「か」行の作家

2020年8月26日 (水)

鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。

3082「鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。」  川上和人      新潮文庫      ★★★★

鳥類学者・川上和人先生のこの本、ずっと気になっていたのです。文庫化されたので、購入。

私は完全なインドア人間ですが、自分では絶対に経験しないであろう「フィールドワーク」には妙に惹かれます。川上先生の研究は、小笠原諸島がメイン。これがとんでもない面白さでした。

次々に繰り出される小ネタをかわしながら読み進めると、想像を絶する過酷なフィールドワークが…。鳥にも興味はないのに、川上先生の描写が実に生き生きとしていて、すごく楽しみながら読んでしまいました。笑い話かと思いきや、いきなり深い話になっていたり。自然を、生物相を保全することの意義と難しさを考えさせられました。

ただ、私はやっぱり鳥類学者は無理ですね~。

一番印象に残ったのは、先生のバイブルは「ナウシカ」だったということです(笑)

2020年8月11日 (火)

ここは、おしまいの地

3076「ここは、おしまいの地」  こだま      講談社文庫      ★★★★

田舎の集落で生まれ育ち、個性的な家族の中で「当たり前」が何なのか知らずに生きてきた筆者。うまくいかないことばかりだけれど、それでも「こんな私が『かわいそう』な訳ないでしょう。」


こだまさんの初エッセイ集。タイトルの「おしまいの地」とは、筆者が生まれ育ち、今もご両親が住む田舎のこと。

先日はくどうれいんさんの「うたうおばけ」を読みました。同じエッセイでも全く違うのだけど、共通しているのは、「書くことの力」を信じていること。それぞれの立場で書くことに向き合っている二人から伝わってくるのは、書くことで生きている、それが欠くべからざるものであることを自覚している強さ、でした。

こだまさんのエピソードは、驚かされたり、笑ってしまったりすることが沢山。嘘でしょ?と言いたくなるような話の連続。でも、どこかしら共感してしまうというか。かっこ悪くあがいたり、ジタバタしたり、大失敗して死ぬほど恥ずかしい思いをしたり。私もいつかどこかで味わったそういう思いが、嫌味なく書かれているのです。

そして、決して卑屈じゃない。それに、他者を貶める嫌らしさがない。

あとがきを読むと、なぜ書こうと思ったのか、何を書きたかったのか、よくわかります。その上で読むと、「私が『かわいそう』な訳がない」という一文が胸に響きます。

2020年8月 1日 (土)

うたうおばけ

3072「うたうおばけ」  くどうれいん      書肆侃侃房      ★★★★

作家で歌人で俳人、盛岡在住のくどうれいん、初のエッセイ集。


今年の春。Twitterのタイムラインに、「うたうおばけ」「くどうれいん」という言葉がやたら流れてきて。何?と思ったら、岩手出身・在住、高校時代にいろいろ賞をとっていた工藤玲音さんのエッセイ集でした。

書店でちょっと読んでみたら…あら、おもしろい。文章に軽妙なリズムがあって心地よいのです。

身の回りの出来事や友人のこと、恋人のこと。誰もが素通りしてしまうことに目をとめて、的確な言葉で記していく。エッセイとはそういうものでしょう。でも、それが難しいのです。

好きなのは、「ミオ」と「アミ」。それから「エリマキトカゲ」「山さん」「秩父で野宿」「まつげ屋のギャル」。衝撃的だったのは「一千万円分の不幸」。教職にあった者としては、身が凍りました…。

「Sabotage」で触れている新聞記事に登場する女子高生は知っている子で。あ~、県民だなあ、と。ほかにも登場するお店や場所など知ってるところが沢山で、嬉しかったです。

2020年7月31日 (金)

140字の文豪たち

3071「140字の文豪たち」  川島幸希      秀明大学出版会      ★★★★

「初版道」アカウントの文学ツイートと、それについての解説をまとめた一冊。太宰、芥川、中也、谷崎、三島などなど。


「初版道」さんをフォローしたのは今年になってから。以前からタイムラインに流れてきてはいたのですが、今年になってクイズ(景品あり)が始まり、参加しました。全然当たりません(苦笑)

いったい何者?と、最初は怪しんでいたのですが、肩書きは「日本近代文学研究者・元初版本コレクター・秀明大学学長」だそうです。

とにかく、誰もが知ってる有名な作家の意外と知られてない話や、文豪同士の交流に関わる話が、とにかくおもしろかったです。筆者が長年積み上げてきたものが、いろんな角度から垣間見え、意外なほど読みごたえがありました。

近年、文スト・文アル等の影響で文豪ブームみたいになってますが、ゲームやアニメに興味のない夫(近代文学畑)は、キョトンとしてます。ガチの文学部卒だからこういうのは受け付けないかな?と、恐る恐る説明したら、「そういうのをきっかけにして、若い子が作品を読んでくれたらいいね」。で、この本も買ってくれました。

私は作家に興味をもって、そこから作品を読み深めたいタイプなのですが、近代文学がすでに古典となった今、こういう形でのアプローチは増えるのかもしれません。

2020年6月 9日 (火)

蘇我氏-古代豪族の興亡

3049「蘇我氏-古代豪族の興亡」  倉本一宏      中公新書      ★★★

権勢を奮った蘇我蝦夷・入鹿父子が乙巳の変で討たれ、蘇我氏は滅びたのか? 蘇我氏の成立から、大王の側で大臣として地位を確立した稲目・馬子の世代、さらに乙巳の変以降の蘇我氏の動静を記す。


苦戦しました(苦笑)  一気には読めないので、少しずつコツコツ。

私自身、乙巳の変以前の知識があやふやなので、内容を理解するのにすごく時間がかかりました。

蝦夷や入鹿は、政治を欲しいままにした悪役のような扱われ方をしてきましたが、蘇我氏が果たした役割は決してそんなものではない。というのが筆者のスタンス。実際、蘇我氏の存在は欠くことのできないもので、もし乙巳の変がなかったら、どんな古代国家になっていただろう…と。

結局、蘇我氏のポジションや政治手法をそっくり受け継いだのが、藤原氏なのですよねえ。

倉本先生の本は、「藤原氏」「公家源氏」も読みましたが、なかなか面白かったです。ちょっとマニアックだけど(笑)

2020年5月21日 (木)

病魔という悪の物語 チフスのメアリー

3040「病魔という悪の物語    チフスのメアリー」  金森修      ちくまプリマー新書      ★★★★

20世紀はじめ、腸チフスの無症候性キャリア(健康保菌者)として世界で初めて特定されたメアリー・マローン。彼女は料理人として働き、雇い主の家族ら50人近くに腸チフスを伝染させた。その後、長い年月、隔離生活をさせられたメアリーとは、どんな人物だったのか。


『歴史は、善玉と悪玉によって作られるものだろうか。むしろ問題にすべきのは、そんな具合に、簡単に善悪の二分法で人間社会を切り分けようとする、物の見方の方にあるのではなかろうか。』(「はじめに」より)

緊急復刊だそうです。第一刷は2004年。その頃は、こんな世の中になるなんて、想像もしていませんでした。

全く知らなかったのですが…こういうことが実際にあったのですね。メアリーが突如放り込まれた混乱が、リアルに想像できてしまいます。キャリアとして特定された当時、メアリーは37歳。アイルランド移民の女性で独身。腸チフスに感染した自覚もない彼女は、無理やり隔離されて…。

現在も、「無症状の患者が感染を広げているのではないか」と言われています。陽性患者やその家族、接触者への偏見・差別も絶えません。根っこにあるのは、強い不安なのは間違いありません。では、どうすればよいのか。

存在したのは、「チフスのメアリー」ではなく、メアリー・マローンという一人の女性。豊かな暮らしではなかったけれど、料理人として働き、雇い主や仕事仲間の多くにも信頼され、恋人もいた。20年以上に及ぶ長い隔離生活の中で、友も得て、生きがいも見出だした。

私たちの誰もが、「キャリア」という言葉や数字で表されるものではなく、それぞれの人生がある、固有の人間です。そのことを忘れずにいなければと、肝に銘じました。

2020年5月 6日 (水)

公家源氏-王権を支えた名族

3032「公家源氏-王権を支えた名族」  倉本一宏      中公新書      ★★★

武士ではない「源氏」とは、源朝臣の姓を賜った天皇の子孫たち。貴族となった彼らは、どのような人生を歩んだのか。


フィクションですが、「源氏物語」の主人公・光源氏の生い立ちが、公家源氏の一つの典型です。…と頭ではわかっていたけど、わかっていませんでした。朝廷の「源氏」は、皆、天皇の一族なのですね。藤原道長の二人の妻は、どちらも源氏で、それぞれが天皇に連なる家系。そうか~、そうなんだ~。血統的には藤原氏より上ってこと?

と、「知らなかった…」が沢山でした。膨大な人数の公家源氏が取り上げられていて、クラクラしましたが(苦笑)、源博雅とか、知っている人が出てくると、「そういう血筋!」と盛り上がってました。

天皇の血筋ながら、代替わりしたり、皇統が替わったりすると、お上と遠い血統の源氏は落ちぶれていくというのも、何とも複雑な気分にさせられました。とはいえ、しぶとく生き延びた家もあり、歴史上、源氏の存在は大きいのだなあ、と実感しました。

2020年3月17日 (火)

日本中世への招待

3014「日本中世への招待」  呉座勇一      朝日新書      ★★★★

現代の日本人の生活のルーツは、中世にある。その時代を生きた人々の「日々の営み」にスポットを当てた一冊。


呉座先生の本が出てる!と、書店に走り、ゲットしました。

物心ついた頃から日本史好きで今に至る私。かつては信長だ、土方歳三だと熱を上げていたけれど、最近はいわゆる「英雄」に対する興味がかなり低下。むしろ、名もなき人々がどんな生活をしていたのかという点がおもしろくなってきて。そしたら、呉座先生のこんなご本が! 

期待に違わぬおもしろさでした。帯には「庶民と酒を酌み交わす殿様もいた」とありますが、このエピソードもいろんな方向で実におもしろいのです。また、呉座先生はさらりと書いてますが、素人には「え、知らない」「私の知ってるのと違う」の連発でした(苦笑)

史料を基に、学説もわかりやすく紹介したうえで、ご自身の意見も明確に記されているので、わかりやすい。また、新聞連載されたものが基になっているので、読みやすいです。中世初心者でもいけます。

個人的には呉座先生学生時代の人妻事件に爆笑しました。

2020年3月 9日 (月)

颶風の王

3011「颶風の王」  河﨑秋子      角川書店      ★★★★

一頭の馬とともに北の大地に渡った捨造。馬を育て、馬とともに根室で生きる未来を描いていた、捨造の孫・和子。十勝で、馬とは全く関わりのない生活を送る和子の孫・ひかり。明治から平成まで、六世代の家族と馬の物語。


短編集「土に贖う」もよかったけれど、これもよかった。わずか240頁あまり。でも、読み応えあります。句点がくれば即改行!の昨今の小説とは違って。

東北の農村の小作として生きる青年・捨造の出生にまつわる話が第一章「乱神」。それがまあ凄まじくて。身重の身で遭難した母は、生き延びるために馬を食った、という。私にはかなりしんどいものがありましたが、捨造の母・ミネと馬との関わりが、この作品の起点になります。

北海道に渡った捨造は馬を育て、それを生業としますが、やがて大きな台風によって、その道が断たれてしまう。その顛末が、孫娘和子の視点で語られる第二章「オヨバヌ」。自然の力には、人間の思いも願いも「及ばぬ」のだ、と。

そして、第三章「凱風」では、和子は倒れ、一命は取り留めたものの、意識は半分過去に行ったまま。馬のことを繰り返し語る和子を見て、孫娘のひかりは、和子がその祖父と育てた馬の末裔がいる島を訪れようとします。

生きるとは何か。形而上的な意味ではなく、生物として。どれだけ打ちのめされても…例えば自然災害に。あるいは、時代の流れに。…それでも、何故生きていけるのか。

3人の主人公は、血は繋がっていても、生きている時代も、価値観も異なります。それぞれが、それぞれの置かれた場所で生きる姿の中に、その答えが見えてきます。

そして、もう一方の主人公である馬の姿にも、それは描かれています。ミネと捨造の命をつないでくれたアオ。和子が天塩に育て、思わぬ別れとなってしまったワカ。ひかりが島で邂逅した、たった一頭の名もなき馬。彼らの生きる姿に、鳥肌が立つような思いがしました。

命があるから、生きる。

シンプルなことですが、人間が忘れがちなことかもしれません。

2020年2月19日 (水)

戦国十二刻 始まりのとき

3005「戦国十二刻  始まりのとき」  木下昌輝      光文社     ★★★

足利義政、斎藤道三、毛利元就、竹中半兵衛、島津惟新、長宗我部盛親を中心にした「二十四時間」を描く連作。

六話の短編と、それを繋ぐ「はじまりの刻」で構成されています。応仁の乱から始まって、戦国時代へ。そして、戦国の終わり、さらに先の時代の「始まり」へと思いをはせる作りに。

木下さんはこういうアイディア勝負の作品が多いのでしょうかね。「さいごの刻(文庫は「おわりの刻」)」と対になる作品。ただ、今回は信長も秀吉も家康も登場しません。

歴史的にはバイプレーヤー的な人たちの視点を通して時代を描く手法は嫌いじゃないです。ちゃんと全話を貫く仕掛けもあります。

「乱世の庭」では伊勢新九郎が登場して、おおっ!となりました。

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