永井路子

2012年4月16日 (月)

平家物語の女性たち

1854「平家物語の女性たち」 永井路子   文春文庫   ★★★★

「平家物語」を彩る女性たち。建礼門院、二位の尼時子、巴御前・・・。「平家」に描かれた彼女たちの姿を読み解くことで、「平家物語」の本質に迫る。

これ、ずいぶん以前に読んだはずなのですが・・・うろ覚えでした。

大河ドラマ「平清盛」が低視聴率と騒がれようが、毎週欠かさず見ている私。しかし、自分が思っていたよりも、知らないことがたくさんで・・・。とりあえず、とっつきやすそうなところから、と手に取りました。

とりあげられている女性は、

「恋人たち」
 祇王・祇女・仏御前(清盛の愛人となった白拍子たち)、葵女御・小督局(高倉に帝に愛された女性たち)、千手前(平重衡の最後の愛人)、横笛(滝口入道の恋人)

「妃たち」
 祇園女御(白河法皇の愛人で、清盛の生母と言われる)、二代后(近衛帝と二条帝、二人の天皇の后となった)

「人妻たち」
 小宰相(平通盛の妻)、維盛の妻、巴、大納言侍(重衡の妻)

「二人のヒロイン」
 建礼門院、二位の尼時子

個人的には、初めて「平家」に触れた時から、悲劇のヒロイン建礼門院(徳子)と、その母で壇ノ浦で安徳帝を抱いて水底に沈んだ二位の尼は非常に心惹かれていました。その後、永井さんが徳子をかなり辛辣に批評しているのを読んで、ほほう・・・と思い。大河でも、この二人がどんなふうに描かれるのか、とても楽しみにしているのです。

しかし、それ以外の女性についてはうろ覚え(巴御前は別ですが)。実際、華々しいのは男性で、女性の影が薄い「平家」ですが・・・。その影の薄さ(個性のなさ)が、実は「平家」の作者が描きたかったものを反映しているのだ、と。なるほどなあと思いました。

印象的だったのは、永井さんがご自身の戦争体験を重ね合わせて、戦乱のさなかに放り出された女性たちをとらえようとしていること。特に、「人妻たち」の章は、彼女たちの思いを想像させるのに説得力がありました。

さてさて・・・こうやって読んでみてわかったことは、私は、「平家物語」自体の記憶があやふやだということと、保元の乱・平治の乱の知識がはなはだあやしいということ(涙)・・・ちょっと勉強しないとなあ。

2011年12月 5日 (月)

波のかたみ

1791「波のかたみ」 永井路子   中央公論社   ★★★★

清盛の存在を頂点として、栄華を極めた平氏一族。その隆盛と衰退を、清盛の正妻・時子の目を通して描いた永井版「平家物語」。

刊行が昭和60年。たぶんその翌年ぐらいに一度読んでいます。来年の大河は「清盛」ということで、久々に読み返してみました(ちなみに、今年の「江」は、私は全くダメでした・・・)。

永井さん独特の視点から描かれる平氏の繁栄。それは、妻や乳母たち・・・いわゆる閨閥によってつくりあげられた歴史です。本作の主人公・二位の尼時子を軸に、その一族がそのように皇統に入り込み、権力を握り、平氏の隆盛の礎となったのか。時子の視点から浮かび上がる時代の流れや、当時の価値観は、非常に興味深いものがあります。

正史には記録されない「女たち」の物語は、なかなか読みごたえがあります。自分の子供はもちろんのこと、自分の実家を守るために、彼女たちがどうやって戦ってきたのか。まさに、それも戦場です。

作者は時子にかなり好感をもっているようで、さばさばして潔い、権力欲のあまりない人物として描かれています。そんな時子が、夫が権力の中枢に近づくにつれて、どんどん貫録を増していく様子は、不思議と嫌味がなく読めるのです。「平家にあらずんば人にあらず」と言い放ったことで有名な平時忠は、時子の弟。なんとも食えない人物ですが、彼も活躍(暗躍?)しています。一方、時子の娘で、安徳天皇の母である徳子には、永井さんは非常に厳しいのです・・・。

院政とはどういうものなのか、これを読んでいるとおぼろげながらわかる気がします。どんな仕組みであれ、退廃したものが何かを生み出すことはないのですね。

さて、大河ドラマは清盛の青年時代からスタートでしょうか。どんなふうに描かれるのか、楽しみです。

2009年2月11日 (水)

女帝の歴史を裏返す

1376「女帝の歴史を裏返す」永井路子   文春文庫   ★★★★

女帝とは、天皇の血筋を絶やさぬための、中継ぎのような存在である・・・。長いこと定説になっていたその考え方に「否!」という、永井史観。女帝は、政治にも外交にも長けた国の大国柱だったのだ。

永井さんが、朝日カルチャーセンターの講座で語られたものに加筆したもの。ところどころ、永井さんの上品な語り口調がそのまま残っていて、それもまた読んでいて楽しいところです。

さて、推古帝に始まる女帝の歴史。日本史における女性史は、永井さんの著作を読むことで私が興味をもった分野で、特にも「女帝」というのは非常に関心が高い領域です。他の著作で、これらの女性について書いたものは読んだことがありますが(特に、元正天皇や、孝謙天皇に関する物語やエッセイには、強い影響を受けました)、さらに新説なども取り入れ、内容は充実しています。

今回はやはり持統天皇に関する話が興味深かったです。

「やはり」というのは、去年生まれて初めて奈良に行って、薬師寺を見たからで。天武天皇と持統天皇の発願で建立されたあの寺院に、私はけっこう圧倒されてしまったのですね。それまでも、里中満知子「天上の虹」を読んで、持統天皇には並々ならぬ関心があったのですが、私の中では「いったい、持統天皇というのはどういう人だったのだろう」という思いが強くわきあがっていたのです。

永井さんは小説家としての腕をふるって、持統天皇の心の内を描き出しています。それがまた、ひどく生々しくて、一つの時代を女帝として生きた女性の姿が、スーッと浮き上がってくるような印象がありました。

女帝と一口にいっても、時代によって、その役割はさまざま。でも、初期のころの「国の大家(おおとじ)」という位置づけは、なかなかおもしろかったです。

読みやすいし、興味のある方にはおすすめです。

2005年9月 2日 (金)

美女たちの日本史

850「美女たちの日本史」永井路子   中公文庫   ★★★★

 元正天皇から紫式部、清少納言、北条政子、お市の方、細川ガラシア・・・。永井路子の歴史小説のヒロインを中心に、女性の側から見た日本史を語る。

 私が永井さんの著作にかなり影響を受けている・・・というのは以前にも書きましたが、今でも読むたびに「ああ、そういうことだったのか」と思うことがたくさんあります。
 この本は、NHKカルチャーアワーで語ったのをリライトしたもの。あくまで炉辺夜話で「語る」テイストを残したかったということで、語りの文体になっています。
 歴史に興味はあるものの、難しい史料は読み解けませんので、わかりやすく説明してくれるこういう文章はとてもありがたい。そして、一つ一つが実におもしろい。
 例えば。「女帝は単なるつなぎ役ではなかった」「枕草子にでてくる『香炉峰の雪』のエピソードの意味」「源実朝暗殺の真相」「日野富子は悪女か」などなど。
 私は戦国マニアだったので、ねね、お市の方、おごうといったあたりはおなじみなのですが、あらtめて永井さんの考えを読むと、「ああなるほど、そうだったのか」と思うことが多いです。
 初心者でも、日本史マニアでも、とても楽しめる一冊です。

three bells > おお…初心者でもOKですか!読んでみたいです。 (2005/09/03 21:58)
まゆ > three bellsさん、むしろ初心者の方が先入観なくて入り込みやすいかもしれません。少しずつ読めるし、おすすめですよ。 (2005/09/03 22:12)
ゆんゆん > こんなところにすみません。歴史には疎く、無知な私です。少しずつ読める・・楽しめるというところとまゆさんのおすすめ!読んでみたいです。 (2005/09/07 12:00)
まゆ > 歴史に疎い。そういう方にこそ、読んでいただきたい一冊です。ものの見方がちょっと変わりますよ。 (2005/09/08 22:03)
たばぞう > 永井路子さん!。読んだことはないのですが、先日一緒に休日出勤した女性の先輩がまさしく彼女にハマっていました。「姉妹なのに、政治がからんでどろどろ~」だそうで。なんかだか、止められない&止まらない状態だそうです。 (2005/09/10 12:48)
まゆ > もうご高齢なので、そろそろ身辺整理に入られてるそうで、小説は長編一作を残すのみ・・・というお心積もりでいらっしゃるようです。長年のファンとしては残念ですが。読みやすいし、女性を主人公にしたものは、本当に従来の常識を覆す視点で描かれているので、おすすめの作家さんなんですよ。 (2005/09/11 18:44)

2005年4月24日 (日)

流星 お市の方(上・下)

781「流星 お市の方(上・下)」永井路子   文春文庫   ★★★★

 戦国の雄・織田信長の妹・お市は、近江の浅井長政のもとに嫁ぐ。しかし、織田浅井両家の友誼は長く続かず、泥沼の戦へと突入していく。兄と夫の間で苦しむお市。やがて夫が敗れ、また兄も横死するに至って、お市はある決断をする。

 文庫新装版。この物語が発表されたのは30年以上前、文庫化されてからでも、20年以上経っています。
 私にとっては女性史観を変えるきっかけになった、忘れ得ない物語。学生時代、書店でちまちまと立ち読みして読みきったものですが(お金がなかったのさ)、新装版が出たので購入。じっくり読みました。

 戦国時代は「政略結婚」は当たり前。女性は「家」の道具に・・・なんてかわいそう。と刷り込まれていた頭に、ガツンと一発くらったのが、永井さんの歴史エッセイを読んだ時でした。
 政略結婚で他家に嫁ぐ女性は、立派な外交官(その能力のない女性は、家来に払い下げられた)。また、彼女たちは結婚後も実家との縁は切れず、もし戦になった場合には、実家に帰るのが当然だった。
 嘘でしょう?と思いました。そして、それらの女性の中でも、永井さんがひときわお気に入りのお市を主人公にした小説がこれ。おもしろいのです。
 お市をはじめ、その姉お犬や、信長の妻・濃姫、信長の娘・お徳など、さまざまなタイプの戦国の女性が活躍するこの物語は、私の考えをすっかりひっくり返してしまいました。また、信長も絶対的な力をもった武将ではなく、むしろ必死に駆けずり回っている人間らしい姿が描かれ、これまた私の信長観に微妙に影響しています。

 お市の戦いは、結局負けでした。夫を失い、自分を庇護してくれた兄も失い、再嫁してまで賭けた勝負に負け・・・。でも、彼女は流星のごとき短い生涯を、主体的に生きた一人の女性として、輝いています。
 そして、彼女の戦いは、三人の娘に受け継がれます。長女・お茶々は秀吉の側室淀どのとなり、権勢をふるいました。次女・お初は、京極高次の妻となり、大坂の陣では和平の使者として大坂城に乗り込んでいます。そして、三女・おごうは徳川秀忠の正妻となり、のちの徳川家光をはじめ、多くの子を産んでいます。三者三様の姉妹に、ついついお市の面影を探してしまうのは私だけでしょうか。

 永井さんもあとがきで書いておられますが、その後新しい史料が発見されたりと、事実とは食い違う部分もあります。それでも、この小説のおもしろさが損なわれることはないのです。

EKKO > わ~懐かしい!私も永井さんの「歴史を騒がせた女たち」などが好きでした。この本も読みました~政略結婚を繰り返し、そのたび辛い思いをしなければならなかったお市ですが、その生き方はとても魅力的です。3人の娘たちの生き様もドラマチックですよね。 (2005/04/25 00:39)
まゆ > 「歴史を騒がせた女たち」、まさにそれです。そこから私の歴史観は変わりました。お市の状況に流されているように見えて、その実主体的な生き方は、尊敬に値します。 (2005/04/25 22:05)
あしか > あ~!私も「歴史~」日本版は二冊とも読みました。光明皇后が実は夫をさほど愛してなかったんじゃないかとか、切り口が変わってるので有名ですよね。永井さんの考察はいつも感心してしまいますが、これもおもしろそうですね。 (2005/04/26 01:38)
まゆ > あしかさん、「歴史~」はおもしろいですね。とっつきやすいし、わかりやすい。永井さんの史観は、けっこう学者さんたちにも支持されてるようですね。これは小説なので、エッセイよりも濃い世界が味わえますよ。 (2005/04/26 22:16)

2005年3月 1日 (火)

平家物語

754「平家物語」永井路子   講談社   ★★★

 「平家物語」の舞台になった土地を訪ね歩きながら、古典の世界に思いをはせるエッセイ。「古典の旅」シリーズ第7巻。

 ↓にアップした「義経」とセットで借りてきました。
 永井史観とも言うべきこの方の歴史観に、私は相当影響を受けていまして、小説やらエッセイなど、一時かなり読んでいました。なので、大河ドラマにはまっている自分をちょっとニュートラルにするべく、読んでみようかな、と。
 私は史実云々より先に「平家物語」にはまってしまった人間なので、以前は「清盛は悪人」と信じていました(笑)だけど、そうじゃないよ~というのがだんだんわかってきて、決定打はやはり永井路子「波のかたみ」。これでがぜん平氏一門に興味をもったわけです。
 「平家」を読んでいてもどうしても派手な合戦の場面に目が行ってしまって、そこばかり繰り返し読んでしまうのですが、このエッセイは、重盛・維盛・重衡・建礼門院の四人にスポットを当てています。いずれも脇役のようでいて、そのフィクション性ゆえに「平家」の主人公たちであり、「平家」がなぜ書かれたのかを読み解くカギになる人物。
 義仲・義経は決して主人公ではなく、単なる軍記物ではなく、「滅びの中に救いはあるのか」という、現代にも通じるテーマを内包した物語であるということ、読んでいくと深く納得させられます。最後にかえっていくところは、「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり・・・」という冒頭文なのですね。
 唯一、原文で読み通した古典ですが、久々に通読したくなってきました。

 中学校の国語では「平家」が必ずテキストになっていますが、これは音読するには最適の教材。生徒も大好きです(一方、「枕草子」や「徒然草」は人気ないです)。
 ただ、やっぱり「扇の的」とか、派手で見栄えのする場面なんですよね。だから、生徒も好きなんでしょうけど。
 そういえば、高校でやった「平家」も「橋合戦」でした。いや、あの場面もすごくおもしろかったですけど。

nanao > 重盛・維盛・重衡・建礼門院の四人となれば、よんでみたいですね。特に建礼門院について作者がどう書いているか知りたいです

(2005/03/02 08:34)
まゆ > これはあくまでも「平家」の中の人物像なので、彼女個人について詳しくは言及していません。要は「女人成仏」のシンボルとしての存在だと・・・。永井さんは、建礼門院については、けっこう厳しい見方をしていたはずです(何かのエッセイで読みました)。永井さんか杉本苑子さんが、大原御幸の場面を小説にしていたと思いましたが・・・なんという作品だったか思い出せません。うーん。 (2005/03/02 19:47)

2004年11月15日 (月)

戦国おんな絵巻

666「戦国おんな絵巻」永井路子   光文社文庫   ★★★

 織田信長の妹・お市の方は本当に悲劇の人だったのか? 戦国から徳川時代へと続く女性たちの系譜をたどると、女性史の変遷が見えてくる。淀殿や千姫、春日局らをとりあげた歴史エッセイ。

 今でこそ幕末から明治・大正にかけての近代史にはまっている私ですが、以前には戦国時代にどっぷり、でした。そのきっかけになったのが、井上靖「淀どの日記」と、永井路子さんの著作でした。特に、永井さんの歴史エッセイ(特に女性に焦点をあてたもの)には強く影響を受け、歴史の見方が大きく変わりました。それは今でも続いています。
 この本に書いてあることは、永井さんが今までさまざまな著書で述べられてきたことで、それほど目新しいものはないのですが、やっぱりおもしろかったです。かつて習ったことを復習する感じで読みました。
 私は織田信長と、妹のお市がかなりお気に入りで、さらにお市の娘のお茶々(のちの淀殿)・お初・お江(徳川家光の母)の三姉妹にすごく興味があるのです。この本では、この母子が基盤として描かれています。お市を戦国女性の「分水嶺」と位置付け、戦国から徳川にいたるにつれ、女性の役割・価値観が変化していく様子を、具体例をあげながら、わかりやすく説明してくれます。
 今テレビで「大奥~第一章」やってますが、あれ見てる方は、ぜひともこれ読んでみてほしいです。大奥というシステム、春日局のことなど、なかなかおもしろかったです。

nanao > もし、秀吉が北の庄の落城から三人を救っていなかったらどうなっていたでしょうね。
それだけお市の方の執念が凄まじかったのでしょうか。
徳川時代にもその影響を残したのは、信長もびっくりしていると思います。 (2004/11/16 00:28)
ときわ姫 > 信長は死んだのに、秀吉にも家康にも影響を与えたこの血筋はすごいですね。改めて認識しました。 (2004/11/16 09:40)
すもも > 永井路子さん、いいですね。女性の視点で描かれた歴史物として、とても新鮮でした。とくに三姉妹のうちお江与が主人公の『乱紋』が好きです。この本もおもしろそうですね。ところで、ちょっと以前の本ですが、安西篤子・著『江戸城大奥100話』、大奥200年の歴史が、いろいろなエピソードで語られていておもしろかったです。 (2004/11/16 10:54)
まゆ > nanaoさん、あの時お市はなぜああいう選択をしたのか、いまだにあれこれ想像しています。三姉妹はどんな思いで母に別れを告げたんだろう?とか。織田や浅井の血統が、徳川の世まで脈々と受け継がれたというの、すごいですよね。
ときわ姫さん、この三姉妹はあなどれないんですよ。歴史上では一番影が薄い次女のお初でも、大阪の陣では大活躍しています。戦国絵巻のフィナーレを飾った三姉妹、かっこよすぎます。
すももさん、私はなんといっても「流星」でしたね。「乱紋」は、あれだけとらえどころがない女性を、よくあそこまで描いたなと思いました。「永井史観」とも言うべき女性の視点から見た歴史には、いろいろ考えさせられることが多いです。大奥の話もおもしろそうですね。いずれ探して読んでみたいです。 (2004/11/16 21:19)

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