京極夏彦

2014年6月22日 (日)

遠野物語 remix

2142「遠野物語 remix」 京極夏彦×柳田國男   角川文庫   ★★★

題名通り、京極夏彦による「遠野物語」のリミックス版です。単に現代語訳するだけでなく、話の順序を入れ替えたり、注を自然な形で補ったりして、現代版「遠野物語」として生まれ変わっています。

それでいて、元の物語のもつ妖しさや、人の心をとらえて離さない異世界への誘いなどのテイストは、失われていません。現代の語り部・京極夏彦の真骨頂でしょう。

私も「遠野物語」は、全文を読んだわけではありません。読みづらくて、いくつかの話を飛ばし読みしただけです。そういう人にもおすすめです。

世の中の「不思議」をあえて書き残す・・・デジタル時代の現代だからこそ、必要なことかもしれません。

2014年1月13日 (月)

書楼弔堂 破曉

2084「書楼弔堂 破曉」 京極夏彦   集英社   ★★★★

明治も二十年過ぎる頃。ひっそり佇む「書楼弔堂」には、探書に訪れる客が・・・。文明開化の世において、自らの居場所を見つけられず悩む者たちがめぐりあう「一冊の本」とは。

最近、明治を扱った小説やドラマ等に触れる機会が増えました。それだけ、明治は遠い歴史になったということなのでしょう。これもまた、明治の世の片隅にひっそりと存在した本屋が舞台の連作です。

とはいえ、正体不明の本屋の主とそこで働く美童はともかく、登場人物は有名人がたくさん。これから読む方もいらっしゃるでしょうから、ネタバレは自粛しますが。歴史的あるいは文学史的な有名人もいれば、京極作品の読者ならニンマリしてしまう「有名人」も。

いつの世も、時代の本流にのれない(あるいは、のりたくない)人たちはいるもので。明治であれば、欧米列強に肩を並べよう、和魂洋才などという、「前向き」な時流についていけず、ひっそりと闇の中にうごめいているような人たち。彼らに、いかにも京極夏彦らしいスポットをあてた作品です。

また、江戸期と大きく変わった「本」の制作や流通に関する話も多く、興味深かったです。さらに、「本とは何か」という根本的なことにも、京極さんらしい迫り方をしていて、非常におもしろかったです。

2013年10月15日 (火)

百鬼夜行 陽

2057「百鬼夜行 陽」 京極夏彦   文藝春秋   ★★★

百鬼夜行長編シリーズのサイドストーリーにして、妖しきものに憑かれた人間たちの心象を描く短編集、第2弾。

「陰」を読んだのはもうずいぶん前なようです(このブログに記録がないところを見ると)。その時、えらい目にあったので、これは敬遠してました。なぜって、サイドストーリーというけれど、本編の内容が複雑すぎて、どれがどの事件に関わる話なのか、わからなかったのです(泣)

でも、やっぱり気になったので、あまり深く考えず、単なる短編集として読んだら・・・けっこうおもしろかったです。京極作品の語り口は、怪談のそれなので、はまるとどんどん読んでしまいます。さすが。

とはいえ、読み終えても胸の奥がざわざわするような、微妙な後味の悪さが残る話が多いので、弱っているときに読むと、気が滅入ります(苦笑)

ただ、最終話であの面々が登場! しかも、エノさんにまつわる話だったので、これだけは嬉しかったです。まあ、あまり明るい話ではないですが。

このシリーズ、長編はまだ出るんでしょうかね・・・。もう、記憶が・・・。

2012年12月 3日 (月)

死ねばいいのに

1946「死ねばいいのに」 京極夏彦   講談社   ★★★

死んだアサミのことを聞きたい。そう言って、アサミの関係者のもとを訪れる青年・ケンヤ。彼と話しているうちに、みな、今まで気づかなかった自分の姿に気づかされ・・・。

あまりに強烈なタイトルなので敬遠していましたが、文庫のあらすじを読んだらおもしろそうだったので。

京極堂シリーズはしばらくご無沙汰ですが、京極夏彦の書くものって、基本的に「憑き物落とし」なのかな、と感じました。ケンヤという青年と対話しているうちに、世間の常識や、その人の思い込み、弱さ、醜さみたいなものがだんだん顕わになっていって、最後にはケンヤの一言で・・・。

もっとも、京極堂は意図的にそれをやっていて、ケンヤは無意識にというところは、決定的な違いですが。要するに、京極夏彦が「書く」ということの意味の一つは、「憑き物落とし」にあるのかな、と。私たちの思いこみとか、どうしようもない自意識とか、社会のひずみとか。それを「落とし」てくれるのかな、と。

実際、読んでいるとかなりキツイところもありました。登場人物の醜さや情けなさが他人事と思えなくて(苦笑)

2010年12月 6日 (月)

数えずの井戸

1625「数えずの井戸」京極夏彦   中央公論新社   ★★★★

番町の青山家の屋敷、通称皿屋敷で、怪事が起こるという・・・。夜な夜な井戸から亡霊が出て、数を数えるのだと。たしかに当主・青山播磨をはじめ、家中の者たちが惨殺されたという忌まわしい事件はあったのだが、詳細は誰も知らない。関わった人間は、皆死んでしまったから。いったい、皿屋敷で何があったのか・・・。

久しぶりに京極夏彦を読みたくなって、借りてきました。厚さにビビって、今まで手が出なかったのですが。

「嗤う伊右衛門」に連なるシリーズ(?)で、今回のネタは番町皿屋敷。お菊さんが「いちま~い、にま~い・・・」ってやつですね。おなじみ御行の又市もちょこっと登場します。

貧乏旗本の若き当主・青山播磨。その屋敷に奉公にあがることになったお菊。青山家の用人の柴田十太夫。中間の権六。播磨の縁談相手の大久保吉羅。播磨の遊び仲間の遠山主膳。お菊の幼なじみの三平。・・・これらを主な登場人物が、「数える」をキーワードに、それぞれの心持ちを語っていく構成。家宝の十枚ひと組の皿をめぐって、複雑な人間模様が展開するのですが・・・。

いつものことながら、読んでいると何が真実で、何が嘘なのか、どちらが表で裏なのか、誰が正しくて、誰が悪人なのか・・・わけがわからなくなってきます。正気なのは誰なのかすら、もうわかりません。まるで万華鏡を見ているかのように、読みすすめるにつれて見えてくるものがどんどん変わり、自分が何を信じていいのかわからなくなってきます。

そして、たどり着く先は・・・。あまりに悲惨な決着に、そうなるとわかっていても、茫然としてしまいました。

人が見ているものというのが、いかに主観的なものであるか。人の見方・考え方など簡単に理解できるものではないということ。京極作品で繰り返し描かれていることなのですが、またしても翻弄されてしまいました。

シンプルですが、凝った装丁が、まるで井戸の底に落ちていくようなこの物語の効果を高めています。

2010年9月 9日 (木)

西巷説百物語

1561「西巷説百物語」京極夏彦   角川書店   ★★★★

「これで終いの金毘羅さんや」・・・上方の裏仕事の元締・一文字屋仁蔵のもとに集まってくる数々の因縁話。口先三寸と仕掛けで、彼らを彼岸に連れていくのは、御行の又市の悪友の靄船の林蔵と、その仲間たち。はたしてこの世に不思議はあるのか・・・。

巷説百物語シリーズ、上方編。

京極夏彦、最近すっかりご無沙汰してましたが、やっぱりこのシリーズはおもしろいです。

今回は、上方で林蔵たちが活躍するのですが、もう話のパターンはだいたい読めていて、「ああ、もう仕掛けが始まっているんだろうな」とは思うのです。ただ、それがどういう仕掛けで、どこに着地するのか・・・予想していても、「え、そういうこと?」という意外性があって、楽しめました。

しかし、人の生き死に、欲のすさまじさ・・・読んでて気が重くなるのも事実。土佐の刀鍛冶の話なんか、やりきれなかったですね。疫病の話も。すさまじすぎて。豆狸の話だけが、少し救いだったかな。

今回は、又市の出番はなしか・・・と思っていたら、ちゃんと読者サービスがありました。林蔵の決め台詞もいいですが、やっぱり又市のあのセリフを聞かないと、このシリーズはしまりません。

2007年5月12日 (土)

前巷説百物語

1114「前巷説百物語」京極夏彦   角川書店   ★★★★★

「大損まる損困り損、泣き損死に損遣られ損。
 ありとあらゆる憂き世の損を、見合った銭で肩代わり。」
 口先三寸で世を渡る小股潜りの又市は、ひょんなことから人の「損」を引き取るという奇妙な裏稼業をもつ「ゑんま屋」お甲たちと関わることになる。
 双六売りの又市は、いかにして「御行の又市」になったのか・・・。

 やっと読み終わりました。いえ、読み終えてしまいました。初めはけっこう苦痛だったのですが(京極作品読むたびに、こんなこと言ってますね)、緊迫した展開になる後半、一気にのめりこみました。
 「前(さきの)」とある通り、「巷説百物語」の前の物語。山岡百介が又市の仕掛けに巻き込まれたあの事件の十年前から物語は始まります。
 腕っぷしは弱い、逃げ足は遅い、かと言って知識があるわけでもない。唯一のとりえは知恵がまわるので、口先三寸で人を煙に巻けるということくらい。そんな小悪党の無宿人の又市。まだ裏の渡世につかっているわけでもなく、なんとも中途半端。そして、言うことが青臭い。裏の損料仕事に手を染めて、他人の損を埋める仕掛けの図面を引くにも、「人を殺したくない」。
 又市の感覚というのは至極真っ当なもので、なるほど、それゆえああいう渡世をするようになったのかと思っていたら・・・そんな甘いものではありませんでした。
「命の損は埋まらねェ」
 最終話では、この言葉の重みが胸に迫ります。又市がどれほどの思いをもって、御行姿になったのか・・・そこに至るまでの過程を知り、その心中を想像するに、どうしようもなく哀しく、やりきれない気持ちになります。
 その後、御行の又市は華々しく活躍(?)するわけですが、彼の胸中には初めて御行の衣装をまとった時の思いが消えなかったのだろうなあ・・・と。
 
 「後巷説百物語」があの終わり方だったので、シリーズは完結したものと思い込んでいました。なので、又市と再会できたのは、望外の喜びでした。
 さらに、今回は又市の素顔やルーツみたいなものが見られて、非常におもしろかったで!す。
 そして、シリーズの解説書がはさみこまれているのもうれしかった!人物相関図とか、助かりました。意外なリンクもわかったし。
 ★5つは甘いかもしれませんが、このシリーズを愛する者として、これくらいつけてもバチはあたらんだろう、ということで。

たかじょう > まゆさん、読まれたのですね~。ああ、やっぱり本5つですかっ!どうしようかなぁ、買ってしまうべきか・・・。でもさすがにこれでおしまいになるんでしょうかねぇ? (2007/05/13 07:54)
まゆ > たかじょうさん、読了いたしました♪これは、シリーズ好きな人(特に私みたいに又市がお気に入りの人)は、必読の一冊ですよ~(←悪魔の囁き) 気になるのは「シリーズ最新巻」というコピーです。「完結」「最終巻」という言葉はどこにもなく・・・。まさか、続くのでしょうか。 (2007/05/13 21:23)
とおりすがり > 次は西巷説百物語です。巷説は雑誌『怪』が続く限り永遠に続くんだそうです(作者談)。それもどうかと(笑) (2007/05/23 00:18)
まゆ > 情報ありがとうございます。続くんですね~。「巷説」の世界でも、まだ明らかになってないことがたくさんあるので、続くとなれば、それはそれで楽しみです。 (2007/05/23 22:41)

2007年3月23日 (金)

邪魅の雫

1094「邪魅の雫」京極夏彦   講談社   ★★★

「邪なことをするとー死ぬよ」
 次々と起こる毒殺事件。翻弄される警察をあざ笑うかのように、事件は続く。容疑者は浮かぶものの、徐々に糸は断ち切られていく。そして、最後に登場したのは・・・。

 去年の秋、この本が出たときに、すぐに買ったのです。が、なかなか読む気になれず(原因ははっきりしてます。ノベルスにあるまじき厚さです)。ようやく手に取ったものの、休み休み2週間かかりました。はあ、長かった・・・。
 次々と視点が変わるために、流れに乗れないのです。京極堂・関口・榎木津・木場といったおなじみのキャラが出てくると、こちらも安心して読めるのですが、それ以外はしんどかったです。もっとも、今回は木場はちょこっとしか登場しないし、京極堂もわりと出番少な目。もっとも、「憑物落とし」という大仕事があるわけですが。関口が意外と活躍してるのがおもしろかったです。
 そして、今回は榎木津の女性関係が明らかに!エノさんファンの私としては、複雑な気持ちでしたが(苦笑)
 謎解きじたいは、ものすごく複雑です。読んでいてクラクラしました(いつものことですが)。前作よりはおもしろかったかな。ただ、これも後の作品につながっていきそうな気配がありますねえ。
 幕切れは、なんともせつなかったです。 

失業中 > 1000冊越えてる。凄い!ヒストリーを拝見し読んだ事のない本がいっぱい、参考にさせていただきます。どうも最近星5つの本に出合えてなくて探してます。 (2007/04/02 21:37)
まゆ > 失業中さん、どうもです。5つ星に出会えるかどうかは、運とその時のコンディションもありますから・・・。私の感想が少しでも参考になるならうれしいです。 (2007/04/03 22:34)

2004年8月17日 (火)

百器徒然袋ー雨

578「百器徒然袋ー雨」京極夏彦   講談社   ★★★★

 不可思議な事件を快刀乱麻を断つごとく・・・いや、すべてを破壊し尽くして解決する、薔薇十字探偵・榎木津礼二郎。人の記憶が見えるという能力を駆使して(?)謎を解く彼のもとには、今日も奇妙な事件が・・・。

 先日、続編の「風」を読みましたが、なんだか忘れてることが多かったので、再読。で、気づいたこと。これって「陰摩羅鬼の瑕」と前後した話なんですね。
 以前、調査を依頼した相手に向かって、「君はいつかの何とかいう人!」と言い放つ榎木津。それって、探偵としてどうよ、と思うのですが(笑) 
 でも、このシリーズは大好きです。本編ほど重々しくなくって。何より、京極堂が軽い印象なのがうれしい。憑き物落としをする京極堂もかっこいいですが、このシリーズの京極堂はちゃんと人間に見えます。
 そしてなんてったって榎木津! 榎さん最高です~。もともと本編でもいちばんのお気に入りなのですが、その榎さんが大暴走もとい大活躍してるので、とってもおかしい。「ヤマアラシはトゲが尖ってるから偉い!」「お腹ぺこぺこのぺこちゃんだ!」・・・これが三十代半ばの眉目秀麗容姿端麗な元華族の御曹司のお言葉とは(笑)
 とにかく楽しめました。本編は再読する気にはなれないので、こっちをたまに読み返そうと思います。

2004年7月25日 (日)

百器徒然袋ー風

563「百器徒然袋ー風」京極夏彦   講談社   ★★★★

 天下無敵の薔薇十字探偵・榎木津礼二郎を陥れようと、「下僕」たちに仕掛けられた罠。榎木津たちは、この罠を潜り抜けることができるのか?

 待ってました! 榎木津主役のシリーズ、第2作です。本編よりこっちの方が好きなんですよねえ。明るくて笑えるし。
 今回も3つの中編で構成。連作になっています。凡人でありながら、榎木津とかかわりを持ってしまった本島の視点で物語が展開されます。
 本島はそりゃもうさんざんな目に遭うのですが、京極堂に言わせれば「忠告を無視して、榎木津に近づくからだ」ってことになるし(いや、本島は巻き込まれてるだけなんですが)、どうやら周りには「関口と同じ」とみなされてるらしく、はっきり言ってかなり馬鹿にされてます。
 でも、榎木津にどんなに罵倒されても、このシリーズは根が明るいので、読んでいて気が楽です。
 そして何より、榎木津の大暴走・・・じゃなくって、大活躍。これがたまりません(笑)「にゃんこ!」と叫ぶエノさんがかわいい(爆笑)
 このシリーズでは京極堂もちょっとだけとっつきやすい感じがして、ホッとします。
 これって、まだ続きが出るのかなあ。出てほしいんだけどなあ。

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