「さ」行の作家

2017年10月 4日 (水)

腐れ梅

2646「腐れ梅」 澤田瞳子   集英社   ★★★★

平安時代、京の片隅で色を売って暮らす似非巫女の綾児(あやこ)は、その美貌を見込まれ、巫女仲間の阿鳥の企みに誘われる。菅原道真の怨霊を神様として祀ろう、と。道真の名すら忘れられていた時代だったが、綾児は気が進まないながらもその話に乗ろうとするのだが・・・。

「若冲」の澤田瞳子さんの新作は、澤田流「北野天神縁起」といったところでしょうか。文句なしにおもしろかったです。

巫女とは名ばかり、色を売るのが商売の綾児と阿鳥、それに道真の孫の菅原文時らが絡んできて、北野に天神様が祀られるまでを描く物語。

なんといっても、綾児が圧巻です。美貌を恃んで生きている女で、徹底的に愚かなんだけど、実にたくましい。思慮は浅いし、感情にまかせて動くので、ことごとく失敗するのだけれど、徐々にそんな綾児を応援してしまっている自分がいました。とにかく、生きることに貪欲で、愚かさを自覚しつつも、卑屈にならないところがいいのです(だから、反省しないんだけど)。

綾児と、正反対の阿鳥と、二人の巫女を中心に、菅原文時をはじめとする実在の人物が、それぞれの思惑で策謀を繰り広げ、物語はうねるように二転三転。そして、クライマックスで・・・。この構成も実に見事で、「これしかない!」というような展開をみせます。一気に読んでしまいました。

「若冲」もすごくよかったのですが、これもまた・・・。澤田瞳子さん、要チェックです。

2017年9月 1日 (金)

学生を戦地へ送るには

2628「学生を戦地に送るには 田辺元『悪魔の京大講義』を読む」 佐藤優   新潮社   ★★★★

京都帝国大学教授・田辺元の講義録「歴史的現実」は、多くの若者を戦場へ送り出した。その「悪魔の講義」を読み解き、その欺瞞を暴く。二度と騙されないための「思考の集中キャンプ」全記録。

「戦地へ赴く学生たちのバイブルとなった」という、田辺元の講義。いったいどんなものだったのだろう、どんなロジックを用いれば、そんなことが可能なんだろう。そして、現在もすでにその手法は使われていないだろうか・・・そんな思いで手に取りました。

難しかったです(苦笑) いかにふだん頭を使っていないか、よくわかりました。

まず「哲学」というものに触れたことがないので、最初は本当に四苦八苦でした。佐藤さんの解説はおもしろくてスラスラ読めるのですが、田辺の講義になると・・・。この講座の参加者と同じように、音読したりもしてみました。だから、読むのにすごい日数がかかってます。

佐藤さんが言うように、八割はすごく丁寧に、まともな論理を展開しているのです。残り二割がおかしい。論理が飛躍し、破綻している。でも、一人で読んでいたら、その「おかしい」部分の方がきっとわかりやすいのです。で、そこで言っていることは、「国のために死ね」ということ。それが、もっともらしい理屈でいかにも「意味のあること」になっているのです。しかも、京大生という「エリート」たちの意識をくすぐる形で。

戦争はいやだ、死にたくないという、本能に根ざした皮膚感覚はとても大事だと思うのですが、こういう「知」の領域で人を追い込むことも可能な以上、やはり私たちは学ばねばならないこともたくさんある、と強く感じました。二度と騙されないためにも。

これは、いろんな人に読んでみてほしい一冊。いろんな「目からウロコ」ポイントがたくさんあります。

2017年7月21日 (金)

かわうそ堀怪談見習い

2608「かわうそ堀怪談見習い」 柴崎友香   KADOKAWA   ★★★★

恋愛小説家という肩書きに違和感を感じ、怪談を書くことにした。それからというもの、ちょっと奇妙な出来事が身辺で続き・・・。わたしが忘れてしまったこととは、いったいなんだろう・・・?

柴崎友香さんは、ずいぶん以前に一冊読んだきり。今回は、図書館の「怖い話」コーナーにあったので、手に取りました。

この世ならぬ世界にふっとアクセスしてしまう瞬間。そんな奇妙な出来事が積み重ねられていって、「わたし」が取り戻した記憶とは・・・。なぜそうなるのか、何が起こっているのか、よくわからないまま、「わたし」はこの世と怪異との狭間を除き続ける、そんな話。

ものすごく怖いというのではないけれど、読んでいるうちに、自分のすぐそばにも異世界がぽっかりと口をあけているのではないか・・・という気になります。

2017年7月11日 (火)

ずうのめ人形

2603「ずうのめ人形」 澤村伊智   角川書店   ★★★★

オカルト雑誌のアルバイト・藤間は、変死したライターが持っていたある原稿を読む羽目に。その小説らしき原稿に現れる人形の姿が、藤間の視界に入るようになり・・・。

「ぼぎわんが、来る」の澤村さんの第2作。現実と小説を行ったり来たりの構成なのですが、抜群のリーダビリティで読ませます。

前半は、ある少女を主人公にした小説の方が迫力があって、先が読みたくてたまらなくなるのですが、終盤、現実世界が一気に立ち上がってきて、圧倒されました。

これ、ネタバレ厳禁なやつなので、これ以上書けませんが・・・怪異を生み出すのは人の心、そして人はそれを制御できなくなるというのは、やはり恐ろしいです。そして、ラストの「その後」はいったいどうなってしまうんでしょう。というか、これを読んでしまったことが、ちょっと恐ろしくなりました。

2017年4月21日 (金)

罪の声

2565「罪の声」 塩田武士   講談社   ★★★★

父の遺品らしき古いカセットテープから流れてきたのは、幼い日の自分の声だった。それは、昭和史に残る「ギン萬事件」の犯人が使用したもの・・・。自分と家族は、あの事件の加害者だったのか? 京都でテーラーを営む曽根俊也は、ありえない現実に驚愕する。

昨年の夏、「文庫X」を仕掛けた盛岡さわや書店さんが、次に読むならこれ!とお勧めしていたので、気になっていました。フィクションですが、あの「グリコ・森永事件」を題材にした社会派ミステリ。極力、実際にあった事件の状況に沿って構成されていて、フィクションとわかっていても、これが真実なのではないかというすさまじい臨場感と迫力で読ませます。

物語は、自分の声が犯罪に利用されたことを知った曽根俊也のサイドと、文化部記者ながら「ギン萬事件」の再検証記事の取材に駆り出された阿久津英士のサイドから語られていきます。

全く別の動機から始まった二人の「過去」の追及は、やがて交差し、影響を与え合い、「現実」から「未来」へと視点を変えていく。この流れが実に見事で、実際の「グリコ・森永事件」も、確実に子どもを巻き込み、その人生に影を落としたのだろうと納得できます。

犯罪をおかして幸せになる人はいないし、犯罪者が裁かれないことはさらなる不幸を生むのだということをあらためて考えさせられました。

本屋大賞の候補にもなったようなので、これを契機にさらに多くの人に読まれることを期待する一冊です。

2017年2月12日 (日)

文庫解説ワンダーランド

2535「文庫解説ワンダーランド」 斎藤美奈子   岩波新書   ★★★★

文庫についている「解説」とは、いったい何? 並み居る名作やベストセラーは、どう「解説」されてきたのか。読者を発見と混乱に導く文庫解説とは。

文庫解説の解説? そりゃおもしろそうだ。しかも、斎藤美奈子さんだし。

と手に取ったら、見事に当たりでした。いや、おもしろかった。

たとえば、夏目漱石「坊っちゃん」、川端康成「伊豆の踊子」、太宰治「走れメロス」など。これら名作と称される作品たちは、どんなふうに「解説」されてきたのか。いろんな文庫で出ているので、これらを比較することで見えてくるものとは・・・。

また、チャンドラー「ロング・グッドバイ」とフィッツジェラルド「グレート・ギャツビー」の共通点とは? 「武士道」をどう読むか? 松本清張作品への超辛口解説とは? 小林秀雄作品への解説はこれまた難解? などなど。(これらは、ほんの一部です)

文庫を読むと、解説も一応読むんですが、けっこう「なんだこりゃ」なことがありまして。はっきり言えば、「一冊で二度おいしい」という経験の方が少ない気がしてたんですが、どこがおかしかったのか、これを読んでよくわかりました。そうか、そもそも「解説」になってなかったんだ。

ただ、たまに解説がすごくよく書かれていて、その後感想を書こうとしても、すべて解説の引き写しになりそうで参ってしまうこともあります(杉江松恋さんの恩田陸「夏の名残りの薔薇」解説がそうでした)。でも、それでこそ、「解説」なんですよねえ。

これからは、文庫の解説を読む視点もちょっと変わりそうです。

2017年1月20日 (金)

文・堺雅人

2527「文・堺雅人」 堺雅人   文春文庫   ★★★★

堺さんって賢い人だなあ・・・というのが、読後の感想。

お勉強ができるとかいうことではなくて。自分が向き合っているもの、興味関心のあるものについて、きちんと言葉で表現しようとする、その粘り強さ。そして、過不足のない表現。押し付けがましくないけれど、揺るぎない自分がそこにある。

そんな感じでした。

以前、「真田丸」撮了後にテレビに出たとき、どんな質問にも誠実かつ的確に答えるクレバーさに目を見張ったのですが、ああいう人が文章を書くと、こうなるのか・・・と。非常におもしろかったです。

その時々に出演していた舞台や映画、テレビの話もあり、「このときは、こんなことを考えていたのね」(個人的には、「篤姫」の家定役のところが興味深かったです。あの大河も、完走しました・・・)というのが、ファンにはたまらんですね。

そして、先日読んだ大泉洋さんのエッセイとの雰囲気の違い!(笑) 大泉洋ってやっぱりエンターテイナーなんですね。なにかおもしろいことを書こうと一生懸命になってる。堺さんは、あえてそういうことをしない感じ。真逆な二人のを読み比べて、楽しみました。

ぜひとも、「真田丸」撮影中のことも、書いてほしいですね。そのとき考えていたこととか、知りたいです。

一つ、悲鳴をあげそうになったのは、台本を全部捨てちゃうということ。まさか、「真田丸」も捨てちゃったんでしょうか? それだけは、残しておいて・・・。

2016年12月 9日 (金)

殺人犯はそこにいる

2505「殺人犯はそこにいる」 清水潔   新潮文庫   ★★★★

副題「隠蔽された北関東連続幼女誘拐殺人事件」。

新潮ドキュメント賞、日本推理作家協会賞受賞作。

そして、「文庫X」の正体。

読んだのは夏だったのですが、「文庫X」の性質上、感想をUPするのは控えていました。(ちなみに、「文庫X」とは、盛岡のさわや書店さんが始めた試みで、書名・著者名をあえて隠して、書店員さんの推薦文のみで売るという企画。12月9日に「文庫X開き」が行われました)

さて、ジャーナリストの著者が、副題となっている「事件」を追ったノンフィクションなのですが、これが事実なのか?という展開を見せます。まず、この「事件」そのものが認識されていないという事実。冤罪。放置された真犯人。そして、司法の闇。調べれば調べるほど混沌としていく状況に、唖然としてしまいました。

それでも、真実の追求を投げ出さない著者の姿勢に、こちらも引っ張られるようにして読み続けました。そして、最後まで読んで、呆然。結局、この事件は何も解決していないのです。

「ごめんなさいが言えなくてどうするの」・・・検察に向けられた被害者遺族のこの言葉が、今も忘れられません。

この本を、より多くの人に読んでほしい、ここに書かれた「事実」を知ってほしいという、さわや書店の長江さんの切迫した思いは、わかる気がします。タイトルを隠して売るという暴挙に出たのも、決して売り上げを伸ばすための姑息な手段などではなく、とにかくこの本を読んでほしいという切なる願いが発端だったのでしょう。

でも、長江さんたちがおっしゃるとおり、スタートはここから、です。この本を読んで、我々はどうするべきか。何ができるのか。この社会をどういう目で見て、どのように変えていけるのか。試されるのは、私たち読者ではないでしょうか。

2016年11月 2日 (水)

夢も定かに

2484「夢も定かに」 澤田瞳子   中公文庫   ★★★★

聖武天皇の御世。後宮で働くことになり、阿波の国から出てきた若子。寮で同室になった笠女は仕事のできるバリバリで、もう一人の春世は男を手玉に取る魔性の女。これといったとりえのない若子はとまどいつつ、日々の仕事に向かうが・・・。

平城京を舞台にした青春小説という、珍しいもの。奈良に心を奪われて数年、こんなの見たら読みたくなっちゃうに決まってるじゃないですか。表紙はかわいいのですが、中身はけっこうシビアでした・・・。

本来なら妹が出仕するはずだったのに、事情があって急に後宮入りした若子。必要な教養は身についてないわ、地方出身の采女と畿内出身の氏女の対立はあるわ、大変な日々。同僚の笠女は、仕事で身を立てる決意をしている有能な采女。春世は殿方にもてるだけでなく、藤原四兄弟の麻呂とのあいだには子まで生しているという・・・。

三者三様の彼女たちですが、それぞれに挫折を味わったりしつつ、自分なりに生きる場所を得ようと必死にあがきます。そのあがき方が、現代でも「あるある」な感じで、共感できるのです。

後宮では、安宿媛と広刀自が対立。ということは、政治の世界では、藤原四兄弟と長屋王が対立しているわけで、この政争の世界に、若子たちも巻き込まれていきます。それぞれ思いがけない展開を見せるのですが・・・。采女という、いわば「その他大勢」な立場の若子たちが、自分たちなりに必死に生きる姿に、思わず応援したくなります。

解説を読んで驚いたのは、この三人には、モデルになった采女がいたということ。歴史の流れにうずもれていた女子たちを見つけ、こんなドラマを描いてみせる作者の手腕に脱帽です。

2016年3月20日 (日)

信長の肖像

2419「信長の肖像」 志野靖史   朝日新聞出版   ★★★★

加賀出身の絵師・狩野小次郎は、京へ出て、狩野永徳のもとで扇絵を描いていた。しかし、本来描きたい絵は、雪舟流の人物画であった。時の権力に接近する狩野派は、織田信長から絵の注文を受ける。その際、信長に見出された小次郎は、歴史に名を残す人物の肖像を描くことになるのだった。

第7回朝日時代小説大賞受賞作。

武田信玄、羽柴秀吉、浅井長政、お市御寮人、前田利家、前田利長の妻・お永(信長の娘)、そして織田信長。この物語の主人公・小次郎が描いた人物です。なるほど、その人物のありようをそのまま描き出そうとすることは、内面までも映し出すことになるのですね。

それぞれに、注文主の思惑があり、描かれる人物の心があり、それを一本の筆でとらえる絵師というのは、なんという技量の持ち主なのでしょう。

小次郎の目を通して描かれる人々は、歴史上の偉人などではなく、人の心をもった、生きた人間なのです。そう、信長でさえ。

彼らの生き様と同時に、小次郎と、ライバルともいえる狩野永徳の絵師としてのプライドのぶつかりあい、さらに小次郎の出生の秘密など、盛りだくさんの内容がすっきりとまとまって、飽きることなく読まされました。

先日読んだ「天下人の茶」もおもしろかったのですが、こちらも負けていません。特に、信長びいきの方にはおすすめの一冊です。

より以前の記事一覧

その他のカテゴリー

「あ」行の作家 | 「か」行の作家 | 「さ」行の作家 | 「た」行の作家 | 「な」行の作家 | 「は」行の作家 | 「ま」行の作家 | 「や」行の作家 | 「ら」行の作家 | 「わ」行の作家 | あさのあつこ | いしいしんじ | こうの史代 | さだまさし | その他 | たつみや章 | よしもとばなな | アンソロジー | 万城目学 | 三上亜希子 | 三上延 | 三島由紀夫 | 三木笙子 | 三浦しをん | 三浦哲郎 | 三谷幸喜 | 上橋菜穂子 | 中山七里 | 中島京子 | 中田永一 | 中野京子 | 乃南アサ | 乙一 | 井上ひさし | 京極夏彦 | 伊坂幸太郎 | 伊藤計劃 | 伊集院静 | 佐藤多佳子 | 佐藤賢一 | 俵万智 | 倉知淳 | 光原百合 | 冲方丁 | 初野晴 | 加納朋子 | 加門七海 | 北大路公子 | 北山猛邦 | 北村薫 | 北森鴻 | 原田マハ | 司馬遼太郎 | 吉村昭 | 吉田修一 | 向田邦子 | 坂木司 | 夏川草介 | 夏目漱石 | 大倉崇裕 | 大崎梢 | 太宰治 | 奥泉光 | 宇江佐真理 | 宮下奈都 | 宮尾登美子 | 宮部みゆき | 小川洋子 | 小路幸也 | 小野不由美 | 山崎豊子 | 山本周五郎 | 山白朝子 | 岡本綺堂 | 島本理生 | 川上弘美 | 平岩弓枝 | 彩瀬まる | 恩田陸 | 愛川晶 | 戸板康二 | 日明恩 | 日記・コラム・つぶやき | 有川浩 | 朝井まかて | 朝井リョウ | 木内昇 | 朱川湊人 | 杉浦日向子 | 村山由佳 | 東川篤哉 | 東野圭吾 | 松本清張 | 柏葉幸子 | 柚木麻子 | 柳広司 | 柴田よしき | 栗田有起 | 桜庭一樹 | 梨木香歩 | 梯久美子 | 森博嗣 | 森絵都 | 森見登美彦 | 森谷明子 | 横山秀夫 | 橋本治 | 氷室冴子 | 永井路子 | 永田和宏 | 江國香織 | 池波正太郎 | 津原泰水 | 浅田次郎 | 海堂尊 | 海外の作家 | 湊かなえ | 漫画 | 瀬尾まいこ | 田中啓文 | 田丸公美子 | 畠中恵 | 石田衣良 | 福井晴敏 | 笹尾陽子 | 米原万里 | 米澤穂信 | 芥川龍之介 | 若竹七海 | 茅田砂胡 | 茨木のり子 | 荻原規子 | 菅野彰 | 菅野雪虫 | 藤沢周平 | 藤谷治 | 西條奈加 | 西澤保彦 | 角田光代 | 誉田哲也 | 辺見庸 | 辻村深月 | 近藤史恵 | 酒井順子 | 重松清 | 金城一紀 | 須賀しのぶ | 高城高 | 高橋克彦 | 髙田郁 | 鷺沢萠

2017年10月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        

カテゴリー