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2020年7月

2020年7月31日 (金)

140字の文豪たち

3071「140字の文豪たち」  川島幸希      秀明大学出版会      ★★★★

「初版道」アカウントの文学ツイートと、それについての解説をまとめた一冊。太宰、芥川、中也、谷崎、三島などなど。


「初版道」さんをフォローしたのは今年になってから。以前からタイムラインに流れてきてはいたのですが、今年になってクイズ(景品あり)が始まり、参加しました。全然当たりません(苦笑)

いったい何者?と、最初は怪しんでいたのですが、肩書きは「日本近代文学研究者・元初版本コレクター・秀明大学学長」だそうです。

とにかく、誰もが知ってる有名な作家の意外と知られてない話や、文豪同士の交流に関わる話が、とにかくおもしろかったです。筆者が長年積み上げてきたものが、いろんな角度から垣間見え、意外なほど読みごたえがありました。

近年、文スト・文アル等の影響で文豪ブームみたいになってますが、ゲームやアニメに興味のない夫(近代文学畑)は、キョトンとしてます。ガチの文学部卒だからこういうのは受け付けないかな?と、恐る恐る説明したら、「そういうのをきっかけにして、若い子が作品を読んでくれたらいいね」。で、この本も買ってくれました。

私は作家に興味をもって、そこから作品を読み深めたいタイプなのですが、近代文学がすでに古典となった今、こういう形でのアプローチは増えるのかもしれません。

2020年7月27日 (月)

約束の果て 黒と紫の国

3070「約束の果て  黒と紫の国」  高丘哲次      新潮社      ★★★★

亡父の遺言と、父がかつて異国の考古学者から託されたものを、田辺尚文は不承不承引き受けた。それは、「南朱列国演義」「歴世神王拾記」という、正史に存在しない二つの国の物語。これは偽書か?  虚構か?  遺言の意味と父の意図をよく理解できないまま、尚文は舞台となった地へ向かう。


ファンタジーノベル大賞2019受賞作。

先日、Twitterで、作者インタビューを拝読して、興味をもちました。帯には、「物語れ、新世代。-恩田陸 推薦」。これは、読まねばならないでしょう。

正史に記録のない二つの国の歴史。それが交互に読み解かれていきます。二人の王の出会い。二つの国の戦い。そして…。

最近、いろいろ知りたいことがあって、以前より新書等を読むことが増えているのですが、久しぶりに「これが物語の醍醐味!」と興奮しました。知識を得ること、学ぶことは大事です。しかし、本の世界はそんな狭いものではないし、物語のもつ豊穣な世界を楽しめるのは幸せだなあ、と。

あちこちの描写が苦手だったり(グロいのダメ…)、初めはうまく物語に入り込めなかったりしましたが、最後まで読んで、満足しました。これが、たった一人の作者から生まれた物語世界だということに、あらためて感嘆。すごいなあ。

2020年7月24日 (金)

ボニン浄土

3069「ボニン浄土」  宇佐美まこと      小学館      ★★★★

1840年。陸奥国を出航した五百石船は嵐に遭い、七人の船員たちはある島へ流れ着く。彼らを助けた島の住人は、青い瞳をしていた。島の名は、「ボニン」。


知らなかった…。

読みながら何度も何度も呟いていました。

「ボニン」とは、現在の小笠原諸島。世界遺産。人気の観光地。ずいぶん前ですが、教え子が小笠原諸島に行くプロジェクトに参加しました。帰ってから、小笠原の海の美しさや、地元とは全く違う気候や自然について、目をキラキラさせて語っていたのを覚えています。

だけど、小笠原の歴史について、私は本当にザックリとしか知らなかった…。

江戸時代の終盤、嵐にあって「ボニン」に漂着した吉之助の物語。それから180年後、自らのルーツが小笠原にあると知り、初めてその地を踏む恒一郎。そして、チェロの音が聞こえなくなってしまった賢人もまた、父に誘われ、小笠原へ。

江戸時代の漁師、現代の中年男と、若きチェリストの少年。全く接点のない三人の物語が、小笠原という地で交差し、その歴史と国や戦争に翻弄された人々の生きざまを浮かび上がらせます。

楽園なんて存在しない。楽園と思えるのは、そこに暮らす人たちが、そういう生き方をしているからなのでしょう。

故郷も知らず、両親のことも知らず、祖父母に育てられた恒一郎が、五十を過ぎて初めて訪れた小笠原で、大叔母・テルに再会した場面が忘れられません。赤ん坊の頃に小笠原を離れた恒一郎はテルを知らず、テルは認知症で恒一郎を認識してるか定かではないのですが。年老いたテルが、赤ん坊をあやす言葉を口にしながら恒一郎の頭をなでる。この場面が、一番好きでした。

2020年7月22日 (水)

鬼棲むところ

3068「鬼棲むところ」  朱川湊人      光文社      ★★★

鬼とはいったい何者なのか。いにしえの物語や説話を題材に、鬼と呼ばれた人たちを描く。


「鬼一口」「鬼の乳房」「鬼、日輪を喰らう」「安義橋秘聞」「松原の鬼」「鬼棲むところ」「血舐め茨木」「蓬莱の黄昏」の八話。『知らぬ火文庫』というシリーズもの(?)みたいですね。

三話くらいまでは、「久しぶりのブラック朱川さんだ(苦笑)」と思いながら読んでいました。が、単にホラーめいた物語というわけでなく。世の仕組みや社会通念から微妙に逸脱してしまった人たちの物語でした。

「松原の鬼」は今昔物語にある有名な話ですが、その展開は意外なものでした。

最終話はそこに行き着くのか~という感じでしたが、毎話結びの「鬼哭啾々」という言葉が、最後の最後で哀しく、重く響きました。

2020年7月20日 (月)

ビロウな話で恐縮です日記

3067「ビロウな話で恐縮です日記」  三浦しをん      新潮文庫      ★★★

病院の待合室で本を読んでいることが多い。特に、待ち時間が長いと予想されるときは、必ず本を持参する。そんなときに選ぶのは、新書かエッセイだ。どちらも、私にとっては読むのに気合いが必要なので、ひたすら座って待ち続けるしかない時間を過ごすにはうってつけなのだ。

エッセイは、一話一話が短いので、すぐ集中力が切れる。そのせいか、分厚い小説より、読むのに時間がかかる。いや、それはいい。問題は、人前で読むのが憚られるものがあるということだ。

……なんて、気取って書いてみましたが、要するに「待合室でしをんエッセイ読んで、吹き出しそうになって、怪しい人になりました」って話です。何回目だ、私。(最近は、北大路公子・朝井リョウのエッセイでも同じことをした)

しをんさんのエッセイ読むのは久しぶりな気がしますが、相変わらずオタク気質全開で(ほめてます)、笑わせていただきました。エッセイは旬のものもあるので、文庫で読む頃には「うーん」てこともありますが、しをんさんのは違和感がないですね。

笑える話もいいけれど、「夢」のシリーズ、幻想文学としていけるんじゃ…?

2020年7月16日 (木)

硝子の太陽R

3066「硝子の太陽R」  誉田哲也      光文社      ★★★

姫川班に戻ってきた菊田を引き連れ、祖師谷の一家惨殺事件の捜査本部に入った玲子。三ヶ月が経過し、捜査は膠着状態。しかし、ひょんなことから二十八年前の事件とのつながりが見え、捜査は一気に進展するが…。


ジウ・サーガとのコラボと言われても、「ジウ」は読んでないしなあ…と思って敬遠してました。が、意外と大丈夫でした。

玲子のもとに菊田が戻ってきて、二人は楽しそうなんですが、ヒヤヒヤします…。だって、菊田は妻帯者(苦笑)  さらに、かつての姫川班の一人、葉山(ノリ)が今はガンテツの部下にとして、玲子と再会。菊田にしろ、ノリにしろ、それぞれに成長してて頼もしい。で、玲子の直属の上司・林が、実に上手く玲子を支えてくれて。

事件そのものは胸糞悪いし、捜査か難航する閉塞感も半端なく。ガンテツも何か企んでるみたいだし。と思っていたら急展開。一気に解決か!と思ったら…。

このシリーズ、玲子が幸せになったら終わってしまうのですが、それにしてもこれは…。


2020年7月14日 (火)

平安人の心で「源氏物語」を読む

3065「平安人の心で『源氏物語』を読む」  山本淳子      朝日選書      ★★★★

源氏物語の巻名は誰がつけた? 紫式部のルーツとは?  平安貴族の価値観や社会通念を知ることで見えてくる「源氏物語」のおもしろさとは。


山本先生の著作はいくつか読みましたが、これが一番とっつきやすいかもしれません。朝日新聞出版「週刊  絵巻で楽しむ源氏物語五十四帖」に掲載されたエッセイをもとに構成されたもの。

「源氏物語」の内容をもとに、当時の貴族社会・文化を解説し、どういう文脈で描かれているのか、それが当時の読者にどう受け取られたのかを説明しています。

知っていそうで知らないことがたくさん。「源氏物語」初心者にもおすすめです。目次を見て、おもしろそうなところからつまみ食いしてもいいかもしれません。

山本先生は、桐壺更衣は一条天皇の中宮・定子がモデルだと考えていらっしゃいます。であれば、紫の上には道長の娘・彰子の影を感じるのは私だけでしょうかね。


2020年7月13日 (月)

花嫁のさけび

3064「花嫁のさけび」  泡坂妻夫      河出文庫      ★★★★

映画界のスター・北岡早馬と結婚した伊津子は、世界が一変する。早馬に愛され、豪邸の女主人となり、幸せの絶頂の伊津子だが、前妻・貴緒の影が至るところに現れ…。


泡坂妻夫を読んでいた時期もあったのですが、これは未読でした。予想以上にすごかった…。

何を書いてもネタバレになりそうです。それだけ用意周到に張り巡らされた伏線と、巧みに構成された物語世界。なぜこうなる(あるいは、ならない)?と首を傾げた点も、最後まで読むと「おお!」と納得。無駄は何一つないのでした。

ミステリとしての完成度の高さ。古さを感じさせない物語の展開。読みごたえありました。傑作ミステリの名に恥じない逸品でした。


余談ですが。泡坂ミステリを読み始めたのは、野間美由紀さんがコミック「パズルゲーム☆はいすくーる」に書いていた「のまさんのおすすめミステリ」がきっかけでした。東野圭吾、岡嶋二人、綾辻行人などなど…野間さんの影響で読み始めたミステリはたくさんあります。野間美由紀さんが今年急逝されたのはショックでした…。ご冥福をお祈りいたします。

2020年7月11日 (土)

インデックス

3063「インデックス」  誉田哲也      光文社文庫      ★★★★

捜査一課を追われ、池袋署強行犯係に配属された姫川玲子。捜査一課への返り咲き、姫川班の再生を目指す玲子は、彼女流の捜査を展開するが…。


買ったのも忘れるくらい積ん読してました(苦笑)  姫川玲子シリーズの短編集。

「アンダーカヴァー」「女の敵」「彼女のいたカフェ」「インデックス」「お裾分け」「落としの玲子」「夢の中」「闇の色」の8編。玲子の池袋時代から、「ブルーマーダー」の後日談である「インデックス」を経て、とうとう捜査一課に返り咲きます。

このシリーズ、事件そのものは陰惨で救いがたいものが多いのですが、リーダビリティは抜群で、読んでると夢中になってしまいます。今回は短編集でしたが、むしろちょうどいい塩梅で、玲子のいろんな面が見られました。

玲子にまとわりつく井岡や、玲子が信頼する今泉など、シリーズお馴染みの登場人物が活躍しますが、「闇の色」のラストではついに彼が帰ってきた! っていうか、大丈夫か?いろんな意味で。

このあと、「ジウ」シリーズとのコラボになるんですよねー。「ジウ」は未読なので、どうしようかなー。



2020年7月 9日 (木)

できない男

3062「できない男」  額賀澪      集英社      ★★★

東京から車で2時間の夜越町。そこで持ち上がった農業テーマパーク事業。夜越町在住のデザイナー・芳野荘介はブランディングのコンペに参加するも、惨敗。採用されたのは人気クリエイターの南波で、実際に現場を担当するのは、南波の右腕・河合裕紀。そして、荘介も地元枠でチームに参加することに。


イケてる人生とは全く無縁の荘介・28歳。デザイナーとはいえ、地方の小さな広告代理店勤務。扱うのは、役所の広報や、公民館のポスターなど。クリエイティブとは到底言えない仕事ばかり。そんな荘介が、大きなコンペに参加したことで人生ちょっと変わっていく…。

「できない男」はもちろん荘介のことですが、もう一人。アートディレクターとしてそれなりの実績をもつ裕紀も、「できない男」。全く正反対の二人が、それぞれの転機に向き合うのです。

タイプは違えど、二人のグズグズっぷりに笑ってしまいました。でも、身につまされるのは、人間そんなもんだよなあと思うから。そんなにかっこよく生きられないし、自分を変えるなんて簡単にはできない。

二人がどうやってブレイクスルーするかと思ってましたが、そう来たか…。ていうか、荘介、あんた、そんなことしたら、もう夜越町に住めないわ…東京行くしかないよ…。

デザイナーとして荘介がスキルアップしていく過程がもっと読みたかったです。

2020年7月 8日 (水)

後宮の烏4

3061「後宮の烏4」  白川紺子      集英社オレンジ文庫      ★★★

「烏妃」としての役割から寿雪を解き放ちたい。皇帝・高峻の願いを叶えるには、わからないことが多すぎた。一方、寿雪を慕う人々が、後宮を中心に増えてきて、それは思わぬ事件を引き起こす。


読み始めたときはここまで話が広がるとは予想しませんでした。

少しずつ人と関わり、人間らしい暮らしに愛着を持ち始めた寿雪。同時に、「烏妃は人を近づけてはならない」という先代烏妃の戒めの意味を思い知るような事件が相次ぎます。

一方、寿雪を役目から解き放ちたいと願う高峻も、それが思いの外困難であることを痛感させられ…。

「蚕神」「金の杯」「墨は告げる」「禁色」の四話。寿雪が生き生きとしてくる一方、彼女を待っているだろう困難を想像させて、息苦しさを感じる話が多かったです。


2020年7月 7日 (火)

輪舞曲

3060「輪舞曲」  朝井まかて      新潮社      ★★★

大正の名女優・伊澤蘭奢。彼女が急死したあと、集められた4人の男たち。彼らにとって、伊澤蘭奢とは何者だったのか。そして、彼女は何を求めて生きたのか。


「Nからの招待状」「丸髷の細君」「イジャラン」「茉莉花」「焦土の貴婦人」「逆光線」「手紙」「桜の面影」の八編から成る連作。

こういう人がいたんですね。主要人物の中では徳川夢声しか知らなくて、巻末の参考文献見て、ひえっとなりました。内藤民治も、福田清人も、伊藤佐喜雄も…錚々たる面子じゃないですか。

女優になるときめて、夫と子どもと別れた繁(しげ)。その生き方に共感はできなくても、そんなふうに生きた彼女に、どうしようもなく惹かれるのは何故でしょうか。愚かでも、失敗しても、自分の人生を選びとり、生ききったゆえでしょうか。


2020年7月 5日 (日)

新版 犬が星見た ロシア旅行

3059「新版  犬が星見た    ロシア旅行」  武田百合子      中公文庫      ★★★★

昭和44年6月、武田泰淳・百合子夫妻と友人・竹内好は、ロシアに旅立った。中央アジアからロシアへ。さらに、北欧へ。百合子の目を通した旅の記録。


武田百合子の「富士日記」は必読…と聞いてはいたものの、三冊もあるので腰が引けて。なら、こっちはどうだ!と。

いやはや。噂に違わずというか…なんとも稀有な書き手でした、武田百合子。気負わない。飾らない。ものすごくフラットな視線。でも、人物の描写を読んでいると、百合子さんがその人を好きか嫌いかわかってしまう。百合子さんは、そういう思いを隠さない。でも、嫌な感じはしない。ただ自分がどう思うかだけで、ジャッジしようとしていないから。

観光地であれ、その地で生活している人たちであれ、同じツアーの人たちであれ、百合子さんはフラットな視線でとらえ、淡々と「記録」していく。自分自身さえも。その文章のなんと心地よいことか。

おもしろいなあと思いつつ、2週間以上かかってやっと読み終えました。一気には読めない。小一時間読むと、もう頭がいっぱいになってしまって。饒舌な文章でもないのに、何故でしょう(ちょっと体調崩してるのもあったかもしれませんが)。

さて、次は「富士日記」。いつ読めるかなあ(苦笑)



2020年7月 2日 (木)

駆け入りの寺

3058「駆け入りの寺」  澤田瞳子      文藝春秋      ★★★★

比叡山の麓にある林丘寺は、比丘尼御所。つまり、出家した皇女が住持をつとめる尼門跡の一つ。現在の住持は二十一歳の元秀(霊元上皇皇女)。先の住持・元瑶は後水尾上皇の皇女で、すでに高齢。赤子の頃に両親を失い、林丘寺に引き取られた静馬は、今は青侍として寺で働いている。元瑶を慕い、育ててもらった恩を返すべく勤めに励む静馬だが、寺には訳ありの人々が逃げ込んできて…。


「駆け入りの寺」「不釣狐」「春告げの筆」「朔日氷」「ひとつ足」「三栗」「五葉の開く」の七話から成る連作。

いきなり御所言葉が飛び出してビビり、さらに「後水尾天皇? 霊元?  いつだっけ…??」となり、あわててその辺を調べたり。いやはや。澤田さん、守備範囲広すぎ(苦笑)

尼門跡って、漠然とした知識しかなかったので、読みながら「そういうものだったのか~」の連続でした。

それはともかく。主人公は、静馬という青年。生い立ちが複雑で、影を背負っているところがあるのですが、寺に関わる人々の人生に触れることで、静馬自身の世界も少しずつ変容していく。そんな物語。

幼い頃に「逃げた」ことを後悔している静馬は、寺に逃げてくる人々に厳しい目を向けます。それでも、生きていくために「逃げる」という手段が時には必要だと、静馬も納得していくのです。

元瑶尼の包容力に救われる思いがしますが、彼女もまた懊悩を抱えて生きてきたとわかる最終話では、思わず涙が…。そして、安易な大団円ではなく、それでも希望を感じさせる幕切れも、とても好きでした。




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