米澤穂信

2020年2月 8日 (土)

Iの悲劇

3001「Iの悲劇」  米澤穂信      文藝春秋      ★★★★

無人になった集落に移住者を募集し、定住を支援する「甦り課」に配属された万願寺邦和。やる気のない課長・西野秀嗣と、人当たりはいいが公務員らしくない新人の観山遊香の三人でトラブル解決に奔走するものの…。


「巴里マカロン」に続いてこれ。米澤穂信祭り状態になっています(苦笑)

「Iの悲劇」の「I」は、Iターンのことらしいです。主人公は地方公務員の万願寺。仕事にやる気はあるものの、甦り課への異動で出世コースから外れたのでは?と焦る万願寺。市長肝いりの事業だということに一縷の希望を見いだし、移住者たちのために奔走します。

万願寺の言動からは、公務員という仕事の息苦しさを感じてせつないけれど、彼なりに使命感をもって仕事に取り組んでいるようで。しかし、彼の努力を嘲笑うかのように、トラブルが次々に。

米澤さんらしい日常の謎ミステリの連作。ただ、読んでいるとなんとなく違和感が。主人公の万願寺が米澤作品には珍しく自分の立ち位置に迷っていないせいかしら?なんて思ってましたが。その理由は、最後にわかります。うわあ…米澤さん、怖い…。

雑誌に掲載された4編に2編足して、序章と終章を加えたもの。加えられた部分を改めて読むと、作者が描きたかったものが浮かび上がってきます。田舎の人間としては笑えません…。



2020年2月 5日 (水)

巴里マカロンの謎

3000「巴里マカロンの謎」  米澤穂信      創元推理文庫  ★★★★

小市民たることを目指す小鳩君と小佐内さん。しかし、何故か奇妙な謎に遭遇し、それを解き明かすという小市民らしくないことに。今回は、「新しくオープンした店に行って、マカロンを食べる」という小作内さんの提案が発端だった。


待望の!シリーズ最新作!!  小鳩君、小佐内さん、会いたかった!…けど、相変わらず小佐内さんは不穏だし、小鳩君はめんどくさい(笑)  いや、二人とも愛おしいキャラなんですが。

「巴里マカロンの謎」「紐育チーズケーキの謎」「伯林あげぱんの謎」「花府シュークリームの謎」の四話。クイーンの国名シリーズみたい。

高校一年の冬に二人が遭遇した謎の数々は、やはりちょっと苦さを伴うものでした。いや、登場するスイーツは甘いんですが。事件の大元にある苦さを描くのが、米澤さんはすごく上手い。これは日常の謎なので、殺人なんかは起こりませんが(今のところは)、それでも笑い事にできないひんやりした何かが、ずっと心に残ったりします。それは、「古典部」シリーズも同じ。

なお、「伯林あげぱん」は小佐内さんはちょっとしか登場せず、ほとんど小鳩君一人が謎を解きます。っていうか、途中でわかったけど、その時の状況を想像すると、すごく笑えるんですけど…!

それにしても、11年ぶり!  お願いだから次は、もう少し早いペースで書いてください。


さて、3000冊到達しました。続くもんですねえ。本を読むのはともかく、記録し続けたことに、我ながら驚いています。三日坊主なのに。拙い感想を読んでくださる&コメントくださる皆さんのおかげです。いつもありがとうございます。これからもよろしくお願いします。



2019年10月 1日 (火)

ボトルネック

2851「ボトルネック」 米澤穂信   新潮社   ★★★

東尋坊で亡き恋人を弔っていた嵯峨野リョウは、強い眩暈に襲われる。崖下に落ちたかと思ったが、リョウは金沢市内で意識を取り戻す。そうして帰った家には、存在しない「姉」がいた。どうやら、ここは、リョウが生まれてこなかった世界。そうして彼が直面したのは、すさまじい「if」の世界。

 

米澤さんの本で未読なのは2冊。この「ボトルネック」は、本プロ時代にどなたかが「かなりつらい」旨の感想を書いていらしたので、警戒してました。が、とうとう読んでしまいました。思ったほどつらくはなかったです(笑) が、米澤さんらしい容赦のなさで、十代の頃にこれを読んだら、しばらく立ち直れなかったかも・・・と思ったのも事実。

嵯峨野リョウの家庭は崩壊しています。両親はそれぞれ浮気をしていて、それが互いにバレて、修復不可能に。中学で知り合った諏訪ノゾミも家庭が崩壊していて、似た環境であることが二人を近づけるきっかけに。ところが、二年前にノゾミは東尋坊から落ちて亡くなり、傷心のリョウはようやく彼女の弔いにその地を訪れる。まさにその時、兄が死んだという連絡が入り、家に帰ろうとしたリョウは眩暈に襲われ・・・というのが冒頭部分。

奇妙なパラレルワールドに迷い込んでしまったリョウは、生まれてこなかったはずの姉・サキと遭遇。彼女は、リョウとは対照的にポジティヴで社交的な人間。サキの世界とリョウの世界はよく似ていて、不穏な要素はころがっているけれど、サキのおかげで崖っぷちで良い方向へ変わっている。では、リョウの周囲で頻発する不幸の原因は・・・?

これ、米澤さんが学生時代に書いた青春ものということですが、若者の感傷みたいなものを見事にぶった切っていく容赦のなさがすごいです。どこかで転換点がきて、いろんなものが良い方向に回りだすのでは・・・なんていう甘い期待も木っ端微塵。サキが明るく、パワフルであればあるほど、リョウの影が濃くなっていく感じは、なかなか怖いものがありました。

これで米澤作品は「折れた竜骨」を残すのみ。ファンタジーなあ・・・と敬遠してますが、いつか読めるかな。

2019年6月22日 (土)

いまさら翼といわれても

「いまさら翼といわれても」 米澤穂信   角川文庫   ★★★★

 

再読なので、通しナンバーはなし。文庫化を待ちきれず図書館で借りましたが、文庫化されたので、きっちり買いました。

ミステリを読み返すというのはあまりしないのですが・・・宮部みゆき、北村薫、そして米澤穂信くらい。何度読んでも飽きないし、ミステリ要素だけでないおもしろさがあるものに限られます。

<古典部>シリーズは、どれも2~3回読んでいます。読み返すたびに、味わいが深くなるというか。奉太郎たちが、どんどん好きになるのです。

今回は、「あとがき」によると、「どれも、いつかは書かれねばならなかったもの」だそうです。読み返してみて、その言葉がすごく腑に落ちました。

古典部の四人が四人とも、ここに至るまでの時間があって、さらに時間は未来へと続いている。当たり前のことですが、物語の中で、彼らが生きているというのを実感しました。

次作が出るのが楽しみです。

2019年3月 7日 (木)

本と鍵の季節

2868「本と鍵の季節」 米澤穂信   集英社   ★★★★

堀川次郎、高校二年、図書委員。あまり利用者の来ない図書室で、一緒に委員の仕事をするのは、松倉詩門。二人は、ひょんなことから図書室に持ち込まれる「謎」を解く羽目になるのだが・・・。

やっぱり米澤さんは刺さるなあ・・・。

バディもの(この言い方、あまり好きじゃないけど)で、青春ミステリ。詩門がホームズ役かと思えば、次郎も負けず劣らず頭がきれるタイプという、ちょっと珍しいコンビです。二人で同時に真相に気づいたり。でも、以心伝心というほどの距離感ではないので、それを言葉にして確認しなくてはいけなかったり。その辺の設定は、とても上手いなあ、と。

米澤ミステリ、特に青春ミステリに共通しているのは、「探偵役が、探偵であることの嫌らしさを自覚し、恥じている」ところにあると思うのです。だいたい彼らは、もっと幼いころに無邪気に「謎解き」をして、それゆえに痛い目を見る経験をしていて。だから、もう同じことを繰り返すまいと、自分を律している。今回の次郎はもうちょっと無邪気ではありますが、やはり「痛い目」には遭っていて、気をつけなきゃという自覚はある。でも、頭がきれるから、誰より早く「真実」に気づくと、口に出してしまう。悪癖だと思いつつ。

謎を解き明かすというのは、往々にして、誰かが隠しておきたいことを暴露することにつながります。そうして「誰か」を傷つけることで傷つく探偵というのが、米澤ミステリの柱なのだ、と。

今回、次郎の探偵としての能力は思わぬ方向に向かっていきます。予想外の展開に驚きましたが、「913」「ロックオンシンガー」「金曜に彼は何をしたのか」「ない本」と畳み掛けてきた物語が、「昔話を聞かせておくれよ」「友よ知るなかれ」にきちんとつながっていて、なぜ次郎と詩門がこういう人物設定だったのか、「本と鍵の季節」という総タイトルの意味と共に、腑に落ちました。

それにしても、せつない。というか、やりきれない。それでも、次郎が詩門に訴えた思いが、救いでした。ラスト、あそこで終わりますか・・・。来て、ほしいな。あの図書室に一緒にいられるのは、高校生という今の季節だけなんだから。

2018年9月 4日 (火)

いまさら翼といわれても

2791「いまさら翼といわれても」 米澤穂信 角川書店 ★★★★

古典部の四人、千反田える、折木奉太郎、伊原摩耶花、福部里志。それぞれが迎えるターニングポイント。


文庫買いしているので我慢…と思っていたのですが、図書館で見かけて、我慢できず。(文庫になったら買います)

「箱の中の欠落」「鏡には映らない」「連峰は晴れているか」「わたしたちの伝説の一冊」「長い休日」「いまさら翼といわれても」の6編。

どの話もとてもよかったのですが、切ないというか、泣きたいような気持ちになりました。奉太郎がどうして今のスタンスになったのか。中学の卒業製作で何があったのか。摩耶花の大きな決断。そして、えるの転機。

彼らの過去と現在が、いずれ来る未来につながっていくことを強く感じさせる話が多く。そして、互いの存在が、それぞれに影響しあって変化してきたことを改めて確認できた巻でした。

進路選択が単なる夢でなく、どう生きるかの具体的な決断になる高校2年。この時期だから思い悩む彼らの姿がいとおしかったです。

2018年2月15日 (木)

インシテミル

2712「インシテミル」 米澤穂信   文藝春秋   ★★★★

奇妙な、けれどとてもおいしいバイト広告につられて集まった12人。彼らは「暗鬼館」と名づけられた地下スペースで、7日間を過ごすことを告げられる。そして、ある条件を満たせば、ボーナスがつくという。条件とは、「自分以外の者を殺害すること」・・・? 悪夢の7日間が始まった。

映画化されたときに大まかなストーリーを聞いて、ちょっと無理・・・と思って敬遠していたのですが。「米澤穂信と古典部」を読んでから気になったので、思い切って読んでみました。

おもしろかった・・・。どうして、今まで読まなかったんだろう・・・。

設定はぶっ飛んでいますが、要するにクローズドサークルものの、ガチガチのミステリです。ものすごくフェアな。米澤さんのミステリ作家としての「上手さ」と、そのプライドに頭を下げるしかないです。

視点人物になるのは、「車が欲しくて」、このバイトに応募した結城。彼をはじめ、大半は軽い気持ちで応募したものの、実際に人が死に始めると、暗鬼館はすさまじい「疑心暗鬼」の場と化していき、第二・第三の殺人が・・・という展開。

12人しかいない場で、誰がどうやって殺人を犯したのか。すべての手がかりは読者に与えられていて、徹底的なロジックで謎は解ける! ・・・はずなのですが、思いっきり振り回されました(苦笑)

もうとにかく、ミステリ好きにはたまらない作りになっていて、本当に今まで手に取らなかったのが悔やまれます。

結城がたまたま知り合った須和名祥子。彼女のキャラが実にインパクトありました。

2017年10月27日 (金)

追想五断章

2657「追想五断章」 米澤穂信   集英社   ★★★★

大学を休学して、古書店を営む叔父のもとに身を寄せた菅生芳光は、亡父の書いた5編の小説を探してほしいという女性・北里可南子と出会う。報酬目当てに、叔父に内緒で依頼を受けた芳光は、細い糸を手繰り寄せるようにして、小説を探し出すが・・・。

「米澤穂信と古典部」を読んで、気になった本です。

米澤作品は、いつのまにか恐ろしい世界に引きずり込まれる印象があって、警戒していたのですが(笑)、やっぱり気になって。

これ、あの「ロス疑惑」を下敷きにしているのですね。当時のマスコミの狂奔ともいえる凄まじさは記憶に生々しいです。それをリアルに記憶している世代としては、この物語の骨格がすごく説得力がありました。

それから、バブルがはじけた直後の不況。そのあおりをまともに食らった芳光の境遇、彼につきまとう重苦しい雰囲気も、リアルでした・・・。

可南子の父が書いたという掌編が物語の中で明らかにされていき、それが一つの事実を指し示すわけですが・・・胸がふさがるようなこの感じ、また米澤さんにやられちゃったなあ、と苦笑い。

いろんなピースがピチッとはまっていくようなミステリでした。

2017年10月21日 (土)

米澤穂信と古典部

2653「米澤穂信と古典部」 KADOKAWA   ★★★★

「古典部」シリーズファンのためのムック。

著者インタビュー、対談集、「古典部」ディクショナリーなどなど。書き下ろし短編「虎と蟹、あるいは折木奉太郎の殺人」も。

書店で見たら、買わずにはいられませんでした。だって、対談のお相手が、北村薫、恩田陸、綾辻行人、大崎梢って・・・なんでこちらの好みど真ん中の人選・・・。書き下ろしはもちろん読みたいし、著者によりシリーズ全解説ってのも気になるし。

古典部ファンにとっては文句なしにおもしろいし、米澤穂信ファンにとってもおすすめです。「古典部」以外にも触れている部分がけっこうあります。

米澤さんにとっての「古典部」の位置づけとか、なるほど~という感じでした。講演録もあって、米澤さんの考える「物語」というのが、よくわかります。

私としては、古典部四人の「本棚」が、けっこうツボでした。ああ、たしかにこれ、奉太郎が読んでそうだよね、とか。

しかし、これ読むと、古典部シリーズ再読したくなって困ります。(もうすでに2~3回は読み返してる)

できれば、対談はいつのものなのか明記してほしかったなあ。

2016年8月 6日 (土)

真実の10メートル手前

2460「真実の10メートル手前」 米澤穂信   東京創元社   ★★★★

太刀洗万智がジャーナリストとして追った6つの事件。「真実」を追った彼女に見えたこの世の景色とは・・・。

ものすごく読みたかった一冊です。「さよなら妖精」「王とサーカス」に続く、太刀洗万智の物語。

私は万智みたいなタイプに弱いようです。この短編集でも、すっかり魅せられてしまいました。

「真実の10メートル手前」「正義漢」「恋累心中」「名を刻む死」「ナイフを失われた思い出の中に」「綱渡りの成功例」の6篇。

それぞれに万智らしさがあふれていますが、「さよなら妖精」のマーヤの姉が登場する「ナイフを~」は、やはり「太刀洗万智」というキャラクタを理解するのに一番かもしれません。「名を刻む死」や「綱渡りの成功例」も、フリージャーナリストの万智の有り様を、実に印象的に描いています。

表題作(このタイトルが秀逸!)の原型は、「王とサーカス」の序章として書かれたものだったそうです。なるほど、この事件があって、彼女は・・・と、なんとも言えない気持ちになりました。

やりきれない事件は現実でも多いけれど、「やりきれない」という言葉で記号化して、自分と距離を置こうとすることを、万智は決して良しとしない。その生き様に、激しくあこがれます。

そういえば、「さよなら妖精」では、万智は「せんどー」と呼ばれていたのでしたね。「正義漢」に登場したのは、あの彼でしょうかね。

できることなら、万智の物語をもっと読みたいと思います。ところで、米澤さん、あのスイーツシリーズ、いつか書いてくださいますよね?

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