ノースライト
2923「ノースライト」 横山秀夫 新潮社 ★★★
「あなた自身が住みたい家を建ててください」・・・クライアントにそう言われて、建築士の青瀬稔が建てた家は、斬新な設計で高く評価された。しかし、その家に誰も住んでいないのではないかと聞き、青瀬は不安に駆られる。信濃追分のその家は、確かに無人だった。人が住んだ形跡はなく、クライアントの吉野とも連絡がとれない。残されていたのは、一脚の椅子だけ。混乱した青瀬は、吉野一家の手がかりを求めて奔走するが、同時に所属している事務所に大きな仕事が舞い込み・・・。
久しぶりの横山秀夫は、建築士が音信不通になったクライアントの行方を捜すミステリ。警察が介入するでもなく、ただひたすら素人による人探しの物語。
青瀬という男は、バブル期は大きな建築事務所で働いていたものの、バブルがはじけると同時に職を失い、かなりすさんだ生活をした時期も。その時期に離婚もし、今は娘と月に一度面会している。現在は友人・岡嶋の経営する建築事務所で図面を引いているが、自分の仕事に忸怩たる思いを抱いている。岡嶋は大きな仕事のコンペへの参加権を勝ち取ってくるが、何やらきなくさい。一方、信濃追分のY邸の持ち主・吉野は行方不明で、青瀬は吉野の身に何かあったのではないかと、不安に駆られる。そして、Y邸に残されていた椅子が、ドイツの建築家タウトの設計ではないかと言われ、タウトの波乱に満ちた人生に惹かれていく。
いろんなパーツが網の目のようにつながっていって、最終的に見えてくる図はある意味ものすごく腑に落ちるのですが・・・。なんというか、青瀬たちおじさんの感慨が、ちょっとしんどかったです。今まで横山作品を読んでも、私はあまり気にならなかったのですが、今回はちょっと引いてしまいました(苦笑) 人は間違うものだし、正しくばかりは生きられないのはわかりますが、なんかなあ、と。青瀬にしろ、岡嶋にしろ、自分たちの世界に酔ってやしませんか?と思ってしまって。これは、私の感覚が以前とは変わってしまったということなのだと思います。
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