若竹七海

2017年2月 4日 (土)

さよならの手口

2533「さよならの手口」 若竹七海   文春文庫   ★★★★

四十過ぎの女探偵・葉村晶(ただし、現在休業中)は、ミステリ専門店でバイト中。古本の引き取り先で、白骨死体を発見して負傷、入院。その病院で、同室の元女優・芦原吹雪から二十年前に家出した娘の捜索を依頼される。余命いくばくもない吹雪のために依頼を引き受けた晶だが、意外な事実が次々と浮かび上がり・・・。

葉村晶シリーズの「静かな炎天」は、静かなブームらしいですね。私も去年のマイベストにランクインさせましたが。その「静かな炎天」の前の物語が、これ。長谷川探偵事務所をやめた晶が、どうして「白熊探偵社」の探偵になったのかという物語。

晶は、探偵としてはとっても有能。けれど、とっても不運。今回だって、想像するだけで恐ろしいような目に何度も遭ってます。それでも探偵をやめない晶って、とってもタフ。

しかも、今回は、事件が二重にも三重にも絡まって、こっちの事件の合間に、別の事件が展開して、さらにこの事件つながりと思っていたら、実は・・・なんていう、複雑な構造。でも、不思議なくらい、読者は頭が混乱しないのです。それはきっと、晶の視点がぶれないから。「今は、これ!」という、状況の取捨選択がはっきりしている。だから、読んでいて心地よいのです。

事件はやりきれないものだし、晶は話が進むにつれて満身創痍という状態になるし、決して笑える状況ではないのですが。どことなくユーモラスな雰囲気が漂うのも、好きなところです。晶が悲壮感漂わせないのがいいですね。実にたくましい。もちろん、彼女だって心折れそうになったりもするのだけど。

ちなみに、これから葉村晶シリーズを読んでみたいなあと思われる方には、「静かな炎天」から読まれることをおすすめします。短編集だし、読みやすい。それからこの「さよならの手口」や、もっと若い頃の晶が登場する作品にさかのぼる方がとっつきやすいと思います。

2016年11月 5日 (土)

暗い越流

2486「暗い越流」 若竹七海   光文社文庫   ★★★★

死刑囚に届いた。その差出人を調べることになった「私」は、意外な展開に・・・。

推理作家協会賞を受賞した「暗い越流」、葉村晶シリーズの「蠅男」「道楽者の金庫」、ノンシリーズの「幸せの家」「狂酔」の5編を収録した短編集。

やはり、表題作が出色の出来。仕掛け方がいかにも若竹さんらしくて、うまいなあ、と。さっくり描いているようなところが伏線になっていて、やられた!となるのです。「幸せの家」も、「くらし」に対する価値観がこれでもかと描かれていくところが、こちらの予想とは違うところに着地して、驚かされました。

葉村晶シリーズは安定の読み応えです。特に、「道楽者の~」は、晶が古本屋のバイトをすることになった経緯が描かれています。

解説は近藤史恵さん。これまたおもしろかったです。

2016年10月 1日 (土)

静かな炎天

2474「静かな炎天」 若竹七海   文春文庫   ★★★★

女探偵・葉村晶は、古本屋でアルバイトをしながら、「白熊探偵社」の唯一の調査員をしている。そんな彼女がたまたま遭遇した大規模な自動車事故。その現場で晶が見た人物とは。

久しぶりの葉村晶シリーズです。今回は、「青い影」「静かな炎天」「熱海ブライトン・ロック」「副島さんは言っている」「血の凶作」「聖夜プラス1」の6作。7月から12月までの半年間、晶が依頼された事件を追います。

私としては、このシリーズはハードボイルドだと思っているのですが、どうなんでしょう。だって、晶はカッコよくて(四十肩だけど)、タフで、孤独で、自立してて。ひどい目にあうという、ハードボイルド探偵の条件も満たしているし。でも、どこかユーモラスな感じもするのですけれどね。

まるで事件に振り回されるようにして調査にあたる晶ですが、思わぬところから真実にたどりつく、その展開の妙がたまりません。

それから、晶の雇い主・富山さんとの掛け合いもおもしろい。

というところで、はたと気づいたのですが、私、この前作の「さよならの手口」を読んでないことに気づきました。買いに行かなきゃ。やっぱりこのシリーズは毒もあるけれど、好きなんですね。

2009年4月27日 (月)

プラスマイナスゼロ

1391「プラスマイナスゼロ」若竹七海    ジャイブ    ★★★

才色兼備品行方正な正統派のお嬢様テンコ。成績最低品行下劣・極悪腕力娘の異名をもつユーリ。どこをとっても全国平均値のわたしことミサキ。一緒にいるのが不思議なくらいバラバラな個性をもつ三人が、なぜか次々と事件に巻き込まれ…。

久しぶりの若竹さんです。
葉崎を舞台にしたコージー・ミステリなんだけど、ずいぶん若い感じだなあと思ったら、ピュアフル文庫のアンソロジーに掲載されたものでした。なるほど。
若竹ミステリの毒の部分は影を潜め、ライトタッチのミステリに徹しています。そのぶん、やや物足りない面も。
テンコの呆れるほどの運のなさには笑ってしまいましたが。
一番面白かったのは、最終話の、三人がつるむようになったきっかけでした。

2006年2月19日 (日)

心のなかの冷たい何か

942「心のなかの冷たい何か」若竹七海   創元推理文庫   ★★★

 若竹七海が旅先で知り合った女性・一ノ瀬妙子。一度会っただけの彼女から、クリスマス・イヴの誘いが。そして、妙子は自殺を図った。七海に「手記」を送りつけて。
 友人として、妙子に何が起こったのかを調べようと決心した七海。素人探偵の行く手に待ち構えていた真実とは?

 若竹七海の「若竹七海」主人公の(ああ、ややこしい)ミステリ第2作目。デビュー作「僕のミステリな日常」の続編にあたるこの物語、文庫化まで15年かかってます。ファンとしては「待望の」文庫化。若竹さんもあとがきに書いていますが、これが刊行されてから、あっというまに現実が虚構を追い越してしまい、これは時代に置いていかれた物語になってしまいました。でも、やっぱり文庫になってくれて、うれしい。やっと読めました。
 ただ、若竹七海が、人の悪意を描くのに長けた作家だということを、またしても忘れていました。ああ、読んでいてしんどかった・・・。
 若竹さんらしいトリックが仕掛けてあって、覚悟していても「あ!」ってところもありました。それにしても、暗い話です。これがバブルの頃に書かれたなんて、嘘のような話です(もっとも、若竹さんは確信犯だったらしいけど)。
 主人公・七海のヒリヒリするような鋭敏さに、ちょっと若さを感じてしまうあたり、私も年をとったなと苦笑しつつ。
 あ、「スクランブル」のラビが登場するのはうれしかったです。

2005年3月 2日 (水)

死んでも治らない

755「死んでも治らない」若竹七海   光文社文庫   ★★★★

 元警官の大道寺圭は、退職後に犯罪者のまぬけなエピソードをつづった本「死んでも治らない」を発表した。ところが、それがきっかけで、まぬけな犯罪者たちにつきまとわれることになり・・・。

 若竹さんお得意の連作短編。長編もいいですが、やはりこういう連作短編が、若竹さんは一番です。
 「大道寺圭最後の事件」というのが、各短編の間にはさまっていて、独立した話だったはずが最後には・・・という構成。何かあるとわかっていても、最後まで読むと「おお、そうきましたか!」と。
 また、短編一つ一つも読ませます。じゅうぶん、おもしろいです。
 そしてまた、若竹ファンにはうれしいことに、定番キャラ彦坂夏見も健在(?)です。
 読みやすく、ちょっと軽めのタッチで描かれているけれど、若竹さんらしくひんやりするような読後感も。
 とにかく、若竹ファンには堪えられない一冊ではないでしょうか。

yukko > まゆさん、私も「どんな仕掛け?」と思いつつ読み進めたのですが、ラストで驚きました。大道寺の悲哀を思いながら、短編をパラパラ振り返り、改めて「そうか、こういう気分で・・・」と悲しくなりました。 (2005/03/03 11:06)
れんれん > かなり良さそうですね。大分前にまゆさんにお勧めいただいた「サンタクロースのせいにしよう」をずっと積読していましたら、息子が今読み始め「面白い、面白い」を連発しています。ありがとうございました。次は「死んでも治らない」を勧めてみます。私自身も早く若竹さん読みたいです♪ (2005/03/04 02:50)
まゆ > yukkoさん、仕掛けがあるのはわかっていても、この辺が伏線じゃないかと思っていても、最後まで読んで「ああ!」と思うんですよね。やりきれない思いが残ってつらいですが・・・連作短編としての構成は見事でした。 (2005/03/04 19:38)
まゆ > れんれんさん、息子さんが「サンタクロース~」を!うれしいですね~。若竹さんの話は読みやすいけれど、けっこう暗い事件が多いので、ちょっとひんやりして気持ちになっちゃいますが。「スクランブル」とか「ぼくのミステリな日常」もおすすめですよ。 (2005/03/04 19:40)
さくら > 読み終わってから改めて「最後の事件」だけ読み返してしまいました。ちょっと哀しいストーリーですが、こういう絡めかた巧いですね。 (2005/03/05 10:20)
まゆ > さくらさん、若竹さんのって、悲しくてやりきれない事件が多いですよね。でも、ストーリーの組み立てはほんとにうまいなあ、と。こういう連作短編、もっと書いてほしいです。 (2005/03/05 21:44)

2004年9月20日 (月)

悪いうさぎ

606「悪いうさぎ」若竹七海   文春文庫   ★★★★

 葉村晶は家出少女の保護を依頼された。その少女・ミチルの友人たちが次々に行方不明に。うち一人は死体で発見された。彼女たちをつなぐ「ゲーム」とはいったい? 調査を続ける晶は、罠に落ちる。

 葉村晶シリーズの長編。
 若竹さんの作品は、どちらかというと読んでてちょっと暗い気分になってしまいます。人の悪意とか、ひんやりする心持ちを描くことが多いので。
 これもけっこうつらかったです。ミチルの置かれた状況とか、晶が決して人に心を許さないところとか、「うさぎ」が何なのか、とか。
 後味は決してよくないのですが、サスペンス・ミステリとしてはすっごく楽しめました。ひきこまれてしまって、一気によんでしまいました。
 ただ、晶の生き方はなんとも痛々しいです。彼女が安らげる時が来るとよいのだけれど。

さくら > 嫌な事件ですね~今回の晶の監禁状態も読んでてかなり嫌な気分になりましたし。シリーズの一番最初の事件を早く読みたいんですけど、なかなか手にとれずにいます。 (2004/09/21 09:22)
まゆ > このシリーズは若竹さんの中でもひときわシビアというか・・・晶の性格と、彼女の生い立ちに象徴されるように、なんとも重いですよね。でも、晶のキャラは自分に近いものを感じるので、ついつい読んじゃいます。 (2004/09/21 16:22)

2003年11月24日 (月)

クール・キャンデー

382「クール・キャンデー」若竹七海   祥伝社文庫   ★★★

 夏休みと誕生日の前日、最高にハッピーな日になるはずのその日が、渚にとっては人生最悪の日になった。ストーカーに襲われて入院していた兄嫁が死に、そのストーカーも変死。しかも、兄の良輔が殺人犯として疑われている。さらに親友のサチは痴漢にあうし、同級生の忍とは気まずくなるし。渚は人生最悪のシーズンをのりきれるのか?

 再読です。なにもコタツに入って真夏の物語を読まなくても・・・と思ったのですが、ついつい読んじゃいました。
 祥伝社が文庫書下ろしでドドッと出版した一連の小説群は、「中編」というのが仇となって、なんだか物足りないような中途半端なものが多かったのですが、その中でこれは「おもしろい!」と思った一冊でした。
 まず、若竹さんらしい語り口とテンポのよさ。若竹さんの描く登場人物は、女性でも「~だわ」なんて言ったりしない。私たちが日常使っている言葉で会話している。そういうところが好きなのです。
 それから、ミステリには不可欠な謎解きのおもしろさ。短いわりにはいろんな謎が収められていて、それが終盤にスルスルと解明されます。それも無理がなくてよいです。
 そして、ラストの「ゲッ」という仕掛け。初読のときは、ラストの一行でゾッとしたものです。これを是とするか非とするかはそれぞれの好みだと思いますが。
 若竹さんは、人の「悪意」を描くのに長けた作家さんだと思います。だから、読んだ後は「う~ん」と唸ってしまうのですが、また読みたくなるのです。それは、悪意だけでなく、人の優しさや哀しさも共に描き出せる稀有な作家さんだからではないでしょうか。

あさこ > たしかに祥伝社の書下ろしって物足りないものが多かったし、印象も薄いのですが、この本のラストは忘れられません!すごいですよね~!!かなりびっくりしました。私も若竹さんの描く元気一杯の女の子が大好きです! (2003/11/25 23:55)
nine > この本のラストは本当に「ゲッ!」というのがぴったりですよね。まさかこんなラストが待ってるとは思わなかったので、のけぞってしまいました。若竹さんって、長編を書くよりこれくらいの長さの短編というか中編をかかれるほうがうまいと思うので、祥伝社のこの企画にあってるという気がします。 (2003/11/26 00:08)
まゆ > やっぱり、このラストは衝撃的ですよね。
あさこさん、若竹さんの描く女の子っていいですよね。「スクランブル」とか。すごく好きですね。サバサバしてて。
nineさん、若竹さんは連作短編が抜群にうまい方だと思います。たしかにそういう意味では、これくらいの長さでもよかったのかもしれませんね。 (2003/11/26 00:40)

2003年9月15日 (月)

古書店アゼリアの死体

331「古書店アゼリアの死体」若竹七海   光文社文庫   ★★★

勤めていた小さな編集部が倒産。気晴らしに泊まったホテルでは死人まで出る火災にあい、我が身の不運を友人に嘆いたら、怪しげな宗教に勧誘される。相澤真琴は葉崎の海に「バッカヤロー!」と叫ぶためにやってきた。ところがそこで死体を発見してしまい、葉崎市を牛耳る前田家の騒動に巻き込まれる。

 海沿いの町・葉崎を舞台にしたコージー・ミステリ第2弾。前作「ヴィラ・マグノリアの殺人」とも、ストーリーに影響がない程度にリンクしてます。
 前作よりこちらの方がおもしろかったです。登場人物、特に「古書アゼリア」店主の紅子のキャラクターがなかなか魅力的なのと、血縁が絡んだミステリというのが私好みだったからでしょう。といっても、これは全くどろどろしたところがありません。
 ただ、最後にちょっとだけひんやりしたものを感じましたけど。その辺は若竹さんらしいなあ、と。
 それにしても、ロマンス小説についてのうんちくには圧倒されると共に、笑ってしまいました。私は全く読まない分野なので。しかし、途中で出てくる「ゴシック小説とは、若い娘が屋敷を手に入れる話である」というエピグラムは、実は深いものがありましたね。これ以上はネタバレになるので自粛。
 あんまり肩の凝らないミステリを読みたい方にはおすすめです。

しおり > 私も、『ヴィラ・マグノリア~』より、こちらのほうが好みでした。この本を読んで、ちょっとロマンス小説のサイトを巡ってみたりしたんですけど、なかなか奥の深い世界みたいですね……。 (2003/09/15 21:27)
あさこ > 『ヴィラ・マグノリア~』は未読なのですが、この本とリンクしているんですか?あわわ、読む順番を間違えてしまいました;紅子さんは魅力的ですよね。この本を読んで、ロマンス小説について母に質問してしまいました(笑) (2003/09/15 22:38)
まゆ > しおりさん、やっぱり「アゼリア」の方がおもしろいですよね。よかった、お仲間がいて。
あさこさん、こっちを先に読んでも、全然支障はありません。大丈夫ですよ。
それにしても、ロマンス小説って奥が深いジャンルなのですね。しおりさんとあさこさん、それぞれの反応が興味深かったです(笑) (2003/09/16 00:08)

2003年9月 4日 (木)

プレゼント

320「プレゼント」若竹七海   中公文庫   ★★★

職を転々としているフリーターの葉村晶。ピンクの子供用自転車で現場に現れる小林警部補。二人がそれぞれに巻き込まれる8つの事件。

 葉村晶シリーズの第1作。晶サイドと小林サイドでストーリーが展開していって最後は・・・という構成の連作短編。
 軽めのハードボイルドタッチのこのシリーズ、なかなかおもしろいです。先に「依頼人は死んだ」を読んだので、順番が逆になってしまいましたが。晶と姉の珠洲との因縁がわかって、すっきりしました。
 私としては晶サイドの話がおもしろく、小林サイドはまあまあ・・・という感じ。もっとも、最終話の「トラブル・メイカー」はおもしろかったです。どこが、どう、というのを詳しく書いちゃうとネタバレしちゃうので自粛。
 若竹さんの連作短編は、今までいずれもはずれなしです。伏線の張り方が巧みで、しかも、バラバラに見えていたものが一点に集約されていく構成のみごとさといったら・・・。

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