どんぐり姉妹
1674「どんぐり姉妹」よしもとばなな 新潮社 ★★★
「私たちはどんぐり姉妹です。ネットの中にしか存在しない姉妹です。私たちにいつでもメールをください。時間はかかっても、お返事をします。」・・・人々のやり場のない気持ちを受け止めて、返信する。そんなサイトを開設しているどん子とぐり子。幼い頃に両親を失った二人は、メールをくれる人たちを癒しつつ、自分たちの心も癒していく・・・。
よしもとばななを読むのは久しぶりです。これは出た当時からチェックしていたのですが、先日、図書館でゲットしました。
図書館には、震災後初めて、借りっぱなしにしていた本を返しに行きまして。館長さんが以前お世話になった元校長先生なので、ちょっとご挨拶をして、こんな非常事態だし、借りていっても読めるか、いつ返しに来れるかわからないので、今日は借りないで帰ります・・・と言ったら、「借りていきなさい」と。「本を読むのが好きなんだから、少しでも読んだ方がいい。返すのは遅くなっても仕方ない。確実に返却してくれれば、それでいいから」・・・ありがたかったです。で、これを借りてきました。
昨日読み終えた「天平の甍」に比べたら、読みやすいこと(笑) 小説というよりは、散文詩、あるいは歌のような文章ですね。
ネットだからこそ、言えること。もやもやしたものを吐き出してしまいたいけれど、そのあてがない時。身近な人だからこそ、言いづらいこと。それをキャッチしてくれるのが、「どんぐり姉妹」。姉が返信を書き、妹がデータ管理をして・・・決して長くない、淡々としたメールを返すだけなのだけれど、それで何かが確実に癒される気がするのは、わかります。実際、私もネットでのお友達に助けられることが多いので。
ただ、それはどんぐりたちにとっても、実は必要な活動で。ばななさんの物語には、大切な人の喪失と、そこからの再生がよく描かれますが、これも例外ではなく。幼くして両親を事故で亡くした姉妹は、その後の人生でも大事な人たちの死を何度か経験します。何より、二人は「子ども時代」を失ってしまい、30代になるまでずっと、無意識のうちにそれを取り戻そうとしてきたようなところがあります。しかし、徐々に大人の時間が近づいてきていて、どうやら二人はまたそれぞれに、新しい時間を歩きだしそうな気配で、物語は幕を閉じます。
人と人との不思議なつながり。それは、ネットにおいても同じで、そうなるべくしてそうなっていく・・・そのサインを、人が見逃さなければ、きちんとつながっていくのだというのは、ものすごく観念的ではあるけれど、わかる気がします。
途中に挟み込まれている写真が、とても素敵でした。思わず、切り取って、部屋に飾っておきたくなるくらいに。
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