「か」行の作家

2019年8月21日 (水)

コシノ洋装店ものがたり

2937「コシノ洋装店ものがたり」 小篠綾子   講談社+α文庫   ★★★★

世界的なファッションデザイナーであるコシノ三姉妹。彼女たちを育て上げた母親は、洋服黎明期に洋裁の世界に飛び込み、開拓してきた先駆者だった。岸和田でコシノ洋装店を営む小篠家のゴッド・マザーの人生とは。

 

去年、朝ドラレジェンドと言われる「カーネーション」の再放送を見て、衝撃を受けました。夕方の再放送枠だったので、不定期に放送されて、追いかけるのが大変でしたが、完走しました。視聴者にこんなに力をくれるドラマがあるのだと、見終えたときの感動と充実感は忘れられません。

で、モデルの小篠家に興味をもち、この本を探していたのですが、なかなか手に入らず。このたび、ようやく巡りあえました。

実話ベースで構成したことは知っていましたが、「え、これが実話だったの?」が続々と。びっくりしたのは、ヒロコさんとジュンコさんがバッグの取り合いをしたエピソードが実話だったことです。ひゃあ~。ドラマのあのシーンもよくおぼえています。ほかにも、「ああ、これがこうなってドラマでああいうふうに活かされて・・・」なんて、感慨にふけりながら読みました。

綾子さんの生き方は、なんんというか潔い。ただタフなだけでなく、偉ぶったりせず、きちんと地に足を着けて生きている。命があるんだから、今日もまたごはんを食べて、仕事をして、暮らしていくんだという、ごくごく普通の「生活」が身についていらっしゃる。変に悲劇のヒロインぶったりしない。それが、とても気持ちいいのです。

もしかしたら、「カーネーション」を見る前だったら、私は綾子さんが苦手だったかもしれませんが・・・。でも、今はその生き方が、なんだか腑に落ちるのでした。

2019年8月20日 (火)

え、なんでまた?

2936「え、なんでまた?」 宮藤官九郎   文藝春秋   ★★★

「宮藤官九郎がTV、舞台、音楽、日常、映画、地元で耳にした名セリフ&迷セリフ80個!!」(帯より)

 

「いだてん」にガッツリはまっております。BSで見て、本放送を見て、録画したのを何度も見て・・・と、我ながら呆れるほどのはまりっぷり。もともと「はまるとトコトン」のオタク体質ではありますが、1月からずっとこのテンションを維持してるのってすごいよなあ・・・と。

脚本家クドカンを認識したのは「木更津キャッツアイ」でした。が、あのときは「ずいぶんマニアックでめんどくさい構成のドラマだなあ」という印象で、正直、ついていけませんでした。私が覚醒したのは「あまちゃん」なのですが、その後もクドカン信者になるほどでもなく。ただ、去年の「監獄のお姫様」がめちゃくちゃ良くて。好きな女優さんがいっぱい出る~、じゃ見ようかな~と軽い気持ちで見て、あまりの面白さにビックリ。さらに、調べてみたらクドカンって映画「ピンポン」の脚本も書いてたの? あの名作の?(原作にほれこんでる私ですが、映画は映画でとっても良い!) うわあ、知らなかった~。

そして、現在の「いだてん」に至るわけです。とにかく、「なんでこんなの書けるの?」「いったいどういう人なの?」という興味がわいてきまして。とりあえず、図書館にあったエッセイ本を借りてきました。

ちょうど2011年の震災前後や、「あまちゃん」を書き始めた頃の話が多くて、読んでいても感慨深いものがありました。

それはそれとして、なんというか、クドカンってすごく真っ当な人だなあ、と。才能がある点で普通の人ではないのですが、感覚がすごく普通の人。偉ぶらないし、バカなこと言うし、娘さんがかわいくて仕方ないし。すごく普通の人。なんだか、ホッとしました。普通の人が、真っ当な感覚で書いてるのが、あの「いだてん」なんだなあ。すごく納得してしまいました。

「いだてん」を見ていて気持ちいいのは、基本的に他者への敬意があるというか、他者を蔑む視線が感じられないのですよね。マウントとらない。自分のプライド保つために、他者を見下すような言動が世にはびこっていて、それにうんざりしているので、「いだてん」のあの感覚にはホッとするんです。それは、クドカンの感覚なんだなあと確認しました。

ところで、視聴率について書いている項があり、なんとも複雑な気分になりました。そうなんだよねえ、視聴率が全てではないんだけれど、作り手としてはいい作品はたくさんの人に見てほしいんだよねえ・・・。

 

2019年5月19日 (日)

葵の月

2901「葵の月」 梶よう子   角川書店   ★★★

 

将軍継嗣・家基の不審な死。書院番で家基の覚えもめでたかった坂本蒼馬は、許嫁の志津乃にも何も語らず失踪した。三年が経ち、志津乃には、蒼馬の友だった高階信吾郎との縁談が。複雑な思いで運命を受け入れようとする志津乃だったが・・・。

 

七話から成り、それぞれ視点人物が変わり、徐々に事件の真相が明らかになる・・・という構成。将軍継嗣の暗殺(?)という大事件に関わり、さらに人間関係がもつれにもつれて複雑な絵図面が見えてきますが、実は意外にシンプルな決着をします。

思いもかけない事件に巻き込まれ、人生を狂わされてしまった人たちの姿に、時には胸がふさぐような気持ちになりますが、志津乃や、彼女に仕える平八たちの成長が心強かったです。

ただ、志津乃が最後の最後では、普通の武家の奥方におさまってしまっていたのが、ちょっと物足りなかったです。せっかく伯父の医師・孝安の手伝いをしたり・・・という描写があったのだから、その辺がもう少し生きてくればと思ってしまいました。

2019年4月 7日 (日)

謎とき『風と共に去りぬ』 

2883「謎とき『風と共に去りぬ』 矛盾と葛藤に満ちた世界文学」 鴻巣友季子   新潮選書   ★★★★

名作と名高い「風と共に去りぬ」。しかし、それは映画版であって、マーガレット・ミッチェルによる原作は、映画版とは決定的に異なるものでもあった。新訳版を手がけた筆者が、文学としてあまり研究されてこなかった「風と共に去りぬ」をテクスト批評、作者一族の生い立ち等を含め、ミッチェルが何を描こうとしたのか、そのテーマと意義に迫る。

 

「100分de名著」の「風と共に去りぬ」の回が、めちゃくちゃおもしろかったと聞いて、見ればよかった・・・と後悔。せめて、これでも読もうと買ってきましたが、これまたとってもおもしろかったです。

基本的に海外文学の素養がないので、当時のアメリカ文学の様相とかよくわかってないのですが(苦笑) 鴻巣さんがわかりやすく説明しているので、マーガレット・ミッチェルの「新しさ」と「古さ」がよくわかりました。

ミッチェルの時代だけでなく、世の価値観というのは新旧をはじめ、対になるものが混在しているのが常で、それとどう折り合いをつけていくかが生きていくうえでの大きなテーマの一つだと思うのですが。「風と共に去りぬ」のおもしろさは、対立するもののせめぎあいを作者が意識して、実に意図的に物語の中に落とし込み、さらに文体でもそれを表現しえたということなのでしょうね。

私にとって「風と共に去りぬ」は、生まれて初めて「ハマった」映画で、学生時代は寮の部屋にポスターを貼っていました。宝塚にハマっていた当時は、上演された「風と共に去りぬ」のいくつかのバージョンも見ました(スカーレット編とか、バトラー編とかあるのです)。だから、あのドラマティックでロマンティックな世界が「風共」だと思っていましたが・・・それは、映画のために作られた世界観だと知り、愕然としています。そう、原作は未読なのです。

というわけで、「風とともに去りぬ」は、今年の課題図書です。もちろん、鴻巣さんの新訳版で。

 

 

 

 

 

 

 

 

2018年10月 7日 (日)

絵金、闇を塗る

2801「絵金、闇を塗る」 木下昌輝 集英社 ★★★★

幕末の土佐で花開いた天才絵師・絵金。おどろおどろしい血塗れの絵は、人びとを、絵金自身を、何処へ誘ったのか。絵金に魅入られた人びとの目を通して描く、絵金の時代。

高知では、今も絵金の絵を飾る風習があることを、昔、浮世絵にかぶれた頃に知り、興味をもっていたのです。それがこんなふうに小説になるなんて。

幕末の土佐といえば、動乱の只中。この物語にも、武市半平太や坂本龍馬、岡田以蔵らが登場します。絵金の物語は、土佐という土地柄を背景に、時代を描く物語として、大きなうねりを見せます。

破天荒な絵師に魅入られるようにして、道を踏み外し、たがが外れたようになっていく人びと。彼らが時代をつくったのか、そんな時代が狂気を欲したのか…。

いつの間にか、自分自身も絵金の絵に魂を奪われたような気分になりました。


2018年8月 2日 (木)

現世怪談 開かずの壺

2779「現世怪談 開かずの壺」 木原浩勝   講談社   ★★★

新しく借りた事務所兼住宅は、坂の途中に建つ、三角形の敷地に建つ家。快適な新生活を送っていたが、大家の言動にひっかかりを覚え・・・。

筆者が蒐集した実話怪談が16話収められています。

やはり夏は怪談よねえ・・・と、図書館で目に付いたものを借りてきました。木原さんの本を読むのは、「新耳袋」シリーズ以来です。

ものすごく怖いというよりは、誰もがどこかでふっと異世界に足を踏み入れてしまう、そんなリアルな怖さ。なぜそんな目に遭うのかわからないけれど、降ってくる理不尽。他人事ではないよと、誰かが耳元で語りかけてくるような。そんな話でした。

構成もなかなかおもしろかったです。鏡の表と裏を見せられたような気分になりました。

2018年6月17日 (日)

宇喜多の楽土

2758「宇喜多の楽土」 木下昌輝   文藝春秋   ★★★★

戦国の梟雄・宇喜多直家から備前備中美作五十七万石を受け継いだ秀家。それは、己の誇りを捨てて、領民の安寧を守るための戦いの始まりでもあった。時の権力者・秀吉の覚えもめでたく、足元を着々と固めるかに見えた秀家だが、家中はおさまることがなく、さらに秀吉に死期が近づき・・・。果たして、秀家は領国の民を守ることができるのか。

「宇喜多の捨て嫁」の主人公・直家の嫡男・秀家を主人公にした長編。秀家が家督を継ぐところから、関ヶ原、その後までを描きます。

宇喜多秀家がなぜ五大老なのか、豊臣家とどういう関わりがあったのか、よくわかっていなかったのです。大河ドラマ「真田丸」での宇喜多秀家は太閤に忠義一筋の熱血漢で、なかなかうっとうしい存在でした(笑) 関ヶ原には西軍として活躍したこと、家中が不安定だったこと、関ヶ原で負け、逃げ回ったのちに八丈島に配流となったこと・・・などは、その後読んだ司馬良太郎「関ヶ原」で仕入れた知識。

さて、この物語は、秀家の少年時代から始まります。気持ちの優しい秀家は、領主となることに不安を抱きつつも、父・直家が領民のために干拓事業を行っているのを知り、それを受け継ぐことを決意する。「民のために命をかける」・・・父との約束を胸に歩みだした秀家。しかし、その道のりは険しいものでした。

一つにまとまらぬ家臣団。本能寺の変から豊臣政権、そして関ヶ原へという激動の時代。秀家は自分自身の誇りよりも、民のためにという一念のもと、ひたすら耐え抜きます。

単に秀吉に気に入られたから出世したということではなく、すさまじい駆け引きのうちに、綱渡りのように中央政界で五大老となり、領国経営に命がけであたり・・・。それでも、彼の人生は思うままにいくことなど、ほとんどなかったのです。

数々のエピソードが断片的に感じられたのがちょっと気になりましたが、「自分らしく生きること」の意味を考えさせられました。修羅場をくぐってきた秀家ですが、一番心に残ったのは、八丈島でのラストシーンでした。

2018年5月16日 (水)

陰謀の日本中世史

2748「陰謀の日本中世史」 呉座勇一   角川新書   ★★★★

本能寺の変には、黒幕がいた。それは、本当か? なぜ、我々は陰謀論に心惹かれるのか? 「応仁の乱」の著者による、歴史入門書。

「応仁の乱」は四苦八苦しながら読みました。今にして思えば、「応仁の乱ってよくわからん・・・」と思ってきたのは、「わかりやすいもの」を求めるこちらの心のあり方に原因があったのでした。

善悪、あるいは勝敗が明確であること、原因や敵味方の位置づけがはっきりしていることを、私たちは無意識に求めています。その方が、安心できるから。

しかし、世の中、そう簡単に白黒つけられるものではありません。歴史をつくっているのは、その時代を生きていた生身の人間。右往左往するし、間違えるし、寝返るし、理屈に合わない行動をとることだってあるのです。しかも、のちの時代に伝えられるのは、彼らの言動のうち、記録に残されたごく一部。私たち後世の人間は、欠けたピースを想像で補いながら、知らず知らずのうちに「わかりやすく、ドラマティックな」ストーリーを作ってしまうのでしょう。

今回、呉座先生は、保元・平治の乱から関ヶ原まで、中世を縦断しながら、いわゆる「陰謀論」を史実に基づき論破していきます。その論証は、非常にわかりやすい(笑) そして、陰謀論がなぜここまではびこるのか、その構図が浮かび上がってきます。

その点については、「終章 陰謀論はなぜ人気があるのか?」にまとめられてきます。これを読んでいると、なぜ、今、呉座先生がこれを書かねばならなかったのか、よくわかると同時に、背筋が寒くなるような思いがしました。

私たちが歴史から学ばねばならないことをおろそかにしているうちに、とんでもないことにならねばよいのですが。

2018年5月 5日 (土)

隣のずこずこ

2744「隣のずこずこ」 柿村将彦   新潮社   ★★★★

矢喜原の町に「それ」がやってきたのは、五月。そして、一ヶ月後に「それ」が去るとき、この里も人もすべて滅びるのだという。中学三年のはじめは、あまりの理不尽さに愕然とするが、そこから日常は静かに歪み始め・・・。

日本ファンタジーノベル大賞2017受賞作。

ファンタジーノベル大賞って、一筋縄ではいかない奇妙な物語を世に出しますよねえ。今回も、参りました。

ものすごく読みやすくて、しかも先が気になって、どんどん読んでしまうんですが、起こってることはけっこうえげつない。はじめの姉・ひとみのことだってそうだし。そもそも、いきなり「一ヵ月後にあなたたちみんな死にます。そう決まってるから」と言われることがもう理不尽の極みなわけで。

そういう状況下で、人々はさまざまな顔を見せます。やけになる人もいれば、自分の欲望に忠実に行動する人もいる。今までと全く変わらぬ生活を送る人も。その中ではじめは淡々と(あるいはボーっと)しているようでいて、周囲のいろんな動きに巻き込まれていきます。

抗うすべもない理不尽に翻弄される。以前だったら、これはあくまでも「架空の」物語であったかもしれません。でも、今の私たちは、こういう理不尽に襲われる現実を知ってしまっている。だからこそ、妙なリアリティをもって迫ってくるのです。

はじめの「抵抗」は、ある意味むなしい。彼女なりに何かをした結果が、思わぬ世界へ彼女を連れていくことになり・・・。はじめは、これからの旅の中で、何を思うのでしょう。

2018年3月12日 (月)

現代詩人探偵

2721「現代詩人探偵」 紅玉いづき   東京創元社   ★★★★

ある地方都市で開かれた「現代詩人卵の会」のオフ会。そこに集まった9人は、十年後の再会を約束した。その十年後、集まったのは5人。残りの4人は、亡くなっていた。どうして彼らは死ななければならなかったのか。最年少の「探偵」こと僕は、彼らの事情を知ろうとするが・・・。

初読みの作家さんです。

題名を見たとき、正直、「今どき? 詩人?」と思ってしまいました。ごめんなさい。

でも、読み始めたら、「詩を書いて生きていく」ことに疑問を感じている「僕」の思いに、ぐんぐん引き込まれていきました。志を同じくした仲間たちは、なぜ死んだのか?それは詩人だったからなのか? では、なぜ自分は生きているのか?

自意識過剰と笑わば笑え。「僕」をはじめとする詩人の卵たちは、「詩を書く」ことに自覚的であり、それゆえにありえない深みにはまっていきます。「僕」が彼らの死にまつわる事情を知りたがるのは、彼らのためではなく、自分自身のため。なぜ「僕」がそうせずにいられなかったのかがわかったくだりでは、涙が出そうでした。

暗い暗いトンネルの中で、一筋の光明を見つけたようなラストは、感動的ですらありました。ずっと息をつめるようにして読んでいたのだと、そのとき気づきました。

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