「な」行の作家

2016年3月 5日 (土)

心臓異色

2417「心臓異色」  中島たい子           光文社           ★★★

誤変換ではありません(笑)   こういうタイトルです。

「家を盗んだ男」「ディーラー・イン・ザ・トワイライト」 「それが進化」「心臓異色」「躍るスタジアム」「ボクはニセモノ」「いらない人間」の7編をおさめた短編集。ちょっと連作風にもなっています。

SFというか、奇妙な味というか、独特な世界観の中で描かれる人間たち。星新一の作品を思い出しました。

好きだったのは、「ボクはニセモノ」。かわいいラブストーリーでした。

2016年1月26日 (火)

いちまき

2406「いちまき」   中野翠         新潮社             ★★★

曾祖母は、関宿藩江戸家老の娘だった。曾祖母の自叙伝を見つけた筆者は、それをきっかけに自分の「いちまき(血族の一団)」について調べていく。

副題「ある家老の娘の物語」。

このサブタイトルを見て、「物語」なのかと思って手にとりましたが、実際はファミリー・ヒストリーをたどるドキュメンタリーでした。

自叙伝を残した曾祖母の父の話がメインで、幕末から明治にかけての動乱期に苦労して生き延びたその生涯はインパクトあります。が、それだけでなく、意外な人物が「いちまき」であることがわかったり、何かに「操られている」みたいに新事実にいきあたったり。その過程がなかなか面白かったです。

2016年1月 1日 (金)

タスキメシ

2392「タスキメシ」   額賀澪         小学館         ★★★★

怪我をした長距離ランナーの早馬は、ひょんなことから料理研究部の都と知り合い、料理を始める。ひどい偏食の弟・春馬に、少しでもまともなものをたべさせようと。しかし、陸上部の後輩でもある春馬は、陸上を忘れたかのような早馬の態度に腹がたって…。

陸上ものと料理ものが融合したら、素敵な青春小説ができあがりました。

優秀なランナーだった早馬の葛藤。早馬を上回る才能をもつ春馬の戸惑い。早馬に料理を教える都の胸の内。そして、都の幼なじみで、早馬の陸上部の同級生・助川のせつない思い。

四人の気持ちが錯綜していく中で、陸上から目を背けている早馬はどうするのか…という展開なのですが、決して甘くない物語です。

助川の存在が、効いています。早馬兄弟と都の物語としても成立したかもしれませんが、助川のほかの三人への思いが、物語に深みを与えています。

昨今の箱根駅伝は、妙に感動をあおるような報道がされて、あまり好きではないのですが、走る人たちにはそれぞれの思いがあるのだと、改めて感じました。

高校生・大学生が主人公だけど、なぜこんなに共感してしまうのか。それは、早馬たちの葛藤が、決して若い世代だけのものではないからかもしれません。逃げたり、悩んだり、大人だって同じです。

ということで、2016年一冊目。今年もぼちぼち読んでいきます。2016年もよろしくお願いいたします。

2015年12月24日 (木)

院内カフェ

2389「院内カフェ」 中島たい子         朝日新聞出版         ★★★★

病院の中にあるカフェでバイトしている「私」は、あまり売れていない小説家。そこにやってくる一風変わった客たちに翻弄されるのだが…。

「漢方小説」以来ご無沙汰してました。久びさの中島たい子さんです。

ほんわか…というのとは違い、どこかシビアなんだけど、読んでいると癒されるという、ちょっと不思議なテイストです。

親の介護、夫の病気、不妊治療など、他人事と思えない話題を、身につまされながら読んでました。でも、それぞれの着地点が、なんというか、救われるような気がしました。

派手さはないけど、じんわり効いてくる、そんな物語です。

2015年9月18日 (金)

世界の果てのこどもたち

2357「世界の果てのこどもたち」 中脇初枝   講談社   ★★★★

珠子、茉莉、美子(ミジャ)。三人の少女は、戦時中の満州で出会った。三人だけで出かけたお寺で、雨に降りこめられて、たった一個のおむすびを分け合って食べた少女たち。生まれも育ちも違う彼女たちの運命を、戦争は大きくゆがめていく・・・。

こういう時期に、こういう本に出会うというのも、運命なのかなと思います。

貧しい農村から開拓団の一員として満州にわたった珠子は、戦後、残留孤児となり、中国人の養父母に育てられ、日本語を忘れます。横浜の裕福な家庭で育った茉莉は、空襲で家族を失い、戦災孤児となり、施設で育ちます。美子の一家は、祖国を失って日本にわたり、在日として差別や偏見とたたかいながら生きることに。三者三様、それぞれの人生は、この国のどこかに、確実に存在する人生でもあります。

三人のうち一人だけでも、一冊の本になるほどの重さを背負っているのを、三人分で一つの物語にしたので、多少物足りない部分もあります。ただ、彼女たちの運命を交錯させることで、戦争は決して幸せを生み出さないことが、痛いほどに伝わってきます。こんな、つらい生き方をこどもたちにさせてはならない、と。

「わたしね、死にたくないの。わたしが死んだら、わたしの記憶もみんな消えちゃうでしょ。そうしたらきっとなにもかも、なかったことになる。そうしたらきっと、愚かな人間は、同じことをくりかえす」(中略)「わかってるのよ。わたしも同じ、愚かな人間だから」

茉莉の言葉が、忘れられません。

地獄のような体験をしても、球子たちは生き抜いてきました。では、私たちは「同じこと」をくりかえさない努力をしなくては。

たくさんの人に、読んでほしい一冊です。

2015年8月30日 (日)

ヒトリコ

2349「ヒトリコ」 額賀澪   小学館   ★★★★

小学校五年生の秋、教室の金魚殺しの犯人にされた日都子。彼女はその日から、「ヒトリコ」になった・・・。

「屋上のウインドノーツ」もよかったですが、これもよかったです。

担任に金魚殺しと決め付けられ、同級生もかばってくれず・・・とても理不尽な目にあった日都子。それから、彼女は一切人と関わろうとしない「ヒトリコ」になったのです。その頑なさは、強さというより、彼女が負った傷の深さを思い知らされます。

そんな日都子と、同級生の明仁、嘉穂、そしてもともと金魚の持ち主で、転校したけれどまた戻ってきた冬希といった面々の、数年間が描かれる物語です。

徹底的に人と関わることを拒否する日都子と、そんな彼女に関わらずにいられない同級生たち。それぞれにどうしようもない思いや、後悔や、理不尽さと向き合いながら。

日都子を含め、登場人物たちのヒリヒリするような思いに、こちらまで揺さぶられました。理不尽としかいいようのない現実に、どうやって立ち向かったらいいのか・・・。不器用な生き方しかできない日都子たちに、胸が痛くなりました。

すべてがまるくおさまるなんてことはあり得ないけれど、彼らが少しずつ変化しながら、生きていく術を見つけられるならいいな、と。

「怪獣のバラード」、なつかしかったです。

2015年8月10日 (月)

わたしをみつけて

2340「わたしをみつけて」 中脇初枝   ポプラ社   ★★★★

山本弥生は、捨て子だった。施設で育ち、成長して准看護師になった弥生は、勤務先の病院で、藤堂師長と出会い、自分の生き方を見つめなおしていく。

「きみはいい子」と同じ町を舞台にした物語です。

その出生ゆえに「いい子」であろうとしてきた弥生の生き方が、たまらなくせつなかったです。まわりに合わせ、適当に日々をやり過ごしているうちに、他人の思いも痛みも感じなくなっている弥生。子供のころ、「いい子じゃなくても、自分を好きでいてくれるか」と、周りを試そうとしたエピソードも、読んでいてつらくなりました。

それでも、仕事に誇りをもつ藤堂師長や、人のことを心配する菊池さんとの出会いが、ゆるやかに弥生の固くしこっていた何かを溶かしていきます。

人の心を動かすのは、やはり人なのだと、そんなことを強く感じました。

文章は平易でなめらかで、詩を読んでいるような感じすらする、とても心地いいリズムをもっています。「きみはいい子」もとってもよかったので(テーマは重かったですが)、中脇初枝さん、もっと読んでみたいです。

2015年8月 4日 (火)

屋上のウインドノーツ

2336「屋上のウインドノーツ」 額賀澪   文藝春秋   ★★★★

人の輪に溶け込むのが苦手な志音は、友人のいない県立高校へ進学する。そこで、吹奏楽部の部長・大志と出会う。自分には部活など無理だという志音を、大志は吹奏楽部に勧誘する。志音にとっては頼りがいのある大志も、実は過去の傷を抱えていて・・・。

最近、ちょっと話題の作家さんです。

自分が年をとってきたせいか、真っ向勝負の青春ものってなかなか手が出なくなってきているのですが・・・これは、よかったです。何度も何度も涙ぐんでしまいました。

幼いころから人とうまく交われない志音。幼稚園の頃から中学校まで一緒の瑠璃の存在が唯一の救いだったけれど、だんだんそれもつらくなってきて、高校は県立へ。でも、高校に入っても自分の居場所はなく、ひとりぼっちで屋上でエアドラムをやっているような女の子。自分が嫌いで、生きているのが楽しいと思えないような、そんな子。

一方の大志は、吹奏楽部の部長をいやいや引き受けたといういわくつきの部長。それは、どうやら中学時代の事件が尾を引いているらしい。大志のせいでコンクールに出られなくなったとか。でも、いざ部長となったら、じゅうぶんその役目は果たしているようなのだけど・・・。

たまたま志音のエアドラムを聞いた大志が吹奏楽部に引っ張り込み、コンクール目指しての練習が始まるわけです。

とにかく、志音と大志の気持ちに揺さぶられっぱなしでした。自分のことが嫌いで、変わりたいと切に願う志音。「心が複雑骨折」したほどの傷を抱えてあがく大志。二人とも、不格好なほど一生懸命で、まっすぐで、その不器用さや弱さを含めて、なんとも言えずいとおしかったです。

志音のいい意味での変化、大志のいい意味での変わらなさに、最後の最後でも涙してしまいました。

2015年5月26日 (火)

きみはいい子

2297「きみはいい子」 中脇初枝   ポプラ社   ★★★★

5時まで家には帰らせてもらえないこども。こどもに手を上げてしまう母親。彼らのどうしようもない思いを、救ってくれるものはあるのだろうか・・・。

遅ればせながら、読みました。2013年の本屋大賞ノミネート作でした。どうにも虐待とか、ネグレクトとか苦手なもので、避けていたのですが、なんとなく手に取ってしまいました。

「サンタさんの来ない家」「べっぴんさん」「うそつき」「こんにちは、さようなら」「うばすて山」の5編。

どの話も痛かったです・・・。虐待の連鎖も怖かったし、障がいのあるこどもをもつ保護者の気持ちもつらかった・・・。「こんにちは、さようなら」「うばすて山」では、さらに老いの問題も加わって、とうてい他人事とは思えませんでした。読みながら、何度も目頭が熱くなりました。

虐待されていなくても、大人でも、誰かに認めてもらえるって本当に大事なことです。「きみはいい子」というタイトルが、作者の祈りのようにも思えました。

これ、映画化されるんですね。

2015年2月22日 (日)

教団X

2237「教団X」 中村文則   集英社   ★★★

姿を消した恋人・立花涼子を追った楢崎は、世間から身を隠すカルト教団に行き着く。いとも簡単に教団にからめとられた楢崎だったが、教団が暴走し・・・。

初・中村文則です。もっととっつきにくいかと覚悟していましたが、わりと読みやすかったです。ただ、内容は・・・理解できたとは言い難い面も。タイトルからして、カルト教団が何かやらかすんだろうなと思ってましたが、話はそう単純ではなく。

「教団X」は通称であって、本来の名前すら存在しない「教団」。徹底的に潜伏していて、まったくその実態がつかめないという、謎の教団。この物語には、「X」のほかにもう一つの「教団」が描かれ、これまた異端ながら「X」とはある意味対照的。楢崎、涼子、涼子の義兄で恋人の高原、高原に恋い焦がれる峰野の4人の男女が、それぞれの「教団」に関わり、生きていく道を探すことになります。

ことは宗教だけに限らず、宇宙物理学や脳科学等、いろんな分野の知識が投入されていて、なんだかよくわからなかったところもあります。性的な描写も多くて、ちょっとうんざりしてしまったところもありました。

ただ、いろんな問いがつきつけられたような気がします。人間とは何か。神とは。国家とは。生きるとは。

作者あとがきによると、

「こういう小説を書くことが、ずっと目標の一つだった。これは現時点での、僕の全てです。」

渾身の一作といったところでしょうか。

より以前の記事一覧

その他のカテゴリー

「あ」行の作家 | 「か」行の作家 | 「さ」行の作家 | 「た」行の作家 | 「な」行の作家 | 「は」行の作家 | 「ま」行の作家 | 「や」行の作家 | 「ら」行の作家 | 「わ」行の作家 | あさのあつこ | いしいしんじ | こうの史代 | さだまさし | その他 | たつみや章 | よしもとばなな | アンソロジー | 万城目学 | 三上亜希子 | 三上延 | 三島由紀夫 | 三木笙子 | 三浦しをん | 三浦哲郎 | 三谷幸喜 | 上橋菜穂子 | 中山七里 | 中島京子 | 中田永一 | 中野京子 | 乃南アサ | 乙一 | 井上ひさし | 京極夏彦 | 伊坂幸太郎 | 伊藤計劃 | 伊集院静 | 佐藤多佳子 | 佐藤賢一 | 俵万智 | 倉知淳 | 光原百合 | 冲方丁 | 初野晴 | 加納朋子 | 加門七海 | 北大路公子 | 北山猛邦 | 北村薫 | 北森鴻 | 原田マハ | 司馬遼太郎 | 吉村昭 | 吉田修一 | 向田邦子 | 坂木司 | 夏川草介 | 夏目漱石 | 大倉崇裕 | 大崎梢 | 太宰治 | 奥泉光 | 宇江佐真理 | 宮下奈都 | 宮尾登美子 | 宮部みゆき | 小川洋子 | 小路幸也 | 小野不由美 | 山崎豊子 | 山本周五郎 | 山白朝子 | 岡本綺堂 | 島本理生 | 川上弘美 | 平岩弓枝 | 彩瀬まる | 恩田陸 | 愛川晶 | 戸板康二 | 日明恩 | 日記・コラム・つぶやき | 有川浩 | 朝井まかて | 朝井リョウ | 木内昇 | 朱川湊人 | 杉浦日向子 | 村山由佳 | 東川篤哉 | 東野圭吾 | 松本清張 | 柏葉幸子 | 柳広司 | 柴田よしき | 栗田有起 | 桜庭一樹 | 梨木香歩 | 梯久美子 | 森博嗣 | 森絵都 | 森見登美彦 | 森谷明子 | 横山秀夫 | 橋本治 | 氷室冴子 | 永井路子 | 永田和宏 | 江國香織 | 池波正太郎 | 津原泰水 | 浅田次郎 | 海堂尊 | 海外の作家 | 湊かなえ | 漫画 | 瀬尾まいこ | 田中啓文 | 田丸公美子 | 畠中恵 | 石田衣良 | 福井晴敏 | 笹尾陽子 | 米原万里 | 米澤穂信 | 芥川龍之介 | 若竹七海 | 茅田砂胡 | 茨木のり子 | 荻原規子 | 菅野彰 | 菅野雪虫 | 藤沢周平 | 藤谷治 | 西條奈加 | 西澤保彦 | 角田光代 | 誉田哲也 | 辺見庸 | 辻村深月 | 近藤史恵 | 酒井順子 | 重松清 | 金城一紀 | 須賀しのぶ | 高城高 | 高橋克彦 | 髙田郁 | 鷺沢萠

2017年3月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

カテゴリー