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2020年6月

2020年6月30日 (火)

みちくさ道中

3057「みちくさ道中」  木内昇      平凡社      ★★★★

2011年「漂砂のうたう」で直木賞を受賞した翌年に刊行されたエッセイ集。


ちょっとショックを受けています…。木内さんって、私より年上だと思い込んでたのですが…同い年でした…。

なぜ年上と思っていたのかというと、「同世代によく感じる浮わついた感じがしない」から。このエッセイを読んでいてもやはりそう感じて。ただ、なんとなく子供の頃の話等から「あれ?意外と近い年齢?」と。プロフィールを確認したら…。

木内さんは流されないし、立ち位置がぶれないし、自分の思いを丁寧に言語化している。私みたいになんとなくノリでやっつけたりしない。しないようにしてきたのだろうなあ…と感じられて、それに比べて私は…と、凹みました(苦笑)

いろいろとハッとさせられることが多々あったので、何年かしたらまた読み返してみたいです。

2020年6月28日 (日)

戦乱と民衆

3056「戦乱と民衆」  磯田道史/倉本一宏/F・クレインス/呉座勇一      講談社現代新書      ★★★★★

国際日本文化研究センターの日本史研究者による一般公開シンポジウム「日本史の戦乱と民衆」をもとにした、民衆を主語とした日本史。


めちゃくちゃ面白かったです。英雄ありきの歴史ではなく、名も無き庶民は戦乱の世をどう生きていたのか?という。今の私にとっては、「そこだよ!そこ!!」というくらい、ツボでした。

倉本先生の「白村江の戦い」、呉座先生の「応仁の乱」、磯田先生の「禁門の変」はもちろんテッパンですが、初めて読んだクレインス先生の「大坂の陣」の話が新鮮でした。オランダ商人や、イエズス会の宣教師の書簡から、当時の大坂や京都の民衆の様子を発掘していくという…。(落城寸前の大坂城に宣教師がいたなんて、知りませんでした)

民衆にスポットを当てた史料なんてないわけですが、さまざまな史料の細部を読み解いていくと見えてくるものがある。また、権力をもつ側が民衆をどう見ていたかというのも。そういうのが現代にどうつながってきているのかも、考えさせられました。

新書ブームで玉石混淆、いろんなものが刊行されている昨今ですが、これは当たりでした。バリバリの研究者たちの論考をこうして読めるのは、とってもありがたいです。



2020年6月25日 (木)

大名倒産

3055「大名倒産(上・下)」 浅田次郎      文藝春秋      ★★★

丹生山松平家の当主となった小四郎。しかし、隠居した父は藩が抱えた膨大な借財をもて余し、藩の倒産を目論んでいた。父の企みを阻止しようと小四郎は奔走するが…。


浅田さんの「語り」は、わかっていてもついつい引き込まれてしまう。今までは講談か落語のように思っていましたが、むしろ寅さんの啖呵売みたいな口上に思えてきました(苦笑)  無茶苦茶なんだけど、おもしろいのです。

さて、松平家の当主になった小四郎ですが、足軽の子として育てられ、ある日突然城主の子として認知されたという生い立ち。しかも、兄が三人もいたのに、急死したり、病弱だったりして、急遽小四郎にお鉢が回ってきたという。父は藩を倒産させることしか頭になく、小四郎にはその際に責任をとらせようと。つまり、小四郎は切腹要因。

あんまりな話ですが、ここから小四郎の奮闘が始まるわけです。それ自体はおもしろいのですが、あまりに登場人物が多すぎて、一つ一つのエピソードが散漫になってしまったような。特に下巻は小四郎の存在感が希薄でした。浅田さん、ちょっと風呂敷広げすぎました?

ただ、浅田次郎がずっと描いてきた「人の幸せ」に対する思いは、やはり心を打つのでした。

2020年6月20日 (土)

四神の旗

3054「四神の旗」  馳星周      中央公論新社      ★★★

藤原不比等の後継者たる四人の息子たち。武智麻呂、房前、宇合、麻呂。不比等の死後、彼らの前に立ちはだかるのは、皇親・長屋王。四兄弟は妹・光明子の立后、基皇子の立太子に奔走するが、兄弟間の不協和音が…。


初・馳星周です。馳星周ってこういうの書くの?と驚いたんですが。

藤原四兄弟は、悪役のイメージが強くて(長屋王の変のせいで)、そのわりに疫病で呆気なく退場しちゃった人たち…という認識だったのですが(苦笑)  ただ、倉本一宏「藤原氏」を読んで、のちの藤原氏の繁栄には四兄弟の存在は欠かせなかったとわかり、ちょっと興味をもったのです。で、彼らが主人公なら読んでみようか、と。

大雑把に言えば、藤原氏vs皇族なのですが、そこに橘三千代と息子の葛城王(橘諸兄)が絡んだり、聖武帝や光明子、さらには元明・元正上皇の思惑があったり、なかなか複雑…。ただ、四兄弟の区別はつくようになりました(苦笑)

場面が細切れで、視点人物がくるくる入れ替わるため、一瞬、誰の視点かわからないときがあったのが残念でした。

長屋王の描写はなかなか私のイメージに近かったですが、三千代や光明子がもう一つとらえきれなかったかな。彼女たちが時代のキーパーソンだと思うのですが。


2020年6月18日 (木)

菓子屋横丁月光荘 文鳥の宿

3053「菓子屋横丁月光荘  文鳥の宿」  ほしおさなえ      ハルキ文庫      ★★★★

月光荘で暮らすようになり、川越の町と人々に馴染んできた守人。家の声が聞こえる守人は、町のあちこちで、残された人の思いに触れていく。それが彼を思わぬ世界に導いて…。


積ん読してた一作目・二作目を読んで、「続き出ないかなー」と呟いたら、まさにそのタイミングで出ました!

血縁とは早くに別れてしまい、孤独だった守人。川越に引っ越したことがきっかけで、彼の閉じていた世界がゆるゆると広がっていく。そんな物語。

今回は、「雛の家」「オカイコサマ」「文鳥の宿」の三話。どの話もよかったのですが、「雛の家」は、胸がギュウッとなるような切なさと、温かさにあふれていて、泣いてしまいました。

大学院の修了時期も近づいてきて、進路について思い悩む守人。しかし、いろんな出会いが、また守人の道を開きます。

今回印象的だったのは、シリーズを通して無駄な登場人物がいない見事さ。そして、不幸が重なり、心を閉ざしていた守人は、本当は人とつながりたいと切望していたのだと納得できたことです。

守人がこれからどうするのか、楽しみです。




2020年6月16日 (火)

3052「占(うら)」  木内昇      新潮社      ★★★★

人が迷うとき、悩むとき、救いを、道しるべを、何に求めるのか…。「占い」にまつわる七つの話。


あー、これは…到底他人事とは思えないというか(苦笑)  世の中には占いなんて全く興味がない人もいますが、朝からテレビで「今日の運勢は?」なんてやってると、つい見ちゃうという人は多いのでは(私は、あのランキング形式の占いが嫌いです)。

かくいう私も子どもの頃から、星座とか、血液型とか、手相とか、いろんな占いに興味があって、雑誌を買ったりしてました。でも、当時は他愛もないことを占っていたのですが、だんだん自分の手に負えないような迷いに直面すると、真剣にすがりたくなることもあるもので。

これは、「占い」に関わってしまった女たちの物語。「時追町の卜い家」「山伏町の千里眼」「頓田町の聞奇館」「深山町の双六堂」「宵町祠の喰い師」「鷺行町の朝生屋」「北聖町の読心術」の七話。微妙なリンクもあって、連作短編としての構成も秀逸です。

とにかく、占いを通して、女たちの浅はかさや醜さや、弱さみたいなものがどんどん明らかになっていく過程が、もう他人事でなくて。ああ、そういうとこあるよねえ、そうなっちゃうよねえ…と、身につまされました(苦笑)

ただ、作者はそんな女たちを嘲笑ったり、断罪したりはしません。思い迷いながら生きる女たちの姿は、愚かかもしれないけれど、私たち自身でもあるのです。最終話まで読んで、そう感じました。

2020年6月13日 (土)

銀の猫

3051「銀の猫」  朝井まかて       文藝春秋      ★★★★

年寄りの介護を請け負う「介抱人」として働くお咲は、母のおかげで借金を抱えている。口入屋の五郎蔵・お徳夫婦に見守られ、介抱人としては引っ張りだこのお咲だが、奔放な母の言動には頭を悩ませていた。


例えば平均寿命六十才ときくと、昔は大半の人がそれくらいで亡くなったようなイメージをもってしまいますが、そうではなくて。乳幼児の死亡率の高さや、都市と地方の格差等で、数値的には低くなるだけで、長生きする人はそれなりにいたのです。

というわけで、長寿社会の江戸の町の介護事情を題材にしたのがこの物語です。

「銀の猫」「隠居道楽」「福来雀」「春蘭」「半化粧」「菊と秋刀魚」「狸寝入り」「今朝の春」の八話。

お咲もいろいろ訳ありですが、彼女が経験から得た介護スキルや、それをもってしても手強い老人たちの描写が実によいのです。そして、介護に悩む家族の姿も。ほんとに他人事じゃないので。

驚いたのは、当時、介護は一家の当主の役割だったということ。嫁とか娘とか、女性の仕事じゃなかったのですね。武家には今でいう介護休暇もあったというのは本当でしょうか。ただ、それは「孝」という価値観のためであって、当事者への配慮ゆえではないのですよね…。

読んでいてなかなかつらいところもありました。でも、優秀な介抱人のお咲にもままならないことがあったり、しんどい介護に風穴を開けようという試みが描かれたり、温かい気持ちになりました。


2020年6月11日 (木)

震える教室

3050「震える教室」  近藤史恵      角川書店      ★★★

女子高に入った真矢は、奇妙なものを見るようになる。ピアノ教室の血まみれの手。スカートをつかむやせ細った手。そして、真矢がそれらを見るときは、必ず友人の花音が側にいるのだった。


「ピアノ室の怪」「いざなう手」「捨てないで」「屋上の天使」「隣のベッドで眠るひと」「水に集う」の6話。

大阪の都心にある鳳西学園。音楽科とバレエ科もある歴史ある女子校の高等部に入学した真矢。本命に落ちたゆえに外部入学したのだけれど、奇妙な出来事に次々遭遇して…という学園ホラー。

怪異が怖いのか、それが起こる原因をつくった人間が怖いのか。ホラーとしてはそれほど目新しい印象はありませんが、女子校の設定が効いていたかな、と。

ミステリとホラーは親和性が高いので、両方書く作家さんは少なくないですが、近藤史恵さんは初ホラーでしょうか。プロローグとエピローグはなくてもよかった気がします。

2020年6月 9日 (火)

蘇我氏-古代豪族の興亡

3049「蘇我氏-古代豪族の興亡」  倉本一宏      中公新書      ★★★

権勢を奮った蘇我蝦夷・入鹿父子が乙巳の変で討たれ、蘇我氏は滅びたのか? 蘇我氏の成立から、大王の側で大臣として地位を確立した稲目・馬子の世代、さらに乙巳の変以降の蘇我氏の動静を記す。


苦戦しました(苦笑)  一気には読めないので、少しずつコツコツ。

私自身、乙巳の変以前の知識があやふやなので、内容を理解するのにすごく時間がかかりました。

蝦夷や入鹿は、政治を欲しいままにした悪役のような扱われ方をしてきましたが、蘇我氏が果たした役割は決してそんなものではない。というのが筆者のスタンス。実際、蘇我氏の存在は欠くことのできないもので、もし乙巳の変がなかったら、どんな古代国家になっていただろう…と。

結局、蘇我氏のポジションや政治手法をそっくり受け継いだのが、藤原氏なのですよねえ。

倉本先生の本は、「藤原氏」「公家源氏」も読みましたが、なかなか面白かったです。ちょっとマニアックだけど(笑)

2020年6月 8日 (月)

桜ほうさら

「桜ほうさら」  宮部みゆき      PHP研究所      ★★★★

再読です。「きたきた捕物帖」つながりで。

実は、内容をすっかり忘れていて。富勘長屋って何だっけ?状態でした。で、読み返した次第。

父が不正がらみで切腹。しかし、父の無実を信じている笙之介は、いろいろな事情から江戸へ出てくることに。写本の仕事をしながら、父を陥れた人物を探そうとするのですが。

かなり入り組んだ話ですが、するする読めてしまうところは、さすが宮部さん。それにしても、こんなに重くせつない話でしたか…。死んだ人は戻ってこないし、起こったことは取り返しがつかないけれど、それでも生きていく笙之介たちの姿に明るさを感じるところが、また宮部さんらしいです。

宮部さんって、家族の中のどうしようもないすれ違いや、理不尽な目に遭った人たちの心のしこりなんかを、ずっとずっと書いてきたんだなあ。読みながらそんなことを考えました。

2020年6月 6日 (土)

<完本>初ものがたり

<完本>初ものがたり      宮部みゆき      PHP文庫      ★★★★

再読です。「きたきた捕物帖」を読んだらたまらなくなって…。

回向院の茂七を主人公にした捕物帖で、私が捕物帖や時代小説にはまるきっかけになった作品です。「お勢殺し」や「白魚の目」「鰹千両」は何度読み返したか。

茂七や手下の糸吉、権三といった登場人物が魅力的なんですが、それ以上に謎めいた稲荷寿司屋の親父の正体が気になるわけで。そこが明らかにされないままになっていたのですが、「きたきた捕物帖」には親父ゆかりの人物が登場。これから謎が明かされそうです。

このシリーズが書かれたのはずいぶん前ですが、いい意味で変わらず、「きたきた」の世界につながっています。宮部さんも時代物をたくさん書いてきて、まさに自在な筆といった感じ。「初ものがたり」はまだ堅さも見えますが、それはそれで愛おしい気がします。

2020年6月 4日 (木)

きたきた捕物帖

3048「きたきた捕物帖」  宮部みゆき      PHP研究所      ★★★★

深川の岡っ引き・千吉親分が急死して、一番下っ端の手下だった北一は途方にくれてしまった。頼る身内もいない北一は、富勘長屋に住んで、文庫の振売りを続けることに。亡き親分のおかみさんは、何かと北一を気づかってくれるが…。


帯に宮部さんの「私がずっと書きたかった捕物帖です」というコメント。はい、こちらも待ってました!

完結しないままになっている「初ものがたり」に登場する謎の稲荷寿司屋の親父ゆかりの人物が出てきたり。北一が住む長屋は、「桜ほうさら」の主人公・笙之介の住まいだったり。宮部さんの時代物好きにとっては、まさに「きたきた!」てな感じ。

ただし、「きたきた」は、主人公・北一と、彼が偶然知り合った風呂屋の釜焚きの喜多次、二人の「きたさん」が由来のようです。

「ふぐと福笑い」「双六神隠し」「だんまり用心棒」「冥土の花嫁」の四話。

幼い頃、迷子として千吉親分に拾われた北一は、そのまま親分のもとで育てられたものの、親分は呆気なく亡くなってしまう。何の当てもない北一は、文庫売りをしながらその日暮らしをするものの、奇妙な事件に巻き込まれて…というお話。

長屋の差配人の富勘や長屋の住人たち、偶然知り合った青海新兵衛という武士など、いろんな人たちに見守られ、まだひよっこの北一は、よちよち歩きを始めます。何より印象的なのは、千吉親分のおかみさん・松葉。盲目ながら、北一が巻き込まれる難解な事件の筋道を解きほぐしてくれる彼女が、めっぽうかっこいいのです!

とにかく、宮部さんの捕物帖で、 主人公が青年への過渡期にある少年…って、私にとっては、ストライクゾーンど真ん中なわけで。

北一とはタイプが違うけれど、同年輩で訳ありらしい喜多次が背負っているものが何なのかも気になるし…。今回はまだまだ序の口っぽいので、これからが楽しみです。

2020年6月 2日 (火)

福家警部補の追及

3047「福家警部補の追及」  大倉崇裕      創元推理文庫      ★★★★

捜査一課の腕利きには到底見えない福家警部補が今回対峙するのは、未踏峰の夢を息子に託す登山家と、悪徳ブリーダーと闘うペットショップ経営者。福家はどうやって犯人を追いつめるのか。


シリーズ第4集は、「未完の頂上(ピーク)」「幸福(しあわせ)の代償」の中編2編。

倒叙ミステリなので、最初に犯人は明示されて、それを福家がどうおとすか…という勝負になります。福家自身はなんともつかみどころのない人物。犯人の方が福家に追及される中で、動機が明らかになり、完璧と思われた犯罪計画の綻びに気づかされ…と、人間くささを全開にしていくのがパターン。それなのに、毎回おもしろいのです。

福家を「つかみどころのない」と表現しましたが、「得体の知れない」と言ってもいいかも。いろんな超人的な能力を発揮してきた福家ですが、今回は登山! さらにフリークライミングも。かと思うと、犬が苦手!!  …彼女にも人間らしいところがあったのかと、ホッとしました。

次作の文庫化が待ち遠しいです。

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