「さ」行の作家

2021年3月29日 (月)

後宮の烏5

3140「後宮の烏5」 白川紺子   集英社オレンジ文庫   ★★★★

寿雪を烏妃の立場から救い出す方法はわかった。高峻は寿雪のために、もっともつらい道を選ぼうとする。その頃、高峻の二人の妃が懐妊し、宮中は奉祝ムードに包まれる。一方、寿雪のいる夜明宮はひっそりと静まりかえっていた。侍女の九九はじめ気心の知れた仲間たちと、静かながら満ち足りた生活を送る寿雪だったが、いよいよ彼女を烏妃から解き放つ時が・・・。

 

とうとうここまできました。寿雪を烏妃から解き放つ準備が整い、いよいよ。

「笑う女」「黒い塩」「烏妃の首飾り」「破界」の4話。今までの話が全てつながってきて、寿雪が解放される時がやってきます。同時に、寿雪と高峻の関係にも変化が。ただ、どうにも不穏な気配が漂っていて、これは・・・と思っていたら!

ネタバレになるのでこれ以上書けないのですが、あまりの凄まじさと、寿雪の「これから」に思いを馳せて、呆然としてしまいました。

ここまで紡いできた物語が、大きなうねりを見せた今回。さて、この後どう展開するのか、俄然楽しみになってきました。

2021年1月15日 (金)

坂口安吾全集12 明治開化安吾捕物帖(上)

3119「坂口安吾全集12 明治開化安吾捕物帖(上)」 坂口安吾   ちくま文庫   ★★★

文明開化の明治の世。殺人事件のたびに駆り出されるのは、紳士探偵・結城新十郎。旗本の息子にして洋行帰りの新十郎は、その心眼でもって真犯人をピタリと当ててしまう凄腕の探偵である。今日も今日とて新十郎にお呼びがかかり・・・。

 

ドラマの原作です。ドラマはきちんと見ていないのですが、なんとなくおもしろそうで、まあ原作を読んでみるかな、と。軽い気持ちで手に取っ夫の本棚から拝借したら、けっこうな分量で(苦笑)意外と時間がかかってしまいました。

上巻には十一編が収録されています。冒頭の「読者への口上」にある通り、基本的な物語のパターンが決まっています。剣術使いの泉山虎之介が事件に首を突っ込んで、剣術の師匠・勝海舟にその見立てを聞きに行く。海舟は見てきたように推理を披露するが、それは的外れで、新十郎が快刀乱麻を断つごとく、真犯人を明らかにする。このパターンがくり返されるので、正直、読むのが苦痛になってきまして。

ただ、途中からは捕物帖というよりは、殺人に至るまでの経過が詳しく書かれるようになり、その方がおもしろかったです。

推理というよりは、時代の変遷の中であがく人たちの姿の方が印象に残っています。というか、新十郎の人となりがよくわからない。印象が薄すぎるのですが。よくこれをドラマ化しようと思いましたねえ、NHK。

まだ下巻が残っているのですが、少し間を置こうと思います。

2021年1月 4日 (月)

言の葉は、残りて

3116「言の葉は、残りて」 佐藤雫   集英社   ★★★★

権大納言坊門信清の娘・信子は、将軍御台所として鎌倉に下ることに。見知らぬ土地で信子を待っていたのは、まだ若い将軍・源実朝だった。公家と武家という立場の違いを超えて、睦まじい夫婦として暮らす二人だったが、鎌倉幕府の不安定な情勢はやがて信子たちの運命にも暗い影をを落とし・・・。

 

第32回小説すばる新人賞。

これおもしろい!という評判をけっこう耳にしていたのですが、帯にある「歴史恋愛小説」の言葉にドン引きしまして(苦笑)、二の足を踏んでいました。ただ、最近は鎌倉から室町にかけての中世史を少しずつ勉強しているので、やはり気になり、図書館で借りてきました。

まあ、確かに恋愛小説ではあるのです。後鳥羽上皇の意を汲んで将軍御台所となった信子と、青年将軍実朝の。ただし、彼らが置かれていたのは尋常ではない状況なわけで。そもそも実朝が将軍に就いた事情が事情だし。さらに有力御家人どうしの熾烈な権力闘争(というか、反乱・戦)が相次いだ時期でもあり。将軍就任当時はただ周りに流されるだけだった実朝が、徐々に成長し、自分の意志をもち、将軍としての責務を果たそうとする。それ故に軋みが生じる苦悩と、彼が目指した「政治」のあり方を、信子との心の通い合いを通して描き出す過程は、本当に見事でした。寄る辺ない身の上の二人が切実に相手を恋い慕い、必死に生き抜こうとする姿に、不思議なくらい心揺さぶられました。

「言の葉は、残りて」という題名の意味が、終盤、すとんと落ちてきて、思わず落涙しました。

一方、北条家の面々。政子や義時、義時の息子の泰時らが描かれますが、この物語のキーパーソンは阿波局です。政子たちの妹で実朝の乳母。政子とは真逆の性格の彼女の半生は、この時期の鎌倉幕府の不穏さの象徴かもしれません。この北条家の人々を描くという試みが、なかなかおもしろかったです。

登場人物も多く、エピソードも多岐にわたっていて、しかもあまりなじみのない時代なのに、これだけコンパクトに過不足なくまとまっているのが構成としても素晴らしい。そして、史実の羅列ではなく、きちんと血の通った物語として機能しているのですから。「恋愛小説」に腰が引けたままにならなくてよかったです。

考えてみたら、この時代の私の知識は木原敏江「夢の碑」シリーズに負うところが大きく・・・。あれを読んで以来、実朝に興味を抱きながらそのままになっていたのを反省しました。そして、来年の大河ドラマは、北条泰時が主人公の「鎌倉殿の十三人」。やはり勉強しなくては。

2020年12月21日 (月)

化け物心中

3111「化け物心中」 蝉谷めぐ実   角川書店   ★★★

中村座の役者たちの誰かが、鬼に喰われ、とって変わられた。それが誰かを見極めてほしい。そんな依頼を受けたのは、足を失った元女形の魚之助と、その「足」代わりの鳥屋・藤九郎。二人は、役者たちの誰が鬼なのか探ろうとするが、見えてきたのは役者の業。果たして、本当の鬼は誰なのか。

 

小説野性時代新人賞受賞作。選考委員満場一致ということもあり、けっこう話題なようです。最近は、時代ものの若い書き手さんがどんどん登場してうれしい限り。

さて、足を失った名女形といえば、澤村田之助を思い浮かべるクチですが、それをちょっとアレンジした風な田村魚之助が謎解き役。上方から江戸へ、文化の中心が移った文化文政期を舞台に、歌舞伎の世界を描いた作品。ホラーのようでいて、ミステリのようでいて、芸道小説のようでいて。かなりいろんな要素を盛り込みつつ、破綻していないのが素晴らしい。

ただ、ちょっと容疑者(?)は多かったかなという気も。逆に、めるや蜥蜴の出番がもうちょっと欲しい気もしましたが・・・。それに、ところどころ話にすっと入っていけないところがありました。これ、誰の台詞だ?と混乱してしまって。

次作はどんなものを書かれるのか、すごく興味があります。

2020年10月29日 (木)

蝉かえる

3098「蝉かえる」  櫻田智也      東京創元社      ★★★★

昆虫好きの青年・えり(魚へんに入る)沢泉は、かつて大地震があった山形の地で奇妙な話を聞く。当時ボランティアをしていた青年は、少女の幽霊を見たのか?


「サーチライトと誘蛾灯」のシリーズ続編。「蝉かえる」「コマチグモ」「彼方の甲虫」「ホタル計画」「サブサハラの蠅」の五話。

前作も面白かったですが、今回は探偵役の泉の人間性が見えてきて、より面白かったです。

ミステリとしては「コマチグモ」がよくできた話でしょうか。物語としては、「ホタル計画」が好きでした。

飄々とした雰囲気と、読後に残る哀感と。オールドタッチなミステリですが、こういうの、やはり好きです。ただ、虫…特に昆虫食は苦手なので、勘弁していただきたい(涙)

2020年10月 3日 (土)

図書館の子

3090「図書館の子」  佐々木譲      光文社      ★★★

猛吹雪の夜。図書館に一人取り残され、途方にくれるクルミの前に現れた男。彼がクルミに伝えたこととは…。(「図書館の子」)


「遭難者」「地下廃駅」「図書館の子」「錬金術師の卵」「追奏ホテル」「傷心列車」の六話から成るSF短編集。

佐々木譲さんって「警官の血」の人だよなー、こんな話も書くんだー、と好奇心に駆られて手に取りました(しかし、「警官の血」も読んだことない)。

冒頭の「遭難者」を読んで、ちょっと懐かしい雰囲気のSFだなあ、と。こういうの、嫌いじゃないです。「追奏ホテル」の設定もよかったけれど、そこに着地するのか…という印象でした。

表題作「図書館の子」は雰囲気が独特で、これはどういう趣向?と思っていたら、最後に世界がぐるんとひっくり返った感じがしました。

2020年7月 8日 (水)

後宮の烏4

3061「後宮の烏4」  白川紺子      集英社オレンジ文庫      ★★★

「烏妃」としての役割から寿雪を解き放ちたい。皇帝・高峻の願いを叶えるには、わからないことが多すぎた。一方、寿雪を慕う人々が、後宮を中心に増えてきて、それは思わぬ事件を引き起こす。


読み始めたときはここまで話が広がるとは予想しませんでした。

少しずつ人と関わり、人間らしい暮らしに愛着を持ち始めた寿雪。同時に、「烏妃は人を近づけてはならない」という先代烏妃の戒めの意味を思い知るような事件が相次ぎます。

一方、寿雪を役目から解き放ちたいと願う高峻も、それが思いの外困難であることを痛感させられ…。

「蚕神」「金の杯」「墨は告げる」「禁色」の四話。寿雪が生き生きとしてくる一方、彼女を待っているだろう困難を想像させて、息苦しさを感じる話が多かったです。


2020年2月11日 (火)

後宮の烏3

3002「後宮の烏3」  白川朝子      集英社オレンジ文庫      ★★★

孤独であることを義務づけられた烏妃たる寿雪。しかし、寿雪の友を自認する皇帝・高峻を始め、彼女のまわりには人々が集まるようになり、寿雪自身がそれを手放せなくなっていた。そんなおり、鶴妃・晩霞に仕える侍女が、幽鬼に怯えて寿雪のもとへやってくる。


どんどん世界が広がっていきますね。どこまで広がるんだろう?と、読みながら不安になってきたのも事実。要するに、3巻で終わりませんね?と(苦笑)

寿雪の護衛に淡海がつき、之季という切れ者が高峻に仕えるようになってきたあたりで、寿雪が人間らしい感情の動きを見せるようになってきました。

そして、「他者の命を犠牲にして生き延びた者の苦悩」が、繰り返し描かれているのだということも、鮮明に浮かび上がってきました。

その辺りで、この物語はまだまだ完結できない、と理解できました。

ということで、まだまだ先は長そうです。




2019年8月 3日 (土)

承久の乱

2929「承久の乱」 坂井孝一   中公新書   ★★★★

高知・松山・広島をめぐる旅に出ていたのですが、その旅のお供がこれでした。理由は特にない(笑) まあ、ずっと積読してたので。

副題は「真の『武者の世』を告げる大乱」。たしかに論考はここに集約されるのですが、それまでもっていた「承久の乱の意味」「後鳥羽上皇像」「源実朝像」というものが、けっこうガラガラ崩されました。

実は、鎌倉将軍は三代実朝までが私の限界で、その後の摂家将軍とかになると「??」だったのですが、そういうことだったのですね。そして、後鳥羽上皇という人は、なんとも破格の天皇だったようで。その原点にあるのは、「三種の神器の消失」「前帝からの譲位がない」という異常事態だったというのが、なんとも言えず。

院政の開始から語られるので、そこから?と思ったのですが、確かにそこがわかっていないと理解できない点が多々ありました。また、文化的な側面を詳しく説明されていて、これもけっこう目からウロコでした。その必然性や、後鳥羽の「巨人」たる所以がよくわかりました。

承久の乱は、倒幕・討幕ではなかったという論には説得力があり、それが失敗した過程も実によくわかります。そして、それが思わぬ形で歴史の大転換点になっていくという・・・。

あまり得意な時代ではないので、人名が交錯したりしてやや混乱しましたが、それでもこの類の新書としてはわかりやすく、おもしろかったです。

そして、巻末の主要参考文献に思わず「おおぅ」となりました。いや、歴史に関するものを書こうと思ったら、普通こうなるよねえ。

2019年5月10日 (金)

宝島

2896「宝島」 真藤順丈   講談社   ★★★★

 

米軍の物資を盗み、人々に分配する「戦果アギヤー」の英雄・オンちゃん。その親友グスク、弟レイ、恋人ヤマコ。戦後の沖縄で生きる彼らが混沌に飲み込まれたのは、嘉手納基地襲撃が失敗に終わった日からだった。消えたオンちゃん。囚われたレイ。逃げおおせたグスク。襲撃に参加させてもらえなかったヤマコ。そこから、彼らの歩む道は別れ・・・。

 

第160回直木賞受賞作。

エンタテイメントの底力というか、「物語」という枠をもっているからこそできることというか、その凄まじさを感じさせてくれる作品でした。知識として頭の中にあった事実が、血肉をもって目の前に立ち上がってくるような。それがどこからくるかというと、「語り」の文体なのです。

初めはよくわからずとまどいましたが、「語り部(ユンター)」たちによって語られるからこそ、個々の登場人物だけでは補えない部分を読者に提示して、物語が展開します。グスク視点かと思うと語り部が引き取り、レイの怒りにシンクロしそうになると語り部が引き取り、ヤマコの慟哭にこちらも涙すると語り部が・・・という具合で、一人の感情に没入するよりも、彼らの生き様を通して沖縄の生き様を眼前に広げられるような物語でした。

ものすごい力に引きずられるように読んでいたけれど、しんどかったです。レイたちが「日本」に向ける刃は、私自身にも向けられていると感じたから。

私は、沖縄の本土復帰をぼんやりと覚えています。でも、そこに至るまでの沖縄の状況はわかっていませんでした。基地問題も、実際に沖縄の地に立って、あの広大な敷地に唖然とするまで、実感はありませんでした。そういう無関心、他人事(自分が害を被るわけじゃないから)という意識が、レイたちを苦しめてきたんだと・・・今も苦しめているんだと、何度も何度も思いました。・・・でも、だからこそ、読んでよかったのだと思います。

もちろん、グスクも、レイも、ヤマコも、オンちゃんも、とっても魅力的で、青春ものとしてもじゅうぶん読めるし、オンちゃんがどこへ行ってしまったのか、その安否は?というミステリとしても読めます。冒険小説でもあり、バイオレンスものでもあるのかも。ただ、沖縄の歴史のことを考えざるを得ないのは、沖縄で生きることと、それが切り離せないものだからなのでしょう。

この作品と同時に直木賞候補になった「ベルリンは晴れているか」の作者深緑野分さんが、これを激押ししていたのが読むきっかけでした。あちらは終戦直後のベルリン、こちらは1952年から20年間の沖縄という違いはあれど、どこか似ています。理不尽な状況に翻弄される中で、生きようともがく人々。それは、決して「どこか」の「過去」の物語ではないということ。だからこそ、いろんな人に「読んでみて」とすすめたい物語なのです。

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