「か」行の作家

2018年3月12日 (月)

現代詩人探偵

2721「現代詩人探偵」 紅玉いづき   東京創元社   ★★★★

ある地方都市で開かれた「現代詩人卵の会」のオフ会。そこに集まった9人は、十年後の再会を約束した。その十年後、集まったのは5人。残りの4人は、亡くなっていた。どうして彼らは死ななければならなかったのか。最年少の「探偵」こと僕は、彼らの事情を知ろうとするが・・・。

初読みの作家さんです。

題名を見たとき、正直、「今どき? 詩人?」と思ってしまいました。ごめんなさい。

でも、読み始めたら、「詩を書いて生きていく」ことに疑問を感じている「僕」の思いに、ぐんぐん引き込まれていきました。志を同じくした仲間たちは、なぜ死んだのか?それは詩人だったからなのか? では、なぜ自分は生きているのか?

自意識過剰と笑わば笑え。「僕」をはじめとする詩人の卵たちは、「詩を書く」ことに自覚的であり、それゆえにありえない深みにはまっていきます。「僕」が彼らの死にまつわる事情を知りたがるのは、彼らのためではなく、自分自身のため。なぜ「僕」がそうせずにいられなかったのかがわかったくだりでは、涙が出そうでした。

暗い暗いトンネルの中で、一筋の光明を見つけたようなラストは、感動的ですらありました。ずっと息をつめるようにして読んでいたのだと、そのとき気づきました。

2018年1月24日 (水)

藤原氏ー権力中枢の一族

2702「藤原氏ー権力中枢の一族」 倉本一宏   中公新書   ★★★★

「大化改新」で功績のあった鎌足から始まる藤原氏。常に権力の中枢にあった藤原氏千年の歴史をたどり、いかにして権力をつかみ、それを維持したかを分析する。

きっかけは、不比等です。去年の秋に奈良旅をしたときに「光明皇后」を読んでまして。その関連で、不比等やその妻・橘三千代にも興味をもちました。

さらに、今、おかざき真理「阿・吽」にはまってまして。桓武天皇の時代なんですが、このへんの知識があやふやなもので。

というわけで、よし、お勉強しよう!と手に取りました。他の本と併行しながら、一週間くらい。いやあ、ものすごくおもしろかったです。今さらですが、藤原氏をたどるのは、日本の歴史をたどること(特に、古代は)と同じなのですね。

「序章 鎌足の『功業』と藤原氏の成立」「第一章 不比等の覇権と律令体制」「第二章 奈良朝の政変劇」「第三章 藤原北家と政権抗争」「第四章 摂関政治の時代」「第五章 摂関家の成立と院政」「第六章 武家政権の成立と五摂家の分立」という構成。

膨大な数の「藤原氏」が登場しますが、その時々にわかりやすい系図が付いているので、それを参照しながら読めば大丈夫でした。

実は、藤原四家というのも区別がついていなかったし、平安時代の表舞台に登場する藤原ナントカさんも、誰がどうつながっているのかよくわかっていなかったので・・・。お恥ずかしい。勉強になりました。

そして、あくまで事実を記述しているだけなのに、これが物語を読んでいるようなおもしろさなのです。藤原氏が、まさにその名のごとく、皇統をはじめいろいろなところに枝を絡みつかせ、繁栄していく様子が、描かれています。本当に、特殊な一族だったのですね。

鎌倉時代以降、政治権力の座からは遠のいたわけですが、それでも公家世界では確実に生き延びでいたわけで。あの家も、あの家も、みんな元は藤原氏だったの?と茫然としました。知りませんでしたよ・・・。

自分の知識のなさというか、知っているつもりでわかっていなかったことの多さに愕然としました。もっと学ばねば。

2017年12月12日 (火)

トットひとり

2676「トットひとり」 黒柳徹子   新潮社   ★★★★

テレビの創世記から最前線で活躍してきた黒柳徹子。彼女が見送ってきた懐かしい人々との思い出をつづったエッセイ。

実は、「窓ぎわのトットちゃん」も未読なんです・・・。黒柳徹子さんって、正直ちょっと苦手で、今まであまり興味をもたなかったんです。が、昼ドラ「トットちゃん!」にはまってまして。トットちゃんが大人になってから登場してくるのが、ビッグネームばかりで、そしたらそれがほぼ実話だというじゃないですか。ビックリして、手に取ったのが、この本。

特に知りたかったのは、向田邦子さんとのこと。お二人がそんなに親しかったとは、全然知らず・・・。向田さんが亡くなったあとの徹子さんの思いが、せつなかったです。(ドラマで、向田さんの死んだ回は泣きました)

ほかにも、渥美清、森繁久彌、沢村貞子、井上ひさし、つかこうへい・・・名だたるスターたちが登場します。どなたも、ほかの人には見せないような顔を、徹子さんにだけ見せているのが印象的でした。裏表のない徹子さんは、きっとみんなにとって貴重な存在だったのでしょう。

印象的だったのは、「ザ・ベストテン」の話。リアルタイムで観ていた私は、「あ、この回覚えてる!」「このエピソードは伝説だよね」などとうなずきながら読んでいました。たしかに、あの番組のもってるエネルギーはただごとじゃなかった。ある意味、すさまじかった。そのエネルギーの真ん中にいたのが、徹子さんだったのですねえ。

もう一つは、「ある喜劇女優の死」。私は存じ上げないのですが、賀原夏子さんという女優さんのお話。母親との相克や、がんを告知されてから亡くなるまでの舞台にかける執念とか、とにかくすごかった。みごとな生き様だったことが伝わってきました。

読みながら何度も笑い、何度も涙しました。徹子さんのお人柄が伝わってくるようなエッセイです。

2017年11月30日 (木)

黄色いマンション 黒い猫

2671「黄色いマンション 黒い猫」 小泉今日子   スイッチ・パブリッシング   ★★★★

雑誌「SWITCH」2007年~2016年に連載されたエッセイ「小泉今日子 原宿百景」に、書き下ろし一編を加えた、キョンキョンのエッセイ集。

当時数多く存在した「アイドル」の中で、今でもなお「あこがれ」の対象になる人は、決して多くない。キョンキョンは、私にとってその数少ない一人だ。

かっこいい、と思う。アイドルとして第一線で活躍して、ある意味とんがっていた頃よりも、年を重ねた今、かっこいい、と思う。あんなふうに生きられたら、と思う。

このエッセイは、小泉今日子による原宿の定点観測のようなものだけど、彼女の生きてきた道のりが垣間見える。それは私の生きてきた時代背景とほぼリンクしていて、全く違う環境ながら共感できる。ああ、そうだったんだろうな・・・と、納得できるのだ。

実は、キョンキョンが「あまちゃん」に出演したとき、私はちょっとショックだった。「小泉今日子が高校生の娘をもつ主婦の役」というのが受け入れられなかった。その後、当初の違和感が嘘のように「あまちゃん」にはまり、キョンキョン演じる「春子」に感情移入して何度も泣くことになるのだが(笑)

小泉今日子のエッセイは、温度が低めで、肩に力が入らない感じ。でも、丁寧に書かれていることがわかる。読んでいて、とても心地よい。

エッセイ集は、愛猫の死と、五十歳になったことについての「逃避行、そして半世紀」で終わる。個人的には、今、これを読んだことが運命的な気がしている。

2017年9月26日 (火)

応仁の乱

2642「応仁の乱」 呉座勇一   中公新書   ★★★

11年に及んだ泥沼の戦いは、いかにして始まり、どう終ったのか。歴史の転換点ともいえる大乱を読み解く。

話題の新書ですが、室町時代はイマイチ苦手なので二の足を踏んでたら、夫がすでに読んでいました。で、借りまして、読みましたが・・・。

かなりわかりやすく解説してくれていると思うのですが、とにかく進まなくて(苦笑) 少しずつ、じりじりと読み進めまして、ようやく読了。

登場する人物もかなりの人数で、誰が誰やら混乱しましたが、とりあえずわかったのは、いわゆる「細川vs山名」みたいな単純な対立がもとではないということ、京都が舞台の戦乱ではあるけれど、奈良の情勢(興福寺など)もかなり影響していたこと、サブタイトルにある「戦国時代を生んだ大乱」の意味、などでしょうか。

今まで聞きかじっていた「応仁の乱」とは、かなり違うというか、もっと複雑で、深い意味のあるものだったということですね。今までは、将軍の義政が政治に無関心だったので幕府が弱体化し、その隙を狙って勢力争いが拡大したもの、くらいに思ってました。

とりあえず、読んでよかったです。知らないこと、知りたいことがいっぱいあるなあ。

2017年8月 1日 (火)

アリス殺し

2614「アリス殺し」 小林泰三   東京創元社   ★★★

大学院生・栗栖川亜理は、不思議の国のアリスの夢ばかり見ている。不思議の国で誰かが死ぬと、現実世界でも呼応するように誰かが死んで・・・。そして、不思議の国ではアリスが殺人の容疑者に。もしアリスが死刑になったら、現実では? 亜理は、同じ夢を見ているという井森とともに、事件を調べ始める。

現実と「不思議の国」とを行ったりきたりしながら、それぞれの殺人事件の謎を解いていく・・・という、なんとも奇妙な設定のミステリ。でも、本格ものです。

ほとんどが会話で進行するので(しかも噛み合わない会話で)、けっこう疲れました。が、見事にしてやられましたよ。うわ!そういうことか!と。

ただ、グロいのとか、痛いのとか、そういう描写は苦手なんです・・・。最後はもうほんとに、「早く終ってくれ」と思いながら読んでました(涙)

「クララ殺し」も気になっているんですが、そっちは大丈夫でしょうか・・・?

2017年3月 8日 (水)

最良の嘘の最後のひと言

2546「最良の嘘の最後のひと言」 河野裕   創元推理文庫   ★★★

巨大IT企業・ハルウィンが、「超能力者」を採用する!? 年収八千万。ただし、採用者は一人。最終試験は3月31日の午後6時から。街中で、採用通知を奪い合う「試験」に臨むのは、7人。超能力者によるコン・ゲームの幕が上がる。

設定がめちゃくちゃおもしろそうだったので、手に取りました。

コン・ゲームって好きなんですよね。騙し騙されの繰り返し。しかも、超能力者たちだから、とんでもないことが起こったり。でも、本当に超能力なの?とか、疑いだせばキリがないのです。

登場人物がみんな嘘つきで、ひと癖もふた癖もあって、めまぐるしく状況が変わるので、頭の中も大混乱です(苦笑) 今回、一気読みできず、細切れに読んだので、余計に混乱・・・。

でも、最後にはお見事な決着を見せました。

テーマ曲(?)の「ジ・エンテーテイナー」、大好きな曲なんですよね。読んでいるあいだ、ずっと頭の中で鳴っていました。

初読みの作家さんなんですが、「サクラダリセット」とかの方なんですね。気になっているんだけど・・・この勢いで読んでしまいそう。

2016年10月21日 (金)

それでも、日本人は「戦争」を選んだ

2480「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」 加藤陽子   新潮文庫   ★★★★

日本人はなぜ、戦争への道を突き進んだのか。明治以降の四つの対外戦争を取り上げることで、見えてくるものとは。中高生への5日間の集中講義の記録。

小林秀雄賞受賞作。

正直言って、難しかったです。知らないことばっかり。私ってこんなにいろんなことを知らないんだなあと思いながら、5日以上かかってようやく読みました(実は、序章で一度ギブアップした)。

日清戦争、日露戦争、第一次世界大戦、太平洋戦争。このうち、多少なりとも知識があるのは太平洋戦争で、それですら第二次世界大戦という枠で見ると、とたんに混乱する始末。日清・日露は「坂の上の雲」で得た知識が大半だし、第一次世界大戦で日本が何をしたのかはほとんど知りませんでした・・・。

東大の教授が中高生に集中講義をしたこの内容、難しかったのですが、力技で読み進めていくうちに、とってもおもしろくなってきたのです。

私たちは歴史を「結果」から眺め、「こういう結果になったのはなぜか」を考えることが多い気がします。そのとき、「こういう結果になったのだから、当然こうだったに違いない」というバイアスがかかっていることが多いのではないでしょうか。そういうものの見方を、根底から覆してくれるような内容が、たくさん出てきます。

また、日本の歴史を考えるときに、日本のみに焦点をあてる癖もあるような気がしますが、他国との関わりは切っても切れないもので、そういう視点で見ていくと、意外な思考の流れが見えてきたりもします。

とにかく、「こういう結果」になるための答えを見つけるような講義ではなく、「そのとき、何が起こっていたのか」「当時の人たちはどう考えていたのか」というのを、史料から読み解き、「それでも」こういう結果にいたったのだ・・・という、歴史の見方というのはかくあるべきだと思わされるものでした。

もし、自分がその当時生きていたらどうしていたのか・・・。そういう視点で物事を見ていくことの大切さを痛感しました。

2016年10月10日 (月)

あの戦争から遠く離れて

2478「あの戦争から遠く離れて」 城戸久枝   文春文庫   ★★★★

父は、日本人戦争孤児だった。国交正常化前に奇跡の帰国を果たした父の人生をたどることで、著者は二つの国の歴史について、考えさせられることになる。

副題「私につながる歴史をたどる旅」。

NHKの「ファミリーヒストリー」という番組がけっこう好きなのですが、スタッフの取材力にいつも驚かされます。これは、いってみれば、著者が自力で「ファミリーヒストリー」をたどり、それをまとめたノンフィクションです。ずっと読みたいと思っていたものを、ようやく読めました。

前半は、著者の父・城戸幹さん(中国名・孫玉福)が中国で「孤児」となってから、日本に帰国し、日本人として生活するまでの人生を三人称でたどったものです。運よく優しい養母とめぐりあったものの、日本人であることがその人生を大きく狂わせて行くさま、文化大革命の中の危険と隣り合わせの日々など、まるで「大地の子」そのもの・・・と思って読んでいました。が、「大地の子」のドラマを見たお父さんの感想は、「こんなもんじゃなかった・・・」。当時の中国の状況というのは、想像を絶するものだったのですね。

後半は、著者の中国への留学体験と、その後、帰国した残留孤児たちとの関わりなど、著者の物語になっていきます。早期帰国した「残留孤児」を父に持ち、日本で生まれた著者は、徐々に中国に興味をもち、その地へ旅立ちます。そこで、父の「親戚」や友人たちと出会い、また、日本人への偏見とも向き合うことに。そうして彼女は、二つの国にまたがる自分の「縁」について考えざるを得なくなります。

あまりにも壮絶な現実に、なんと感想を書いていいのか、正直言ってよくわかりません。わかるのは、「知らないことが多すぎる」「知ろうとしていないことが多すぎる」ということでした。

中国残留孤児の帰国は、当時、大々的に報道されていたので、よく新聞等で読んでいたのですが、その後の彼らがどうしているのか、私は全然知りませんでした。また、城戸さんのお父さんのように、個人の努力で帰国した人がいたなんてことも、全く知りませんでした。それを知ることができただけでも、読んでよかったと思います。

城戸幹さんの人生は、私たちの世代からは想像を絶するものですが、こんな生き方をした日本人がいるのだということを、私たちは知るべきだと思います。そのもとになったのが、「あの戦争」だということも。

著者は、非常にフラットな立場で、二つの国をとらえています。そのスタンスが、見事だと思いました。

2016年10月 9日 (日)

戦国と宗教

2477「戦国と宗教」 神田千里   岩波新書   ★★★

戦乱のただなかで、戦国大名たちは宗教とどう向き合っていたのか。戦国は、信仰の時代だったのか?

かつては戦国マニアでしたが、実は一向一揆のこととか、キリシタン大名のこととか、よくわかっていなかったので、ちょっとお勉強。

主に、上杉謙信や武田信玄の「戦勝祈願」、一向一揆と信長との関わり、キリスト教に対する信長・秀吉の姿勢とキリシタン大名のことなどが書かれています。

戦国武将たちが神仏を信仰するのは、戦の勝敗が軍事力のみでなく、人間の力を超えた摂理によるものだと考えていたから、というのは、すごく納得できました。だからこそ、戦国と宗教は切っても切れないものなのですね。

信長と宗教のかかわりについても、まだわからないことが多いようですが、一向宗を目の敵にしていたとか、仏教を憎むあまりキリスト教を保護したとか、そういうことではない、と。その辺のことがわかってきたら、また新しい信長像が見えてくるのかも。

キリシタン大名も、家臣の承諾がなければ大名も入信できなかったというのは、なんか意外でした。

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