「な」行の作家

2017年9月30日 (土)

最後の秘境 東京藝大

2644「最後の秘境 東京藝大」 二宮敦人   新潮社   ★★★★

美術と音楽のエリートたちが集う東京藝大。その実態とは? 藝大生の妻をもつ筆者による、藝大リポート。副題「天才たちのカオスな日常」

これ、ずっと気になっていたのです。

芸術方面の才能は全くないため、余計に憧れるのです、そういう世界に。入試倍率が東大の3倍って、いったいどんな大学?と思ったら・・・想像を絶するものが。

奥様が藝大の「美校」の学生だという筆者が、実地踏査と学生・卒業生へのインタビューをもとにまとめたこの本。想像以上に濃い世界です。(初っ端の奥様のエピソードにまずびっくりさせられますが)。

「美校」と「音校」それぞれの特色、他の大学とは違う藝大ならではの特性、卒業後の進路などなど。素人が「芸術家」なるものへ抱くイメージの、さらに上を行く凄まじさに圧倒されます。「あれ?意外と普通?」と思うこともありますが、「いやいや、やっぱりすごいわ・・・」と。

こういう恵まれた環境(ハード面でもソフト面でも)で、4年間学べるって幸せなことだなあというのが、一番感じたことでした。もちろん、大変なことはたくさんあるのだけれど。自分がやると決めたことに没頭する時間が確保されてるって、大事なことですよね。

しかし、「藝祭」、行ってみたいぞ・・・!

2017年6月10日 (土)

さよならクリームソーダ

2589「さよならクリームソーダ」 額賀澪   文藝春秋   ★★★

美大に合格した寺脇友親は、仕送りを断って、自活していた・・・はずだったが、バイト料の払い込みが遅く、すきっ腹を抱えていたところを、同じアパートに住む先輩・柚木若菜に救われる。四回生で、ずば抜けた才能をもつ若菜は、人当たりもいいが、どこか人に心を許さないような雰囲気をもっていた。一方、友親も、人には言えない悩みを抱えていて・・・。

美大を舞台にした青春もの。いろんな場面で「色」のイメージがあふれています。それから、尾崎豊。私が尾崎をよく聴いていたのは、高校から大学にかけてだったので(年がバレる)、懐かしい気分で読みました。

親の再婚、新しい家族、という状況で、いい子で居続けようとした友親と、いい子でいることをやめた若菜。単純に言えばそういう構図なんですが、それぞれにいろんな人間関係が絡んできて、二人とも苦しんでいます。さらに、若菜の方は大きな喪失感を抱えていて・・・。

若い頃の不器用さとか、みっともなさとか、イタイんだけど、その当時しか感じられないようなまっすぐさとか・・・まぶしい世界でした。

2017年5月 9日 (火)

『レ・ミゼラブル』の世界

2576「『レ・ミゼラブル』の世界」 西永良成   岩波新書   ★★★

ユゴーの名作を、その成立過程や歴史的背景を説明しつつ、作品にこめられた思想を読み解く、作品解説。

読んだことがあるのは、子供向けの「ああ無情」だけ。あとは、帝劇ミュージカルを1回。それから、先日BSで放送された映画を。私の「レ・ミゼラブル」体験はそれくらいです。とは言え、あのミュージカルの音楽のすばらしさに圧倒され、いつかは原作を読みたい!と思っていました。

去年、相方が古本市で購入した岩波文庫版は全5冊。さすがに手を出せずにいましたが、安易に読まずに正解でした。どうやら、原作はとっても長大で、しかも複雑で、難解な代物であるらしい。これは、そういう「レ・ミゼラブル」のガイドブックともいうべき本です。

物語の概要やユゴーの政治的理念、主人公・ジャン・ヴァルジャンとはどういう人物か、そしてユゴーの思想。少しでもあの大作を理解できるよう、かなりわかりやすく解説してくれています・・・が、それでも難しかったです(苦笑)

ミュージカルと、それを下敷きにした映画は、ストーリーとしてはかなり大雑把に、大事なピースだけをつないだものだということがわかりました。

読んで驚いたのは、ガブローシュがテナルディエ夫婦の息子だということ(知らなかったのは、私だけ?)。それから、マリウスが作者ユゴーの投影だということ。

ほかにも、ナポレオンがどれだけ影響を与えたかなど、「へえ、そうだったのか」なことがたくさんでした。

しかし、これで原作を読む気になったかは・・・微妙です。

2017年4月11日 (火)

教場2

2560「教場2」 長岡弘樹   小学館   ★★★★

わずか6ヶ月の訓練で現場に出て行く警察官たち。鬼の教官・風間の教場に編入させられた彼らは、過酷な訓練の中で、警察官としての己の適性に向き合うことになる。果たして、彼らは無事に卒業できるのか。

「教場」の続編。これも文句なしにおもしろかったです。

「創傷」「心眼」「罰則」「敬慕」「机上」「奉職」の6編。

警察官とはいえ、生身の人間であり、試験に受かっても適性があるとは限らない。風間教官に退校届を渡されて1週間がリミット・・・という極限状態におかれたときの心理描写が読ませどころです。

今回は、元医者という変り種の桐沢や、逮捕術で相手に手を上げることがどうしてもできない美浦など、個性的な生徒たちが登場します。そして、それを上回る存在感の風間教官。なんでも見透かしてしまうような教官と、ひよっこたちとの真剣勝負は、スリリングで読み応えあります。

できることなら、さらなる続編をお願いしたいものです。

2016年3月 5日 (土)

心臓異色

2417「心臓異色」  中島たい子           光文社           ★★★

誤変換ではありません(笑)   こういうタイトルです。

「家を盗んだ男」「ディーラー・イン・ザ・トワイライト」 「それが進化」「心臓異色」「躍るスタジアム」「ボクはニセモノ」「いらない人間」の7編をおさめた短編集。ちょっと連作風にもなっています。

SFというか、奇妙な味というか、独特な世界観の中で描かれる人間たち。星新一の作品を思い出しました。

好きだったのは、「ボクはニセモノ」。かわいいラブストーリーでした。

2016年1月26日 (火)

いちまき

2406「いちまき」   中野翠         新潮社             ★★★

曾祖母は、関宿藩江戸家老の娘だった。曾祖母の自叙伝を見つけた筆者は、それをきっかけに自分の「いちまき(血族の一団)」について調べていく。

副題「ある家老の娘の物語」。

このサブタイトルを見て、「物語」なのかと思って手にとりましたが、実際はファミリー・ヒストリーをたどるドキュメンタリーでした。

自叙伝を残した曾祖母の父の話がメインで、幕末から明治にかけての動乱期に苦労して生き延びたその生涯はインパクトあります。が、それだけでなく、意外な人物が「いちまき」であることがわかったり、何かに「操られている」みたいに新事実にいきあたったり。その過程がなかなか面白かったです。

2016年1月 1日 (金)

タスキメシ

2392「タスキメシ」   額賀澪         小学館         ★★★★

怪我をした長距離ランナーの早馬は、ひょんなことから料理研究部の都と知り合い、料理を始める。ひどい偏食の弟・春馬に、少しでもまともなものをたべさせようと。しかし、陸上部の後輩でもある春馬は、陸上を忘れたかのような早馬の態度に腹がたって…。

陸上ものと料理ものが融合したら、素敵な青春小説ができあがりました。

優秀なランナーだった早馬の葛藤。早馬を上回る才能をもつ春馬の戸惑い。早馬に料理を教える都の胸の内。そして、都の幼なじみで、早馬の陸上部の同級生・助川のせつない思い。

四人の気持ちが錯綜していく中で、陸上から目を背けている早馬はどうするのか…という展開なのですが、決して甘くない物語です。

助川の存在が、効いています。早馬兄弟と都の物語としても成立したかもしれませんが、助川のほかの三人への思いが、物語に深みを与えています。

昨今の箱根駅伝は、妙に感動をあおるような報道がされて、あまり好きではないのですが、走る人たちにはそれぞれの思いがあるのだと、改めて感じました。

高校生・大学生が主人公だけど、なぜこんなに共感してしまうのか。それは、早馬たちの葛藤が、決して若い世代だけのものではないからかもしれません。逃げたり、悩んだり、大人だって同じです。

ということで、2016年一冊目。今年もぼちぼち読んでいきます。2016年もよろしくお願いいたします。

2015年12月24日 (木)

院内カフェ

2389「院内カフェ」 中島たい子         朝日新聞出版         ★★★★

病院の中にあるカフェでバイトしている「私」は、あまり売れていない小説家。そこにやってくる一風変わった客たちに翻弄されるのだが…。

「漢方小説」以来ご無沙汰してました。久びさの中島たい子さんです。

ほんわか…というのとは違い、どこかシビアなんだけど、読んでいると癒されるという、ちょっと不思議なテイストです。

親の介護、夫の病気、不妊治療など、他人事と思えない話題を、身につまされながら読んでました。でも、それぞれの着地点が、なんというか、救われるような気がしました。

派手さはないけど、じんわり効いてくる、そんな物語です。

2015年9月18日 (金)

世界の果てのこどもたち

2357「世界の果てのこどもたち」 中脇初枝   講談社   ★★★★

珠子、茉莉、美子(ミジャ)。三人の少女は、戦時中の満州で出会った。三人だけで出かけたお寺で、雨に降りこめられて、たった一個のおむすびを分け合って食べた少女たち。生まれも育ちも違う彼女たちの運命を、戦争は大きくゆがめていく・・・。

こういう時期に、こういう本に出会うというのも、運命なのかなと思います。

貧しい農村から開拓団の一員として満州にわたった珠子は、戦後、残留孤児となり、中国人の養父母に育てられ、日本語を忘れます。横浜の裕福な家庭で育った茉莉は、空襲で家族を失い、戦災孤児となり、施設で育ちます。美子の一家は、祖国を失って日本にわたり、在日として差別や偏見とたたかいながら生きることに。三者三様、それぞれの人生は、この国のどこかに、確実に存在する人生でもあります。

三人のうち一人だけでも、一冊の本になるほどの重さを背負っているのを、三人分で一つの物語にしたので、多少物足りない部分もあります。ただ、彼女たちの運命を交錯させることで、戦争は決して幸せを生み出さないことが、痛いほどに伝わってきます。こんな、つらい生き方をこどもたちにさせてはならない、と。

「わたしね、死にたくないの。わたしが死んだら、わたしの記憶もみんな消えちゃうでしょ。そうしたらきっとなにもかも、なかったことになる。そうしたらきっと、愚かな人間は、同じことをくりかえす」(中略)「わかってるのよ。わたしも同じ、愚かな人間だから」

茉莉の言葉が、忘れられません。

地獄のような体験をしても、球子たちは生き抜いてきました。では、私たちは「同じこと」をくりかえさない努力をしなくては。

たくさんの人に、読んでほしい一冊です。

2015年8月30日 (日)

ヒトリコ

2349「ヒトリコ」 額賀澪   小学館   ★★★★

小学校五年生の秋、教室の金魚殺しの犯人にされた日都子。彼女はその日から、「ヒトリコ」になった・・・。

「屋上のウインドノーツ」もよかったですが、これもよかったです。

担任に金魚殺しと決め付けられ、同級生もかばってくれず・・・とても理不尽な目にあった日都子。それから、彼女は一切人と関わろうとしない「ヒトリコ」になったのです。その頑なさは、強さというより、彼女が負った傷の深さを思い知らされます。

そんな日都子と、同級生の明仁、嘉穂、そしてもともと金魚の持ち主で、転校したけれどまた戻ってきた冬希といった面々の、数年間が描かれる物語です。

徹底的に人と関わることを拒否する日都子と、そんな彼女に関わらずにいられない同級生たち。それぞれにどうしようもない思いや、後悔や、理不尽さと向き合いながら。

日都子を含め、登場人物たちのヒリヒリするような思いに、こちらまで揺さぶられました。理不尽としかいいようのない現実に、どうやって立ち向かったらいいのか・・・。不器用な生き方しかできない日都子たちに、胸が痛くなりました。

すべてがまるくおさまるなんてことはあり得ないけれど、彼らが少しずつ変化しながら、生きていく術を見つけられるならいいな、と。

「怪獣のバラード」、なつかしかったです。

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