いしいしんじ

2008年5月25日 (日)

プラネタリウムのふたご

1300「プラネタリウムのふたご」いしいしんじ   講談社文庫   ★★★★

 プラネタリウムに捨てられていたふたごの兄弟は、彗星にちなんでテンペルとタットルと名づけられた。不思議な運命に導かれるように、テンペルは手品師に。タットルは郵便配達をしながら、養父と同じ星の語り部に。そんなふたごを襲った運命とは・・・。

 「でも、それ以上に大切なのは、それがほんものの星かどうかより、たったいま誰かが自分のとなりにいて、自分とおなじものを見て喜んでいると、こころから信じられることだ。そんな相手が、この世にいてくれるってことだよ」・・・泣き男(テンペルとタットルの養父)のこの言葉がすぅっと心にしみこんできました。

 最終章は、思わず涙がこぼれました。テンペルの死に接したタットルの思いが、その行動があまりに・・・。そもそも手品師になったテンペルも、プラネタリウムで語るタットルも、それは間違いなく天職なのだけど、自分のためだけでなく見てくれる(聴いてくれる)人たちのために、一心にやっていたのです。その心根の純粋さに、私は心打たれてしまったのでした。だからこそ、タットルはああいう行動をとったのでしょうし、それはテンペルがもっとも喜ぶことだったのでしょう。

 私はいしいしんじを読むと、いつも宮沢賢治を読んでいるような気分になります。現実から一歩ずれたような物語世界。古いものを大事にしているようで、技術の革新にも無関心ではないところ。文学的かと思うと、理系っぽい表現が出てくる。独特の比ゆ表現。

 賢治の作品が、自他との関わりを描きつつ、最後は自己の内面に収束していくのに比べて、いしいしんじは最後に他を優しく包む込むようなところがあると思うのです。悲しいようなせつないような、泣きたい気分にさせられるけれど、不思議にほんのり幸せな気分になる・・・それがいしい作品の魅力だと思うのです。

 

2006年4月 7日 (金)

トリツカレ男

963「トリツカレ男」いしいしんじ   新潮文庫   ★★★★

「おーい、ジュゼッペ、トリツカレ男。今度はいったいなんだい、なににとりつかれているんだい?」・・・何かに夢中になると、とりつかれたようにそればかりになってしまうジュゼッペ。そんな彼がとりつかれたのはペチカという少女。悲しみに覆われた彼女の心を救おうと、ジュゼッペがとった行動は・・・。

 「麦ふみクーツェ」も積読してるのに、こっちを先に読んでしまいました(薄かったから)。これは全編詩のような、独特の文章。思わず音読したくなりました。これを歌うように読めたなら、どれだけ楽しいことでしょう。
 ペチカという少女に恋をしたジュゼッペは、彼女の心のくすみを取り払おうとします。喘息で入院している母親に治療法を教え、ペチカがかえた借金を帳消しにし(いずれも、彼が今まで「トリツカレ」たものを活用して!)、そして、ペチカの亡くなった恋人になりきります。ジュゼッペの思いは、あまりにも強く、せつなく、優しく・・・。「愛する人のために」という純粋な思いに、泣きたいような気持ちにさせられました。
 ジュゼッペとハツカネズミとのやりとりが、とてもよかったです。
 なんとなく、宮沢賢治を読んだ時と同じような気分になりました。せつなくて、あったかい。そんな感じ。

トントン > 私もこれ買いました♪本プロでも皆さんの評価が高いので読むのが楽しみです。宮沢賢治を読んだ時と同じような気分・・・じっくり味わってみたいです。 (2006/04/07 22:44)
青子 > まゆさん、私も買いましたよ~♪ とっても素敵なラブストーリーです。こんなに純粋に誰かのことを思えるってステキなことですね。「麦ふみクーツェ」も買われたのですね。感想UP待ってま~す。 (2006/04/08 14:05)
ブースカ > やっぱり、薄いのから行ってしまいますよね(笑)。まゆさん、私もこの本は音読したくなりましたよ。ちっちゃい子がそばにいたら、読んで聞かせてあげたくなりました。たぶん、読んでる自分の方が楽しんじゃうでしょうけど。 (2006/04/08 18:41)
まゆ > トントンさん、私もさっきみなさんの感想を拝見してきましたが、高評価でしたね~。でも、ほんとにいいんですよ。短い話ですが、じっくり読んでください。 (2006/04/08 22:50)
まゆ > 青子さん、奇も衒いもなく、純粋に人を思うことのすばらしさに素直に感動できました。「クーツェ」、積読してるんですよ。早く読みたいと思いつつ・・・。 (2006/04/08 22:53)
まゆ > ブースカさん、そう、薄いと手にとりやすくって(笑)これ、音読したらどんなに楽しいだろうと思います。オペラのとこなんか難しそうだけど。一人で音読してるのも妙な気がしてやりませんでした(笑) (2006/04/08 22:55)
buudy > 新潮文庫のやつって、表紙が恐くないですか?まあ、それはともかく、とてもおもしろかったです。ぼくもまゆさんと同じでジュゼッペとハツカネズミのやりとりが気に入りました。 (2007/01/21 17:03)
まゆ > 表紙、怖いですね(笑)だから、最初はちょっと手が出なかったです。でも、いい話ですよね。 (2007/01/21 21:22)

2004年9月 9日 (木)

絵描きの植田さん

596「絵描きの植田さん」いしいしんじ   ポプラ社   ★★★★

 「絵描きの植田さんは、二年前、並はずれて器用な一匹の家ねずみのせいで、耳がほとんどきこえなくなった」・・・聴力とともに大切な人を失った植田さんは、湖のこちら側に移り住む。そこに、「向こう側」からイルマとメリの母子がやってきた。

 「ぶらんこ乗り」がとってもよかったので、期待して読みましたが、これまたよかったです。
 冬の話ですが、読んでいるうちに冬の空気があたりに漂っている気がしました。すごく静かな静かな物語。植田さんが背負ってしまった悲しみなど、一言も語られません。でも、それが響いてきます、しんしんと。
 何もできずに大切な人を失ってしまった植田さんが、絵を描くことで少女の命をこの世につなぎとめるクライマックスでは、胸がいっぱいになりました。そうすることで、植田さん自身もまた救われたのだよなあ、と。
 植田真さんの絵がまた素敵です。
 学校の図書館から借りてきたんですが、手元に置いておきたくなってます。

青子 > まゆさん、これも素敵な本みたいですね。いま、いしいしんじにハマっています。絶対読みたいです。 (2004/09/09 22:56)
EKKO > 「ぶらんこ乗り」がとても良かったのでいしいさんを追いかけたいと思っています。この本も良さそうですね。はやく読みたいです。 (2004/09/09 23:06)
まゆ > 青子さん、私はまだ2作目ですが、とってもよかったです。しんと静かな物語世界のとりこになっています。
EKKOさん、私も追いかけようと思ってます。「麦ふみクーツェ」も「プラネタリウムのふたご」も気になってます。 (2004/09/09 23:38)
nine > こんばんは。この本、絵がほんとに素敵ですよね!あの絵をみてると作中の植田さんの気持ちが伝わってくるようで。いしいさんの物語ともマッチしていてよかったです。 (2004/09/10 00:56)
まゆ > そうそう、あの絵がいいんですよね。思わずじいっと見入ってしまいました。いしいワールドにぴったりでしたね。 (2004/09/10 20:14)
たばぞう > これは絵本でしょうか?。どちらにしても読みたいです~。 (2004/09/10 22:58)
まゆ > 中編程度の長さの小説に、絵が何枚かついてます。あんまり具体的に説明しちゃうと、読む楽しみが半減しちゃうので、ここで自粛。いい話ですよ。おすすめします。 (2004/09/11 00:23)

2004年8月 1日 (日)

ぶらんこ乗り

568「ぶらんこ乗り」いしいしんじ   新潮文庫   ★★★★★

「おたがいにいのちがけで手をつなげるのは、ほかでもない、すてきなこととおもうんだよ」
 
 天才と呼ばれていた弟は、お話を作るのが上手だった。ある日、彼は声を失ってしまう。それと引き換えのように、動物たちと心を通わせるようになり・・・。

 まさかこれが文庫化される日が来るなんて! 書店に一冊だけあったこの本を見つけた瞬間、抱え込んでしまいました。それほど読みたい物語だったのです。
 とっても頭のいい弟は、たった4歳で物語を書き綴ります。それをお姉ちゃんに聞かせることが、彼をこの世につなぎとめている。だけど、彼が声を失ってから、世界は変容していくのです。どうしようもない孤独。それに向き合おうとする彼。
 そして、姉弟にはさらに過酷な運命が待ち受けています。悲しい結末が予感されるのに、感傷的になりすぎず静かに運ばれる物語が、とても魅力的でした。
 積み重ねられるエピソードに心揺さぶられましたが、いちばん効いたのは、祖母が連れ帰った犬のお腹に書かれたメッセージのところ。さらに、弟が最後に書いた「お話」の下書き。これがとどめでした。涙がとまらなくなってしまって。
 弟はただ賢いだけではなく、幼くして人を愛することを知っていたという意味で天才だったのかもしれません。
 「いのちがけで手をつなぐ」こと・・・考えさせられました。  

たばぞう > まゆさんも読まれましたか~。私は昨日購入しました。図書館本がたまっているので、もう少し後になりそうですが、本当に良さそうな作品。いしいさんは「麦踏みクーツェ」と「プラネタリウムのふたご」を読みましたが、どちらも良かったです。 (2004/08/02 12:52)
青子 > まゆさんも満点ですね。「指の音」を半分の犬に設定された意図が、もうたまらなく心にヒットしました。誰かとむしょうに手をつなぎたくなる読後でした。 (2004/08/02 17:48)
まゆ > たばぞうさん、いしいさんはものすごく気になっている作家さんなのですが、期待通りでした。とってもよかったですよ。「クーツェ」も「ふたご」も読みたくてたまりません。
青子さん、指の音の役割は涙ものでした。弟が姉をこの世につなぎとめるために、一生懸命書いたお話には泣きましたよ。私も誰かと手をつなぎたいと思いました。 (2004/08/02 18:32)

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