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2019年11月

2019年11月27日 (水)

決戦!賤ヶ岳

2974「決戦!賤ヶ岳」  天野純希・他      講談社      ★★★

賤ヶ岳七本槍の七人を主人公にした「決戦!」シリーズ第七弾。

木下昌輝「槍よ、愚直なれ」、簑輪諒「糟屋助右衛門の武功」、吉永永青「しつこい男」、土橋章宏「器」、矢野隆「ひとしずく」、乾緑郞「権平の推理」、天野純希「孫六の刀」

以前読んだ、今村翔吾「八本目の槍」が、七本槍たちを主人公にしたものだったので、読み比べてみよう、と。書き手が変われば、どう変わるのか。

個々の性格は、書き手の解釈によって変わるのは当然…と思いきや、虎之助(加藤清正)と市松(福島正則)のキャラは誰が書いてもあまりぶれないのに笑ってしまいました。それだけ定着しているということでしょうか。

むしろ、その二人以外を描いた物語の方が、羽柴家の脆さが浮き彫りになってきて、のちに豊臣政権が崩壊する理由がわかる気がします。

また、歴史ものは「史実」があるわけで。その何を拾いあげて、また史実の空白をどう補うのか…それぞれの書き手の意識が感じられるところかもしれません。

2019年11月25日 (月)

遠い他国でひょんと死ぬるや

2973「遠い他国でひょんと死ぬるや」 宮内悠介   祥伝社   ★★★★

テレビディレクターの須藤は、職をなげうってフィリピンを訪れる。以前から心惹かれていた詩人・竹内浩三の最期の地で、彼が書いていたであろう三冊目のノートを探すために。しかし、なぜか西洋人の男女に襲撃され、そこを山岳民族の娘・ナイマに救われる。日本人に対して複雑な感情を抱くナイマと共に、ミダナオ島に赴くことになった須藤は、そこで思わぬ事態に直面する。

 

   戦死やあわれ
   兵隊の死ぬるやあわれ
   遠い他国で ひょんと死ぬるや

私がおぼえているのはここだけで、誰の何という詩なのかも覚えていませんでした。竹内浩三。フィリピンで戦死した(らしい)彼の足跡を追って、フィリピンに渡った男・須藤がこの物語の主人公です。

「ひょん」という表現のもつ独特な感じが実に印象的で。軽妙ですらあるこの言葉で形容される「戦死」の、無機質的な無意味さが、じんわりと胸に残るのです。そうして、自分自身も「ひょんと」死んだであろう竹内浩三が残したかもしれないノート。不本意な番組作りしかできないディレクターの須藤は、自分の中の空虚な部分を埋めるかのように、仕事を辞め、単身フィリピンへ。

しかし、思わぬ展開で竹内浩三の世界からは離れ、現代のフィリピンが抱える矛盾の只中へ。まるでハリウッド映画のような展開を見せるのですが・・・。

須藤の抱えている「空虚」は、たぶん、ある世代以上の日本人には身に覚えのある感覚なのではないかと。ただ、そこを見つめ続けるのではなく、日常のあれこれに忙殺されて、忘れてしまっているだけで。須藤みたいなタイプは、社会では間違いなく浮くでしょう。しかし、それを恐れて私たちが目を背けているものは何なのか。目を背けていることで、私たちは何かを失っていくのかもしれません。

それにしても。これを読んで、宮内さん攻めてるなー・・・なんて思うことじたいが、もはや今の日本の「表現」の世界が窮屈になってしまっている証拠ですね。

2019年11月21日 (木)

ザ・ベストミステリーズ2017

2972「ザ・ベストミステリーズ2017」 日本推理作家協会・編   講談社   ★★★★

薬丸岳「黄昏」(日本推理作家協会賞短編部門受賞作)、池田久輝「影」、井上真偽「言の葉の子ら」、歌野晶午「陰獣幻戯」、大崎梢「都忘れの理由」、今野敏「みぎわ」、白河三兎「旅は道連れ世は情け」、曽根圭介「留守番」、似鳥鶏「鼠でも天才でもなく」、南杏子「ロングターム・サバイバー」、若竹七海「きれいごとじゃない」

 

「十二国記」の後遺症で、長編を読む気力がなく・・・。こういうときは、短編ミステリがちょうどいいです。

今回もなかなかの読み応えでした。薬丸岳「黄昏」や、大崎梢「都忘れの理由」は、派手さはないけれどいい話だったし、井上真偽「言の葉の子ら」と白河三兎「旅は道連れ~」は、最後に「うわっ!」となりました(苦笑)

今野敏「みぎわ」は警察小説ですが、最近こういうのを読んでなかったので、新鮮でした。

南杏子さんは初読みでした。余命宣告された大学病院の名誉教授は、一切の治療を拒否。しかし、ある日から彼は生命維持に必要な措置を希望し、弱った体であちこちに出かけていくように。教授が出かける目的は。かたくなに治療を拒んでいた彼の気持ちを変えたものとは。終末期医療に携わる医師でもある著者が描く「真実」には思わず涙が・・・。

そして、ラストの若竹七海には、またしても頭をぐわんと殴られたような衝撃を受けました。さすが、です。まさかそこに着地するとは思いませんでした。

2019年11月17日 (日)

お茶をどうぞ 対談 向田邦子と16人

2971「お茶をどうぞ 対談 向田邦子と16人」 向田邦子   ★★★

向田邦子さんが生きていれば90歳、だそうです。

最近、NHKBSで、向田邦子関連の番組の再放送をしています。先日、「阿修羅のごとく」を見たら、すごくおもしろくて。実は、向田さんの小説を、学生時代にバスの中で読んでいたら具合が悪くなったことがあって(苦笑) バスに酔ったのと、向田作品の毒みたいなものにあてられたのでしょう。随筆はいいけれど、小説は怖い・・・というのが、私の向田邦子のイメージ。でも、自分が年をとってきたせいか、向田邦子のおもしろさが少しはわかるようになってきた・・・かな?

さて、この本は対談集。「徹子の部屋」をはじめとして、さまざまな媒体で発表された対談をまとめたもの。向田さんの口調を思い出しながら読みました。

おもしろかったのは、脚本家どうしの対談。向田邦子・橋田壽賀子・山田太一・倉本聰というラインナップ、すごくないですか? なんというか、すごく話がかみあわなさそうで(笑)

こうしてみると、本当に若くして亡くなられたのですねえ。

もし向田さんがご存命であったなら、今の世の中のあれこれに対して、どんなふうにおっしゃったのだろうな・・・と、ふと思いました。

2019年11月14日 (木)

白銀の墟 玄の月 (四)

2970「白銀の墟 玄の月 (四)」 小野不由美   新潮文庫   ★★★★★

止まっていた戴国の時は動き出した。阿選は即位を決意したが、泰麒は計略を見抜かれ、窮地に陥る。一方、函養山に王師が派兵されたと知り、李斎たちは動揺する。函養山を事実上支配している土匪の朽桟たちを助けようと駆けつけた李斎たちは、そこで意外な人物と邂逅する。しかし、阿選がついに強権を発動し、李斎たちはその兵力を大きく減じてしまう。戴国を、民を、王を救いたい。泰麒たちの願いはかなうのか。

 

いやもう、感情をぐわんぐわん揺さぶられて、大変でした(苦笑)

そりゃ、泣くでしょ・・・という場面が何度もあって。さらに、ここまできて、いよいよ!と思ったら、えええ!?という展開になるし。これ以上泰麒や李斎を苦しめないでください、主上・・・と。ただ、ピースが一つ余っているのはわかっているので、きっとそれが最後の最後の切り札になるに違いない、大丈夫だ、と自分に言い聞かせながら読んでました・・・。

まず、泰麒のこと。麒麟といえば慈悲、なわけですが、泰麒はそんなものを超越してしまいました。というか、そうしなければ国を、民を、王を救えないから、命がけでそうしているわけですが。とは言え、クライマックスでの行動には驚愕しました。そこにあるのは、麒麟としての使命感だけでなく、蓬莱で失われた命への思い。「麒麟は自分が手を下さないだけで、使令に殺生をさせている」という意味のことが、三巻で書かれていましたが、泰麒はその欺瞞に向き合ったということでしょうか。それにしても、彼の生き方はあまりに過酷です。幼いころの、無邪気でかわいい「ちび」泰麒のことを、何度も何度も思い出しました。もうあの頃には二度と戻れないところまできてしまった泰麒。きっと、これからも楽な道は歩めないのでしょうね。

そして、今回ずっと描かれていたのは、兵士たちの生き様でした。「野垂れ死にしてそのまんま あとは烏が食らうだけ」・・・繰り返し歌われる俗謡の歌詞の通り、戦場に散っていった兵士たちのなんと多いことか。国を守れ、民を守れというけれど、それが彼らにどれだけのことを強いているのか。李斎をはじめ、さまざまな立場・階級の兵士たちが数多く描かれた今回。もちろん、彼らの多くは、己の役割に誇りをもっているわけですが・・・。

どうにかこうにか、戴国はあるべきところにたどりついたようです。しかし、その過程で失った人々のなんと多いことか。どれだけいい人でも、どれだけ読者が愛着を抱いた人物でも、あっさり死んでしまう。ご都合主義の物語であれば、人気の高い(と思われる)登場人物は生き延びるのでしょうけれど、「十二国記」の世界はそんなことは許してくれないので。それが、この一国の混乱がもたらしたものの大きさを、我々につきつけてくるような気がします。

戴国の混乱は収まったようですが、「十二国記」の世界はまだまだわからないことだらけです。今回も、読み終えてまた一巻に戻って確認したいことが山のように・・・(それをやると、生活に支障が出るので、またの機会に)。

以上、「白銀の墟 玄の月」全四巻を読み終えての感想ですが、これから読まれる方も多いだろうと推測し、ネタバレを避けたため、ちょっと不十分なものになっています。

 

 

2019年11月12日 (火)

白銀の墟 玄の月 (三)

2969「白銀の墟 玄の月 (三)」 小野不由美   新潮文庫   ★★★★

李斎たちは、驍宗と思しき男が亡くなった里にたどり着く。一方、泰麒は自らがお墨付きを与えたにも関わらず、新王として即位しようとしない阿選にとまどっていた。厳しい冬を迎え、ますます困窮する戴の民を救うことはできるのか。

 

なぜ、阿選は驍宗を襲撃させたのか。なぜ、驍宗の足取りは全くたどれないのか。・・・戴国の混乱の元が、ようやく解き明かされます。

阿選の陥った心理は、わからないでもないのです。誰でも、大なり小なり感じたことはあるでしょう。ただ、彼のとった行動によって多くの人々が命を落としたし、一番苦しんだのは、阿選たちが庇護しなければならない民でした。その一点においても、やはり阿選は許されない。為政者側にある者が、自分の視点でしか物事を見られなくなるというのは、これだけ国を荒らすわけです。それを思うと、苦々しい気持ちになります。

それにしても、今まで、「この場面にどういう意味があるのだろう」と思いながら読んでいたのが、実は重要な意味をもっていた!と気づいた瞬間、鳥肌がたちました。川に流すお供えは、そういう・・・。

そして、今回思わず泣いてしまったのは、泰麒が蓬莱でのことを思い出し、「・・・・・先生」とつぶやく場面です。「魔性の子」で描かれた部分ですが、私は初読のとき「十二国記」を知らず、教生の広瀬目線で読んでしまって、最後に高里が去ってしまって取り残された広瀬とともに絶望したものでした(苦笑) ただ、今回の場面で、広瀬は蓬莱において、少なからず泰麒の救いであったのだとわかり、心底ホッとしました。そして、あの過酷な体験・・・あれだけの人々の死を、無駄にしないために、泰麒は死力を尽くしているのだとわかり・・・。

さて、驍宗の部下たちや李斎の部下たちも登場し、いよいよクライマックスに! 次は最終巻です。

 

 

2019年11月11日 (月)

探偵は教室にいない

2968「探偵は教室にいない」  川澄浩平      東京創元社      ★★★★

ウミこと海砂真史は、バスケ部所属の女子中学生。ある日、差出人不明のラブレターが机に入っていた。いったい誰が? 困惑した真史は、頭の切れる幼なじみ・鳥飼歩に連絡をとる。子供の頃以来会っていなかった歩は、一風変わった少年になっていて…。


鮎川哲也賞受賞作。なぜか読みそびれていました。

北海道の中学生が主人公の日常の謎系ミステリ。しかも、連作短編。と聞くと、いかにも鮎川賞っぽいですが、審査員に北村薫さんと加納朋子さんという、そのジャンルの書き手が二人もいるため、かえってハードルは高いとのこと( 選評より)。それでも、審査員全員一致での受賞ということで、大いに期待して読みました。

第一話では、正直、「こんなものか…」と。ただ、読み進めるにつれて、ウミや友人のエナ、バスケ部仲間の総士、京介、そして探偵役の歩たちが、とってもかわいく思えてきて。読み終えたときには、「また彼らに会いたいなあ」と、思ってしまったのでした。

日常の謎なので、派手な事件とは無縁ですが、それぞれの謎が、なかなか手強いです(第一話以外は・笑)

それから、北海道が舞台というのが効いてます。第三話「バースデイ」で、ウミたちは海に行くのですが、11月の余市の海! なんて無謀な…と笑ってしまいましたよ。


2019年11月 8日 (金)

20CONTACTS 消えない星々との短い接触

2967「20CONTACTS  消えない星々との短い接触」 原田マハ   幻冬舎   ★★★

作家・原田マハが、故人となったアーティストたち(ここでは、「星々」と呼ぶ)に、ごく短い時間コンタクトし、それをもとに掌編を書く。手土産必携、質問は二つまで。20人の星たちは、何を語り、何を見せてくれるのか。

 

2019年9月、清水寺で行われた展覧会(!)「CONTACT つなぐ・むすぶ 日本と世界のアート」と連動した企画もの。その展覧会については、本書を読めばわかるので省略しますが、とにかく参加アーティストのラインナップがすごい。

猪熊玄一郎、ポール・セザンヌ、ルーシー・リー、黒澤明、アルベルト・ジャコメッティ、アンリ・マティス、川端康成、司馬江漢、シャルロット・ペリアン、バーナード・リーチ、濱田庄司、河井寛次郎、棟方志功、手塚治虫、オーブリー・ビアズリー、ヨーゼフ・ボイス、小津安二郎、東山魁夷、宮沢賢治、フィンセント・ファン・ゴッホ

さらに、加藤泉、ゲルハルト・リヒター、ミヒャエル・ボレマンス、三嶋りつ恵、三島喜美代、荒木悠、杉本博司、森村泰昌、山田洋次、竹宮惠子という、現役アーティストたちも。

このラインナップを見ただけで、自分の「アート」の概念がいかに狭いものであるかを思い知らされるわけなのですが。この展覧会を企画した原田さんが、さらにそれと小説とをコラボした企画なのです。

20人の「星々」とコンタクトする原田さんは、エッセイでの素の顔を見せてくれます。静かな情熱をはらんだ緊張感が持ち味のアート小説しか読んだことのない方は驚くかも(笑) でも、アートを愛し、アーティストへの愛と敬意に満ちた原田さんのまなざしは、きっと心地よいはずです。

 

 

2019年11月 7日 (木)

逃亡小説集

2966「逃亡小説集」 吉田修一   角川書店   ★★★★

職を失い、老いた母と暮らす男。元教え子との恋に落ちた教師。かつては一世を風靡した、堕ちたアイドル。郵便物とともに消えた郵便局員。・・・それぞれが「逃げる」物語。

 

「犯罪小説集」に継いで、「逃亡小説集」。

「逃げろ九州男児」「逃げろ純愛」「逃げろお嬢さん」「逃げろミスター・ポストマン」の4編。

いずれも主人公は何かに追い詰められて、あるいは閉塞した現状に息がつまりそうになって、「逃亡」してしまうわけですが。その追い詰められ方が、ものすごくリアルで、慨視感がある気がして・・・要するに「他人事」と思えなくて、しんどかったです。特に、冒頭の「逃げろ九州男児」。主人公の糸が切れてしまうまでの閉塞感が半端なくて。

最近、現実でも犯罪をおかして捕まっても逃げるパターンが多いです。逃げてどうすんねん!と突っ込んでしまいますが、この物語でも逃亡者たちは、逃げても何の未来も開けません。むしろ、逃げることで、状況は格段に悪くなる。それなのに逃げてしまう人間の心理って何なんだろう・・・というか、私たちのどこかにも「逃げたい」気持ちは確実にあって。共感したり、反発したりしながら、この逃避行にひきつけられてしまうのでしょう。

ちなみに、この物語の逃げる人々は、全然かっこよくないし、逃げることで何かが解決するわけでもありません。もう、どうしようもない。でも、どうしようもない人間を描かせたら、吉田修一は凄みがあるんです。

2019年11月 3日 (日)

濱地健三郎の霊なる事件簿

2965「濱地健三郎の霊(くしび)なる事件簿」 有栖川有栖   角川書店   ★★★

探偵事務所を営む濱地健三郎のもとにやってくる依頼人は、奇妙な現象に悩まされたあげく、藁にもすがる思いでここにたどり着く。助手の志摩ユリエと共に、霊に関わる事件を解決に導く濱地の肩書きは「心霊探偵」。

 

先日読んだアンソロジー「ベストミステリー2019」に収録されていた心霊探偵もの。刊行されていたのですね。図書館で見つけて借りてきました。

「見知らぬ女」「黒々とした孔」「気味の悪い家」「あの日を境に」「分身とアリバイ」「霧氷館の亡霊」「不安な寄り道」の7編。

『幽』連載だけあって、霊がしっかり登場するし(笑) 本格ミステリとオカルトの取り合わせってどうよ?と思うのですが、アンフェアはありません。きっちり、ミステリです。そして、霊も出てきます。一話ごとの着想というか、実におもしろいのです。

一番おもしろかったのは、「あの日を境に」かな。彼氏の態度が急に冷たくなってしまって、会ってくれない。思い当たることは何もない彼女。一方、彼氏も彼女を好きなのに、会おうとすると急に体調と気分が悪くなってしまうことに困り果てていた。はたして、二人に何があったのか。

「霧氷館の亡霊」もなかなかおもしろい設定でした。怖かったのは「不安な寄り道」。いや、これ、本当に遭遇したら怖いって・・・。

一風変わった趣向のミステリを楽しみたい方にはおすすめです。

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