「な」行の作家

2018年5月 3日 (木)

にらみ

2743「にらみ」 長岡弘樹   光文社   ★★★

「にらみ」とは、刑事が公判を膨張し、被告人が供述を翻したりしないよう、無言で圧力をかけること。仮釈放中に保護司を殺害しようとした容疑で逮捕された保原。彼の取調べを担当する片平は、かつて保原の裁判で「にらみ」をしたことがあった。今回は、保原は自首しており、何も問題はないかに思えたが、片平は違和感を覚えていて・・・。

「餞別」「遺品の迷い」「実況中継」「白秋の道標」「雑草」「にらみ」「百万に一つの崖」の7編からなる短編集。

表題作「にらみ」が見事でした。犯人が自首していて、目撃者による面通しも完了。送検するのに問題はなさそうだけれど、取調べにあたる片平だけが違和感をもっている。果たして、保原は本当に犯人なのか。結末には驚かされました。いや、驚くことではないのですが、完全に盲点でした。小説だから成立する仕掛けですね。

あとは、「雑草」がおもしろかったです。中学校の陸上部に「練習がうるさい。トラック使用をやめさせろ」という投書が。さらに、草むしり中の部員が襲撃され、怪我を負うに至って、部員たちはある計画を進める。それは思わぬ「犯人」をあぶり出す・・・。さりげなく配置されたものが、のちに意味をもって立ち上がってくる構図が見事でした。

2018年4月29日 (日)

レジまでの推理

2741「レジまでの推理」 似鳥鶏   光文社文庫   ★★★★

書店員の超多忙な仕事の合間に、持ち込まれた謎を解く!? 本と本屋を愛するがゆえに、そんな過酷な業務を引き受けてしまう名物店長とバイトたちが奮闘する。副題「本屋さんの名探偵」。

書店を舞台にした日常の謎系ミステリといえば、大崎梢さんのシリーズが思い浮かびますが、これもまたおもしろかったです。似鳥さんは、「理由あって冬に出る」を読んだきりなのですが、ツイッターをフォローしていて、この作品の存在を知りました。

「町の本屋さん」に持ち込まれる奇妙な謎と事件。通常業務をこなしながら謎を解くのは、個性的なバイトの面々と、「西船橋のポップ姫」の異名をもつ店長。この店長、見た目は美人ながら、めっぽう口が悪く、店内の通常業務はバイトの青井に丸投げ状態。しかし、謎を解き明かす能力も随一で・・・。

「7冊で海を越えられる」「全てはエアコンのために」「通常業務探偵団」「本屋さんよ永遠に」の4話。本屋さんのお仕事を物語の中に落とし込んでいく見事さと、人をくったような注釈に笑いながら読んでいくうちに、すっかり罠にはまりました(笑) 

でも、最終話では、ちょっとだけウルッとさせられましたよ。ちょっとだけですけど。

田舎町では書店がどんどんなくなっていて、私も子どもの頃から十代にかけてお世話になった書店は、もう一軒も残っていません。去年は地元では一番大きな規模の書店がいきなり閉店するという、地元民にはかなりショックな出来事がありました。本が売れない、書店の経営が厳しいという言葉はよく聞きますが、本好き・本屋好きとしては、やはりなくなってほしくない場所なのですよねえ。

2018年4月 8日 (日)

教場0

2733「教場0」 長岡弘樹   小学館   ★★★

警察学校の鬼教官・風間公親。彼は、教官になる前は、「風間道場」という若手の教育システムに携わっていた。経験三ヶ月の若手刑事を県警捜査一課の風間のもとに送り込み、三ヶ月マンツーマンで指導してもらう。「指導官」時代の風間は、どのように若手を育てたのか。

「教場」シリーズの前日譚。エピソード「0」というわけで。

「仮面の軌跡」「三枚の画廊の絵」「ブロンズの墓穴」「第四の終章」「指輪のレクイエム」「毒のある骸」の6話。

やはり、風間は「鬼」でした(笑) 新米刑事に対して、プレッシャーかけまくり。これ、パワハラ案件では?というやりとりも(転属願いをちらつかせるとか、交番勤務からやり直せとか)。

それでも、誰よりも早く真実を見抜き、どうしたら犯人逮捕にこぎつけるのか、若い刑事をさりげなく導いてやる風間は、とんでもなく優秀な「教官」だということなのでしょう。

しかし、「道場」の門下生として抜擢された刑事さんたちに同情せずにはいられませんでした(苦笑)

2018年4月 2日 (月)

ウズタマ

2728「ウズタマ」 額賀澪   小学館   ★★★★

松宮周作、28歳。大手食品メーカーに勤める彼は、一つ年上の紫織と婚約中。ただ、紫織の娘の真結とはなかなか打ち解けられずにいる。父一人子一人で育った周作だったが、父は脳梗塞で倒れ、意識を失ったまま、病院にいる。父が倒れる前に渡された通帳には、三百万余りのお金が入っていた。そこに何かの秘密を感じた周作は・・・。

父が倒れたことで、「自分は独りだ」という思いに囚われている周作が、今まで知らなかった「事実」に直面する。病死したと聞かされていた母の死の真相。そして、記憶から消えていたもう一人の「家族」のこと。

周作の状況はなかなかハードで、そういう環境に置かれる人はそうそういないはずです。でも、周作の感じている「寂しさ」に共感できる人は多いのでは。だからこそ、周作の弱さも、葛藤も、決して他人事とは思えないのです。

後半は、ただもう泣きながら読みました。「血」でつながっていなくても、家族にはなれる。そんなつながりを、人は切実に求めている。周作たちのそれは、「正しい」あり方ではないかもしれないけれど。でも、共にあることが、彼らにとっても幸せなのでしょう。

読み終えて、表紙を見て、グレーのマフラーに涙が・・・。ふと裏表紙を見たら、そこに佇む人は紺のマフラーをしていて、またしても涙(苦笑) この表紙、すごくいいです。しばらく見入ってしまいました。

2018年2月 5日 (月)

劍岳<点の記>

2708「劍岳<点の記>」 新田次郎   文春文庫   ★★★★

日露戦争直後の明治四十年。前人未踏の地・劍岳山頂に三角点埋設の命を受けた測量官・柴崎芳太郎は、「登ってはいけない山」に挑むことになる。それは、設立まもない日本山岳会よりも先着することを求められていた。様々な困難と闘いながら劍岳に挑む柴崎たちは、ついに未踏峰の頂上に立つが、そこで目にしたものは・・・。

先日、ツイッターで「劍岳山頂で発見された錫杖と剣」の写真なるものを見ました。はるか昔に登頂したのであろう行者が残したもの、とのこと。さらに、この遺物発見のことは、「劍岳<点の記>」に書かれているというツイートもあり、俄然興味をもって、この本を取り寄せました。

測量官・柴崎芳太郎が地図作成のための測量を命じられ、それを成し遂げるまでを描いた小説。日本山岳会が登頂をねらっていると聞き、それに先着することを暗に上司から命ぜられた柴崎は、それでも入念な準備をし、信頼できる部下や人夫たちを得て、未踏峰に挑みます。

しかし、悪天候や想像を絶するような山の険しさが柴崎たちの行く手を阻みます。それでもひたすら忍耐強くチャンスを待ち、決してあきらめることのなかった一行の様子が、臨場感をもって描かれています。

「山岳小説の白眉」とありますが、それだけでなく、柴崎をはじめとする人々の謙虚で忍耐強い生き方に圧倒されました。誰一人、スーパーヒーローはいないのです。ただひたすら、自分たちがなすべきことを誠実にやってきただけ。それが、登るのは不可能と言われた山への登頂と成し遂げたのです。その場面は、思わず涙してしまいました。

しかし、錫杖の頭と剣が見つかったことで、はるか昔には開山されていたことが明らかになり、柴崎たちの偉業は上層部には評価できないものとなってしまいます。そのことに虚しさをおぼえつつも、自らの仕事を全うする柴崎の姿までを、この物語は描いています。

歴史に名を残さずとも、黙々と自分の役割を全うする人たちによって、世の中は支えられています。その努力や謙虚な営みを評価できる世の中であってほしいと強く願わずにはいられませんでした。

2017年9月30日 (土)

最後の秘境 東京藝大

2644「最後の秘境 東京藝大」 二宮敦人   新潮社   ★★★★

美術と音楽のエリートたちが集う東京藝大。その実態とは? 藝大生の妻をもつ筆者による、藝大リポート。副題「天才たちのカオスな日常」

これ、ずっと気になっていたのです。

芸術方面の才能は全くないため、余計に憧れるのです、そういう世界に。入試倍率が東大の3倍って、いったいどんな大学?と思ったら・・・想像を絶するものが。

奥様が藝大の「美校」の学生だという筆者が、実地踏査と学生・卒業生へのインタビューをもとにまとめたこの本。想像以上に濃い世界です。(初っ端の奥様のエピソードにまずびっくりさせられますが)。

「美校」と「音校」それぞれの特色、他の大学とは違う藝大ならではの特性、卒業後の進路などなど。素人が「芸術家」なるものへ抱くイメージの、さらに上を行く凄まじさに圧倒されます。「あれ?意外と普通?」と思うこともありますが、「いやいや、やっぱりすごいわ・・・」と。

こういう恵まれた環境(ハード面でもソフト面でも)で、4年間学べるって幸せなことだなあというのが、一番感じたことでした。もちろん、大変なことはたくさんあるのだけれど。自分がやると決めたことに没頭する時間が確保されてるって、大事なことですよね。

しかし、「藝祭」、行ってみたいぞ・・・!

2017年6月10日 (土)

さよならクリームソーダ

2589「さよならクリームソーダ」 額賀澪   文藝春秋   ★★★

美大に合格した寺脇友親は、仕送りを断って、自活していた・・・はずだったが、バイト料の払い込みが遅く、すきっ腹を抱えていたところを、同じアパートに住む先輩・柚木若菜に救われる。四回生で、ずば抜けた才能をもつ若菜は、人当たりもいいが、どこか人に心を許さないような雰囲気をもっていた。一方、友親も、人には言えない悩みを抱えていて・・・。

美大を舞台にした青春もの。いろんな場面で「色」のイメージがあふれています。それから、尾崎豊。私が尾崎をよく聴いていたのは、高校から大学にかけてだったので(年がバレる)、懐かしい気分で読みました。

親の再婚、新しい家族、という状況で、いい子で居続けようとした友親と、いい子でいることをやめた若菜。単純に言えばそういう構図なんですが、それぞれにいろんな人間関係が絡んできて、二人とも苦しんでいます。さらに、若菜の方は大きな喪失感を抱えていて・・・。

若い頃の不器用さとか、みっともなさとか、イタイんだけど、その当時しか感じられないようなまっすぐさとか・・・まぶしい世界でした。

2017年5月 9日 (火)

『レ・ミゼラブル』の世界

2576「『レ・ミゼラブル』の世界」 西永良成   岩波新書   ★★★

ユゴーの名作を、その成立過程や歴史的背景を説明しつつ、作品にこめられた思想を読み解く、作品解説。

読んだことがあるのは、子供向けの「ああ無情」だけ。あとは、帝劇ミュージカルを1回。それから、先日BSで放送された映画を。私の「レ・ミゼラブル」体験はそれくらいです。とは言え、あのミュージカルの音楽のすばらしさに圧倒され、いつかは原作を読みたい!と思っていました。

去年、相方が古本市で購入した岩波文庫版は全5冊。さすがに手を出せずにいましたが、安易に読まずに正解でした。どうやら、原作はとっても長大で、しかも複雑で、難解な代物であるらしい。これは、そういう「レ・ミゼラブル」のガイドブックともいうべき本です。

物語の概要やユゴーの政治的理念、主人公・ジャン・ヴァルジャンとはどういう人物か、そしてユゴーの思想。少しでもあの大作を理解できるよう、かなりわかりやすく解説してくれています・・・が、それでも難しかったです(苦笑)

ミュージカルと、それを下敷きにした映画は、ストーリーとしてはかなり大雑把に、大事なピースだけをつないだものだということがわかりました。

読んで驚いたのは、ガブローシュがテナルディエ夫婦の息子だということ(知らなかったのは、私だけ?)。それから、マリウスが作者ユゴーの投影だということ。

ほかにも、ナポレオンがどれだけ影響を与えたかなど、「へえ、そうだったのか」なことがたくさんでした。

しかし、これで原作を読む気になったかは・・・微妙です。

2017年4月11日 (火)

教場2

2560「教場2」 長岡弘樹   小学館   ★★★★

わずか6ヶ月の訓練で現場に出て行く警察官たち。鬼の教官・風間の教場に編入させられた彼らは、過酷な訓練の中で、警察官としての己の適性に向き合うことになる。果たして、彼らは無事に卒業できるのか。

「教場」の続編。これも文句なしにおもしろかったです。

「創傷」「心眼」「罰則」「敬慕」「机上」「奉職」の6編。

警察官とはいえ、生身の人間であり、試験に受かっても適性があるとは限らない。風間教官に退校届を渡されて1週間がリミット・・・という極限状態におかれたときの心理描写が読ませどころです。

今回は、元医者という変り種の桐沢や、逮捕術で相手に手を上げることがどうしてもできない美浦など、個性的な生徒たちが登場します。そして、それを上回る存在感の風間教官。なんでも見透かしてしまうような教官と、ひよっこたちとの真剣勝負は、スリリングで読み応えあります。

できることなら、さらなる続編をお願いしたいものです。

2016年3月 5日 (土)

心臓異色

2417「心臓異色」  中島たい子           光文社           ★★★

誤変換ではありません(笑)   こういうタイトルです。

「家を盗んだ男」「ディーラー・イン・ザ・トワイライト」 「それが進化」「心臓異色」「躍るスタジアム」「ボクはニセモノ」「いらない人間」の7編をおさめた短編集。ちょっと連作風にもなっています。

SFというか、奇妙な味というか、独特な世界観の中で描かれる人間たち。星新一の作品を思い出しました。

好きだったのは、「ボクはニセモノ」。かわいいラブストーリーでした。

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