恩田陸

2017年4月 8日 (土)

錆びた太陽

2557「錆びた太陽」 恩田陸   朝日新聞出版   ★★★★

原発事故で汚染された区域で働くヒューマノイドたち。「ウルトラ・エイト」と呼ばれる彼らのもとを、一人の女が訪れた。彼女の目的はいったい何なのか。

直木賞受賞後、これで三冊目ですよ、恩田さん。うれしい悲鳴とともに、お財布も悲鳴をあげてます(苦笑)

今回は、一応SFもの。原発の老朽化が進み、あちこちで事故が多発。各地に立入制限区域ができてしまっている近未来の日本が舞台。北関東の制限区域にいる「ウルトラ・エイト」と呼ばれる人型ロボットたちのもとに、国税庁の財護徳子という女が現れる。「人間を守らなければならない」という原則に従い行動するロボットの「ボス」たちだったが、事態は思わぬ展開を見せ・・・というお話。

設定はヘヴィですが、恩田さんのサブカルチャー趣味が随所にちりばめられて、クスッとさせられます。それに、汚染区域でのあり得ないような動植物の進化(?)のイメージには圧倒されました。作家の想像力ってすごい・・・。

ただ、これが単に笑える話でないということは、我々にはよくわかります。実際に、日本で起こったことであり、これから起こり得ることであり、もしかしたら起こっていることかもしれない。冗談のような話だけれど、もはや我々はこれを単なる作り話とは言い切れない世界に生きているのだということを、実感させられました。

この本、装丁もおもしろいです。図書館ではどうするんでしょう。帯も絶対捨てられません。が、帯をとらないと見えない部分もあるし。うーん。そして、初版には恩田さんのメッセージカード付き。買うしかないですよね。

2017年2月24日 (金)

終りなき夜に生れつく

2541「終りなき夜に生れつく」 恩田陸   文藝春秋   ★★★★

「山」で育てられ、そこで生きのびた三人の少年。強力な「在色者」である彼らは、山を降り、それぞれの人生を歩んだ。一人は傭兵となって。一人は途鎖国の入国管理官となって。そしてもう一人は、犯罪者となって。

恩田さんの本が次々出るので、うれしくてしょうがないのです。この本の帯にも「祝・直木賞」の文字が。

「夜の底は柔らかな幻」のスピンアウト短編集。青柳淳一が傭兵をしていた頃の「砂の夜」。葛城晃の学生時代の「夜のふたつの貌」。同じく葛城が入国管理官になるきっかけを描いた「夜間飛行」。そして、神山倖秀が稀代の犯罪者になる直前の物語「終りなき夜に生れつく」。

本編がやたら怖かった記憶しかなかったので、慌てて読み返しました(斜め読みだけど)。で、途鎖国とか、在色者とか、イロとか、いろんな設定と登場人物の復習をして、読み始めました。

いずれも「夜の底は~」の前の話。本編では、それぞれ名を成している(悪い意味で)三人が、そこにいたるまでの断片が描かれています。本編にも登場した軍(いくさ)勇司が登場して、なかなかいい味出しています。

葛城たちの行き着く先が先なので、決して愉快な話にはならないのですが、まだ若い彼らの姿を見られるのがおもしろかったです。やはり、一番書き込まれているのは葛城ですね。神山はやはり得体が知れないというか。稀代の犯罪者という設定ながら、とらえどころがない人物です。

イロという特殊能力をもって生れたために、殺人者となっていった三人。もう少し彼らの物語が読みたい気がします。

2017年2月20日 (月)

失われた地図

2539「失われた地図」 恩田陸   角川書店   ★★★★

旧軍都で現れる「裂け目」と、そこから出てくる「グンカ」たち。それを封じ込める役割を担う一族の遼平、浩平、そして鮎観(あゆみ)。彼らは命じられるままに、「裂け目」を閉じに各地を飛び回るのだが、やがて奇妙な現象が・・・。

「錦糸町コマンド」「川崎コンフィデンシャル」「上野ブラッディ」「大坂アンタッチャブル」「呉スクランブル」「六本木クライシス」の6話。

直木賞受賞後すぐの出版で驚きましたが、前に連載されていたものだったのですね。しかも、連載誌は「怪」。どうりで、SFというか、ホラーというか、不気味な物語になっています。「蜜蜂と遠雷」から読んだ人が、次にこれ読んだらビックリしますよ(笑)

「グンカ」はもちろん「軍靴」なのですが、本当にこんなものが現れてもおかしくない世の中になってしまいましたね。恩田さんの描く不穏な空気が、とってもリアルに感じられることが怖かったです。

怖かったといえば、一番ホラーっぽかった「上野ブラッディ」が一番怖かったのですが、その後の2話「大坂」と「呉」は、鮎観が登場せず、かわりにカオルという個性の強いキャラが登場。彼にひっぱられるように、ちょっとコメディっぽくなったりもして、あれ?路線変更?と思うと、最後の「六本木」でしてやられます。

かつて夫婦だった遼平と鮎観。二人がどうして一緒にいられなくなったのか・・・。力を増していく「グンカ」たち。そして、希望となるのは・・・。

どうか、本当にナショナリズムの祭典ではなく、スポーツと平和の祭典になりますように。「ダイジョウブ」という彼の言葉を信じたいものです。

2017年1月20日 (金)

八月は冷たい城

2526「八月は冷たい城」 恩田陸   講談社   ★★★★

光彦(てるひこ)は、夏流城(かなしろ)での林間学校に初めて参加することになった。その理由をわかっている光彦だが、案内人でもある「みどりおとこ」こと「夏の人」への不信感は募る一方。光彦を含め、四人の少年が参加する今回は、どこかしら不穏な空気が漂っていて・・・。

ミステリーランド最終巻にして、「七月に流れる花」のボーイズサイドの物語。

少年たちを襲う不穏な事件と、「七月~」にも登場する「夏の人」の正体は?というところが読みどころ。下手なことを書くと、「七月~」のネタバレになってしまうので、難しいのですが・・・。ホラー風味のミステリとして、「七月~」「八月~」の順に読んでいただければよろしいか、と。

ただ、この物語の終盤は、怖かったです・・・。こういうときの恩田さんの描写力って、すごすぎる。子どもが読んだらトラウマになるんじゃないか、と(苦笑)

どことなくセンチメンタルな雰囲気が漂っていた「七月~」に比べると、こちらは冒険物のテイストが強いかな。ガールズとボーイズの違いでしょうか。

この作品で、ミステリーランドは完結だそうです。それも、感無量ですね。良作がいっぱいありました。

そして、恩田さんも晴れて直木賞作家!!

もともと、どこかしら閉じたところのある作品を書く人で、一般受けはしないかもなあと思いつつ、ずっと読み続けてきました。だから、直木賞の候補になって、何度も落とされても、「いいよ、いいよ。私は恩田作品を愛してるから」と思ってきたのですが。

「蜜蜂と遠雷」は、広い世界の人たちに届くような物語になっていて、「これは、より多くの人に読んでほしい。この人の書く豊かな物語を、みんなに味わってほしい」と、初めて心の底から思えた作品だったので・・・。そういう作品で受賞というのが、何よりうれしいことでありました。

2017年1月14日 (土)

七月に流れる花

2525「七月に流れる花」 恩田陸   講談社   ★★★★

六月という半端な時期に転校してきたミチル。友達もできないまま、夏休みを迎えたが、奇妙な「林間学校」への招待状が届く。必ず参加しなければいけないというその林間学校に向かったミチルは、同級生の蘇芳をはじめとした少女たちと、不思議な夏休みを過ごすことになるのだが・・・。

久しぶりのミステリーランド配本! しかも、恩田陸!! そして、2冊同時刊行!!!

という、恩田ファンがうれしい悲鳴をあげる展開になっていますが、これでイラストが酒井駒子さんとくれば、もう買うしかないでしょう。ええ、買いましたとも、2冊とも。

いつも、ミステリーランドを読んで思うのは、「子どもの頃にこれを読みたかった!」ということ。この物語も、同じでした。通奏低音のように物語の底を流れる不穏な空気と、もの悲しさ。流れてくる花に象徴される美しさとはかなさ。6人の少女たちのかもし出す明るさと寂しさ。これを子どものころだったら、どんなふうに受け止めて読んだのだろうと、思わずにはいられないのです。

全身緑色の「夏の人」という不気味な登場人物から物語はスタートするのですが、ついつい何か裏があるんじゃないかとか、小賢しい読み方をしてしまう自分が悲しかったです。純粋に、ミチルと一緒に怯えながら読み進めたかった・・・。

しかし、恩田さんにはこの分量は少なすぎるんじゃ・・・と思ったら、どうやらこれは物語の半分であって、もう一面が「八月は冷たい城」で描かれるようです。そちらは少年の物語。二つの物語がどう補完しあうのか、楽しみです。

2016年10月 2日 (日)

蜜蜂と遠雷

2475「蜜蜂と遠雷」 恩田陸   幻冬舎   ★★★★★

芳ヶ江国際ピアノコンクール。世界的にも有名なこのコンクールに、それぞれの思いを胸に集うコンテスタントたち。亡きピアニスト・ホフマンから届けられた「ギフト」とは、いったい何を意味するのか。今、コンクールの幕が上がる。

読んでいる途中から、完全に魂もっていかれてました。前半を読んだだけで、こんなに盛り上がって、緊張感も半端なくて、この先どうなるんだ?と思っていたら、後半はさらに加速し、物語は大きくうねり・・・。

本を読んでいるのに、ずっと音楽のなかに浸っていた気分。活字で音楽をあらわすってのは容易なことではないのに、コンサートホールの中に、あるいは演奏者の宇宙の中に、完全に「入って」いました。そう、舞台はほとんどコンクールが行われるホールの中。その数日間の物語なのです(ああ、恩田さん得意の限定された時空間の物語でもあるんだ)。

風間塵。栄伝亜夜。マサル・カルロス・レヴィ・アナトール、高島明石。4人のコンテスタントを軸に、物語は進みます。彼らはそれぞれ異なるバッググラウンドをもち、このコンクールに参加。そして・・・。

もうこれ以上は書きたくありません。どうか、この本を読んで、その奇跡を味わってください。

人が自分の生きる道を見出すというのはどういうことか、人とのかかわりとは何なのか・・・私は何度も目頭が熱くなりました。一番泣かされたのは、亜夜にですけれどね。

私は「六番目の小夜子」以来の恩田陸信者ですが(笑)、それをさっぴいても、これには★5つつけられます。

2016年6月 1日 (水)

タマゴマジック

2436「タマゴマジック」 恩田陸   河北新報出版センター   ★★★★

空からブリキの卵が降ってきた。それが孵ったとき、起こったこととは・・・。東北を舞台にした恩田ワールド。

恩田さんにしては普通のタイトルだなあと思いつつ手に取りました。中身は、やっぱり恩田ワールド炸裂してました。

小説「魔術師一九九九」と「魔術師二〇一六」の間に、河北新報(宮城県中心のローカル紙)に連載された「ブリキの卵」と、エッセイ「この世は少し不思議」をサンドイッチした構成。ちなみに、「ブリキ~」と「この世は~」は、連載一回分ずつ交互に掲載されています。

「魔術師一九九九」は、『象と耳鳴り』の「魔術師」と同じものです。関根多佳雄(わかる人はわかりますね)が登場します。舞台となるS市は、もちろん仙台市。泉市と合併して政令指定都市になったまさにその時期、私は仙台に住んでいたので、この独特の空気は、すごくよくわかります。都市そのものが肥大しようとしているかのような感覚。漠然とした不安と熱気。

そして、「ブリキの卵」は、そのS市を舞台にしたSFっぽい話。これ、フィクションですよね、恩田さん。実際の地名等出てくるので、なんだかリアリティがあって、怖いんですけど。

さらに、「この世は少し不思議」を読んでいると、何が起こってもおかしくないような「場」ができていくような気がして。

最後の「魔術師二〇一六」は、震災を経たS市が舞台。多佳雄の長男・関根春が登場します。震災は都市に何をもたらしたのか。人々は、どう向き合ってきたのか。・・・これを読んでいて、私は泣きそうになりました。恩田さんは当時東北にいたわけではないだろうに、どうしてこんなに生々しい気持ちが書けるのだろう、と。

まあ、今回は久々に関根ファミリーに会えたのが、個人的にはすごくうれしかったのです。

2015年12月 5日 (土)

消滅

2382「消滅」 恩田陸   中央公論新社   ★★★★

202X年9月30日。日本の某空港において、入国審査で止められた11人と1匹。突然鳴り響くサイレン、近づくスーパー台風、不気味な爆発音、大規模な通信障害。別室に連行された11人は、この中にテロリストがいると告げられる。テロのコードネームは「消滅」。テロリストはいったい誰なのか・・・。

恩田さんにしてはあっさりしたタイトルだなあ・・・というのが、第一印象。サブタイトルで「VANISING POINT」というのがついてはいますが。それでも、あっさり。しかし、中身はやっぱり恩田ワールドでした。

恩田さんお得意の限定された時空間での犯人捜し。それぞれアクの強い登場人物が、それぞれの視点で場を見つめていくというパターン。怪しい人物は二転三転。さらに、思わぬ秘密が暴露されたり、感染症のきけんにさらされたり、とってもサスペンスフルな展開です。シャープでいて、緊迫感をあおる恩田さんの文章が、効いています。

このご時世、この設定にリアリティを感じないわけはなく。背筋がぞっとするような思いで読みました。キャスリンのこととか。

ラストはきっちり解決されています。それまでの緊迫感に比べると、「え、そういうこと?」という気はしましたが・・・。でも、よくよく考えてみたら、とんでもないことなのかもしれません。それが消滅したあとの世界って、ちょっと想像つかないかも。

2015年7月29日 (水)

蛇行する川のほとり

2333「蛇行する川のほとり」 恩田陸   中央公論新社   ★★★★

「誰も知らない物語を、今、あなただけに」・・・夏休み、美術部の先輩・香澄の家に招かれた毬子。香澄の親友・芳野も一緒に、9日間の合宿をするという。憧れの先輩に誘われた毬子は有頂天になるが、見知らぬ少年が現れ、「関わるのはよせ」と警告される。期待と不安を胸に、毬子の夏が始まった。

もともとは全3巻で、4か月に一度刊行という企画ものでした。当時、一冊読んでは次の巻をじりじりしながら待つというのを繰り返したのを覚えています。いつか、合本も読もうと思っていましたが、ようやく実現。

彼女たちが子供のころにあったという殺人事件。幼い女の子の事故死。思いもかけなかった出来事が、毬子を混乱に陥れ・・・。事件の犯人は? 事故の真相は? と、緊迫した時間が流れる中、さらに予想外の展開が。

今でも、2巻のラストを読んだ時、全身に鳥肌がたったのを覚えています。さすがに再読ではその衝撃はありませんでしたが、以前は物足りないように感じた3巻が(合本では「第三部 サラバンド)、意外とおもしろかったです。やはり、続けて読むと印象が違います。

毬子、芳野、真魚子と、3人の少女それぞれが語り手となり、物語を紡いでいきます。それぞれ個性は違う3人ですが、みな大人になる直前の「少女」で、その危うさがひどく魅力的です。そのへんは、かつての恩田さんの得意なところで、同時に月彦、暁臣といったちょっと現実離れした少年たちもご同様。

みんな魅力的なのですが、ひときわ強い磁場を発しているのが香澄。まさに「永遠の少女」である彼女の物語でもあるのです。

久しぶりに読み返しましたが、あっというまに読み終えてしまうくらい、物語にひきこまれました。さすが、恩田陸。

2015年6月14日 (日)

ブラック・ベルベット

2307「ブラック・ベルベット」 恩田陸   双葉社   ★★★★

ヨーロッパとアジアの文化が融合するT共和国。仕事でそこにやってきた神原恵弥(めぐみ)は、奇妙なうわさを聞く。全身に真っ黒な苔が生えた死体が出たのだという。また、恵弥は別件である依頼を受けていた。その国で消息を絶ったアメリカの女性科学者を探してほしいというのだ。恵弥は彼女を見つけ出すのだが・・・。

久しぶりの恵弥です~。端正な顔立ちの男性ながら、オネエ言葉を話すこのキャラ、好きなんですよね(笑) 最近、恵弥シリーズの「MAZE」「クレオパトラの夢」の新装版が出たので、ん?と思っていたら・・・この新刊でした!

さて、神原恵弥は外資系製薬会社の社員。一年の半分は世界中を飛び回っている「凄腕ウイルスハンター」という設定です。今回は、謎の薬の情報をもってコンタクトしてきた相手「アンタレス」に会うために、T共和国へ。その薬の話だけでもうさん臭いのに、女性科学者を探したり、高校の同級生の橘浩文との再会があったり、誰かに追われたりというめまぐるしさ。

「MAZE」に登場した時枝満が再登場したり、「クレオパトラの夢」に登場した面々も再登場したりと、シリーズ読者にもうれしい展開ですが、これだけでもじゅうぶん楽しめます。路線としては、「クレオパトラの夢」の雰囲気ですが、トルコの観光案内みたいな感じもあって、それはそれで楽しめました。

いつもながら、活字の世界でかもしだす緊迫感や不穏な空気はさすがです。

いろいろあったわりにはラストはあっさりまとまった感がありますが、今後、恵弥の物語がさらに書かれることを期待できそうな感じでもあるので、まあ良しとします。

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