思えました。まあ、いろいろ大変そうだけど(笑)

描かれる事件も、決して気持ちのいいものではないし、大団円、100%のハッピーエンドとはいかないのだけど。そういう苦さも抱えつつ、人の暮らしは続いていくのだよねえ・・・と、しみじみ思うのでした。

2019年8月21日 (水)

コシノ洋装店ものがたり

2937「コシノ洋装店ものがたり」 小篠綾子   講談社+α文庫   ★★★★

世界的なファッションデザイナーであるコシノ三姉妹。彼女たちを育て上げた母親は、洋服黎明期に洋裁の世界に飛び込み、開拓してきた先駆者だった。岸和田でコシノ洋装店を営む小篠家のゴッド・マザーの人生とは。

 

去年、朝ドラレジェンドと言われる「カーネーション」の再放送を見て、衝撃を受けました。夕方の再放送枠だったので、不定期に放送されて、追いかけるのが大変でしたが、完走しました。視聴者にこんなに力をくれるドラマがあるのだと、見終えたときの感動と充実感は忘れられません。

で、モデルの小篠家に興味をもち、この本を探していたのですが、なかなか手に入らず。このたび、ようやく巡りあえました。

実話ベースで構成したことは知っていましたが、「え、これが実話だったの?」が続々と。びっくりしたのは、ヒロコさんとジュンコさんがバッグの取り合いをしたエピソードが実話だったことです。ひゃあ~。ドラマのあのシーンもよくおぼえています。ほかにも、「ああ、これがこうなってドラマでああいうふうに活かされて・・・」なんて、感慨にふけりながら読みました。

綾子さんの生き方は、なんんというか潔い。ただタフなだけでなく、偉ぶったりせず、きちんと地に足を着けて生きている。命があるんだから、今日もまたごはんを食べて、仕事をして、暮らしていくんだという、ごくごく普通の「生活」が身についていらっしゃる。変に悲劇のヒロインぶったりしない。それが、とても気持ちいいのです。

もしかしたら、「カーネーション」を見る前だったら、私は綾子さんが苦手だったかもしれませんが・・・。でも、今はその生き方が、なんだか腑に落ちるのでした。

2019年8月20日 (火)

え、なんでまた?

2936「え、なんでまた?」 宮藤官九郎   文藝春秋   ★★★

「宮藤官九郎がTV、舞台、音楽、日常、映画、地元で耳にした名セリフ&迷セリフ80個!!」(帯より)

 

「いだてん」にガッツリはまっております。BSで見て、本放送を見て、録画したのを何度も見て・・・と、我ながら呆れるほどのはまりっぷり。もともと「はまるとトコトン」のオタク体質ではありますが、1月からずっとこのテンションを維持してるのってすごいよなあ・・・と。

脚本家クドカンを認識したのは「木更津キャッツアイ」でした。が、あのときは「ずいぶんマニアックでめんどくさい構成のドラマだなあ」という印象で、正直、ついていけませんでした。私が覚醒したのは「あまちゃん」なのですが、その後もクドカン信者になるほどでもなく。ただ、去年の「監獄のお姫様」がめちゃくちゃ良くて。好きな女優さんがいっぱい出る~、じゃ見ようかな~と軽い気持ちで見て、あまりの面白さにビックリ。さらに、調べてみたらクドカンって映画「ピンポン」の脚本も書いてたの? あの名作の?(原作にほれこんでる私ですが、映画は映画でとっても良い!) うわあ、知らなかった~。

そして、現在の「いだてん」に至るわけです。とにかく、「なんでこんなの書けるの?」「いったいどういう人なの?」という興味がわいてきまして。とりあえず、図書館にあったエッセイ本を借りてきました。

ちょうど2011年の震災前後や、「あまちゃん」を書き始めた頃の話が多くて、読んでいても感慨深いものがありました。

それはそれとして、なんというか、クドカンってすごく真っ当な人だなあ、と。才能がある点で普通の人ではないのですが、感覚がすごく普通の人。偉ぶらないし、バカなこと言うし、娘さんがかわいくて仕方ないし。すごく普通の人。なんだか、ホッとしました。普通の人が、真っ当な感覚で書いてるのが、あの「いだてん」なんだなあ。すごく納得してしまいました。

「いだてん」を見ていて気持ちいいのは、基本的に他者への敬意があるというか、他者を蔑む視線が感じられないのですよね。マウントとらない。自分のプライド保つために、他者を見下すような言動が世にはびこっていて、それにうんざりしているので、「いだてん」のあの感覚にはホッとするんです。それは、クドカンの感覚なんだなあと確認しました。

ところで、視聴率について書いている項があり、なんとも複雑な気分になりました。そうなんだよねえ、視聴率が全てではないんだけれど、作り手としてはいい作品はたくさんの人に見てほしいんだよねえ・・・。

 

2019年8月19日 (月)

欲望の名画

2935「欲望の名画」 中野京子   文春新書   ★★★

愛欲、知的欲求、生存本能、物欲、権力欲・・・名画に描きこまれた人間の欲望の姿とは。

 

中野先生の絵画に関する本はずっと読んでいるので、「あ、またこの絵が出てきた」というのも珍しくないのですが、何度見てもおもしろいのだから良しとします。また、今まで知らなかった作品もあり、絵画の世界も底知れないなあと思ったり。

今回は、初めに絵画の一部分を「窓から覗くような形で拡大掲載」しているところがおもしろい。何じゃこれ?というのもあるのですが、それがどこにどう配置されているのかを探す楽しみもあります。

今回は、クリムトの「ベートーヴェン・フリーズ」がインパクトありました。

説明が少なめなので、ちょっと物足りなさはありますが、そのぶんとっつきやすさはあるかも。

2019年8月16日 (金)

金剛の塔

2934「金剛の塔」 木下昌輝   徳間書店   ★★★

大阪・四天王寺の五重塔。今はコンクリート製だが、かつては木造の塔だった。度重なる天災や戦災で倒壊・焼失するたびに、再建してきた五重塔。そこには、塔に命をかけた職人たちがいた。

 

木下さんの歴史ものは、着眼点というか、物語をつくるにあたっての発想力が実に面白い。五重塔にフォーカスを当てて、どのようにして巨大建造物をつくりあげるのかを描くことで、その時代背景や、人々の生き様をあぶりだしていく構成はなかなかでした。

描かれるのは、安土桃山、平安のはじめ、江戸の終わり、平安の半ば、江戸のはじめ、そして聖徳太子の御世。時代を行ったり来たりしながら、日本独自の形式の五重塔がどうやってつくられ、継承されてきたのかが語られていきます。

時代が異なれば価値観も変わり、造寺に携わる職人たちも個性はさまざまなのですが、高度な技術を受け継ぎ、後の世まで残るものをつくろうとする思いの強さは共通していて。技術と思いと。その両輪がなければ、あれだけのものはつくれないのだと思い知りました。

特に、日本で最初に五重塔を建てた、百済から来た三人の寺造工(てらつくるのみこと)たちの苦労が心に残っています。気候や環境の違いの中で、強度もあり、美しい塔を作り出す苦労たるや。

四天王寺は残念ながら行ったことがないのですが、法隆寺や東寺の五重塔にほけ~っと見とれたことはあります。でも、それを造った匠たちのことまでは考えたことがなかったなあ。

2019年8月14日 (水)

シーソーモンスター

2933「シーソーモンスター」 伊坂幸太郎   中央公論新社   ★★★★

バブル経済華やかなりし頃。医薬品メーカーの営業の北山直人は悩んでいた。妻の宮子と、同居し始めた母との折り合いが悪すぎるのだ。まるで天敵どうしのように。板ばさみになって悩む直人だが、職場で思わぬトラブルに巻き込まれてしまい・・・。

 

「螺旋プロジェクト」というのですね。古代から未来までの時代を、8組9名の作家で書き継ぐという競作企画。海族と山族の対立という大まかな設定はあるのだけれど、基本的には独立した物語。伊坂さんが担当したのは、昭和後期の「シーソーモンスター」と、近未来(2030年~2050年)の「スピンモンスター」。

いつも、伊坂さんの作品を読むと、泣きたくなるのです。私たちが抱えている「どうしようもなさ」みたいなものに直面させられて。それでもあがく登場人物がしんどくて。でも、読み進むにつれて、それがいとしくなってきて。うまく言葉にならなくて、涙が出てくるのです。

「シーソーモンスター」は、まさにその時代を体感している世代なので、「わかるわかる」の連続でした。直人と宮子は、私よりもちょっと年上なのでしょうけれど、感覚としてはすごくわかる。そして、宮子と、姑のセツのバトルがとんでもなく最高でした。最強の嫁姑コンビですね。

「スピンモンスター」は、読んでいて本当に苦しかったです。近未来の話だけれど、夢物語だとは思えない。こうなっても全然おかしくない気がする。その怖さ。特に、情報がアナログ化していくのはあり得ると個人的には思っているので。主人公の水戸直正と檜山影虎が、自動運転車の事故で家族を失うという設定もしんどすぎて・・・。

ほんとうに、宮子さんとセツさんの設定がなかったら、しんどすぎて読めなかったのではないか、と。それだけ、未来に不安を感じているということですね。

人はなぜ争うのか。何度も提示されるテーマに、伊坂さんが示す「答え」はある意味正しいのかもしれません。それでも、人と争うのはやはりつらいなあ・・・と、これを読んでしみじみ思っていました。

2019年8月12日 (月)

少年ゲリラ兵の告白

2932「少年ゲリラ兵の告白」 NHKスペシャル取材班   新潮文庫   ★★★★

太平洋戦争末期、沖縄戦でゲリラ作戦が展開されていた。兵士として動員されたのは、本来なら徴兵されない年齢の十代の少年たち。「護郷隊」という名で編成されたゲリラ隊で、少年たちは故郷を焼き、友の死を目の当たりにする。

 

いったいどれだけの「真実」が闇に葬られてきたのか。そんな思いで茫然としました。

沖縄戦の渦中、北部のやんばるでゲリラ戦に駆り出された少年たち。凄惨な記憶のため、生き延びた人たちも多くを語ろうとしなかった「護郷隊」の記録と記憶に迫ったドキュメンタリーです。実際に徴兵されて、ゲリラ戦に従事させられた「少年兵」たちの言葉は、ひたすら重いです。戦場では恐怖や悲しみも感じなくなってしまう。そんな心持ちになったことが耐え難いのだという。戦場の非人間性は、決して他人事ではないのです。

それ以上に怖かったのは・・・。

この作戦は陸軍中野学校が主導したものでした(中野学校では、ゲリラ戦の研究と実践も行っていた)。沖縄本島では、実際に北部でゲリラ戦を行ったわけですが、離島でも同様の計画があり、中野学校の卒業生が各島へ送り込まれていたというのです。しかも、正体を隠し、「学校の先生」として(これには、行政側の協力もあり、正式な辞令を受けていた。本当に教員免許をもっている人たちもいた)。ある島では、その「先生」は非常に慕われ、島の人脈にも食い込み、いざとなったら島民総動員で島を護ろう!と、意気が上がっていた、とも。

小説のなかの出来事のようでいて、本当にあったことです。そんなふうに、誰も気づかぬうちに我々の意識がコントロールされてしまう。それが現実にあったことなのだというのを、こんなにリアルに感じたのは初めてでした。その「先生」が戦後どうしたのかも、今回初めてわかったようです。それにも愕然とさせられました。なんというか・・・その人もまた苦しんだのだろうとは思うけれど・・・。教壇に立っていた私としては、受け入れがたいものがありました。

そして、さらに衝撃的だったのは、これは沖縄だけの話ではないのだろうということ。おそらく、本土でも同じことを展開しようとしていたのだ、と。大人・子供・男女の区別なく、国民すべて戦争の「駒」として使おうとしていた人たちがいたのではないかということ。それは、鳥肌が立つほどの恐怖でした。

かつて護郷隊として戦場の修羅場に放り込まれた少年たちは、穏やかな顔の沖縄のおじいになっています。そんな彼らは、今でも当時のことを思い出してしまうと、眠れなくなるのだそうです。人に一生そんなものを背負わせるのが、戦争なのです。

2019年8月10日 (土)

偽りの春

2931「偽りの春」 降田天   角川書店   ★★★★

詐欺グループの仲間が現金をもって逃亡した。グループのリーダーである光代のもとには脅迫状が。アパートの隣室の親子に情が移った光代は、今の生活を守るために、ある手段をとることを決意。無事に実行したと思った矢先、交番の「おまわりさん」に声をかけられ・・・。

 

第71回日本推理作家協会賞受賞の「偽りの春」を表題作にした連作短編ミステリ。副題に「神倉駅前交番 狩野雷太の推理」とある通り、かつて捜査一課にいた狩野が、ある事件をきっかけに交番勤務になり・・・という設定。かつて「落としの狩野」と呼ばれた刑事は、飄々とした風情で、犯罪者の心のすき間に入り込んでしまうのです。「鎖された赤」「偽りの春」「名前のない薔薇」「見知らぬ親友」「サロメの遺言」の五話。

受賞作の「偽りの春」が良かったので、期待して読みました。読者の読みの裏をかいていく展開の連続ですが、単なる着想の面白さにとどまらないのが、やはり狩野と、その部下の月岡みっちゃんの存在ですかね。食えない感じでとんでもなく鋭い狩野。常に冷静沈着で、狩野も一目おく「目」をもつみっちゃん。ベタな設定のようでいて、この二人の存在感が物語の中で実によく効いてくるのです。そして、狩野に何があったのかがラストできちんと明かされたのもよかったです。

執筆担当とプロット担当の二人によるユニットとのことですが、そういうの聞くと、エラリー・クイーンとか岡嶋二人とか思い出してニヤニヤしてしまいます。今後しばらく注目したい作家さんです。

 

2019年8月 7日 (水)

戦国24時 さいごの刻

2930「戦国24時 さいごの刻」 木下昌輝   光文社   ★★★

歴史の鍵を握る人物の一大事までの「最後の24時間」を描く。「お拾い様」(豊臣秀頼)、「子よ、剽悍なれ」(伊達政宗)、「桶狭間の幽霊」(今川義元)、「山本勘助の正体」(武田信玄)、「公方様の一ノ太刀」(足利義輝)、「さいごの一日」(徳川家康)の6編。

発想の面白さというか、歴史上の有名人の人生をどう切り取って見せるかという短編集だと思うのですが。「ほほう、こう来ましたか」という感じで読みました。

冒頭の「お拾い様」のラストは「うお!」となりました。それは、今まで見たことがない設定(少なくとも私は知らない)。

それから、足利義輝という人物には興味があるので、その人を主人公にしたのは興味深く読みました。伝家の宝刀を床に突き立て、それを次から次へと手にとって敵と戦う足利将軍って、絵になりますよね。作者もまさにその場面を描きたかったのだろうな、と。

 

 

2019年8月 3日 (土)

承久の乱

2929「承久の乱」 坂井孝一   中公新書   ★★★★

高知・松山・広島をめぐる旅に出ていたのですが、その旅のお供がこれでした。理由は特にない(笑) まあ、ずっと積読してたので。

副題は「真の『武者の世』を告げる大乱」。たしかに論考はここに集約されるのですが、それまでもっていた「承久の乱の意味」「後鳥羽上皇像」「源実朝像」というものが、けっこうガラガラ崩されました。

実は、鎌倉将軍は三代実朝までが私の限界で、その後の摂家将軍とかになると「??」だったのですが、そういうことだったのですね。そして、後鳥羽上皇という人は、なんとも破格の天皇だったようで。その原点にあるのは、「三種の神器の消失」「前帝からの譲位がない」という異常事態だったというのが、なんとも言えず。

院政の開始から語られるので、そこから?と思ったのですが、確かにそこがわかっていないと理解できない点が多々ありました。また、文化的な側面を詳しく説明されていて、これもけっこう目からウロコでした。その必然性や、後鳥羽の「巨人」たる所以がよくわかりました。

承久の乱は、倒幕・討幕ではなかったという論には説得力があり、それが失敗した過程も実によくわかります。そして、それが思わぬ形で歴史の大転換点になっていくという・・・。

あまり得意な時代ではないので、人名が交錯したりしてやや混乱しましたが、それでもこの類の新書としてはわかりやすく、おもしろかったです。

そして、巻末の主要参考文献に思わず「おおぅ」となりました。いや、歴史に関するものを書こうと思ったら、普通こうなるよねえ。

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