山崎豊子

2013年10月14日 (月)

白い巨塔(五)

2056「白い巨塔(五)」 山崎豊子   新潮文庫   ★★★★

里見や関口弁護士は、その熱意と誠意で次々に証人を繰り出し、控訴審は、徐々に財前不利の様相を呈してくる。一方、学術会員選挙は、熾烈な票集めの末、財前に勝機が見えてきた。そして、財前自身の体調に異変が・・・。

完結編です。一気に読んでしまいました。

医療に関する部分は、正直よくわからないし、時代とともに現在の常識とは異なる部分も多いので、読み流したところもあります。が、人間ドラマの部分はじゅうぶん読みごたえがありました。「善」の里見と「悪」の財前という対比でありながら、財前が単なる悪玉でなく、人間として描かれていること、里見の清廉な人柄が決して嫌味にならないことを始め、登場人物それぞれが実に生き生きと人間臭く描かれているのに、あらためて圧倒されました。

財前の嘘が発覚するのも、結局は人の心をおろそかにしたから・・・という展開は、ベタなようでいて、これほど説得力のある破綻の仕方もないでしょう。そして、しっぺ返しをくらった(今の流行なら「百倍返し」?)財前の最後の覚悟が、この物語を「名作」にしたのだと思います。

とはいえ、この作品の大きな意味は、社会問題を積極的に取り上げたこと、それによって山崎豊子という作家のその後の方向性が大きく決定されたことかもしれません。

なんにせよ、遅ればせながら読めてよかったです。我が家には、田宮二郎主演のドラマDVDがあるのですが・・・そちらも途中までしか見てないので、いずれ見ようと思います。

最後になりますが、山崎豊子さんのご冥福をお祈りいたします。

2013年10月13日 (日)

白い巨塔(四)

2055「白い巨塔(四)」 山崎豊子   新潮文庫    ★★★★

医療裁判に勝った財前は、さらなる野望へ。一方、近畿癌センターに勤務することになった里見は、患者を救うための早期発見に奔走していた。そして、控訴審に向けて、それぞれの思惑が絡み合うなか、財前の前に亡くなった患者とうり二つの患者が現れる。

続編の前半です。大学に残り、名誉と権力を盤石なものにしていく財前と、自分の使命にまい進する里見。しかし、本来の医師としての在り方を忘れた財前の行く手に、不穏な気配が。

本編があまりに後味悪い終わり方なので、読者の強い希望により執筆されたという続編。強い欲と上昇志向をもちながら、どこかしら人としての弱さを感じさせる財前。悪役でありながら、なぜか憎み切れない彼の存在感は、やはりこの続編の展開あってこそ、ではないでしょうか。里見との対比はますます鮮やかになり、しかも財前がしてきたことが、確実に彼自身を追いつめ始める・・・。財前自身、決して自分のことに無自覚なわけでもないので。

時代背景は、高度経済成長期。大阪の工場地帯の環境や、大阪万博に向けての工事の様子など、国全体が上へ上へと走り続けた時代です。強い上昇志向と同時に、社会の貧しさ、貧富の差というものも、強烈に感じます。そういう時代だからこそ、登場人物たちの言動に、現代とは異なる「リアル」を感じるような気がします。

2013年10月11日 (金)

白い巨塔(三)

2054「白い巨塔(三)」 山崎豊子   新潮文庫   ★★★

財前が手術した患者が死亡した。財前の態度に不信感をもった遺族は、裁判に。そして、原告側の証人として、里見が証言台に立った。それは、里見にとって、人生を大きく左右する事態になる。

手が思うように動かないと、新聞のインタビュー記事で以前に読んだ気がしていたので、今年、新作の連載が始まった時には驚きました。その途中でお亡くなりになる無念はいかほどかと思いましたが、第一部だけはすでに書き上げられていたことに、また驚かされました。どれほどの執念で、執筆を続けられたのか、ただただ圧倒されるばかりです。

さて、ずっと中断していた「白い巨塔」。3巻の途中で止まっていたので、再チャレンジしてみました。2巻を読んだのは、去年の4月でした。まあ、おおまかな筋はわかっているので、大丈夫でしたが。

いよいよ裁判が始まり、自らの栄達を求める財前と、真摯に患者や医療に向き合う里見との対比が、より明確に描かれます。裁判の場面は、あくどい財前一派の暗躍に対して、患者の遺族や里見の思いが心を打ちます。それなのに・・・。

本来、「白い巨塔」はこの巻で終わっていたとのこと。そりゃあ、読者としては納得できないでしょう(苦笑) 後味悪いこと、このうえない。実際に、作者がそういう思いを味わったことから書かれたようですが、続編があってよかったとつくづく思います。里見のためにも、財前のためにも。

2012年4月11日 (水)

白い巨塔(二)

1852「白い巨塔(二)」 山崎豊子   新潮文庫   ★★★★

いよいよ教授選が始まる。第一外科教授の東は、自らの後任に助教授の財前ではなく、金沢大の菊川をと考えるが、学内のさまざまな人物の思惑が絡み、教授選は混迷の度を深めていく。決戦投票の末、財前が僅差で支持を集め、教授に就任。ドイツへの長期出張も決まり、まさに栄光の階段を昇りはじめた財前だったが・・・。

教授選が終わりました~。というか、医者なのに何やってるんだか・・・という感じですね。それぞれにアクの強い方々が、これでもかと己の欲に走っている姿は、物語としてはおもしろいのですが、ふと「この人たち医者だよな」と思ってしまうともう・・・。

たしかに、この中では、里見先生だけがまともな医者だと言えるかもしれません。

財前五郎は教授になり、わが世の春を謳歌していますが、どうもこの人、肝心なところで詰めが甘い。愛人のケイ子が言うように「あんたは調子に乗りすぎて、つまらないことで失敗する」タイプなんですね。そういう人としての弱さが露呈するところが、財前を決定的には嫌いになれない理由かもしれません。

山崎豊子の小説には、けっこうこういう「悪人」が登場します。その中でも財前は、私にとっては嫌いなんだけどなぜか憎めない、不思議なキャラクターなのです。もっとも、ドラマの影響は否定できませんが。

さて、華々しく海外出張へ出発した財前ですが、その背後では財前の運命を揺り動かす事件が起こりつつあります。続きを読めるのは、いつになることやらですが(苦笑)

2012年3月20日 (火)

白い巨塔(一)

1845「白い巨塔(一)」 山崎豊子   新潮文庫   ★★★★

浪速大学第一外科の財前五郎助教授は、消化器癌手術の第一人者として名を馳せている。教授の東を差し置いて「財前外科」などと呼ばれることを、東は苦々しく思っていた。おりしも、東の退官が近づき、医局は次の教授選に向けて、ざわめきはじめる。当然、次の教授の椅子を狙う財前だったが・・・。

今更な感もありますが、未読だったもので。

やはり何と言っても、田宮二郎の財前五郎の印象が強く、唐沢寿明版では物足りず(唐沢は好きなんですよ、私)、田宮版のDVDを購入して見直してしまったのですが・・・やはり、あのドラマはすごかったです。映像などは古いのですが、あの画面から迫ってくるような緊張感たるや、昨今のドラマにはないですねえ。

というわけで、ストーリーもすべて知っているのですが、原作も読もう読もうと思っているうちに時間ばかり過ぎ。ようやく春休みに入り、やっと一冊読めました。

貧しい暮らしから立身出世し、外科医として成功。裕福な開業医の娘を妻にし、医学部中退のインテリホステスを愛人にもつ、財前五郎。能力も高いが、野心も人一倍の五郎は、全く「いい人」ではありません。しかし、ごくたまに垣間見える人としての弱さが、どうにも彼を嫌いになれないのです。

子供のころは清廉潔白で学究肌の里見をかっこいいと思っていましたが、今はそう思えないから不思議です。いやもちろん、理想的な生き方だと思うし、財前みたいな生き方も嫌いですが。

しかし、一冊読んでも、手術の場面はごくわずか。ほとんどが医師たちの教授選をめぐる腹の探り合い・・・。そのことに改めて驚きました。何やってんだか、この人たちは。

でも、これって、過去のこと・・・じゃあないんでしょうかね。

2010年5月15日 (土)

二つの祖国(四)

1492「二つの祖国(四)」山崎豊子   新潮文庫   ★★★★

東京裁判は、いよいよ終わりを迎えようとしていた。天羽賢治は、裁判の方向性に疑問を感じながら判決文の翻訳に携わるが、隔離された環境と、裁判の理念に対する疑念とで、神経をすり減らしていた。唯一の心の支えである梛子と将来を誓い合った矢先、被爆者である梛子が白血病で倒れてしまう。梛子の口添えで、弟の忠と和解したのもつかの間、梛子はこの世を去り、東京裁判は終了。賢治は、心ならずも被告に絞首刑を宣告せざるを得なかった。そして、賢治の言動は反米的であるとされ、合衆国への忠誠を問われる。すべてに絶望した賢治が選んだ道は・・・。

初めて読んだ高校生の時、この結末に衝撃を受け、裁判のなりゆきに夢中になって分厚い下巻を読みとおした情熱もなにもかも一瞬で消え果て、茫然としたことを鮮明に覚えています。だから、今回も、賢治がたどりつく先が分かっていたので、読んでいて、つらくてしょうがなかったのです・・・。父なる日本と母なるアメリカ、自分の存在に欠かせぬ二つの国に誠実であろうとすればするほど、追い詰められ、すさんでいく賢治の姿が痛ましくてなりませんでした。

初読の時は、裁判場面や戦犯たちの言動など、ノンフィクション的な部分に気を取られ、賢治の心の動きは二の次になってしまったのですが、今回は、そこから目をそらすまいと思って読みました。

日米開戦と同時に、合衆国への「忠誠」を問われた日系人。「イエス」か「ノウ」かで、答えなければならないその問いに、彼らの人生は翻弄されたのです。日系人だからというだけで収容所へ送られ・・・ある者は、血の証をたてるために軍隊に志願し・・・また、日系人であることを否定することで生きようとした者もあり・・・逆に、日本人であろうとした者も・・・そして、賢治や梛子は、二つの国ともが自らの祖国であると、そのことに誠実に向き合おうとした人たちでした。だから、この二人は惹かれあい、生きる苦悩の中で、必然のように愛し合ったのだと、ようやく理解できた気がします。

それだけに、梛子が原爆による白血病で死に、賢治も疲れ果てた末に自殺を遂げるというのは、あまりに救いがなくて、やはり再読した今回も、心は重いままです。

賢治が死に至った最後の要因は、合衆国への忠誠を疑われたことだったというのは、再読して初めて気づきました。戦中・戦後、必死でさまざまなものと闘い続けた賢治。両親と妹は収容所へ送られ、下の弟はヨーロッパ戦線で戦死。上の弟とは戦場で相まみえ、誤射してしまう。妻は白人にレイプされ、最愛の人・梛子は原爆が原因で亡くなり・・・。そんな賢治に忠誠を問うのは、彼のそれまでの人生、彼の存在そのものを否定するに等しいことだったのだ、と。それほどまでに、「日系人」は差別され続けてきたのです。

梛子の「私はアメリカの敵だったのでしょうか」という言葉は、初読のときからずっと忘れられません。

2010年5月13日 (木)

二つの祖国(三)

1490「二つの祖国(三)」山崎豊子   新潮文庫   ★★★

いよいよ東京裁判が開廷した。勝者が敗者を裁く色合いを濃くしていく法廷で、天羽賢治は言語モニターとして誤訳をチェックし、公正な裁判がおこなわれるよう、神経をすり減らしていた。しかし、それは賢治の立ち位置を「日本寄り」と評価させるもとになっていく。戦場での行き違いから、弟の忠は賢治に対して心を閉ざしたまま。苦悩を抱える賢治の唯一の心のよりどころは、かつての新聞社仲間の梛子だけだった。賢治に妻子があることを承知で、愛し合うようになる二人だったが・・・。

とうとう、東京裁判に入りました。単行本でも、この東京裁判のくだりは、かなりの分量を占めていたのをよく覚えています。高校生の私が、よくこれを読み切ったものです。当時は、東京裁判に関する知識もほとんどなく、こんな展開だったのかと驚愕しながら、憑かれたように頁を繰ったのでした・・・。

裁判の緊迫した空気と、その不公平さが、モニターをする賢治の様子から伝わってきます。それは、読んでいて胸が苦しくなるほどです。正義の通らないところで、正義を通そうとする苦しさは、わかる気がします。それが、どれだけ自分を追い詰めていくかも。

賢治は、かねてから相通じるものを感じていた梛子を、心の支えとします。梛子も、かつては賢治の友人・チャーリー田宮の妻となったものの、賢治に強く惹かれており、二人は日本の地で、それが運命であったかのように結ばれます。しかし、賢治の妻・エミーが子供たちを連れて来日し、諍いの末に、戦時中、白人にレイプされたことを告白するに至って、賢治の絶望はますます深まってしまうのです・・・。

しかし、今回、ものすごく久しぶりに再読してみて、賢治の「己の信念を貫く」生き方は確かに立派だけれど、同時に人としての弱さも感じたのです。いくら心の通わない妻だと言っても、二人の子供もいる妻を、事実上ほったらかしていたのは、賢治自身。いや、最初からそういう相手だとわかっていて結婚したはずでしょう、と。親のすすめる相手と結婚するのが当時の慣例とはいっても、アメリカ人でもある賢治は、意思表示もできたはずです。(実際、梛子は親の反対を押し切って、チャーリーと結婚しています。それは失敗に終わったわけですが) 高校生の私にとって、エミーは浅はかで愚かな女性としか思えませんでしたが、今は、彼女もまた二つの祖国を抱えたゆえの犠牲者であると感じるようになりました。その「二つ」を自覚していないだけに、いっそう彼女は悲劇的です。賢治のように、自分の意志でそういう道を歩んでいるのとはまた違って。

残すところあと1巻です。賢治を待つのは、さらに過酷な運命・・・。正直、気が重いですが、ここまできたら、最後まできちんと読み切ろうと思います。

2010年5月 7日 (金)

二つの祖国(二)

1486「二つの祖国(二)」山崎豊子   新潮文庫   ★★★★

米軍が対日戦争の秘密兵器として育成した語学兵。その養成学校の教官となった天羽賢治は、教え子たちだけを前線に送ることが耐えがたく、自らも戦地に赴くことを希望した。三男の勇は日系人だけを集めた部隊に志願し、ヨーロッパ戦線で戦死。そして、賢治は、南方の戦線で、日本兵として辛酸をなめてきた弟の忠と相まみえてしまう。

天羽家という一家族の中に凝縮された運命の過酷さに声も出ない・・・といったストーリー展開ですが、これが現実に起こったこと、あるいは現実に限りなく近い物語なのだということが、読んでいる者を打ちのめします。

アメリカ人として、合衆国への忠誠を示すために、命がけで戦場を駆け回る勇。戦争が始まった時に日本で教育を受けていたため、そのまま日本人として徴用され、南方戦線で地獄を見た忠。日系アメリカ人として、誠実に生きようとすればするほど、矛盾に突き当たり、苦悩の色を濃くしていく賢治。三兄弟それぞれの生き方が、いずれもあまりにもまっすぐで、方向性が違ってもいかにも「兄弟」だと感じるのが、本当にやりきれなかったです。

特にも、賢治と忠が敵味方として相まみえてしまう「兄と弟」の章は、読むのがつらかったです。誤って弟を撃ってしまう賢治。捕虜になり、兄に心を閉ざしてしまう忠。戦争がなければ、こんな傷を負わなくてもよかったのに。

そして、広島に落とされた原爆で梛子は被爆し、賢治の妻・エミーは治安の悪い街でレイプされ、酒びたりに・・・。

戦争が終わっても、彼らの闘いは、これからさらに厳しいものになっていきます。賢治は、東京裁判にモニターとして関わることに。そのことが、さらに賢治を追い詰めていくのですが・・・。次の巻を読むのが怖いような気がします。

2010年5月 2日 (日)

二つの祖国(一)

1481「二つの祖国(一)」山崎豊子   新潮文庫   ★★★★

日米開戦と同時に、日系アメリカ人は、「敵性外国人」として収容所入りを余儀なくされた。さらに、アメリカに忠誠を誓うかという問いを突き付けられる。ロサンゼルスの邦字新聞の記者・天羽賢治は、アメリカ国籍をもちながらも日系人ゆえに差別される現実の中で、日系二世としてどう生きるべきか、苦悩していた。しかし、忠誠テストは、やがて賢治の家族をバラバラに引き裂いていくのだった。

高校3年の時、初めて読んだ山崎豊子。強烈なショックを受け、逆に「この人の書くものは、軽い気持ちで読んじゃいけない」と、ずっと敬遠してしまったものです。今年、「大地の子」「運命の人」と読んできて、やっぱり一度原点にかえってみようかと思い、読み始めました。

しかし。・・・これは、非常に重いです。もう結末を知っているからでしょうか。賢治がこれだけ苦悩しても、真の意味で報われることがないと思うと、読むのがつらくてつらくて・・・。そして、初読からずいぶん時間がたったので、細部は忘れていたのですが、これでもかこれでもかと、賢治につらい選択を迫る展開は、読んでいてエネルギーを吸い取られるようで、しんどかったです。一気読みせず、少しずつ読むことにします・・・。

戦争中、日系人が実際にこういう扱いを受けていたことは、この小説が発表されるまでほとんど知られていなかったのではないでしょうか。山崎さんは実際に日系人にも取材して、この小説を書いたようですが、当時、日系人の中では「二つの祖国というタイトルは迷惑だ」という意見もあったようです。簡単に私たちがあれこれ言えないほど、複雑な問題なのだなと実感しました。そこに臆せず分け入った山崎さんは、さすがというか・・・。

移民としてアメリカに渡り、辛酸をなめてきた父・乙七の世代。二世としてアメリカで生まれ、過酷な移民生活も経験し、日本での教育も受けた賢治のような「帰米二世」。一方、アメリカで教育を受け、ジャパニーズ・アメリカンとして何の疑問も抱かない賢治の弟・勇や、賢治の妻・エミー。日本を憎悪し、白人社会に取り入り、のし上がろうとするチャーリー田宮。その婚約者で賢治の同僚・梛子。同じ日系人でありながら、立場も考えも異なる人々を軸にして、この壮大なドラマは展開します。

大河ドラマにもなったので、どうしてもそのキャストのイメージで読んでしまいます。ちなみに、天羽賢治は松本幸四郎、チャーリーは沢田研二、梛子は島田陽子、エミーは多岐川裕美でした。

2010年4月25日 (日)

運命の人(四)

1475「運命の人(四)」山崎豊子   文藝春秋   ★★★★★

死を思い、彷徨したのち、沖縄にたどりついた弓成亮太。島での暮らしは、荒れすさんだ心を、少しずつ癒してくれた。同時に、本土にいたときには見えなかった沖縄の歴史と現実に接し、再びペンをとる。そんなおり、あの「密約」の存在が明らかになり・・・。

読み終えて、涙が出ました。

以前、沖縄に行ったとき、基地の敷地のあまりの広大さ、幹線道路沿いという一等地を占めていることにショックを受けました。また、摩文仁の丘(平和祈念公園)から美しすぎる海を見ながら、涙が止まらなくなったものでした。それまで、頭の中の「知識」でしかなかったものが、実感を伴って押し寄せてきたときの衝撃・・・私個人の体験と、弓成が沖縄で体験したであろう衝撃とが重なり、とうてい他人事とは思えなかったのが、その理由の一つ。

打ちのめされて、命も捨てようと思った弓成が、心を取り戻したとき、やはり彼が望んだことは、ペンを持つことでした。スクープ狙いなどではなく、多くの人に真実を知ってもらいたいという、非常に真摯な気持ちで、取材を続け、書き続ける弓成。その書きためたノートを見たときの由里子の反応。この夫婦のそれぞれの生き方に、考えさせられるところが多くありました。

そして・・・作者・山崎豊子さんが、体調が悪いのをおして、これを書ききったこと。ただひたすら、「これを書かねば」という一念でペンをとられたのだろうな、と。正直、4巻は、沖縄での取材内容がちょっと生のまま出てしまっている気がするのですが・・・それでも、今、これを書いておくことに意味があるのだということは、よくわかります。

新聞ジャーナリズムと沖縄がこの作品の柱ですが、それを通して人の生きざまを描く山崎作品は、本当に読み応えがあります。弓成は決して好きな主人公ではありませんが、彼の再生は、素直にうれしかったです。ラストシーンがあの摩文仁の丘から見える海であったこと、万感胸に迫るものがありました。

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