近藤史恵

2018年5月10日 (木)

インフルエンス

2746「インフルエンス」 近藤史恵   文藝春秋   ★★★★★

「わたしと友達ふたりの、三十年にわたる関係は絶対あなたの興味を引くと思います」・・・ある読者から、小説家のもとに届いた手紙。あまり期待もせず、差出人・戸塚友梨に会った「わたし」は、奇妙な物語を聞かされる。それは、大坂のある団地から始まった。

息をつめるようにして、一気に読みました。最近、集中力が持続しないのですが、今回は最初から最後まで、本当に一気。そうせずにはいられない緊迫感にがんじがらめになりました。

同じ団地で育った友梨と里子。なんの屈託もなかった子ども時代、友梨は里子の秘密に気づいてしまうが、なすすべもない。中学から転校してきた真帆と友梨が親しくなると同時に、里子とは疎遠に。そして、三人はある事件に遭遇する。その時、それぞれがとった行動が、彼女たちの運命を絡め取っていき・・・。

ほぼ私が育った時代と同じなので、荒れる学校の様子とか、よくわかります(私の学校はここまでではなかったですが)。団地とは無縁の田舎育ちでも、雰囲気は想像できます。物語のベースとなる時代背景にシンクロしやすかったのが、のめりこむ理由の一つでした。

でも、それだけでなく。友梨、里子、真帆の三人の関係が、すごく理解できるというか・・・。ここまですさまじい状況でなくても、彼女たちの互いを意識する様子、嫉妬、愛着、そんなものは、誰もが感じたことのあるものだと思うのです。とんでもない形で、「つながり」を維持する彼女たちですが、その大元にある気持ちには共感できてしまうのでした。

そして、これを友梨たちを視点人物としてそのまま小説にするのも可能だったでしょうが、あえて小説家の「わたし」を聞き手として配置したのが、実にいいのです。同年輩の女性作家ゆえ、聞き手に選ばれた「わたし」。話を聞いているうちに、ある疑念がきざし、また意外な事実に突き当たります。戸塚友梨の真の目的を聞き、小説の構想を練りながら、こう結びます。

「傷つこうが、しくじろうが、失おうが、年を取ろうが、未来はいつだってわたしたちの手の中にあるのだ。」

この一文を読んだ瞬間、落涙しました。私自身、この年齢になった今だから、この言葉がすとんと胸に落ちたのです。

近藤史恵さんをずっとずっと読んできてよかった。よくぞ書いてくれました。そんな気持ちです。

2017年7月31日 (月)

スーツケースの半分は

2613「スーツケースの半分は」 近藤史恵   祥伝社   ★★★★

真美がフリーマーケットでたまたま手に入れた青いスーツケース。そのスーツケースを持って、旅に出ると、なにかいいことが起こる・・・?

一個のスーツケースをめぐる9つの物語。

初めに買った真美から始まって、その友人たちや、いろんな形でスーツケースに関わった人たちのドラマが展開します。こういう構成、好きだなあ。

仕事だったり恋愛だったり、いろんなことがきっかけで、自分の生き方について考えざるを得ない時ってあるもので。そういう瞬間を切り取るような短編集ですが、登場人物たちに何かしら共感させられました。

近藤さんは初期からずっと読んでる作家さんです。初期作品は、ヒリヒリと痛いような感じのものが多かった気がするのですが、最近はだいぶまろやかになりました。でも、ズシリと重い何かが残るのです。

2017年7月12日 (水)

モップの精は旅に出る

2604「モップの精は旅に出る」 近藤史恵   実業之日本社   ★★★★

語学学校の事務員・翔子のもとに、いきなり届いた婚姻届。事件はそこから始まった。おしゃれなプロの清掃人・キリコちゃんが謎を解くシリーズ最終作。

キリコちゃんとのおつきあいも長くなりましたが・・・とうとう最終作ですか。寂しいなあ。

おしゃれなかっこうで、ビルの清掃なんかをささっとやってしまうキリコちゃん。さらに、いろんな職場で遭遇した謎を解いてしまう。かっこいいなあと憧れてしまうのですが、今回はそんなキリコちゃんの内面もうかがえる話も。

「深夜の歌姫」「先生のお気に入り」「重なり合う輪」「ラストケース」の4話。

キリコちゃんもすごいけど、夫の大介もすごいなあと思うのです。あんなふうに、キリコちゃんを自由に(上っ面の意味ではなく)させるのって、なかなかできないことだと思うわけで。

キリコちゃんにもう会えないのは残念ですが、たぶんどこかで今日も歌いながらお掃除してるんだろうなと思うことにします。

2017年5月27日 (土)

マカロンはマカロン

2584「マカロンはマカロン」 近藤史恵   東京創元社   ★★★★

フレンチ・レストラン、ビストロ・パ・マルは、三舟シェフ以下四人のスタッフで切り盛りする小さなお店。今日もまた、不思議な「謎」がお店に持ち込まれて・・・。

このシリーズ、前作で完結したかと思っていたので、続刊が出ると聞いたときは、すごくうれしかったのです。ようやく読めました。

今回は、8つの「謎」を三舟シェフが解き明かします。

いわゆる「日常の謎」系短編集で、一つ一つの「謎」は大きな事件にならないものがほとんどなのですが、当事者の抱えているものはけっこう重かったりして、読み応えありました。

そして、とにかく「パ・マル」の雰囲気と、おいしそうな料理がたまりません。今回は、三舟シェフの変人ぶりはちょっと影を潜めた感じでしたが・・・。

できることなら、さらに続けて欲しいシリーズです。

2017年4月 7日 (金)

スティグマータ

2556「スティグマータ」 近藤史恵   新潮社   ★★★★

ヨーロッパでサイクルロードレースの選手として走り続けているチカこと白石誓。華々しいタイトルとは無縁の、アシスト専門のクライマーとしてそこそこ認められているが、来期の契約は決まっていない。今シーズン、ツール・ド・フランスを走ることになったチカのもとに、かつての帝王・メネンコからある依頼が。ドーピングで王者の座を追われ、ブランクを経て復活してきたメネンコの頼みとは。

チカも三十歳ですか・・・。どうしても、まだ少年の面影を残していたチカのイメージのままなのです。あのチカが、ヨーロッパでそれなりに自分の居場所をつくって、レースを続けているのが、とってもいとおしい感じがするのも、そのせい。

さて、今回は、ドーピングで石持て追われた王者・メネンコが登場。チカたちが所属するチームのライバルとなるのですが、なぜかチカに奇妙な依頼をしてくる。いったい、彼の狙いは何なのか?という、ちょっとしたミステリテイストを感じさせつつ、レースが始まります。

いつもながらレースシーンの描写には引き込まれます。ロードレースが好きでも、ここまで臨場感のあるレースを描けるのって、すごい。そして、レースには、それぞれの選手の生き様が反映されているのも。とにかく次の展開が気になって、一気読みしてしまいました。

シリーズ第1作の「サクリファイス」のような衝撃はありませんが(あれは忘れられない)、チカたちレーサーの走る姿に魅せられました。

2016年7月10日 (日)

キアズマ

2449「キアズマ」 近藤史恵   新潮文庫   ★★★★

大学生になったばかりの正樹は、ひょんなことから部員不足の自転車部に1年限定で入部することになってしまう。まったくの初心者だったが、不思議と自転車レースに心惹かれ、やがてエースの櫻井と競うようになっていく。しかし、正樹にはずっと抱えている心の傷があり・・・。

「サクリファイス」シリーズというか、番外編というか。「サクリファイス」のあの人もチラッと登場しますけど。

「サクリファイス」のような、読み終えて全身鳥肌立つような緊迫感はないけれど、正樹という初心者視点で語られるので、自転車レースがより身近に感じられます。素人でもついていける感じ(笑)

もちろん、レース部分の迫力は、今までのシリーズ作品に負けてないです。読み応えあります。

今回は、主人公の正樹と、その先輩でライバルでもある櫻井、それぞれが抱えている傷が物語の重要な部分を担います。特に正樹は・・・。彼は悪くないけれど、その状況で罪悪感を感じないような人間でもなくて、読んでてしんどかったです。

それでも、自分が情熱をささげられるものと出会えた正樹は幸せだと思うのでした。

「スティグマータ」も早く読みたい!

2015年2月26日 (木)

胡蝶殺し

2239「胡蝶殺し」 近藤史恵   小学館   ★★★★

若手女形の蘇芳屋・市川萩太郎は、父を亡くした子役・中村秋司の後見人を任される。自身も若くして父を亡くし苦労した萩太郎は、秋司にできるだけのことをしようと決心する。秋司には、たしかに才能があった。秋司と同い年の息子・俊介とは比べ物にならないくらい・・・。

近藤さんの歌舞伎ものは久しぶりです。

ただ、今ちょうど三津五郎があんなことになったばかりなので、あまりにタイムリーすぎて、ちょっと読むのをためらってしまいましたが・・・途中からはそれも忘れて読みふけってしまいました。

特にも、物語中盤、「重の井子別れ」の初日を迎えるまでのドラマは、すごい緊迫感でした。萩太郎自身も初役の大役。難しい子役に秋司。俊介は簡単な子役で初舞台。秋司の稽古は完璧だったが、その矢先、才能がないかと思われた俊介が意外な能力を発揮。そして、初日の二日前、秋司が・・・。

舞台にとりつかれた人たちの、人として、舞台に関わる者としての、すさまじいまでの思いの交錯が、重厚なドラマをつくっていました。

たしかに、子役というのは、一時の花であり、それだからこそ成立するドラマがあるのですね。

タイトルは恐ろしげですが、意外なほどに後味のいい話でした。

2014年4月13日 (日)

モップの魔女は呪文を知ってる

2109「モップの魔女は呪文を知ってる」 近藤史恵   実業之日本社文庫   ★★★★

清掃作業員のキリコちゃんが遭遇した謎を解くシリーズ第3弾。

久しぶりのキリコちゃんシリーズ、久しぶりの近藤史恵さんです。転勤で疲れているので、サクッと読めそうなものをチョイス。2年以上積読してた本です。

近藤さんの書くものは「イタイ」ことが多いのですが、これはなんだか沁みました。キリコちゃんはとってもキュートなんだけど、けっしてスーパーガールじゃないところがいいですね。「第二病棟の魔女」がすごく好きでした。

第4弾も出ているのですが、キリコちゃんはもういいかなあという気がして、手が出ずにいました。が、これを読んだら俄然読みたくなってきました。

2012年6月10日 (日)

寒椿ゆれる

1876「寒椿ゆれる」 近藤史恵   光文社文庫   ★★★

南町奉行所の同心・玉島千蔭の年下の義母・お駒が懐妊した。それを契機に、千蔭のもとに縁談が舞い込む。相手は、奥祐筆組頭の娘・おろく。あまりの身分違いに動転する千蔭だが、おろくは一風変わった女性で・・・。

「猿若町捕物帳」シリーズ第4弾。千蔭は相変わらず、花形役者の巴之丞や、彼に瓜二つの花魁梅が枝、年下の義母お駒たちに振り回されっぱなしです(笑)

つわりで食欲のないお駒を心配して猪鍋屋に連れて行くと、その店に絡む事件が起こったり。新作狂言が始まってまもなく、主役の巴之丞が見知らぬ娘に刺されたり。やがて、奉行所の役人が不正を働いているらしいという事実にゆきあたったり。事件が次々起こります。

いつもなら梅が枝が千蔭に助言してくれるのですが、今回登場した見合い相手のおろくがなかなかのもの。二十八歳独身。決して美人でもなく、愛嬌もない。でも、おろくの観察眼の鋭さと、きよらかな心根には、「なんか、この人、いいかも・・・」と、千蔭ならずとも思わされてしまいます。

しかし、うまくまとまってしまっては、このシリーズ終わってしまうわけで(苦笑) なるほど、これが伏線でしたか・・・という展開が待っています。

なんとなく、シリーズ4冊目にして、ようやく世界になじんでいたというか。登場人物もみな魅力的に見えてきました。「巴之丞鹿の子」の時は、千蔭も、巴之丞も、梅が枝も、なんだかぴんとこなかったのですが。

積読本の山に埋もれていたこの本の存在を思い出したのは、先日読んだ「桜庭一樹読書日記」に記述があったから。へえ、桜庭さんも読んでるんだあ・・・と嬉しく思っていたら、「Mの同心が出てくる」にぶっ飛んでしまいました。そ、そうか、千蔭って、そうなんだ・・・。

2012年2月11日 (土)

ホテル・ピーベリー

1829「ホテル・ピーベリー」 近藤史恵   双葉社   ★★★

教師をやめて、なすこともなく毎日を過ごしていた木崎は、友人からハワイ島への旅行をすすめられる。観光客の多いホノルルではなく、のんびりできるところがたくさんある、と。木崎が心惹かれたのは、日本人夫婦が経営する小さなホテルのことだった。三カ月まで長期滞在ができるが、リピーターはおことわり。興味をもった木崎は、そのホテルを訪れる。しかし、そこで彼を待っていたのは、思いがけない事件だった。

近藤さんのシリーズものでない単発ミステリを久々に読みました。非常に読みやすく、あっという間に読んでしまいました。

私は海外旅行未経験なのですが、南国にはやはり惹かれるものがあります。特に、ハワイは、観光地としてのイメージが強いので、木崎が体験したような寒さとか、ちょっと意外で、逆に興味がわきました。

ある事情で教師をやめた、まだ二十代の木崎。ホテルのオーナーの洋介と和美夫妻。婚約者に何も告げず、ハワイにやってきた桑島七生。先客の佐奇島、蒲生、青柳。それぞれが、なんとなくうさんくさい空気をまとっていて、やがて・・・。

ミステリとしては、なんとなく先が見えてしまいましたが・・・近藤ミステリのテーマは「恋愛」だというのを、再確認させられました。木崎の身勝手さにイライラしましたが、人間そんなものかもしれない、という気がします。結局、誰でも自分のことが一番で、自分に都合のいいことが一番で・・・。でも、そうでなくて、相手の立場で考えてみようとか、一緒に立ち止まってみようとか、そういうことが人が誰かと一緒に生きていくということなのかな、と。そんなことを考えさせられました。

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