若竹七海

2022年4月20日 (水)

殺人鬼がもう一人

3244「殺人鬼がもう一人」 若竹七海   光文社文庫   ★★★★

都心まで一時間半のベッドタウン・辛夷ヶ丘。のどかな町で起こる不穏な事件の捜査に駆り出されたのは、辛夷ヶ丘警察署生活安全課の砂井三琴。しかし、そこにはただ者ではない人々が・・・。

 

「ゴブリンシャークの目」「丘の上の死神」「黒い袖」「きれいごとじゃない」「葬儀の裏で」「殺人鬼がもう一人」の6話。辛夷ヶ丘を舞台にしたミステリ連作短編集。

若竹七海さんの持ち味は、軽いタッチで、人の悪意や怖さをサラリと書いてしまえるところだと思っていて。それが実に上手く結晶したのが、「葉村晶」シリーズだと勝手に思っています。そして、この「殺人鬼がもう一人」は、若竹さんのダークな部分を煮詰めたような短編集にしたような(苦笑) ものすごく読みやすいのですけれどね。なかなか凄いものがあります。全員、悪人?

「きれいごとじゃない」と「葬儀の裏で」は再読ですが、やはりこの2作が印象的でした。表題作は、もう何と言っていいか・・・。怖すぎました。

 

2021年11月 6日 (土)

パラダイス・ガーデンの喪失

3197「パラダイス・ガーデンの喪失」 若竹七海   光文社   ★★★★

葉崎市の崖の上にある個人庭園「パラダイス・ガーデン」で見つかった身元不明の自殺死体。発見者のオーナ-・兵藤房子は、自殺幇助を疑われ、困惑する。死者の身元を調べる葉崎署の二村貴美子警部補には、奇妙な人たちのつながりが次々見えて来て・・・。多くの人を巻き込んだ「事件」の真相とは。

 

「葉崎市」もの、10年ぶりだそうです。私も全て読んでいるわけではないのですが、たしかに懐かしかったです。

今回は「パッチワーク」がモチーフになっています。事件もそれぞれバラバラに見えるピースが、徐々に形をなしてきて、最後に見えてくる「模様」は・・・という構成。最初は断片的にしか見えないし、登場人物も多くて、「どこがどうつながるんだ?」なんて考えながら読んでいて、けっこう疲れました(苦笑)

あれだけ錯綜していたのが、最後には収まるべきところにピタッと収まって。お見事!の一言です。

軽いタッチで気軽に読めますが、どこかヒンヤリしたものを忍ばせる、若竹ミステリらしい一品です。

2020年3月21日 (土)

悪いうさぎ

「悪いうさぎ」  若竹七海      文藝春秋      ★★★★

再読です。

ドラマ「ハムラアキラ」では、「悪いうさぎ」のエピソードは三回かけて構成されていました。なかなか上手く作ったなあと思った一方、あれ?こんなもんだった?という印象が。

小説を読んだのはだいぶ前で、詳細は忘れてしまったけれど、もっとこう胸糞悪いというか、すごく嫌な事件で、晶のダメージも大きかった気が…?  

どうにも気になったので、読み直しました。

で、納得。小説は、二重三重に晶がトラブルに巻き込まれていて(同業の世良の件、友人・相場みのりの恋人の件)、さらに監禁されたことで晶はかなりの心的ダメージを被っています。これは、凄まじかった。

でも、この辺はテレビでやるのは厳しいんだろうな、というのも見当がつきました。事件の本筋以外は煩雑になりすぎるし。…と考えると、やはりよくアレンジされたドラマだったなあと思うわけです。

しかし、この事件で晶はそれまでの誇りとか、自負みたいなものを粉々にされるわけですが…そのくだりは容赦ないので、ドラマだけでなく、こちらも読んでいただきたいです。

2020年3月 7日 (土)

依頼人は死んだ

「依頼人は死んだ」  若竹七海      文藝春秋      ★★★★

再読です。

ドラマ化された「ハムラアキラ」を見ていたら、いろいろ気になったもので。初読は2003年でした。

「濃紺の悪魔」「詩人の死」「たぶん、暑かったから」「鉄格子の女」「アヴェ・マリア」「依頼人は死んだ」「女探偵の夏休み」「わたしの調査に手加減はない」「都合のいい地獄」の9編から成る連作短編集。

この短編集からは、「わたしの調査に~」と「濃紺の悪魔」がドラマ化されましたが、どちらも私の記憶とはちょっと違ってて。

確かめたら、「わたしの調査に~」は、今の時代風にアレンジされて、犯人(?)も変わっていました。「濃紺の悪魔」は、その後日談「都合のいい地獄」とミックスされて、原作の不穏な空気の描き方と、ドラマらしい決着の付け方が絶妙だとわかりました。

とにかく、ドラマは予想以上に原作の良さを活かしつつ、ドラマとしての表現に挑んでいる良作でした。ドラマはちょっと晶がかっこよすぎるかな?と思ってましたが、若き日の晶はあんな感じでしたね。シシド・カフカさん、はまってました。

この短編集では表題作に一番「あっ」と言わされたのですが、ドラマでは難しいですかね。やれそうな気もしますが。

ドラマ、シーズン2を是非お願いしたいです。そして、シリーズも全て読み返したくなって困ってます(苦笑)

2019年12月14日 (土)

不穏な眠り

2980「不穏な眠り」      若竹七海      文春文庫      ★★★★

古書店のアルバイトにして、白熊探偵社に社属する唯一の調査員・葉村晶。彼女のもとに舞い込む依頼はなぜかしら不穏なものになっていく。「不運すぎる女探偵」の事件簿。


毎回、期待を裏切らない質の高さです。

「水沫隠れの日々」「新春のラビリンス」「逃げだした時刻表」「不穏な眠り」の4話。

古書店のブックフェアに借りてきた時刻表が盗まれたことに端を発し、事件が二転三転する「逃げだした時刻表」は見事でした。

冒頭の「水沫隠れの日々」はなんともやりきれない結末で…。ユーモラスではあるのだけど、人の悪意やどうしようもなさも、リアルに描くのがこのシリーズなので。

しかし、葉村晶のかっこいいけどかっこ悪い、絶妙のバランス感覚が大好きです。

初版限定付録のシリーズガイドもよかったです。ドラマ化されるし、そちらも楽しみ。

2019年11月21日 (木)

ザ・ベストミステリーズ2017

2972「ザ・ベストミステリーズ2017」 日本推理作家協会・編   講談社   ★★★★

薬丸岳「黄昏」(日本推理作家協会賞短編部門受賞作)、池田久輝「影」、井上真偽「言の葉の子ら」、歌野晶午「陰獣幻戯」、大崎梢「都忘れの理由」、今野敏「みぎわ」、白河三兎「旅は道連れ世は情け」、曽根圭介「留守番」、似鳥鶏「鼠でも天才でもなく」、南杏子「ロングターム・サバイバー」、若竹七海「きれいごとじゃない」

 

「十二国記」の後遺症で、長編を読む気力がなく・・・。こういうときは、短編ミステリがちょうどいいです。

今回もなかなかの読み応えでした。薬丸岳「黄昏」や、大崎梢「都忘れの理由」は、派手さはないけれどいい話だったし、井上真偽「言の葉の子ら」と白河三兎「旅は道連れ~」は、最後に「うわっ!」となりました(苦笑)

今野敏「みぎわ」は警察小説ですが、最近こういうのを読んでなかったので、新鮮でした。

南杏子さんは初読みでした。余命宣告された大学病院の名誉教授は、一切の治療を拒否。しかし、ある日から彼は生命維持に必要な措置を希望し、弱った体であちこちに出かけていくように。教授が出かける目的は。かたくなに治療を拒んでいた彼の気持ちを変えたものとは。終末期医療に携わる医師でもある著者が描く「真実」には思わず涙が・・・。

そして、ラストの若竹七海には、またしても頭をぐわんと殴られたような衝撃を受けました。さすが、です。まさかそこに着地するとは思いませんでした。

2018年8月16日 (木)

錆びた滑車

2783「錆びた滑車」 若竹七海   文春文庫   ★★★★

女探偵・葉村晶は、尾行していた石和梅子と青沼ミツエの喧嘩に巻き込まれ、怪我をする。それがきっかけで、ミツエの所有するアパートに住むことに。ミツエの孫のヒロトは、交通事故で大怪我を負い、記憶の一部を失ったという。ヒロトに、なぜ自分が事故現場にいたのか調べてほしいと頼まれた晶だったが・・・。

「不運すぎるタフな女探偵」葉村晶シリーズの新作です。

ハードボイルド苦手な私ですが、この葉村晶は大好きです。今回も、これでもかと「不運」な目に遭う晶ですが、そんな自分を哀れまない彼女はかっこいい。もちろん、痛い思いはするし、傷つくのですが・・・。

たまたま受けた下請けの調査(老女の尾行)が、思わぬ展開を見せ、複雑な事件の渦中に巻き込まれていく晶。けっこう話は入り組んでいて、枝葉の部分かなと思っていたのが、あとで本筋に絡んできたり、いい意味で予想を裏切られることの連続でした。

記憶を失った青年・ヒロトの依頼は、思わぬ真相に晶と読者を導きます。それは、けっこう苦い真実で・・・。すべてを読み終わってから、冒頭の晶のモノローグを読むと、泣きたいような気分にさせられます。

とにかく、話が際限なく広がっていくようでいて、終盤、すべてがピシッとはまって真実が明らかになっていく快感は、ミステリの醍醐味というやつでしょう。

初版限定でシリーズガイドがついています。おすすめですよ。

2018年2月19日 (月)

御子柴くんと遠距離バディ

2714「御子柴くんと遠距離バディ」 若竹七海   文春文庫   ★★★★

長野県警から警視庁に出向して三年。仕事も、上司たちからの無茶な要求も、それなりに上手くさばけるようになった御子柴。しかし、彼はなんとなくやる気が出ない毎日を送っていた。そんな矢先、御子柴が巻き込まれた事件が、彼の運命を大きく変えていく。

「御子柴くんの甘味と捜査」の続編。

「御子柴くんの災難」「杏の里に来た男」「火の国から来た男」「御子柴くんと春の訪れ」「被害者を捜しに来た男」「遠距離バディ」の6話。

いきなり「災難」に見舞われる御子柴くん。かの不運な女探偵・葉村晶と同じくらいついてない御子柴くんですが、それをきっかけに彼の人生は思わぬ方向に。そして、彼には頼りになるバディが・・・。

若竹さん描くミステリは、口当たりがよさそうでも、人間の悪意を容赦なく描いていて、私はそこが好きなのです。このシリーズも、そう。その辺のさじ加減が絶妙です。

しかし、作者が仕掛けたトラップに、見事にはまりまくった気が・・・。「遠距離バディ」の冒頭なんて、ドキドキしちゃいましたよ。

シリーズ続編、強く希望します。

2018年1月27日 (土)

御子柴くんの甘味と捜査

2705「御子柴くんの甘味と捜査」 若竹七海   中公文庫   ★★★★

不本意ながら、長野県警から警視庁捜査共助課へ出向させられた御子柴。上司や同僚から要求されるスイーツを入手するのに東奔西走する毎日だが、事件も待ってはくれず・・・。

「プレゼント」に登場した御子柴刑事が主役のスイーツ・ミステリ・・・って、「プレゼント」なんて何年前だと思ってんの?と、この文庫を見た瞬間、心の中でツッコミました。「プレゼント」はたしかに読んだけど、あれはたしか葉村晶が登場してた。御子柴くんなんて出てきたっけ? 全然記憶にないんだけど? 

とりあえず読んでみたら思い出すかも・・・と、読み始めたら、これがおもしろい。「哀愁のくるみ餅事件」「根こそぎの酒饅頭事件」「不審なプリン事件」「忘れじの信州味噌ピッツァ事件」「謀略のあめせんべい事件」の5編いずれも、警視庁に出向させられた御子柴くんが、お菓子調達の合間に(?)捜査にあたった事件を描いたもの。語り口は軽やかで、若竹さんらしいコージー・ミステリと思いきや、起こる事件はかなり重いです・・・。

御子柴くんは捜査にあたるものの、真の探偵役は、長野県警で一緒に捜査にあたっていた先輩・小林警部補。彼は、御子柴くんから話を聞いただけで、誰も気づかなかった事件の「真相」を見抜いてしまう。

あとがきによると、このミステリは「小林警部補の連作短編を」という編集者の依頼でスタートしたとのこと。しかし、作者は小林警部補が「プレゼント」の登場人物だとの記憶はあったものの、設定は全く覚えていなく、自作を読み返して、御子柴くんという相棒がいたことを思い出した由。

なんだ、「『プレゼント』の御子柴」といわれても、ピンと来なくて当然じゃないか!

とりあえず、どうやらこのシリーズ好評だったらしく、第2弾が出たので、今度はそちらを購入しようと思います。

2017年2月 4日 (土)

さよならの手口

2533「さよならの手口」 若竹七海   文春文庫   ★★★★

四十過ぎの女探偵・葉村晶(ただし、現在休業中)は、ミステリ専門店でバイト中。古本の引き取り先で、白骨死体を発見して負傷、入院。その病院で、同室の元女優・芦原吹雪から二十年前に家出した娘の捜索を依頼される。余命いくばくもない吹雪のために依頼を引き受けた晶だが、意外な事実が次々と浮かび上がり・・・。

葉村晶シリーズの「静かな炎天」は、静かなブームらしいですね。私も去年のマイベストにランクインさせましたが。その「静かな炎天」の前の物語が、これ。長谷川探偵事務所をやめた晶が、どうして「白熊探偵社」の探偵になったのかという物語。

晶は、探偵としてはとっても有能。けれど、とっても不運。今回だって、想像するだけで恐ろしいような目に何度も遭ってます。それでも探偵をやめない晶って、とってもタフ。

しかも、今回は、事件が二重にも三重にも絡まって、こっちの事件の合間に、別の事件が展開して、さらにこの事件つながりと思っていたら、実は・・・なんていう、複雑な構造。でも、不思議なくらい、読者は頭が混乱しないのです。それはきっと、晶の視点がぶれないから。「今は、これ!」という、状況の取捨選択がはっきりしている。だから、読んでいて心地よいのです。

事件はやりきれないものだし、晶は話が進むにつれて満身創痍という状態になるし、決して笑える状況ではないのですが。どことなくユーモラスな雰囲気が漂うのも、好きなところです。晶が悲壮感漂わせないのがいいですね。実にたくましい。もちろん、彼女だって心折れそうになったりもするのだけど。

ちなみに、これから葉村晶シリーズを読んでみたいなあと思われる方には、「静かな炎天」から読まれることをおすすめします。短編集だし、読みやすい。それからこの「さよならの手口」や、もっと若い頃の晶が登場する作品にさかのぼる方がとっつきやすいと思います。

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