「ま」行の作家

2017年6月18日 (日)

スタフ

2592「スタフ」 道尾秀介   文藝春秋   ★★★★

別れた夫の発案だった移動デリで昼食を売る夏都は、ひょんなことから芸能界を揺るがすスキャンダルを知ってしまう。スキャンダルをもみ消そうとするアイドルに協力することにした夏都と甥の智弥、それに塾講師の菅沼は、事件の渦中に飛び込むが・・・。

初・道尾秀介です。前から興味はあったのですが、どこから読めばいいのかわからなくて、(苦笑) とりあえず、これはおもしろそうだなとチェックしていたので。

前半・中盤・後半と、物語の流れ方が違っていて、流れにのるまでちょっと苦労しました。夏都と智弥のやりとりにやっと慣れたら、カグヤたちが登場してジェットコースター的な展開になって、それが解決したと思ったらどんでん返し、みたいな。

夏都のキャラがなんとも痛くて・・・。私にもこういうとこあるなあと思いながら読んでました。

なんとなく、伊坂幸太郎作品に似た雰囲気だと感じたのは私だけでしょうか。

2017年6月 6日 (火)

バッタを倒しにアフリカへ

2589「バッタを倒しにアフリカへ」 前野ウルド浩太郎   光文社新書   ★★★★

アフリカでのバッタ被害を食い止めるために、バッタ博士はモーリタニアへ向かった。それは、「修羅への道」の始まりだった。バッタ博士による「科学冒険就職ノンフィクション」。

いやあ、本来なら手に取らないタイプの本です。昆虫、そんなに興味ないし(どちらかというと苦手)。科学系の話には頭がついていかないし。だいたい、表紙と題名のインパクトがすごすぎるし。

でも、「おもしろい!」と評判なので(なかには「泣ける!」という感想もちらほら・・・)、じゃあ読んでみようかと買ってきました。

いきなり「まえがき」から笑ってしまいました。バッタの研究しすぎて、バッタアレルギーになったバッタ博士って・・・。そして、夢が「バッタに食べられたい」って!

ポスドク(ポスト・ドクター)という不安定な立場で、単身モーリタニアに渡り、サバクトビバッタのフィールド研究をしようと決意した筆者。勝手がわからぬアフリカの地で、現地の研究所のババ所長や、ドライバーである相棒ティジャニたちに助けられながら、砂漠へと飛び込んでいく。

自然のままならなさ。現地の人たちとの交流。そして、何よりバッタとの邂逅。昆虫学者という専門家ながら、平易かつユーモラスな文章で語られるそれらに、すっかり魅了されました。(なぜ、そんな文章を書くようになったのかは、後半を読めばわかります)

そして、すさまじい就職活動。京都大学白眉プロジェクトの面接でのエピソードには笑ってしまったり、思わず涙したり。

とにかく、好きなことをひたすら突き詰めて、まっすぐに突っ走ってきたその生き方に、賞賛の拍手を送りたくなります。

ほんと、これ、いろんな人に読んでほしい! ただ、昆虫が苦手な人(特にバッタ)は、写真けっこうあるので、注意して下さいませ。

2017年5月12日 (金)

貴族探偵

2577「貴族探偵」 麻耶雄嵩   集英社文庫   ★★★★

事件の調査や推理は執事やメイドら使用人まかせ。いわく「雑事は使用人に」。事件あるところに現れる彼は「貴族探偵」。

ドラマは見てないのですが、原作を読んでいる方々に支持されているという珍しい現象に興味をもって、読んでみました。

何も知らずに読んだら、「何じゃこれ」と思ったかもしれません。が、「何もしない」探偵という設定を知っていたので、おもしろく読めました。

「ウィーンの森の物語」「トリッチ・トラッチ・ポルカ」「こうもり」「加速度円舞曲」「春の声」の5編。

いずれも、いかにも「推理小説」といった趣向で、ミステリ読みの楽しさを堪能させていただきました。何もしない探偵ってどうよと思っていたのですが、彼の存在感が物語世界を構築してますねえ。

もう一冊の「貴族探偵対女探偵」も買っておけばよかった~。

2017年1月26日 (木)

花闇

2529「花闇」 皆川博子   河出文庫   ★★★★

幕末の江戸で人気を博した三代目・澤村田之助。稀代の美貌の女形でありながら、病で四肢を切断。それでもなお舞台に立った田之助の生き様とは・・・。

田之助の存在を知ったのは、北森鴻「狂乱廿四考」を読んでからです。田之助ものなら、皆川博子の「花闇」が一番!と聞いていて、いつかは読みたいと思っていたのですが、今回、復刊されたということで、購入。

読んでいて、ずっと居心地が悪いというか、物語の世界にすっと入り込めないような違和感があって、これは何だろうと思っていたのですが。途中で気づきました。視点人物は、田之助の側近く仕える大部屋女形の三すじなのですが、彼が、田之助と距離をとっているのです。田之助の芸に心酔しているはずなのに、どこか冷めている。その距離感が、田之助という人物に没入させないのです。

子役時代からその才能を発揮し、やがて当たり役を得て立女形となった田之助。自らの才をたのむ彼は、高慢であり、純粋であり。時に権十郎(のちの九代目團十郎)といさかいをおこしたりもしながら、花形として江戸の舞台を牽引します。

そんな矢先に襲った病魔。そこからの田之助の生き様は凄まじいものがあります。同時に、幕末から明治へと時代が移り変わり、歌舞伎そのものが変質していくさまも描かれます。

そして、いつのまにか、自分が田之助に魅了されていたことに気づくラスト。田之助をさめて目で見ていたと思った三すじは、誰よりも田之助を愛していたことにも気づかされます。

田之助の人生を描きつつ、当時の芝居の有り様や、時代の流れも描いたこの作品。傑作と言われるのがわかります。読んでよかった。

2017年1月 4日 (水)

ゴーストフォビア

2521「ゴーストフォビア」 美輪和音   創元推理文庫   ★★★

突然、サイキック探偵を名乗った姉・芙二子に助手にされてしまった三紅。偶然出会った神凪という男に触れた瞬間、三紅の聴力を失った右耳に、幽霊の声が・・・。そして、神凪には幽霊の姿が見えてしまう。芙二子は、三紅と神凪を連れて、依頼人のもとへ赴くが・・・。

「フォビア」とは、恐怖症のこと。いろんな恐怖症をもった人間が登場する、連作ミステリ。「ゴーストフォビア」「空飛ぶブラッディマリー」「ドールの鬼婚」「雨が降り出す前に」の4編。

前作の「強欲な羊」のインパクトがすごかったので、ちょっとコメディタッチな感じがあれれ?と。ただ、幽霊とか、描写はものすごく怖いです。ミステリと言うより、これじゃホラーだよ・・・と思いながら読みました。

が、最終話ではそれぞれの恐怖症の原因も明らかになり、見事に謎は解けました。

美輪和音さんって、映画「着信アリ」の脚本家なんですね・・・(別名義ですけど)。どうりで、怖いはずだ・・・。

2016年4月16日 (土)

帰蝶

2423「帰蝶」  諸田玲子                PHP研究所               ★★★★

斎藤道三の娘にして、織田信長の正室・帰蝶。織田家において揺るぎない地位を得ている帰蝶だが、夫との生活は、つねに喉元に刃を突きつけられているような緊張を強いられるものでもあった。そんな帰蝶が唯一心を許せるのは、京の豪商・立入宗継だった。

通称「濃姫」と呼ばれた帰蝶は、ある時期から記録に姿を現さなくなります。その理由を作者なりに推測し、「信長の正室」の生きざまを描き出した物語です。

帰蝶は以前から私のお気に入りなので、非常に楽しみにして読みました。そして、期待通りでした。

奥向きの要、美濃衆の拠りどころとして、また信長の子供たちの母として生きた帰蝶。あんな恐い男を夫にもち、それと渡り合う日々。戦国の女として生ききった彼女の人生は、見事です。

また、本能寺の変に向かって高まっていく不穏な空気の描写には引き込まれました。

2016年3月12日 (土)

ゆうじょこう

2418「ゆうじょこう」    村田喜代子           新潮社           ★★★★

薩摩のさらに南・硫黄島から熊本の廓に売られてきたイチ。娼妓たちのための学校「女紅場」に通いながら、さまざまな女たちの生きざまを目の当たりにする。やがて、廓でストライキが起き…。

貧しさゆえに売られてきた少女。しかし、廓に来たことで、彼女は文字を習い、日記を書く楽しみを覚えるのです。ストレートな表現で綴られるイチの日記は、そのまま彼女の存在の主張です。

不器用だけどたくましいイチのほかにも、さまざまな女が描かれます。生まれついての花魁とも言われる東雲太夫。赤ん坊を生んだ紫太夫。女紅場の先生で、もとは廓にいた鐵子さん。彼女たちのそれぞれの生き方がない交ぜになって、ストライキの場面へと流れ着きます。

この物語のもつ空気が、なんとも不思議です。廓を舞台にするなら、もっとどろどろした濃密な感じがしてもいいのに、なんだか乾いた感じがするのです。それでいて、イチたちの姿がいつの間にかくっきり浮かび上がってくるというか。うまく言えませんけど。

「牛馬と同じ」と言われた娼妓たちの生きざま、間違いなく「人」である彼女たちの人生が、生き生きと描かれています。

2015年6月16日 (火)

ご近所美術館

2309「ご近所美術館」 森福都   東京創元社   ★★★

海老野の会社の近所にできた小さな美術館。居心地の良さとコーヒーのうまさに惹かれて常連になった海老野は、新館長の董子に一目惚れ。美術館の客たちがもちこむ謎を解き明かし、董子にアピールしようと奮闘する。董子の妹・あかねは、海老野を応援してくれるのだが・・・。

7つの短編から成る連作ミステリです。本には「ほんわかミステリ」とありますが、起こる事件の中には殺人とかもあって、「ほんわか」とはいかがなものか、と。

短編なので、少しずつ読んでいましたが、思わぬ時間を要してしまいました。なんとなく、世界に入り込めなかった感じです。なぜなんだろうと考えてましたが、海老野が一目惚れした董子のキャラがイマイチ印象が弱いのです。美人なのはわかるんですが、それ以上の魅力を感じないというか。

まあ、それには理由があるわけで。最後まで読めば、ああ、そういうことか、と思うんですが。

ミステリとしてはそこそこおもしろかったですが、タイトルが謎解きのヒントになってしまってるのもあって、私的にはちょっと点が辛くなりました。

2015年4月30日 (木)

リケイ文芸同盟

2279「リケイ文芸同盟」 向井湘吾   幻冬舎   ★★★

数値化できないものは、苦手。理学部数学科卒の桐生蒼太は、夏木出版に就職。かがく文庫編集部に配属されて3年。突然、文芸編集部への異動を命じられる。自分が一番苦手な分野だとへこむ桐生に、同期の嵐田は理系だからこそできる仕事をしろとアドバイスする。果たして、桐生はベストセラーを生み出せるのか。

先日、「みんなの少年探偵団」を読んだときに、「指数犬」という奇妙なタイトルの作品がありました。それを書いた作家さんの作品なので、読んでみました。ご本人もバリバリの理系なんですね~。

理系ということにやたらこだわる桐生が、少々うっとうしくもあったのですが、さわやかな青春ものという感じでした。バリバリの文系の私にはよくわかりませんが、理系の人から見ると、世界はそう見えるんだなあと思いながら読んでました。でも、文系人間が皆、勘で生きているわけではないですけど。

もっとも、理系としての自分にこだわり、かたくなになっていた桐生は、大事なものを失ってしまうのですが・・・。その辺はちょっと苦いものがありましたが、若い時ってそんなものかな、と。

しかし、実際問題、文芸書をあまり読まない編集って、いいんでしょうか・・・?

2014年7月26日 (土)

アンのゆりかご

2155「アンのゆりかご」 村岡恵理   新潮文庫   ★★★★

副題「村岡花子の生涯」。

「花子とアン」はたまに見る程度ですが、なかなかおもしろい・・・というわけで、これも読んでみました。「赤毛のアン」は読んではいるものの、それほどの思い入れはなく。村岡花子さんのことも、あまりよく知りませんでした。

彼女の生涯と意義については、梨木香歩さんの解説が語りつくしている気がします。私が興味をひかれたのは、「少女たちが読むのにふさわしい文学を!」という花子さんの思いです。というのは、私はまさに花子さんたちが世に出してくれたいわゆる「家庭文学」にどっぷりはまって育ったからです。

お気に入りだった「若草の祈り」や「少女パレアナ」。原題が「昔かたぎの一少女」なのは覚えているけれど、題名が思い出せないあれはなんだったか・・・。蛾をとって売るというのが衝撃だった(笑)「リンバロストの乙女」。繰り返し繰り返し読んだあれらの本のことを、久しぶりに思い出し、なつかしく、豊かな気持ちになりました。

文学としては低く見られがちで、私もいつしか離れてしまいましたが、本当に価値の低いものだったのでしょうか。「近頃の男性人気作家の、どろどろした性愛や、複雑な人間関係を描いた作品のほうが、よほど害になるではないか。」には、笑ってしまいました。ほんとうに。

ところで、ドラマはかなりベタな感じでドラマティックに構成されていますが、花子さんの実人生もドラマに負けないくらい波乱万丈で、驚きました。旦那様とやりとりした手紙は、ものすごい甘々で・・・。柳原白蓮とも親しかったのですね。白蓮だけでなく、さまざまな女流文学者とも交流があったこと、戦時中のことなど・・・脚色しなくてもドラマになりそうな人生は、圧巻でした。

やっぱり、「赤毛のアン」は読み直さないといけないかな。花子さんが戦時中に原稿を抱えていた姿を想像しながら。

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