「か」行の作家

2020年6月 9日 (火)

蘇我氏-古代豪族の興亡

3049「蘇我氏-古代豪族の興亡」  倉本一宏      中公新書      ★★★

権勢を奮った蘇我蝦夷・入鹿父子が乙巳の変で討たれ、蘇我氏は滅びたのか? 蘇我氏の成立から、大王の側で大臣として地位を確立した稲目・馬子の世代、さらに乙巳の変以降の蘇我氏の動静を記す。


苦戦しました(苦笑)  一気には読めないので、少しずつコツコツ。

私自身、乙巳の変以前の知識があやふやなので、内容を理解するのにすごく時間がかかりました。

蝦夷や入鹿は、政治を欲しいままにした悪役のような扱われ方をしてきましたが、蘇我氏が果たした役割は決してそんなものではない。というのが筆者のスタンス。実際、蘇我氏の存在は欠くことのできないもので、もし乙巳の変がなかったら、どんな古代国家になっていただろう…と。

結局、蘇我氏のポジションや政治手法をそっくり受け継いだのが、藤原氏なのですよねえ。

倉本先生の本は、「藤原氏」「公家源氏」も読みましたが、なかなか面白かったです。ちょっとマニアックだけど(笑)

2020年5月21日 (木)

病魔という悪の物語 チフスのメアリー

3040「病魔という悪の物語    チフスのメアリー」  金森修      ちくまプリマー新書      ★★★★

20世紀はじめ、腸チフスの無症候性キャリア(健康保菌者)として世界で初めて特定されたメアリー・マローン。彼女は料理人として働き、雇い主の家族ら50人近くに腸チフスを伝染させた。その後、長い年月、隔離生活をさせられたメアリーとは、どんな人物だったのか。


『歴史は、善玉と悪玉によって作られるものだろうか。むしろ問題にすべきのは、そんな具合に、簡単に善悪の二分法で人間社会を切り分けようとする、物の見方の方にあるのではなかろうか。』(「はじめに」より)

緊急復刊だそうです。第一刷は2004年。その頃は、こんな世の中になるなんて、想像もしていませんでした。

全く知らなかったのですが…こういうことが実際にあったのですね。メアリーが突如放り込まれた混乱が、リアルに想像できてしまいます。キャリアとして特定された当時、メアリーは37歳。アイルランド移民の女性で独身。腸チフスに感染した自覚もない彼女は、無理やり隔離されて…。

現在も、「無症状の患者が感染を広げているのではないか」と言われています。陽性患者やその家族、接触者への偏見・差別も絶えません。根っこにあるのは、強い不安なのは間違いありません。では、どうすればよいのか。

存在したのは、「チフスのメアリー」ではなく、メアリー・マローンという一人の女性。豊かな暮らしではなかったけれど、料理人として働き、雇い主や仕事仲間の多くにも信頼され、恋人もいた。20年以上に及ぶ長い隔離生活の中で、友も得て、生きがいも見出だした。

私たちの誰もが、「キャリア」という言葉や数字で表されるものではなく、それぞれの人生がある、固有の人間です。そのことを忘れずにいなければと、肝に銘じました。

2020年5月 6日 (水)

公家源氏-王権を支えた名族

3032「公家源氏-王権を支えた名族」  倉本一宏      中公新書      ★★★

武士ではない「源氏」とは、源朝臣の姓を賜った天皇の子孫たち。貴族となった彼らは、どのような人生を歩んだのか。


フィクションですが、「源氏物語」の主人公・光源氏の生い立ちが、公家源氏の一つの典型です。…と頭ではわかっていたけど、わかっていませんでした。朝廷の「源氏」は、皆、天皇の一族なのですね。藤原道長の二人の妻は、どちらも源氏で、それぞれが天皇に連なる家系。そうか~、そうなんだ~。血統的には藤原氏より上ってこと?

と、「知らなかった…」が沢山でした。膨大な人数の公家源氏が取り上げられていて、クラクラしましたが(苦笑)、源博雅とか、知っている人が出てくると、「そういう血筋!」と盛り上がってました。

天皇の血筋ながら、代替わりしたり、皇統が替わったりすると、お上と遠い血統の源氏は落ちぶれていくというのも、何とも複雑な気分にさせられました。とはいえ、しぶとく生き延びた家もあり、歴史上、源氏の存在は大きいのだなあ、と実感しました。

2020年3月17日 (火)

日本中世への招待

3014「日本中世への招待」  呉座勇一      朝日新書      ★★★★

現代の日本人の生活のルーツは、中世にある。その時代を生きた人々の「日々の営み」にスポットを当てた一冊。


呉座先生の本が出てる!と、書店に走り、ゲットしました。

物心ついた頃から日本史好きで今に至る私。かつては信長だ、土方歳三だと熱を上げていたけれど、最近はいわゆる「英雄」に対する興味がかなり低下。むしろ、名もなき人々がどんな生活をしていたのかという点がおもしろくなってきて。そしたら、呉座先生のこんなご本が! 

期待に違わぬおもしろさでした。帯には「庶民と酒を酌み交わす殿様もいた」とありますが、このエピソードもいろんな方向で実におもしろいのです。また、呉座先生はさらりと書いてますが、素人には「え、知らない」「私の知ってるのと違う」の連発でした(苦笑)

史料を基に、学説もわかりやすく紹介したうえで、ご自身の意見も明確に記されているので、わかりやすい。また、新聞連載されたものが基になっているので、読みやすいです。中世初心者でもいけます。

個人的には呉座先生学生時代の人妻事件に爆笑しました。

2020年3月 9日 (月)

颶風の王

3011「颶風の王」  河﨑秋子      角川書店      ★★★★

一頭の馬とともに北の大地に渡った捨造。馬を育て、馬とともに根室で生きる未来を描いていた、捨造の孫・和子。十勝で、馬とは全く関わりのない生活を送る和子の孫・ひかり。明治から平成まで、六世代の家族と馬の物語。


短編集「土に贖う」もよかったけれど、これもよかった。わずか240頁あまり。でも、読み応えあります。句点がくれば即改行!の昨今の小説とは違って。

東北の農村の小作として生きる青年・捨造の出生にまつわる話が第一章「乱神」。それがまあ凄まじくて。身重の身で遭難した母は、生き延びるために馬を食った、という。私にはかなりしんどいものがありましたが、捨造の母・ミネと馬との関わりが、この作品の起点になります。

北海道に渡った捨造は馬を育て、それを生業としますが、やがて大きな台風によって、その道が断たれてしまう。その顛末が、孫娘和子の視点で語られる第二章「オヨバヌ」。自然の力には、人間の思いも願いも「及ばぬ」のだ、と。

そして、第三章「凱風」では、和子は倒れ、一命は取り留めたものの、意識は半分過去に行ったまま。馬のことを繰り返し語る和子を見て、孫娘のひかりは、和子がその祖父と育てた馬の末裔がいる島を訪れようとします。

生きるとは何か。形而上的な意味ではなく、生物として。どれだけ打ちのめされても…例えば自然災害に。あるいは、時代の流れに。…それでも、何故生きていけるのか。

3人の主人公は、血は繋がっていても、生きている時代も、価値観も異なります。それぞれが、それぞれの置かれた場所で生きる姿の中に、その答えが見えてきます。

そして、もう一方の主人公である馬の姿にも、それは描かれています。ミネと捨造の命をつないでくれたアオ。和子が天塩に育て、思わぬ別れとなってしまったワカ。ひかりが島で邂逅した、たった一頭の名もなき馬。彼らの生きる姿に、鳥肌が立つような思いがしました。

命があるから、生きる。

シンプルなことですが、人間が忘れがちなことかもしれません。

2020年2月19日 (水)

戦国十二刻 始まりのとき

3005「戦国十二刻  始まりのとき」  木下昌輝      光文社     ★★★

足利義政、斎藤道三、毛利元就、竹中半兵衛、島津惟新、長宗我部盛親を中心にした「二十四時間」を描く連作。

六話の短編と、それを繋ぐ「はじまりの刻」で構成されています。応仁の乱から始まって、戦国時代へ。そして、戦国の終わり、さらに先の時代の「始まり」へと思いをはせる作りに。

木下さんはこういうアイディア勝負の作品が多いのでしょうかね。「さいごの刻(文庫は「おわりの刻」)」と対になる作品。ただ、今回は信長も秀吉も家康も登場しません。

歴史的にはバイプレーヤー的な人たちの視点を通して時代を描く手法は嫌いじゃないです。ちゃんと全話を貫く仕掛けもあります。

「乱世の庭」では伊勢新九郎が登場して、おおっ!となりました。

2020年2月18日 (火)

皇帝と拳銃と

3004「皇帝と拳銃と」  倉知淳      創元推理文庫      ★★★★

「皇帝」と呼ばれる文学部主任教授による完全犯罪は達成されたかに見えた。しかし、死神のような警部が現れ…。


倉知さん初の倒叙ミステリ・シリーズ。「運命の銀輪」「皇帝と拳銃と」「恋人たちの汀」「吊られた男と語らぬ女」の四編。

倒叙ミステリの王道!という感じの作品です。賢く、プライドの高い犯人による犯罪。それを暴く変わり者の刑事とのやりとり。じわじわと犯人を追いつめ、最後は犯人を屈服させる…。

今回の「変わり者」は、警視庁捜査一課の乙姫警部。可愛らしい名前とはうらはらな容貌と言動で、犯人を不安にさせます(笑) 相棒は「無闇にイケメン」な鈴木刑事。回を重ねるにつれて、この二人、どんどんキャラが立ってきます。

最近の倒叙ミステリでは、大倉崇裕さんの福家警部補シリーズがお気に入りですが、これも面白い。続編を期待します。

2020年1月20日 (月)

土に贖う

2995「土に贖う」  川﨑秋子      集英社      ★★★★

北海道野幌のレンガ工場で働く佐川吉正は、責任ある立場になって以来、緊張と鬱屈を抱えていた。生産量が増えるにつれ、自分たちは使い捨てられるのではないか。その矢先、配下の工員が亡くなり…。(「土に贖う」)


「蛹の家」「頸、冷える」「翠に蔓延る」「南北海鳥異聞」「うまねむる」「土に贖う」「温む骨」の短編7編。いずれも北海道を舞台にした小説です。

以前、アンソロジーで「頸、冷える」を読んで、「今どき、こんなものを書く人がいるのか!?」と、愕然としたのです。それは、北海道でかつてミンクの養殖に携わっていた青年の話。

「こんなもの」というのは、我々が忘れたことにしてきた、かつての日本人の姿と暮らしです。もはや日本はそんな国ではない、そんな過去はなかったと私たちが思い込もうとしている、何か。

この短編集は同系列の作品を集めたもので、養蚕、ハッカ、レンガ等々、北海道の産業を扱ったものが多いです。開拓地であり、厳しい自然と共存しなければならない北海道だからこそ、そこに生きた人々の思いは痛切です。

「かつてこの地にあった、何者かであり、何者にもなり得なかった諸々の過去」(「骨温む」より)こそが、この作品集であり、私たちが置き去りにしてきたものが、ここにあります。

2020年1月 3日 (金)

なめくじ艦隊

2987「なめくじ艦隊   志ん生半生記」  古今亭志ん生      ちくま文庫      ★★★

大名人古今亭志ん生が、自らの生い立ちや芸について語った半生記。


個人的に2019年は「いだてん」にはまりまくった年でした。1月6日、初回放送のトークショー(中村勘九郎さん・橋本愛ちゃん・訓覇プロデューサー)&パブリックビューイングに参加してから、ずっと「いだてん」漬け。日曜日は18時からBSで見て、20時は地上波、さらに翌日以降は録画視聴、土曜日の再放送も可能な限り見てました。

そんな「いだてん」の中で私の一番の弱点が、落語でした。志ん生も名前は知ってたけど、噺を聞いたことないし。落語にそこそこ詳しい夫のレクチャー受けながら見てました(のちに落語パートにあれほど泣かされることになるとは…)

その流れで、これも夫から借りました。志ん生という人は、自分のことを語るにもけっこうテキトーで話が食い違ったりする…とは聞いてましたが、意外と真っ当なことを語ってて(笑)  若い頃なんかひどい生活してるんですが、いろいろ経てきて、自分なりに筋が通ってるんですね。で、若い頃の駄目な自分を変に美化しない。その辺がかっこいいなあと。

「いだてん」のおかげで落語に興味が出てきたので、いずれ寄席に行ってみたいですねえ。

というわけで、2020年読み初めです。今年もよろしくお願いいたします。

2019年11月11日 (月)

探偵は教室にいない

2968「探偵は教室にいない」  川澄浩平      東京創元社      ★★★★

ウミこと海砂真史は、バスケ部所属の女子中学生。ある日、差出人不明のラブレターが机に入っていた。いったい誰が? 困惑した真史は、頭の切れる幼なじみ・鳥飼歩に連絡をとる。子供の頃以来会っていなかった歩は、一風変わった少年になっていて…。


鮎川哲也賞受賞作。なぜか読みそびれていました。

北海道の中学生が主人公の日常の謎系ミステリ。しかも、連作短編。と聞くと、いかにも鮎川賞っぽいですが、審査員に北村薫さんと加納朋子さんという、そのジャンルの書き手が二人もいるため、かえってハードルは高いとのこと( 選評より)。それでも、審査員全員一致での受賞ということで、大いに期待して読みました。

第一話では、正直、「こんなものか…」と。ただ、読み進めるにつれて、ウミや友人のエナ、バスケ部仲間の総士、京介、そして探偵役の歩たちが、とってもかわいく思えてきて。読み終えたときには、「また彼らに会いたいなあ」と、思ってしまったのでした。

日常の謎なので、派手な事件とは無縁ですが、それぞれの謎が、なかなか手強いです(第一話以外は・笑)

それから、北海道が舞台というのが効いてます。第三話「バースデイ」で、ウミたちは海に行くのですが、11月の余市の海! なんて無謀な…と笑ってしまいましたよ。


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