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2020年5月

2020年5月30日 (土)

さいはての家

3046「さいはての家」  彩瀬まる      集英社      ★★★★

郊外に建つ古い借家。不思議なことに借り手が途切れないその家に住むのは、ワケありの人たちばかりで…。


「はねつき」「ゆすらうめ」「ひかり」「ままごと」「かざあな」の五編から成る連作。

かけおち不倫カップル。逃亡中のヒットマンと元同級生。新興宗教の元教祖。親の決めた結婚から逃げた女性とその妹。単身赴任中の男性。何かから「逃げてきた」人たちの物語。

現実に行き詰まって、どうしようもなくなったとき、どうするか。それはもう、究極の選択なのだけど、彼らは「逃げる」ことを選んだのです。何のために? とりあえず生き延びるために。

彼らの追い詰められ方は他人事でなく共感してしまって、ヒリヒリするのです。なんで、世の中こんなに生きづらいんでしょうね…。それでも、主人公が少しでも何かに気づけたり、取り戻したりできたりすると、涙が出そうになりました。だからといって、事態が好転するとは限らないのだけど。

「ままごと」が一番好きでした。これからに希望がもてる感じで。

世の中からこぼれてしまっても、生きていける。ささやかな人生だけど。読み終えて、そんなことを思いました。

2020年5月29日 (金)

サロメ

3045「サロメ」  原田マハ      文藝春秋      ★★★

戯曲「サロメ」の作者オスカー・ワイルドと、挿絵を描いたビアズリー。ビアズリーの姉・メイベルから見た二人の天才の愛憎。


ビアズリーの絵は、見てると目を離せなくなる、悪魔的な魅力があります。私自身、ワイルドの「サロメ」のストーリーを知るのと(読んではいない)、ビアズリーの挿絵を認識するのと、どちらが先だったのかわかりません。この本の表紙にも使われている、ヨカナーンの首に口づけしようとするサロメの絵は、一度見たら忘れられないインパクトがあります。

さて、物語はオーブリー・ビアズリーの姉・メイベルの視点で描かれます。女優であるメイベルとオーブリーは仲のよすぎる姉弟。しかし、そのバランスはオスカー・ワイルドの登場で崩れてしまう。

オーブリーとワイルドの距離が縮まるにつれ、嫉妬にかられたメイベルは、二人の仲を裂こうとします。「サロメ」のごとく。しかし、それはワイルドだけでなく、オーブリーをも地獄に落とすことに…。

ビアズリーの絵に象徴される悪魔的で、隠微で、妖艶な世界が展開され、息を詰めるようにして読みました。

ところで、原田マハさんは、パリのロックダウンの最中に現地滞在中だったとのこと。そのときのことを書いた小説「喝采」を、Twitterで連載されていました。心を揺さぶられたことを書かずにいられないのが小説家なんだなあ…と、つくづく実感しました。

2020年5月27日 (水)

阿蘭陀西鶴

3044「阿蘭陀西鶴」  朝井まかて      講談社      ★★★★

談林派の誹諧師にして、日本初のベストセラー作家・井原西鶴。その人生を娘のおあいの目を通して描く。


西鶴については全くの門外漢で…。確認したら、書いた作品は残っていても、どんな生涯を送った人物か、よくわからないようですね。点のように残されているわずかな手がかりをもとに朝井まかてさんが構築したのが、この物語。

高校時代の国語総覧(何年前…)には、西鶴の誹諧は「阿蘭陀流」と呼ばれた旨、記述があります。それは新風であると共に、蔑称でもあった由。では、阿蘭陀流の誹諧師・西鶴とはどのような人物であったのか。なぜ、「好色一代男」「世間胸算用」などを書くに至ったのか。

それを、一緒に暮らしていた娘のおあいの視点で描いています。おあいは盲目ですが、幼い頃亡くなった母に仕込まれ、家事全般を見事にこなします。一方、父西鶴に対してはわだかまりがあり、心に隔てがあるのです。

おあいが「目が見えない女性」であることが、父娘の関係性を描くのに、実に効果的に作用していて、唸らされました。特に、おあいが己の表情を全く意識していないことを指摘される場面。歌舞伎役者の辰彌から、あるいは女中のお玉から。自分の心の内が人に見えてしまっていた! と愕然とするおあいの動揺に、説得力がありました。

物語の幕切れは、何故だかほろりとさせられました。

まかてさん、やはりこういうちょっとくだけた感じのある物語だと、ほんとにいい味が出ます。

2020年5月25日 (月)

持統天皇

3043「持統天皇」  瀧浪貞子      中公新書      ★★★

天智天皇の娘にして、天武天皇の妻。のちに女帝となった持統天皇は、古代国家においてどのような役割を果たしたのか。


女帝は中継ぎ…とよく言われますが、持統天皇にはあてはまらないのです。もちろん、彼女一人で政ができるわけでなく、高市 皇子や藤原不比等や、優秀なブレーンがいたのは確かですが。ただ、政の中心にいて、主導権を握っていたのは確かなようで。

持統天皇の生い立ちをたどりつつ、「大化の改新」「壬申の乱」とは何だったのか、新しい国のかたちがどのようにして出来上がったのかが、わかりやすく説明されています。

先日読んだ澤田瞳子「日輪の賦」や、持統天皇が主人公の漫画・里中満智子「天上の虹」のいろんな場面が脳裏をよぎりました。持統天皇という人物は、歴代天皇の中でも、屈指の大人物です。

しかし、万葉集の原型も彼女によるものだった…? 知らなかった…。勉強します。

2020年5月23日 (土)

いやよいやよも旅のうち

3042「いやよいやよも旅のうち」  北大路公子      集英社文庫      ★★★★

「私に『旅人』の要素は一ミリもない」はずなのに、なぜかあちこち旅するはめに。北海道・山梨・岩手・三重・香川・沖縄。自転車で死にそうになったり、こんぴらさんの石段でよれよれになったり。キミコさんの爆笑旅日記。


待ってました! これ、すごく楽しみにしてたのです。なぜかというと…「岩手編」に出てくる公子さんのトークイベント、私も参加してたからです。ちなみに、トークショー&サイン会でしたが、場所はホテルのダイニングバー。なんと飲み放題!  おつまみもたくさん!  しかも美味しい! という、北大路公子さんにふさわしい設定でした。

公子さんは意外とひょうひょうとしてらした印象で。私は場馴れしてないし、一人で参加だったので、オドオドしてましたが、近くの席の皆さんとお話できて、楽しかったです。公子さんのトークを聞きながら、「それ、書いてましたよね」「ああ、公子さんらしい」なんて。

さて、公子さん、今回いろんなところに行かされてますが、私の印象に残ったのは、香川です。こんぴらさんの石段は恐怖でしかないし、高松平家物語歴史館(蝋人形で平家物語の世界を再現)は夢に見そうな怖さでした。なお、歴史館はすでに閉館されたとのこと。それから、山梨・富士急ハイランドには絶対行かないと心に誓いました(ジェットコースター嫌い&お化け屋敷死ぬほど嫌い)。

「ここには行きたくない」と思わせる旅日記って何?と思うわけですが。それでも、公子さんは相変わらずです。いろんなことで疲れたときは、公子さんのエッセイがおすすめです。笑えて、脱力します。


2020年5月22日 (金)

菓子屋横丁月光荘 浮草の灯

3041「菓子屋横丁月光荘    浮草の灯」  ほしおさなえ      ハルキ文庫      ★★★

「家の声が聞こえる」守人が川越の古民家・月光荘の管理人になって数ヶ月。町に知り合いも増え、地に足がついてきた。守人は古書店「浮草」で、バイトの女子大生・安西から、店主が余命幾ばくもないと知らされる。


シリーズ第2作は、「浮草の灯」「切り紙」「二軒屋」の三話。物語の世界観にも慣れ、落ち着いて楽しめるようになってきました。

そして、「活版印刷三日月堂」とのリンクも、次々と。楽しいですね。

ほんわかした物語…と見せかけて、誰もが直面する大事な人の喪失や、家族ゆえの相克や葛藤など、描かれるものは重いです(「三日月堂」シリーズもそうでした)。それでも、生きていていいんだと思える何かが、描かれているのです。

シリーズはまだ続くのかな?  少しずつ自分の時間を取り戻してきた守人の姿を、もう少し見ていたいです。

2020年5月21日 (木)

病魔という悪の物語 チフスのメアリー

3040「病魔という悪の物語    チフスのメアリー」  金森修      ちくまプリマー新書      ★★★★

20世紀はじめ、腸チフスの無症候性キャリア(健康保菌者)として世界で初めて特定されたメアリー・マローン。彼女は料理人として働き、雇い主の家族ら50人近くに腸チフスを伝染させた。その後、長い年月、隔離生活をさせられたメアリーとは、どんな人物だったのか。


『歴史は、善玉と悪玉によって作られるものだろうか。むしろ問題にすべきのは、そんな具合に、簡単に善悪の二分法で人間社会を切り分けようとする、物の見方の方にあるのではなかろうか。』(「はじめに」より)

緊急復刊だそうです。第一刷は2004年。その頃は、こんな世の中になるなんて、想像もしていませんでした。

全く知らなかったのですが…こういうことが実際にあったのですね。メアリーが突如放り込まれた混乱が、リアルに想像できてしまいます。キャリアとして特定された当時、メアリーは37歳。アイルランド移民の女性で独身。腸チフスに感染した自覚もない彼女は、無理やり隔離されて…。

現在も、「無症状の患者が感染を広げているのではないか」と言われています。陽性患者やその家族、接触者への偏見・差別も絶えません。根っこにあるのは、強い不安なのは間違いありません。では、どうすればよいのか。

存在したのは、「チフスのメアリー」ではなく、メアリー・マローンという一人の女性。豊かな暮らしではなかったけれど、料理人として働き、雇い主や仕事仲間の多くにも信頼され、恋人もいた。20年以上に及ぶ長い隔離生活の中で、友も得て、生きがいも見出だした。

私たちの誰もが、「キャリア」という言葉や数字で表されるものではなく、それぞれの人生がある、固有の人間です。そのことを忘れずにいなければと、肝に銘じました。

2020年5月20日 (水)

晴れの日散歩

3039「晴れの日散歩」  角田光代      オレンジページ      ★★★

「オレンジページ」連載のエッセイ。2015年からの5年分。

同い年の作家さんというのは、どうしても気になるわけで。育った場所や環境は違っても、同じ時代を共有してきたからか、「わかる~」と思うことが多いような。宮下奈都さんとか、まさにそんな感じ。

でも、角田さんは、ちょっと違う。たしかに同じ時代を生きてきたんだけど、私とはけっこう違う。たぶん、同じ学校にいても、あまり交流しないタイプ(のような気がする)。

私にとっての角田さんのエッセイの面白さは、そこにあるのです。そう感じるんだ、そこにこだわるんだ、へぇ~…という感じ。同じ穴から違う空を見てるような気になるのです。

しかし、今回、激しく同意したのは、「恥ずかしくてできない」話。Siriに話しかけられない、と。これ、首がもげるほど頷きました。遅いスマホデビューをした私の夫は、嬉々としてスマホに話しかけてましたが、私はダメ。恥ずかしいのです。私だけじゃなかた!と、安心した次第。

2020年5月18日 (月)

風間教場

3038「風間教場」  長岡弘樹      小学館      ★★★

警察学校の教官・風間公親は、今年も新入生を迎えていた。新任校長の久光から、「一人も退校させない」ことを命じられる。一人でも辞めたら、風間が学校を去れ、と。風間は助教の平優羽子と共に指導にあたるが、今回もなかなかの難物ぞろいで…。


「教場」シリーズの長編。

風間という教官のすごさに圧倒され、その力に引っ張られるように一気読みしました。手のかかる若者たちを警察官として鍛え上げていく課程で、風間が仕掛けるあれこれが読みどころ。警察学校に入ってもなお、思い悩む彼らを、風間がどう導いていくか。

今回も面白かったのですが、比嘉に対する指導とか、「え?それで終わり?」と思ってしまったので、★一つ減らしました。私なら、その程度じゃ納得できないなあ。

このシリーズは、これで完結なんでしょうかね。

2020年5月17日 (日)

風と共にゆとりぬ

3037「風と共にゆとりぬ」  朝井リョウ      文春文庫      ★★★★

「時をかけるゆとり」に続くエッセイ集第2弾。

思った以上にストレスがたまっていたのか、加齢ゆえか(苦笑)、突発性難聴を発症。病院通いしてました。

こういうときには、肩に力の入らないものを読みたいね~と思ったら、待望の文庫化! 

で、読み始めて…笑いました。いやもう、朝井リョウ、バカじゃない?っていうか、メンドクサイ(笑)  「時をかける~」よりは少し年をとったはずなのに、社会人になっても、専業作家になっても、変わってない。もちろん、いい意味で。

おかげさまで、これを読み始めてから難聴は改善し、体調もだいぶよくなりました。笑うの大事。朝井くん、ありがとう。

2020年5月14日 (木)

菓子屋横丁月光荘 歌う家

3036「菓子屋横丁月光荘    歌う家」  ほしおさなえ      ハルキ文庫      ★★★

大学院生の守人は、川越にある古民家の住み込み管理人を依頼される。家の声が聞こえるという不思議な力をもつ守人は、川越の家を初めて訪れたときから、その声が聞こえていた。


「活版印刷三日月堂」と同じく、川越を舞台にしたシリーズ第一作。「歌う家」と「かくれんぼ」の二話。

主人公の守人は、幼い頃に両親を亡くし、近しかった母方の祖父母からも引き離され、父方の祖父のもとで育てられました。厳格な祖父とは心が通わないまま、その祖父も亡くなり、一人になった守人がやってきたのが、川越の古民家。通称「月光荘」。

ほんわかした話かと思いきや、守人の設定がなかなかハードで。大きな喪失・欠落を抱えた守人が、家の声を聞くことで、少しずつ変わっていくのですが…。こう書いてしまうとベタな感じですが、守人をはじめとする登場人物たちの思いは切実なものがあります。

川越の町や建物の特徴について具体的に描写されていて、ちょっと興味をもちました。

2020年5月12日 (火)

りかさん

「りかさん」  梨木香歩      新潮文庫      ★★★★★

再読です。

「からくりからくさ」に連なる物語。「りかさん」は、幼い蓉子と人形のりかさんの話。「ミケルの庭」は、マーガレットの娘・ミケルをめぐる物語。

蓉子たち4人のつながりが、これを読むとさらによくわかります。「からくりからくさ」のラストで、マーガレットが笑い声を耳にしたことの意味。蓉子の役割。なぜ、彼女がこの物語に必要だったのか。

人の思いは簡単に飼い慣らせるものでなく。教科書通りに整理できるものでもなく。私たちは、それを抱えて生きていかねばならないわけで。その時に、道を違えてしまわないように手をさしのべる。そんな生き方ができるのが、蓉子なのでしょう。

深い深い物語です。

2020年5月11日 (月)

からくりからくさ

「からくりからくさ」  梨木香歩      新潮文庫      ★★★★★

再読です。部分的に読み返したことはありましたが、通して読んだのは2003年以来です。

一軒家で共同生活をする若い女性たち。染色家の蓉子。紬を織る紀久。キリムを研究する与希子。鍼灸を学んでいるマーガレット。彼女たちの暮らしと、不思議なつながりが、静かに描かれます。

不器用なくせに手仕事に憧れてきた私には、蓉子たちが草木染めをしたり、その糸で布を織ったりするのが、ある意味理想の生活。とは言え、彼女たちは優雅な暮らしをしているわけでなく、人ゆえの苦悩や葛藤がじわじわと描写されます。

紀久と与希子の思いがけないつながりとか、紀久の苦悩が印象に残っていましたが、今回読んでハッとしたのは、クルド難民の話と、次の言葉です。

「この変化は地球規模の変化だから、犠牲が要るとしたらそれもそういう規模のものになるのかしら」

そして、やはり心打たれたのは、紀久が手紙に書いたこの言葉。

「人はきっと、日常を生き抜くために生まれるのです。/そしてそのことを伝えるために。」

今の私には道しるべにも等しい言葉です。


2020年5月10日 (日)

涼子点景1964

3035「涼子点景1964」  森谷明子      双葉社      ★★★★

東京オリンピック直前の1964年、東京。新宿の外れの商店街にある薬局の次男坊・健太は、本屋で万引きの疑いをかけられる。その日偶然会った、同級生の姉ならば、健太が手ぶらだったと証言してくれるかもしれない。しかし、同級生の太郎は言った。「ぼくは一人っ子だよ…」


1964年は、まだ私は存在してなかったのですが、昨年の大河ドラマ「いだてん」や、NHKの「東京ブラックホール」等で見た映像が、まざまざと浮かびます。オリンピックを契機として、都市を作り替えようとした時代。その急スピードゆえに生まれたたくさんのひずみ。あれから50年余り。もはや当時の町の風情なんて、どこにも見当たりません。

もっとも、私はそれから数年遅れて、岩手の片田舎で育ってきたわけで。この時代の空気感は、うっすらわかります。この50年で日本が一番変わったのは、「貧しさ」の気配が駆逐されたことではないでしょうか。

健太少年のエピソードから始まり、謎めいた少女・涼子のことが語られます。彼女は貧しい家庭に生まれ育ったはずなのに、いいところのお嬢さん風に立派な車に乗っていたり。同級生たちとは関わらなかったくせに、年下の子が困っているのを助けたり。取り澄ました言葉遣いをするかと思えば、がらっぱちなしゃべり方をしたり。涼子はどういう生い立ちで、何を目的として行動しているのか…彼女と関わった人々の視点で、徐々にその謎が解き明かされていくミステリです。

涼子は時代というか、なかったことにされた貧しい日本の象徴なのでしょう。凛々しく生きていく涼子の姿は、私たちが忘れようとしてきた何かを思い出させます。

なかったことにした貧しさは、今も形を変えて、存在します。

2020年5月 9日 (土)

ヘイ・ジュード 東京バンドワゴン

3034「ヘイ・ジュード  東京バンドワゴン」  小路幸也      集英社文庫      ★★★★

花陽の医大入試が近づいて、落ち着かない堀田家の面々。そしていつも通り厄介事が持ち込まれる。子供たちの成長と共に、東京バンドワゴンにも新しい風が吹いて…。


やっぱりこのシリーズはいい!  同じ場所で、同じような出来事が繰り返されるようでいて、新しくやってくる人もあり、去っていく人もあり。そういう出会いと別れが描かれていることが、今回はひときわ身にしみました。

今回は花陽の入試と、それによって堀田家の環境にもちょっと変化が…というお話。花陽も研人も、着々と大人の階段を昇っていて、頼もしいような寂しいような(笑)

ラストはいつものサチさんと紺の会話でなく、勘一が御仏壇に来ました。一方通行の会話にしかならないのだけど、やっぱりそこで勘一が語りかける相手はサチさんなのだなあ、と。

家族ものが苦手な私が、どうしてこんな大家族のシリーズが好きなのか不思議だったのですが、研人の言葉で納得しました。

「ヘイ・ジュード」は、ビートルズで一番好きな曲。ストレートな使われ方でしたが…すごく、よかったです。



2020年5月 7日 (木)

歌舞伎座の怪紳士

3033「歌舞伎座の怪紳士」  近藤史恵      徳間書店      ★★★★

岩居久澄、二十七歳、無職。将来に不安を覚えつつも、再就職する気にもなれず、実家の家事を一手に引き受けて三年。そんな久澄に、祖母が提案したバイトは、祖母の代わりに観劇すること。生まれて初めて歌舞伎座に出かけた久澄は、親切な紳士と、奇妙な出来事に遭遇する。


近藤さんらしいミステリです。

祖母がもらったチケットで、観劇して、感想を報告すること。それが、久澄のバイト。もちろん、チケット代はただだし、交通費・諸経費も祖母持ちで、さらに日当五千円。

なんて美味しいバイト!と思うのですが、久澄の今の状況は身につまされるものがあるし、行く先々で遭遇する紳士は怪しいし、さらに奇妙な出来事に巻き込まれたり、飽きるひまもなく、一気に読んでしまいました。

世の中でいわゆる「勝ち組」になれない人たちの物語をずっと書いてきた近藤さん(と、私は思ってます)。それは変わらないのだけれど、初期のころの傷が剥き出しになって、ヒリヒリ痛いような感じではなく、痛いけれど、どこか柔らかく登場人物と読者を受けとめてくれる感じのする最近の作風が、とても好きです。いや、初期のも好きですけど。

歌舞伎・オペラ・ストレートプレイが出てきますが、特に歌舞伎は初心者にもおすすめです。すごくわかりやすく描かれてます。

2020年5月 6日 (水)

公家源氏-王権を支えた名族

3032「公家源氏-王権を支えた名族」  倉本一宏      中公新書      ★★★

武士ではない「源氏」とは、源朝臣の姓を賜った天皇の子孫たち。貴族となった彼らは、どのような人生を歩んだのか。


フィクションですが、「源氏物語」の主人公・光源氏の生い立ちが、公家源氏の一つの典型です。…と頭ではわかっていたけど、わかっていませんでした。朝廷の「源氏」は、皆、天皇の一族なのですね。藤原道長の二人の妻は、どちらも源氏で、それぞれが天皇に連なる家系。そうか~、そうなんだ~。血統的には藤原氏より上ってこと?

と、「知らなかった…」が沢山でした。膨大な人数の公家源氏が取り上げられていて、クラクラしましたが(苦笑)、源博雅とか、知っている人が出てくると、「そういう血筋!」と盛り上がってました。

天皇の血筋ながら、代替わりしたり、皇統が替わったりすると、お上と遠い血統の源氏は落ちぶれていくというのも、何とも複雑な気分にさせられました。とはいえ、しぶとく生き延びた家もあり、歴史上、源氏の存在は大きいのだなあ、と実感しました。

2020年5月 3日 (日)

他諺の空似

3031「他諺の空似  ことわざ人類学」  米原万里      中公文庫      ★★★★

ことわざを題材に、海外の類似のことわざやその用法を比較しつつ、現代社会や政治をバッサリ斬る、米原さんの痛快エッセイ。


積ん読本です。どうしてこれを今まで読まずにいたのか…。

日本のことわざを元に、海外のことわざとの類似や違いを比較していくあたりは、米原さんの豊富な知識とユーモアにいつもながら感服するばかり。

ただ、この本のすごさは、2003年~2006年の当時の世界情勢と、その中での日本の政治がいかに異常な道に踏み込んでいたかを、非常に明快に批判していることにあります。

今の日本のダメさ、異常さは、すでにこの時点で始まっていて、そこを曖昧に流してきてしまったツケが、今きているだけ…そんな気がします。

今、米原さんがご存命だったら…と思わずにはいられませんが、そんなことを言ったら、「人を当てにするな」と怒られそうですね。

2020年5月 1日 (金)

誰かが足りない

「誰かが足りない」  宮下奈都      双葉社      ★★★★

再読です。初めて読んだのは2012年でした。

「ハライ」という美味しいと評判のレストラン。そこに予約を入れるまでの6組の客の物語。

登場するのは、社会の片隅で生きている、ごくごく普通の人ばかり。彼らは何かを失ってしまったり、何かが上手くいかなかったり…決して他人事とは思えないような欠落を抱えています。それでも日々の暮らしを営む中で、いろんな形で「ハライ」というレストランの名前が出てくるのです。

「ハライ」とは晴れという意味だとか。いつもお客でいっぱいで、予約しないと行けないハライは、登場人物たちにとって、「ハレの日」の象徴かもしれません。めったに行けないから、大切な人と行きたい場所。その約束があるから、毎日を頑張れる。

大きな事件は何も起こらないけれど、これは「私たち」の物語です。

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