「あ」行の作家

2017年10月10日 (火)

斎宮

2647「斎宮」 榎村寛之   中公新書   ★★★★

伊勢神宮に仕えた皇女たち(斎王)と、その宮殿(斎宮)。飛鳥時代から鎌倉時代まで660年にわたって続いた斎宮とは何だったのか。斎王たちの人生をたどることで見えてきた古代史とは。

副題「伊勢斎王たちの生きた古代史」

私にとって斎宮といえば、大伯皇女(この本では「大来」)で、それ以外の知識はほとんどないのですが・・・これはおもしろかったです!

私は歴史でも「人」に興味があるので、斎王となった女性たちを具体的に取り上げ、その生涯を紹介している「第2章 七人のプリンセス」「第3章 斎宮年代記(クロニクル)」が、特におもしろかったです。

なぜ斎宮というシステムが存在したのか、斎王が天皇の血筋から選ばれた理由、それらがどのように変遷していったのかなど、初心者にもわかりやすく説明されています。最新の発掘や研究の成果に基づいていて、こんな専門知識をこんなにわかりやすく読めるなんて・・・!と、感動。

歴史というのは、一握りの「英雄」がつくるものではなく、数多の人々の連綿と続く営みによって編まれるものだということが、よくわかります。いまは廃れてしまった「斎宮」で生きた女性たちの人生は、それぞれの時代と深く結びついたものでした。

あとがきでは、この本を書くきっかけが氷室冴子さんにあったことが記されていて、なんとも言えない気持ちになりました。氷室さんには斎宮を扱った小説の構想があったとのこと。読みたかったなあ、氷室さん・・・。

2017年9月20日 (水)

弥栄の烏

2637「弥栄の烏」 阿部智里   文藝春秋   ★★★★

「真の金烏」としての記憶を探し求める若宮。しかし、山内を大地震が襲い、禁門の扉が開く。神域を訪れた若宮が目にしたものは・・・。ついに猿との決戦を迎え、参謀となった雪哉はある作戦をたてるが・・・。

シリーズ第6作にして、第一部(?)完結。

第1作「烏に単は似合わない」を読んだ時は、こんなところまで連れてこられるなんて、思いもしませんでした。

今回は、浜木綿と真赭の薄(ますほのすすき)という第1作の中心人物たちも活躍してくれて、いろんな意味で感無量でした。

失った記憶とは何なのか。なぜ記憶を失ってしまったのか。烏たちの世界はどうなってしまうのか。・・・今までの物語で残されてきた「謎」が、全て語られます。エピソード0と銘打っていた「玉依姫」がこんなふうにフィードバックされていくんですね。鳥肌たちました、いい意味で。

雪哉が戦いに向けて、ひたすら冷徹になっていくさまが恐ろしく・・・。若者たちを戦いへと煽る場面では、心底ゾッとしました。為政者や軍の統率者が兵士を戦場に送るときは、こんななのかなと思ってみたり。

それだけに、終章「こぼれ種」に救われました。ほんとうに、この場面があってよかった・・・。

何度か書いたことですが、このシリーズの魅力は、物語を読む楽しさを味わえることにあります。ワクワクしながら本を開き、物語に一喜一憂した子どもの頃の純粋な気持ちを、思い出させてくれるのです。

2017年9月19日 (火)

愚者の毒

2636「愚者の毒」 宇佐美まこと   祥伝社文庫   ★★★★

1985年。上野の職業安定所で出会った葉子と希美は、それぞれの過去を隠したまま、友情を深めていく。葉子は甥の達也を連れ、住み込みで家政婦として働くことに。雇い主に恵まれ、安定した生活を送っていた葉子だったが、主が急死したことがきっかけで、平穏な生活が狂い始める。すべては二十年前の筑豊の廃坑集落で起こった事件が始まりだった。

読み終えて、しばらく何もしたくなくて、ボーっとしていました。主人公たちが囚われていた「絶望」が、自分にもまとわりついているような気がして。

物語は2015年から2016年にかけての「現在」の中に、「過去」がカットバックされる形で展開します。第1章は1985年の武蔵野を舞台に、第2章は1965年の筑豊での生活が描かれます。

葉子と希美という偶然知り合った同い年(誕生日まで同じ)の女性ふたり。互いに打ち明けようとはしないけれど、幸薄い人生を送ってきた彼女たちのうち、葉子の視点で1985年の武蔵野での日々が語られます。

妹夫婦の借金を背負わされ、甥の達也を連れて逃げ回っていた葉子。ひょんなことから知り合った希美から旧家の難波家の家政婦の職を紹介された彼女は、主の難波先生やその息子の由起夫たちと、平和な日々を送る。悩みは、達也が言葉を話さないことだったが・・・。

世間の片隅でつつましく生きてきた葉子が借金取りに追われるさまは痛々しく、それだけに難波家での平穏な暮らしには、救われる思いでした。が、それも長くは続かず・・・。

続く第2章、筑豊の廃坑集落の描写は、読んでいて息がつまりそうになりました。貧困と言葉にしてしまうのは簡単ですが、あまりにすさまじく・・・。人としての尊厳など、一瞬にしてふっとんでしまうような、そんな生活が、生々しく描き出されるさまに、打ちのめされました。

そこで起こった殺人事件。それが、二十年後の、さらに現在の事件へとつながっていってしまうのです。踏み越えてはならぬ線を、一歩踏み越えてしまった者は、もはや元へは戻れないのかと、絶望的な気持ちにさせられました。

それにしても、ここで描かれた貧困は、決して過去のことではない気がするのです。平成の世でも、このような事態は起こっているのではないか、こんなふうに負のスパイラルに陥る者がいるのではないか。そう思うと、どうしようもなく気分がふさいでしまいました。

だからこそ、これは読まれるべき本なのだと思います。

この物語のすばらしさについては、解説で杉江松恋さんがぞんぶんに語ってくださっているので、ぜひそちらもご一読を。

2017年9月12日 (火)

悪左府の女

2633「悪左府の女」 伊東潤   文藝春秋   ★★★

下級貴族の娘・春澄栄子は、名にし負う醜女であった。それゆえ、「悪左府」こと藤原頼長は、栄子を召し、近衛帝に近づけようと画策する。家名再興のため、頼長に従う決意をした栄子は、頼長の娘・多子皇后に仕えることに。しかし、摂関家と院の近臣たちとの政争、さらに武士たちの台頭・・・時代は大きな転換点を迎えようとしていた。

大河ドラマ「平清盛」を見ていて、ちょっとわからなかったのが、この「保元の乱」のあたり。人間関係も入り組んでいて、誰がどちらの側についてどうなったのか・・・。ちょっと混乱しました。

だから、この本が出たときに、これは読まねば!と思った次第。ちなみに、私の脳内では、「頼長=山本耕史」が定着しております(笑)

さて、期待して読んだのですが・・・。保元の乱にいたる経緯はわかりました。誰がどう動いたのかも、おおむね把握できました。その点はスッキリしました。

ただ、頼長の人物像がいまいちつかめない。「悪左府」と呼ばれるほどの「冷徹な頭脳」をもってるわりには、やってることがムチャクチャではないですか? 彼が権力の座から滑り落ちていく過程の物語ではあるのですが、そこにのぼりつめた傑物という説得力がありません。

さらに、主人公(?)の栄子の人物像もなんだかよくわかりませんでした。すてきな殿方に言い寄られると、すぐ心惹かれてしまい、あっちへフラフラ、こっちへフラフラ。怒りにまかせてとんでもない行動に走るし、頼長の命に従うかと思えば、いきなり反抗してみたり。要するに、君はどうしたいんだ?と。ただ運命に流されるでもなく、運命に抗うでもなく、実に中途半端なのです。

もしかして、作者が書きたかったのは、エピローグの場面だったのかなあと思ったり。そうであれば、頼長も栄子も、ただの狂言回しでしかなかったのかもしれません。

2017年9月 5日 (火)

名探偵傑作短編集 火村英生篇

2630「名探偵傑作短編集 火村英生篇」 有栖川有栖   講談社文庫   ★★★★

臨床犯罪学者・火村英生と、その助手で推理作家の有栖川有栖が事件の謎を解くシリーズの、珠玉の短編集。杉江松恋監修。

「赤い稲妻」「ブラジル蝶の謎」「ジャバウォッキー」「猫と雨と助教授と」「スイス時計の謎」「助教授の身代金」の6編を収録。

30年前、新本格ブームの波に乗ったクチですが、綾辻行人の「館」シリーズ、法月綸太郎はけっこう読んだものの、有栖川有栖となると、ちょっと怪しい・・・。初期作品は少しは読んだと思うのですが、記憶があいまい。いざ、ちゃんと読んでみようと思っても、作品の数が多すぎで、どこから手をつけていいかわからない・・・という状態だったので、この企画は渡りに船でした。

さて、社会学部の助教授ながら、フィールドワークと称して事件現場に乗り込む火村英生に、友人で推理作家の有栖川有栖がつけたのが「臨床犯罪学者」の名前。事件解決への助言をすることも多く、今や警察でもやっかいな事件と見ると、火村のもとに連絡をよこし、非公式ながら捜査に参加させている、というのが基本設定。もちろん、有栖も「助手」として臨場します。

そんなコンビが活躍するシリーズから厳選した6編(選んだ理由は、解説で杉江松恋さんが詳しく説明してくれています)が、さすがの読み応えでした。

一番好きだったのは、「スイス時計の謎」。アリスの高校時代の同級生の一人が殺されて・・・という話。ゴリゴリの論理的な謎解きが展開するのですが、アリスの高校時代のせつない恋の思い出も絡み、犯人の動機もまた・・・なんとも言えないせつなさが残る一編でした。

そしてまた、杉江さんの解説がよいのです。これで、「ほかの作品も読んでみようかな」という気にさせられます。有栖川有栖未経験の方にはおすすめの一冊です。

2017年8月30日 (水)

深泥丘奇談・続々

2626「深泥丘奇談・続々」 綾辻行人   KADOKAWA   ★★★

作家の「私」は、夜道で奇妙な生き物に出会う。近頃出没する猿かと思いきや、それは・・・。

深泥丘奇談シリーズ第3作は、9つの短編を収録。

前作はかなり「濃い」感じでしたが、今回はわりとあっさりした感じのものが多かったです。私としては、こちらの方が好み。

現実からちょっとだけずれた世界で展開するこの「奇談」、残念ながらこれで最後だそうです。一応。またどこかでひょっこり出てきてくれたらうれしいのですが。

ところで、主人公の「妻」も作家らしい・・・という描写が最後に出てきて。綾辻さんの奥様ってどなただっけ?と調べたら・・・ああ、小野不由美主上ではないですか(すっかり忘れてました)。それなら、まあ、「妻」のあの言動もありだなあ、と。いまさらですが。

2017年8月18日 (金)

天上の葦

2621「天上の葦」 太田愛   KADOKAWA   ★★★★

渋谷のスクランブル交差点。一人の老人が、空を指差して死んだ。いったい、彼は何を見ていたのか。依頼を受けて、それを調べ始めた鑓水と修司は、老人の人生の空白に気づく。一方、消息を絶った公安の山波の行方を追うよう命令された刑事の相馬は、山波の行動に違和感をおぼえる。それぞれが真相を追い求めるうちに、三人の道はクロスして、瀬戸内の島へと導かれ・・・。

地元・さわや書店がプッシュしてたので読んでみました。「相棒」などの脚本を書いている太田愛さんの社会派ミステリ。

上下巻びっしり・・・で、読むのに時間がかかりましたが、読み応えは十分。いろいろな要素が詰まっていて、状況が二転三転して、退屈してるひまなんかありませんでした。

一人の老人が、死の間際に奇妙な死に方をしたことから始まる物語。彼の過去から、現在の世の中における危機的状況まで、大きく展開していきます。

怖いのは、これがフィクションとは限らないよな・・・と思ってしまうことです。火は小さいうちにしか消せないという言葉は、ものすごく重いものがありました。

「誰もこんなことになるとは思っていなかった」という言葉がありました。今の世の中は、あの頃と似てはいないでしょうか。火が大きく燃え広がってからでは、どうにもできなくなってしまう。そのことが、心に残りました。

2017年8月 5日 (土)

深泥丘奇談・続

2616「深泥丘奇談・続」 綾辻行人   メディアファクトリー   ★★★

名も知らぬ神社で鈴の音を聞いたときから、この異変は始まった・・・。作家の「私」が体験する奇妙な世界とは。

続編は、さらに物語世界が広がって、不可思議な展開を見せます。

怪談とはちがって、まさに「奇談」なのですが、なかなか怖い。生理的なところに訴えてくる怖さなのです。ざわざわします。

10編が収録されているのですが、それぞれ微妙にベクトルが違っていて、ホラーの方向性というのも考えさせられました。

2017年7月23日 (日)

深泥丘奇談

2609「深泥丘奇談」 綾辻行人   メディアファクトリー   ★★★★

作家の「私」は、ひどい眩暈におそわれて、近くにある深泥丘病院を受診した。検査のために入院したその夜、奇妙な音が聞こえてきて・・・。

作者の住む京都の町をモデルにした、連作奇談。ずっと気になっていたものの、図書館に行くとすっかり忘れていて・・・を繰り返し、ようやく借りてきました。

綾辻行人といえば、「十角館の殺人」に始まる新本格推理小説。当時、私も新本格ブームに熱狂したものでしたが、最近は綾辻さんもすっかりご無沙汰していました。久しぶりに読んで、文章が練れてきたなあという印象。余分なものがそぎ落とされて、簡潔で読みやすい。でも、不気味さはMAXです(笑)

怖いというより、現実とはチャンネルがずれた世界(作品世界が、非現実ではあるのですが)にいる居心地の悪さ、不気味さがずっと続く感じ。「顔」「丘の向こう」「長びく雨」「悪霊憑き」「サムザムシ」「開けるな」「六山の夜」「深泥丘魔術団」「声」の9編の連作です。

そして、思い出しました。私が綾辻さんから遠ざかった理由。グロい描写が生々しくて(「眼球譚」だったかな)、まいってしまったからでした。「深泥丘奇談」もけっこう・・・。私が一番苦手なのは、「サムザムシ」でした。

でも、こういう奇妙な話って好きなのです。続編も出ているので、読みたいと思ってます(懲りてない)。

2017年7月20日 (木)

メグル

2607「メグル」 乾ルカ   東京創元社   ★★★★

「あなたは行くべきよ。断らないでね」・・・大学の学生部であっせんしているバイトを、学生たちに強要する奨学係の女性。否応なしにバイトに送り込まれた学生たちが体験するものは・・・。

「ミツハの一族」がけっこうおもしろかったので、前から気になっていたこちらも読んでみました。

「ヒカレル」「モドル」「アタエル」「タベル」「メグル」の5話。H大学の学生部のちょっと不思議な職員に紹介されて(というか、無理やり押しつけられて)、仕方なくバイトに行く学生たちの物語。

ちょっと不思議設定のところはありますが、なぜ「行くべき」なのか、その理由を知りたくて、あっというまに読んでしまいました。

主人公たちの抱えている悩みや鬱屈には共感できるものが多かったし、それが解消されていく過程は心地よかったです。

ただ唯一、「すすめられないバイト」に行く話があるのですが・・・それはちょっと苦手でした。

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