伊坂幸太郎

2019年10月17日 (木)

クジラアタマの王様

2958「クジラアタマの王様」 伊坂幸太郎   NHK出版   ★★★★

製菓会社の広報部員・岸にとって、それは降ってわいたような災難だった。一本のクレーム電話への対応をめぐり、右往左往する中で、岸は二人の男性と知り合う。一人は、都議会議員の池野内征爾。もう一人は、芸能人の小沢ヒジリ。岸を含む三人には、奇妙な共通項があることがわかり・・・。

 

伊坂作品をずっと読み続けてきて、「この後はもっとひどい目に遭うんだろうな」「主人公はさらに追い詰められちゃうんだよね」「最終的にはきちんと着地はするものの、完全なハッピーエンドはまずない。油断するな」等々、自分に言い聞かせながら読む程度には慣れてきたのですが。それでも、こちらの想定の斜め上をいきますよねえ、伊坂さん。

今回も、そうくるか?という展開でした。いやはや。

これといって特筆すべきこともなく、世の中の片隅で、つましく暮らしている私たちにとって、それなのに理不尽な目に遭うのって、けっこうな恐怖で。でも、それは起こる確率はゼロではない。伊坂作品を読んでいると、そういう怖い事実を突きつけられます(だから、読んでいてしんどい)。じゃあ、そうなったらどうする?というのが、物語の発端で。そして、伊坂さんの描く人物は、みっともなくあがくわけです。それが、とうてい他人事とは思えない。そうだよね、あがくよねえ。どうしようもなくても、ただ打ちのめされて、なす術もなくホールドアップは悔しいよねえ、と。

そういうところが、私が毎回「今度はどんなしんどい話だろう」と思いつつも手にとってしまう理由なんだと思います。

今回は途中途中にコミックパートが入っていて、それが実に効果的でした。

ところで、タイトルの「クジラアタマの王様」って、そういう意味だったんですね。知りませんでした。

2019年8月14日 (水)

シーソーモンスター

2933「シーソーモンスター」 伊坂幸太郎   中央公論新社   ★★★★

バブル経済華やかなりし頃。医薬品メーカーの営業の北山直人は悩んでいた。妻の宮子と、同居し始めた母との折り合いが悪すぎるのだ。まるで天敵どうしのように。板ばさみになって悩む直人だが、職場で思わぬトラブルに巻き込まれてしまい・・・。

 

「螺旋プロジェクト」というのですね。古代から未来までの時代を、8組9名の作家で書き継ぐという競作企画。海族と山族の対立という大まかな設定はあるのだけれど、基本的には独立した物語。伊坂さんが担当したのは、昭和後期の「シーソーモンスター」と、近未来(2030年~2050年)の「スピンモンスター」。

いつも、伊坂さんの作品を読むと、泣きたくなるのです。私たちが抱えている「どうしようもなさ」みたいなものに直面させられて。それでもあがく登場人物がしんどくて。でも、読み進むにつれて、それがいとしくなってきて。うまく言葉にならなくて、涙が出てくるのです。

「シーソーモンスター」は、まさにその時代を体感している世代なので、「わかるわかる」の連続でした。直人と宮子は、私よりもちょっと年上なのでしょうけれど、感覚としてはすごくわかる。そして、宮子と、姑のセツのバトルがとんでもなく最高でした。最強の嫁姑コンビですね。

「スピンモンスター」は、読んでいて本当に苦しかったです。近未来の話だけれど、夢物語だとは思えない。こうなっても全然おかしくない気がする。その怖さ。特に、情報がアナログ化していくのはあり得ると個人的には思っているので。主人公の水戸直正と檜山影虎が、自動運転車の事故で家族を失うという設定もしんどすぎて・・・。

ほんとうに、宮子さんとセツさんの設定がなかったら、しんどすぎて読めなかったのではないか、と。それだけ、未来に不安を感じているということですね。

人はなぜ争うのか。何度も提示されるテーマに、伊坂さんが示す「答え」はある意味正しいのかもしれません。それでも、人と争うのはやはりつらいなあ・・・と、これを読んでしみじみ思っていました。

2019年3月24日 (日)

フーガはユーガ

2876「フーガはユーガ」 伊坂幸太郎   実業之日本社   ★★★★

 

双子の優我と風我は、誕生日にだけ起こる不思議な現象を有効活用してきた。あまり恵まれない生い立ちの二人だけれど、彼らは誰かを助けることができるのか?

 

伊坂氏の待望の新刊をようやく読めました・・・。そして、読み終えて、しばらく茫然としていました。

いつもながら散りばめられた謎と伏線の数々。これは何かあるでしょ? この人は絶対クライマックスで絡んでくるはず。・・・などと、あれこれ考えながら読んでいたのは、優我たちの育った環境がしんどかったからです。なんでしょう、このタイムリーさ。世の中で親による虐待が話題になっているこの時期にこれかよ・・・と。

それでも、へこたれない優我と風我は、妙にたくましく生き延びてきました。そんな彼らが直面するさまざまな理不尽をなぎたおしていく物語かと思いきや。

いや、決してバッドエンドではないのだけれど。

胸糞悪い事件の中で、再び奇跡が起こらないかなと思ってしまったので。実は・・・なんてどんでん返しが起こらないかな、と。

せつなくて、泣けてしかたなかったです。

2017年11月29日 (水)

AX

2670「AX」 伊坂幸太郎   角川書店   ★★★★★

凄腕の殺し屋「兜」は、実は恐妻家。それでも、妻と一人息子の克巳を心から愛している。そろそろ殺し屋稼業から足を洗いたいと思っているのだが、仕事の仲介役の「医師」はいい顔をしない。家族にも危険が及ぶかもしれないとほのめかされ、兜は仕事を続けていたが・・・。

伊坂ワールドでは、人があっけなく死ぬことがけっこうある。あまりにもあっけないので、こちらは呆然としてしまう。それまでその人物に共感しつつ読んでいたこちらの思いは?と。でも、現実なんてそんなものかもしれないと、ようやくその死を受け入れた頃に、回りまわって大きな揺り返しがくる。今まで語られたエピソード(本筋とは無関係に思える)が、すべて意味をもっていたことがわかり、たまらなく心揺さぶられてしまう。

・・・何度、このパターンに陥ったことか。それでも、今回もまた、やられました。恐妻家の殺し屋・兜の物語。「AX」「BEE」「Crayon」「EXIT」「FINE」と五つの話が連なって、兜の人生が浮かび上がります。

最後はなんかもうせつなくて、思わず涙が。

「殺し屋シリーズ」は、「グラスホッパー」は苦手でしたけど、「マリアビートル」はけっこうおもしろく読めて、この「AX」は最高に好きです。

兜の恐妻家ぶりは笑ってしまったけれど、うちの夫もこういう感じで対応してるのかなとか、いろいろ考えて少々複雑な気分でした(苦笑) 

先日読んだ「ホワイトラビット」もすごくよかったのですが、これもまた・・・。こんなにおもしろい本を次々出されると、今年のマイベストを選ぶのに困るじゃないですか、伊坂さん!

2017年10月13日 (金)

ホワイトラビット

2650「ホワイトラビット」 伊坂幸太郎   新潮社   ★★★★

静かな住宅街で起こった人質立てこもり事件。SIT(特殊捜査班)も出動するが、事態は膠着。犯人の要求は、折尾という男を連れてくること。果たして、犯人を捕らえることはできるのか?

伊坂さんの新作ー! 図書館で配架当日にゲットできましたー! ものすごくラッキー!

と、浮かれて家に帰って、すぐ読み始めました。

いつもながらの伊坂ワールドが展開します。よんどころない事情で、立てこもりをすることになってしまった兎田と、その人質になってしまった家族。SITの優秀な課長・夏之目が交渉を開始するも、事態は膠着状態。犯人の要求する折尾という男の身柄をうまく確保できたものの、この男、オリオン座のことばかり話す変な奴で・・・。

場面と視点がどんどん切り替わり、慣れるのにちょっと時間を要しましたが、そこはそれ、伊坂作品あるある・・・という感じで。で、慣れたころに、「ぅええぇぇっ!?」と(笑)

いや、ビックリして、本を落としそうになりました。マジで。油断してました。でも、それでこそ、伊坂さん。お見事です。

なんというか、伊坂さんの書く「外れクジばかり引いてきた」ような人たち、憎めないのですよね。いつも、そこに持ってかれるんです。

というわけで、伊坂ファンには文句なしおすすめの一冊。あ、泥棒の黒澤さんも登場します。

2016年8月 2日 (火)

サブマリン

2459「サブマリン」 伊坂幸太郎   講談社   ★★★★

家裁調査官の武藤は、無免許運転で人をひいてしまった棚岡少年の事件を担当している。ところが、上司の陣内にひっかきまわされ・・・。その挙句に見えてきた「真実」は。

「チルドレン」の世界、ふたたび。

いつもいつも、伊坂さんの物語の設定は、息が詰まりそうになるほど苦しい。どうしても考えてしまうのだ。「もし、私ならどうする?」

今回も、そんなふうでした。その苦しさに風穴をあけてくれるのが、陣内。普通の人は決して口にしないようなことを言い、ありえない行動に走る。でも、それが私たちの苦しさを救ってくれるのです。

ただ、現実に陣内がそばにいたら、すごく嫌でしょうけれど(笑)

こんなに重いテーマを扱って、エンタメ作品として成立させる伊坂さんの手腕はさすがです(いつものことですが)。でも、やっぱりどこかで「で?あんたならどうするの?」と問われている気がするのです。

2015年10月30日 (金)

陽気なギャングは三つ数えろ

2370「陽気なギャングは三つ数えろ」 伊坂幸太郎   祥伝社   ★★★★

あの銀行強盗四人組が帰ってきた! 天才スリの久遠は、ホテルで暴漢に襲われた記者の火尻を救う。ところが、火尻はハイエナのような男だった。火尻と関わったことで窮地に陥った久遠たちは、人間嘘発見器・成瀬を中心に、逆襲を計画するが・・・。

成瀬、久遠、雪子、そして響野。あの四人が復活です。なんと、9年ぶりのシリーズ新作!

いつもながらあの四人の絶妙な掛け合いと、入り組んだ作戦が最高です。以前に比べると、スピード感はやや落ちたかなという気もしますが、それぞれの個性が生かされたプロットは、やはり楽しい。

最終的にはうまく片付くのだろうなと思っていましたが、今回はぎりぎりまで追い詰められる感じでひやひやしました。

それにしても、成瀬と久遠と雪子の能力はとっても有効だと思うのですが、響野って・・・(笑) 演説の達人というのがどれだけ役に立っているのか、いつも疑問なのです。でも、彼の存在あってのこの物語だという気も。

いずれまた彼らに会えるのを楽しみにしています。

2015年7月 8日 (水)

ジャイロスコープ

2321「ジャイロスコープ」 伊坂幸太郎   新潮文庫   ★★★★

「浜田青年ホントスカ」「ギア」「二月下旬から三月上旬」「if」「一人では無理がある」「彗星さんたち」「後ろの声がうるさい」の7編を収録した短編集。巻末には「十五年を振り返って 伊坂幸太郎インタビュー」。

好きな話は、「一人では無理がある」と「彗星さんたち」。やっぱり、後味のいい話が好きです(笑) 伊坂さんは不本意かもしれませんが。

「後ろの声がうるさい」は、書き下ろし。伊坂さんらしい「おまけ」です。なんだかんだ言って、ファンサービスしてくれるんですよね。

インタビューでは、収録作へのコメントのほか、これまでの作品についても語っています。「夜の国のクーパー」「死神の浮力」「火星に住むつもりかい?」が、伊坂さんの中では三部作というのに驚きましたが、すごく納得しました。何の三部作なのかは・・・どうぞお読みください(笑)

つい先日「仙台ぐらし」を読んだばかりなので、しばらく寝かせておこうと思っていたのに、あっという間に読んでしまいました。

2015年6月27日 (土)

仙台ぐらし

2315「仙台ぐらし」 伊坂幸太郎   集英社文庫   ★★★★

「仙台学」に掲載されたものを中心にしたエッセイ集。いちばん古いものは2005年。

ご本人も「エッセイは苦手」と言っていて、たしかに以前読んだエッセイ集は「う~ん。小説の方がおもしろいかも」と思ったものですが・・・これは、おもしろかったです。

「○○が多すぎる」シリーズは、読んでて笑ってしまいました。伊坂さんの心配性と、自意識過剰かと動揺するところと。これが実話だというところが、ほんとにおかしかったです。伊坂ワールドって、小説の中だけじゃないんだ・・・。個人的なお気に入りは「ずうずうしい猫が多すぎる」。

あ、仙台の本屋が次々となくなったというのは、寂しかったです。学生時代、講義はサボっても、本屋通いはサボらなかった私。「仙台=本屋がたくさんある街」というイメージだったんですけどね。

そのほか、震災に関して書いたものもいくつか。「震災関連本にはしたくない」という筆者の強い意志で、そこはあまり宣伝されていませんが、私は伊坂さんがあの震災をどう受け止めたか知りたかったので、読めてよかったです。伊坂さんが「泣いた」というのを読んで、思わずほろりとしてしまいました。

それから、「ブックモビール」という短編。震災後ボランティアをしている青年たちの話・・・なのだけど、いつしか奇妙な伊坂ワールドに入り込んでいきます。

伊坂ファンには、おすすめの一冊。

2015年5月 2日 (土)

火星に住むつもりかい?

2281「火星に住むつもりかい?」 伊阪幸太郎   光文社   ★★★★

「安全地区」に指定されると、「平和警察」が犯罪を未然に防ぐために、情報を集め、四か月に一度、「危険人物」の公開処刑が行われる。一度嫌疑をかけられると、拷問によって危険人物であることを認めさせられてしまう、そんな社会。そこに一人のヒーローが現れて・・・。

とんでもなく気が重くなる設定なんだけど、ついつい読んでしまう伊坂作品。いつものことながら、この設定でエンタテイメントになってしまうところがすごいです。恐ろしい、とも言う。

今回の話は、いわば現代版魔女狩りの世界。理不尽すぎる物語に翻弄される登場人物たち。そんな彼らをなぜか救ってくれるヒーロー(?)が現れます。警察も必死にその正体を探るのですが、複雑に絡み合った糸がほどけたとき、見えてくる真実は・・・。

伊坂幸太郎の描く世界は、ある意味極端で、現実には起こりえないものばかり。けれど、読んでいるうちにふと思うのです。これは本当に架空の世界の話なのか? いつかこれが現実になってしまうんじゃないか? 

「この状況で生き抜くか、もしくは火星にでも行け。」・・・火星に住むことができない以上、どんなにひどい世界でも、ここで生きていくしかない私たち。だったら、ひどい世界にならないようにしていくしかないんだよな・・・と、そんなことを考えさせられました。

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