近藤史恵

2020年6月11日 (木)

震える教室

3050「震える教室」  近藤史恵      角川書店      ★★★

女子高に入った真矢は、奇妙なものを見るようになる。ピアノ教室の血まみれの手。スカートをつかむやせ細った手。そして、真矢がそれらを見るときは、必ず友人の花音が側にいるのだった。


「ピアノ室の怪」「いざなう手」「捨てないで」「屋上の天使」「隣のベッドで眠るひと」「水に集う」の6話。

大阪の都心にある鳳西学園。音楽科とバレエ科もある歴史ある女子校の高等部に入学した真矢。本命に落ちたゆえに外部入学したのだけれど、奇妙な出来事に次々遭遇して…という学園ホラー。

怪異が怖いのか、それが起こる原因をつくった人間が怖いのか。ホラーとしてはそれほど目新しい印象はありませんが、女子校の設定が効いていたかな、と。

ミステリとホラーは親和性が高いので、両方書く作家さんは少なくないですが、近藤史恵さんは初ホラーでしょうか。プロローグとエピローグはなくてもよかった気がします。

2020年5月 7日 (木)

歌舞伎座の怪紳士

3033「歌舞伎座の怪紳士」  近藤史恵      徳間書店      ★★★★

岩居久澄、二十七歳、無職。将来に不安を覚えつつも、再就職する気にもなれず、実家の家事を一手に引き受けて三年。そんな久澄に、祖母が提案したバイトは、祖母の代わりに観劇すること。生まれて初めて歌舞伎座に出かけた久澄は、親切な紳士と、奇妙な出来事に遭遇する。


近藤さんらしいミステリです。

祖母がもらったチケットで、観劇して、感想を報告すること。それが、久澄のバイト。もちろん、チケット代はただだし、交通費・諸経費も祖母持ちで、さらに日当五千円。

なんて美味しいバイト!と思うのですが、久澄の今の状況は身につまされるものがあるし、行く先々で遭遇する紳士は怪しいし、さらに奇妙な出来事に巻き込まれたり、飽きるひまもなく、一気に読んでしまいました。

世の中でいわゆる「勝ち組」になれない人たちの物語をずっと書いてきた近藤さん(と、私は思ってます)。それは変わらないのだけれど、初期のころの傷が剥き出しになって、ヒリヒリ痛いような感じではなく、痛いけれど、どこか柔らかく登場人物と読者を受けとめてくれる感じのする最近の作風が、とても好きです。いや、初期のも好きですけど。

歌舞伎・オペラ・ストレートプレイが出てきますが、特に歌舞伎は初心者にもおすすめです。すごくわかりやすく描かれてます。

2020年4月 3日 (金)

ときどき旅に出るカフェ

3021「ときどき旅に出るカフェ」  近藤史恵      双葉社      ★★★★

三十七歳、独身、一人住まい、子供もいないし、恋人もいない瑛子。他人からは寂しい生き方と思われそうだが、瑛子なりに落ち着いた暮らしをしている。しかし、大きな変化もない日々は、時に不安と憂鬱を運んでくる。そんな瑛子が自宅の近所に見つけた小さなカフェ。試しに入ってみると、店主はかつての同僚・円で…。


なんとも不思議なタイトルの、日常の謎系ミステリの連作短編。

冒頭2ページで描かれる主人公・瑛子の設定に共感しすぎて(笑)  結婚する前の私が、まさにこんな感じでした。マンションは買えなかったけど(笑)  一人でいることは心地よい。ただ、大きな変化もないまま時間が過ぎていくことへの味気なさとか、この先に対する不安感とかがあって。

そんな日々の中で、瑛子は「カフェ・ルーズ」に出会います。小さなカフェを営んでいるのは、元同僚の円。とは言え、半年しか一緒に働いていないので、円のことはよく知らないのですが。

このカフェのコンセプトが、とっても素敵。(こんな店が近所にあったら常連になります。)  瑛子が遭遇する「謎」を解き明かすわけですが、日常の謎とはいえ、なかなか苦いものがあり…近藤さんらしいな、と。

10話構成で、一話が短いのでサクサク読めます。そして、一話ごとに美味しそうな食べ物が…!  いろんな意味で、読みごたえあります。

2018年5月10日 (木)

インフルエンス

2746「インフルエンス」 近藤史恵   文藝春秋   ★★★★★

「わたしと友達ふたりの、三十年にわたる関係は絶対あなたの興味を引くと思います」・・・ある読者から、小説家のもとに届いた手紙。あまり期待もせず、差出人・戸塚友梨に会った「わたし」は、奇妙な物語を聞かされる。それは、大坂のある団地から始まった。

息をつめるようにして、一気に読みました。最近、集中力が持続しないのですが、今回は最初から最後まで、本当に一気。そうせずにはいられない緊迫感にがんじがらめになりました。

同じ団地で育った友梨と里子。なんの屈託もなかった子ども時代、友梨は里子の秘密に気づいてしまうが、なすすべもない。中学から転校してきた真帆と友梨が親しくなると同時に、里子とは疎遠に。そして、三人はある事件に遭遇する。その時、それぞれがとった行動が、彼女たちの運命を絡め取っていき・・・。

ほぼ私が育った時代と同じなので、荒れる学校の様子とか、よくわかります(私の学校はここまでではなかったですが)。団地とは無縁の田舎育ちでも、雰囲気は想像できます。物語のベースとなる時代背景にシンクロしやすかったのが、のめりこむ理由の一つでした。

でも、それだけでなく。友梨、里子、真帆の三人の関係が、すごく理解できるというか・・・。ここまですさまじい状況でなくても、彼女たちの互いを意識する様子、嫉妬、愛着、そんなものは、誰もが感じたことのあるものだと思うのです。とんでもない形で、「つながり」を維持する彼女たちですが、その大元にある気持ちには共感できてしまうのでした。

そして、これを友梨たちを視点人物としてそのまま小説にするのも可能だったでしょうが、あえて小説家の「わたし」を聞き手として配置したのが、実にいいのです。同年輩の女性作家ゆえ、聞き手に選ばれた「わたし」。話を聞いているうちに、ある疑念がきざし、また意外な事実に突き当たります。戸塚友梨の真の目的を聞き、小説の構想を練りながら、こう結びます。

「傷つこうが、しくじろうが、失おうが、年を取ろうが、未来はいつだってわたしたちの手の中にあるのだ。」

この一文を読んだ瞬間、落涙しました。私自身、この年齢になった今だから、この言葉がすとんと胸に落ちたのです。

近藤史恵さんをずっとずっと読んできてよかった。よくぞ書いてくれました。そんな気持ちです。

2017年7月31日 (月)

スーツケースの半分は

2613「スーツケースの半分は」 近藤史恵   祥伝社   ★★★★

真美がフリーマーケットでたまたま手に入れた青いスーツケース。そのスーツケースを持って、旅に出ると、なにかいいことが起こる・・・?

一個のスーツケースをめぐる9つの物語。

初めに買った真美から始まって、その友人たちや、いろんな形でスーツケースに関わった人たちのドラマが展開します。こういう構成、好きだなあ。

仕事だったり恋愛だったり、いろんなことがきっかけで、自分の生き方について考えざるを得ない時ってあるもので。そういう瞬間を切り取るような短編集ですが、登場人物たちに何かしら共感させられました。

近藤さんは初期からずっと読んでる作家さんです。初期作品は、ヒリヒリと痛いような感じのものが多かった気がするのですが、最近はだいぶまろやかになりました。でも、ズシリと重い何かが残るのです。

2017年7月12日 (水)

モップの精は旅に出る

2604「モップの精は旅に出る」 近藤史恵   実業之日本社   ★★★★

語学学校の事務員・翔子のもとに、いきなり届いた婚姻届。事件はそこから始まった。おしゃれなプロの清掃人・キリコちゃんが謎を解くシリーズ最終作。

キリコちゃんとのおつきあいも長くなりましたが・・・とうとう最終作ですか。寂しいなあ。

おしゃれなかっこうで、ビルの清掃なんかをささっとやってしまうキリコちゃん。さらに、いろんな職場で遭遇した謎を解いてしまう。かっこいいなあと憧れてしまうのですが、今回はそんなキリコちゃんの内面もうかがえる話も。

「深夜の歌姫」「先生のお気に入り」「重なり合う輪」「ラストケース」の4話。

キリコちゃんもすごいけど、夫の大介もすごいなあと思うのです。あんなふうに、キリコちゃんを自由に(上っ面の意味ではなく)させるのって、なかなかできないことだと思うわけで。

キリコちゃんにもう会えないのは残念ですが、たぶんどこかで今日も歌いながらお掃除してるんだろうなと思うことにします。

2017年5月27日 (土)

マカロンはマカロン

2584「マカロンはマカロン」 近藤史恵   東京創元社   ★★★★

フレンチ・レストラン、ビストロ・パ・マルは、三舟シェフ以下四人のスタッフで切り盛りする小さなお店。今日もまた、不思議な「謎」がお店に持ち込まれて・・・。

このシリーズ、前作で完結したかと思っていたので、続刊が出ると聞いたときは、すごくうれしかったのです。ようやく読めました。

今回は、8つの「謎」を三舟シェフが解き明かします。

いわゆる「日常の謎」系短編集で、一つ一つの「謎」は大きな事件にならないものがほとんどなのですが、当事者の抱えているものはけっこう重かったりして、読み応えありました。

そして、とにかく「パ・マル」の雰囲気と、おいしそうな料理がたまりません。今回は、三舟シェフの変人ぶりはちょっと影を潜めた感じでしたが・・・。

できることなら、さらに続けて欲しいシリーズです。

2017年4月 7日 (金)

スティグマータ

2556「スティグマータ」 近藤史恵   新潮社   ★★★★

ヨーロッパでサイクルロードレースの選手として走り続けているチカこと白石誓。華々しいタイトルとは無縁の、アシスト専門のクライマーとしてそこそこ認められているが、来期の契約は決まっていない。今シーズン、ツール・ド・フランスを走ることになったチカのもとに、かつての帝王・メネンコからある依頼が。ドーピングで王者の座を追われ、ブランクを経て復活してきたメネンコの頼みとは。

チカも三十歳ですか・・・。どうしても、まだ少年の面影を残していたチカのイメージのままなのです。あのチカが、ヨーロッパでそれなりに自分の居場所をつくって、レースを続けているのが、とってもいとおしい感じがするのも、そのせい。

さて、今回は、ドーピングで石持て追われた王者・メネンコが登場。チカたちが所属するチームのライバルとなるのですが、なぜかチカに奇妙な依頼をしてくる。いったい、彼の狙いは何なのか?という、ちょっとしたミステリテイストを感じさせつつ、レースが始まります。

いつもながらレースシーンの描写には引き込まれます。ロードレースが好きでも、ここまで臨場感のあるレースを描けるのって、すごい。そして、レースには、それぞれの選手の生き様が反映されているのも。とにかく次の展開が気になって、一気読みしてしまいました。

シリーズ第1作の「サクリファイス」のような衝撃はありませんが(あれは忘れられない)、チカたちレーサーの走る姿に魅せられました。

2016年7月10日 (日)

キアズマ

2449「キアズマ」 近藤史恵   新潮文庫   ★★★★

大学生になったばかりの正樹は、ひょんなことから部員不足の自転車部に1年限定で入部することになってしまう。まったくの初心者だったが、不思議と自転車レースに心惹かれ、やがてエースの櫻井と競うようになっていく。しかし、正樹にはずっと抱えている心の傷があり・・・。

「サクリファイス」シリーズというか、番外編というか。「サクリファイス」のあの人もチラッと登場しますけど。

「サクリファイス」のような、読み終えて全身鳥肌立つような緊迫感はないけれど、正樹という初心者視点で語られるので、自転車レースがより身近に感じられます。素人でもついていける感じ(笑)

もちろん、レース部分の迫力は、今までのシリーズ作品に負けてないです。読み応えあります。

今回は、主人公の正樹と、その先輩でライバルでもある櫻井、それぞれが抱えている傷が物語の重要な部分を担います。特に正樹は・・・。彼は悪くないけれど、その状況で罪悪感を感じないような人間でもなくて、読んでてしんどかったです。

それでも、自分が情熱をささげられるものと出会えた正樹は幸せだと思うのでした。

「スティグマータ」も早く読みたい!

2015年2月26日 (木)

胡蝶殺し

2239「胡蝶殺し」 近藤史恵   小学館   ★★★★

若手女形の蘇芳屋・市川萩太郎は、父を亡くした子役・中村秋司の後見人を任される。自身も若くして父を亡くし苦労した萩太郎は、秋司にできるだけのことをしようと決心する。秋司には、たしかに才能があった。秋司と同い年の息子・俊介とは比べ物にならないくらい・・・。

近藤さんの歌舞伎ものは久しぶりです。

ただ、今ちょうど三津五郎があんなことになったばかりなので、あまりにタイムリーすぎて、ちょっと読むのをためらってしまいましたが・・・途中からはそれも忘れて読みふけってしまいました。

特にも、物語中盤、「重の井子別れ」の初日を迎えるまでのドラマは、すごい緊迫感でした。萩太郎自身も初役の大役。難しい子役に秋司。俊介は簡単な子役で初舞台。秋司の稽古は完璧だったが、その矢先、才能がないかと思われた俊介が意外な能力を発揮。そして、初日の二日前、秋司が・・・。

舞台にとりつかれた人たちの、人として、舞台に関わる者としての、すさまじいまでの思いの交錯が、重厚なドラマをつくっていました。

たしかに、子役というのは、一時の花であり、それだからこそ成立するドラマがあるのですね。

タイトルは恐ろしげですが、意外なほどに後味のいい話でした。

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