「あ」行の作家

2017年6月 4日 (日)

雨利終活写真館

2588「雨利終活写真館」 芦沢央   小学館   ★★★

祖母の遺言状をめぐり、生前に遺影を撮影した写真館を訪れたハナ。そこには、一風変わった人たちがいて・・・。

「今だけのあの子」がとってもよかったので、図書館で借りてきました。が・・・期待値が高すぎたかな。

4つのエピソードから成る物語。巣鴨にある、生前遺影の撮影をする雨利写真館。祖母の遺言状の謎を解くきっかけをもらったハナは、そこで働くことに。奇妙な依頼の謎を一つ一つ解き明かしていく過程で、傷ついていたハナの心も前を向き始め・・・という物語。

それぞれ、日常の謎ミステリとしておもしろかったのですが、キーマンであるべきカメラマンの雨利の影が薄かったのが残念でした。それに、なぜかハナにいまいち共感できなかったのも痛かったです。

2017年5月21日 (日)

今だけのあの子

2582「今だけのあの子」 芦沢央   創元推理文庫   ★★★★

一番の親友だと思っていた。それなのに、どうして私にだけ結婚式によばれない・・・。彼女への不信感が頂点に達したとき、明かされた真実とは。

女の友情をテーマにしたミステリ短編集。

「届かない招待状」「帰らない理由」「答えない子ども」「願わない少女」「正しくない言葉」の5編。

ツイッターで高評価が続いていたので、読んでみました。当たり、でした。

女の友情という言葉から単純に連想されるドロドロ感はありません。というか、どの物語も、最後にきれいにひっくり返されます。

冒頭の「届かない招待状」が一番印象的。もう最悪のパターンを予想させる展開なのですが・・・。一応、ミステリなのでネタバレ厳禁ということで、ここまで。

とにかく、いわゆるイヤミスではありません。ほろ苦さも残しつつ、そのときどきの「女の友情」がみごとに描かれています。

5編がリンクしていて、「あ!あの人がここに・・・!」という楽しみもあります。

2017年4月22日 (土)

ツバキ文具店

2566「ツバキ文具店」 小川糸   幻冬舎   ★★★★

鎌倉にある小さな文具店の店主・雨宮鳩子。先代である祖母から受け継いだのは、文具店と代書屋の仕事。今日も、鳩子のもとには思いを抱えた依頼人がやってくる。

ああ、私のまわりにもこういう代書屋さんがいないかな~・・・などと思いながら読んでいました。書くことは嫌いではないのですが、字が汚いもので・・・。

それはさておき、本屋大賞候補作も納得の、すてきな物語でした。

鎌倉の季節の移り変わりを背景に、一風変わった代書の依頼を通して、人と人との関わりが描かれていきます。主人公の鳩子も先代(祖母)との確執があり、どうしようもない後悔を抱えているのですが、徐々にわだかまりは消えていきます。それは、先代が道をつけてくれた代書屋という生き方が、鳩子を導いてくれたかのようで。

鳩子に書を仕込んだ先代の教育は、とてもとても厳しく、鳩子はそれに反発するのですが、先代は自分にできる精一杯のことをしてくれたんだろうな。口先できれいごとを唱えるのではなく、自分がもっている全てを、孫に受け渡すような。鳩子が生きていけるように。それが本当に鳩子に伝わったとき、鳩子は本当の「自分の字」を書けたんでしょうねえ。

派手さはないけれど、しみじみ、いい話でした。

2017年4月 9日 (日)

玉依姫

2558「玉依姫」 阿部智里   文藝春秋   ★★★★

かつて、祖母は母を連れて、その村を飛び出したという・・・。山内村を訪れた志帆は、村松祭りの晩、生贄として山神に捧げられるはめに。逃げようとする志帆をとめたのは、奈月彦と名乗る青年だった。奈月彦は、志帆に山神の母となるように諭すのだった。

シリーズ5作目は、エピソード0とも言うべきもの。今まで舞台になってきた異世界ではなく、現代日本がスタート地点です。

主人公は、普通の高校生の志帆。ちょっと度が過ぎるお人よしなところのある彼女は、生贄の儀式に巻き込まれ、そのまま、山神の母として山の禁域で生活することに。そこから物語は二転三転していくわけですが・・・。

金烏としての過去の記憶を失った奈月彦も登場して、過去の金烏と山神や猿との間に何があったのかも徐々に明らかになります。シリーズのスピンアウトのようでいて、中核に触れる大事な物語です。

それにしても、志帆(もしくは玉依姫)のたくましさには参りました。シリーズ第1作の女子たちのたくましさをちょっと思い出しましたよ。

そして、夏には続編が!しかも、「第1部完結編」って! まだまだ続くのですね、このシリーズ。物語を読む楽しみを存分に味わわせてくれるこのシリーズが大好きなので、続くのはうれしいかぎりです。

2017年3月17日 (金)

生きて帰ってきた男

2549「生きて帰ってきた男」 小熊英二   岩波新書   ★★★★

あるシベリア抑留者がたどった人生。それは、戦前・戦中・戦後の日本を映し出す鏡でもあった。筆者が父親の人生を取材することで、見えてきた「歴史」とは。

副題「ある日本兵の戦争と戦後」。第14回(2015年)小林秀雄賞受賞作。

予想と違う・・・それが、読みながらずっと感じていたことでした。もっとエモーショナルな書き方をされているのかと思っていたら、実に淡々と書かれているのです。意外でした。

それは、「生きて帰ってきた男」こと小熊謙二氏が、実に冷静に客観的に、ある意味冷めた目で現実を見ているからで、息子である筆者も、それに忠実であろうとしたからなのでしょう。

終戦まぎわに徴兵され、武器の一つも与えられずに満州へ送られた謙二氏は、そのままシベリアへ送られ、3年をそこで過ごします。徴兵されるまでの生活も決して裕福ではなく、兵隊としても落ちこぼれだった謙二氏は、「どん底」の生活を送るのです。シベリアから帰ってきてからも。

しかし、そこに変な悲壮感はなく、ただひたすら、生きるために働くわけです。いわゆる中産階級やインテリとかいう層とは全く無縁の、日本の庶民の多数派であっただろう謙二氏の生き方、ものの見方は、むしろ新鮮でした。そして、ものすごく腑に落ちました。きっと、大多数の人は、こんなふうに世の中を見ていたのかもしれない、と。

ここに描かれているのは、ドラマティックでもなんでもない人生です。しかし、その人生は、戦争によって大きく歪められたのは、事実です。淡々と語られる謙二氏の戦争に対する思い。それは、華々しく語られる物語よりも、重く響きます。これは、多くの人に読み継がれてほしい一冊です。

2017年2月26日 (日)

遺体 震災、津波の果てに

2543「遺体 震災、津波の果てに」 石井光太   新潮文庫   ★★★★

3月11日。釜石は、町の半分が海に沈んだ。安置所に次々運び込まれる多くの遺体を前に、奮闘した人たちがいた・・・。

いつか読まねばならないと思いつつ、積読していました。どうしても読む勇気が出てこなくて。でも、震災からもうじき6年。そろそろいけるかな、と。

ある遺体安置所に関わった人々の姿を描いた、まさに「渾身のルポルタージュ」。必要以上に筆者が前に出てこず、取材した人たちの有り様を、丁寧に記録したものです。

タイトル通り、遺体にまつわる話なので、やはりある程度時艱が経過した今読むのは正解だったかな、と。この本が出た当時では、冷静に読めなかったと思います。

未曾有の災害に直面したとき、自分も傷つきながら、純粋に人のために動く人たちの姿は尊いと思います。でも、単なる「いい話」ではなく、彼らの葛藤まで記録したことは、有意義なことだと思うのです。

人間は、つらいことを忘れなければ生きていけません。でも、忘れない努力をするべきことも、あるはずです。これが記録された意味を、考えていこうと思います。

2017年1月 8日 (日)

大泉エッセイ 僕が綴った16年

2523「大泉エッセイ 僕が綴った16年」 大泉洋   角川文庫   ★★★

1997年から雑誌に掲載されたエッセイをまとめたもの。

前から気になっていたのですが、なんとなく手に取りそびれていた一冊。「真田丸」を見終わったあと、「これは読まねば!」と書店に走りました。

書き進めるにつれて、文章もこなれていくし、内容も少し大人っぽくなっていって(というか、最初の方はかなり・・・笑)、その変化も楽しかったですが、一貫して変わらない洋ちゃんっぽさというのが、いいですね。

正直言って、大泉洋って得体の知れない俳優だというイメージが強くて。いや、芝居は上手いんだけど、何をやっても「大泉洋」というキャラが強いし、「水曜どうでしょう」とかのバラエティーのイメージも強いし、何者なんだ?と思っていたのですが、「真田丸」の兄上で、あらためて、「いい役者だなあ」と・・・。

この本も、笑いながら、時にはちょっとうるっとしながら、あっというまに読んでしまいました。いいなあ、大泉洋。好きだなあ。

で、次は星野源のエッセイにいこうかと思っていたのですが、考えてみたら、堺雅人のエッセイ、未読じゃないですか! そこはまず、秀忠より信繁だろう、私!(笑)

2016年11月 6日 (日)

獅子

2487「獅子」 池波正太郎   新潮文庫   ★★★★

真田信之。ようやく隠居の身となった彼に、真田家の危機が降りかかる。時の老中・酒井忠清との諜報合戦に勝利するのは、果たして。

病膏肓に入ると申しましょうか、ついつい買ってしまいました(苦笑)「真田太平記」も読んでないのに、その後日譚を読んじゃうのもなあと思いましたが、興味があるものは仕方ない。

「剣客商売」シリーズ読破以来、久々の池波正太郎。「信濃の獅子」真田信之の最晩年のお家騒動から信之の死までの物語。

93歳まで長生きしたのは知ってましたが、なんとまあ・・・。ある意味、後世に名を残した父や弟よりも凄まじい人生を送った人かもしれません。この人あってこその松代藩というのが、すごくよくわかりました。その辺を、ひょうひょうとした感じで描くところが、いかにも池波正太郎。いやあ、楽しませていただきました。

しかし、「真田丸」見てなかったら、絶対読まなかったというか、この信之にこんなに興味をもつこともなかっただろうなあ。

2016年10月26日 (水)

ショパン・コンクール

2482「ショパン・コンクール」 青柳いづみこ   中公新書   ★★★

5年に一度のショパン・コンクール。ピアニストにとっての憧れの舞台では、何が起こっているのか。2015年のコンクールのレポート。

恩田陸「蜜蜂と遠雷」を読んで、これにも手を出しました。

ショパンだけを弾くという特殊なコンクールだけれど、知名度はたぶん一番という。コンクールの過酷さは「のだめカンタービレ」と「蜜蜂と遠雷」くらいでの知識しかないのですが、あらためてその凄まじさに圧倒されました。

小説や漫画に負けないくらいの魅力的な個性をもつコンテスタントたちも登場しますが、人数が多くて、何がなんだか(カタカナ名前は覚えるの苦手なもので)。

筆者は、ピアノ教授で著述業もなさる方なようですが、この本では、審査の面に焦点をあてています。微妙な、時には不可解な採点がなされるコンクールというものを、予選からずっと通して聴いたレポートです。

「楽譜どおり」は正しいのか、コンテスタントたちの苦労、審査員たちの思惑、使われるピアノと調律師の仕事などなど、興味深い着眼点がたくさんありました。ただ、演奏を言葉で表現するのって難しいですね。それを考えると、「蜜蜂と~」の恩田陸はすごいです。

2016年9月19日 (月)

卯月の雪のレター・レター

2471「卯月の雪のレター・レター」 相沢沙呼   創元推理文庫   ★★★★

祖父のもとに届いた一通の手紙。それは、6年前に亡くなった祖母からのものなのか? しかも、その内容はなんだかよくわからないもので・・・。孫の小袖は、意外なところからその真相を知ることになる。

「小生意気リゲット」「こそどろストレイ」「チョコレートに、躍る指」「狼少女の帰還」「卯月の雪のレター・レター」の5編を収録。いずれも、青春ミステリの秀作です。

たとえば姉妹や友人、近しい間柄だからこそのもどかしさとか。未来が見えない焦りとか。周りにとけこめないことへの苛立ちとか。誰もが何かしら感じたことがある思いが立ち込めている、そんな物語たちです。

そして、見事にミステリ。日常の謎系なのだけど、物語としての強さと、ミステリとの按配が実によく、読み応えがありました。

物語として好きだったのは、やはり表題作ですかね。私も、よく言われました。「本を読んでると頭がいい」って。そんなことはありません(笑)

ミステリとしては、「チョコレート~」が、ちょっと予想を超えていました。う~ん、やられた。物語としては、すごくせつないんですけどね。

創元推理文庫、3連投の3日間でした。いや、単に積読していたという・・・。まだあるのですよ、実は。

より以前の記事一覧

その他のカテゴリー

「あ」行の作家 | 「か」行の作家 | 「さ」行の作家 | 「た」行の作家 | 「な」行の作家 | 「は」行の作家 | 「ま」行の作家 | 「や」行の作家 | 「ら」行の作家 | 「わ」行の作家 | あさのあつこ | いしいしんじ | こうの史代 | さだまさし | その他 | たつみや章 | よしもとばなな | アンソロジー | 万城目学 | 三上亜希子 | 三上延 | 三島由紀夫 | 三木笙子 | 三浦しをん | 三浦哲郎 | 三谷幸喜 | 上橋菜穂子 | 中山七里 | 中島京子 | 中田永一 | 中野京子 | 乃南アサ | 乙一 | 井上ひさし | 京極夏彦 | 伊坂幸太郎 | 伊藤計劃 | 伊集院静 | 佐藤多佳子 | 佐藤賢一 | 俵万智 | 倉知淳 | 光原百合 | 冲方丁 | 初野晴 | 加納朋子 | 加門七海 | 北大路公子 | 北山猛邦 | 北村薫 | 北森鴻 | 原田マハ | 司馬遼太郎 | 吉村昭 | 吉田修一 | 向田邦子 | 坂木司 | 夏川草介 | 夏目漱石 | 大倉崇裕 | 大崎梢 | 太宰治 | 奥泉光 | 宇江佐真理 | 宮下奈都 | 宮尾登美子 | 宮部みゆき | 小川洋子 | 小路幸也 | 小野不由美 | 山崎豊子 | 山本周五郎 | 山白朝子 | 岡本綺堂 | 島本理生 | 川上弘美 | 平岩弓枝 | 彩瀬まる | 恩田陸 | 愛川晶 | 戸板康二 | 日明恩 | 日記・コラム・つぶやき | 有川浩 | 朝井まかて | 朝井リョウ | 木内昇 | 朱川湊人 | 杉浦日向子 | 村山由佳 | 東川篤哉 | 東野圭吾 | 松本清張 | 柏葉幸子 | 柳広司 | 柴田よしき | 栗田有起 | 桜庭一樹 | 梨木香歩 | 梯久美子 | 森博嗣 | 森絵都 | 森見登美彦 | 森谷明子 | 横山秀夫 | 橋本治 | 氷室冴子 | 永井路子 | 永田和宏 | 江國香織 | 池波正太郎 | 津原泰水 | 浅田次郎 | 海堂尊 | 海外の作家 | 湊かなえ | 漫画 | 瀬尾まいこ | 田中啓文 | 田丸公美子 | 畠中恵 | 石田衣良 | 福井晴敏 | 笹尾陽子 | 米原万里 | 米澤穂信 | 芥川龍之介 | 若竹七海 | 茅田砂胡 | 茨木のり子 | 荻原規子 | 菅野彰 | 菅野雪虫 | 藤沢周平 | 藤谷治 | 西條奈加 | 西澤保彦 | 角田光代 | 誉田哲也 | 辺見庸 | 辻村深月 | 近藤史恵 | 酒井順子 | 重松清 | 金城一紀 | 須賀しのぶ | 高城高 | 高橋克彦 | 髙田郁 | 鷺沢萠

2017年6月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30  

カテゴリー