浅田次郎

2020年6月25日 (木)

大名倒産

3055「大名倒産(上・下)」 浅田次郎      文藝春秋      ★★★

丹生山松平家の当主となった小四郎。しかし、隠居した父は藩が抱えた膨大な借財をもて余し、藩の倒産を目論んでいた。父の企みを阻止しようと小四郎は奔走するが…。


浅田さんの「語り」は、わかっていてもついつい引き込まれてしまう。今までは講談か落語のように思っていましたが、むしろ寅さんの啖呵売みたいな口上に思えてきました(苦笑)  無茶苦茶なんだけど、おもしろいのです。

さて、松平家の当主になった小四郎ですが、足軽の子として育てられ、ある日突然城主の子として認知されたという生い立ち。しかも、兄が三人もいたのに、急死したり、病弱だったりして、急遽小四郎にお鉢が回ってきたという。父は藩を倒産させることしか頭になく、小四郎にはその際に責任をとらせようと。つまり、小四郎は切腹要因。

あんまりな話ですが、ここから小四郎の奮闘が始まるわけです。それ自体はおもしろいのですが、あまりに登場人物が多すぎて、一つ一つのエピソードが散漫になってしまったような。特に下巻は小四郎の存在感が希薄でした。浅田さん、ちょっと風呂敷広げすぎました?

ただ、浅田次郎がずっと描いてきた「人の幸せ」に対する思いは、やはり心を打つのでした。

2020年2月 2日 (日)

天子蒙塵 第四巻

2999「天子蒙塵  第四巻」  浅田次郎      講談社      ★★★

張作霖の息子・張学良は帰国し、蒋介石のもとへ向かう。一方、満州国皇帝の即位式を間近に控えた溥儀は、妻・婉容から驚くべき事実を告げられる。


愛親覚羅溥儀と張学良。この二人を核として展開してきた「蒼穹の昴」シリーズ第五部、最終巻です。

もっとも、二人以外にもさまざまな人物によるストーリーが交錯して(満州、中国、日本それぞれ)、もう何がなんだか(苦笑)  これ、ちゃんと収拾つくのか?と思っていたら、何も収束せず第五部は終わってしまいました。マジか…まだ続くんですね、このシリーズ…。

「蒼穹の昴」以来、ずっと読み続けています。歴史的にどこにたどり着くのかはわかっていますが、それを通して何を描くのか知りたくて。だから、意地でも読もうと決めていますが…終わりますよね、いつか(ちょっと不安になってきた)。

このシリーズは、「雷」「雲」「玲」のきょうだいたちの物語でもあります。「没法子(メイファーヅ)=どうしようもない」に逆らって生きてきた彼らは、どこに行き着くのでしょうか。


2019年9月27日 (金)

天子蒙塵 第三巻

2950「天子蒙塵 第三巻」 浅田次郎   講談社   ★★★

清国最後の皇帝・溥儀は満州へ。張作霖の長男・張学良は欧州へ。二人の「運命の子」は、それぞれの道を歩むが、時代の流れは、彼らを否応なしに押し流していく。中原の地を統べる者の証・竜玉は、果たして誰の手に渡るべきなのか。

 

しばらく間があいてしまいました。

「蒼穹の昴」からずっと続く物語なのですが、ここに至って本当にオールスターキャストというか、今までの登場人物たちが虚実入り混ぜて登場してきます。さらに、甘粕正彦、川島芳子、吉田茂らも登場。いよいよ!という感じです。

もちろん、これは小説なので、史実そのままではないのですが、読んでいると日本と中国や朝鮮など、近隣諸国との関わりというのを考えさせられます。他国の影響を全く受けない国というのは存在しないわけで。その関わりがどのようなものであったのか、事実をきちんと知ることは大事だよなあ、と。日中関係だけとっても知らないことが多すぎる・・・。

物語は前半は溥儀と張学良の話が交互に展開しますが、後半からはさまざまな人物が一気にステージに躍りだした感じです。そして、いよいよクライマックスに向けて動き始めます。

あと一巻。近いうちに読破したいです。

2018年5月27日 (日)

長く高い壁

2751「長く高い壁」 浅田次郎   角川書店   ★★★

1938年。流行探偵作家の小柳逸馬は、従軍作家として北京に派遣されていた。ある日突然、万里の長城・張飛嶺へと派遣される。守備隊の兵士十名が全員死亡した事件の調査が目的であるらしい。検閲班長の川津中尉とともに、調査にあたる小柳だったが、軍隊ゆえの「真理」に振り回される。果たして戦死か、殺人事件か。なぜ、作家の小泉に白羽の矢が立ったのか。彼が見出した「真実」とは。

浅田次郎の推理小説?と、ちょっと意外な感じもしましたが、初期の「日輪の遺産」なんかは、ミステリ仕立てでもありました。

前線で、分隊の全員が死亡したという事件。ゲリラとの戦闘による戦死かと思われたが、どうやらそうではないらしい。では、誰が、なぜ、どうやって任務に当たっている兵士を10人も殺害したのか。そんな奇妙な「戦場での事件(?)」を解き明かすのが、憲兵でも警察でもなく、単に探偵小説を書いている、売れっ子作家の小柳逸馬という、これまた風変わりな設定。

幸か不幸か軍隊に縁がない生き方をしてきた小泉は、軍隊の論理が理解できないのですが、お目付け役(というか、本人は小泉の助手のつもり)の川津中尉や、現地憲兵隊の小田島曹長の手助けのもと、徐々に真相に近づいていき・・・。

軍隊の階級や、価値観、独特の論理など、今まで漠然と知ったつもりになっていましたが、改めて「そうだったのか」ということがたくさんありました。

ただ、帯にあった「軍人にとっての戦争」とは何か、わかったような、わからないような・・・。

動機は理解できるのですが、その結果としての行動が彼にとっての「戦争」というのが、もう一つ腑に落ちませんでした。うーん。私の読み方が浅かったかなあ。

相変わらず、語りの文章は上手いですが、正直、「またか」と思うところもあり。うーん。

2017年1月 3日 (火)

天子蒙塵 第二巻

2520「天子蒙塵 第二巻」 浅田次郎   講談社   ★★★★

満州国建国。その渦中にあって、溥儀は深い孤独に落ち込んでいた。暴走する関東軍とそれを抑えようとする勢力。張作霖の子分たちは散り散りになったが、馬占山だけは戦い続けていた。混沌とする政局の中、帝位の証・「龍玉」は、ある人物に託されるが・・・。

今回は、久々に苦戦しました。いつもなら語り口の滑らかさにのって、すいすい読んでしまう浅田作品なのですが、視点人物がころころ変わり、それになかなか慣れず。

でも、この混沌とした感じが、当時の満州なのかもしれません。それぞれ立場が違うと、見えてくるものも違う。自分が信じたものを信じきれる者もいれば、心ならずも異なる道を歩む者もいる。読み進めるにつれて、それらが群像劇として浮かび上がってきます。

そして、圧巻はラストでした。梁文秀と妻がふるさとを訪れる場面。貧しさにあえいでいた故郷は、小麦畑の大地に生まれ変わっている。私財を投じてそれをなしとげたのは、あの春児・・・。「蒼穹の昴」からこの物語がつながっていることをあらためて感じ、涙なくしては読めませんでした。

2016年11月12日 (土)

天子蒙塵 第一巻

2491「天子蒙塵 第一巻」 浅田次郎   講談社   ★★★★

宣統帝溥儀。清朝最後の皇帝にして、満州国の皇帝になった彼の側妃が起こした離婚裁判。日本では全く報じられなかった離婚劇とはいったい何だったのか。「蒼穹の昴」シリーズ第5弾。

あの衝撃のラストの「マンチュリアン・リポート」で、このシリーズは完結したものだと、勝手に思っていました。続いてましたか~。しかも、いきなり春児登場! いやいや、シリーズを通して読んできた者としては、うれしい限りです。

さて、今回は、ラストエンペラー溥儀と、張作霖の息子・張学良がメインになるようです、どうやら。でも、一巻は、溥儀の第二夫人であった文繍が主人公。なぜ、彼女は溥儀と離婚したのか。皇帝に対して離婚を求めるという前代未聞の出来事について、彼女自身が物語ります。

それにしても、文繍たちが口にする「自由」という言葉の、なんと重いことか。(そして、それが当時の中国に限定されることなのか。) もっとも「自由」に程遠いのが溥儀であり、不幸なことに彼自身がそのことに無自覚なのが、やりきれないものがあります。

とりあえず、壮大な物語に身をゆだね、人が生きることの意味を考えていきたいと思います。

2016年8月28日 (日)

ライムライト 天切り松闇がたり第五巻

2464「ライムライト 天切り松闇がたり第五巻」 浅田次郎   集英社文庫   ★★★★

いわずと知れた天切り松が物語る、盗人たちの痛快な生き様。待ってましたの第5巻!

「男意気初春義理事(おとこいきはるのとむらい)」「月光価千金」「箱師勘兵衛」「薔薇窓」「琥珀色の涙」「ライムライト」の6編。

相も変わらずかっこいい目細の安吉親分とその子分たちが、大活躍します。今回は、少々年をとってきた兄貴分たちの姿が寂しかったですが。

振袖おこんと目細の親分の出会いが描かれた「月光価千金」、黄不動の栄治の育ての父が亡くなる「琥珀色の涙」、チャップリン暗殺計画に百面相の書生常が立ち向かう「ライムライト」が印象的でした。

特に「琥珀色の涙」には泣かされました。相変わらず、浅田さん、こういうのめちゃくちゃうまい・・・。

2016年7月16日 (土)

帰郷

2453「帰郷」 浅田次郎   集英社   ★★★★★

「帰郷(←ほんとは旧字体)」「鉄の沈黙」「夜の遊園地」「不寝番」「金鵄のもとに」「無言歌」の6編。戦争を題材にした小説集ですが・・・。

新聞の広告だったかに、「戦争小説ではありません。反戦小説です」という作者の言葉があって、絶対読まねば!と思った一冊です。

正直言って、目新しい話はありません。今までいろんな人が描いてきた「戦争」の物語です。

でも、こういうものを書き続けていかないといけないのだという、作者の強い意志を感じました。

「戦争は知らない。だが、ゆえなく死んで行った何百万人もの兵隊と自分たちとの間には、たしかな血脈があった。ジャングルの中や船艙の底や、凍土の下に埋もれていった日本人を、外国人のように考えていた自分が、情けなくてならなかった。」(「不寝番」より)

帯にも引用されたこの文章が、この作品集の肝だと思うのです。戦争は、過去にあったことではなく、現在と地続きなのだ、と。そして、そのことを私たちが忘れ去ったとき、これらの悲劇は、過去でなく「今」のものになるのだ、と。

戦争をして幸せになる人なんていない。最終話「無言歌」のラストシーンで、思わず涙がこぼれました。

戦争を知らない人ほど、読むべき一冊だと思います。

2016年2月21日 (日)

獅子吼

2415「獅子吼」 浅田次郎   文藝春秋   ★★★★

「ライオンも、象も、駱駝も、戦争はしてねがんす。」・・・戦時中の動物園。食料も不足する中、元飼育員だった兵士が命じられたことは。

こういうものを書いてほしかった、こういうものを読みたかった、と思える物語でした。

「獅子吼」「帰り道」「九泉閣へようこそ」「うきよご」「流離人(さすりびと)」「ブルー・ブルー・スカイ」の6編を収録した短編集。

時代と場所は違えども、名もない庶民の声なき声を描き出す、浅田次郎の短編の醍醐味を味わえます。

印象的だったのは、表題作と、やはり戦時中が舞台の「流離人」。どちらも戦争によって人生を奪われた人々の悲哀を描いたものです。戦争がどれだけ愚かしいものか、それにいったい何の価値があるのか、静かな怒りと共に、作者の思いが伝わってきます。今、こういう時代だからこそ、書いてほしかった物語でした。

「帰り道」は集団就職の、「うきよご」は学生運動の時代の物語で、どちらももうはるか遠くの出来事のような。ある意味、若い世代には、戦争よりなじみのないことかもしれませんね。どちらもせつないけれど、その時代に必死に生きていた人々の思いを、そっと抱き留めているような物語でした。

浅田次郎の長編もいいですが、こういう短編集を読むと、短編もいいなあと思わされます。

2016年1月30日 (土)

わが心のジェニファー

2408「わが心のジェニファー」 浅田次郎   小学館   ★★★★

プロポーズした恋人が示した条件。それは、彼女が愛してやまない日本に、一人旅をしてきてほしいというものだった。PCも携帯電話も一切持たず、自分の目で、肌で、日本を感じてきてほしい、と。彼女と価値観を共有するため、ラリーは日本へ旅立つ。

幼いころに両親が離婚。二人とも親権を手放したため、母方の祖父母に育てられたラリー。かつて海軍提督だった祖父には、「日本人は油断ならないやつら」と聞かされて育ったラリーは、愛するジェニファーの望み通り、日本を訪れます。

東京、京都、大阪、九州、北海道・・・各地を回り、その土地の風物にふれ、人と出会い。ラリーは日本と向き合う中で、いつしか自分自身と向き合うことになるのです。

祖父母の愛情に守られて成長したラリー。そのことに何の不満も感じていなかったけれど、自分でも気づいていなかった「父母の欠落」の大きさに、徐々に気づいてしまいます。しかし、ジェニファーと家庭を築くためには、ラリーにとってはそこは越えなければいけない大きな壁。そういう意味では、この旅は、ラリーがほんとうに大人になるための通過儀礼だったのかもしれません。

それにしても、ラリーの目から見る日本は、なかなか新鮮でした。思わず笑ってしまうことも。そんなふうに見えるんですね。私自身は生粋の日本人だし、いかにも日本人なメンタリティの持ち主だとおもっているので、こういうふうに見られているんだな、と(笑)

ラリーの珍道中みたいなところもありますが、最後まで読むと、すごく温かい気持ちになります。

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