1465「八日目の蝉」角田光代 中央公論新社 ★★★★
希和子は、不倫相手の妻が産んだ子供を、一目見ようと思った。赤ん坊の笑顔、あたたかさ、やわらかさ・・・気付くと、希和子は赤ん坊を抱いていた。「私があなたをまもる」・・・その日から、希和子の逃亡が始まった。
さて、感想をどう書こうか・・・。読み終えて30分以上経つのに、まだ頭の中がまとまりません。
この物語は出版当時から気になっていましたが、設定を聞いただけで気が重くなったので、読む勇気はありませんでした。でも、ドラマ化され、その予告編を見ているうちにどうにも気になってしまい・・・やっぱり、読んでみよう、と。よりによって、精神的なエネルギーが枯渇してるこんな時に読まなくても・・・とは思いましたが、最初の1ページを読んだら止められず。そして、今、ぐったり疲れています(苦笑)
物語は、希和子が薫を連れて逃亡する章と、その薫(本当の名前は恵理菜)が大人になってからの章とで構成されています。
希和子サイドを読んでいるうちは、見つかることを恐れながら必死で逃亡生活を続ける希和子に、つい感情移入してしまいました。希和子は、ただもう「母」でしかなくなっていました。母である自分と、自分を母にしてくれる薫と、世界を構成しているのはそれだけだったのでしょう。だけど、薫を利用しているわけではなくて、恐ろしいほど純粋に、母として薫を守ろうと必死なのです。薫と生きていきたいと、それだけを望んで・・・。そこには、欠片ほどの悪意もないのです。それが、せつなすぎました。犯罪だとわかっていても、希和子が一日でも長く薫といられるように・・・と願ってしまいました。
でも、薫(恵理菜)サイドを読むと、その熱がすうっと冷めていきました。当たり前ですが、希和子のとった行動は、恵理菜と本当の家族の人生を大きく揺さぶっていました。何より、恵理菜自身が、自分の存在価値を見いだせないような人間になっているのです。これはまた、衝撃的でした。「悪い女」に誘拐された子供・・・そう言われて生きてきた恵理菜は、妻子ある男性とつきあっていて・・・。なんかもう、やりきれなかったです。
それが、恵理菜の妊娠を機に、彼女が大きく変わり始めた時、世界が再び色づいたような気がしました。自分も「母」になるのだと、そして、希和子も、実の母も、やはりどうしようもなく「母」なのだと、恵理菜がはっきり理解した瞬間。恵理菜の扉が、ようやく外に向かって開かれたのだろう、と感じました。
「八日目」を生きている希和子も、恵理菜も、つらいこともあるだろうけど、それでも生きていけるんだ、生きていていいんだ・・・と思えるラストを迎えて、ようやく私も深呼吸できた気分でした。
希和子のとった行動は、犯罪です。善悪でいったら、悪です。それでも・・・薫と引き離される時に希和子が言った最後の言葉は、母でなければ出てこないものだったと思うのです。許されるものではないだろうけれど、そうしなければ生きられなかったのかもしれません。
やっぱり、思考がまとまりません。でも、希望が見えるラストでよかったと思います。
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