米澤穂信

2016年8月 6日 (土)

真実の10メートル手前

2460「真実の10メートル手前」 米澤穂信   東京創元社   ★★★★

太刀洗万智がジャーナリストとして追った6つの事件。「真実」を追った彼女に見えたこの世の景色とは・・・。

ものすごく読みたかった一冊です。「さよなら妖精」「王とサーカス」に続く、太刀洗万智の物語。

私は万智みたいなタイプに弱いようです。この短編集でも、すっかり魅せられてしまいました。

「真実の10メートル手前」「正義漢」「恋累心中」「名を刻む死」「ナイフを失われた思い出の中に」「綱渡りの成功例」の6篇。

それぞれに万智らしさがあふれていますが、「さよなら妖精」のマーヤの姉が登場する「ナイフを~」は、やはり「太刀洗万智」というキャラクタを理解するのに一番かもしれません。「名を刻む死」や「綱渡りの成功例」も、フリージャーナリストの万智の有り様を、実に印象的に描いています。

表題作(このタイトルが秀逸!)の原型は、「王とサーカス」の序章として書かれたものだったそうです。なるほど、この事件があって、彼女は・・・と、なんとも言えない気持ちになりました。

やりきれない事件は現実でも多いけれど、「やりきれない」という言葉で記号化して、自分と距離を置こうとすることを、万智は決して良しとしない。その生き様に、激しくあこがれます。

そういえば、「さよなら妖精」では、万智は「せんどー」と呼ばれていたのでしたね。「正義漢」に登場したのは、あの彼でしょうかね。

できることなら、万智の物語をもっと読みたいと思います。ところで、米澤さん、あのスイーツシリーズ、いつか書いてくださいますよね?

2015年12月12日 (土)

王とサーカス

2384「王とサーカス」  米澤穂信         東京創元社         ★★★★★

新聞社をやめ、フリーランスの記者となった太刀洗万智は、ネパールにやってきた。安宿に滞在し、地元の少年サガルにガイドを頼み、取材を始めた矢先、王宮で国王たちが殺害される事件が。取材の手蔓を探す万智だったが、それは彼女の根幹を揺るがす問いに対峙することでもあった。「なぜ私は書くのか」…そして、万智の前にひとつの死体が。その意味するものとは。

読み終えた瞬間、鳥肌がたちました。あれは何だったんだろう。

あの「さよなら妖精」の太刀洗万智がジャーナリストになって帰ってきました。やはり、あの出来事が、その後の万智を決定づけたのだなあと、改めて感じました。

ただし、これは「さよなら妖精」とは全く別の、万智の物語。カトマンズを舞台に、実際に起こった事件を下敷きにしています。

ミステリなのですが、混沌とした世界において、知ること、それを伝えることの困難と意義について考えさせられます。それは、万智というキャラクターがあってこそ。

彼女は、この物語で、何度も危うい目にあいます。いろんな意味で。そのたびに揺れ動きながら、真実に向き合おうとする万智の姿に、私は静かに感動していたのかもしれません。

米澤作品なので、決して甘い結末は待っていません。それでも「書くこと」「伝えること」から逃げようとしなかった万智の有り様に、わずかな希望を感じるのは私だけでしょうか。

ネタバレになってしまうので、内容についてあまり触れられないのが残念ですが、すごく私好みの物語でした。

2015年7月17日 (金)

リカーシブル

2325「リカーシブル」 米澤穂信   新潮社   ★★★

母の故郷に引っ越してきたハルカとサトル。この町に来てから、サトルは未来視をするようになり、ハルカは「タマナヒメ」という伝説がこの町で生きていることを知る。血のつながらない姉弟は、徐々に町の不穏な空気に飲み込まれて・・・。

文庫に「青春ミステリ」みたいに書いてあったので、興味持って読みました。米澤穂信は油断できない・・・というのは身に沁みているので、覚悟して読みましたが、やっぱり甘くないですねえ。

中1の姉ハルカと、小3の弟サトル。親同士の連れ子の二人は、決して仲がいいわけではない。しかし、ハルカの父が失踪したため、母の故郷の町へ引っ越してきた。血のつながらない「母」に養ってもらっているハルカの心情は複雑だ。義母がなまじ「いい人」なだけに。そんなハルカの環境は、どんどん悪化していくのだけれど、それがもう・・・。なんというか、ラストは、言葉がなかったです。それでも生きていこうとするハルカの強さだけが救いでした。

サトルの未来視とは何なのか。奇妙な伝説はいったい何を意味するのか。それは徐々に解き明かされていって、その過程はすごく惹きこまれました。

ただ、ハルカやサトルのこれからを想像してしまうと、なんとも・・・。やっぱり米澤穂信、油断できません。

2015年3月14日 (土)

満願

2246「満願」 米澤穂信   新潮社   ★★★★

「夜警」「死人宿」「柘榴」「万灯」「関守」「満願」の6篇を収録した短編集。

表題作「満願」はアンソロジーで読んでいて、その時も強烈な印象があったのですが、あらためて読むと、ゾッとしました。何のために人を殺したのか、その動機に。

ほかの作品も、どこかひんやりするような、ゾッとするような、独特の味わいがあるミステリになっています。交番勤務の警官が発砲した理由(「夜警」)。美しい姉妹が父をかばう理由(「柘榴」)。

人の心の闇の部分に、一瞬だけ光があてられるような・・・そんな物語です。

2012年7月 8日 (日)

ふたりの距離の概算

1887「ふたりの距離の概算」 米澤穂信   角川文庫   ★★★★

奉太郎たち古典部の面々も、無事に2年生に進級。そして、なんと新入部員も入ってきた。しかし、彼女・大日向友子は、いきなり入部を撤回してしまう。いったい、何があったのか。直前に大日向と会話をしていたのは、千反田えるだが・・・。マラソン大会当日、奉太郎は、大日向の気持ちを解き明かそうとする。

待ってましたの「古典部」シリーズ第5弾。文庫買いしてるので、待ち遠しいことこのうえなかったです。

前作「遠まわりする雛」がかなりよかったので、その後を楽しみにしていました。そして、期待していたかいがありました。

めんどうなことはしない、自らすすんで人とかかわろうとしない奉太郎が、えると新入部員との誤解を解くべく、奔走する話。しかも、校内マラソン大会で、20キロを走りながらというんだから、作者もなかなか鬼です(笑)

もちろん、奉太郎には真剣に走るつもりなんかさらさらないわけですが・・・そんな彼が、しんどい思いをしながら仲間たちから情報を集め、やがて真相にたどりつく。その根拠にあるのは、「千反田は人を傷つけるようなやつじゃない」という確信。もっとも、シリーズをずっと読み続けていれば、それはごく自然な感覚なんですけれど。ただ、奉太郎とえるの距離が確実に縮まっているのが、楽しいわけで。「ふたりの距離の概算」というタイトルがいいです。

奉太郎が人と深くかかわることをよしとしないのは、相手が望まないものまで気づいてしまう、自分の聡さで傷つける&傷つくことが嫌なんだろうけれど。えるのために奔走する奉太郎は、悪くないですね。

2010年8月20日 (金)

遠まわりする雛

1545「遠まわりする雛」米澤穂信   角川文庫   ★★★★

地元の神社のお祭りで、生き雛に扮することになった千反田えるから、そのお供を頼まれた折木奉太郎。「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に。」が信条の奉太郎。しかし、えるの頼みは断りづらく、仕方なしに駆けつける。ところが、祭り当日、思いもよらないトラブルが発生していて・・・。

古典部シリーズ第4弾! 待望の文庫化です。このシリーズ、いつも新作が出てから、その前の作品が文庫化されるんですよね。だから、今回も「ふたりの距離の概算」を横眼で見ながら、この文庫を買ってきました(苦笑)

さて、今回は、連作短編。高校1年になり、奉太郎、える、里志、摩耶花の四人が古典部で顔をそろえてからの時間の経過が描かれていきます。もちろん、その間に『氷菓』事件、『女帝』事件、『十文字』事件があったわけで・・・そういう大事件(?)のはざまにあった日常の小さな出来事を通して、彼らが緩やかに変化していくのがわかって、ものすごく私好みでした。

奉太郎にしろ、えるにしろ、最初はあんまりかわいく思えなかったのですが、これを読んだら、見方が変わりました。奉太郎と里志は全く対照的なキャラですが、実は二人ともすごく似ているのだなあ、とか。男の子ってそういうことを真面目に考えちゃうのだろうか、とか。えるだって、不器用なだけで、ものすごく真面目。ああ、そうか。彼らは、みんなとても真面目なんですね。一見おそろしくマイペースで、そんなふうには見えないけれど。

そして、人と人とが関わる化学反応を、彼らも起こしています。それは、ものすごくゆっくりと。でも、確実に。その変化を恐れつつ、変化を自覚していく1年という時間の流れ・・・。いいですねえ、こういう話。

「遠まわりする雛」というタイトルを見たとき、ひよこがヨチヨチ歩いている姿を連想したのですが、あらすじを読んで、そっちの「雛」かい!と思いましたが、それがまた絶妙なタイトルでした。確かに、「遠まわりする雛」たちですねえ。でも、遠まわりしても、いつか彼らも・・・と、期待が膨らみます。

それにしても、米澤さんもずいぶんメジャーになりましたねえ。この方の書くものは、口当たりがよさそうでもどこかに刃物を潜ませてるような感じがして、私は怖いんですけど。「このミス」ではすごく評価が高いみたいですね。うれしいような、複雑な気分です。

2009年11月14日 (土)

秋期限定栗きんとん事件(上・下)

1419「秋期限定栗きんとん事件(上・下)」米澤穂信   創元推理文庫   ★★★★

小市民であるための「互恵関係」を解消した小鳩くんと小佐内さん。それぞれに彼女・彼氏ができて、小市民らしい幸せな高校生活を送っているかと思われたが、連続放火事件が起こり、それを新聞部が報道したことから、なんだか雲行きは怪しくなり・・・。

「小市民シリーズ」第3弾。ようやく読みました~。

前作で「お別れ」してしまった小鳩くんと小佐内さん。それがけっこうショックだったのですが、今回は二人それぞれに恋人ができて、それなりに楽しそうに高校生活を送ってたりしてます。でも、一筋縄じゃいかないこの二人、ことはそう簡単におさまるわけもなく・・・。

もう、読者の期待通りの予定調和ではあるのですが、非常によかったです。自意識過剰な二人が、それを自覚しつつ、それでもなんとか社会の中で生きていこうとする姿が、すごくよかったです。今まで、この二人、好きになれないとこがあったのですが・・・ああ、。彼らなりにいろいろ考えて、悩んでいるんだなあ、と。

ただ・・・小佐内さん、怖すぎ(笑) 最後の「動機」の告白、「うわっ!」と言ってしまいました(笑) 小鳩くん、これから苦労するよ・・・。

第4弾もあるんでしょうかね。最後は「冬」でしめてほしいです。

しかし・・・これ読んでると、甘いもの食べたくなって困ります(苦笑)

2009年4月26日 (日)

犬はどこだ

1390「犬はどこだ」米澤穂信    創元推理文庫    ★★★★

私立探偵を開業した紺屋が希望していたのは犬捜し。しかし、舞い込む依頼は、人捜しに古文書の解読。押し掛け助手のハンペーと共に、不承不承調査に着手した紺屋だったが、事件は意外な展開を見せ…。

一年ほど積読してました。ようやく読了。
東京で就職したものの、事情があってリタイヤ。なんにもする気になれなかった紺屋が、探偵事務所を立ち上げたところから物語が始まります。この紺屋、まだ25歳なんだけど、枯れてるというか、冷めてるというか…。そんな彼が意に染まない調査を進めるうちに再生していく物語。
主人公の老成したような視線とか、彼を取り巻くキャラ設定とか、物語そのもののゾッとするような救いのなさとか、いかにも米澤さんらしい話だなぁ…というのが、読み終えての印象です。
二つの事件がクロスしていくのは当然の展開ですが、最後の最後でそうなりますか!という感じで…。いろんな意味で「犬はどこだ」と言いたいわけですね。
それにしても、続編がかけそうですね。紺屋の陰の協力者「GEN」の正体も謎のままですし。また次の事件で紺屋が変わっていく過程を読みたいです。

2008年7月20日 (日)

愚者のエンドロール

「愚者のエンドロール」米澤穂信   角川文庫   ★★★

 初読の感想は939「愚者のエンドロール」

 古典部シリーズ2作目。

 今回は、「氷菓」よりミステリ色強め。脚本が途中で中断したままのビデオ映画を見て、犯人とトリックを推理する・・・という趣向。そこに引っ張り出されるのが、我らが古典部の面々。

 やはり、なんといってもおもしろかったのは、「氷菓」事件で謎を解き、ちょっとその気になってる奉太郎が持ち上げられ、叩き落される顛末です(笑) 米澤さんはこういう自意識過剰の少年を描かせると、抜群にうまいですね。もっとも、奉太郎のそういう意識って、誰でも多少はもっているものだから、読んでいてちょいと痛いのも事実ですが。

 「愚者」という言葉にいろんな意味がこめられていて、絶妙のタイトルですね。

2008年6月16日 (月)

氷菓

「氷菓」米澤穂信   角川文庫   ★★★★

 初読の感想は933「氷菓」

 先日「クドリャフカの順番」を読んだ時、強烈に再読したくなり、手に取りました。だってもう、「カンヤ祭」の名前の由来も忘れてましたもん。文集「氷菓」の意味は覚えてましたけどね。再読でしたが、だれることなく、一気に読めました。

 やりたくないことはやらない、やるべきことは簡潔に・・・という、超省エネタイプの高校生・折木奉太郎。これと言って何か目立つタイプではないのだけど、時々抜群の推理力を発揮しちゃうんですね。

 一方、その対極にいるのが、千反田家の令嬢・える。一見、楚々としたお嬢様なんだけど、好奇心旺盛で、「わたし、気になります」となると、何としてでも事実を追求したくなる。けれど、意外とカンは鈍くて・・・。

 この二人がそれぞれの経緯で廃部寸前の古典部に入部して、奉太郎はえるに触発されるようにして、謎解きをしてしまう・・・という展開。小さな日常の謎が伏線になって、大きな謎に絡んでいく構成は、何度読んでも見事です。

 そして、謎に隠された苦さもまた、この作品独特の味わいになっています。

 米澤さんはこれがデビュー作だったのですね。そういわれてみれば、文章もやや硬いかなとおもうところもありますが。でも、その後の米澤作品に通じるものもありますね。

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