「ま」行の作家

2017年1月26日 (木)

花闇

2529「花闇」 皆川博子   河出文庫   ★★★★

幕末の江戸で人気を博した三代目・澤村田之助。稀代の美貌の女形でありながら、病で四肢を切断。それでもなお舞台に立った田之助の生き様とは・・・。

田之助の存在を知ったのは、北森鴻「狂乱廿四考」を読んでからです。田之助ものなら、皆川博子の「花闇」が一番!と聞いていて、いつかは読みたいと思っていたのですが、今回、復刊されたということで、購入。

読んでいて、ずっと居心地が悪いというか、物語の世界にすっと入り込めないような違和感があって、これは何だろうと思っていたのですが。途中で気づきました。視点人物は、田之助の側近く仕える大部屋女形の三すじなのですが、彼が、田之助と距離をとっているのです。田之助の芸に心酔しているはずなのに、どこか冷めている。その距離感が、田之助という人物に没入させないのです。

子役時代からその才能を発揮し、やがて当たり役を得て立女形となった田之助。自らの才をたのむ彼は、高慢であり、純粋であり。時に権十郎(のちの九代目團十郎)といさかいをおこしたりもしながら、花形として江戸の舞台を牽引します。

そんな矢先に襲った病魔。そこからの田之助の生き様は凄まじいものがあります。同時に、幕末から明治へと時代が移り変わり、歌舞伎そのものが変質していくさまも描かれます。

そして、いつのまにか、自分が田之助に魅了されていたことに気づくラスト。田之助をさめて目で見ていたと思った三すじは、誰よりも田之助を愛していたことにも気づかされます。

田之助の人生を描きつつ、当時の芝居の有り様や、時代の流れも描いたこの作品。傑作と言われるのがわかります。読んでよかった。

2017年1月 4日 (水)

ゴーストフォビア

2521「ゴーストフォビア」 美輪和音   創元推理文庫   ★★★

突然、サイキック探偵を名乗った姉・芙二子に助手にされてしまった三紅。偶然出会った神凪という男に触れた瞬間、三紅の聴力を失った右耳に、幽霊の声が・・・。そして、神凪には幽霊の姿が見えてしまう。芙二子は、三紅と神凪を連れて、依頼人のもとへ赴くが・・・。

「フォビア」とは、恐怖症のこと。いろんな恐怖症をもった人間が登場する、連作ミステリ。「ゴーストフォビア」「空飛ぶブラッディマリー」「ドールの鬼婚」「雨が降り出す前に」の4編。

前作の「強欲な羊」のインパクトがすごかったので、ちょっとコメディタッチな感じがあれれ?と。ただ、幽霊とか、描写はものすごく怖いです。ミステリと言うより、これじゃホラーだよ・・・と思いながら読みました。

が、最終話ではそれぞれの恐怖症の原因も明らかになり、見事に謎は解けました。

美輪和音さんって、映画「着信アリ」の脚本家なんですね・・・(別名義ですけど)。どうりで、怖いはずだ・・・。

2016年4月16日 (土)

帰蝶

2423「帰蝶」  諸田玲子                PHP研究所               ★★★★

斎藤道三の娘にして、織田信長の正室・帰蝶。織田家において揺るぎない地位を得ている帰蝶だが、夫との生活は、つねに喉元に刃を突きつけられているような緊張を強いられるものでもあった。そんな帰蝶が唯一心を許せるのは、京の豪商・立入宗継だった。

通称「濃姫」と呼ばれた帰蝶は、ある時期から記録に姿を現さなくなります。その理由を作者なりに推測し、「信長の正室」の生きざまを描き出した物語です。

帰蝶は以前から私のお気に入りなので、非常に楽しみにして読みました。そして、期待通りでした。

奥向きの要、美濃衆の拠りどころとして、また信長の子供たちの母として生きた帰蝶。あんな恐い男を夫にもち、それと渡り合う日々。戦国の女として生ききった彼女の人生は、見事です。

また、本能寺の変に向かって高まっていく不穏な空気の描写には引き込まれました。

2016年3月12日 (土)

ゆうじょこう

2418「ゆうじょこう」    村田喜代子           新潮社           ★★★★

薩摩のさらに南・硫黄島から熊本の廓に売られてきたイチ。娼妓たちのための学校「女紅場」に通いながら、さまざまな女たちの生きざまを目の当たりにする。やがて、廓でストライキが起き…。

貧しさゆえに売られてきた少女。しかし、廓に来たことで、彼女は文字を習い、日記を書く楽しみを覚えるのです。ストレートな表現で綴られるイチの日記は、そのまま彼女の存在の主張です。

不器用だけどたくましいイチのほかにも、さまざまな女が描かれます。生まれついての花魁とも言われる東雲太夫。赤ん坊を生んだ紫太夫。女紅場の先生で、もとは廓にいた鐵子さん。彼女たちのそれぞれの生き方がない交ぜになって、ストライキの場面へと流れ着きます。

この物語のもつ空気が、なんとも不思議です。廓を舞台にするなら、もっとどろどろした濃密な感じがしてもいいのに、なんだか乾いた感じがするのです。それでいて、イチたちの姿がいつの間にかくっきり浮かび上がってくるというか。うまく言えませんけど。

「牛馬と同じ」と言われた娼妓たちの生きざま、間違いなく「人」である彼女たちの人生が、生き生きと描かれています。

2015年6月16日 (火)

ご近所美術館

2309「ご近所美術館」 森福都   東京創元社   ★★★

海老野の会社の近所にできた小さな美術館。居心地の良さとコーヒーのうまさに惹かれて常連になった海老野は、新館長の董子に一目惚れ。美術館の客たちがもちこむ謎を解き明かし、董子にアピールしようと奮闘する。董子の妹・あかねは、海老野を応援してくれるのだが・・・。

7つの短編から成る連作ミステリです。本には「ほんわかミステリ」とありますが、起こる事件の中には殺人とかもあって、「ほんわか」とはいかがなものか、と。

短編なので、少しずつ読んでいましたが、思わぬ時間を要してしまいました。なんとなく、世界に入り込めなかった感じです。なぜなんだろうと考えてましたが、海老野が一目惚れした董子のキャラがイマイチ印象が弱いのです。美人なのはわかるんですが、それ以上の魅力を感じないというか。

まあ、それには理由があるわけで。最後まで読めば、ああ、そういうことか、と思うんですが。

ミステリとしてはそこそこおもしろかったですが、タイトルが謎解きのヒントになってしまってるのもあって、私的にはちょっと点が辛くなりました。

2015年4月30日 (木)

リケイ文芸同盟

2279「リケイ文芸同盟」 向井湘吾   幻冬舎   ★★★

数値化できないものは、苦手。理学部数学科卒の桐生蒼太は、夏木出版に就職。かがく文庫編集部に配属されて3年。突然、文芸編集部への異動を命じられる。自分が一番苦手な分野だとへこむ桐生に、同期の嵐田は理系だからこそできる仕事をしろとアドバイスする。果たして、桐生はベストセラーを生み出せるのか。

先日、「みんなの少年探偵団」を読んだときに、「指数犬」という奇妙なタイトルの作品がありました。それを書いた作家さんの作品なので、読んでみました。ご本人もバリバリの理系なんですね~。

理系ということにやたらこだわる桐生が、少々うっとうしくもあったのですが、さわやかな青春ものという感じでした。バリバリの文系の私にはよくわかりませんが、理系の人から見ると、世界はそう見えるんだなあと思いながら読んでました。でも、文系人間が皆、勘で生きているわけではないですけど。

もっとも、理系としての自分にこだわり、かたくなになっていた桐生は、大事なものを失ってしまうのですが・・・。その辺はちょっと苦いものがありましたが、若い時ってそんなものかな、と。

しかし、実際問題、文芸書をあまり読まない編集って、いいんでしょうか・・・?

2014年7月26日 (土)

アンのゆりかご

2155「アンのゆりかご」 村岡恵理   新潮文庫   ★★★★

副題「村岡花子の生涯」。

「花子とアン」はたまに見る程度ですが、なかなかおもしろい・・・というわけで、これも読んでみました。「赤毛のアン」は読んではいるものの、それほどの思い入れはなく。村岡花子さんのことも、あまりよく知りませんでした。

彼女の生涯と意義については、梨木香歩さんの解説が語りつくしている気がします。私が興味をひかれたのは、「少女たちが読むのにふさわしい文学を!」という花子さんの思いです。というのは、私はまさに花子さんたちが世に出してくれたいわゆる「家庭文学」にどっぷりはまって育ったからです。

お気に入りだった「若草の祈り」や「少女パレアナ」。原題が「昔かたぎの一少女」なのは覚えているけれど、題名が思い出せないあれはなんだったか・・・。蛾をとって売るというのが衝撃だった(笑)「リンバロストの乙女」。繰り返し繰り返し読んだあれらの本のことを、久しぶりに思い出し、なつかしく、豊かな気持ちになりました。

文学としては低く見られがちで、私もいつしか離れてしまいましたが、本当に価値の低いものだったのでしょうか。「近頃の男性人気作家の、どろどろした性愛や、複雑な人間関係を描いた作品のほうが、よほど害になるではないか。」には、笑ってしまいました。ほんとうに。

ところで、ドラマはかなりベタな感じでドラマティックに構成されていますが、花子さんの実人生もドラマに負けないくらい波乱万丈で、驚きました。旦那様とやりとりした手紙は、ものすごい甘々で・・・。柳原白蓮とも親しかったのですね。白蓮だけでなく、さまざまな女流文学者とも交流があったこと、戦時中のことなど・・・脚色しなくてもドラマになりそうな人生は、圧巻でした。

やっぱり、「赤毛のアン」は読み直さないといけないかな。花子さんが戦時中に原稿を抱えていた姿を想像しながら。

2014年6月25日 (水)

僕のお父さんは東電の社員です

2143「僕のお父さんは東電の社員です」 毎日小学生新聞・編+森達也   現代書館   ★★★★

サブタイトル「小中学生たちの白熱議論! 3・11と働くことの意味」

毎日小学生新聞に載ったコラムに対して反論した「ゆうだい君」の投書。東電社員を乳に持つ彼の主張は、小学生をはじめ、世の人々に波紋を投げかけ、さらに多くの投書が届けられました。これは、その記録と、編集長である森達也氏からのメッセージです。

ずっと読みたいと思い、同時に手に取るのをためらってきた一冊です。決して目をそらしてはならないと思っていながら、いまだに受け止めきれずにいる「フクシマ」の出来事に、若い世代がどう向き合っているのか、怖いような気持ちでいました。

たしかに、小学生の投書は、幼さも目立ちます。それでも、現実に向き合おう、「ゆうだい君」の思いに対し、自分の思いを返そうという気持ちに満ち溢れています。これを読みながら、つくづく自分自身の無関心・無責任の罪について考えさせられ、少なからず落ち込みました。

私は、私にも責任があると思っています。それは、原発には懐疑的で、建設反対だったのに、徐々に無関心になってしまったからです。高校生か大学生くらいでしょうか。なんとなく、原発に反対することが過剰反応のような空気が世の中に漂っていったのは。私も、世の多くの人たちと同じように、その流れに流されました。

そうしてきた結果が、今です。私は、私たち大人は、とんでもないことをしてきたのではないか(あるいは、大事なことをしてこなかったのではないか)という思いは、震災以後消えることがありません。しかし、立ち止まっているわけにもいかず、自分にできることは何かと自問自答を続けています。

若くして未曽有の災害に出会った世代が、このことをどう受け止め、どんな社会をつくっていくのか。私たちは彼らにどんなバトンを渡せるのか。本気で考え、行動しなければならないのではないでしょうか。

いちばん印象に残ったのは、森達也氏の言葉です。

「なぜ人は数が増えると間違えるのか。」

また今、何かを間違えてしまいそうになっている気がしてなりません。

2014年6月 7日 (土)

強欲な羊

2135「強欲な羊」 美輪和音   東京創元社   ★★★

艶やかな大輪の薔薇のような麻耶子と、可憐で儚げな桜のような沙耶子。美しい姉妹の間で起こった殺人事件。いったい、「羊の皮をかぶった狼」とは誰なのか。

「強欲な羊」「背徳の羊」「眠れぬ夜の羊」「ストックホルムの羊」「生贄の羊」の5編。「女性ならではの狂気と恐怖を描いたイヤミス連作集」だそうです。

いやあ、怖いです。タイトルでだいたい内容の想像はつくのですが、それでも恐ろしい。一番怖かったのは、「背徳の羊」に登場した女性でしょうか。ほんとにこんな人、いるんだろうか。いるんだろうな、どこかには・・・と思ってしまうところが怖かったです。

それぞれの話に趣向が凝らされていて、あきることなく一気読みしてしまいました。ただ、「生贄の羊」はちょっと無理やりな気もしましたが。無理に連作にしなくてもよかったような。

2013年12月 6日 (金)

鉄のしぶきがはねる

2070「鉄のしぶきがはねる」 まはら三桃   講談社   ★★★

「何かに一生懸命になっとる時、それが本物かどうか、人は時々試されるんよ。本物になりたかったら、そこで踏ん張れ。」

この言葉が身に沁みる物語でした。

工業高校に通う女子高生・三郷心(みさと・しん)は、ちょっとしたきっかけで、旋盤の魅力にとりつかれる。しかし、それは心にとって苦い記憶と心の傷に触れることでもあった。「ものづくりコンテスト」を目指す、先輩の原口や、亀井、吉田といった男子たちにまじって金属加工に取り組む心。そして、厳しい先輩・原口へのほのかな思いも・・・。

バリバリの文系で、しかも技術を学習してない世代の私には、何のことやらわからない世界が展開してました(笑) でも、読んでいるうちになじんでしまいました。いや、具体的には理解できなかったですが。

物語としては、少々物足りない気もするのですが、心が葛藤しながらも自分のやりたいことにまっすぐ向き合えるようになっていく過程が、とても好きでした。もの研仲間の男子たちも、さりげなくいい味出してるし。

中学生におすすめしたい一冊です。

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