北村薫

2019年6月13日 (木)

中野のお父さんは謎を解くか

2912「中野のお父さんは謎を解くか」 北村薫   文藝春秋   ★★★★

 

体育会出身の文芸誌編集者・田川美希。それなりに経験を積んで、編集の仕事も順調だけれど、世界にはいろんな謎があふれていて・・・。美希の疑問を解き明かしてくれるのは、高校の国語教師のお父さん。自分ではお手上げになった謎を抱えて、実家を訪れる美希だったが・・・。

 

シリーズ第2弾。「縦か横か」「水源地はどこか」「ガスコン兵はどこから来たか」「パスは通ったの」「キュウリは冷静だったのか」「『100万回生きたねこ』は絶望の書か」「火鉢は飛び越えられたのか」「菊池寛はアメリカだったのか」の8編。

日常の謎系安楽椅子探偵ミステリ。こういうのを書かせたら、北村さんの右に出る者はいない、と断言してしまいます。美希が見つけてくるのは、小さな謎(というか、疑問)。でも、それを解き明かすと、思わぬ景色が見えてくることがあるのです。

私が好きだったのは、太宰がらみの「ガスコン兵」と、泉鏡花と徳田秋声の喧嘩にまつわる「火鉢」、それから最後の「菊池寛」ですね。松本清張のパクリ疑惑(?)から、日本ミステリの歴史に触れる「水源地」もすごく興味深かったです。

お父さんの健康にやや不安が出てきたり、美希はどうやら恋の予感?というところで、少しずつ物語は進展していくようです。まだまだ続きますよね、このシリーズ。

2018年1月12日 (金)

ヴェネツィア便り

2696「ヴェネツィア便り」 北村薫   新潮社   ★★★★

ヴェネツィアを旅しながら書いた手紙が、今、時を越えて届いた・・・。表題作を含む15の短編および掌編。

なんと美しく、見事に、物事の断片を切り取ってみせてくれるのでしょう。余計なものを削り取り、研ぎ澄まされたような短編。どこかで必ず「はっ」とさせられる瞬間があって・・・。

ミステリ風のもの、怪談風のもの、色合いはさまざまですが、こうして並べてみると、北村さんの視線の鋭さ、その一瞬を切り取る確かさに脱帽、です。

「麝香連理草」「誕生日 アニヴェルセール」「くしゅん」「白い本」「大ぼけ 小ぼけ」「道」「指」「開く」「岡本さん」「ほたるぶくろ」「機知の戦い」「黒い手帳」「白い蛇、赤い鳥」「高み」「ヴェネツィア便り」の15編。

私の好みは、「誕生日」「開く」「岡本さん」「ほたるぶくろ」「機知の戦い」あたりでしょうか。

こういう短編を書ける人って少ない気がするので、こういうのも書き続けてほしいのですが、北村さんの長編も読みたいなあ。

2017年11月 1日 (水)

太宰治の辞書

2658「太宰治の辞書」 北村薫   創元推理文庫   ★★★★★

「花火」「女生徒」「太宰治の辞書」に、短編「白い朝」、エッセイ「一年後の『太宰治の辞書』」「二つの『現代日本小説大系』」を加えた文庫版。

もともと文庫でそろえていたシリーズですが、単行本が出たときに「また読めるなんて!」という喜びのあまり、そして東京創元社は文庫化が遅いので、単行本を買ってしまったのですが・・・こんなに早く文庫化されるとは(苦笑) しかも、短編とエッセイが増えてる・・・買うしかないじゃないですか。

初読のときは、17年の歳月を経て物語に再会できたことがうれしくて、若干エモーショナルな気持ちで読んでいたようで(苦笑) 今回は、わりと冷静に読めました。

事件らしい事件は起こらず、まさに「日常の謎」。これは、気づけば日常はいろいろな謎に満ちている・・・という、作者の姿勢を表しているものです。ほとんどの人はただ通り過ぎてしまうことに目を留め、立ち止まり、どういうことだろうと考える。調べて、確かめて、明らかにする。そこにミステリは成立するのだという。私たちの日常は「謎」にあふれているのです。

主人公の「私」は、以前から「謎」に気づく資質のある人でした。では、その「謎」にどう向き合うか。どう紐解くか。それを教えてくれたのが、円紫さん。時が流れて、「私」は自分で謎を見つけ、解き明かすすべを身につけ、円紫さんはさらに新たな謎を提示する存在へと変化しています。その変化に17年の重みを感じるのです。

文庫解説は米澤穂信さん。これがまたいい。シリーズを愛し、北村薫作品を愛している方の、実に至言ともいうべき解説です。これだけでも、読む価値はあります。

外連味たっぷりのミステリも好きですが、その対極にあるような「日常の謎」もやっぱり好きです。また何年か経って、「私」と円紫さんに会えたらうれしいです。

2017年3月19日 (日)

うた合わせ

2550「うた合わせ」 北村薫   新潮社   ★★★★

北村薫がテーマごとに選んだ現代短歌50組100首。それらに関わる随想。「北村薫の百人一首」です。

短歌からはなんとなく遠ざかっていて、現代短歌はほとんど知らない私ですが、たいへんおもしろく読みました。

冒頭に掲げられた一組の短歌だけでなく、そこから広がる世界がもう果てしなく広くて、深くて。北村先生の「謎解き」を堪能いたしました。

一気読みしてしまうのはもったいなくて、少しずつ少しずつ読んできましたが、とうとう終わり。でも、巻末の穂村弘・藤原龍一郎との鼎談を読むと、また始めに戻って読み返したくなります。

2016年10月 8日 (土)

遠い唇

2476「遠い唇」 北村薫   KADOKAWA   ★★★★

学生時代のコーヒーにまつわる思い出。それは、不思議な暗号が書かれた葉書。それが解読できたとき、わかったこととは・・・。

「遠い唇」「しりとり」「パトラッシュ」「解釈」「続・二銭銅貨」「ゴースト」「ビスケット」の7編を収録した短編集。あとがきによると、「謎と解明の物語」を集めたもの。

一番印象的だったのは、表題作「遠い唇」。暗号ものですが、物語としての味付けがとても素敵でした。そして、コーヒーが飲みたくなりました。

おおっ!と思ったのは、「ビスケット」。あの名探偵・巫弓彦が18年ぶりに登場します! 物語の中でも18年の時間が流れ、それはある残酷な事実を私たちにつきつけますが・・・。それでも、私は久しぶりに巫と、姫宮あゆみに会えて、すごく嬉しかったです。ちなみに、こちらはダイイング・メッセージもの。

それから、「解釈」は笑ってしまいました~。まさか、あの名作がそんなことに・・・(笑) 一番ウケたのは、「セリヌンティウスの人間以外の友人」でした。

2015年10月17日 (土)

中野のお父さん

2368「中野のお父さん」 北村薫   文藝春秋   ★★★★

体育会系な文芸編集者の田川美希が、出版業界で出会う謎の数々。それを見事解き明かしてくれるのは、定年間近の高校国語教師である美希の父。美希は今日も謎をかかえて、中野の実家へ足を運ぶ。

北村さんの新作は、「日常の謎」もので、ご自身をほうふつとさせる「高校国語教師」のお父さんが探偵役です。もっとも、本や出版等にまつわる謎がほとんどで、博識なお父さんが、その知識をもって娘に謎を解いてやる・・・という、ほんわかミステリ。

「夢の風車」「幻の追伸」「鏡の世界」「闇の吉原」「冬の走者」「謎の献本」「茶の痕跡」「数の魔術」の連作8編。

個人的に好きだったのは、「夢の風車」と「幻の追伸」、「闇の吉原」、「謎の献本」あたりでしょうか。

特に、「夢の風車」にはどきりとさせられました。こんなふうに書いちゃうと、「北村薫」も実は・・・なんて想像してしまいそうで。ニヤリとしている北村さんが目に浮かぶようです。(内容については、自粛。ミステリなので、ネタバレはいけません)

益田ミリさんの表紙絵も、物語の雰囲気にぴったりです。

2015年8月17日 (月)

書かずにはいられない

2343「書かずにはいられない」 北村薫   新潮社   ★★★★

「読まずにはいられない」の後、1990年から2005年までのエッセイ集。「身辺探索」「読書」「記憶の発見」の3部。

つくづく、北村さんの文章は、読んでいて心地いい。エッセイなので、一つ一つはすごく短いのですが、それぞれがきれいにまとまっていて、満足感があります。言葉の使い方もとても意識的で、無駄がないので、もやっとすることがないのです。

読み終わるのはもったいないなあと思いつつ、少しずつ読み進めるのは、至福の時間でした。おおげさでなく。

2015年8月 1日 (土)

読まずにはいられない

2334「読まずにはいられない」 北村薫   新潮社   ★★★★

1978年から2001年までに発表された、北村薫のエッセイ集。「読書」「自作の周辺」「日常の謎 愛しいもの」の3部。

エッセイとはいえ、文庫の解説や全集の内容・作者紹介などなど。とっても読みごたえがありました。

デビュー以来のファンとしては、「自作の周辺」にいちばん興味があったのですが、ほかの部分も、実におもしろかったです。短い文章でスパッと切りこむもよし。長い文章のときは、話のマクラがどう展開していくのかが楽しい・・・。

私にはめずらしく、順番を無視して、心惹かれるところから適当に読んでいました。

暑い中、エアコン壊れて死にそうになってましたが、これはそのイライラを払しょくしてくれるすてきな一冊でした。まさに、「読まずにはいられない」エッセイです。(エアコンは無事新しいのを取り付けてもらいました)

2015年4月12日 (日)

太宰治の辞書

2267「太宰治の辞書」 北村薫   新潮社   ★★★★

編集者として経験を積んだ「私」が出会った謎。それは、芥川龍之介の「舞踏会」を経て、太宰治の「女生徒」へ。さらに、円紫さんに導かれるようにして、その謎を解きに前橋へと向かう。果たして、書き手の思いとは・・・。

待望の、「私」シリーズ最新刊です。出てるのしらなくて、書店で見つけた時は1冊しか残っていませんでした。ずっと文庫でそろえていたので迷いましたが、これで文庫化を待つのは耐えられない!と思い、購入。

読み始めてから気づきましたが、今回は新潮社からの出版(今までは東京創元社)。でも、表紙は変わらず高野文子さん描く「私」がいて、違和感なく読めました。

「私」もすっかり歳を重ねて、結婚もして、中学生の子供もいます(!) 「朝霧」からずいぶん時間が経過していて、大人の女性になっています。なんというか、感慨深いものがありました。でも、円紫さんや正ちゃんは相変わらずで、なんだかほっとしました。

さて、今回は本をめぐるミステリです。「六の宮の姫君」もそうでしたが、あちらよりもっと「本」と向き合う感じです。ふと気づいた謎を解くために、本を調べ、そこからまた違う本へ・・・と、物語全体が本をめぐる旅のようになっています。ここに描かれた本の旅は、北村さんご自身の体験でしょうか。なんというか、ミステリらしくはないですが、とっても豊かな物語でした。

作中に出てくる「生まれて墨ませんべい」は、私も買ったことがありますが(笑)、「生まれてすみません」が太宰の言葉ではなかったというのは、初めて知りました。太宰という作家の特性にふれるエピソードでした。

できることなら、このシリーズは、さらに書きついでほしいものです。

2014年6月28日 (土)

八月の六日間

2145「八月の六日間」 北村薫   角川書店   ★★★★★

文芸誌の副編集長をしている「わたし」は、公私ともに悩むことの多かった3年前、同僚に誘われて山に登った。それがきっかけになり、山登りを始めた。けっしてアウトドア派ではない「わたし」だが、山に登ると心が開かれる気がするのだ。3年間、経験を積み、とうとう槍ヶ岳にアタックすることにしたのだが・・・。

「思い通りの道を行けないことがあっても、ああ、今がいい。わたしであることがいい。」

これを読んだ瞬間、涙がとまらなくなりました。今の私には、とても響く言葉でした。

北村さん3年ぶりの小説新刊は、アラフォーの編集女子が山に登るお話です。主人公の「わたし」はかの「円紫さんと私」シリーズの「私」のその後のようでもあり・・・(もちろん、そうではないのですが)。なんというか、不器用なくらい真摯に生きている人なのです。山に登るのも、単独行を好むような「ヘンクツ」だと自分を称します。でも、この人の生き方はとても素敵だし、共感するところもたくさんあります。

私は、登山が嫌いです(笑) ハイキング程度でも嫌。恐ろしいほど体力がないもので。山形の山寺に行ったときには、死ぬかと思いました。なので、登山そのものには心惹かれないはずだったのですが・・・恐ろしいことに、これを読んでいると、「登山も悪くないかも」と思ってしまうのです。いや、登りませんよ。というか、登れませんけど。

それくらい、山も、登場する人たちも、魅力的な物語でした。「わたし」が人とのかかわりの中で、自然の中で感じた思いが、きらきらと輝いているような。心が洗われるような。

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