「た」行の作家

2020年7月27日 (月)

約束の果て 黒と紫の国

3070「約束の果て  黒と紫の国」  高丘哲次      新潮社      ★★★★

亡父の遺言と、父がかつて異国の考古学者から託されたものを、田辺尚文は不承不承引き受けた。それは、「南朱列国演義」「歴世神王拾記」という、正史に存在しない二つの国の物語。これは偽書か?  虚構か?  遺言の意味と父の意図をよく理解できないまま、尚文は舞台となった地へ向かう。


ファンタジーノベル大賞2019受賞作。

先日、Twitterで、作者インタビューを拝読して、興味をもちました。帯には、「物語れ、新世代。-恩田陸 推薦」。これは、読まねばならないでしょう。

正史に記録のない二つの国の歴史。それが交互に読み解かれていきます。二人の王の出会い。二つの国の戦い。そして…。

最近、いろいろ知りたいことがあって、以前より新書等を読むことが増えているのですが、久しぶりに「これが物語の醍醐味!」と興奮しました。知識を得ること、学ぶことは大事です。しかし、本の世界はそんな狭いものではないし、物語のもつ豊穣な世界を楽しめるのは幸せだなあ、と。

あちこちの描写が苦手だったり(グロいのダメ…)、初めはうまく物語に入り込めなかったりしましたが、最後まで読んで、満足しました。これが、たった一人の作者から生まれた物語世界だということに、あらためて感嘆。すごいなあ。

2020年7月 5日 (日)

新版 犬が星見た ロシア旅行

3059「新版  犬が星見た    ロシア旅行」  武田百合子      中公文庫      ★★★★

昭和44年6月、武田泰淳・百合子夫妻と友人・竹内好は、ロシアに旅立った。中央アジアからロシアへ。さらに、北欧へ。百合子の目を通した旅の記録。


武田百合子の「富士日記」は必読…と聞いてはいたものの、三冊もあるので腰が引けて。なら、こっちはどうだ!と。

いやはや。噂に違わずというか…なんとも稀有な書き手でした、武田百合子。気負わない。飾らない。ものすごくフラットな視線。でも、人物の描写を読んでいると、百合子さんがその人を好きか嫌いかわかってしまう。百合子さんは、そういう思いを隠さない。でも、嫌な感じはしない。ただ自分がどう思うかだけで、ジャッジしようとしていないから。

観光地であれ、その地で生活している人たちであれ、同じツアーの人たちであれ、百合子さんはフラットな視線でとらえ、淡々と「記録」していく。自分自身さえも。その文章のなんと心地よいことか。

おもしろいなあと思いつつ、2週間以上かかってやっと読み終えました。一気には読めない。小一時間読むと、もう頭がいっぱいになってしまって。饒舌な文章でもないのに、何故でしょう(ちょっと体調崩してるのもあったかもしれませんが)。

さて、次は「富士日記」。いつ読めるかなあ(苦笑)



2020年5月25日 (月)

持統天皇

3043「持統天皇」  瀧浪貞子      中公新書      ★★★

天智天皇の娘にして、天武天皇の妻。のちに女帝となった持統天皇は、古代国家においてどのような役割を果たしたのか。


女帝は中継ぎ…とよく言われますが、持統天皇にはあてはまらないのです。もちろん、彼女一人で政ができるわけでなく、高市 皇子や藤原不比等や、優秀なブレーンがいたのは確かですが。ただ、政の中心にいて、主導権を握っていたのは確かなようで。

持統天皇の生い立ちをたどりつつ、「大化の改新」「壬申の乱」とは何だったのか、新しい国のかたちがどのようにして出来上がったのかが、わかりやすく説明されています。

先日読んだ澤田瞳子「日輪の賦」や、持統天皇が主人公の漫画・里中満智子「天上の虹」のいろんな場面が脳裏をよぎりました。持統天皇という人物は、歴代天皇の中でも、屈指の大人物です。

しかし、万葉集の原型も彼女によるものだった…? 知らなかった…。勉強します。

2020年4月19日 (日)

世界の辺境とハードボイルド室町時代

3025「世界の辺境とハードボイルド室町時代」  高野秀行・清水克行      集英社文庫      ★★★★

世界の辺境を渡り歩くノンフィクションライターと、日本中世史の研究者。全く畑違いの二人の対談から見えてきた、現代アフリカのソマリ人と室町時代の日本人との共通点とは。


おもしろかったー!

呉座勇一先生の本で紹介されていた一冊。守備範囲の異なる二人が、それぞれの知識や経験をもとに、トークを繰り広げるのですが…。次から次へと、「へぇ~、そうなんだ」「知らなかった」ということが出てきて、飽きません。全然堅苦しくないので、読みやすいし。

日本人の特殊性について日本人はよく語るわけですが、これを読むと「どこが」「何が」特殊なのか、「なぜ」そうなったのか、今までと全く違う世界が見えてきます。やはり、日本だけで日本を論じるのは危ういのだなあ、と。

高野さんの「謎の独立国家ソマリランド」は気になってました。これを機に読んでみようかな。それから、清水先生の著作も気になる! 今まで室町時代はスルーしてきたのですが、今の日本人の元になってるのが室町ときいて、俄然興味がわいてきました。

2020年3月14日 (土)

線は、僕を描く

3013「線は、僕を描く」  砥上裕將      講談社      ★★★★★

両親を事故で失ってから、孤独の縁に落ち込み、生きる意味を見いだせなくなった青山霜介。流されるように進んだ大学で、同級生の古前に頼まれたバイトで、水墨画の巨匠・篠田湖山に出逢う。湖山は水墨画を全く知らない霜介を弟子にすると言い出して…。


本屋大賞の候補にもなったし、漫画化もされていて、話題の作品。(私もずっと「読みたい本リスト」に入れてました)  読んで、納得。

導入部分のあらすじを書いていて気づきましたが、設定だけだと、けっこう無理がある感じなんです。湖山先生を初め、門下の西濱湖峰、斉藤湖栖、湖山の孫娘の千瑛、みんなすごい才能の持ち主で、さらにキャラが立ってるし。霜介はあれよあれよという間に、水墨画の才能を発揮するし。いや~、それはちょっと、ねえ…と言われそうな流れなんですが。

そう思わせないだけの説得力があるのです。それは、「描く」場面のリアリティ。作者の砥上さんは水墨画家。だからこそなのでしょうけれど…普段当たり前にやっていることを、何の知識もない不特定多数の人に、わかるように言語化するって、大変なことです。

私は絵画は好きですが、正直言って、水墨画に興味をもったことは一度もありません。それなのに、「描く」場面にはぐぅっと引き込まれました。

この物語は霜介の成長物語なのかもしれません。でも、理不尽な死を経験したのは、霜介だけではありません。平成からこっち、震災を始めとする大規模な災害や、想像を絶するような出来事で、私たちは理不尽な死が身近にあることをある実感を伴って理解するようになりました。霜介のように脱け殻になってしまうのは、誰にでも起こり得ることなのです。

そんな「私たち」へのメッセージを、この物語から受け取った気がします。湖山先生がなぜ霜介を弟子にしたのか。その真意、霜介に向けられた言葉は、私自身に向けられたもののように感じて、ほろほろと泣いてしまいました。

作者が水墨画を描く動画があります(短いけれど)。描かれるのは、春蘭と菊。物語の世界は、たしかにそこにありました。


2020年2月26日 (水)

大天使はミモザの香り

3008「大天使はミモザの香り」  高野史緒      講談社      ★★★

クラシックに興味のない拓人は、ひょんなことからアマチュアオーケストラに誘われる。そこでコンビを組んだのは、42歳独身彼氏なしの光子。努力の人・光子は、拓人の才能に打ちのめされる。オケの初公演は、ラ・ルーシェ大公アルベールが所有するヴァイオリンの名器「ミモザ」が使われるのだが、そのミモザが消えてしまう。


高野さんは、「カラマーゾフの妹」「翼竜館の宝石商人」の2作しか読んでないので、よくわからないのですが…こういうのも書くんだ…という印象でした。

オーケストラには興味があるので手に取りましたが、設定があまりにも現実離れしていて、序盤はちょっとついていけない感じでした。

まあ、現実離れもある意味突き抜けていて、中盤から徐々におもしろくなってきて、最後まで一気に読んでしまいましたけど(苦笑)

ミステリとしては初心者向けかな。


2019年6月21日 (金)

明治乙女物語

2915「明治乙女物語」 滝沢志郎   文春文庫   ★★★

 

東京高等師範女子部。通称「女高師」。まだ女子学生には帝国大学の門が閉ざされていた時代、ここが女子の公教育の最高峰であった。文部大臣森有礼肝いりの舞踏会に出席した女高師の学生たちは、爆発事件に遭遇する。その犯人と思われる車夫を見た野原咲と駒井夏は、さらなる事件に巻き込まれていく。

 

「いだてん」前半のクライマックスは関東大震災なのですが、その直前には女学生たちがスポーツに目覚めるさまが描かれていました。あれは大正時代ですが、女学生というのにアンテナが高くなっていて、これを発見。そういえば、松本清張賞を受賞していて、いつか読もうとチェックしていた一冊でした。

こちらは、明治の鹿鳴館華やかなりし頃の物語。明治21年といえば、「いだてん」金栗四三さんはまだ生まれていません。その頃、欧化政策の影響を受けて、女高師の制服が洋装だったというのにまずビックリ(その後、和服になった由)。女子教育の最先端で学ぶ女学生たち・・・咲、夏、その後輩のキン、みね・・・たちの物語。とはいえ、女学生の青春だけでなく、咲とゆかりのある人力車夫・久蔵が関わる事件から、当時の国の在り様や、それに翻弄される庶民の姿が描かれるミステリ、です。

途中まで気づかず読んでいたのですが、久蔵の「恩人」のモデルはあの人だったのか、と。そのエピソードと、クライマックスの天長節舞踏会の場面で、「国のため」という権力者の意識が、いかに弱者を虐げているのかが浮き彫りになります。それでも、それに抗って、生きる道をつくろうとする咲たちの姿は実にたくましく、美しかったです。

 

 

2019年6月 2日 (日)

ディス・イズ・ザ・デイ

2906「ディス・イズ・ザ・デイ」 津村記久子   朝日新聞社   ★★★★

 

22チームが所属するサッカー二部リーグ。それぞれのチームに縁あってスタジアムに足を運んだり、サポーターになったりした人たちの、それぞれの人生を切り取った物語。

 

すっかりサッカーには縁遠くなってしまって、最近はW杯くらいしか見なくなってしまいました。Jリーグ発足何年目までかは見てたのですが。東京まで観戦に行ったこともあったのですが。

というわけで、これも朝日新聞連載中、横目で眺めるだけでスルーしてました。ただ、なんとなく気になってはいたのです。

Jリーグの二部という、とても微妙な設定が、物語の中でよく効いています。そして、各チームの特徴やエンブレムやマスコットや順位表や・・・とにかく設定がマニアックすぎて(笑) すごいなあ、これ、津村さんが全部考えたのかなあ、大変だけど楽しかっただろうなあ・・・と、笑ってしまいました(そういうの、嫌いじゃない)。読みながらも、ついつい気になって、エンブレムの図案を確認したり、あれ?このチームって前にも出てきたよね?と遡ってみたり。いやあ、読書がはかどらない(笑)

そうやって読み進めた物語に登場するのは、なんとなく冴えない人たち。ものすごくどん底ではないけれど、何か停滞していたり、ちょっと気がかりがあったり、何かの過渡期に直面していたり。そんな、誰にでもありそうな「何か」を抱えた人たちの断片が、サッカーの試合を通して描かれます。

と言っても、主役はあくまで「サポーター」。熱心な人もいれば、なりゆきでスタジアムに来てしまった人とか、さまざま。それで、サッカーを見たからといって、何かが劇的に変わるわけでもなく。でも、ほんのちょっと、何かが動いたような気がする。そんな話。

このゆるさがものすごくリアルで、今の私にはとっても心地よかったです。

サッカー、楽しそうだなあ。ちょっと行ってみたくなりました。

 

2019年5月 2日 (木)

方壺園

2893「方壺園」 陳舜臣/日下三蔵 編   ちくま文庫   ★★★

 

晩唐の長安。塩商・崔朝宏の邸内の建物・方壺園で、詩人の高佐庭が殺された。その現場は密室で、犯人はわからずじまい。しかし、その翌年、方壺園で書生が自殺したことから、真実が明らかに・・・。

 

朝日新聞の書評欄に載っていたので、手に取りました。陳舜臣を読むのは初めて。

「方壺園」「大南宮」「九雷渓」「梨の花」「アルバムより」「獣心図」「スマトラに沈む」「鉛色の顔」「紅蓮亭の狂女」の9編。

密室ものから、フーダニット、ハウダニットなどなど、古き良き時代のミステリという感じで、楽しみました。動機にあるのは、憎しみや妬みなど、人の心のどうしようもない暗部であることが多いのですが、その辺の心理描写とトリックが違和感なく融合しています。

「九雷渓」と「アルバムより」が私の好みでした。インドを舞台にした「獣心図」は、趣が異なってインパクトありました。

2018年11月30日 (金)

恋牡丹

2828「恋牡丹」 戸田義長   創元推理文庫   ★★★

北町奉行所の定廻り同心・戸田惣左衛門は、「八丁堀の鷹」と呼ばれるやり手だが、七夕の夜、吉原で見世の主が殺された事件の容疑をかけられる。そんな惣左衛門を窮地から救ったのは、見世の花魁・牡丹だった。

第27回鮎川哲也賞最終候補作を改稿したもの。鮎川賞で時代ものとは珍しい・・・ということで、読んでみました。

八丁堀の鷹こと戸田惣左衛門と、その長男・清之介を主人公にした時代ミステリ。「花狂い」「願い笹」「恋牡丹」「雨上り」の4編の連作。舞台は幕末です。

堅物の惣左衛門と牡丹のストーリーか?と思いきや、後半2編は清之介が主人公。さらに、この清之介がどうにも役に立たないヤツで、イライラさせられることはなはだしかったのですが(苦笑)

まあ、最後は清之介も目が覚めたようでホッとしました。でも、明治の世を生き延びられたのかしら・・・?

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