「あ」行の作家

2017年3月17日 (金)

生きて帰ってきた男

2549「生きて帰ってきた男」 小熊英二   岩波新書   ★★★★

あるシベリア抑留者がたどった人生。それは、戦前・戦中・戦後の日本を映し出す鏡でもあった。筆者が父親の人生を取材することで、見えてきた「歴史」とは。

副題「ある日本兵の戦争と戦後」。第14回(2015年)小林秀雄賞受賞作。

予想と違う・・・それが、読みながらずっと感じていたことでした。もっとエモーショナルな書き方をされているのかと思っていたら、実に淡々と書かれているのです。意外でした。

それは、「生きて帰ってきた男」こと小熊謙二氏が、実に冷静に客観的に、ある意味冷めた目で現実を見ているからで、息子である筆者も、それに忠実であろうとしたからなのでしょう。

終戦まぎわに徴兵され、武器の一つも与えられずに満州へ送られた謙二氏は、そのままシベリアへ送られ、3年をそこで過ごします。徴兵されるまでの生活も決して裕福ではなく、兵隊としても落ちこぼれだった謙二氏は、「どん底」の生活を送るのです。シベリアから帰ってきてからも。

しかし、そこに変な悲壮感はなく、ただひたすら、生きるために働くわけです。いわゆる中産階級やインテリとかいう層とは全く無縁の、日本の庶民の多数派であっただろう謙二氏の生き方、ものの見方は、むしろ新鮮でした。そして、ものすごく腑に落ちました。きっと、大多数の人は、こんなふうに世の中を見ていたのかもしれない、と。

ここに描かれているのは、ドラマティックでもなんでもない人生です。しかし、その人生は、戦争によって大きく歪められたのは、事実です。淡々と語られる謙二氏の戦争に対する思い。それは、華々しく語られる物語よりも、重く響きます。これは、多くの人に読み継がれてほしい一冊です。

2017年2月26日 (日)

遺体 震災、津波の果てに

2543「遺体 震災、津波の果てに」 石井光太   新潮文庫   ★★★★

3月11日。釜石は、町の半分が海に沈んだ。安置所に次々運び込まれる多くの遺体を前に、奮闘した人たちがいた・・・。

いつか読まねばならないと思いつつ、積読していました。どうしても読む勇気が出てこなくて。でも、震災からもうじき6年。そろそろいけるかな、と。

ある遺体安置所に関わった人々の姿を描いた、まさに「渾身のルポルタージュ」。必要以上に筆者が前に出てこず、取材した人たちの有り様を、丁寧に記録したものです。

タイトル通り、遺体にまつわる話なので、やはりある程度時艱が経過した今読むのは正解だったかな、と。この本が出た当時では、冷静に読めなかったと思います。

未曾有の災害に直面したとき、自分も傷つきながら、純粋に人のために動く人たちの姿は尊いと思います。でも、単なる「いい話」ではなく、彼らの葛藤まで記録したことは、有意義なことだと思うのです。

人間は、つらいことを忘れなければ生きていけません。でも、忘れない努力をするべきことも、あるはずです。これが記録された意味を、考えていこうと思います。

2017年1月 8日 (日)

大泉エッセイ 僕が綴った16年

2523「大泉エッセイ 僕が綴った16年」 大泉洋   角川文庫   ★★★

1997年から雑誌に掲載されたエッセイをまとめたもの。

前から気になっていたのですが、なんとなく手に取りそびれていた一冊。「真田丸」を見終わったあと、「これは読まねば!」と書店に走りました。

書き進めるにつれて、文章もこなれていくし、内容も少し大人っぽくなっていって(というか、最初の方はかなり・・・笑)、その変化も楽しかったですが、一貫して変わらない洋ちゃんっぽさというのが、いいですね。

正直言って、大泉洋って得体の知れない俳優だというイメージが強くて。いや、芝居は上手いんだけど、何をやっても「大泉洋」というキャラが強いし、「水曜どうでしょう」とかのバラエティーのイメージも強いし、何者なんだ?と思っていたのですが、「真田丸」の兄上で、あらためて、「いい役者だなあ」と・・・。

この本も、笑いながら、時にはちょっとうるっとしながら、あっというまに読んでしまいました。いいなあ、大泉洋。好きだなあ。

で、次は星野源のエッセイにいこうかと思っていたのですが、考えてみたら、堺雅人のエッセイ、未読じゃないですか! そこはまず、秀忠より信繁だろう、私!(笑)

2016年11月 6日 (日)

獅子

2487「獅子」 池波正太郎   新潮文庫   ★★★★

真田信之。ようやく隠居の身となった彼に、真田家の危機が降りかかる。時の老中・酒井忠清との諜報合戦に勝利するのは、果たして。

病膏肓に入ると申しましょうか、ついつい買ってしまいました(苦笑)「真田太平記」も読んでないのに、その後日譚を読んじゃうのもなあと思いましたが、興味があるものは仕方ない。

「剣客商売」シリーズ読破以来、久々の池波正太郎。「信濃の獅子」真田信之の最晩年のお家騒動から信之の死までの物語。

93歳まで長生きしたのは知ってましたが、なんとまあ・・・。ある意味、後世に名を残した父や弟よりも凄まじい人生を送った人かもしれません。この人あってこその松代藩というのが、すごくよくわかりました。その辺を、ひょうひょうとした感じで描くところが、いかにも池波正太郎。いやあ、楽しませていただきました。

しかし、「真田丸」見てなかったら、絶対読まなかったというか、この信之にこんなに興味をもつこともなかっただろうなあ。

2016年10月26日 (水)

ショパン・コンクール

2482「ショパン・コンクール」 青柳いづみこ   中公新書   ★★★

5年に一度のショパン・コンクール。ピアニストにとっての憧れの舞台では、何が起こっているのか。2015年のコンクールのレポート。

恩田陸「蜜蜂と遠雷」を読んで、これにも手を出しました。

ショパンだけを弾くという特殊なコンクールだけれど、知名度はたぶん一番という。コンクールの過酷さは「のだめカンタービレ」と「蜜蜂と遠雷」くらいでの知識しかないのですが、あらためてその凄まじさに圧倒されました。

小説や漫画に負けないくらいの魅力的な個性をもつコンテスタントたちも登場しますが、人数が多くて、何がなんだか(カタカナ名前は覚えるの苦手なもので)。

筆者は、ピアノ教授で著述業もなさる方なようですが、この本では、審査の面に焦点をあてています。微妙な、時には不可解な採点がなされるコンクールというものを、予選からずっと通して聴いたレポートです。

「楽譜どおり」は正しいのか、コンテスタントたちの苦労、審査員たちの思惑、使われるピアノと調律師の仕事などなど、興味深い着眼点がたくさんありました。ただ、演奏を言葉で表現するのって難しいですね。それを考えると、「蜜蜂と~」の恩田陸はすごいです。

2016年9月19日 (月)

卯月の雪のレター・レター

2471「卯月の雪のレター・レター」 相沢沙呼   創元推理文庫   ★★★★

祖父のもとに届いた一通の手紙。それは、6年前に亡くなった祖母からのものなのか? しかも、その内容はなんだかよくわからないもので・・・。孫の小袖は、意外なところからその真相を知ることになる。

「小生意気リゲット」「こそどろストレイ」「チョコレートに、躍る指」「狼少女の帰還」「卯月の雪のレター・レター」の5編を収録。いずれも、青春ミステリの秀作です。

たとえば姉妹や友人、近しい間柄だからこそのもどかしさとか。未来が見えない焦りとか。周りにとけこめないことへの苛立ちとか。誰もが何かしら感じたことがある思いが立ち込めている、そんな物語たちです。

そして、見事にミステリ。日常の謎系なのだけど、物語としての強さと、ミステリとの按配が実によく、読み応えがありました。

物語として好きだったのは、やはり表題作ですかね。私も、よく言われました。「本を読んでると頭がいい」って。そんなことはありません(笑)

ミステリとしては、「チョコレート~」が、ちょっと予想を超えていました。う~ん、やられた。物語としては、すごくせつないんですけどね。

創元推理文庫、3連投の3日間でした。いや、単に積読していたという・・・。まだあるのですよ、実は。

2016年9月13日 (火)

姉・米原万里

2468「姉・米原万里」 井上ユリ   文藝春秋   ★★★★

副題「思い出は食欲と共に」。

米原さんの思い出を、実の妹・ユリさんが、食べ物を通して書いたエッセイ。

もう、ユリさんじゃなきゃ書けないというものでした。万里さんが私たちに見せていたのとはまた違う顔が見えてきて、なんというか・・・感無量でした。

でも、お人柄なんでしょうね。全然、しめっぽくならない。そういうところは、よく似た姉妹なのだなと思います。

米原万里ファンには必読の書です。

2016年7月24日 (日)

殿様の通信簿

2456「殿様の通信簿」 磯田道史   新潮文庫   ★★★★

元禄時代の古文書に記載された大名たちの記録。そこに描かれた、「殿様」の姿とは。

「真田丸」にはまって半年あまり。なんとなく、こういう類の本に反応してしまう今日この頃。

磯田さんの本を読むのは、3冊目かな? 史料をもとにして、わかりやすく解説してくれるので、安心して読めます。

前半は、徳川光圀や浅野内匠頭、前田利家など、有名どころの大名たちの実態が中心。

後半は、加賀百万石の大大名となった前田利常や、伏見城攻防戦で戦死した内藤家長など、戦国と江戸時代の狭間を生きた大名たちの話。

記号化されてきた大名たちの「人間」としての姿が、生き生きと描かれていて、非常に興味深かったです。まだまだ知らないことがいっぱいあるなあ。

2016年6月21日 (火)

下町ロケット2 ガウディ計画

2445「下町ロケット2 ガウディ計画」 池井戸潤   小学館   ★★★★

佃製作所をわけあって去った真野が、新たな仕事をもたらした。それは、医療という新しい分野に佃たちを誘うものだった。ロケット品質は、果たして医療に通用するのか。さらに、ライバル・サヤマ製作所が現れ・・・。

いまさらですが、読みました。

ドラマを見ていたので、脳内キャスティングはそのまま。ストーリーもドラマとほぼ変わらないので、ドラマの場面がフラッシュバックしていました。

ものづくりというものを、ここまでエンタテイメントとして読みごたえのある作品に仕上げるのは、さすがですね。もっとも、ドラマを先に見ていなかったら、ちょっとついていけないところはあったかもしれません(池井戸作品にはよくあるパターン)。

熱い男たちのドラマなんですが(あ、女性も若干)、それがうっとうしくない、絶妙のさじ加減、楽しませていただきました。

2016年4月 9日 (土)

図書館の殺人

2422「図書館の殺人」 青崎有吾   東京創元社   ★★★★

風ヶ丘の図書館で、「人間臨終図鑑」で頭を殴られて、人が殺された。アドバイザーとして呼ばれた裏染天馬だったが、意外にも捜査は難航。期末テスト期間中の袴田柚乃も、いつも通りなぜか事件に巻き込まれ・・・。

シリーズ4作目。

なんというか、だんだん読みやすくなってきている気がします。文章が練れてきたのか、私が慣れてきたのか(笑)

体育館、水族館ときて、図書館。今回は、本にまつわる殺人事件です。ダイイング・メッセージもあったりして、いかにもな本格もの。そして、探偵役の裏染天馬は、いつも通りのダメ人間っぷりを発揮しながら活躍しています。

今回、風ヶ丘高校はテスト期間中。本筋からは外れるけれど、2年生の景品をかけた順位争い(おいおい・・・)や、天馬と八橋千鶴とのバトルもあったりして、なかなか楽しかったです。

さて、事件は、けっこう意外な展開でした。いつもなら、トリックは解明できなくても犯人は当たるんですが、今回はわかりませんでした・・・。やられた。

そして、天馬の過去に何があったのか、気になりますねえ。

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