「あ」行の作家

2017年8月18日 (金)

天上の葦

2621「天上の葦」 太田愛   KADOKAWA   ★★★★

渋谷のスクランブル交差点。一人の老人が、空を指差して死んだ。いったい、彼は何を見ていたのか。依頼を受けて、それを調べ始めた鑓水と修司は、老人の人生の空白に気づく。一方、消息を絶った公安の山波の行方を追うよう命令された刑事の相馬は、山波の行動に違和感をおぼえる。それぞれが真相を追い求めるうちに、三人の道はクロスして、瀬戸内の島へと導かれ・・・。

地元・さわや書店がプッシュしてたので読んでみました。「相棒」などの脚本を書いている太田愛さんの社会派ミステリ。

上下巻びっしり・・・で、読むのに時間がかかりましたが、読み応えは十分。いろいろな要素が詰まっていて、状況が二転三転して、退屈してるひまなんかありませんでした。

一人の老人が、死の間際に奇妙な死に方をしたことから始まる物語。彼の過去から、現在の世の中における危機的状況まで、大きく展開していきます。

怖いのは、これがフィクションとは限らないよな・・・と思ってしまうことです。火は小さいうちにしか消せないという言葉は、ものすごく重いものがありました。

「誰もこんなことになるとは思っていなかった」という言葉がありました。今の世の中は、あの頃と似てはいないでしょうか。火が大きく燃え広がってからでは、どうにもできなくなってしまう。そのことが、心に残りました。

2017年8月 5日 (土)

深泥丘奇談・続

2616「深泥丘奇談・続」 綾辻行人   メディアファクトリー   ★★★

名も知らぬ神社で鈴の音を聞いたときから、この異変は始まった・・・。作家の「私」が体験する奇妙な世界とは。

続編は、さらに物語世界が広がって、不可思議な展開を見せます。

怪談とはちがって、まさに「奇談」なのですが、なかなか怖い。生理的なところに訴えてくる怖さなのです。ざわざわします。

10編が収録されているのですが、それぞれ微妙にベクトルが違っていて、ホラーの方向性というのも考えさせられました。

2017年7月23日 (日)

深泥丘奇談

2609「深泥丘奇談」 綾辻行人   メディアファクトリー   ★★★★

作家の「私」は、ひどい眩暈におそわれて、近くにある深泥丘病院を受診した。検査のために入院したその夜、奇妙な音が聞こえてきて・・・。

作者の住む京都の町をモデルにした、連作奇談。ずっと気になっていたものの、図書館に行くとすっかり忘れていて・・・を繰り返し、ようやく借りてきました。

綾辻行人といえば、「十角館の殺人」に始まる新本格推理小説。当時、私も新本格ブームに熱狂したものでしたが、最近は綾辻さんもすっかりご無沙汰していました。久しぶりに読んで、文章が練れてきたなあという印象。余分なものがそぎ落とされて、簡潔で読みやすい。でも、不気味さはMAXです(笑)

怖いというより、現実とはチャンネルがずれた世界(作品世界が、非現実ではあるのですが)にいる居心地の悪さ、不気味さがずっと続く感じ。「顔」「丘の向こう」「長びく雨」「悪霊憑き」「サムザムシ」「開けるな」「六山の夜」「深泥丘魔術団」「声」の9編の連作です。

そして、思い出しました。私が綾辻さんから遠ざかった理由。グロい描写が生々しくて(「眼球譚」だったかな)、まいってしまったからでした。「深泥丘奇談」もけっこう・・・。私が一番苦手なのは、「サムザムシ」でした。

でも、こういう奇妙な話って好きなのです。続編も出ているので、読みたいと思ってます(懲りてない)。

2017年7月20日 (木)

メグル

2607「メグル」 乾ルカ   東京創元社   ★★★★

「あなたは行くべきよ。断らないでね」・・・大学の学生部であっせんしているバイトを、学生たちに強要する奨学係の女性。否応なしにバイトに送り込まれた学生たちが体験するものは・・・。

「ミツハの一族」がけっこうおもしろかったので、前から気になっていたこちらも読んでみました。

「ヒカレル」「モドル」「アタエル」「タベル」「メグル」の5話。H大学の学生部のちょっと不思議な職員に紹介されて(というか、無理やり押しつけられて)、仕方なくバイトに行く学生たちの物語。

ちょっと不思議設定のところはありますが、なぜ「行くべき」なのか、その理由を知りたくて、あっというまに読んでしまいました。

主人公たちの抱えている悩みや鬱屈には共感できるものが多かったし、それが解消されていく過程は心地よかったです。

ただ唯一、「すすめられないバイト」に行く話があるのですが・・・それはちょっと苦手でした。

2017年7月 7日 (金)

ミツハの一族

2601「ミツハの一族」 乾ルカ   創元推理文庫   ★★★★

未練を残して死に、鬼となった者から、水を守る役目を担う「烏目役」と「水守」。H帝国大学に通う八尾清次郎は、烏目役の従兄が死んだと連絡を受ける。次の烏目役となる清次郎は、美しい水守と出会うが・・・。

やられた・・・。

第一話「水面水鬼」を読んだ感想が、これです。「ええええっ!?」となって、あれこれ思い出してみて、うう、やられた・・・と。参りました。

未練を残して死んだ者は鬼となり、井戸の水を赤く濁す。その鬼を見ることができる「水守」と、水守を従えることのできる「烏目役」は、八尾一族の中の特別な「目」をもつ者が、代々受け継いできた。というのが、物語の骨格。

つまり、鬼となった者を明らかにし(最初から特定されていることが多いが)、その未練とは何かを解明し、どうしたらその未練を晴らせるかを考案しなければならない。それが、このミステリの謎解きの中身です。

本来、「烏目役」などなる気もなかった清次郎は、従兄の庄一が急逝したことにより、いきなりその役目を担わされます。とりあえず一度だけ。そう決めたはずの清次郎は、美貌の水守との出会いにより、己の運命に絡めとられていく・・・。

清次郎が水守との距離をつめていき、役目にも徐々になじんでいき・・・ところが、第五話「常世現世」では、衝撃の幕開けをむかえます。ここでまた「ええっ!」となるわけですが(苦笑) もうすっかり筆者の手のひらの上で転がされた気分でした。

美しく、もの哀しい雰囲気に彩られた世界ですが、謎解きはきっちりとされていて、ミステリとしてもじゅうぶん楽しめました。それにしても、死んでしまった庄一がなんとも哀れな気がするのは、私だけでしょうか。

2017年6月 4日 (日)

雨利終活写真館

2588「雨利終活写真館」 芦沢央   小学館   ★★★

祖母の遺言状をめぐり、生前に遺影を撮影した写真館を訪れたハナ。そこには、一風変わった人たちがいて・・・。

「今だけのあの子」がとってもよかったので、図書館で借りてきました。が・・・期待値が高すぎたかな。

4つのエピソードから成る物語。巣鴨にある、生前遺影の撮影をする雨利写真館。祖母の遺言状の謎を解くきっかけをもらったハナは、そこで働くことに。奇妙な依頼の謎を一つ一つ解き明かしていく過程で、傷ついていたハナの心も前を向き始め・・・という物語。

それぞれ、日常の謎ミステリとしておもしろかったのですが、キーマンであるべきカメラマンの雨利の影が薄かったのが残念でした。それに、なぜかハナにいまいち共感できなかったのも痛かったです。

2017年5月21日 (日)

今だけのあの子

2582「今だけのあの子」 芦沢央   創元推理文庫   ★★★★

一番の親友だと思っていた。それなのに、どうして私にだけ結婚式によばれない・・・。彼女への不信感が頂点に達したとき、明かされた真実とは。

女の友情をテーマにしたミステリ短編集。

「届かない招待状」「帰らない理由」「答えない子ども」「願わない少女」「正しくない言葉」の5編。

ツイッターで高評価が続いていたので、読んでみました。当たり、でした。

女の友情という言葉から単純に連想されるドロドロ感はありません。というか、どの物語も、最後にきれいにひっくり返されます。

冒頭の「届かない招待状」が一番印象的。もう最悪のパターンを予想させる展開なのですが・・・。一応、ミステリなのでネタバレ厳禁ということで、ここまで。

とにかく、いわゆるイヤミスではありません。ほろ苦さも残しつつ、そのときどきの「女の友情」がみごとに描かれています。

5編がリンクしていて、「あ!あの人がここに・・・!」という楽しみもあります。

2017年4月22日 (土)

ツバキ文具店

2566「ツバキ文具店」 小川糸   幻冬舎   ★★★★

鎌倉にある小さな文具店の店主・雨宮鳩子。先代である祖母から受け継いだのは、文具店と代書屋の仕事。今日も、鳩子のもとには思いを抱えた依頼人がやってくる。

ああ、私のまわりにもこういう代書屋さんがいないかな~・・・などと思いながら読んでいました。書くことは嫌いではないのですが、字が汚いもので・・・。

それはさておき、本屋大賞候補作も納得の、すてきな物語でした。

鎌倉の季節の移り変わりを背景に、一風変わった代書の依頼を通して、人と人との関わりが描かれていきます。主人公の鳩子も先代(祖母)との確執があり、どうしようもない後悔を抱えているのですが、徐々にわだかまりは消えていきます。それは、先代が道をつけてくれた代書屋という生き方が、鳩子を導いてくれたかのようで。

鳩子に書を仕込んだ先代の教育は、とてもとても厳しく、鳩子はそれに反発するのですが、先代は自分にできる精一杯のことをしてくれたんだろうな。口先できれいごとを唱えるのではなく、自分がもっている全てを、孫に受け渡すような。鳩子が生きていけるように。それが本当に鳩子に伝わったとき、鳩子は本当の「自分の字」を書けたんでしょうねえ。

派手さはないけれど、しみじみ、いい話でした。

2017年4月 9日 (日)

玉依姫

2558「玉依姫」 阿部智里   文藝春秋   ★★★★

かつて、祖母は母を連れて、その村を飛び出したという・・・。山内村を訪れた志帆は、村松祭りの晩、生贄として山神に捧げられるはめに。逃げようとする志帆をとめたのは、奈月彦と名乗る青年だった。奈月彦は、志帆に山神の母となるように諭すのだった。

シリーズ5作目は、エピソード0とも言うべきもの。今まで舞台になってきた異世界ではなく、現代日本がスタート地点です。

主人公は、普通の高校生の志帆。ちょっと度が過ぎるお人よしなところのある彼女は、生贄の儀式に巻き込まれ、そのまま、山神の母として山の禁域で生活することに。そこから物語は二転三転していくわけですが・・・。

金烏としての過去の記憶を失った奈月彦も登場して、過去の金烏と山神や猿との間に何があったのかも徐々に明らかになります。シリーズのスピンアウトのようでいて、中核に触れる大事な物語です。

それにしても、志帆(もしくは玉依姫)のたくましさには参りました。シリーズ第1作の女子たちのたくましさをちょっと思い出しましたよ。

そして、夏には続編が!しかも、「第1部完結編」って! まだまだ続くのですね、このシリーズ。物語を読む楽しみを存分に味わわせてくれるこのシリーズが大好きなので、続くのはうれしいかぎりです。

2017年3月17日 (金)

生きて帰ってきた男

2549「生きて帰ってきた男」 小熊英二   岩波新書   ★★★★

あるシベリア抑留者がたどった人生。それは、戦前・戦中・戦後の日本を映し出す鏡でもあった。筆者が父親の人生を取材することで、見えてきた「歴史」とは。

副題「ある日本兵の戦争と戦後」。第14回(2015年)小林秀雄賞受賞作。

予想と違う・・・それが、読みながらずっと感じていたことでした。もっとエモーショナルな書き方をされているのかと思っていたら、実に淡々と書かれているのです。意外でした。

それは、「生きて帰ってきた男」こと小熊謙二氏が、実に冷静に客観的に、ある意味冷めた目で現実を見ているからで、息子である筆者も、それに忠実であろうとしたからなのでしょう。

終戦まぎわに徴兵され、武器の一つも与えられずに満州へ送られた謙二氏は、そのままシベリアへ送られ、3年をそこで過ごします。徴兵されるまでの生活も決して裕福ではなく、兵隊としても落ちこぼれだった謙二氏は、「どん底」の生活を送るのです。シベリアから帰ってきてからも。

しかし、そこに変な悲壮感はなく、ただひたすら、生きるために働くわけです。いわゆる中産階級やインテリとかいう層とは全く無縁の、日本の庶民の多数派であっただろう謙二氏の生き方、ものの見方は、むしろ新鮮でした。そして、ものすごく腑に落ちました。きっと、大多数の人は、こんなふうに世の中を見ていたのかもしれない、と。

ここに描かれているのは、ドラマティックでもなんでもない人生です。しかし、その人生は、戦争によって大きく歪められたのは、事実です。淡々と語られる謙二氏の戦争に対する思い。それは、華々しく語られる物語よりも、重く響きます。これは、多くの人に読み継がれてほしい一冊です。

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