大崎梢

2019年2月28日 (木)

ドアを開けたら

2866「ドアを開けたら」 大崎梢 祥伝社 ★★★★

同じマンションに住む知人を訪ねたら、その人は室内で亡くなっていた。通報せず自室に戻った鶴川佑作は、その様子を見ていた高校生に脅迫される。さらに、遺体が消えて、佑作は仰天するが…。


あらすじを読むと不穏な気配がして、読むのをためらったのですが。読んでよかったです。

五十四歳で独り暮らし。仕事もやめ、マンションも売って故郷に帰ろうとしている鶴川佑作。マンションの同じ階に住んでいて、親しくしている串本の部屋を訪れて、見つけたのは彼の遺体。動転して部屋に戻った佑作のもとに、見知らぬ高校生が。佑作が串本の部屋から出てくる動画を撮ったという。彼は佑作にあることを要求してきて…。

とにかく最初は皆が悪人に思えて、眉間にしわを寄せて読んでいましたが(笑) 事件は二転三転、意外な展開をするのですが、徐々にいろんなものがほぐれていって、眉間のしわは消えていきました。

佑作も、謎の(?)高校生・絋人も、亡くなった串本も、それぞれに傷を抱えていて。でも、それだから気づくこと、できることもあって。

最後の方は、思わず涙してしまいました。とても温かい物語でした。

2017年9月15日 (金)

横濱エトランゼ

2634「横濱エトランゼ」 大崎梢   講談社   ★★★★

タウン誌編集部のアルバイトをしている千紗は高校3年生。近所に住む善正が編集長(代理)をしているので、頼み込んだのだ。千紗は仕事を通して、横浜の町の歴史や人々の思いにふれていく。

私にとって、横浜は「観光地」。ごくたまに訪れる特別な場所で、そこに住んでいる人たちがいること、町がつくられていく過程でいろんな人がそこに関わっていたことなど、考えたこともありませんでした。

千紗がバイトを始めたのは、隣の隣の家に住む8歳年上の善正のそばにいたいから。幼い頃、家庭の事情で善正の家で面倒を見てもらっていた千紗は、いつの頃からか善正に思いを寄せるように。しかし、善正は千紗の従姉・恵里香に恋をしているようで・・・。

という基本設定のもと、千紗が出会う「横浜の不思議」を、善正と解き明かしていく物語。「元町ロンリネス」「山手ラビリンス」「根岸メモりーズ」「関内キング」「馬車道セレナーデ」の5話。

かつて行った横浜を一生懸命思い出しながら読みました。

そこにあるのが当たり前のものでも、歴史があったり、関わった人の思いがある。読み進めるごとに、それがじわじわと染み渡っていく、そんな物語でした。

千紗の恋はちょっと微妙ですが、ラストがすごく好きでした。ほんと、千紗なんてまだまだスタートラインに立ったばかり。まごつくことが多くて当たり前なんですよね。

できれば、それぞれ舞台になった場所の地図がついていればうれしかったなあ。

2017年5月 6日 (土)

よっつ屋根の下

2575「よっつ屋根の下」 大崎梢   光文社   ★★★★

勤務先の病院の不祥事を告発しようとして地方に左遷された父。しかし、母は東京から離れることを頑として拒んだ。二人の子どものうち、兄は父についていき、妹は母とともに東京に残った。四人それぞれの思いは・・・。

東京で何不自由なく暮らしていた一家を突然襲った激震。父の左遷をきっかけに、家族はバラバラになってしまう。

父について銚子に引っ越した兄・史彰の視点の「海に吠える」。父・滋が、妻との出会いを回想する「君は青い花」。母・華奈が自分の生い立ちを振り返る「川と小石」。妹・麻莉花の心の揺らぎを描いた「寄り道タペストリー」。そして、「ひとつ空の下」。

四人がそれぞれに思い悩みながら過ごした数年間が、それぞれの視点で描かれます。初めは、史彰に感情移入してしまって、母の華奈が理解できませんでしたが、華奈視点の「川と小石」を読んで、それがガラリと変わりました。なんと強い呪いをかけられていたのだろう、しかも二重三重に。自分でもわからないほどに縛られていた華奈が、もしかしたら一番苦しんでいたのかもしれない。そんなふうに思えました。

四人は、彼らなりの「家族」の形を見出します。それは、他人には理解できないかもしれないけれど。でも、それが、一人ひとりが、自分らしく生きていく最良の方法なのだと、すごく納得できました。

大崎さんの書くものは好きですが、今まで読んだ中で、これが一番好きかもしれません。

2017年4月29日 (土)

本バスめぐりん。

2570「本バスめぐりん。」 大崎梢   東京創元社   ★★★★

照岡久志は、会社を定年退職後、ひょんなことから移動図書館「めぐりん」の運転手に。相棒は司書の梅園菜緒子。市内のあちこちを回る本バスでは、意外な謎に遭遇することも多くて・・・。

運転手のテルさんと、司書のウメちゃんコンビが、移動図書館が出会う謎を解く、日常の謎系ミステリ。本にまつわるミステリをいっぱい書いてる大崎さんですが、今回は移動図書館が舞台。

いいですねえ、移動図書館。私もお世話になったこと、あります。というか、あれって田舎限定のものだと思っていたんですが、そうじゃなかったのですね。

移動図書館ならではの「謎」が、無理なく設定されていて、しかも気持ちがほっこりするような話ばかりで、癒されました。

2017年2月22日 (水)

ようこそ授賞式の夕べに

2540「ようこそ授賞式の夕べに」 大崎梢   創元推理文庫   ★★★★

書店大賞授賞式当日。成風堂書店の杏子と多絵のもとに、福岡の書店員・花乃が尋ねてきた。本屋の名探偵・多絵に、書店大賞事務局に届いた不審なメッセージの謎を解いてほしいのだという。一方、明林書房の営業である智紀のもとにも同様の情報が。調べるほどに事態は混乱していく。果たして、授賞式までに謎を解くことができるのか。

副題「成風堂書店事件メモ(邂逅編)」というわけで、成風堂の杏子と多絵のコンビと、明林書房シリーズ(というか、営業マンシリーズだね)のひつじくんこと井辻智紀が、とうとうご対面です!

今回の舞台は、書店大賞の授賞式。とは言え、その授賞式にたどり着くまでが大変。杏子たちも、ひつじくんたち(おなじみの営業マンメンバーも当然総出演)も、あちこちを飛び回って、謎解きをします。

が、調べれば調べるほど謎は深まり、さらに書店大賞を妨害するかのようなメッセージが・・・。

杏子&多絵サイドと、ひつじくんサイドと、それぞれで物語が進行していくので混乱しそうなのですが、そこが絶妙なバランスでまとめられています。で、「邂逅」によって、事件は無事解決!

事件そのものも本に関わるものなのですが、書店大賞というシステムについて語られる部分が興味深かったです。モデルになってるのは言うまでもないのですが、あの賞には私もちょっと否定的な意見をもっていまして。近年は売れる本がますます売れるみたいな傾向にあるのがちょっと不満で。でも、その考えが浅はかだったのだなと、恥じ入った次第です。本を大切に思い、少しでも多くの人に本をてにとってもらいたいというのは、とても純粋な気持ちですね。試行錯誤しながら、売れないと嘆くだけでなく、できることをしようという取り組みだからこそ、ここまでメジャーな賞になったのだな、と改めて感じました。

さて、これが「邂逅編」ってことは、当然、この後もありますよね? 大崎さん、続きをお待ちしています!

2014年11月30日 (日)

クローバー・レイン

2202「クローバー・レイン」 大崎梢   ポプラ文庫   ★★★★

老舗の大手出版社の編集者・工藤彰彦は、偶然目にした原稿にほれ込み、本にしたいと強く思う。しかし、もはや旬を過ぎたような中堅作家の原稿に対して、会社は冷たい。それまでそつなく仕事をこなしてきた彰彦だが、どうしてもこの原稿だけはあきらめきれず・・・。

読んでみて、あれ?と思ったのです。なんか印象が違う・・・。単行本のときに手に取って、パラパラとめくってみて、なんとなく甘ったるい話のような気がして、読むのをやめたのでした。どうしてそう思ったんだろう??

全然、違いました。

今まで書店員や出版社の営業さんの話を書いてきた大崎さんが、今度は編集さん。作家と直接かかわって、原稿を本にする、一番ナマの部分を担当する立場の人にスポットを当てます。彰彦はまだ若手の編集者。売れっ子作家たちを引き継いで担当し、それなりにいい仕事ができています。彼が心底ほれ込んだのが、家永嘉人の原稿「シロツメクサの頃」。しかし、最近はろくに仕事もない家永の本を出すことに対して、大手の千石社は冷たい反応。どうしてもあきらめられない彰彦の奮闘が始まります。

彰彦のやっていることはかなりの無茶だったり、独りよがりだったり、そのせいで痛い目をみたりもします。でも、「いい本をつくりたい。世に出したい。読んでもらいたい」という彼の純粋な思いはうそじゃない。彰彦の周りにいる人たちも。だから、心を打つのですね。

話は、家永の家族のことや、彰彦自身の生い立ちもからめ、展開していきます。その辺がいい意味で効いてきて、ラストへとなだれこみます。なんというか・・・最後の書店のディスプレイが目に浮かぶようで、うるうるしてしまいました。

読まず嫌いにしなくて良かった!と思える一冊です。

2014年5月12日 (月)

忘れ物が届きます

2125「忘れ物が届きます」 大崎梢   光文社   ★★★★

かつての「謎」の答えが、時間の経過ののちに明らかに・・・。そんなミステリ短編集。

「沙羅の実」「君の歌」「雪の糸」「おとなりの」「野バラの庭へ」の5編。

冒頭の「沙羅の実」で、ギュッとつかまれてしまいました。あとはもう、大崎さんの紡ぐ物語をうっとりしながら読んでいました。

時間を経た今だからわかる真実・・・なかなか魅力的なミステリです。少々できすぎか?と思う部分もありましたが、概ね満足です。

2012年6月 5日 (火)

プリティが多すぎる

1873「プリティが多すぎる」 大崎梢   文藝春秋   ★★★★

編集者・新見は、老舗の千石社に入社してまる2年。「週刊千石」の使いっ走りだが、いずれ文芸畑に異動することを目標にしていた。しかし、内示はローティーン雑誌「ピピン」。見たこともない「かわいい」ものにあふれた女の子向け雑誌に、新見のやる気はまったく起こらない。「なんで俺がこんな雑誌に・・・」と思いつつ、とりあえず仕事に向かうのだが。

読み始めたのは先週からなのですが、ちょっと乗れず、少し読んではストップ・・・を繰り返していました。どうにも、主人公・新見についていけなかったのです。出版といえば文芸。ローティーン向け雑誌なんて、作る価値もない、という態度。もちろん、そういう主人公が変わっていく過程が小説なのでしょうが、なんとなく先が読めてしまう感じで。

でも、どうやらそれは、私のコンディションに原因があったようです。ちょっと無理をしすぎたのか、ダウンしてしまいました。たいしたことはなくて、休んだらだいぶ回復したのですが・・・そうして読んでみたら、スイスイ読めました。新見に対しても「あんたねえ・・・」とは思うけれど、自分の視点でしかものを見られないのは、誰しも一緒だよねえ、と。私自身に余裕がなくなっていて、主人公を受け入れられなくなっていたようです(苦笑)

で、あらためて読んでみると。新見も基本的にはまじめなやつなんです。文芸の世界が好きで、そこでいい作品を作りたいという夢があって、そのために学生時代からサークル活動もし、出版社に無事採用になり。あまりにまっすぐだから、視野が狭くなっているのですね。全く畑違いの部署に飛ばされても、文句言いながら、やっぱりまじめなんですよ。ただ、基本的に仕事に思い入れを持てずにいるので、失敗してしまう。

その最たるものが、新見の確認不足で、あるモデルの子の道を変えてしまった事件。痛い失敗だったけど、新見はそのことでようやく自分がいろんな輪の中にいることに気付きます。それは、人と人とのつながり。それで仕事は成り立っているし、世の中はそうやってまわっているのだ、と。

「ピピン」編集部に入るのは、新見のキャリアとしては回り道だったかもしれませんが、人間にはその回り道が必要なこともあるのですよね。

2011年1月 4日 (火)

背表紙は歌う

1643「背表紙は歌う」大崎梢   東京創元社   ★★★★

有能な営業マン・吉野さんの後を引き継いだ井辻智紀。「中の中」どころの出版社の営業として、日々書店を駆け回っている。ある日、取次の会社を訪れた際、初対面の男に面と向かって言われた言葉。「売れない本、ちまちま作るんじゃねーよ」・・・ショックを受けた智紀は、営業仲間の真柴たちに愚痴をこぼすが・・・。

もったいないけど、続けて読んでしまいます(図書館の返却期限が・・・)。明林書房の営業マン・井辻くんが奮闘するシリーズ第2弾です。今回も、連作短編になっています。

謎そのものはそれほど複雑ではないけれど、本の出版や書店経営、賞レースに関わる謎で、本好きの人間には堪えられない楽しさがあります。もっとも、楽しい話というよりは、ヒリヒリするような部分もあるのですが、後味が悪くないので大丈夫。

本を作る、本を売る・・・当たり前のように行われていることの背後に、これだけの人の思いと苦労があるのだということが伝わってきます。これは、本に限ったことではないのでしょうね。

最終話にはまたしても「彼女」が絡んできます。彼女と井辻君が顔を会わせる日は来るのでしょうか。なんだかすごく楽しみです。

2011年1月 3日 (月)

平台がおまちかね

1642「平台がおまちかね」大崎梢   東京創元社   ★★★★

出版社のアルバイトを経て入社した井辻智紀。配属されたのは営業部で、書店まわりをする毎日。まだまだ新米で、書店員さんたちの信頼を得るには至らないけれど、先輩や他社の営業さんたちに鍛えられながら、少しずつ成長していく。それにしても、行く先々で、なんだか奇妙な事件が起こり・・・。

「配達あかずきん」シリーズは書店員さんが主役でしたが、こちらは出版社の営業さんが主役の連作短編ミステリ。本が大好きなんだけど、編集ではなく営業だから入社したというちょっと変わり種の智紀が探偵役です。

へえ、営業さんってこんなことしてるんだ~と思いながら、興味深く読みました。「配達~」にも営業さんのことはちょっと出てきますが、やはり営業サイドから描かれると、また見えてくるものが違います。「本を売る」ということにおいては、書店だろうが出版社だろうが同じだと思っていましたが、それぞれの関わり方がこんなふうになっているんですね。

5編の短編、どれも好きでしたが、やはり表題作がよかったかな。智紀の先輩・吉野さんの「失敗」は、身につまされました。「ときめきのポップスター」のポップコンテストはおもしろそうですね。営業さんたちに他社の本を推薦してもらう、というもの。こういうの、やってほしい! 今は書店でもポップが当たり前になってきましたが、何というか、魂のこもったポップを見ると、その本をつい手に取ってしまいます。逆に、ありきたりなポップだと、かえってその本への興味も薄れたりして・・・。

合間に挟んでいる智紀の日誌(?)が、これまたおもしろかったです。まさに、一般人には知られざる世界で。

「配達~」とリンクしていると聞いてましたが、ありましたね。ああ、これか・・・とニマニマしちゃいました。

「配達~」を文庫買いしてるので、これも文庫落ちを待つつもりでしたが、図書館で「背表紙は歌う」と並んでいるのを見たら、我慢できずに借りてきちゃいました。でも、借りてよかった。次は、「背表紙~」いきます!

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