あさのあつこ

2016年3月26日 (土)

透き通った風が吹いて

2421「透き通った風が吹いて」 あさのあつこ   文藝春秋   ★★★★

野球部を引退した渓哉は、自分を見失ったようになっていた。そんな彼の前に突然現れた一人の女性。渓哉は彼女に心惹かれるが・・・。

あさのあつこの青春ものって、昔の少女漫画みたいでちょっと恥ずかしいんだよな・・・と、読み始めは思っていました。野球部のエースだった渓哉。彼とバッテリーを組んでいた実紀(みのり)。実紀のはとこで、渓哉に思いを寄せる栄美。そして、岡山の田舎町に突然現れる年上美女。どうやら彼女は、美作に戻ってきた渓哉の兄・淳也に会いに来たらしい。

ベタな設定だなあと思いながら読んでいましたが、いつのまにかひきこまれていました。

まだまだ大人になれなくて、焦りと不安でいっぱいの渓哉が出会った女性・青江里香。彼女との物語は、足かけ二日のごくごく短い時間でしかないのだけれど、渓哉にとっては一生忘れられないものになるのでしょうね。うまく言葉では言い表せないのですが、渓哉の気持ちの揺れが、すごく腑に落ちました。

渓哉の心に、透き通った風が吹いたのですね。

2015年8月29日 (土)

グリーン・グリーン

2348「グリーン・グリーン」 あさのあつこ   徳間書店   ★★★★

都会育ちの翠川真緑(みどりかわみどり)は、失恋したときに食べたおにぎりがきっかけで、田舎の農林高校の教師になった。園芸実習があったり、豚がいたり、なんとも慣れない環境の中で、新米教師の真緑は生徒たちと関わりながら、少しずつ自分の居場所を見出していく。

久しぶりのあさのあつこさんです。表紙絵がかわいくて、つい手に取ってしまいました。

父を早くに亡くしたとはいえ、経済的には恵まれた環境で育った真緑。ただ、娘を自分の思い通りにしようという母とは、ちょっと溝ができている様子。そんな彼女が、ひょんなことから農林高校の教師に。自分で選んだ道とはいえ、生徒にはなかなか受け入れられず、先輩教師にも怒られてばかり。

新米教師で自信にあふれているのもどうかと思うのですが、最初の頃の真緑はほんとに頼りない。いろんな意味で。でも、そんな彼女が少しずつ変わっていく過程が、とてもよかったです。教師は生徒に育てられるし、人間はおいしい食べ物で生かされてるんだよなあ・・・と、しみじみしてしまいました。

もっと農林高校ならではの実習の様子とかが書かれていれば・・・とは思いますが、独特の雰囲気は伝わってきました。

2013年5月31日 (金)

Team・HK

2003「Team・HK」 あさのあつこ   徳間書店   ★★★

「HK」とは、ハウスキーパーの略。平凡な主婦・佐伯美菜子が、ふとしたきっかけでハウスキーピング会社の一員となり・・・というお話。いわゆる「お仕事小説」であり、ミステリでもあり。

あさのあつこさんを読むのは、久しぶりです。どうも、教科書や問題集、テストに採用されるようになってから、敬遠してしまって(苦笑) これは大人が主人公だし、杉田比呂美さんの表紙もかわいくて、久々に心惹かれました。

それほど目新しい設定ではないのですが・・・主人公・美菜子は、人と関わるのがちょっと苦手、祖母仕込みで家事はちょっと得意な、ごくごく平凡な専業主婦。中学生の娘と、小学生の息子と、公務員の夫。特に不満もなく過ごしてきたけれど、たまたま見たチラシに惹かれ、「家事力」を生かそうと、会社へ。

その小さな会社「THK」の面々が、なんとも個性的で。特に、チーフの真冬野日向(まふゆの・ひなた)は、一癖ありそうで、すごく気になります。ほかのメンバーも、何かしら「過去」があるような。

美菜子がたまたま関わり合った「事件」の謎解きは、まあまあおもしろかったのですが、肝心のお掃除の場面があまりなくて、物足りなかったです。

美菜子と娘のやりとりは、なんとも言えない気持ちになりました。たしかに、こういう時期ってありますね。

続編が書けそうな設定ですが・・・どうなんでしょうね。

2008年8月 2日 (土)

ヴィヴァーチェ 紅色のエイ

1329「ヴィヴァーチェ 紅色のエイ」あさのあつこ    角川書店    ★★★

 父を亡くし、妹を城に奪われたヤンは、最下層地区で暮らしながら、いつか宇宙へはばたきたいと思っていた。親友のゴドと共に…。

 角川の新ファンタジーシリーズ「銀のさじ」の初回刊行本。同じ「銀のさじ」の荻原規子さんのが続き物だとは知っていましたが、これもでしたか…。完結してるものと思い込んでいたので、びっくりしました。
 さて、話の設定はSFファンタジーといった趣で、ちょっと「ナンバーシックス」を思い出しました。
 賢く冷静なヤンと、明るくたくましいゴドのコンビがいい感じです。
 ヤンが憧れてやまない宇宙船ヴィヴァーチェをはじめ、すべてのピースがちりばめられただけで、物語はほんのさわり…といった感じです。
 この後どう展開していくのか…続き、ちゃんと出るんですよね?

2008年7月23日 (水)

復讐プランナー

1326「復讐プランナー」あさのあつこ   河出書房新社    ★★★

 中学生になった雄哉は、初めて親友と呼べる友人・章司にめぐりあう。しかし、二人ともいじめの標的になってしまい…。

 雄哉たちがいじめにつぶされないためにとった手段。先輩の山田が教えてくれた方法は、復讐計画を立てること。思いついた計画をノートに書き出すだけでも、雄哉の気持ちは軽くなって…。
 この感じは、すごくわかります。書くって行為にはそれだけの力があるし、自分と周りを客観視するから、冷静になれる。余裕が生まれる。なるほど〜と思いました。
 しかし、この話、小説としては「えっ!そこで終わり?」という感じ。そして、あさのさんによる『復讐プランナー養成講座』が始まるのです。
 実はこれ、「14歳の世渡り術」というシリーズもの。あさのさんのテーマはいじめ。
 追いつめられるな。逃げてもいいよ。無理しないで。ひとりじゃないよ。そういうメッセージが伝わってきます。いじめをなくすのは難しいけど、いじめる側にまわるな、傍観者になるな…そんなあさのさんの願いも。
 一風変わった本ですが、中学生に読ませてみたいかも。

2008年2月28日 (木)

十二の嘘と十二の真実

1266「十二の嘘と十二の真実」あさのあつこ   徳間書店   ★★★

 国が飢饉におそわれ、貧しい者たちは次々に死んでいった。しかし、国王と后はそんなことは意に介さず、豪奢な生活を送っていた。

 后を主人公にした十二の話と、なんとなく奇妙な老女の話を紡いだ十二の話。それが不思議な融合をして・・・。

 なんとも奇妙な味わいの二十四話。しかし、独立した話ではなくて、全体で環をなしています。こういう構成は決して嫌いではないですが、あさのさんの描写は時に生々しすぎて、ちょっとしんどいなあ・・・と思うところもありました。

 「バッテリー」の頃から感じていましたが、あさのさんは「こういう話を書きたい!」という熱い思いは人一倍強いのではないでしょうか。でも、それに筆がついていかないというか・・・。今回も、「こういうことを書きたいんだよね」というのはわかるのですが、それを描ききっていないようなもどかしさを感じました。

 なんとも言えない怖さが漂う物語です。「ツル」っていったい何なのでしょう・・・?

2007年11月11日 (日)

The MANZAI 4

1209「The MANZAI 4」あさのあつこ   ピュアフル文庫   ★★★

 「相談したいことが」・・・大好きな恵菜に言われて舞い上がる歩。ところが、現実はそうそう甘くない。秋本との漫才コンビ「ロミジュリ」は、不本意ながら好評なのに、歩の恋は思うに任せず・・・。

 4巻は、「恋」です。ラブです(笑) 3巻以上に恋がテーマです。

 高原と森口はつきあいはじめ、蓮田と篠原もいい感じに。それなのに、歩は恵菜が好きで、恵菜は秋本が好きで、秋本は歩が(?)という三角関係は相変わらず。そういう状況下での出来事に、歩たちは一喜一憂するわけで。

 今回、物語のほとんどが歩の部屋で、秋本たちとしゃべっている状態で展開します(夏祭りのロミジュリ漫才の回想はありますが)。だからこそ、ラストの夕暮れのシーンは印象的。

 秋本と歩の素の状態でのボケ・ツッコミ・トークは、今までで一番すごいです。もう、しつこいくらい。でも、歩がここまで楽にしゃべれるようになってきた・・・ということに、ちょっとホッとします。そして、ずっとおふざけ状態でしゃべっていたからこそ、クライマックスで秋本がふざけていないところが、なんとも言えずよかったです(一瞬だけどね)。

 歩視点で描かれているので、どうしても歩中心で話が進みますが、秋本がもっている影の部分(彼が決して表面に出そうとしない部分)が、非常に気になる私でした。

 

2007年9月25日 (火)

ほたる館物語1

1187「ほたる館物語1」あさのあつこ   ピュアフル文庫   ★★★  

 温泉町にある老舗旅館「ほたる館」の一人娘・一子は小学5年生。なんでもはっきり言わないと気がすまない性質の一子は、仲良しの雪美とけんかしてしまうのだが・・・。

 
解説の佐藤多佳子さんによると「ヤング・アダルトではない、正統派の児童書」。あさのさんのデビュー作です。
 一子の白黒はっきりつけなきゃ気がすまなくて、おなかにためておけない性格が、気持ちいいです。いや、いいことばっかりじゃなくって、人にもそれを要求するので、トラブルになったりするんだけど。一子のまっすぐさは心地よいです。
 それから、ほたる館の面々。女将のおばあちゃんと、若女将のお母さん。天才的な腕をもつ板前のお父さん。この3人をはじめ、一子を取り巻く大人たちも魅力的です。
 わけあり風の客が来る「土曜日のほたる」と、元芸妓を母にもつ雪美との友情を描く「雪美ちゃん」の2編。それぞれで、素朴でまっすぐな一子が、生き生きと描かれています。
 これ、妙な改訂なんかしないで、発表当時のままでいいと思うんですけど。へたに「現在」の話にしてしまうと、かえって違和感があるんですが・・・。

2007年7月29日 (日)

晩夏のプレイボール

1149「晩夏のプレイボール」あさのあつこ   毎日新聞社   ★★★★

 9回裏。二死ランナーなし。4点差。それでも、まだおれたちは終わっていない。
 肩を痛めて投手から野手に転向した真郷は、この場面で代打に指名された。(「練習球」)

 帯のコピーには、「『バッテリー』の著者が贈る、野球を愛する者だけに見えた10の物語」とあります。
 野球を題材にした短編集。「サンデー毎日」に連載されていたようです。読んでいると、あさのさんがいかに「野球を愛する者」を愛しているのかが伝わってきます。
 どの物語も「甲子園」につながっています。甲子園をめざしている人。甲子園に手が届いた人。最高の夢をかなえた人。挫折を味わった人。これから野球に関わろうとする人。それぞれの人生が、野球と甲子園を通して浮かび上がってくる・・・そんな物語。
 唯一連作になっている「練習球」が、とても印象的でした。
 オーソドックスな小説だと思います。その分、あさのさんが描きたいものがストレートに伝わってきて、心地よかったです。ほかのスポーツでも成立する物語のようでいて、やっぱり野球でなければ、甲子園でなければ、これらの物語は成立しないのです。
 私自身、野球が好きで、甲子園に憧れていました。実際に、野球部が県大会で優勝してくれたおかげで、私も甲子園に行くことができました。あの野球に熱中していた頃のことを、この本を読みながら鮮明に思い出しました。 

2007年7月 3日 (火)

ランナー

1133「ランナー」あさのあつこ   幻冬舎   ★★★

 加納碧李(あおい)は、高校1年の秋、1万メートルのレースで惨敗した。そして、碧李は陸上部をやめた。走ることをあきらめてでも、守りたいものがあったから。しかし、碧李の心は揺らぐ。そして・・・。

 「あさのあつこの陸上もの!?」・・・書店で見つけて、思わず声をあげそうになってしまいました。野球(バッテリー)の次は陸上かぁ。佐藤多佳子「一瞬の風になれ」は短距離だったけど、こっちは長距離。ものすごくわくわくしながら読みました。
 うーんと。期待しすぎたでしょうか、私・・・。
 あさのあつこの書くものって、観念的だと思うのです。「一瞬の風になれ」が徹底的にリアルに、肉体的に「走る」ことを描こうとした小説なら、こちらは頭の中でのイメージが中心、という感じで。で、「一瞬の~」を読んでいなければ、これはこれでよかったと思います。ただ、「一瞬の~」のもつエネルギーに圧倒され、まだそれを引きずっている状態では、これは観念的すぎるなあ、と。
 もっとも、走ることそのものよりも碧李やその母、陸上部のマネジャーの杏子の心の動きが大事なのであって、それはそれで、とてもあさのさんらしい描き方がされているのですが。
 自分の心をうまくオープンにできない人を描くのが、あさのさんはうまいです。そして、そういう人の気持ちを解きほぐすキャラクターの配置も。
 ただ、つくづく思うのは。「一瞬の風になれ」の後だというのが・・・。どうしても、比べちゃうんですよ。それが、残念でした。

three bells > あさのさんの陸上ものでましたか!講演会で今書いていますとおっしゃっていて楽しみにしていました。でもちょっと遅かった感アリなんですね。この本が先で一瞬の…が後でも一瞬の…に一票ですか?でも早く読みたいです。 (2007/07/04 23:36)
まゆ > three bellsさん、「一瞬の」とは全く別物なので(いろんな意味で)、比べたりしなければいいのだとは思うのですよ。でも、どちらを先に読んだとしても、私は「一瞬」の方が好きですね。ただ、これはこれで、すごくあさのさんらしい物語だと思います。 (2007/07/05 19:17)

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