藏(上)(下)
2232「藏(上)(下)」 宮尾登美子 毎日新聞社 ★★★★★
新潟の大地主で蔵元の田之内家に女の子が生まれたのは、はげしい吹雪の夜だった。「烈」と名付けられたその子は、成長するにつれ、視力を失ってしまう運命を背負っていた。
もうずいぶん前に一度読んだのです。先日、追悼番組でドラマ「藏」の第一回を再放送していました。それを見たら、どうしても読み返したくなって、図書館で借りてきました。
初めて読んだ時も好きでしたが、再読してさらに心打たれました。
視力を失うも、誇り高く、賢く美しい少女・烈。その叔母であり、育ての母として生きた佐穂。烈の父で田之内家の当主・意造。この三人を軸に、物語が展開します。
まず、烈。初読のときは、彼女に強烈に惹きつけられてしまったものですが、今回はもう少し落ち着いて読めました。大事に育てられたお嬢様なので、我儘なところも多く、なんだかんだ言って我を通してしまうのですが、あまりにも凛としていて、嫌いになれないのです。表面的な強さだけではなく、佐穂の言葉によれば母譲りの芯の強さ、運命に立ち向かっていく強さが烈にはあります。まさに物語のヒロインです。
度重なる不幸と病に気力を失った意造を、烈が立ち直らせるところなど、爽快ですらありました。家の体面にこだわる意造を、古いくびきから解き放ったのは、烈の強さだったのかもしれません。
そして、もう一人のヒロイン・佐穂。姉・賀穂の嫁ぎ先で、姪の烈の世話をし、そのまま終生を田之内家で暮らした女性。賀穂の死後は意造ののち添えになる話もあったのに、それがかなわなくとも、意造への思いを秘めながら、烈とともに生きた「育ての母」。耐え忍ぶタイプの女性なのですが、静かにしっかりと根を張り、家族を支える強さをもった女性です。今回は、その佐穂の存在に惹かれました。
ひたすら烈に寄り添い、意造の母・むら亡きあとは田之内家の奥を采配し、周囲からも頼られ、それでも己の分を超えぬよう気配りし・・・。心穏やかではいられないことも一度ならずあったのに、ひたすら耐え、烈のために生きた女性。初読のときは、佐穂は幸せだったのだろうかとも思ったのですが、今読んでみると見事な生き方だったと思えるのです。
上下巻でしたが、今日一日で一気読み。でも、じゅうぶんに堪能いたしました。
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