栗田有起

2008年6月30日 (月)

オテル モル

1316「オテル モル」栗田有起    集英社文庫    ★★★★

 リハビリ施設にいる双子の妹の代わりに、姪とその父親と暮らす希里。「最高の眠りと最良の夢」を提供する会員制地下ホテルで働き始めるが…。

 以前に、「栗田有起は一作ごとによくなる」と聞いたことがあったので、期待して読みました。うん、期待に違わぬおもしろさでした。
 希里は双子の妹・沙衣とまったく対照的。病弱で、やがてスピンアウトして、薬物中毒になり、希里の恋人を寝とって妊娠してしまった沙衣。施設に入った彼女の代わりに、姪を育て、元恋人と暮らす希里。
 かと言って、希里は耐え忍ぶタイプでもなく、なんだか淡々と日々を過ごしているように見えるのです。
 そんな希里の中に渦巻いているいろんなものが、勤め始めた不思議なホテルに抱きとめられていく…。読んでいて、とても心地よい物語でした。すごく眠りたくなるほどに。
 誰もが割りきれない思いや感情を抱えていて、それは理屈ではどうにもならなくて、そんなものに飲み込まれそうになった時に、オテル・モルは必要になるのかもしれません。
 オテル・モルに訪れる人たちが、安らかに眠れますように。もちろん、希里も。それから、沙衣も。

2006年7月 8日 (土)

お縫い子テルミー

993「お縫い子テルミー」栗田有起   集英社文庫   ★★★

 祖母と母と暮らした島を出た照美は、歌舞伎町で女装の歌手・シナイちゃんに恋をした。彼に出会ったのを機に、流しのお縫い子・テルミーとして生きていくことを決めたのだった。

 タイトルがいい、と思う。この題名を聞いたときから「読みたい読みたい」とずっと思っていた。・・・そう思ったのは、私だけでしょうか?
 テルミーはずっと「島」で居候生活をしてきた女の子。学校にも行かず、祖母から縫子としての技を仕込まれ、他人の家に居候して生活してきた。それが、東京へ出てきて、恋をし(これは決して叶わない恋なのだけど)、自分の天職を見出していく。
 非現実的なムードが漂う中で、テルミーの思いだけは妙にリアルで説得力があって、それが不思議なほどに胸をうちます。テルミーの布への愛着とか、読んでいるとこちらまでうっとりしてくるのです。
 個人的な話ですが。母が編み物をやっていたり(彼女はちぎり絵とか竹細工とか、手仕事ならなんでも好き。不器用ものの私と血がつながっているとは思えない)、亡くなった大叔母は和裁をけっこう本格的にやった人だったりと、幼い頃から「縫う」「編む」という仕事は、ひどく身近なものだったので、こういう題材に異様に反応してしまうのかもしれません。
 人のために服を仕立てるのも素敵だけれど、テルミーが自分の服をつくるところがよかったです。これで、本当にテルミーは「お縫い子」になったのでしょうね。

2005年8月 3日 (水)

ハミザベス

835「ハミザベス」栗田有起   集英社文庫   ★★★

 離婚して以来音信不通だった父が死んだ。まちるは、遺産としてマンションを受け取った。さらに、一匹のハムスターも。
 母から離れ、一人暮らしを始めたまちる。地上33階の生活は、静かに過ぎていく。

 これまた待望の文庫化です。
 表題作ほか、よく似た姉妹の話「豆姉妹」を収録。
 初めてこの本の存在を知った時、「ハミザベス」って何?と思ったのです。人の名前?それとも、何かの呼び名?奇妙なんだけど、印象的。で、読んでみると・・・謎は解けました。
 それにしても、父の死とか、それなりに事件はおこるのだけど、淡々と物語は進むのですね。文章がものすごーくシンプルなせいかもしれません。まちるの心情に触れる部分もあるのだけど、なんというか、あっさりした感じ。そして、スコーンと突き抜けているような明るさがあって。変に深刻ぶったり、しない。
 そういうところが、読んでいて心地よかったです。
 そして、作者の登場人物への視線は、さりげなく優しい。いいなあ、こういう感じ。
 今回、文庫の帯に「私たち、栗田有起作品に夢中です」というコピーがあって、名を連ねているのが、いしいしんじ、江國香織、小川洋子、角田光代、柴田元幸。すごい豪華メンバー。そして、解説はいしいしんじ。これまた秀逸です。
 
 以前から友人お気に入りでチェックしてた作家さんですが、これは「お縫い子テルミー」も「オテル モル」も読まねば!と思いましたよ。

あしか > 私も、栗田有起作品に けっこう夢中です。しかも、作品の後期になるにしたがって尻上がりに良いというのが、今後の期待が持てていいですよね。私、「オテル・モル」が一番良かったですよ。 (2005/08/03 23:02)
ココ > 私も、深刻ぶったりしないところ、栗田さんの特徴だと思います。そしてそういうところが好きです。あしかさんのおっしゃるように、作品を重ねるごとにうまくなっていくので、これからとっても楽しみです。 (2005/08/04 00:02)
まゆ > あしかさんもココさんも、栗田ファンなのですね。
あしかさん、「オテル モル」は友人もかなりプッシュしてるので、読まねば!と決意を固めました。でも、その前に「テルミー」ですね。
ココさん、必要以上に重くないところがいいですね。だんだんよくなっていく作家さんというのも、楽しみ。ほかのも絶対読みます! (2005/08/04 20:46)

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