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2020年8月

2020年8月31日 (月)

春や春

「春や春」  森谷明子      光文社      ★★★★

再読です。初読は2016年1月。4年半ぶりですね。当時は俳句甲子園もよくわかってなくて、これを読んでからちょっと勉強しました。さらに続編(?)の「南風吹く」も読み、さらに俳句甲子園全国大会が行われる松山にも足を運び…。

そうして読み返してみると、やはり見えてくる景が広がります。

今回、はっとさせられたのは、「批評は否定ではない」ということです。俳句甲子園では、対戦チームの句を批評する「鑑賞」があり、舌戦が繰り広げられます。それが大会の見所ですが、たまに相手を論破するのに命をかけてるような生徒もいて、ひっかかっていたのです。でも、この物語では「批評は否定ではない」と言明しています。相手を叩きのめすのではなく、「もっといい表現があるのではないか」と、皆で追究する作業なんですね。

そうして、改めて思うのは、登場人物一人一人を掬いとる構成の上手さです。藤ヶ丘女子高校俳句同好会に集った6人それぞれの思い。彼女たちの回りにいる人たちの物語。それが実にバランスよく配置されていて、若さゆえのひたむきさと、それを見守る大人たちの姿が、嫌みなく描かれています。初心者で俳句甲子園を目指す無謀な挑戦をした茜たちの世界が徐々に広がっていく過程が、心地よかったです。

2020年8月28日 (金)

空は逃げない

3083「空は逃げない」  まはら三桃      小学館      ★★★

大学の陸上部で棒高跳びをやっているA太郎とB太郎。彼らの姿をスケッチしている芸術学部の絵怜奈。3人の時間は交差したかと思うと、それぞれを思わぬ道に誘い…。


まはら三桃さんは、「たまごを持つように」「鉄のしぶきがはねる」以来。久しぶりに読みました。

今回の題材は棒高跳び。もう全然わからない世界でしたが、私みたいな門外漢にもイメージしやすいように描写されていました。真逆のタイプのA太郎とB太郎(なぜこんな名前なのかは、ネタバレになるので…)。簡単に言ってしまえば、才能とは何かってことになるのでしょうけれど。遺伝子レベルでの適性とか、能力とか、そんなもんで測れるほど、ニンゲンは単純にできてませんよ、と。

この2人に関わってくる絵怜奈が、なかなかユニークで、ちょっと最後までつかみきれませんでした。彼女が抱えている重いものが、私にも消化できなかった感じ。

「空は逃げない」という題名が、読み終えたあとにじんわり効きました。

表紙の写真がすごく好きで手に撮ったら、濱田英明さんでした。あ~、やっぱり濱田さんの写真、好きだなあ。

2020年8月26日 (水)

鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。

3082「鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。」  川上和人      新潮文庫      ★★★★

鳥類学者・川上和人先生のこの本、ずっと気になっていたのです。文庫化されたので、購入。

私は完全なインドア人間ですが、自分では絶対に経験しないであろう「フィールドワーク」には妙に惹かれます。川上先生の研究は、小笠原諸島がメイン。これがとんでもない面白さでした。

次々に繰り出される小ネタをかわしながら読み進めると、想像を絶する過酷なフィールドワークが…。鳥にも興味はないのに、川上先生の描写が実に生き生きとしていて、すごく楽しみながら読んでしまいました。笑い話かと思いきや、いきなり深い話になっていたり。自然を、生物相を保全することの意義と難しさを考えさせられました。

ただ、私はやっぱり鳥類学者は無理ですね~。

一番印象に残ったのは、先生のバイブルは「ナウシカ」だったということです(笑)

2020年8月22日 (土)

ビブリア古書堂の事件手帖Ⅱ ~扉子と空白の時~

3081「ビブリア古書堂の事件手帖Ⅱ  ~扉子と空白の時~」  三上延      メディアワークス文庫      ★★★

北鎌倉のビブリア古書堂の店主・栞子の娘・扉子。祖母に呼び出された彼女は、父が記録した「ビブリア古書堂の事件手帖」を携えていた。そこには、扉子の知らない横溝正史にまつわる謎をめぐる事件が記されていた。


シリーズ再始動ってことは、本格的にシーズン2がスタートしたということですね。

今回は、横溝正史をめぐる謎。横溝が戦時中に書いた家庭小説「雪割草」と、誰もが知っている「獄門島」が題材。

扉子が生まれる前に栞子たちが依頼された、「雪割草」の盗難事件。完全な解決に至らなかったこの事件は、年月を経て再度栞子たちの前に現れて…。

「ビブリア」では横溝を取り上げてなかったのですね。ちょっと意外でした。

このシリーズは扉子がキーパーソンになっていくのでしょうか? 今回は、まだ過去の事件の話で、栞子と大輔が探偵役でしたが。

それにしても、祖母の智恵子は扉子に何を見出だそうとしてるのでしょうね。怖いなあ。

2020年8月20日 (木)

まだ温かい鍋を抱いておやすみ

3080「まだ温かい鍋を抱いておやすみ」  彩瀬まる      祥伝社      ★★★★

「ひと匙のはばたき」「かなしい食べもの」「ミックスミックスピザ」「ポタージュスープの海を越えて」「シュークリームタワーで待ち合わせ」「大きな鍋の歌」の六話。

食べ物が重要なモチーフだけど、美味しそうな食べ物が出てきて、それでみんな幸せになるという話では、ない。

「ポタージュスープ~」のこんな言葉にドキリとした。

『家族の味の好みとか、栄養とか、(中略)そういうことばかりジグソーパズルみたいに考えてたら、自分がなにを食べたいかぜんぜん分からなくなってた。』

わかる。わかります。私もそうです。人に食べさせるために作っていると、そうなる。心身が疲れていると、スーパーで何を買ったらいいか決められなくて、売場をグルグルしてしまう。

最近は迷うと、「自分が食べたいものを食べる!」と開き直るようにしている。でも、意外と食べたいものって決められない。

「シュークリームタワー~」と「大きな鍋の歌」が、なんだか好きでした。食べることは、生きることですね。

彩瀬さんの描く世間に上手くフィットできない人たちが、妙に好きです。

2020年8月19日 (水)

逆ソクラテス

3079「逆ソクラテス」  伊坂幸太郎      集英社      ★★★★

小学校六年生の時。加賀と安斎、草壁、佐久間の四人が、担任の久留米先生に仕掛けた小さな反乱。キーワードは「僕は、そうは、思わない」。


伊坂幸太郎デビュー20年目は、少年たちの物語。

「逆ソクラテス」「スロウではない」「非オプティマス」「アンスポーツマンライク」「逆ワシントン」の五話。いずれも小学生が主人公だったり、小学生のときの思い出が鍵になっていたり。

伊坂作品の中では、恐ろしくとっつきやすい(笑)  いつもは伊坂ワールドにフィットするまで時間がかかるのですが、今回は難なく入り込めました。

しかし、「逆ソクラテス」は、グサグサ刺さりまくりました(苦笑)  教壇に立ったことのある人なら、たぶん同じ思いを味わえるかと。でも、わかる。加賀たちの気持ち、すごくわかる。先入観をひっくり返す「僕は、そうは、思わない」が、ズシンときました。それを言える勇気は、大人にだって必要です。

どの話も愛おしいのですが、一番好きなのは「アンスポーツマンライク」です。一歩踏み出す勇気がもてない歩と、仲間たちの話。次の「逆ワシントン」のラストに登場する彼は、彼でしょうか?(意味不明ですね。すみません)

あとがきで、「どうしたら自分だからこそ書ける、少年たちの小説になるのか。」と悩みながら書いた、と。いや、見事に伊坂さんならではの物語でしたよ。

2020年8月18日 (火)

合唱 岬洋介の帰還

3078「合唱  岬洋介の帰還」  中山七里      宝島社      ★★★

凶悪犯の取り調べ中に意識を失った天生検事。目を覚ましたとき、目の前で被疑者は銃殺されていた。凶器からは天生の指紋。硝煙反応も出て、天生は逮捕される。そして、友人である天生を救うべく、あの男が帰ってきた。


このシリーズはずっと読んでいますが、どうやら他の登場人物も他シリーズで活躍しているようですね。たくさんのキャラが登場する豪華版ですが、ストーリー的にはちょっと薄味だったかな。

岬洋介はどんどん「凄い」人物になっていきますねぇ。彼にバトンが渡されると、もう全てトントン拍子で(苦笑)

日本に帰ってきた洋介の物語はまだ続くようですが。

2020年8月16日 (日)

東京會舘とわたし 下 新館

3077「東京會舘とわたし  下  新館」  辻村深月      毎日新聞出版      ★★★★

「金環のお祝い」「星と虎の夕べ」「あの日の一夜に寄せて」「煉瓦の壁を背に」「また会う春まで」の五話。1976年から2015年までの東京會舘の物語。

圧巻は直木賞受賞がクライマックスになる「煉瓦の壁を背に」。辻村さんだから書ける物語でした。

全般的に、上巻よりリアリティがあるように感じました。作者のリアルに近いからなんでしょうね。特に、震災を扱った「あの日の一夜に寄せて」は、最初はセレブな人たちの話か…と鼻白んだのですが、ラストは思わず涙が。

「ハレ」の場である東京會舘。ずっとそこにあり続けるその場で定点観測した人々の営み。そこから浮かび上がる時代。堪能しました。

2020年8月11日 (火)

ここは、おしまいの地

3076「ここは、おしまいの地」  こだま      講談社文庫      ★★★★

田舎の集落で生まれ育ち、個性的な家族の中で「当たり前」が何なのか知らずに生きてきた筆者。うまくいかないことばかりだけれど、それでも「こんな私が『かわいそう』な訳ないでしょう。」


こだまさんの初エッセイ集。タイトルの「おしまいの地」とは、筆者が生まれ育ち、今もご両親が住む田舎のこと。

先日はくどうれいんさんの「うたうおばけ」を読みました。同じエッセイでも全く違うのだけど、共通しているのは、「書くことの力」を信じていること。それぞれの立場で書くことに向き合っている二人から伝わってくるのは、書くことで生きている、それが欠くべからざるものであることを自覚している強さ、でした。

こだまさんのエピソードは、驚かされたり、笑ってしまったりすることが沢山。嘘でしょ?と言いたくなるような話の連続。でも、どこかしら共感してしまうというか。かっこ悪くあがいたり、ジタバタしたり、大失敗して死ぬほど恥ずかしい思いをしたり。私もいつかどこかで味わったそういう思いが、嫌味なく書かれているのです。

そして、決して卑屈じゃない。それに、他者を貶める嫌らしさがない。

あとがきを読むと、なぜ書こうと思ったのか、何を書きたかったのか、よくわかります。その上で読むと、「私が『かわいそう』な訳がない」という一文が胸に響きます。

2020年8月10日 (月)

じんかん

3075「じんかん」  今村翔吾      講談社      ★★★★

戦国の梟雄・松永久秀。三好家に仕え、のちに織田信長の配下となった久秀は、どのような人物だったのか。


前半生が謎に包まれている松永久秀。「御家乗っ取り・将軍殺し・大仏焼き討ち」という三悪を為したと言われ、最期は信長に逆らい、大名物の茶釜・平蜘蛛を我が身にくくりつけて爆死。私が大雑把に把握しているのはそれくらいです。

久秀の少年時代、生きる道しるべとなる多聞丸との出会いから始まり、三好元長との出会いとその夢を託されるまで。さらに、元長の長子・長慶の重臣時代、三好三人衆との確執。信長の配下となり、信長に叛き…と、久秀の一生を通して、彼は何を思い、何を目指していたのかを描いた物語。

悲惨な生い立ちゆえに神仏を信じない九兵衛(久秀)。しかし、さまざまな人々との出会いを通して、九兵衛は世のあるべき姿を見出だし、抗い続けるのです。

今、こんな世の中だからこそ余計に、刺さる言葉がたくさんありました。久秀は志半ばで倒れたけれど、それはまた次の誰かにリレーされていく。そうして受け継がれてきた人の世を、私たちはどうするのでしょう。

2020年8月 8日 (土)

ハーリー・クィンの事件簿

3074「ハーリー・クィンの事件簿」  アガサ・クリスティ      創元推理文庫      ★★★

他人の人生の観察者であり続けた老紳士サタスウェイト。しかし、ある日ハーリー・クィンと名乗る人物に出会ったことがきっかけで、サタスウェイトはその観察眼を生かし、事件の謎を解きはじめる。


ポアロともミス・マープルとも違う、ハーリー・クィンものの短編集。12編を収録。

「三幕の殺人」に登場したサタスウェイトは、こちらのシリーズの事実上の探偵役なのですね。

何者なのかよくわからないハーリー・クィンが触媒となって、サタスウェイトがその観察眼を生かした推理を展開するといった、一風変わったミステリ。ちょっとホラー風味もあって、クリスティのストーリーテラーぶりが楽しめます。


2020年8月 4日 (火)

東京會舘とわたし 上 旧館

3073「東京會舘とわたし  上  旧館」  辻村深月      ★★★★

大正十一年、東京丸の内に誕生した東京會舘。そこで働く人たち、そこに集う人たちの人生を、東京會舘を舞台に描くクロニクル。


上巻は、「クライスラーの演奏会」「最後のお客様」「灯火管制の下で」「グッドモーニング、フィズ」「しあわせな味の記憶」の五話。大正12年から昭和39年まで。

それぞれの時代を、東京會舘という「ハレ」の場を拠点にして描く…と聞くと、壮大なスケールを想像してしまいますが、主人公になるのは普通の人たち。そこで働く人や、ほんの一時立ち寄る人。彼らにとって特別な意味をもつ東京會舘。その思いを描くことで、時代が浮かび上がってきます。

歴史上のビッグネームも登場しますが、むしろ庶民にとっての東京會舘というスタンスが、私にとっては好ましかったです。関東大震災と戦争をくぐり抜けた東京會舘の歴史は、下巻に続きます。

2020年8月 1日 (土)

うたうおばけ

3072「うたうおばけ」  くどうれいん      書肆侃侃房      ★★★★

作家で歌人で俳人、盛岡在住のくどうれいん、初のエッセイ集。


今年の春。Twitterのタイムラインに、「うたうおばけ」「くどうれいん」という言葉がやたら流れてきて。何?と思ったら、岩手出身・在住、高校時代にいろいろ賞をとっていた工藤玲音さんのエッセイ集でした。

書店でちょっと読んでみたら…あら、おもしろい。文章に軽妙なリズムがあって心地よいのです。

身の回りの出来事や友人のこと、恋人のこと。誰もが素通りしてしまうことに目をとめて、的確な言葉で記していく。エッセイとはそういうものでしょう。でも、それが難しいのです。

好きなのは、「ミオ」と「アミ」。それから「エリマキトカゲ」「山さん」「秩父で野宿」「まつげ屋のギャル」。衝撃的だったのは「一千万円分の不幸」。教職にあった者としては、身が凍りました…。

「Sabotage」で触れている新聞記事に登場する女子高生は知っている子で。あ~、県民だなあ、と。ほかにも登場するお店や場所など知ってるところが沢山で、嬉しかったです。

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