宇江佐真理

2018年11月16日 (金)

竃河岸 髪結い伊三次捕物余話

2818「竃河岸 髪結い伊三次捕物余話」 宇江佐真理   文春文庫   ★★★★

髪結い伊三次と芸者お文の息子・伊与太は絵師としての転機を迎え、江戸を離れる。その妹・お吉は髪結いの修行に明け暮れている。同心・不破龍之進ときいの夫婦には息子が生まれ、ちょうどその頃、龍之進は新しい小者として、いわくつきの男を迎える決心を・・・。伊三次シリーズ最終巻。

「空似」「流れる雲の影」「竃河岸」「車軸の雨」「暇乞い」「ほろ苦く、ほの甘く」「月夜の蟹」「擬宝珠のある橋」「青もみじ」の9編を収録した、最後の「髪結い伊三次捕物余話」です。

話の主軸はだいぶ前から伊三次や不破友之進らの子どもたち世代に移っています。今回も、龍之進ときいが主役となる話が多かったです。やんちゃだった龍之進が親になるというのも感慨深いものがありますが、彼があの本所無頼派の男を小者にしようというのもまた・・・。時間は流れるのだなあと、しみじみしてしまいました。

龍之進の妻・きいがなかなか好感度の高いキャラで、今回も活躍していますが、彼女の少女時代の思い出が絡む「青もみじ」はせつなくて、思わず涙が・・・。

伊三次やお文はすっかり脇役になっていますが、そもそもはこの二人の恋物語から全てが始まったわけで。「擬宝珠のある橋」は、その集大成のような気がして、じんときました。

宇江佐さんが亡くなって、もう続きは読めないのだと思うと、頁を開くのがつらくて。一ヶ月以上積読してましたが・・・。読んでみて、悲しい、寂しいよりも、なんだか幸せな気分になりました。この続きは読めないけれど、本を開けば、いつでも伊三次たちに会える。そう実感できたからです。もし、宇江佐さんが伊三次たちの物語にピリオドを打つとしたら、きっとこんなふうに変わらぬ日常を描いたままになったのではないでしょうか。

彼らの「その後」は自由に想像させてもらいながら、ずっと大事にしていこうと思います。

2017年5月13日 (土)

うめ婆行状記

2578「うめ婆行状記」 朝日新聞出版   ★★★★

北町奉行所同心の夫を亡くしたうめは、念願の一人暮らしを決行した。気ままな生活ができると思いきや、甥の隠し子騒動が起こり・・・。

宇江佐真理さん、未完の遺作です。

読むのがもったいないような気がして、なんとなく手にとれずにいましたが、とうとう読んでしまいました。

大店の娘で、何不自由なく育ったうめ。同心の三太夫に嫁にと望まれ、断りきれずに武家に嫁いだものの、幸せを実感することもあまりなく、夫の死後そうそうに家を出てしまう。町屋で気楽な一人住まい・・・と思ったら、そういうわけにもいかなくて。

一人で、自由気ままな生活に憧れるという気持ちは想像できます。うめの場合、裕福な生まれだったから、それを実行に移すことができたわけですが。しかし、一人になったらなったで、家財道具をそろえるにもひと苦労。もともとがお嬢さん育ちなので、知らないことも。あげく、いつまでも独り身なのを案じていた甥っ子には、隠し子がいることが判明して、大騒ぎ。

うめは、決して「いい人」ではありません。どこにでもいる、普通のおばさん。でも、自分の気持ちに正直で、なんとも愛らしいところのある人です。彼女のまわりに起こるあれこれは、私たちの日常となんら変わりなく。・・・ああ、宇江佐ワールドだなあと、しみじみ。

未完とはいえ、物語は終わり近くまで書かれていました。不思議と、「置いていかれた」という気はしなくて、この後のうめの人生は、私たち読者に委ねられたように思います。

2016年12月 4日 (日)

昨日のまこと、今日のうそ 髪結い伊三次捕物余話

2503「昨日のまこと、今日のうそ 髪結い伊三次捕物余話」 宇江佐真理   文春文庫   ★★★★

不破龍之進・きい夫妻に子どもが生まれる。その一方で、伊三次の息子・伊与太は絵師の道に迷いを抱え、伊三次の弟子・九兵衛の恋は一つの決着をみる。彼らを見守る伊三次たちの思いは・・・。

伊三次たちもすっかりいい年になって落ち着いた感があります。が、子ども世代がいろんな困難にぶち当たって、それを見守っている親世代の伊三次たちが、すごくいいのです。彼らも若いころはいろんなことにゴンゴンぶつかって、うまく乗り越えたり、失敗したりしてきたので。だからこそ、子どもたちに言えることもあるよなあ、と。

もっとも、伊三次たちも達観しているわけではなくて、彼ら世代なりの浮世の苦労もあるわけで。

いいことばっかりじゃなくて、ああもうやってらんねえと言いたくなるようなこともあり、それでもたまにはちょっと嬉しくなるようなこともあって。そういうのが暮らしってものなんだなあと、つくづく思うのです。社会の仕組みが変わっても、そういう「暮らし」って、連綿と続いているんだと、宇江佐さんの物語を読むと、つくづく思います。

今回は、大矢博子さんの解説を読んで、思わず落涙。

もう新作は読めないけれど、残されたものを大切に繰り返して読んでいきたいものです。

2016年1月11日 (月)

名もなき日々を 髪結伊三次捕物余話

2400「名もなき日々を 髪結伊三次捕物余話」   宇江佐真理         文春文庫         ★★★★

伊三次とお文の息子・伊与太は、売れっ子絵師・歌川国直の弟子となる。一方、伊与太の幼なじみの茜は、奉公にあがった松前藩の若殿に好意をもたれ、政争に巻き込まれてしまう。

シリーズ第12弾。「俯かず」「あの子、捜して」「手妻師」「名もなき日々を」「三省院様御手留」「以津真天」の6編。

伊三次夫婦や不破家の子供世代に話の主役が移り、伊三次たちは、気をもみつつ、彼らを見守っています。伊三次たちが血気盛んだった初期の頃を思うと、ちょっと寂しい気もします。が、世の中というのは、こうやって受け継がれていくものなのでしょう。

子供世代も、そうそう順風満帆とはいきません。伊三次の娘・お吉も髪結の修業を始めたりして、それぞれに人生を歩み始めています。その一生懸命さや、思うに任せぬあれこれが、他人事でなく胸にせまります。

でも、何より悲しいのは、宇江佐さんが、もうこの世にいらっしゃらないことです。帯の「追悼」の文字を見るだけで、泣きそうになります。

遺された作品、大事に読んでいきたいです。

2015年12月22日 (火)

ウエザ・リポート 見上げた空の色

2387「ウエザ・リポート 見上げた空の色」 宇江佐真理   文春文庫   ★★★★

先日亡くなられた宇江佐真理さんの第2エッセイ集。

文庫版には、「私の乳癌リポート」が収録されているので、ちょっとためらったのですが、購入しました。それに、手元において、読み返す一冊にしようと思ったので。

好きな時代小説は数々あれど、ここ何年か、私のイチ押しは宇江佐真理でした。その宇江佐さんが亡くなったのは、本当に悲しい出来事で・・・。このエッセイを読んでいても、何度も「宇江佐さんはもういないんだ・・・」と、寂しい気持ちになりました。

日常の生活を愛し、ささやかな日々の積み重ねを大切にしていらした宇江佐さん。その「普通の目線」が、とても心地いいし、小説でもエッセイでも同じだというところに安心させられるのです。

「私の乳癌リポート」を読むと、その潔さに驚かされますが・・・それでも、あとがきの「まだ死にません。死にません。」という言葉に、思わず涙がこぼれました。生きていてほしかったです。まだまだたくさん書いてほしかったし、それを読みたかったです。

あらためてご冥福をお祈りします。

2015年9月10日 (木)

為吉 北町奉行所ものがたり

2353「為吉 北町奉行所ものがたり」 宇江佐真理   実業之日本社   ★★★★

呉服屋の一人息子だった為吉は、幼いころ、押し込み強盗にあって、家族すべてを失った。長じて北町奉行所の中間となった為吉の前に、かつての押し込みの頭領と思われる男が・・・。

北町奉行所を舞台にした連作短編。「奉行所付き中間 為吉」「下手人 磯松」「見習い同心 一之瀬春蔵」「与力の妻 村井あさ」「岡っ引き 田蔵」「下っ引き 為吉」の6話。

思うに任せぬ世の中を生きる人々の姿を描かせたら超一級品の宇江佐さんですが、今回は奉行所を軸に、そこに関わるいろんな人たちのそれぞれの生活が描かれます。

けっして後味はよくないのですが、やはりインパクトがあったのは「下手人 磯松」。なぜ、彼が犯行に至ったのか・・・やりきれない思いでした。

奉行所の中間として登場した為吉は、最終話では下っ引きになっています。いったい何があったのか。そして、為吉の人生の分岐点がもたらしたものとは・・・。せつないけれど、でも、為吉は幸せなのだと思います。

どんな人でも、自分の物語の主役なのだということを、あらためて感じました。

2015年3月11日 (水)

口入れ屋おふく 昨日みた夢

2245「口入れ屋おふく 昨日みた夢」 宇江佐真理   角川書店   ★★★★

口入れ屋「きまり屋」の出戻り娘・おふくは、短期の奉公に駆り出されることもしばしば。その奉公先でさまざまな人の姿を見て、おふくは世の中を学んでいく。

口入れ屋とは周旋業。今で言う派遣業みたいなもんでしょうか。「きまり屋」は、おふくの伯父と父が営む店。惚れて夫婦になった勇次が稼ぎ先の金をもって消えて、離縁して出戻ったおふくは、いまだに勇次に未練が・・・。そんなおふくは、奉公先で一筋縄でいかない人々に出会い、変わっていきます。

これを読んでいると、大人になるというのは、世の中は自分とは違う人がこんなにいる、世の中は自分の思い通りにならないもの、と理解することなのだなあと、つくづく思います。宇江佐作品では、それが繰り返し描かれるのですが・・・いくつになっても、「世の中って・・・」とため息をつきたくなるようなことが、この世にはたくさんあるのですよね。

おふくがしっかりしていくさまが、なかなか爽快でした。

2015年1月23日 (金)

明日のことは知らず 髪結い伊三次捕物余話

2222「明日のことは知らず」 宇江佐真理   文春文庫   ★★★★

廻り髪結いで同心の小者もつとめる伊三次。その妻で芸者のお文。息子の伊与太は絵師の修業に。幼いと思っていた娘のお吉も、自分の将来について考え始めていた。そして、伊三次の弟子の九兵衛にも、人生の転機が・・・。

明日のことはわからない。本当にそうですね。年を取るほどに、それは実感させられます。

伊三次とお文の夫婦もすっかり落ち着いて、二人が重ねてきた年月を思わずにはいられません。同時に、子供たちや弟子など、若い世代が育っていく様子がいとおしくてなりません。時間の経過で主人公たちが年を取っていくのは寂しさもありますが、子供世代が大人になっていく楽しみもあります。「御宿かわせみ」シリーズも同様。

親譲りで不器用な生き方をしてしまう伊与太と、松前藩の屋敷に奉公にあがった茜の話である表題作が印象的でした。

しかし、文吉姐さんの啖呵はいいですね。一巻に一度は姐さんの啖呵を聞きたいものです。

2014年11月 9日 (日)

月は誰のもの 髪結い伊三次捕物余話

2194「月は誰のもの 髪結い伊三次捕物余話」 宇江佐真理   文春文庫   ★★★★

江戸の大火で別れ別れに暮らすことになった伊三次とお文の夫婦。伊三次の色恋沙汰、お文の実の父親との邂逅、娘・お吉の誕生前後の、今まで語られなかった十年の物語。

いきなりの文庫書き下ろしです。

伊三次たちが大火で家も何もかも失ったあと、物語はぽんと時間をとんでいたのでした。その時間にあった出来事を、今回初めて描いてくれました。

お文がお座敷で偶然実の父親に出会った話。向こうもそれと気づいて、互いに親子の名乗りをあげないままで、焼け出されたお文に金銭的な援助をしてくれます。伊与太も祖父になつき、お吉の名付け親は実の祖父だということもここで明かされます。

伊三次は一人で姉のもとに身を寄せていましたが、女房子供と離れて生活する寂しさと仕事のつらさに、ふと魔が差したようになって・・・。何もなかったけれど、あぶないところでしたね(苦笑)

それから、不破家がらみの話も。かつて不破龍之進たちが追い回していた本所無頼派のその後と、龍之進の母・いなみの日常も描かれます。

10年という歳月の中にはいろんなこと・・・つらいことも大変なことも起こるけれど、それは誰も同じ。どんな人でも大変な思いをして、でもちょっとだけ幸せなこともあって、そんな日常の繰り返して、人の営みは成り立っているのだと、そんなことを考えさせられました。

2014年7月13日 (日)

日本橋本石町やさぐれ長屋

2152「日本橋本石町やさぐれ長屋」 宇江佐真理   講談社   ★★★★

「やさぐれ長屋」と呼ばれることもある弥三郎長屋。裏店暮らしの住人たちの悲喜こもごもの日常を描いた連作短編。

いつもながらの宇江佐節です。

「時の鐘」の主人公、大工の鉄五郎はやたら理屈っぽくて生真面目だし、「青物茹でて、お魚焼いて」のおときは、亭主が家に帰ってこなくなり、自分も子供を捨てて男と上方へ行こうとするし。聖人君子は一人もいない。けれど、極悪人というのでもなく。どこにでもいる、あなたや私の物語、なわけです。

先日、友人と「それでも明日はやってくる」という話になって。それを思い出しました。輝かしい未来だとか、将来の大きな展望なんてなくて、毎日のことに汲々として。うまくいかないこともたくさんあって、なんでこんなことにと思ったりもして、それでも「明日はやってくる」、と。なんというか・・・貧しくても、こんなはずじゃなかったと思っても、一日を無事に終えられたことにほっとして、明日もまた生きていく長屋の住人達の生き方が、他人事とは思えない今日この頃なのでした。

宇江佐節、いいなあ。しみます。

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