「や」行の作家

2020年7月14日 (火)

平安人の心で「源氏物語」を読む

3065「平安人の心で『源氏物語』を読む」  山本淳子      朝日選書      ★★★★

源氏物語の巻名は誰がつけた? 紫式部のルーツとは?  平安貴族の価値観や社会通念を知ることで見えてくる「源氏物語」のおもしろさとは。


山本先生の著作はいくつか読みましたが、これが一番とっつきやすいかもしれません。朝日新聞出版「週刊  絵巻で楽しむ源氏物語五十四帖」に掲載されたエッセイをもとに構成されたもの。

「源氏物語」の内容をもとに、当時の貴族社会・文化を解説し、どういう文脈で描かれているのか、それが当時の読者にどう受け取られたのかを説明しています。

知っていそうで知らないことがたくさん。「源氏物語」初心者にもおすすめです。目次を見て、おもしろそうなところからつまみ食いしてもいいかもしれません。

山本先生は、桐壺更衣は一条天皇の中宮・定子がモデルだと考えていらっしゃいます。であれば、紫の上には道長の娘・彰子の影を感じるのは私だけでしょうかね。


2020年3月29日 (日)

紫式部ひとり語り

3018「紫式部ひとり語り」  山本淳子      角川ソフィア文庫      ★★★★

紫式部はなぜ「源氏物語」を書いたのか。その誕生秘話を、紫式部自身が語る。


山本淳子先生の著作を読むようになったのはTwitterのおかげです。平安朝の価値観に着目し、「枕草子」や「源氏物語」が描きたかったものは何かをわかりやすく解き明かしてくれるのがとても面白く。

その山本先生が、「紫式部の一人称での独白」という形でまとめた、紫式部の生涯と「源氏物語」成立の秘話。これが面白くないわけがないでしょう、と。

生い立ちから始まり、恋、結婚、夫との死別。不本意ながら女房として出仕したこと。主人たる中宮彰子への尊敬。同僚の女房たちのこと。清少納言と「枕草子」のこと。道長との関係。そして、「源氏物語」。

「紫式部日記」と「紫式部集」をもとに描かれた「ひとり語り」は、一人の女性の生きざまを、リアルに再現してくれます。ままならぬ世を、惑い、泣きながら生き抜いた一人の女性の書いた物語が、千年以上の時を超えて読み継がれてきたことに、素直に感動しました。

そして、知らないことがいっぱい!ということを思い知らされました。(苦笑)  勉強しよう…。

2020年1月28日 (火)

犬神家の一族

2998「犬神家の一族」  横溝正史      出版芸術社      ★★★★

犬神佐兵衛翁の遺言が、惨劇を引き起こす。金田一耕助への依頼人は、面会の直前に殺され、信州の犬神家を訪れた金田一は想像を絶するような事件に遭遇する。


「横溝正史自選全集」4巻。映画やドラマで何度も見ていますが、改めて読むとけっこう入り組んでいて。でも、映像よりも、こちらの方がわかりやすかったです。

映画等ではあまり感じなかったのですが、佐兵衛の人生もなかなか苛烈で、歪んだ生き方をしたゆえに心まで歪み、それがさらに周りの人々も歪ませていく…というのが、なんともやりきれなかったです。

横溝作品は、今も映像化が続いていますが、気持ちはわかります。実に映えるだろうなと思われる場面が沢山あるので。「犬神家」に関しては、例のスケキヨの場面がインパクトありすぎる訳ですが。

この作品もそうですが、金田一ものには、戦後だから成立したというものが多いです。戦争がなかったら、ここまでひどい事態に陥らなかっただろうに、という。そのことが、重くのし掛かってきます。

2019年12月31日 (火)

八つ墓村

2986「八つ墓村  横溝正史自選全集3」  横溝正史       出版芸術社      ★★★

分限者・田治見家の相続人として見出だされた辰弥は、同時にその村で起こったという凄惨な大量殺戮事件のことを知らされる。かつて落武者たちを惨殺した八つ墓村に帰った辰弥は、不可思議な連続殺人事件に巻き込まれてしまう。


BSプレミアムでドラマ化されたのが、なかなかよかったのですが(金田一耕助は吉岡秀隆)、典子って誰?ということで、原作を読んでみました。

典子!すごい存在感!というか、この物語で唯一の救いというか。…映画では、これがカットされて、その代わり美也子の出番が増えたのですね。たしかに、原作では終盤は美也子がほとんど姿を見せなくなっていました。

「典子がいると話が複雑になる」という意見をどこかで読みましたが…そうなんでしょうか。私としては典子の存在に救われましたけど。

そして、映像化作品ではイマイチ理解できなかった人間関係も、活字で読んだら納得しました。

というわけで、これが2019年の読み納め。

2019年9月 8日 (日)

蒼色の大地

2944「蒼色の大地」 薬丸岳   中央公論新社   ★★★

山間の小さな集落で、青い目ゆえに差別され、虐げられて育った灯。そんな彼を影ながら心配し、支えた新太郎と鈴の兄妹。灯と鈴は惹かれあうが、新太郎と灯は、そばにいるだけで何故か互いに不快な気分になってしまうのだが・・・。のちに村を離れた三人は、運命に導かれるようにして「鬼仙島」で再会する。海賊の一味になった灯。灯を探す鈴。そして、海軍兵士として海賊討伐を命ぜられた新太郎。彼らが選び取った道は・・・。

 

螺旋プロジェクト作品。今回は明治時代が舞台。西南戦争から数年といったところでしょうか。

薬丸岳さんはほぼ初読み(何かのアンソロジーで短編は読んだことあったような)。読みやすかったです。現代ものを書かれている作家さんというイメージがあるのですが。

さて、螺旋プロジェクトなので、当然、海族と山族の対立が描かれますが、これまた直球でした(笑) はっきりと憎みあっているリーダーに引きずられるようにして、争いが起こる。その中に取り込まれてしまう灯(海族の少年)と、新太郎・鈴(山族の兄妹)。灯と新太郎は対立するけれど、灯と鈴は惹かれあって・・・。ベタなようでいて、ストーリーに起伏があり、それなりに読み応えがありました。海龍と山神のいきさつや、お鶴と蒼狼の関わり、平蔵がなぜ鬼仙島にいるのかなど、準主役級の登場人物のストーリーを知りたくなりました。

ちょっと残念だったのは、せっかく明治の設定なのに、イマイチ時代感が感じられなかったこと。その辺がもう少し書き込まれていれば、平蔵の行動にももっと説得力が出たのになあ、と。そうすれば、「虫が好かない」だけで争うことが、他者を、時代を巻き込んでいる愚かさがもっと伝わっただろうに。単に海と山の対立の話になってしまったのが物足りなかったです。

ただ、物語の着地点は好きでした。

2019年8月25日 (日)

NHK 100分 de 名著 平家物語

2939「NHK 100分 de 名著 平家物語」 安田登   NHK出版   ★★★★

「100分で名著」のテキスト。初めて購入しました。

古典文学の中で一番好きなのが「平家物語」なので、なんとなく見た「100分で名著」でしたが・・・。講師の安田登さんのお話がおもしろくて。さらに、能楽師である安田さんが朗読すると、物語世界が目の前に立ち上がってくるようで。録画して、何度も見て・聴いていました。

で、テキストも買ってみたら、放送では割愛されたのであろう説明部分がかなり詳しく載っている。買ってよかった。

まず、安田さんの基本の視点は、「平家は鎮魂の物語である」ということ。これは、平家の人々だけのことではなく。その辺は、「はじめに  鎮められるのは誰の魂か」で述べられています。能楽師ならではの視点で、私には新鮮でした。また、「平家はフィクション」という点を押さえた上で、史実との違いにこだわるのでなく、登場人物がなぜそういうキャラクター化されたのかを、随時考えていく手法です。そして、「光と闇」や「驕り」など、読み解く上で安田さんがあげるキーワードが、また魅力的なのです。

私にとってちょっと驚きだったのは、「平家」を戦国武将たちも聞いていたという点でした。それはあまり想像したことがなかった。そういう場では、「平家」はどういう役割をもって、どう受け止められていたのか。それを考えると、文学を介して歴史がつながっていくおもしろさも実感できるのでした。

放送では安田さんは何度も「声に出して読むのが面白い」とおっしゃっていましたが、同感です。というか、どこかで安田さんの朗読による「平家物語」全文を出してくれないでしょうか。抜粋でもいいから・・・。

2019年6月11日 (火)

文豪お墓まいり記

2911「文豪お墓まいり記」 山崎ナオコーラ   文藝春秋   ★★★

 

「現代の作家が、昔の作家に会いに行きます」・・・山崎ナオコーラさんが、文豪のお墓まいりをするという企画のエッセイ。

 

文豪ブーム(?)らしいので、これもその流れか・・・と思っていたら、著者が山崎ナオコーラさん。それがちょっと意外でした。それなら、そんなにミーハーな企画じゃないのかなと思い、手に取りました。

文字通り、文豪のお墓まいりをする話なのですが、文豪のあれこれだけでなく、山崎さんご自身の「書くこと」「生きること」に対する考えがおもしろかったです(おもしろいというのは、失礼でしょうか)。

特に、「死」に対する考え方と、作家と戦争との関わりについては実に興味深く、山崎ナオコーラという作家はそういう視点の持ち主なのか・・・と、初めて知りました。

実は、山崎ナオコーラ、読んだことないのです。アンソロジーか何かで短編を読んだことはあったかも・・・というくらいで。けれど、書くことに非常に自覚的な作家さんであるのだなあという印象を受けました。なんとなくとか、雰囲気でとか、そんな筆の運び方をする方ではないのだな、と。

これを読んで、「読もうと思いつつ未読の作家」を思い出しました。幸田文と武田百合子。読まねば読まねば。

2019年5月23日 (木)

志ん生一代

2902「志ん生一代」 結城昌治   小学館文庫   ★★★★

 

不世出の天才落語家・古今亭志ん生。何度も何度も失敗を繰り返しながら、落語を愛し続けた破天荒な一代記。

 

「いだてん」絡みです(笑) とは言え、買ってきたのは夫。落語好きなので。私はネタバレになるのが怖くて、「いだてん」放送終了まで読まないつもりでしたが、先日、森山未来の一人三役(?)の芝居を見て、もう居ても立ってもいられず。

私は落語のことは全然わからず、噺家さんたちのこともほとんどわからず。志ん生の名前は知っていましたが、どんな人かも知らず。この本を借りたとき、夫がニヤッと笑って「ほんとにしょうもない人だよ」

ええ、ほんとにしょうもない人でした(笑)

ドラマでもなかなかひどい男ですが、こちらもすごい(笑) 基本、この本もドラマの元ネタの一つだと思われますが、ドラマの美濃部孝蔵(志ん生の本名)の方が、それなりにかっこうがついています。

とにかく、呑む打つ買うがずっとやめられない。落語に熱心なのは事実だけれど、飲んでしまって高座に穴をあけたり、なけなしの金を博打ですったり。それがずーっと続くのです。普通は、それなりに売れたらいい暮らしをするはずなのですが、全然変わらない。結婚しても、子供ができても変わらない。あげく、変なところで強情だったりして、噺家うちでトラブルになる。何度も。

志ん生という人間のもつ愛嬌や矛盾、意地や滑稽さを、ウエットになりすぎず書いたこの作品は、ベースに志ん生への愛情と尊敬があるので、読んでいてとても心地よかったです。

脳裏では、すっかりドラマのキャストが会話をしていて、これまた楽しかったです。「いだてん」観てなかったら、たぶん一生読まなかった本でした。

 

2019年2月14日 (木)

島津家の戦争

2861「島津家の戦争」 米窪明美 ちくま文庫 ★★★★

「都城島津家日誌」をもとに、最強の武士集団・島津家の歴史をたどる。関ヶ原、薩英戦争、戊辰戦争、西南戦争、日露戦争…それは、薩摩から見たもう一つの日本史であった。


なかなか面白かったです。薩摩藩の特殊性から始まり、それが幕末の動向にどのように作用していったのか、実にわかりやすく書かれています。

西南戦争では薩摩は二分されたのだと思っていましたが、実は三つに分かれていたというのも、私には驚きでした。薩軍、政府軍、そして島津家。あの時期を島津家はどう見ていたのか。分家筋の都城島津の視点ですが、かつての主君と家臣の関わりなど、なかなか複雑なものがありました。

さらに、日露戦争当時の都城島津家当主の動向まで書かれていて、これも新鮮な感じでした。さすがにこの頃になると、旧薩摩藩も変容せざるを得ないのですが…それでも変わらない部分には驚かされました。

これを読んでいると、明治維新は何を新しくし、何を壊したのか、徐々に見えてくる気がします。その是非はまた別として。

初めて読む方と思っていたら、「明治宮殿のさんざめき」を書いた方でした。

2018年12月 7日 (金)

第六天の魔王なり

2831「第六天の魔王なり」 吉川永青 中央公論新社 ★★★

新しい時代の扉をこじ開けた織田信長。「第六天魔王」と呼ばれた彼は、稀代の傑物か、それとも…。


信長に惚れ込んで、あれこれ調べて悦に入ってたのは、もうずいぶん昔のこと。最近はすっかりご無沙汰してます。

というのも、小説で描かれる信長のスーパーマンぶりにうんざりしてきたからで。日本人って、信長に対して変なフィルターかかってるよなあ…と、さめた目で見ていました。

これも前半、浅井長政に裏切られるあたりまでは、あまりピンと来なかったのですが、徐々に作者の描きたいものが見えてきて、俄然おもしろくなりました。

人間としての織田信長。なるほど、という感じでした。そうなんですよ、信長って家臣とかに裏切られることも多かったし、織田軍も弱い。よくこれで…と思うことの連続なのですよ。その辺を書いてくれているのが、気に入りました。

光秀との関わりは出来すぎな気もしますが、こういうドラマも、小説としてはアリでしょう。

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