プラネタリウムのふたご
1300「プラネタリウムのふたご」いしいしんじ 講談社文庫 ★★★★
プラネタリウムに捨てられていたふたごの兄弟は、彗星にちなんでテンペルとタットルと名づけられた。不思議な運命に導かれるように、テンペルは手品師に。タットルは郵便配達をしながら、養父と同じ星の語り部に。そんなふたごを襲った運命とは・・・。
「でも、それ以上に大切なのは、それがほんものの星かどうかより、たったいま誰かが自分のとなりにいて、自分とおなじものを見て喜んでいると、こころから信じられることだ。そんな相手が、この世にいてくれるってことだよ」・・・泣き男(テンペルとタットルの養父)のこの言葉がすぅっと心にしみこんできました。
最終章は、思わず涙がこぼれました。テンペルの死に接したタットルの思いが、その行動があまりに・・・。そもそも手品師になったテンペルも、プラネタリウムで語るタットルも、それは間違いなく天職なのだけど、自分のためだけでなく見てくれる(聴いてくれる)人たちのために、一心にやっていたのです。その心根の純粋さに、私は心打たれてしまったのでした。だからこそ、タットルはああいう行動をとったのでしょうし、それはテンペルがもっとも喜ぶことだったのでしょう。
私はいしいしんじを読むと、いつも宮沢賢治を読んでいるような気分になります。現実から一歩ずれたような物語世界。古いものを大事にしているようで、技術の革新にも無関心ではないところ。文学的かと思うと、理系っぽい表現が出てくる。独特の比ゆ表現。
賢治の作品が、自他との関わりを描きつつ、最後は自己の内面に収束していくのに比べて、いしいしんじは最後に他を優しく包む込むようなところがあると思うのです。悲しいようなせつないような、泣きたい気分にさせられるけれど、不思議にほんのり幸せな気分になる・・・それがいしい作品の魅力だと思うのです。
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