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2019年12月

2019年12月31日 (火)

八つ墓村

2986「八つ墓村  横溝正史自選全集3」  横溝正史       出版芸術社      ★★★

分限者・田治見家の相続人として見出だされた辰弥は、同時にその村で起こったという凄惨な大量殺戮事件のことを知らされる。かつて落武者たちを惨殺した八つ墓村に帰った辰弥は、不可思議な連続殺人事件に巻き込まれてしまう。


BSプレミアムでドラマ化されたのが、なかなかよかったのですが(金田一耕助は吉岡秀隆)、典子って誰?ということで、原作を読んでみました。

典子!すごい存在感!というか、この物語で唯一の救いというか。…映画では、これがカットされて、その代わり美也子の出番が増えたのですね。たしかに、原作では終盤は美也子がほとんど姿を見せなくなっていました。

「典子がいると話が複雑になる」という意見をどこかで読みましたが…そうなんでしょうか。私としては典子の存在に救われましたけど。

そして、映像化作品ではイマイチ理解できなかった人間関係も、活字で読んだら納得しました。

というわけで、これが2019年の読み納め。

2019年12月28日 (土)

2019年マイベスト

①  「白銀の墟  玄の月」  小野不由美  (新潮文庫)

②  「戦争は女の顔をしていない」  スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ  (岩波現代文庫)

③  「夢見る帝国図書館」  中島京子  (文藝春秋)

④  「鹿の王  水底の橋」  上橋菜穂子  (角川書店)

⑤ 「宝島」  真藤順丈  (講談社)

⑥  「三ノ池植物園標本室」  ほしおさなえ  (ちくま文庫)

⑦ 「いつかの岸辺に跳ねていく」  加納朋子  (幻冬舎)

⑧ 「熱帯」  森見登美彦  (文藝春秋)

⑨  「化物蝋燭」  木内昇  (朝日新聞出版)

⑩  「黒武御神火御殿」  宮部みゆき  (毎日新聞出版)


いつものことながら、悩みに悩んで、こういうラインナップになりました。

第1位は当然これでしょ!という感じ。待った時間の長さと、その長さの分の期待を全く裏切らない密度の濃い物語でした。

今年は外国文学をあまり読めなかったのが痛恨事。しかし、第2位はものすごい破壊力がありました。ノーベル賞を受賞した「チェルノブイリの祈り」もすごいです(「すごい」という感想は忌避してきましたが、ほかに言葉が見つからない)。また、ランクインしなかったけど、「82年生まれ、キム・ジヨン」もすごかったです。日本だけじゃないんだ!と。女性には一度読んでほしい一冊。それから、コニー・ウィリス「クロストーク」は面白かった!

ほかに印象に残ったのは、以下の通り。

ケイト・モートン「秘密」     吉田修一「犯罪小説集」「続 横道世之介」    米澤穂信「本と鍵の季節」    伊坂幸太郎「フーガはユーガ」「シーソーモンスター」「クジラアタマの王様」    佐川光晴「駒音高く」    奥泉光「雪の階」    大島真寿美 「渦  妹背山婦女庭訓   魂結び」    今村昌弘「魔眼の匣の殺人」    森谷明子「南風吹く」    上橋菜穂子「風と行く者」    村上しいこ「うたうとは小さないのちひろいあげ」    原田マハ「美しき愚か者たちのタブロー」    木内昇「よこまち余話」    恩田陸「祝祭と予感」    宮部みゆき「さよならの儀式」    額賀澪「競歩王」    伊吹亜門「刀と傘」    若竹七海「不穏な眠り」      

それから、鴻巣友季子「謎とき『風と共に去りぬ』」(新潮選書)は、なかなかスリリングな一冊でした。これに触発されて「風共」を読みはじめたものの、途中で止まっています。来年の課題図書だなあ。

2018年に比べると、今年はだいぶ本を読めたのですが、歳のせいか集中力が続かない…。でも、コツコツ読んでいきます!

2019年は、出版業界でもいろいろな出来事があり、一読者にすぎない私も、「は?何それ?」と思うことが一度ならずありました。一生懸命書いている作家さんや、いい本を作ろうと頑張っている編集さんがいる限り、出版社への期待と信頼を捨てたくはないのですが。これからも動向は注視していこうと思います。

さて、今読みかけの本を年内に読みきれるかどうか…という年の瀬ですが、以上を持ちまして、2019年の読書のまとめといたします。今年もいい本といっぱい出会えて幸せでした。拙い感想を読んでくださった皆さま、コメントくださった皆さま、ありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。

2020年も、お互い素敵な本との出逢いがありますように。




2019年12月23日 (月)

神とさざなみの密室

2985「神とさざなみの密室」  市川憂人      新潮社      ★★★

政権打倒を叫ぶ若者の団体「コスモス」のメンバー・凛は、気づくと見知らぬ部屋に監禁されていた。監禁された記憶が全くない凛の前には、「コスモス」のリーダー・神崎とおぼしき死体が。隣の部屋から男が現れる。彼は、外国人排斥を主張する団体の一員・大輝だった。凛は自分を拘束したのは大輝かと疑うが…。


「ジェリーフィッシュは凍らない」で華々しくデビューした市川憂人。今回、初めてそのシリーズ以外の作品ということで、楽しみにしてました。

いやあ、しんどかった(苦笑)  モデルになっている登場人物や団体がわかりやすすぎて。いいのか、これ?と思うこともしばしば。特に第1章は、かなりしんどかった。誰にも共感できないし。

第2章以降、密室の謎解きになってからは、スイスイ読めました。拉致・監禁の謎。密室の謎。殺人犯は誰なのか。動機は? そして、探偵役の「ちりめん」とは誰なのか?  てんこ盛りの謎が、キレイに解き明かされていく過程は、快感でした。さすが、市川さん。ただし、これから読む方は騙されないように。

ただ、これを読んで、「ここまで書いていいの?」と思ってしまうところが、我ながらいかんなあ、と。知らず知らずのうちに、変なボーダーラインを引いてしまっているようで。(先日、宮内悠介「遠い他国でひょんと死ぬるや」を読んだときもそうだった)

そういう意味で、真正面から凛や大輝を描いた市川さんはすごいなあ。そして、ミステリとして成立させているのも。





2019年12月21日 (土)

黒武御神火御殿

2984「黒武御神火御殿」  宮部みゆき      毎日新聞出版      ★★★★

三島屋の変わり百物語の聞き手であったおちかが嫁に行き、三島屋の次男・富次郎が新たな聞き手となった。古参の女中・おしまと、守り役として控えるお勝。三人が迎える「語り手」とは…。


「三島屋変調百物語  六之続」でございます。「泣きぼくろ」「姑の墓」「同行二人」「黒武御神火御殿」の四話。

おちかの退場は寂しいけれど、富次郎が聞き手となってどうなるのか、楽しみにしていまして。

おちかは、身に起こったつらく悲しい事件から逃れるように江戸へ出てきて、凍った心のまま、百物語の世界に足を踏み入れたわけで。だから、全体のトーンがどうしても張りつめたような緊張感があったものですが。

のんき者というか、生来穏やかで温かい気性なのであろう富次郎が聞き手におさまり、全体の雰囲気もほわんと緩んだ感じがしました。とはいえ、「語り捨て・聞き捨て」にせねばならないほどの話が、ほんわかしてるはずもなく。「姑の墓」なんか、かなり怖かったし、表題作はホラー映画を見てる気分で、消耗しました。「同行二人」は泣きましたけどね。

おちかは百物語を通して、幸せに生きる勇気を得ましたが、富次郎はこれから何を聞き、何を得ていくのでしょう。彼自身も奉公先で大変な目に遭い、実家に戻ってきた身の上。次男ゆえ三島屋の跡とりにはならないわけで。いろいろ思うところはあるはずですが。

おちかがちゃんと登場してくれたのが嬉しかったです。

2019年12月20日 (金)

てのひら怪談

2983「てのひら怪談」加門七海・福澤徹三・東雅夫・編      ポプラ社

800字という字数の中で、怖い話・不思議な話・奇妙な話を創作するビーケーワン怪談大賞の名作100選。

創作なのか、実話なのか。書き手はプロも素人も混在していて、それぞれ趣向をこらしています。しかも、原稿用紙二枚以内。どれだけエッジの効いた話に仕上げるか、皆さんお見事です。

私はどうにも怪談が好きで、怖がりのくせに読みたくなるのです。こういう「よくわからないこと」を、怖がりつつも受容するのって、大事な気がします。息がつまりそうな世の中だからこそ。

2019年12月17日 (火)

歩道橋シネマ

2982「歩道橋シネマ」  恩田陸      新潮社      ★★★★

ノンシリーズの短編集。18編を収録。

既読のものも多かったですが(恩田作品が収録されているアンソロジーはとりあえず読んでしまうため)、やはり恩田作品だけが並ぶと、独特の雰囲気が生まれます。

恩田さんの文章を読むと、いつも「硬質」という言葉が浮かびます。それでいて、人の心の揺らめきを的確に描いて、なおかつ美しい。

表題作は、恩田さんでないと書けない気がします。ウエットになりすぎない絶妙なバランスが好きです。

「悪い春」は、洒落にならないというか…。これがフィクションのままで済みますように。

それにしても、恩田さん、バレエものを準備してるんですか!! チョコレートコスモスの続編はどうなりましたか!!  短編も好きですが、そろそろ恩田さんの長編をガッツリ読みたいです!


2019年12月16日 (月)

競歩王

2981「競歩王」  額賀澪      光文社      ★★★★

天才高校生作家と呼ばれ、華々しくデビューした榛名忍。しかし、大学生となった今は、以前ほど本が売れず、何を書きたいのかわからなくなっている。そんなとき、学内のテレビでたまたま見たリオ五輪の競歩。それを見ながら号泣している男子学生。呆気にとられた忍だったが、編集者にスポーツものを書くことをすすめられ、思わず「競歩」と口走ってしまう。


「タスキメシ」で駅伝を題材にした額賀さんが、今度は競歩?  額賀さんのツイッターを見たとき、ちょっとびっくりしたのです。

今年のドーハ世界陸上の50キロ競歩を見たのです。というか、つけっぱなしにしていたテレビでやっていたのを、あれこれやりながら見ていました。けっこうな時間が経過しても、「まだ歩いてるよ…」。さらに、選手が途中でトイレに行ったり。普通に歩いていたり。…そんなことにいちいち驚くほど、競歩について知らない私。

そんな私と同じくらい競歩を知らず、興味もない忍が、ひょんなことから競歩小説を書くために取材するはめに。対象にしたのが、同じ大学の陸上部の八千代篤彦。長距離から転向したという八千代は、とっつきにくい相手で…。

行き詰まって燻っている忍と八千代。作家と競歩選手という全く畑違いな二人が、それぞれの壁を破っていく過程を描いた青春もの。ある意味「王道」なのですが、競歩を題材にしたことが、いい感じに新鮮さを出しているのでは。

私は作家でもないし、陸上もやったことないけれど、忍たちの葛藤や迷いには共感して、何度も何度も涙ぐみました。ここまで直球で描くのは、額賀さん、勇気が要ったのではないでしょうか。

そして、題名。「王」?と思いましたが、そういう意味でしたか(笑)




2019年12月14日 (土)

不穏な眠り

2980「不穏な眠り」      若竹七海      文春文庫      ★★★★

古書店のアルバイトにして、白熊探偵社に社属する唯一の調査員・葉村晶。彼女のもとに舞い込む依頼はなぜかしら不穏なものになっていく。「不運すぎる女探偵」の事件簿。


毎回、期待を裏切らない質の高さです。

「水沫隠れの日々」「新春のラビリンス」「逃げだした時刻表」「不穏な眠り」の4話。

古書店のブックフェアに借りてきた時刻表が盗まれたことに端を発し、事件が二転三転する「逃げだした時刻表」は見事でした。

冒頭の「水沫隠れの日々」はなんともやりきれない結末で…。ユーモラスではあるのだけど、人の悪意やどうしようもなさも、リアルに描くのがこのシリーズなので。

しかし、葉村晶のかっこいいけどかっこ悪い、絶妙のバランス感覚が大好きです。

初版限定付録のシリーズガイドもよかったです。ドラマ化されるし、そちらも楽しみ。

2019年12月13日 (金)

刀と傘

2979「刀と傘  明治京洛推理帖」  伊吹亜門      東京創元社      ★★★★

幕末の京都で戦を回避すべく奔走する若き尾張藩士・鹿野師光は、佐賀から来た一人の男と出会う。その名は、江藤新平。頭脳明晰ながら傲岸不遜な江藤にとまどう鹿野だったが、その矢先、同志が隠れ家で惨殺されているのを発見してしまう。なりゆきで江藤と鹿野は、犯人を探すことになるが…。


評判がいいので、ずっと読みたいと思っていた一冊。幕末から明治初期にかけて、江藤新平と鹿野師光が殺人事件の謎を解く本格ミステリです。

「佐賀から来た男」「弾正台切腹事件」「監獄舎の殺人」「桜」「そして、佐賀の乱」の五編。もともと「監獄舎の殺人」が2015年ミステリーズ!新人賞を受賞。それを柱に、前後の物語を紡いだ形らしいです。まだ何者でもなかった江藤が新政府の重鎮となり、下野し、やがて…というのが、心ならずも江藤と関わってしまった鹿野を通して描かれます。

時代物と本格ミステリが両立するんだなあ…。どちらのジャンルも大好物の私は、とっても楽しみました。

どの話も読みごたえありますが、全てを通したときに見えてくる江藤新平の人物像と、鹿野の生きざま、そして、幕切れの見事さ…!

これからが楽しみな作家さんです。

2019年12月11日 (水)

どうしても生きてる

2978「どうしても生きてる」  朝井リョウ      幻冬舎      ★★★★

一生懸命生きていても行き詰まる。普通に生きているだけなのに生きづらい。そんな人生の断片を切り取った六つの物語。

「健やかな論理」「流転」「七分二十四秒めへ」「風が吹いたとて」「そんなの痛いに決まってる」「籤」の六話を収録。

ごくごく真っ当な人生を送っていても、あり得ないような出来事に直面することはあります。普通の人、いい人にだって不幸は降りかかる。何かがきっかけで今まで気づかなかった闇を見てしまう。世の中がおかしいと喚いても、その中で生きていかなければならない私たち。

朝井リョウは、そんな「私たち」の物語を書き続けているのでしょう。

読んでいると、息がつまりそうになります。でも、絶妙なバランスで持ちこたえているというか…。ラストの「籤」を読んで、ああ、これかもしれない、と。要するに、作者が物語に酔いしれることを、朝井リョウは決して許さないのではないかと感じたのです。どれだけ登場人物の心情や感覚に肉薄しても、現実に足をつけて、冷静に描写する視点を捨て去らない。考えすぎでしょうか。

それにしても、女性心理の描きかた、凄すぎませんか?



2019年12月 9日 (月)

のっけから失礼します

2977「のっけから失礼します」  三浦しをん      集英社      ★★★

しをんさんのエッセイ集を読むのは久しぶり。そして、久しぶりに本を読んで、声をあげて笑いました。人前で読んでなくてよかった。

なんじゃそれ?と笑ってしまう話が多いのですが、時々妙に共感してしまうところがあって。

しかし、これをファッション誌の巻頭で連載するなんて…というか、連載させる出版社の度量にびっくりです(笑)

2019年12月 3日 (火)

化物蠟燭

2976「化物蠟燭」  木内昇      朝日新聞出版      ★★★★

当代一の影絵師・富右治のもとに持ち込まれた奇妙な依頼。富右治の技で、ある男を脅かしてほしいという。売り言葉に買い言葉で引き受けてしまった富右治だったが、依頼人の態度に違和感を抱き…。


「隣の小平次」「蟀橋」「お柄杓」「幼馴染み」「化物蠟燭」「むらさき」「夜番」の7編。

この世ならぬものたちとの関わりが織り成す不思議な物語。宮部みゆきさんの時代物怪談風の作品集。こういうの大好きです。

が、「幼馴染み」は、かなりしんどかったです。どこまでいっても救いがなくて。

「お柄杓」や「化物蝋燭」なんかは好きな話です。ラストの「夜番」は、せつなくて、最後はなんだか泣けてしまいました。

怒りとか、悲しみとか、妬み、恨み…そんな負の思いを象徴するように怪異が現れるのですが…でも、それもまた生きていればこそ、なんでしょうね。


2019年12月 1日 (日)

さよならの儀式

2975「さよならの儀式」  宮部みゆき     河出書房新社      ★★★★

長い間一緒に暮らしてきたロボットとの別れの日。なかなか心の整理がつかない彼女のために、「俺」は最後の面会の機会を与えたが…。(「さよならの儀式」)


宮部さんというと、最近はすっかり時代物か社会派ミステリか…という感じになっていたので、新鮮でした。いや、懐かしい感じ。なんとなく、宮部さんの初期の短編のテイストを思い出しました。

「母の法律」「戦闘員」「わたしとワタシ」「さよならの儀式」「星に願いを」「聖痕」「海神の裔」「保安官の明日」の8編から成るSF短編集。

冒頭の「母の法律」がなかなか凄まじくて、夢中になって読みました。「聖痕」もなんとなく先は読めたのですが、いかにも「あり得そう」な話で。

表題作は、ちょっと懐かしい感じのSFもので、妙に心に残りました。

SFは苦手意識があって、積極的に読もうとしないのですが、読まず嫌いは勿体ないですね。 

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