米原万里

2016年7月 1日 (金)

偉くない「私」が一番自由

2446「偉くない『私』が一番自由」 米原万里 佐藤優・編   文春文庫   ★★★★

米原さんのエッセイを、盟友・佐藤優氏が選んだベスト版。ロシア料理のフルコースになぞらえて、選ばれた数々の名品は・・・。

佐藤さん編集だから、難解なのが多いかなと思っていたら、とんでもない。すごくおもしろかったです。角川文庫の「ベスト・エッセイ」は、すべてのエッセイ集からバランスよく選んだ感じでしたが、こちらは、佐藤さんが「ぜひこれは読んでほしい」と思ったものを選ばれたのではないでしょうか。米原万里という通訳、エッセイスト、そして作家・・・彼女の本質に触れる話題が多かったような気がします。

さらに、米原さんと佐藤さんとの関わり、特に佐藤さんが逮捕される前夜のやりとりは、実に米原さんらしいな、と。彼女の人柄が浮かび上がってくるようなエピソードでした。

なんと、大学の卒業論文まで掲載されていて(ロシアの詩人・ネクラーソフについて)、米原ファンには必携の一冊でしょう。

詮無いこととは思いながら、今こそ米原さんの辛口の批評が読みたいと思う、今日この頃の世界情勢です。

2016年5月30日 (月)

米原万里ベストエッセイⅡ

2435「米原万里ベストエッセイⅡ」 米原万里   角川文庫   ★★★★

25編を収録したエッセイ集パート2。何回読んでも飽きませんね。

今回は、けっこう好きな作品がつまってました。冒頭の「ドラゴン・アレクサンドラの尋問」は、よく覚えています。こういう人との出会いって、貴重ですね。

おもしろかったのは、エリツィンがいかに酒飲みだったかという話と、権力を失ったゴルバチョフの話。おりしもサミットの時期だったので、いろいろ考えさせられるものがありました。

「国家機密の隠し方」みたいなものを書けるのは、米原さんしかいないのではないでしょうか。ぜひ、いろんな人に読んでほしいです。

それから、自らの闘病の過程に触れた「身内の反乱者」は、読んでいて胸がつまるような思いでした。米原さんがなんとか生きようとしていたのが、痛いほど伝わってきます。また、私の父もがんで闘病中なので、他人事とは思えませんでした。

それにしても、先日のオバマ大統領の広島訪問、もし米原さんが生きていらしたら、どんなコメントをしたのだろう・・・と、つくづく考えてしまいました。

さて、没後10年記念エッセイ集、あと一冊あります。今度のは佐藤優さんが編集したもの。さて、どんなもんかな。ぼちぼち読みます。

2016年5月21日 (土)

米原万里ベストエッセイⅠ

2432「米原万里ベストエッセイⅠ」 米原万里   角川文庫   ★★★★

「米原万里没後10年」の帯がついた本を見て、しばし立ち尽くしていました。

そうか、もう10年経ったんだ・・・。

気を取り直して、エッセイ集を3冊選んで、レジへ。米原さんの著作のほとんどは実家に置いてあるので、久々に読みたいなと思い。

さて、25編の収録作のうち、ほとんどは既読でしたが、忘れているものも多くあり、あらためて米原ワールドに浸らせていただきました。

『旅行者の朝食』所収の「トルコ蜜飴の版図」から始まり(米原さんの食へのこだわりというか、執着がよくわかる)、世界的チェロ奏者・ロストロポーヴィチのエピソードや、翻訳業の裏話、お得意の下ネタ(笑)・・・と、もう何でもありの世界です。

何より、ぶれない米原さんの姿勢が、とても心地よい。読みながら、「ああ、今、こういうことを書いてくれる人がいるだろうか」と思わずにはいられませんでした。現在の混沌とした世界情勢を見たら、米原さんはどんなメッセージを発信してくれただろうと思わずにはいられません。

ラストの「バグダッドの靴磨き」は、その余韻と共に、戦争のむごさ、愚かしさ、恐ろしさを読む者に訴えかけてきます。これだけでも一読の価値はあります。

2012年3月 4日 (日)

マイナス50℃の世界

1840「マイナス50℃の世界」 米原万里   角川ソフィア文庫   ★★★★

世界で最も寒い土地、シベリア。ロシア語通訳者として真冬の取材に同行した米原万里による、想像を絶するマイナス50℃の世界のレポート。

米原さんの幻の処女作。おりにふれて、この時の体験について書かれていたので、概要は知っていましたが・・・あらためて読むと、やっぱりおもしろい。

今年の冬は厳しくて、最低気温がマイナス15℃を下回り、大変な目に遭いました。それなのに、マイナス50℃!

寒すぎて、吐いた息が瞬時に凍る。自動車の排気も凍って霧になる。氷が融けないので、スパイクタイヤも必要ない。・・・とにかく想像できないのですが。

我々は無責任にも「そんなところに住まなきゃいいのに」なんて思ってしまいますが、それはシベリアの人たちに失礼というもの。向こうから見たら、地震や津波の多いそんなところによく住んでいられるなあと思われるでしょう。

この本を読んでいると、人間はどんな環境でもそこに適応して生きていく知恵と力をもっているのだなあと感動してしまいます。

それは、とりもなおさず、米原さんの視点によるものでしょう。本当にこの方は人間が好きなのだなあと、つくづく感じます。

2011年7月 9日 (土)

パンツの面目ふんどしの沽券

1726「パンツの面目ふんどしの沽券」 米原万里    ちくま文庫    ★★★★

たかが下着、されど下着。下着の歴史をひもといてみれば、それぞれの国民性や文化、ひいては歴史の流れまで見えてくる。米原万里が「ライフワークにしたかった」下着文化に関わるエッセイ。

タイトルがタイトルなもので(笑)、読むのをためらっていましたが…いや、まさに米原さんの面目躍如と言うべき好著でした。
のっけから、「ソ連時代、パンツは工業生産されず、家庭での手縫いだった」にぶっ飛び…。とにかく、文化の違いとはいえ、こんなにも肌着・下着に関する意識が異なるものなのかと茫然。
それは、言語や生活習慣、風土の違いなどあらゆる分野に広がっていき、最高におもしろかったです。
米原さんはミッション系幼稚園で、磔刑のキリストの腰布はパンツかふんどしか論争したのを皮切りに、そのジャンルにいたく関心をもったようですが…(笑)解説の井上章一さんご指摘の通り、子供のころ誰もが感じた興味を、大人になっても忘れず追求し続けたのが米原さんなのですね。
エッセイの中で、ふんどしに関するありとあらゆる文献を集めた奇書を紹介していますが、米原さんのこの本もなかなか…(苦笑)
しかし、肌着だけでなく、ズボンとスカートの使い分けや、ズボンの起源など、思わぬ広がりを見せる米原学説は、実に興味深いものでした。さらに、米原さん自身の体験談が秀逸。特に子供時代のさまざまなエピソードは、笑いました。
おすすめの一冊です。

2010年9月24日 (金)

ユリイカ  特集 米原万里

1572「ユリイカ  特集 米原万里」   青土社   ★★★★

去年の1月号のバックナンバーを買ってしまいました。

米原さんの対談、詩論、親交のあった方々のエッセイなどなど、盛りだくさんです。通訳時代のこと、執筆を始めた頃のこと、テレビのコメンテーターをしていた時の裏話もありました。強烈な個性の持ち主だけれど、本当に多くの人に愛された方だったのですね。

個人的におもしろかったのは、米原さんの幼少期からの写真と、妹・ユリさんが提供した米原さんの詩。実家を離れたユリさんに送った詩は、米原さんらしいユーモアと詩情にあふれて、なんだかとても好きでした。

まだまだ読んでない本が残っています。少しずつでも読んでいこう。   

2010年3月22日 (月)

終生ヒトのオスは飼わず

1449「終生ヒトのオスは飼わず」米原万里   文春文庫   ★★★★

米原さんがこよなく愛した毛深い家族たち(犬&猫)との日々をつづるエッセイ「ヒトのオスは飼わないの?」の続編と、米原さんの生い立ち、また、米原さんの死後の家族たちの様子をまとめた一冊。

米原さんがいかに愛情深い方だったかというのが、つくづく伝わってきます。犬であれ、猫であれ、もちろん一緒に暮していれば情はうつるし、そりゃもう親ばか状態でかわいがります。でも、米原さんのは、ちょっと違う気がするのです。本当に、全身全霊で、愛してしまう。だから、米原さんの「家族」たちは、幸せだったと思うのです。

以前に、米原さんの死後の鎌倉のお宅を取材したテレビで、そのままお家で暮らしているにゃんこたちを見ました。米原さんがいなくなって、どれだけ寂しいことだろうと、思わず涙がこぼれました。今はもうみんな、新しい家族のもとで生活しているようです。それはそれで、いいことなのかもしれません。

しかし、米原さんの舌鋒鋭い論陣と、この家族たちと暮らす時の落差といったら! おそらく、米原さんはものすごく深く愛することができる人で、「ヒトのオス」には、それは受け止めきれなかったのかもしれませんね。米原万里という人は、とても魅力的だと思うのですが(おそらく、男性にもすごくモテたと思うのだけれど)、太刀打ちできる人はそうそういなかったのでしょう。それゆえ、「終生ヒトのオスは飼わず」だったのかもしれません。

この本には、米原さんの年譜がついています。こういうものが作れるということは、米原さんは亡くなってしまったんだなあ、と、しみじみと悲しくなってしまいました。米原さんが亡くなったのは2006年。今御存命だったら、このしっちゃかめっちゃかな世の中を、鋭く斬ってきれただろうと思うと、残念でなりません。

2009年7月 5日 (日)

言葉を育てる 米原万里対談集

1401「言葉を育てる 米原万里対談集」米原万里   ちくま文庫   ★★★★

言葉の魔術師・米原万里の、最初で最後の対談集。文庫オリジナル編集。

作家、学者、政治家・・・いろんなジャンルの人たちとの対談集は、時にはユーモラスに、時にはシビアに、話が展開します。読んでいて、あきませんでした。とにかく米原さんの「言葉」に対する考え方や、彼女自身の生き方について、いろいろと考えさせられるものがあり・・・。決してほかの人には真似できない「米原万里」という生き方。つくづく、亡くなられたのが惜しくてなりません。

個人的に一番おもしろかったのが、イタリア語通訳の田丸公美子さんとの対談。仲の良い友人でもあるお二人の掛け合いは、息がぴったりで、絶妙。読みながら何度も笑ってしまいました。米原さんも肩の力が抜けてる感じで、すごくおもしろい。

それから、糸井重里との対談は、多くのことが語られていて、特に国語教育とは何かということを考えさせられました。

巻末に、黒岩幸子さんによる米原さんの日常がつづられていて、なんとも言えない気持ちで読み終えました。本当に、本当に、亡くなられたのが残念でなりません。今のわけわからない日本の政治や、この世界情勢を、米原さんの鋭い舌鋒で切ってほしかったです。

2009年1月15日 (木)

心臓に毛の生えている理由

1373「心臓に毛の生えている理由」米原万里   角川学芸出版   ★★★★

同時通訳者の心臓には剛毛が生えていると言われる理由は? ヤギとヒツジの区別ができないのは伝統? ナポレオンの愛した料理人とは? ロシア語通訳者米原さんならではの、言語や文化、食などに関するエッセイ集。

米原さんのエッセイを読むのもなんだか久しぶりな気がします。読んでいると、米原さんがもうこの世にいらっしゃらないというのが信じられないくらい、共感したり、笑ったり、考えさせられたり・・・。

おそらく、このエッセイは、もう米原さんが病を患ってからのものが多いので、一つ一つはすごく短いのですが、読むのをやめられなくなるくらい、夢中になってよみました。それくらいおもしろいし、密度が濃かったです。

冒頭の、フランスのレストランのギャルソンの縄張り(?)の話からはじまって、名作「オリガ・モリゾヴナの反語法」「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」の裏話、東欧の人たちは「東欧」と言われるのを嫌がるとか、リラの花に関する話、一時期はやった「あけおめ&ことよろ」という言語に関する話などなど・・・。

今回、非常に興味深かったのは、米原さんのご両親について語ったものが収められていたことです。米原さんが少女時代をプラハのロシア人学校で過ごしたのは、ご両親が(特にお父様が)共産党員だったからなのですが、そのご両親について言及したものは珍しかったので、興味深かったです。

それにしても、もう米原さんがいない・・・というのは、かえすがえすも残念です。生きていて、今の世の中を鋭い舌鋒で切ってほしかったと思います。かの天才チェリスト、ロストロポーヴィチのエピソードがいくつか出てきましたが、今頃天国で再会してらっしゃるでしょうかね。ロストロさんは「スバラシイ」を連発してるのかしら(笑)

2008年7月14日 (月)

必笑小咄のテクニック

1321「必笑小咄のテクニック」米原万里    集英社新書    ★★★

 小咄の笑いの構造とは。いったいどうすれば笑いが起こるのか。自作・他作、たくさんの小咄を通して語られる、小咄のテクニック。

 久しぶりに米原さんの著作を読みました。
 小咄創作の方法論…という、けったいな本です(笑)
 米原さんらしい軽妙な語り口で、すいすい読まされてしまいますが、一方で「毒」の部分もちゃんとあります。小泉首相(当時)の物言いの欺瞞をあばくくだりが何ヵ所もあり、「そう!そうなのよ!」と、深く頷いてしまいました。
 紹介されている小咄を読んでいるだけでもおもしろいです。
 あとがきに、癌を告知されたときのこと、転移が発見されたことが書いてあり、なんとも言えない気分になりました。米原さんの新作を読むことは、もうないのですね…。

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