竃河岸 髪結い伊三次捕物余話
2818「竃河岸 髪結い伊三次捕物余話」 宇江佐真理 文春文庫 ★★★★
髪結い伊三次と芸者お文の息子・伊与太は絵師としての転機を迎え、江戸を離れる。その妹・お吉は髪結いの修行に明け暮れている。同心・不破龍之進ときいの夫婦には息子が生まれ、ちょうどその頃、龍之進は新しい小者として、いわくつきの男を迎える決心を・・・。伊三次シリーズ最終巻。
「空似」「流れる雲の影」「竃河岸」「車軸の雨」「暇乞い」「ほろ苦く、ほの甘く」「月夜の蟹」「擬宝珠のある橋」「青もみじ」の9編を収録した、最後の「髪結い伊三次捕物余話」です。
話の主軸はだいぶ前から伊三次や不破友之進らの子どもたち世代に移っています。今回も、龍之進ときいが主役となる話が多かったです。やんちゃだった龍之進が親になるというのも感慨深いものがありますが、彼があの本所無頼派の男を小者にしようというのもまた・・・。時間は流れるのだなあと、しみじみしてしまいました。
龍之進の妻・きいがなかなか好感度の高いキャラで、今回も活躍していますが、彼女の少女時代の思い出が絡む「青もみじ」はせつなくて、思わず涙が・・・。
伊三次やお文はすっかり脇役になっていますが、そもそもはこの二人の恋物語から全てが始まったわけで。「擬宝珠のある橋」は、その集大成のような気がして、じんときました。
宇江佐さんが亡くなって、もう続きは読めないのだと思うと、頁を開くのがつらくて。一ヶ月以上積読してましたが・・・。読んでみて、悲しい、寂しいよりも、なんだか幸せな気分になりました。この続きは読めないけれど、本を開けば、いつでも伊三次たちに会える。そう実感できたからです。もし、宇江佐さんが伊三次たちの物語にピリオドを打つとしたら、きっとこんなふうに変わらぬ日常を描いたままになったのではないでしょうか。
彼らの「その後」は自由に想像させてもらいながら、ずっと大事にしていこうと思います。
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