「さ」行の作家

2017年11月15日 (水)

師走の扶持

2665「師走の扶持」 澤田瞳子   徳間書店   ★★★★

京都の御薬園で働く真葛に縁談が・・・。全くそんな気のない真葛は怒るが、事は意外な展開を見せる。一方、ある公家から真葛に診療の依頼が。それは、真葛の祖父の家からで、日ごろ真葛をないもののように扱っている祖父だけに、義兄の匡は激怒する。しかし、真葛は診察に向かい・・・。

「京都鷹ヶ峰御薬園日録」第2作。

「糸瓜の水」「瘡守」「終の小庭」「撫子ひともと」「ふたおもて」「師走の扶持」の6話。

前半は江戸へ出て薬草の採集をしたり、その帰りの道中で見聞したことなどが題材となり、真葛の世界が確実に広がっていきます。同時に、自分がどのような生き方をするのか、今までよりも意識して考える場面が増えてきました。

なんというか、ゆっくりとだけど、確実に、真葛という女性が成長していく過程が見えてきます。

「師走の扶持」では、真葛の祖父が登場。いったいどんないけ好かない人物かと思いきや、意外な一面が・・・。

これ、続きは書かれてないんでしょうか。真葛のその後を、ぜひ読みたいものです。

2017年11月 9日 (木)

ふたり女房

2662「ふたり女房」 澤田瞳子   徳間書店   ★★★★

幼くして母を亡くし、医師であった父も行方知れずとなった元岡真葛は、父の親友・藤林信太夫に引き取られ、実の娘同然に育てられた。藤林家は京都鷹ヶ峰にある御薬園を管理する医師であり、今は真葛の義兄・匡が信太夫の跡を継いでいる。真葛はこのまま一生、薬師として生きていくのだと思っていたが・・・。

「人待ちの冬」「春愁悲仏」「為朝さま御宿」「ふたり女房」「初雪の坂」「粥杖打ち」の六話から成る連作短編。副題「京都鷹ヶ峰御薬園日録」。

澤田瞳子さんにどっぷりはまっています。今度は、女薬師を主人公にしたこのシリーズ第1作。なるほど、こういう視点はまた新鮮な感じがします。薬(江戸時代だから漢方薬)を栽培・採集する幕府の薬園がある京都が舞台。

なんともやりきれないような話が多い中でも、冒頭の「人待ちの冬」が強烈でした。

真葛は優秀な薬師で、医師でもあるのですが、それでも人を救えないことも多々ある。そんな現実に直面した彼女が、これからどんなふうに生きていくのか、シリーズの先が楽しみです。

2017年10月20日 (金)

与楽の飯

2652「与楽の飯」 澤田瞳子   光文社   ★★★★

仕丁(役夫)として徴発された真楯は、東大寺の造仏所に配属され、大仏建立の作業に携わることになる。重労働に耐える真楯たちを支えたのは、信仰ではなく、炊屋を営む宮麻呂の作る飯だった。

副題「東大寺造仏所炊屋私記」。

「山を削りて」「与楽の飯」「みちの奥」「媼の柿」「巨仏の涙」「一字一仏」「鬼哭の花」の7編の連作短編集。

主人公は近江国から東大寺に連れてこられた真楯。三年の任期の仕丁だが、造仏は想像以上の重労働で、生きて帰れる保証すらない。ともすれば荒みそうになる真楯たちを支えるのは、宮麻呂の作る飯。宮麻呂は口は悪いが、肉体労働をする仕丁たちのために、精一杯のうまいものをこしらえてくれる。そんな宮麻呂の過去に触れてしまった真楯は・・・。

東大寺に参詣するたびに思うのは、聖武天皇の思いもさることながら、この大仏建立に関わった「普通の人たち」は、いったい何を思っていたのだろうということです。どんな人たちが、どんな思いで、この大事業に関わったのだろう、と。純粋に信仰のみで働いた人はごく一部で、そうではない人が多かったでしょう。では、その人たちは、どんな思いで、と。

この物語は、そんな「心ならずも」造仏に関わった名もない人々の物語でした。決して望んでやっているわけではない。それでも、そこに残る「思い」。そして、人の生きる意味。読んでいて、胸が熱くなりました。

歴史は、名もない人たちの営みが無限に連なってできていくもの。今、生きている私たちもまた歴史の一部であり、そうであれば私たちはどんな「歴史」をつくっていくのでしょう。

2017年10月 4日 (水)

腐れ梅

2646「腐れ梅」 澤田瞳子   集英社   ★★★★

平安時代、京の片隅で色を売って暮らす似非巫女の綾児(あやこ)は、その美貌を見込まれ、巫女仲間の阿鳥の企みに誘われる。菅原道真の怨霊を神様として祀ろう、と。道真の名すら忘れられていた時代だったが、綾児は気が進まないながらもその話に乗ろうとするのだが・・・。

「若冲」の澤田瞳子さんの新作は、澤田流「北野天神縁起」といったところでしょうか。文句なしにおもしろかったです。

巫女とは名ばかり、色を売るのが商売の綾児と阿鳥、それに道真の孫の菅原文時らが絡んできて、北野に天神様が祀られるまでを描く物語。

なんといっても、綾児が圧巻です。美貌を恃んで生きている女で、徹底的に愚かなんだけど、実にたくましい。思慮は浅いし、感情にまかせて動くので、ことごとく失敗するのだけれど、徐々にそんな綾児を応援してしまっている自分がいました。とにかく、生きることに貪欲で、愚かさを自覚しつつも、卑屈にならないところがいいのです(だから、反省しないんだけど)。

綾児と、正反対の阿鳥と、二人の巫女を中心に、菅原文時をはじめとする実在の人物が、それぞれの思惑で策謀を繰り広げ、物語はうねるように二転三転。そして、クライマックスで・・・。この構成も実に見事で、「これしかない!」というような展開をみせます。一気に読んでしまいました。

「若冲」もすごくよかったのですが、これもまた・・・。澤田瞳子さん、要チェックです。

2017年9月 1日 (金)

学生を戦地へ送るには

2628「学生を戦地に送るには 田辺元『悪魔の京大講義』を読む」 佐藤優   新潮社   ★★★★

京都帝国大学教授・田辺元の講義録「歴史的現実」は、多くの若者を戦場へ送り出した。その「悪魔の講義」を読み解き、その欺瞞を暴く。二度と騙されないための「思考の集中キャンプ」全記録。

「戦地へ赴く学生たちのバイブルとなった」という、田辺元の講義。いったいどんなものだったのだろう、どんなロジックを用いれば、そんなことが可能なんだろう。そして、現在もすでにその手法は使われていないだろうか・・・そんな思いで手に取りました。

難しかったです(苦笑) いかにふだん頭を使っていないか、よくわかりました。

まず「哲学」というものに触れたことがないので、最初は本当に四苦八苦でした。佐藤さんの解説はおもしろくてスラスラ読めるのですが、田辺の講義になると・・・。この講座の参加者と同じように、音読したりもしてみました。だから、読むのにすごい日数がかかってます。

佐藤さんが言うように、八割はすごく丁寧に、まともな論理を展開しているのです。残り二割がおかしい。論理が飛躍し、破綻している。でも、一人で読んでいたら、その「おかしい」部分の方がきっとわかりやすいのです。で、そこで言っていることは、「国のために死ね」ということ。それが、もっともらしい理屈でいかにも「意味のあること」になっているのです。しかも、京大生という「エリート」たちの意識をくすぐる形で。

戦争はいやだ、死にたくないという、本能に根ざした皮膚感覚はとても大事だと思うのですが、こういう「知」の領域で人を追い込むことも可能な以上、やはり私たちは学ばねばならないこともたくさんある、と強く感じました。二度と騙されないためにも。

これは、いろんな人に読んでみてほしい一冊。いろんな「目からウロコ」ポイントがたくさんあります。

2017年7月21日 (金)

かわうそ堀怪談見習い

2608「かわうそ堀怪談見習い」 柴崎友香   KADOKAWA   ★★★★

恋愛小説家という肩書きに違和感を感じ、怪談を書くことにした。それからというもの、ちょっと奇妙な出来事が身辺で続き・・・。わたしが忘れてしまったこととは、いったいなんだろう・・・?

柴崎友香さんは、ずいぶん以前に一冊読んだきり。今回は、図書館の「怖い話」コーナーにあったので、手に取りました。

この世ならぬ世界にふっとアクセスしてしまう瞬間。そんな奇妙な出来事が積み重ねられていって、「わたし」が取り戻した記憶とは・・・。なぜそうなるのか、何が起こっているのか、よくわからないまま、「わたし」はこの世と怪異との狭間を除き続ける、そんな話。

ものすごく怖いというのではないけれど、読んでいるうちに、自分のすぐそばにも異世界がぽっかりと口をあけているのではないか・・・という気になります。

2017年7月11日 (火)

ずうのめ人形

2603「ずうのめ人形」 澤村伊智   角川書店   ★★★★

オカルト雑誌のアルバイト・藤間は、変死したライターが持っていたある原稿を読む羽目に。その小説らしき原稿に現れる人形の姿が、藤間の視界に入るようになり・・・。

「ぼぎわんが、来る」の澤村さんの第2作。現実と小説を行ったり来たりの構成なのですが、抜群のリーダビリティで読ませます。

前半は、ある少女を主人公にした小説の方が迫力があって、先が読みたくてたまらなくなるのですが、終盤、現実世界が一気に立ち上がってきて、圧倒されました。

これ、ネタバレ厳禁なやつなので、これ以上書けませんが・・・怪異を生み出すのは人の心、そして人はそれを制御できなくなるというのは、やはり恐ろしいです。そして、ラストの「その後」はいったいどうなってしまうんでしょう。というか、これを読んでしまったことが、ちょっと恐ろしくなりました。

2017年4月21日 (金)

罪の声

2565「罪の声」 塩田武士   講談社   ★★★★

父の遺品らしき古いカセットテープから流れてきたのは、幼い日の自分の声だった。それは、昭和史に残る「ギン萬事件」の犯人が使用したもの・・・。自分と家族は、あの事件の加害者だったのか? 京都でテーラーを営む曽根俊也は、ありえない現実に驚愕する。

昨年の夏、「文庫X」を仕掛けた盛岡さわや書店さんが、次に読むならこれ!とお勧めしていたので、気になっていました。フィクションですが、あの「グリコ・森永事件」を題材にした社会派ミステリ。極力、実際にあった事件の状況に沿って構成されていて、フィクションとわかっていても、これが真実なのではないかというすさまじい臨場感と迫力で読ませます。

物語は、自分の声が犯罪に利用されたことを知った曽根俊也のサイドと、文化部記者ながら「ギン萬事件」の再検証記事の取材に駆り出された阿久津英士のサイドから語られていきます。

全く別の動機から始まった二人の「過去」の追及は、やがて交差し、影響を与え合い、「現実」から「未来」へと視点を変えていく。この流れが実に見事で、実際の「グリコ・森永事件」も、確実に子どもを巻き込み、その人生に影を落としたのだろうと納得できます。

犯罪をおかして幸せになる人はいないし、犯罪者が裁かれないことはさらなる不幸を生むのだということをあらためて考えさせられました。

本屋大賞の候補にもなったようなので、これを契機にさらに多くの人に読まれることを期待する一冊です。

2017年2月12日 (日)

文庫解説ワンダーランド

2535「文庫解説ワンダーランド」 斎藤美奈子   岩波新書   ★★★★

文庫についている「解説」とは、いったい何? 並み居る名作やベストセラーは、どう「解説」されてきたのか。読者を発見と混乱に導く文庫解説とは。

文庫解説の解説? そりゃおもしろそうだ。しかも、斎藤美奈子さんだし。

と手に取ったら、見事に当たりでした。いや、おもしろかった。

たとえば、夏目漱石「坊っちゃん」、川端康成「伊豆の踊子」、太宰治「走れメロス」など。これら名作と称される作品たちは、どんなふうに「解説」されてきたのか。いろんな文庫で出ているので、これらを比較することで見えてくるものとは・・・。

また、チャンドラー「ロング・グッドバイ」とフィッツジェラルド「グレート・ギャツビー」の共通点とは? 「武士道」をどう読むか? 松本清張作品への超辛口解説とは? 小林秀雄作品への解説はこれまた難解? などなど。(これらは、ほんの一部です)

文庫を読むと、解説も一応読むんですが、けっこう「なんだこりゃ」なことがありまして。はっきり言えば、「一冊で二度おいしい」という経験の方が少ない気がしてたんですが、どこがおかしかったのか、これを読んでよくわかりました。そうか、そもそも「解説」になってなかったんだ。

ただ、たまに解説がすごくよく書かれていて、その後感想を書こうとしても、すべて解説の引き写しになりそうで参ってしまうこともあります(杉江松恋さんの恩田陸「夏の名残りの薔薇」解説がそうでした)。でも、それでこそ、「解説」なんですよねえ。

これからは、文庫の解説を読む視点もちょっと変わりそうです。

2017年1月20日 (金)

文・堺雅人

2527「文・堺雅人」 堺雅人   文春文庫   ★★★★

堺さんって賢い人だなあ・・・というのが、読後の感想。

お勉強ができるとかいうことではなくて。自分が向き合っているもの、興味関心のあるものについて、きちんと言葉で表現しようとする、その粘り強さ。そして、過不足のない表現。押し付けがましくないけれど、揺るぎない自分がそこにある。

そんな感じでした。

以前、「真田丸」撮了後にテレビに出たとき、どんな質問にも誠実かつ的確に答えるクレバーさに目を見張ったのですが、ああいう人が文章を書くと、こうなるのか・・・と。非常におもしろかったです。

その時々に出演していた舞台や映画、テレビの話もあり、「このときは、こんなことを考えていたのね」(個人的には、「篤姫」の家定役のところが興味深かったです。あの大河も、完走しました・・・)というのが、ファンにはたまらんですね。

そして、先日読んだ大泉洋さんのエッセイとの雰囲気の違い!(笑) 大泉洋ってやっぱりエンターテイナーなんですね。なにかおもしろいことを書こうと一生懸命になってる。堺さんは、あえてそういうことをしない感じ。真逆な二人のを読み比べて、楽しみました。

ぜひとも、「真田丸」撮影中のことも、書いてほしいですね。そのとき考えていたこととか、知りたいです。

一つ、悲鳴をあげそうになったのは、台本を全部捨てちゃうということ。まさか、「真田丸」も捨てちゃったんでしょうか? それだけは、残しておいて・・・。

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