司馬遼太郎

2016年9月30日 (金)

関ヶ原

2473「関ヶ原」 司馬遼太郎   新潮文庫   ★★★★

秀吉亡き後、天下は揺れ動いている。豊臣家の天下を守ろうとする石田三成は、徳川家康と激しく対立。諸侯は右往左往している。三成の家老・島左近は、三成のために奔走するが・・・。

いやあ、長かった・・・。文庫で3巻だから、ある程度の長さは覚悟していましたが、とにかく関ヶ原に行くまでが長い(苦笑) 「真田丸」で関ヶ原が40秒で終わってしまった衝撃で、つい手にとってしまったこの本でしたが、関ヶ原の戦いに行くまでが長くて長くて。

冒頭が島左近で始まるので、三成方の話が中心かと思えば(ある意味そうなのですが)、徳川方や、それぞれの側についた諸侯の動向なども描かれていて、読み進めるにつれて、それがめっぽうおもしろくなってくるのでした。もちろん、脳内イメージは真田丸のキャストで(笑)

それにしても、三成・・・。真田丸でもかなりの人づきあい下手っぷりでしたが、こちらもまたひどい。優秀な人なのですよね。悪人ではない。でも、優秀すぎるからやらかしてしまう、その人情の機微が、なんとも言えなかったです。

これを読んでいるあいだ、ちょうど真田丸では父・昌幸の最期が描かれたわけですが。「軍団をひとつの塊と思うな。一人ひとりに思いがある」という台詞に、ハッとしました。まさに、この物語がそうではないですか。歴史は人が編んでいくものなのだと、・・・そして、それぞれが与えられた場で必死に生きていたのだと、痛感させられました。

2016年7月31日 (日)

豊臣家の人々

2458「豊臣家の人々」 司馬遼太郎   中公文庫   ★★★★

豊臣ファミリーとは、どのような人物だったのか。その妻や子、猶子たちの姿を描く連作。

「殺生関白」「金吾中納言」「宇喜田秀家」「北ノ政所」「大和大納言」「駿河御前」「結城秀康」「八条宮」「淀殿・その子」の9話。

「真田丸」にどっぷりはまっている今日この頃。日本史マニアですが、このあたりの話は、微妙に守備範囲外で、特に豊臣ファミリーに関しては、茶々以外にあまり興味がなかったのです。ところが、「真田丸」でがぜん興味をもちまして。ドラマの解釈とは違うことは承知の上で、読みました。

おもしろかったです。宇喜田秀家がどうして「殿下のために生き、殿下のために死ぬ」と、あんなに熱い殿下愛を語るのかもわかったし(笑) いまいちよくわかっていなかった、豊臣家の人たちの人間関係もようやく理解できました。そして、秀吉は主役ではないのだけれど、自然と秀吉という巨大な存在が浮かび上がってくるのですね。

つくづく、秀吉が望外の出世をしたことによって、その一族も運命が大きく転変したのですね。それが決して幸せなことだとは思えないけれど。そうして、秀吉によってつくられた「豊臣家」は、彼の死によって崩壊せざるを得なかったのでしょう。そう思えば、歴史上特異なファミリーだったと言えますね。

どうしても大河ドラマ目線で読んでしまいましたが、解釈が違うようでいて、意外と三谷脚本の底流に同じものが流れているような気もしました。

2013年12月14日 (土)

対訳 21世紀に生きる君たちへ

2072「対訳 21世紀に生きる君たちへ」 司馬遼太郎   朝日出版社   ★★★

司馬遼太郎が国語教科書のために書き下ろした「21世紀に生きる君たちへ」と「洪庵のたいまつ」に、「人間の荘厳さ」を添えて、英訳と併記した一冊。

すいません、英語はよくわかりません(苦笑) だから、日本語の部分しか読んでません。あっというまに読めてしまう、短い文章です。

12月8日、NHKで司馬遼太郎の番組を放送していました。歴史小説を書くようになったのは、自らの戦争体験があったこと。ノモンハン事件を書こうとして調べていたけれど、どうしても書けなかったこと。「21世紀に~」を書いたとき、短い文章なのに、長編を一冊書いたほどにエネルギーを消耗したこと。・・・そんな話に興味をもって、職場の図書館にあったのを手に取りました。

司馬遼太郎の思いを知ったうえで読むと、ズシンと応えるものがあります。21世紀に入った今、はたして我々は真に歴史から学び、より良い社会をつくろうとしているのでしょうか。小学生向けの文章ですが、むしろ大人こそが読むべきではないかと思います。

2010年10月19日 (火)

世に棲む日日(四)

1594「世に棲む日日(四)」司馬遼太郎   文春文庫   ★★★★

下関に帰ってきた高杉晋作。しかし、頼みの奇兵隊は動かず、わずか八十人でクーデターを起こすという暴挙に出る。それは、晋作にとっては計算通り。クーデターは成功し、長州藩は大きく舵をきった。いよいよ幕府との決戦を迎え、晋作は陣頭にあって指揮をとる。しかし、晋作に残された時間はわずかしかなかった。

なんというか・・・読み終えて、しばし茫然としてしまいました。

高杉晋作という人が、まるで疾風のごとき短い人生を送った人だということは知っていましたが、こんなに目まぐるしい人生を送り、そして最後の最後に大仕事を成し遂げ、あっけなく(と見えるほどに)逝ってしまったとは・・・。幕末の志士たちには、それぞれにドラマティックなエピソードがありますが、高杉晋作という人のそれは、その中でも特異な部類ではないでしょうか。こういう人間が現実に存在しえたということが、不思議でなりません。

この人の人生をたどってみると、有名な辞世の「おもしろきこともなき世をおもしろく」という文言が、その生きざまを象徴する見事なものであったと言わざるを得ません。

吉田松陰に始まり、高杉晋作、そしてその後のいわゆる「明治の元勲」たちに引き継がれていくこの時代の流れは、人と人とが関わり合って生まれる化学反応によって展開していくということを強く感じました。松陰のような「狂」の思想家がいなければ何も起こらなかったし、また、その「狂」を受け継ぐ革命家の高杉晋作がいなければ松陰は忘れ去られ、晋作自身もただの長州藩の重臣として一生を終えたことでしょう。そして、こういう「狂」の家臣を受け入れてしまう長州という藩の体質も、それが維新の源になっていたのだと思えば、歴史の不思議を感じずにはいられません。

個人的に吉田松陰はものすごく苦手だったのですが、あとがきによると司馬遼太郎も松陰にいいイメージはもっていなかったそうです。なるほど、単に松陰礼賛のような作品だったら、私は読めなかったかもしれません。

2010年10月13日 (水)

世に棲む日日(三)

1589「世に棲む日日(三)」司馬遼太郎   文春文庫   ★★★

日本を世界で通用する国にするためには、戦争しかない。長州藩が滅びることによって、日本は一つに団結する。・・・上海を見た高杉晋作は、すさまじいまでの革命思想をもつにいたった。それは、師・吉田松陰の思想をつきつめた先にあるものであった。行動を開始した晋作だったが、時勢の変転は思う以上に早く、長州藩は朝敵となり、藩の方針も二転三転する。いまや長州藩からも追われる身となった晋作は、自ら結成した奇兵隊に活路を見いだそうとするが・・・。

いよいよ高杉晋作が本格的に活動を始めます。

あんまり知らなかったのですが・・・かなり過激な人ですね。長州の中でも突出した行動家で、周りはすっかり晋作に振り回されていますが、いつのまにか藩論が晋作を追い越してしまって、晋作もあきれるほどに激化してしまうというのが、なんとも不思議でした。攘夷だ佐幕だと、藩の体制も振り子のように変わるのですが(これは、当時のどの藩でもあったこと)、晋作はそれに振り回されて投獄されたりもしながら、いつも飄々とした風情なのがおもしろいです。

奇兵隊という身分を超えた軍隊を日本で初めて結成した人というのが、私の高杉晋作に関する知識だったのですが、その奇兵隊からもあっさり離れているのですね。ずっと奇兵隊を率いていたのかと思ってました。先日の「龍馬伝」で晋作は死んでしまいましたが、病床の晋作を奇兵隊の面々が見舞いに訪れてましたが・・・そういう密接なつながりはなかったのでしょうか。

晋作の思想は過激すぎて、私にはついていけないところがありますが、逆に言えばこういうエネルギーのある人物が出てこないと、300年続いた国の体制が変わることはあり得なかったのかもしれません。「龍馬伝」の晋作は、「戦は極力しない」という龍馬に共感して、京に攻めのぼろうとする桂をいさめてましたが・・・真逆ですね。

この過程において、司馬遼太郎の「日本人分析」は非常におもしろかったです。特に、諸国の人々を驚かせた(あきれさせた)「ヤクニン」体質というのは、現代への警鐘でもありますね。

2010年10月 5日 (火)

世に棲む日日(二)

1583「世に棲む日日(二)」司馬遼太郎   文春文庫   ★★★

吉田松陰は、黒船に乗ってアメリカへ渡航しようとして失敗。投獄されたのち、松下村塾で教鞭をとる。塾生の久坂玄瑞に連れられてやってきた高杉晋作は、松陰と運命的な出会いを果たす。しかし、松陰は安政の大獄で処刑されてしまう。晋作は、いまだ己の天命を見いだせずにいた。

やっと高杉晋作登場です。というか、松陰、あっさり死んじゃいました・・・。

松陰という人物を、司馬遼太郎は「思想家」と規定しています。確かに彼は幕末期における最大の「思想家」でした。松陰は思想には行動が伴うべきと主張し、しかし彼の行動はおそろしく間が悪く、時に的外れだったりします。それは、彼の精神的な幼さというか、甘さというか・・・要は、幸せな育ち方をしたからなのですが。

ただ、吉田松陰なくして、のちの長州の集団ヒステリーにも見えるすさまじい行動力はなかったかもしれません。そう考えると、一人の人間が歴史に痕跡を残すというのは、空恐ろしい気もします。明らかに松陰がその名を刻んだのは、彼が望んだとおり、その死後のことなので。

さて、高杉晋作。この人、長州の上士なのですね。「竜馬がゆく」を読んでから、上士・下士という、武士の中の身分差がすごく気になっているのですが。晋作の気質も、やはり育ちの良さからくるものが大きい気がします。晋作は、長州の革命活動の事実上のリーダーになっていくわけですが、早世しなかったら、いずれほかの長州人たちとは合わなくなったかもしれません。

あたりまえですが、「龍馬伝」の高杉晋作とはだいぶ違います(笑) それも、読んでいく楽しみの一つです。

2010年10月 2日 (土)

世に棲む日日(一)

1580「世に棲む日日(一)」司馬遼太郎   文春文庫   ★★★

幕末の動乱の中心となった長州藩。その独特の藩風の中で育まれた吉田松陰。のちの長州藩の志士たちに強い影響を与えた松下村塾の主は、ひたすら学問の道を追求していた。そんな松陰を大きく揺り動かしたのは、ペリー来航だった。

どうも長州藩のことはよくわからない・・・ということで、とりあえずこれを読んでみることにしました。高杉晋作に興味があったので、前から読もうと思ってはいたのですが、吉田松陰がどうも苦手で(苦笑)

司馬遼太郎描くところの吉田松陰は、なんとも間の悪い、人間としてもひどくアンバランスな人物です。他藩の友との約束を違えぬために脱藩するという、現代人から見てもあり得ないことを平気でしたり。それでいて、藩に忠誠を尽くしているという信念は揺らがないという不思議さ。矛盾を抱えているのが人間ですが、松陰の場合はそれが突出して見えて、なんとも安定しない。それなのに、この人は妙に人に好かれて、特に目上の人たちにかわいがられる。高度な思考力と旺盛な知識欲とをもち、人間的には恐ろしいまでに純粋。はっきり言えば、幼い。そんな人間・松陰の姿が描かれていきます。

おもしろいのは、当時の長州藩の独特の気風や、価値観です。この時代、やはり「藩」というのは、一つの国なのですね。その多様性は、現代では想像もつかないほどです。

この巻ではまだ高杉晋作が登場しません。気長にぼちぼち読んでいきます。

2010年4月29日 (木)

人斬り以蔵

1478「人斬り以蔵」司馬遼太郎   新潮文庫   ★★★

土佐藩士・岡田以蔵。別名・人斬り以蔵。武市半平太の手先として、尊王攘夷の名のもとに人を斬りまくって京の町に名をはせた男。以蔵はなぜ「人斬り」になったのか・・・。

今日は違う本を読むつもりだったのに、夫が出がけに「これ、読む?」と置いていったので、つい手にとってしまいました。「龍馬伝」での以蔵が人斬りになるまでの心理がなかなかおもしろくて、「ふうん、そういう解釈か・・・でも、『竜馬がゆく』の以蔵とはちょっとイメージ違うなあ」と思っていたので。こちらは大河ドラマよりも、なかなかすさまじかったです。基本は、「足軽」という身分で、土佐勤皇党の中でも低く見られていた・・・というもので、そこは一緒なんですが。司馬遼太郎描くところの以蔵の方が、性格悪かったです(苦笑)

これは短編集で、幕末や戦国の動乱期に生きた人々を描いたもの。時代があっちこっち移動するので、頭を切り替えるのが大変でした。表題作が一番おもしろかったですが、大村益次郎を描いた「鬼謀の人」もおもしろかったです。

私も戦国・幕末は興味がありますが、こういう動乱期は、人の生きざまが恐ろしいほど鮮やかに浮かび上がってくるのです。だから、ドラマティックだし、信じられないような歴史の偶然が必然として成されたり・・・司馬遼太郎は、それを「人」を通して、まるで見てきたかのように描きだすので、つい夢中になって読んでしまいます。

2010年4月14日 (水)

竜馬がゆく(八)

1464「竜馬がゆく(八)」司馬遼太郎   文春文庫   ★★★★

できることなら、血の流れない革命を・・・。天下の奇策「大政奉還」成立のために、竜馬は奔走する。汗を流したかいあって、間一髪、大政奉還はおこなわれた。新政府の構想も決まり、自分の日本での役割は終わった、「世界の坂本竜馬になる」と言った竜馬。そして、竜馬は天に還っていった・・・。

最後は竜馬の死・・・というのはわかっていたことなので、読むのがつらかったです。いつのまにか、私も竜馬の魅力のとりこになっていたのですね。それにしても、本当に、自分のやるべきこと(竜馬でなければできないこと)をやりとげて、その瞬間に舞台を降りていったような人生でした。一介の浪人が、日本の近代化の扉をこじ開け、これから進む道を指し示す・・・信じられないようなことですが、これが現実に起こったことなのですから、歴史の妙というものを感じずにはいられません。

もちろん、竜馬ひとりで事が成ったわけではなく、いろんな人物や、その人たちがおかれた状況の化学反応が、時代をつくっていったわけで。歴史の大きな転換期は、それが大規模に起こるので、私みたいな歴史マニアが飛びついておもしろがるわけです。

しかし、最近しみじみと思うのは、歴史はつながっているのだ、ということ。何をあたりまえのことを・・・と思うかもしれませんが、私たちは、歴史を「過去のこと」ととらえがちです。そうではないでしょうか?

たとえば、竜馬が土佐藩士でなかったら、ああいう人物にはなっていなかったでしょう。300年続いた価値観というのは、簡単に覆るものではありません。しかし、土佐藩の武士階級における厳しすぎる身分制度が、竜馬が藩を見限り、自由自在に動く素地をつくったわけです。その身分制度のもとになったのは、関ヶ原後、土佐を拝領した山内家と、土着の長曾我部氏との確執が元なわけで・・・。また、竜馬が示した近代日本の姿は、そのまま明治政府に受け継がれ、日清・日露戦争を経て、泥沼の太平洋戦争へつながっていくのです。「坂の上の雲」と続けて読んだためか、そういう歴史の流れを、強く感じるようになりました。

ただ、そんなこむずかしい理屈はともかく、竜馬という一人の青年の生きざまを描いたこの物語は、歴史小説でもありますが、青春小説でもあります。官軍側には興味ないんだけど・・・と言いながら、本当に、あっというまに読んでしまいました。竜馬の生き方は、爽快でした。竜馬の死は、もっと悲しい気分になるのではないかと思っていましたが、冷静に受け止められました。人生を燃焼し尽くしたという気がしたからかもしれません。竜馬は無念だったかもしれませんが・・・。

この「竜馬がゆく」が、龍馬ものの古典のようになっているのが、よくわかりました。読んでよかったです。

2010年4月13日 (火)

竜馬がゆく(七)

1463「竜馬がゆく(七)」司馬遼太郎   文春文庫   ★★★

時代は大きく動こうとしていた。薩摩・長州が手を結び、そこに土佐が加われば、維新は成る。しかし、土佐の山内容堂は、いまだに矛盾した思想に凝り固まっていた。海援隊としての活動を始めた竜馬は、土佐藩の状況を打開し、なおかつ「無血革命」をおこなうための唯一の策を提案する。

とうとう、ここまで来たのか・・・という思いで、この巻を閉じました。

亀山社中(のちの海援隊)としての活動や、中岡慎太郎との関わりはよく知らなかったのですが、なるほど、こういう展開になっていたのですね。せっかく手に入れた艦が二度も沈没したり、竜馬の人生、ほんとに起伏が大きい・・・。

長崎の芸者・お元とのロマンスや、大商人・大浦屋お慶など、それなりに派手やかな彩りも多い長崎時代ですが、私は、最後の「船中八策」が、この壮大な物語の最大の山場のような気がしました。

大政奉還に始まり、議会制度や法律のことまで触れた竜馬の国家観は、間違いなくこの時代の最先鋭であり、今後日本が進むべき道を示した、大きな道しるべでしょう。それをこの世に生み出すために、坂本竜馬は生を受けたのではないか。そんな気にさえなりました。

逆にいえば、「船中八策」を他人の耳に入れた時点で、竜馬の役目は終了したのかもしれません。

残すところあと1巻なのですが、この後の展開を知っているだけに、気が重いです・・・。

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