「は」行の作家

2021年3月23日 (火)

一橋桐子(76)の犯罪日記

3138「一橋桐子(76)の犯罪日記」 原田ひ香   徳間書店   ★★★★

一橋桐子、76歳独身。一緒に暮らしていた親友のトモが病気で亡くなり、天涯孤独の身の上になる。年金と清掃のパートで生活しているものの、余分な蓄えはない。孤独死して人に迷惑をかけるよりは、犯罪者になって刑務所に入った方がよいのでは。そう考えた桐子は、できるだけ長く刑務所に入っていられる罪を犯そうと考えて・・・。

 

原田ひ香さんは、以前何かのアンソロジーで読んで興味をもった作家さん。でも、ちゃんと読む機会には恵まれず、今回が初読みでした。

桐子さんはほぼ私の親世代なのですが、自分の先行きに対する不安は他人事とは思えず。頼れる人もなく、このまま孤独死・・・?という気持ちは、よくわかります。しっかりしているようで、どこか世間ずれしていない桐子さんの人物像がなんともいえずいい味を出しているのですが、実は読みながらイライラすることもしばしば。あまりにピュアなんですもの。

桐子さんの目指す犯罪は、「万引」から始まって、「偽札」「闇金」「詐欺」「誘拐」「殺人」とグレードアップしていきます。無理をして罪を犯そうとする桐子さんの姿は、滑稽であり、哀しくもあり。

そうして、数々の犯罪に関わった後、桐子さんには大団円が訪れます。彼女が関わってきたいろんな人たちの力を借りて、生きていく場をどうにか確保できそうに。もっとも、先のことはわからないし、桐子さん自身が何もせずにひきこもっていたら、このラストにはたどり着けなかったわけで。その辺のことが、ラストの「兄貴」との場面で提示されていました。単なる「めでたしめでたし」ではない苦さ。桐子さんの場合は、若干の運の良さがあったのだと思わされます。もっとも、その運も、桐子さんが引き寄せたものではあるのですけどね。

2021年3月 4日 (木)

さよならの夜食カフェ

3133「さよならの夜食カフェ    マカン・マラン  おしまい」  古内一絵      中央公論新社      ★★★★

早くに亡くなった母が進学したかったというお嬢様学校に入った希実。充実した毎日を過ごしていたが、友人たちとの関係がきしみ始め、日常が壊れていく。そんな希実は、ビーズ専門店で会った奇妙な男と再会し・・・。

 

シリーズ4作目は、「さくらんぼティラミスのエール」「幻惑のキャロットケーキ」「追憶のたまごスープ」「旅立ちのガレット・デ・ロワ」の4話。

「さくらんぼ~」の希実の話は、なかなかイライラさせられましたが(苦笑)、でもこういうのあるよねえ、と。それから、以前にも登場したカリスマシェフの芦沢庸介、シャールの後輩・燿子と同じタワーマンションのセレブ妻・更紗が、今回はそれぞれ主役になって再登場します。そして、最終話はシャールが主役。彼の視点で、彼の生き方が語られます。もちろん、柳田先生も登場します。

あっという間に4作読んでしまいました。読み始めは、たいていイライラさせられるのです。主役になる人物は、何かしらこじらせていたり、煮詰まっていたり、追い詰められていたり。他者から見れば言いたいことはさまざまあるのですが、本人にとってはもうどうしようもないわけで。彼らはシャールとその料理に出会ったことで、やり直すきっかけをつかむのです。

でも、シャールは単に耳当たりのいい言葉をくれるわけではなく、ましてや魔法使いでもなく。人が抱えるつらさや苦さから解放されることはなく、場を変え、形を変え、私たちはそれにつきあっていかなければならない。そうするためのちょっとしたやり方や、立ち向かうための強さを得るきっかけをつかむだけ。その後、どうなるかはその人しだい。この物語は、その辺の塩梅が絶妙なのです。

自分もいたみを抱えているから、人のいたみがわかる。だから、手を差し伸べることができる。

そういう物語だったのだなあ、と。

いずれまた、「マカン・マラン」の物語を読める日がくることを願いつつ。

2021年2月26日 (金)

時空旅行者の砂時計

3131「時空旅行者の砂時計」  方丈貴恵      東京創元社      ★★★

ライターの加茂は、「竜泉家の呪い」により死に瀕している妻を助けるため、タイムトラベルを決行する。そこは、連続殺人と土砂崩れで竜泉家の人々が亡くなった「死野の惨劇」が起こる寸前。・・・のはずだったが、すでに事件は起こっていた。加茂は、事件の記録を日記として残した文香とともに、これ以上の事件を防ぐべく奔走するが・・・。

 

第29回鮎川哲也賞受賞作。

SF設定による本格ミステリ・・・というのに驚きましたが、なるほど、こんなふうにできるんですねえ。

AIやらタイムトラベルやら。聞いただけで腰が引けますが(実際、読んでいてもちょっとわからないところもありましたが)、それらの設定を都合よくアンフェアに使うのでなく、設定を明らかにして、そのルールの中できちんとミステリを成立させています。SF設定をうまく機能させた「嵐の山荘」ものです。

設定にどうしても目がいってしまいますが、一癖も二癖もある登場人物たちもなかなかで、オールドファッションな本格もののテイストもたっぷり。ただ、ちょっと人物像が類型的になった感はありますが。犯人は誰? なぜそんな殺害方法を? 死体損壊の理由は? などなど、謎もたっぷりです。

やや説明過多な感じは否めませんが、なかなか読み応えがありました。続編も出ているので、そちらも読んでみようと思います。

2021年2月19日 (金)

きまぐれな夜食カフェ

3129「きまぐれな夜食カフェ    マカン・マラン  みたび 」  古内一絵   中央公論新社   ★★★★

タワーマンションに住む燿子は、夫から離婚を切り出されている。キャリアを放り出すようにして結婚したものの、満たされた気持ちになったことはなかった。燿子は自分の生き方が間違っていたのではないかと思いつつ、かつての職場の先輩の店を訪れる。

 

シリーズ3作目は「妬みの苺シロップ」「 薮入りのジュンサイ冷や麦 」「風と火のスープカレー」「クリスマスのタルト・タタン」の4話。いじめにあって心がねじくれてしまった綾。料理人として修行していたものの、頓挫してしまった省吾。タワーマンションに住む燿子。そして、「マカン・マラン」の地主である比佐子さん。四人それぞれの物語。

一番好きだったのは、燿子の話「風と火のスープカレー」。燿子の迷いというか、後悔はわかる気がします。今までとは違った角度でシャールが描かれるのもよかったです。それから、比佐子さんの生い立ちが描かれた「クリスマスのタルト・タタン」。切なくも温かい物語でした。

シャールの同級生・柳田先生はもちろん、今まで登場した人たちのその後が描かれているのもいいですね。

あと一作で終わりかあ・・・。寂しいなあ。

2021年2月12日 (金)

女王さまの夜食カフェ  

3127「女王さまの夜食カフェ  マカン・マラン ふたたび」 古内一絵   中央公論新社   ★★★★

裕紀が漫画家になるために上京して三年。しかし、実家を継いでいた兄が急逝し、夢をあきらめて帰郷することに。兄や母に対する複雑な思いを整理できず苦しむ裕紀は、雷雨の中、アパートの近くにある奇妙な店に迷い込み・・・。

 

シリーズ2作目。シャールは無事生還して、美味しい料理を作ってくれます。

「蒸しケーキのトライフル」「梅雨の晴れ間の竜田揚げ」「秋の夜長のトルコライス」「冬至の七種うどん」の四話。

一番響いたのは、第二話の「梅雨の晴れ間の~」。漫画家を目指した青年の葛藤を描いた物語が、実に印象的でした。「秋の夜長の~」もよかったです。読んでいる間は、ちょっと息苦しいような感じでしたが、それなりにあるべきところに行き着いたようで。

マクロビオティックとはいえ、それを押しつけてくるわけでもないし。シャールのもとには切羽詰まった人たちがやってくるわけですが、シャールはそれほど偉そうなことは言わない。自分自身も迷いの中にいて葛藤しているからこそ、そういう人たちを受け入れて、その人に必要なものを食べさせるだけ。何かに気づき、進むべき道を見つけるのは、あくまでも本人。その「押しつけがましさがない」ところが、この物語の心地よさなのかもしれません。

ところで、トライフルってそういうものだったのですね。初めて知りました。

2021年2月 5日 (金)

マカン・マラン

3124「マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ」  古内一絵      中央公論新社      ★★★★

帰宅途中に貧血で動けなくなった塔子は、通りかかった女性に助けられる。彼女に連れてこられたのは、路地の奥にある夜食カフェ「マカン・マラン」。そして、女性だと思っていたその人は…。

 

すごく話題になったときに、なんとなく手に取れなかったのです。美味しいご飯で疲れきった客を癒してくれる隠れ家的カフェみたいな話は、昨今世にあふれているしなあ、と。さらに、何故か地元図書館に入ってなくて。

ところが、県立図書館の巡回図書に、このシリーズがずらりと並んでいまして。じゃ、読んでみようかな。読みやすそうだし。と、借りてきました。

「春のキャセロール」「金のお米パン」「世界で一番女王なサラダ」「大晦日のアドベントスープ」の4話。「マカン・マラン」を訪れる客たちと、彼らに美味しい料理を提供する店主のシャールの物語。

第一話の塔子の話も身につまされましたが(ある意味タイムリーな内容でした)、第二話の中学校教師・柳田の話がなんとも…。先生の苦労がわかりすぎて、苦笑するしかなかったです。生徒が何故か母親の料理を食べなくなる。その理由は?  柳田はシャールの同級生で、二人の関わりもすごくよかった。

ベタな話のようでいて、なんとなく「他と違う」感じがするのはなぜでしょうね。それを知るためにも、続きも借りてこようっと。

 

2021年1月17日 (日)

セーラー服と黙示録

3119「セーラー服と黙示録」 古野まほろ   角川書店   ★★

聖アリスガワ女学校は、ヴァチカン直轄の探偵養成を目的とした学校。その卒業試験で、二人の女生徒が十字架に磔にされて殺された。不可能犯罪の謎を解くのは2年生の島津今日子と、その友人・古野みづき、葉月茉莉衣。将来、探偵となることを目指す彼女たちの推理とは。

 

古野まほろさんは、気になっているもののどこから手をつけていいのかわからない作家さん。先日読んだ恩田陸さんのエッセイで、このシリーズを推していたので、じゃあ読んでみようかな、と。

ところが・・・。なんというか、「大人のラノベ」的なノリなんでしょうか。文体にノレないし、ベースになっているのであろうカトリックの世界観がイマイチぴんとこない。登場人物もキャラが立っているのかもしれないけれど、なんだかつかみどころがない。う~ん、恩田さん、ちょっとこれしんどいです・・・。

要するに、これは壮大なシリーズの序盤で、彼女たちが本当に活躍するのも、校長をはじめ大人たちが暗躍するのも、すべてこれからってことですね。それだけはわかりました。

続きを読むかどうかは・・・神のみぞ知るってとこでしょうか(苦笑)

 

2020年6月20日 (土)

四神の旗

3054「四神の旗」  馳星周      中央公論新社      ★★★

藤原不比等の後継者たる四人の息子たち。武智麻呂、房前、宇合、麻呂。不比等の死後、彼らの前に立ちはだかるのは、皇親・長屋王。四兄弟は妹・光明子の立后、基皇子の立太子に奔走するが、兄弟間の不協和音が…。


初・馳星周です。馳星周ってこういうの書くの?と驚いたんですが。

藤原四兄弟は、悪役のイメージが強くて(長屋王の変のせいで)、そのわりに疫病で呆気なく退場しちゃった人たち…という認識だったのですが(苦笑)  ただ、倉本一宏「藤原氏」を読んで、のちの藤原氏の繁栄には四兄弟の存在は欠かせなかったとわかり、ちょっと興味をもったのです。で、彼らが主人公なら読んでみようか、と。

大雑把に言えば、藤原氏vs皇族なのですが、そこに橘三千代と息子の葛城王(橘諸兄)が絡んだり、聖武帝や光明子、さらには元明・元正上皇の思惑があったり、なかなか複雑…。ただ、四兄弟の区別はつくようになりました(苦笑)

場面が細切れで、視点人物がくるくる入れ替わるため、一瞬、誰の視点かわからないときがあったのが残念でした。

長屋王の描写はなかなか私のイメージに近かったですが、三千代や光明子がもう一つとらえきれなかったかな。彼女たちが時代のキーパーソンだと思うのですが。


2020年4月14日 (火)

鐘を鳴らす子供たち

3024「鐘を鳴らす子供たち」  古内一絵      小峰書店      ★★★★

戦後の混乱が続く昭和22年。良仁たちの小学校にラジオドラマ出演の話が舞い込み、良仁にも声がかかる。突然のことにとまどう良仁だったが、親友の祐介が参加するのにつられて、ドラマ出演することに。そうして、「鐘の鳴る丘」は始まった。


母がよく口ずさむ歌のひとつが

♪緑の丘の赤い屋根  とんがり帽子の時計台

で始まる歌で(おかげで私も覚えてしまった)。その歌に導かれるように、伯父(母の兄)と子供の頃のことを語り始める母に、幼かった私は不思議な気持ちになったものです。母もかつては子供だったということが、実感できなかったのですね。

親世代にとって何か大事なもの、という認識はあったものの、「鐘の鳴る丘」がいったいどんなものなのか、今までまるで知りませんでした。

これは、そのドラマの製作過程を描いたフィクション。主人公は、ドラマに出演した小学生です。なぜ、こんなドラマが企画され、素人の小学生たちに声がかかったのか。製作過程でどんな困難があったのか。大人たちの事情と、子供たちの思いと。「敗戦国」日本で、彼らが直面した現実と、それ故にこのドラマに込めた祈りとが、胸に迫ります。

フィクションは、「嘘」です。事実ではありません。それでも、人はなぜフィクションを欲するのか。

「放送劇は、物語は、きっと祈りなのだ。昨日よりも、今日よりも、明日はきっと幸せに」

主人公・良仁の言葉が、一つの答えかもしれません。



2019年8月10日 (土)

偽りの春

2931「偽りの春」 降田天   角川書店   ★★★★

詐欺グループの仲間が現金をもって逃亡した。グループのリーダーである光代のもとには脅迫状が。アパートの隣室の親子に情が移った光代は、今の生活を守るために、ある手段をとることを決意。無事に実行したと思った矢先、交番の「おまわりさん」に声をかけられ・・・。

 

第71回日本推理作家協会賞受賞の「偽りの春」を表題作にした連作短編ミステリ。副題に「神倉駅前交番 狩野雷太の推理」とある通り、かつて捜査一課にいた狩野が、ある事件をきっかけに交番勤務になり・・・という設定。かつて「落としの狩野」と呼ばれた刑事は、飄々とした風情で、犯罪者の心のすき間に入り込んでしまうのです。「鎖された赤」「偽りの春」「名前のない薔薇」「見知らぬ親友」「サロメの遺言」の五話。

受賞作の「偽りの春」が良かったので、期待して読みました。読者の読みの裏をかいていく展開の連続ですが、単なる着想の面白さにとどまらないのが、やはり狩野と、その部下の月岡みっちゃんの存在ですかね。食えない感じでとんでもなく鋭い狩野。常に冷静沈着で、狩野も一目おく「目」をもつみっちゃん。ベタな設定のようでいて、この二人の存在感が物語の中で実によく効いてくるのです。そして、狩野に何があったのかがラストできちんと明かされたのもよかったです。

執筆担当とプロット担当の二人によるユニットとのことですが、そういうの聞くと、エラリー・クイーンとか岡嶋二人とか思い出してニヤニヤしてしまいます。今後しばらく注目したい作家さんです。

 

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